○古寺宏君 私は、公明党を代表いたしまして、ただいま
政府より
提案のありました
大気汚染防止法及び
水質汚濁防止法の一部を
改正する
法律案に関連し、旧民の健康の
保護と
生活環境保全の立場から、
わが国の環境保全
行政の
基本方針及び当面する具体的問題について、総理並びに関係大臣に質問いたします。
まず第一にお尋ねしたい点は、無
過失賠償責任制度に対する
政府の姿勢についてであります。
一昨年九月に、宇都宮市での一日
内閣で総理が実現を約束して以来、ようやく本日
提案を見たのでありますが、血と涙の歴史を繰り返してきた
公害被害者や関係の当初の期待を全く裏切った
法案といわざるを得ないのであります。何
ゆえ救済の
対象を人の健康にかかわる
被害に限定したのか。また、
単独立法にしなかったのか。なぜ財産
損害を除外したのか。しかも、
対象を水と
大気の
汚染防止法に定められた
有害物質によって
発生した
公害だけに限り、その他の
物質による水と
大気の
汚染公害はもちろん、騒音、振動
公害等を除外し、きわめて限られた
範囲の
公害を
対象としたのか。さらに問題は、当初の
政府案にあった
因果関係の
推定に関する
規定が削除されて骨抜きになったばかりか、
公害の特殊性を全く考慮せず、不遡及の原則に固執していることであります。総理が三年前に約束し、
大石環境庁長官が政治
生命をかけるとまで言い切った本
法律案の真意は、はたしてこのようなものであったのかと申し上げたいのであります。これでは無
過失無
責任法案と断ぜざるを得ないのであります。
わが党をはじめ
野党三党は、
国民の声に謙虚に耳を傾け、
被害者の迅速適正な
救済をはかるため、
因果関係の
推定規定はもちろん、財産
損害を含めた典型
公害、
差止請求、保険
制度、
規制措置請求権及び
被害については、
法律施行前に遡及して
適用すべきであると
提案しているのであります。総理はいまこそ勇断をもって
人間性豊かな環境保全
行政の発想の転換を行ない、そして行動に移すべきときであります。何
ゆえ、平等の原則を無視して
企業寄りに後退し、
因果関係の
推定規定を取り入れなかったのか。そしてまた、
公害被害が激増し、
公害患者の死亡が相次いで報ぜられているとき、このような骨抜きの
法案を
提案しなければならないのは何
ゆえか。全
国民に、そしてまた
公害の
被害者に対し、納得のいく御
答弁を強く求めるものであります。
また次に、来たる六月二十五日、スウェーデンのストックホルムで開催される第一回
人間環境国際
会議に臨む
わが国の
基本的方針についてであります。
過日外務省より国連に送付されたレポートを拝見いたしますと、その
内容は、
わが国の
公害の
実態にはほとんど触れず、
政府の施策を並べたものにすぎないのであります。
PCBによるカネミ油症、
水俣病や
イタイイタイ病こそ、
公害先進国といわれる
わが国の
公害の
実態ではないでしょうか。その意味からも、記念すべき第一回の
会議に不十分な偽りのレポートを送って、はたして環境保全に関する国際協力ができるとお考えでしょうか。将来に禍根を残すようなことがあっては断じてならないと申し上げたいのであります。この点について、
政府は、この
会議にあらためて
わが国の
公害の真実の
実態を
資料として
提出し、世界的規模に拡大する
公害、
環境破壊を防止するために協力することこそ
わが国に課せられた使命であり、諸外国の
公害防止のための他山の石としてこそ
公害王国の汚名を挽回することができると思うのでありますが、総理の御所見を承りたいと思います。
次に、過日OECDの
会議で採択されたPPP、すなわち、
公害防止
費用の
企業負担の原則に対する
わが国の
態度についてであります。
このOECDの決定につきましては数々の議論もございますが、あくまで原則として
発生源企業がその
費用を負担することは、広く告人の支持するところであろうと思いますが、
政府はこのPPP原則についてどのように受けとめ、どう具体化していこうとしているのか。特に、
わが国がOECDの委員会に、
公害防止
費用の
発生者負担原則に関する例外
規定を
提案した意図は那辺にあるのか、お伺いしたいのであります。
また、過日来たびたび言われております環境容量
規制体制の確立についてでありますが、もはや従来の
大気、水質における、PPMで
規制して、薄めて
排出すればよいという、環境保全のためにほとんど役に立たない拡散稀釈原理方式を廃止して、環境
汚染の絶対量
規制に移行すべきときであると思うのであります。また、そのための
汚染のメカニズムの解決等についてどのようなビジョンをもって対処されようとしておられるのか、御
答弁を願いたいのであります。
さらに、最近、一部
法律学者の中で、仮称環境権法ともいうべきものを
提案する時期が到来していることが指摘されているわけであります。憲法の
基本的人権を堅持する上からも、近い将来、環境とは
人間のためのものであるという、高い次元に立った
立法措置がなされてしかるべきかと思うのでありますが、御所見を承りたいと思います。
次に、環境庁発足以来、また
公害国会を経て、
法律の整備は一応の形を整えたにもかかわらず、毎日の
公害病患者の激増は、ついに三月末現在六千数百名をこえるに至ってしまいました。
法律が整備されても患者は激増し、死の犠牲者さえ百四名にも至っている
現状であります。総理は、この悲しむべき現実をどうお感じになり、今後どう対処なされようとしているのか、お伺いいたしたいと思います。
次に、
経済抑止政策と新全国総合開発計画の再検討についてお伺いいたします。
ローマクラブが強く
主張しているように、地球全体の
公害が深刻となっているので、
経済成長を抑止すべきであります。そして、無
公害開発のモデルが
公害のモデルとなりつつある鹿島の開発の二の舞いを繰り返さないためにも、青森県のむつ小川原等の大規模工業開発等について、
経済優先から地域
住民の福祉優先、環境優先に、発想の転換をはかるべきと考えるのでありますが、総理はいかがお考えでしょうか。
政府は新全総の総点検作業をスタートさせる考えと聞いておりますが、現在の新全総の致命的な欠陥として、環境問題が全く取り残されていることであります。
政府は、この
実態をすみやかに改め、
経済成長率を押え、その上で根本的な
公害防止
対策を打ち出すべきであると思うのでございますが、お伺いをする次第でございます。
質問の第二点は、
PCB汚染対策についてであります。
いまや
国民は一億総油症化の危険にさらされていると言っても過言ではありません。各地に相次いで
汚染の
実態が暴露され、
人体からも、魚はもちろん、母乳からも検出されております。通産省はすでに製造禁止及び使用
規制の
措置をとったようでありますが、すでに放出されて回収不能になったPCH、これから
発生すると思われる
被害者の治療法の確立、廃棄物の処理、回収方法、
汚染のメカニズム、慢性毒性の研究など、当面焦眉の急を要する課題が山積しているのであります。特に全国の
汚染実態の総点検、及び第二、第三の
PCB汚染に対処するためにも、
政府はいかなる方針で対処するお考えか、また、これらの
対策として財政
措置を考えておられるのか、また、
PCBについて、
大気、水質、土壌のそれぞれに早急に
規制基準を作成し、
有害物質に指定する
必要性を痛感するものでありますが、関係者大臣よりそれぞれ御
答弁を願いたいと思うものであります。
質問の第三点は、基地
公害対策についてであります。
公害対策基本法制定以来、たび重なる
国民の要請にもかかわらず、いまだ基地
公害は
適用除外となっているのであります。
一例を申し上げるならば、青森県の防衛庁下北弾道試験場においては、
昭和三十四年以来弾道試験のために相当広
範囲にわたる海域が立ち入り禁止となり、漁民は生活の場は奪われて出かせぎを余儀なくされ、また激しい騒音のために周辺の小中学校は思うように授業できず、地域
住民の苦しみは言語に尽くせないものがあるのであります。この下北試験場のように、基地
公害に悩む多くの
国民のいることを
政府は知っておられるのかと申し上げたい。私は、
住民の
救済対策、今後の基地
公害に対する
公害防止計画の策定及び自然環境保全の立場から、
政府はどのように取り組んでいこうとする考えか、承りたいのであります。
さて、賛同の第四点は、冒頭にも申し上げましたように、
公害病患君の
救済についてであります。日増しに深刻な苦悩の生活を送る認定患者の激増ぶりは恋しむべき
わが国の現爽であります。いまや
公害被害者の
発生地域は全国的規模に深く広がり、深刻さを増しているのであります。率直に申し上げまして、現行の
法律で不十分ながら
救済措置を受けているのはほんの一部の限られた認定患者のみであります。特に医療手当の増額を含めた生活保障、疑わしき者には広く
救済の手を差し伸べてあげる立場から、認定基準の再検討及び指定地域制の廃止など、
本法の抜本的
改正が当然はかられなければ、
公害病患者の
救済はできないと思うものであります。人命尊重の立場から
政府の前向きの御
答弁を心から望むものであります。
質問の第五点は、全国に数千カ所あるといわれております
休廃止鉱山の
公害防除
対策についてであります。この問題に関してわが党は、党
公害対策本部を中心として現在まで、最近の土呂久、遠ケ根、松尾、木浦、笹ケ谷等全国各地の
休廃止鉱山を精力的に調査してまいりました。その結果は想像を絶するずさんな管理、亜砒酸を含む各種
有害物質が
長期間公然と放置され、環境は
破壊され、地域
住民や元従業員は
公害被害に苦しみながら、犠牲をしいられているのであります。数多い中小鉱山の中では、無資力のため十分な
公害対策も実施できず、また鉱業権者さえもいないところがあるのであります。私は、数多い
休廃止鉱山のずさんな監督
行政こそ、
政府の
企業後先、
経済成長至上主義の遺産であると、強く指摘したいのであります。(
拍手)
特に農水産、動植物の
被害や
人体被害に対して、いかなる
対策も考えておられるのか。また、指導監督体制の強化について、今後どのような方針のもとに対処していかれるのか。さらに、この際、私は、特に
政府に対し、無資力も無権者の
休廃止鉱山については、仮称鉱山復旧法ともいうべき
法律の整備をはかり、国や県の力で早急に
公害を取り除くことを御
提案申し上げたいのでありますが、当局の御所見を承りたいと思います。(
拍手)
次に、この
法案に関連して、裁判の遅延の問題、及び法曹一元化の問題についてお尋ねしたいのであります。
民事裁判が最終的に確定するまでには非常に
長期間を要し、十年以上も必要とすることは御
承知のとおりであります。裁判の遅延は裁判の拒否にひとしいのであります。このような裁判の
実情から、
裁判所の裁判を受ける権利を有する
国民が、
公害等については、
裁判所でない
公害等調整委員会の処理に従わなければならない結果となっているのであります。これは、われわれ
国民が有する法の支配に服する権利の放棄であります。総理は、この裁判の遅延についていかにお考えか、御所見を承りたいと思います。裁判の遅延の解消は
裁判所の充実であり、
裁判所の充実は法曹一元化であると考えられるのであります。今日法曹一元化が実現しないのは、法曹三者の意見の不一致であると聞いておりますが、総理は国政の担当者としてこれの実現に努力すべきであると思いますが、その御意思があるかどうか承りたいと思います。
最後に、一言、現行の食品衛生法及び薬事法について、無
過失賠償責任制度を考える用意があるのかどうかお伺いいたしたいと思います。
政府は、
公害被害者の
救済を
被害者の立場に立って考えるなら、すみやかに
野党三党
提案の
公害に係る
事業者の無
過失損害賠償責任法案に本案を修正されんことを強く要望いたしまして、私の質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕