○田畑金光君 私は、民社党を代表し、ただいま
趣旨説明のありました
健康保険法及び
厚生保険特別会計法の一部を
改正する
法律案について、
佐藤総理ほか
関係閣僚に対し、以下数点にわたり
質問を行ないたいと思います。
十一年前、すなわち政管健保が赤字傾向に転じた
昭和三十六年から今日まで、
政府の医療
政策は一貫して
財政対策のみでありました。すなわち、医療費がふえたので赤字になった。そこで保険料の増収をはかる。しかし、赤字を生じる根源を正さないから、一息つくころにはまた医療費が増大する。また赤字対策を立てる。このような繰り返しの連続でありました。四十二年の第一次健保
特例法しかり、四十四年の第二次
特例法またしかり、そして、昨年六十五
国会で廃案になった
法案も、また今回の
法案も、もっぱら
財政対策以外の何ものでもありません。
団体であれ、
企業であれ、個人であれ、赤字が出れば対策を立て、
財政解決に当たることは理の当然でありましょう。その当然のことが、事医療となると多くの人々にすなおに受け入れられないのは何ゆえか、そこに多くの反省すべき点があると思います。
財政収支をバランスさせるには、収入の増加をはかる前に支出の合理化をはかる必要があることは、単純簡明な世の常識であります。医療保険において支出の合理化をはかるためには、少なくとも現物給付、出来高払いの診療報酬体系そのものにメスを入れなければならないということは、つとに
指摘されてきたところであります。しかるに、今回もそのメスを入れることなく、赤字がふえた、しかも医療費が実質一二%引き上げられたから、その
負担はあげて被保険者にしわ寄せしようとする、このような安易な
政府の対策の片手落ちが、人々の納得を妨げておる理由の最たるものであります。
ことに、この
法案は、
関係審議会の存在と権威を無視し、その答申を全く軽視しているところに、幾ら責めても責め足りない点があるわけであります。
医療保険
制度は、保険の原理を軸にして、医療の需給を円滑に取り運ぶという公共的な機構であります。したがって、給付と保険料のバランスをはかるという保険
財政の問題が絶えず表面に出てはまいりまするが、しかし、その根底には、医療とは何かという根源的な問題があり、それを踏まえた合理的な医療
制度が築かれることが不可欠の前提であります。とりわけ
国民皆保険下にあっては、医療
制度と医療保険
制度とはうらはらの
関係であるわけであります。しかるに、これまでの経験によれば、赤字対策という先頭車はいつも先行のしっぱなしであるのに、並行すべき医療
制度の改善は、はるか後方に取り残されたままであるというのが、
わが国の医療の実情であります。そして、医療問題が
経済問題にすりかえられ、生命と康康にかかわる本質の問題が、いつも算術の問題としての解決しか与えられなかったのが、今日までの
政府の医療行政であります。
今回もまた、健保の
財政対策をとりあえずどうぞ、というのが
政府の
姿勢でありますが、こういう矛盾の積み重ねを繰り返していては、いつの日に
国民のための医療が実現できるでありましょうか。医療
制度の不合理是正と医療保険
財政の健全化とは、いずれを欠いても
国民のための医療の実現は望めないというこの
国民の常識に対し、
総理はどのようにおこたえなされようとするのか、まず、その決意のほどを承っておきたいと思います。(
拍手)
次に、
法案の
内容について、
関係審議会に諮問中の抜本
改正案についても触れながら、以下、数点にわたりお尋ねいたします。
主として支出の合理化という側面から問題点をあげてみます。
保険料率の引き上げと標準報酬における上下限の引き上げ、ボーナスに対する特別保険料の設定、さらに諮問案中の
財政調整の創設と一部
負担の引き上げといった重要な柱は、そのいずれもが
利用者
負担の
原則で貫かれております。これはまた、例によって例のごとく、赤字の原因が
利用者の過剰な医療需要にあるという認識の上に立ち、受益者
負担の財源対策のみを優先させておりまするが、これは一面的なもののとらえ方であります。医療需要が多面化し
高度化すれば、医療給付費がふえることは避けられないことでありましょうけれども、その中にむだがあればなくさねばならぬし、また、努力すればなくせるはずであります。現に、赤字を出さない組合健保は、そのために疾病の予防、健康管理を含めて医療費のむだの排除につとめ、よって支出の節減、合理化に大きな成果をあげております。
ところで、
政府は、政管健保の管理
責任者として、それに見合うだけの努力を払ってきたでありましょうか。それはノーであります。
政府の怠慢から生じた赤字まで
利用者にしわ寄せしようとするとは、筋違いではありませんか。その分は、当然
政府の
責任でカバーすべきであります。また、もし、努力はしておるが、政管健保の
規模が大き過ぎて、個々の構成員の把握ができないという
制度上の欠陥に原因があるとするならば、
制度の改革にまず手を染めるべきであって、自己の
責任をたな上げして
利用者に
負担させるということは、木末転倒であります。(
拍手)
国庫補助を五%の定率にしたことをもって大きな前向き
施策であるかのごとく、先ほど来宣伝しておりますが、四十二年度当時すでに二百二十五億の国庫補助が支出され、医療給付費の六・三%を占めていたのであります。しかるに、今次
法案では五%の定率補助ということは、実質的には引き下げであり、国庫
負担の大きな後退であり、政管健保における国の
責任の放棄であります。
政管健保の対象は、申すまでもなく
中小企業であります。それだけに、今日の
社会経済環境を考えてみますならば、国庫
負担をもっと引き上げよというのが両審議会の答申でございまするが、この点について、重ねて、
大蔵大臣、厚生
大臣の答弁を求めます。
次にお尋ねしたいことは、医療費は年率二〇%もの勢いでふえ続け、四十六年度は総額三兆円に達する勢いであります。そして、政管健保の四十七年度末累積赤字は、このままでいきますると三千億をこえるような趨勢であります。
ざて、それでは、
政府は、医療費の増大原因をどれだけ科学的に分析し、それに対する対策をどれだけ講じてきたでありましょうか。医療費の分析といえば、十年一日のごとく、一件当たり金額、受診率、一件当たり日数といった概念で
現状を
説明することに終始してまいっております。実態分析が足りないから、医療費の増大に対する具体策が実を結ばないままに今日にきております。きわめて抽象的に、疾病
構造の変化、医療
内容の
高度化が原因として
指摘されただけでは、問題の解決にならぬわけであります。医療費増大の原因をどのように分析し、また、どう対応されようとするのか、この際、厚生
大臣の
見解を承っておきます。
次にお尋ねしたいことは、保険が個人の相互連帯による扶助組織であるとするならば、個人の努力ではどうにもならないもの、個人の
責任に帰し得ないものまで保険で見るのは筋違いであると思います。
公害による疾病も、医薬の研究開発への投資も、医療施設の
整備費用も、医療スタッフの養成に要する費用までが、すべてこれ保険に依存しているところに保険
財政の混乱が起きているのであります。
本来、公的な投資にまつべきものは保険から整理すべきであり、公費
負担によるべきものと保険にまつべきものの守備範囲を明確にすることが保険
財政を健全化させる要件であり、医療のあるべき姿としては、
社会、
経済情勢の変化に対応しながら公費
負担制を大幅に拡充、適用することがこれからの医療行政の趨勢であると私は考えますが、厚生
大臣の
見解を承ります。
次にお尋ねすることは、
わが国の診療報酬は低額で、良質、適正な医療サービスの供給を困難にしているという非難が、しばしば医療担当者側からいわれております。ところが、そのように低い診療報酬だといわれているのに、総医療費は、
国民所得との比率が欧米先進国と同率にまで急増し、高額所得者に医者が名を連ねているのを見せつけられますると、何ゆえこうした現象が生ずるのか、首をかしげたくなるのは人情の常であります。今回の赤字対策の中には、過般改定された一二%アップの診療費が計算の基礎に入っておりますが、このまま推移すると、一体
わが国の医療費はどこまでふえるのであろうかと、
国民は不安にかられております。
低額だといわれる単価が、なぜ総額において先進国並みの大きさになるのか、このなぞを解くことが、
国民の医療に対する疑惑と不満を解きほぐす糸口であると思います。すなわち、それは現存の診療報酬体系の持つ矛盾、不合理を、どのような場所で、どういうスケジュールで解明するかという問題でございますが、この点について厚生
大臣の所見を承ります。
次は、薬の問題であります。
医療の質と量は、もっぱら医師の判断と処置によって決定されるものであります。そして、現在の支払い体系は、その医師の決定に対しては無条件に支払いを保証しております。医師は、その良心に従い、よりよい医療を給付するにはどうするのがいいかという立場に立って、日夜心を砕いているものと私は信じております。それにもかかわらず、医者は薬でもうけ、薬物医療でかせいでいるとする非難をしばしば耳にいたします。もし、そのような非難が真実をうがっているとすれば、問題は、そのような誘惑を排除する
措置を講ずることであります。薬価
基準と実勢価格の開きをなくし、医師の収入源は、薬のマージンではなく、その技術の正当な評価によってまかなうべきことが、医のモラル確立のためにも大切な要件であります。われわれは医薬分業によってそのことを確保すべしと年来主張してまいりましたが、医薬分業の段取りがどこまで進んでおるのか、厚生
大臣の
説明を求めます。
最後にお尋ねしたいことは、健康管理と行政機構についてであります。
人の健康について、病気か病気でないかという分類
基準の医学は、今世紀の前半で終わり、これからは、すべての
国民をいつも健康な状態に貫くという、健康管理の時代に入ったといわれております。医療
経済の上からも、事前予防につとめることが最も支出を合理化するゆえんでもあります。かつて厚生
大臣も、保険医総辞退をおさめる際の会談で、保険と医療体系と健康管理の三つがそろっていないと完全なものにはならないと発言しておりました。そのためには、健康管理の領域で働く医療スタッフをもっと多く養成することが必要であると考えますが、どのような
施策を準備しておられるのか、お示しをいただきたい。
現在、疾病の修復医療を中心に組み立てられておる診療報酬体系の手直しは、さきに
指摘いたしましたように当然必要でありまするが、しかし、同時に保険の前提問題、
周辺問題について広く条件づくりにつとめなければならない時期に入っておると思います。したがって、もはや保険局が主導権を握る行政機構ではまかない切れない広がりを持つ時代に入り、保険、医務、公衆衛生の三局を包含する機構をつくるべきであると考えますが、いかがでありましょうか。
健康管理の条件づくりと行政機構の再編強化について、厚生
大臣の所見と抱負を伺います。
以上の
諸点は、今回の
財政対策
法案がまたまた避けて通ろうとしておる
基本的問題でありますが、もはや、これらの問題の解決なしには、
わが国の医療が一歩も前進できない関頭に立たされております。いままで
政府は、利害が対立した問題は、すべて抜本対策でということで逃げてきたことは、
佐藤総理自身、とくと御承知のとおりであります。医療
制度の改革、診療報酬体系の改善を抜きにして
財政対策だけで当面を乗り切ろうとしても、もはや、それはできない相談であります。
社会保障
制度審議会、
社会保険審議会は、過般、その答申において、
政府の医療保険改革の
基本姿勢は、支出面のむだの排除、合理化には何らの努力を払わず、またまた抜本対策と切り離した
財政対策だけを先行させ、
財政対策の食い逃げをはかろうとしておることに対し、きびしく批判を浴びせております。
政府は、両審議会に目下医療保険
制度の抜本
改正案を諮問中でありますが、すみやかにその答申を得てこの
国会に抜本
改正法案を提出し、
財政対策
法案と並行審議に付するのでなければ、医療問題を論議し、
発展させることは当を欠いておると私は思いますが、どうでありましょうか。
佐藤政権の寿命も間もなく終わろうとしております。七年有半という、いまだ見ない
長期政権であったにかかわらず、
佐藤総理の公約でありました
人間優先、
福祉社会建設のかなめともいうべき物価、
公害問題、なかんずく生命と健康にかかわる医療問題については、ついに有言不実行のままに終わろうとしております。
佐藤総理がことばのあやでごまかしてきた医療問題を、一歩でも解決に向かって踏み出すことができるかどうかは、この
国会が佐藤内閣に残された最後の唯一の機会であります。
佐藤総理の決断と
所信のほどを重ねてお尋ねを申し上げて、私の
質問を終わることにいたします。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕