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受田新吉君 山荘の管理人として、平凡で、しかも平和な生活を営んでおりました一主婦が、十日間
人質として監禁せられ、世間の批判を集めたやさき、さらにリンチ
事件が発覚された、いわゆる
連合赤軍リンチ殺人
事件は、狂気の
行動といわれ、
人間における
残虐性の極点とさえ思われる悲しむべき
事件であります。いま
警察の手によってその全貌が現らかにされつつあります。
国民一人一人が、
人間の中にひそむ魔性に身ぶるいをいたしております、あの
浅間山荘における荒々しい、しかも長時間にわたる武力抗争、及び、残虐きわまりなき、かつ、
わが国の
犯罪史上、社会運動史上において類例を見ない血の大粛清の全容が、日一日と当局の手によって解明しつつあります。
国民ひとしくこの事態の行くえに重大な関心を寄せると同時に、各方面に与えた衝撃たるやはかり知れないものがあるのでありますが、私は、この問題につきまして、民社党を
代表し、
一連のいわゆる
連合赤軍事件実態をただし、
政府のこれに取り組む姿勢をたださんとして
質問を試みる次第でございます。(
拍手)
まず第一の
質問は、共産同盟赤軍派、通称赤軍と、日共
革命左派神奈川県委員会、通称京浜安保共闘は、
いかなる
目的をもって組織され、
いかなる
目的をもって連合がなされたのか、調査の過程で判明した部分をわかりやすく御説明願いたいのであります。
また、彼らの常時用いたる
世界同時
革命とか、毛沢東
思想をもととした反米愛国とかの
ことばの持つ意味、及び、中央軍とか
人民革命軍とか称する暴力集団の
目的が何であったかについて、ごく平易に御説明を願いたいのであります。(
拍手)
第二に、今回の
事件を展望するとき、およそマスコミの報道する限りでは、きわめて特徴的なことがございます。それは、他人に対して驚くべき残忍であり、冷徹でありながら、おのれに対してはあまりにも寛大であり、かすり傷
一つ負わない用心深さで
人質をたてにして身を守るという態度であります。あの
浅間山荘における
事件のごとく、
警察官の頭をねらい撃ちにする必殺の射撃、同志を死刑あるいは総括と名づけるリンチ等、すべて、死という、
人間を最後のふちにいとも簡単に追い込みながら、みずからは完全な、いな、かすり傷
一つ負わない態度は、みずからには厳格であれ、そして他人には寛大であれという道徳観は、完全に無視されておるのであります。(
拍手)
これは、はたしてこの集団のみの特徴というべきでありましょうか。この
事件を契機に巷間にいわれる論評の中で、戦後
教育にその根源を求める説がございます。つまり、覚えることや
判断の明晰を求める、そのことに急であって、若者が
一つ一つ事を深く考え、個々人の個性を深め、
人間性を育てる人格
教育にほど遠かったとの声は、この
事件とはたして無
関係であったと言い切れるでありましょうか。(
拍手)ささいなことかもしれませんが、漢字制限による
教育方法が、
人間の思考能力よりも音感に重点が置かれ、マル・バツ式記号答案方式が記憶と
判断の正確さを養った反面、主体性のない、没個性的、非情操的、唯我独尊的
人間をつくったのではな
いかという声を無視することができないのであります。戦後
教育のあり方について反省する点があったのではな
いか、この点について、
総理及び
文部大臣に明確な御答弁を願いたいのであります。(
拍手)
次に、社会及び家庭と断絶した
個人教育は、戦後四分の一世紀の
教育の中であらためて再検討の必要があるのではないでしょうか。それはひたすらに一流大学への入学に執着し、
教育の本質を見失う家庭
教育の悲劇といえないでしょうか。家庭
教育のあり方について御所見を承りたい。
浅間山荘を占拠した彼らに呼びかける母親に対して銃弾でこたえ、また、わが子の
行動に
責任を感じ自殺した父親の知らせにも顔色
一つ変えないという、この平然とした態度を示した彼らを見たとき、親子
関係の断絶、すなわち、親を親とも思わない子、子供の
行動に対して今日まで放置した、一方における親の無
責任さを強く感ずるものでございます。(
拍手)
こうした学校、家庭
教育の中で育て上げられた彼らは、没個性的でありながら、集団ともなれば、反面著しく自己顕示欲が強く、しかもマスコミを最大限に意識し、マスコミの反応の上に闘争の作戦を立てるという、いわば情報化
時代の狂気の集団であります。
彼らの企ては
一つ一つの
事件、すなわち大菩薩峠の軍事訓練、「
よど号」
事件、連続銀行金融機関強盗
事件等々に見る、社会に
事件をアピールさせ、マスコミを騒がせることを意識した
事件が、
浅間山荘をもってまさに頂点に達した感があります。
これらの
事件を通じて気がつくことは、これらの若者が育った
時代環境が、
人間の内なるものへの充実よりも、外への宣伝と、オーバーな自己顕示欲によって、みずからの
行動の重心を失った狂気の集団と化し、まやかしの論理によって
残虐性を正当化した姿は、彼らのみの特異の集団と言い切ることが可能でありましょうか。さきの東大
事件を頂点とする
大学紛争における
過激派集団の各セクトにも、程度の差こそあれ、その体質には同質のものが
存在することを見のがすわけにはまいらないのであります。(
拍手)
したがって、
一連の彼らの
行動を報道するマスコミの使命たるや、まさに重大でありましょう。
国民との不離一体、その原則に立って、常に公正かつ正確なる情報の提供を
期待するものであります。
特にこの際、
日本共産党は
責任者の名をもって次のように論じておりますが、それが真相ならば、事は重大であると思いまするので、御答弁を願いたい。
すなわち、
政府・自民党、
治安当局が彼ら反共暴力集団に対して泳がせ政策をとってきたことを
指摘し、トロツキスト集団を泳がせて
政治的に利用する政策をとってきたことを主張しておられます。また、一九七〇年四月に、赤軍派のハイジャック
事件が起きた際、
警察当局は、彼らの中に協力者がおり、資金を提供していることを
国会で証言してまいりました、また、この三月二日にも、
警察庁長官は、赤軍派の中に多くの協力者を持ち、謝礼金を払ってきたと答弁をしておるといっております。ところが、これらの協力費が、爆弾製造の資金に利用されていることは、一九六九年の背叛社
事件公判で
犯人自身から証言されたところでございます。こうした泳がせ政策こそが、
連合赤軍などの暴力集団を横行させてきた最大の要因の
一つとなっていると発言をしておられます。
このことは、公党対公党の問題であり、事は
政府・自民党にとって決定的重大事態であると思うのであります。よって、
総理は、一国の
総理大臣として、また、
政府・与党の総裁として、はっきりと事態を明確にされ、世の親たちの不信及び社会の不安を一掃する必要があると信じ、あえて御答弁を求める次第でございます。(
拍手)
他面、もし事態が真実でなければ、
日本共産党こそ、彼らと異質のものと主張しながら、社会不安を増大せしめて、実は彼らを育て上げることに間接的影響を与えていたことを反省する必要があると信ずるのであります。(
拍手、発言する者あり)
いつの
時代でも、
青年は、
過激派にくみし、
学生は、純
理論的に、単純
行動の極限に心酔する性格を持っております。それは、右翼であろうと、あるいは左翼であろうと、極端な
思想、そして
行動の極限に走る
可能性を持っているといっても過言ではないのであります。したがって、その際最も重要なことは、これらの諸君を
指導し扇動してきた背後
関係が何であったかを究明し、それを正すことこそ、
政治の最も重要な使命であると思うのであります。(
拍手)
今日まで、若者を弁護し、若者を過激的な
ことばであおり立て、彼らをあのような幻覚状態に導いた一部の
教育者、評論家等の言動にも反省の要があることを
指摘しなければならないのであります。(
拍手)
「このごろのように、間違った
教育をしていると、あんな
行動をする
人間が出てくるのは当然です、たれも言わないけれ
ども、私は十五年間もこのことを言い続けてきました」と訴えておられる大学教授の
ことばを、
文部大臣はどう受けとめておられますか。大学
教育の中に、いまこそ
人間性回復のための
教育を求めるときではありますま
いか。そしてまた、われら
政治に携わる者も、この
事件を契機として、
政治の立場から何
一つ反省するものがないといっては絶対に許されないことも、われわれは知らなければならないのであります。(
拍手)
今般の赤軍
事件を、
政府は、一部の
人間の
人命軽視の
行動と見るか、あるいは社会悪の頂点と見るか、どのような
判断をされているか、この点について一言
伺いたい。
つまり、
浅間山荘籠城から大量リンチ殺人と発展した過程で、リンチ殺人
事件の解明により、きわめて残酷、陰惨この上もないものとして全く同情の余地はない。しかしながら、過激な行為の発覚前は、極左集団の社会反抗、
政治への抗争として、一部
国民、わけて進歩的知識人と称される層が
学生に同情したといわれていることを見のがすことができないのであります。(
拍手)
さきに、高見文相は、管理面の改革を積極的に進めると述べていられますが、その後の状況の変化に応じてどのような
措置をとられようとしているか、今後の対策をお聞きしたいのであります。今回の
事件を契機として、管理面の改革を
理由に、
学問の自由を妨げるような学校管理の強化であってはならないと思うのでありまするが、
いかがでありましょうか。
よい教師はよい子供をつくる。
教育者の質向上をはかると同時に、
学生と教師の断層を排除し、
人間疎外のなき学風づくりのため、
教育者の大幅な優遇
措置を進める時期がまさに到来していると考えるのでありますが、お考えを承りたいのであります。(
拍手)
このことにつき、わが民社党は、かつて
大学紛争のおり、いち早く今後の大学のあり方について党独自の大学基本法案を提示いたしました。一、情操
教育の推進、二、大学の管理運営は幅広い人選により構成、三、
学生の地位を明確にし、
学生協議会を通じ運営管理に参加させる、四、
国家の財政的負担の増強をはかる、等を柱として、社会、経済の進展に伴い、新
時代に即応する新しい大学像を映出して、
国家百年の大計のもと、
人間尊重の
教育国策を天下に宣言したのであります。
これに対して、現行の大学の運営に関する臨時
措置法のごときこそく手段は一切これを廃して、
国民とともにあるわが党の大学基本法案を根本的な観点よりこれを採択する時期が来ていると思うのでございまするが、佐藤
総理の英断を承りたいのであります。(
拍手)
次に、
政府は、昨年度、
連合赤軍が結成されて以来、今回の危険が当然予想されたにもかかわらず、かかる結末に追いやったことは、事態を重視していなかったのではな
いか、こういう疑念すら抱かざるを得ないのでございまするが、警備のあり方はどうであったのでございますか。
私たちは、第二以後の
連合赤軍事件を断じて絶滅しなければなりません。
連合赤軍の主力はこの
事件で一応くずれたと思われるのでありまするが、なお残党はどうなっているか、また、他のセクトに今回の
事件がどう影響するおそれがあるか等についても、
国家公安
委員長及び法務大臣より御所見を承りたいのであります。
新宿クリスマス
事件、
警察庁土田部長宅
事件等に見られる爆発物による危険から一般市民を守るための火薬類取り締まりを強化し、銃砲店等での取り扱いをきびしくするなど、危険物の取り締まりに万全を期せられたい。
さらにお
伺いしたいことは、過激なデモ
行動隊や今回の赤軍派の
事件に見られるような、
事件と何らかかわりのない良心的な一般市民に
犠牲者が出た場合に、それは災難であったといって見のがすことはではないと思います。ある日突然、生命、身体、財産に大きな危害を加えられたる良心的な一般市民に、
国家はこれに対してどのような
責任をとるべきか、前向きで御答弁を願いたいと思います。(
拍手)
また、浅岡山荘において
警察官の
犠牲著を出したことはまことに残念であり、その
犠牲に深く哀悼をいたしますとともに、今回のごとき暴力に対処する
警察官の
人命尊重を考え、階級章を見られて幹部をねらい撃ちにされるような不用意のない、近代的防備
体制を考えるべきであろうと思うが、
いかがお考えであるかをお答え願いたいのであります。
私は、今回の
一連の残虐
事件の要因を、
一つは
教育上の背景、
二つには
政治、社会的な背景の両面から考察したいと思っております。
この
事件の背景としての禍根は、大学のみならず、高、中、小、ひいては家庭
教育を含めた社会
教育と、すべての社会全般の
教育環境の荒廃にあると言って差しつかえないのではありますま
いか。知識詰め込み
教育に執心し、愛のむちを忘れたようなそういう家庭、知識欲優先に
徳育が消されていくという、そういうモラルを忘れた情性欠如型の
人間が形成されているのではありますま
いか。現下、学歴偏重の中で、エリートコースへの道中を受験戦争とともに走り続ける若
人たち、しかし、夢破れたときの失望感ははかり知れないものがあると思うのであります。彼らは、親を憎み、社会に対抗し、極左集団に巻き込まれる。いま、
わが国は、物質文明、技術大国と叫ばれ、急速に経済の進歩を続けてきたのでありまするが、一方において、
青年に希望を与え、みずから地域社会、職域社会に、楽しい、生きがいのある、そういう参加をさせるための社会
環境の整備こそ喫緊の要務ではな
いかと考えるのでございます。(
拍手)
目下審議中の四十七年度予算を見るとき、私は、文部省予算の社会
教育施設整備費が約三十一億であることに、まさに焼け石に水の悲しみを感ずるものでございます。特に、将来の
日本を背負い、未来を開拓していく、その
可能性は、われらおとなだけでなく、
青年であるという自覚を与えなければならないと、あなたの
政府が出された青少年白書にも明記されております。しかるに、青少年育成の
教育施設費は約十億円、何と一人当たりわずか十円という予算で、将来をささえる
青年が育成されましょうか。
一方、年次的に一般会計予算とこれに伴う文教予算を比較しますると、
昭和三十年度文教予算費千二百億円、総予算の一二・五%、本年度は文教費一兆一千億円、全体の一〇・三%、まさに二・二%の減少であります。主要
国家では、文教予算は常に並行し、あるいは上昇する過程の中にあって、文明
国家といいながら、
わが国の
教育軽視を如実に物語る数字であると
指摘しなければならないのであります。(
拍手)明らかに、ここに
教育に対する
政治の配慮が欠けていると思うのでありまするが、
いかがでありましょうか。
高度の文化
国家として
教育優先の原則を
政治の上に確立し、今後の
教育問題、とりわけ清純な青少年育成、戦争や
革命でなく、平和で明るい国づくりに青少年を協力させるよう、佐藤
総理は
いかなる構想をお持ちであるか。経済政策には五カ年計画をひんぱんに打ち立てている
政府は、精神面の五カ年計画などかけらも考えておられないところに大きな問題があると思うのであります。
総理及び
文部大臣の御答弁を願いたい。(
拍手)
最後に、私は、かつて
大学紛争事件続出の渦中において、紛争
学生の言い分の中に、金権
政治の腐敗堕落を
指摘し、そして明治維新百年記念の恩赦の対象に選挙違反者を入れたことに対する痛烈な攻撃のあったことを忘れ得ないのであります。今回の悲しい
事件の再発を紡ぐためにも、
政治の粛正、
政治の高度の倫理化、清い
政治実現の前提としての選挙の公正等、私たちが取り組むべき国の基本態度を忘れてはなりません。
一切の
政治不信を排除して、
国民大衆とともにある善政をしくことであります。金と権力の支配、買収を中心とする腐敗選挙が平然と行なわれる。特にその点では、
政府・与党の体質の中にとりわけこれを拝見できるのでございまするが、これらを払拭して、一方においては、党派を越えて、
国民とともにある清潔な
政治実現のために一緒に取っ組もうではな
いかということを最後に
提案して、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕