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1972-05-19 第68回国会 衆議院 法務委員会 第25号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十七年五月十九日(金曜日)     午前十時三十七分開議  出席委員    委員長 松澤 雄藏君    理事 大竹 太郎君 理事 小島 徹三君    理事 高橋 英吉君 理事 沖本 泰幸君    理事 麻生 良方君       石井  桂君    大坪 保雄君       鍛冶 良作君    千葉 三郎君       中村 梅吉君    村上  勇君       土井たか子君    安井 吉典君       林  孝矩君    青柳 盛雄君  出席国務大臣         法 務 大 臣 前尾繁三郎君  出席政府委員         総理府人事局長 宮崎 清文君         法務省刑事局長 辻 辰三郎君         法務省保護局長 笛吹 亨三君         自治省行政局長 宮澤  弘君         自治省行政局選         挙部長     山本  悟君  委員外出席者         法務委員会調査         室長      松本 卓矣君     ————————————— 委員の異動 五月十九日  辞任         補欠選任   石橋 政嗣君     安井 吉典君   畑   和君     土井たか子君 同日  辞任         補欠選任   土井たか子君     畑   和君   安井 吉典君     石橋 政嗣君     ————————————— 本日の会議に付した案件  罰金等臨時措置法の一部を改正する法律案(内  閣提出第八六号)      ————◇—————
  2. 松澤雄藏

    松澤委員長 これより会議を開きます。  内閣提出罰金等臨時措置法の一部を改正する法律案を議題といたします。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。安井吉典君。
  3. 安井吉典

    安井委員 この法律案に入ります前に、今度政府恩赦を行なうことをおきめになったその内容について、若干お尋ねをいたしたいと思います。  今度の沖繩の返還にあたり、私どもは、これまでの沖繩に対するアメリカの領有がたいへん不当、不法なものであり、そこでさまざまな刑罰が行なわれていた。したがって、今度の復帰機会に、沖繩人たちについて恩赦あるいは大赦というふうな形で処理するということについては、何らの疑問は持たないわけであります。しかし、本土においてもおおばんぶるまいをし、とりわけ、世論が非常な反撃を加えておりました選挙違反に対してまで恩赦措置を行なうということについては、非常に不満を持っているわけであります。  その問題について、法務大臣当該責任者でもおありだし、しかし一方、司法行政側面では、それぞれの刑罰刑事政策的にも効果あるようにという、そういう方向でお仕事を進めておられるお立場でもあろうと思うわけであります。その両方の側面をお持ちだと思うのですが、そういうお立場から、今度の問題についてどういうお考えを持っておいでなのか、そのことをひとつ伺いたいと思います。
  4. 前尾繁三郎

    前尾国務大臣 沖繩返還にあたりまして恩赦をやる、その沖繩については当然だというお話であります。しかし、沖繩返還の持っている意味は、何も沖繩県民だけの問題ではなしに、平和交渉によって領土が返ってくるということでありますから、日本国家的慶事である、これはだれしも考えるわけでありますし、御承知のように、東京におきましても盛大に式典が行なわれたわけであります。したがいまして、この国家的慶事国民全体で喜び合うという意味からいたしますと、恩赦をやるのは当然だと思います。  従来、いろいろ選挙違反についてこれを省けという議論もあるわけであります。しかし、私はここで何回か申しましたように、法の前には平等だ、こういうふうに考えますと、また現段階において、選挙違反がもとより刑法的な犯罪とは違うのだという国民意識がそこにあるわけであります。したがって、罰金であります限り、選挙違反を特別に除くという理由も私はないと思います。  また、何と申しましても領土が返還されたその機会に、さらに日本が今後躍進を続けていくという意味合いからいたしますと、社会的にも障害になっておりますいろいろな資格を回復し、そしてさらに一そう日本発展のために努力していただきたい、こういう意味合いからやっておるのでありまして、その趣旨から、また恩赦という制度がある限りにおきまして、私はその恩赦を活用して、再び犯罪を犯さないようにということでいくことは、刑事政策といたしましても当然のことであったと思っておりますし、ただいま申しましたように、みんな平等に再出発ということで考えていただける、かように信じましたので、先般のような措置をとった次第であります。
  5. 安井吉典

    安井委員 本題に入る前の問題ですから、そう深く入って時間をとるつもりはございませんけれども、もう一つ総理府のほうで行政罰の救済の措置政令で講ぜられたというふうに伺うわけでありますが、その点はどうですか。
  6. 宮崎清文

    宮崎(清)政府委員 先生御承知かと存じますが、公務員等懲戒免除等に関する法律という法律がございます。これは昭和二十七年に制定された法律でございまして、大赦または恩赦が行なわれる場合には、公務員等懲戒についてこれを免除することができるという法律規定であります。したがいまして、今回沖繩復帰に伴いまして恩赦が行なわれることになったのでありまして、この法律に基づきまして、昨日、沖繩復帰に伴う国家公務員等懲戒免除に関する政令、これを持ち回り閣議で御決定いただいたわけであります。  内容を簡単に申し上げますと、公務員等懲戒免除でございますが、今回は沖繩に限りまして、元琉球政府職員であった者その他本土法令に相当いたします沖繩法令でいろいろ資格が与えられ、かつ、それに懲戒規定が設けられていた、たとえて申しますと弁護士あるいは公証人等、それらの人々についても同様に、昭和四十七年五月十五日前にすでに懲戒処分を受けた人々については、その懲戒処分を今後免除する、こういう内容政令を出したわけでございます。
  7. 安井吉典

    安井委員 私も、新聞でそういうふうな内容を聞き知ったわけでありますけれども、法務大臣は、恩赦については法のもと平等ということで、何もかも一視平等だ、こう言って、行政罰のほうの処理沖繩だけに限るというのは、だから、その辺の政府の中のお考えが首尾一貫していないのだはないか、その思うわけです。つまり、国家的な慶事だというふうなことを主体にして問題をお取り上げになっているという立場から言えばそうなるのではないか。私の初めからの論理沖繩主体でものを考えるべきだということから言えば、いまの総理府の処置のほうがあるいは正しいのかもしれない。いずれにしても、その二つ論理というものがこんがらがっていると思うのですね。その点どうですか。
  8. 宮崎清文

    宮崎(清)政府委員 先ほど御説明申し上げましたように、公務員等懲戒免除等に関する法律におきましては、大赦または恩赦が行なわれた場合には、懲戒を免除することができるという規定でございまして、これはいわば、そういう場合には政府懲戒免除を行ない得る権限を与えた、かように解しておるわけでございます。  ところで、その大赦または復権が行なわれました場合と、現実にそれに基づきまして懲戒免除等が行なわれました場合の先例でございますが、戦後六回にわたりまして大赦または復権が行なわれております。しかしながら、懲戒免除につきましては、そのうちの二回しか行なわれておりません。どういう場合かと申しますと、簡単に申しますと、昭和二十年の十月十七日に、いわば終戦ということで、この場合には大赦復権が行なわれた。それに基づきまして勅令懲戒免除を行なっております。次は昭和二十七年四月二十八日、御承知のように平和条約発効に際しまして、同じく大赦または復権が行なわれました場合に懲戒免除を行なっております。公務員懲戒免除はこの二回でございます。  そこで、私たちいろいろ検討いたしたわけでございますが、やはり公務員懲戒免除等につきましては、大赦または大赦に近いような状態があって初めて行なうのが適当ではなかろうか。そこで、今回は御指摘のように復権だけでございますが、沖繩につきましては、復権に際します特赦基準におきましても、特に寛大に取り扱うというような規定が設けられておりますし、また、これはわが国施政権と直接関係ございませんが、復帰直前米高等弁務官によります減刑が行なわれております。それらを勘案いたしますと、少なくとも沖繩におきましては、本土における復権より相当幅の広い恩赦が行なわれたと見ることができるのではないか、これが一点でございます。  それからもう一点は、先ほど申し上げましたように、現在の法体制のもとにおきます公務員等懲戒免除が初めて行なわれましたのは、平和条約の発効した際でございます。ところで、今回沖繩復帰いたしますということは、沖繩にとってみれば、いわば本土において平和条約が発効したと同じようなことではないか。  これらの二つ理由から、私たちは、本土におきましては大赦が行なわれていないので、懲戒免除が行なわれるのに不適当であるが、沖繩に関しましては恩赦の幅が非常に広いという点で、先ほど申しましたように、沖繩においては、いわば本土において平和条約が発効したと似たような状態に置かれたのではないか。それらを勘案いたしまして、沖繩のみに懲戒免除を行なうことは十分に理由がある、このように考えた次第であります。
  9. 安井吉典

    安井委員 それから、沖繩における地方公務員県職員あるいは市町村職員についてはどうなんですか。
  10. 宮崎清文

    宮崎(清)政府委員 昨日おきめいただきました政令は、国家公務員等となっておりまして、その内容は、先ほど申し上げましたように、国家公務員以外に、本土でいえば三公社に当たる職員、それから弁護士その他一定資格方々でございますが、さらに、復帰と同時に沖繩県職員になった方々につきましても、先ほど来申し上げております公務員等懲戒免除等に関する法律の三条で、地方公務員懲戒免除に触れておりまして、これはやはり大赦または恩赦があった場合には、条例で定めるところにより同じように懲戒免除することができるという規定になっております。この点につきましては、自治省とも御相談申し上げておりますが、自治省のほうにおきましていろいろと御措置を、沖繩県に対して助言その他をされるのじゃないか、このように理解いたしております。
  11. 安井吉典

    安井委員 私は本質論からいって、いまおっしゃったようなのはあまり理由にならぬじゃないかと思います。恩赦そのもののあり方について、それを強く意義づけるために、法務大臣は、これは沖繩の問題だけじゃないんだ、本土のほうがうれしいんだということで、本土がうんとうれしいものですから、選挙違反までみんな恩赦にする、こういう論理を展開されているのです。おたくの総理府のほうは、本土もさることながら沖繩のほうは特別なんだ、特別なんだという論理の展開ですよ。その辺はどう考えてみても矛盾だと私は思うのです。どっちかにそろえるか、そうしない限りはこれはどうもおかしいように思うわけであります。閣議でもおそらくそういうふうな議論がなされたであろうし、なされないのはおかしいと私は思うのですが、大臣いかがですか。
  12. 前尾繁三郎

    前尾国務大臣 われわれも、恩赦については閣議でいろいろ議論をいたしましたが、この沖繩公務員の問題につきましては論議が行なわれなかったわけでありますが、やはり沖繩においては減刑令が行なわれておるということで、内地よりはむしろ沖繩におきまして、恩赦の場合におきましても非常に特段に向こうのほうが手厚くされておるということにならって、総理府措置をおとりになったのじゃないか、かように考えておる次第であります。
  13. 安井吉典

    安井委員 けさ公務員のストライキがありましたね。私ら、何かそんなことを意識の中に置いて、あの持ち回り閣議はきのうですか、きのうの閣議の中で意識的に、本土については、本土公務員に対する措置は講じないとかなんとか、そういうふうなたいへん高度の政治判断をお持ちになって進められたのじゃないかとさえ勘ぐりたいくらいであります。いずれにいたしましても、この問題は、双方の間の取り扱いが、どう考えてみても矛盾に満ちたものであるということを、私はここではっきり指摘をしておきたいわけであります。  私は、沖繩に十四日に行って、十六日に帰りましたけれども、沖繩における住民心理といいますか、住民の感情はものすごい起伏を見せています。これはテレビじゃなくてラジオだったものですから、こちらのあれには出ていないのかもしれませんけれども、アナウンサーが小学生にマイクを向けて、今度の復帰はどうですかと聞くと、その子供は、ぼくよくわからないけれども、テレビで見た佐藤さんはうれしそうににこにこしていた、しかし、ぼくのうちのおかあさんは、ドルが三百五円だし、物価が上がって、それに自衛隊も来るというし、非常に悲しそうな顔をしていた。それが子供答えです。佐藤さんはうれしそう、おかあさんは悲しそう、何かこれが沖繩における今度の復帰を受けとめる一つの象徴的な表現ではないかと私は感じて帰りました。ですから、そういうふうなわけで、選挙違反までを入れて、それで万歳万歳というふうな形でこの恩赦が受けとめられたということに、非常に大きな問題があるのではないかということを、私は強く感じて帰ったわけであります。  いずれにいたしましても、この恩赦の問題について幾つかの問題点はあると思うのですけれども、私はけさ行政罰処理のしかたを見て、また新しい矛盾点が出てきたのではないか、そういうことを強く感じまして、この問題についてさらに政府御当局において、できるならもう一度やはり検討し直していただきたい、そのことをひとつ強く要求しておきたいと思います。  次に、罰金等臨時措置法改正についての問題でございますが、今度一口に言って四倍に上げるという内容になっているわけでありますが、大体において、いわゆる財産刑というものは本質的に何がねらいなのか、その点ひとつ刑事局長からお答えいただきたいと思います。
  14. 辻辰三郎

    辻政府委員 罰金科料のいわゆる財産刑本質と申しますか、性質でございますが、これは申すまでもなく、犯人から金銭を剥奪して財産的苦痛を与えるということを内容といたしております。財産的苦痛を与えることによりまして、一般社会人に対する一般予防を期し、かつ犯人については、今後犯罪行為に出ないという意味特別予防機能も果たしていく、これが財産刑本質であろうと考えております。
  15. 安井吉典

    安井委員 物価がどんどん上がって、あるいは所得が上がって、現在の罰金額では十分な痛み受刑者に与えるわけにはいかなくなったというところに、今度の理由の一部があるようでありますが、その痛みと称する基準はどこに置くべきかということですが、どうですか。
  16. 辻辰三郎

    辻政府委員 この罰金額法定刑で定めます場合に、その厳格な基準というものはどこにあるかということになりますと、これはなかなか一がいには申し上げかねるものがあろうと思います。  ただ、わが国の場合には何といいましても、これは明治四十一年から施行されております現行刑法におきまして、それぞれの一定の罪に一定罰金額法定刑が定められているわけでありますが、これがやはり基準になって今日に至っておるということでございます。
  17. 安井吉典

    安井委員 そうすると、今度は一律措置ですね。つまり、現在の刑法における罰金基準というものは、正しいという前提に立っておやりになっているわけですね。
  18. 辻辰三郎

    辻政府委員 御承知のとおり、現行刑法明治四十一年でございますが、このときに一定犯罪について一定額以下の罰金を定めておるということでございまして、これが基準になりまして、戦前はそのとおりやってまいったわけでございますが、終戦直後にたいへんな経済的変動がございましたので、この現行刑法というものを基準にして現行罰金等臨時措置法というものが定められたわけでございます。そういたしまして、刑法犯につきましては、この明治刑法法定刑のそれぞれ五十倍にするということの手当てが行なわれたわけでございます。  今回は、この昭和二十三年から今日までの経済的変動というものを前提にいたしまして、この二十三年のさらに四倍、もとの刑法から申しますと、刑法犯につきましては二百倍という法定刑に相なるわけでございます。現在はかような考え方で、現下経済事情との関係では、これでともかく一応の機能が果たせるのじゃなかろうかというふうに考えておるわけでございます。  反面、御承知のとおり、刑法全面改正作業が現在当省法制審議会において行なわれておるわけでございます。その刑法全面改正作業におきましては、また根本的な立場から、この刑法犯における罰金刑というものについてそれぞれ検討をいたしております。今回の臨時措置法改正につきましては、刑法全面改正が実際に施行されるまでの暫定的措置といたしまして、ともかくこの程度の臨時措置をお願いする、かような趣旨でございます。
  19. 安井吉典

    安井委員 一応暫定措置という考え方が基礎ですね。その点ははっきり伺っておきたいと思うわけであります。  そこで、罰金の額というものは、所得の多い人と低い人とで痛み方が違うわけですよ。ですから、刑法学者の中には、罰金を相当程度上げても、富める人にはそれほど感銘性はない、しかし貧しい人には過重負担になる、だから、罰金の一律的な引き上げは刑の公平性をそこなうことになる、こういう言い方をする人もいるようです。その点はどうお考えですか。
  20. 辻辰三郎

    辻政府委員 罰金刑の持っております、もちろん科料刑も同様でございますが、財産刑の持っております一つの基本的な性格といたしまして、ただいま御指摘になりましたように、納めるほうの人の財産状態によってその効果が違ってくるという一つ宿命と申しますか、本質を持っておるわけでございます。その点につきましては、それぞれの納める犯人資産状態経済状態に応じて、具体的な裁判において、貧しい人、富める人ができるだけ公平にいけるように、いわば犯人財産状態経済状況というものを具体的事案事案に応じて検討して、その間の不均衡が生じないように裁判をしていくということが、従来から行なわれてきたところでございます。  そういたしましても、あるいはなお決定的に財産状態による不公平というものが避けられないという宿命が残るかもしれないわけでございますが、この点につきましては、かねて学者の説あるいは一部諸外国の例がございますように、罰金日数規定するという方法がございます。一定犯罪を犯しました者につきまして何日の罰金に処するということにしまして、具体的に、犯人との関係で、君の場合はその一日は幾らになるというような形で、むしろ日数制罰金刑を言い渡していくという考え方があるわけでございます。現に二、三の国においてはそういう法制がございます。  これにつきまして、刑法全面改正の御審議におましても、この考え方についてもいろいろ検討が行なわれたわけでございますが、あまりにもこれは繁雑な面がある、のみならず現在の日本法律意識からはかけ離れておるということで、この点は全面改正には取り入れてはおりませんけれども、そういうような考え方もございますし、運用の面におきましても、十分その点の不均衡がないように配慮されてまいっておるところでございます。
  21. 安井吉典

    安井委員 全体的な罰金金額レベルを上げてみても、相当なお金持ちにしてみれば、それはたいした痛みにはならぬわけですね。しかし、月給が三万円か四万円くらいの人に五万円の罰金ということになると、これはたいへんですよ。月給五十万円の人には五万円はたいしたことはなくても、所得の少ない人には非常に大きな打撃になる。それを量刑だけで処理できるという考え方を先ほどもお話しになったわけでありますけれども、しかし、全体的なレベルが上がれば、あとは裁判官にまかせられるわけでありますし、いずれにしても不均衡を生ずる度合いがふえたということだけは明確だと思います。  ですから、私が伺いたいのは、今度の単純四倍増という考え方の中に、いまのような階層別の公平さをどうしてとるかということについて、具体的、現実的な考慮がなされているのかどうか、それをひとつ伺いたいわけです。
  22. 辻辰三郎

    辻政府委員 まず刑法犯について申し上げたいと存じますが、刑法犯につきまして、今回のこの案におきましては、一律に法定刑の上限を四倍にするという考え方でございます。現行のままでおきますと、この法定刑ワクが非常に狭いわけでございます。そういうことで、ただいま御指摘のような場合に、金を持っておる、財産を持っておる人についても持っていない人につきましても、法定刑ワクというもののしぼりがございます。  そういう意味におきまして、現行のままにおきますと、むしろ金を持っておるほうの人については痛みを感ずることが少ないという弊が非常に多く出るわけでございますが、今回の改正のように、その法定刑ワクを四倍にしていただきますと、その場合には、金を持っておる方はその四倍の範囲の上のほうに裁判でまいりましょうし、財産の少ない方は、その法定刑ワク内で低いところに裁判がなされるということで、むしろその財産的な状態による不均衡というものを是正する上におきましても、今回の法定刑の四倍引き上げというものは、非常な効果があることと考えておるわけでございます。
  23. 安井吉典

    安井委員 受刑者についての、つまり罰金刑をいままで受けた人について、その人の所得がどういうふうな割合になっているか、私は、ごく大まかな印象的な言い方からすれば、どうも所得の少ない人ほど罰金刑を受けている数が多いような気がするわけです。それをはっきりつかんでおられるのかどうか、どうですか。
  24. 辻辰三郎

    辻政府委員 現在の制度におきまして、言い渡されました罰金が納められない場合には、御承知のように、労役場留置という制度がございます。労役場に、一定金額で換算した日数入るわけでございます。それは罰金が納められないということでございますから、労役場留置になっておる者がどれくらいの割合になっておるかということが、一つの指標になろうと思うのでございます。  この観点から、労役場留置が執行されました割合を申し上げてまいりますと、昭和三十二年には罰金件数の〇・六%の者が労役場留置の執行をなされておるということになっておりますが、昭和四十五年になりますと、それが〇・二%ということに下がってまいっております。千人に二人ということでございますが、こういう状態から見ますと、やはり非常に経済状態がよくなりまして、現下罰金裁判についての納付率がたいへんよくなってきておるということが言えるわけでございまして、ただいま御指摘のように、経済的に貧弱な方はたいへん過酷であるというような現状にはなっていないというふうに考えております。
  25. 安井吉典

    安井委員 私がお聞きしているのは、所得別分布というようなところまでのお調べがないのかということを聞いているわけです。
  26. 辻辰三郎

    辻政府委員 罰金を納めます者についての所得別分布、この調査はいたしておりません。
  27. 安井吉典

    安井委員 やっていないならやっていないということをお答え願いたいので、私の聞いていることについてのお答えじゃなしに別な形でのお答えだから、重ねて時間をかけてお尋ねをせざるを得ないわけです。ですから私は、単なる一律引き上げということを決意なさるには、もう少しそういう精密な見通しをお持ちになるべきではなかったか、そういうことを指摘しているわけであります。  そこで、物価状況に応じてということになりますと、いままでずいぶん長い間据え置きになっている間、物価はどんどん上がってきたわけですね。しかし、その間何にも措置されなかった。いままではいままでのもので合理的であったからされなかったのか。そしてまた、物価とうまくつり合いをとろうとお考えになれば、物価とのスライド制か何かでもおやりにならなければこれはうまくいかないのではないか。つまり、物価との関係をここで強調されていることからすれば、いままでのあり方、それから今回のあり方が、非常に合理的であるというふうなお考えですか。
  28. 辻辰三郎

    辻政府委員 先ほども申し上げましたように、一定法定刑、幾ら幾ら以下の罰金というふうに御承知のように法律が定めておりますから、この法定刑の範囲が相当広くございます。したがいまして、多少の経済変動がございましても、実際の裁判はその法定刑の上限のほうにだんだんと上がっていくということで、経済変動が直ちに罰金法定刑というもの変えなければいけないというふうには出てまいらないわけでございます。  そういう観点から申し上げますと、刑法犯の場合に、法定刑の上のほうに実際の裁判がだんだんと集中していくという、いわゆる頭打ちの現象でございますが、これが顕著に出てまいりましたのは昭和四十三年ごろでございます。それまでは、経済変動はもちろんございましたけれども、法定刑ワクが広うございますから、それで具体的な裁判一つの適正を保ってきたのでございます。  ところで、頭打ち現象が顕著になってまいりますと、法定刑ワクをまた広げませんと、そこに具体的な裁判の妥当が期せられないということでございまして、今回の改正は、そういう頭打ち現象ということが顕著になりましたので、この際特に臨時のつなぎとしてこの臨時措置法をお願いしたい、かような考え方によるものでございます。
  29. 安井吉典

    安井委員 そうすると、いままではやむを得なかった、二十何年間やむを得ないから放置してきたんだ、こういうことですか。
  30. 辻辰三郎

    辻政府委員 法定刑ワク内でまかなえてきておった、四十三年ごろまでは法定刑にまだ幅がございましたので、それでまかなえてきたということでございます。
  31. 安井吉典

    安井委員 一律四倍増をした根拠は何かというふうなことは、もうすでにお尋ねがあったのだろうと思うし、これにも大体書いてありますが、四倍でなければいけなかったのですか、それともその四倍ということはもっと先を見てのことなのか、現状において妥当なのか、そのラウンドナンバーが出てきた理由ですね、それをもうちょっとお聞かせいただきたい。
  32. 辻辰三郎

    辻政府委員 今回刑法犯等につきまして、法定刑の上限を一律に四倍に引き上げたいというこの考え方でございますが、その根拠は、所得というものを前提考えてまいりますと、現行法のできた昭和二十三年当時に比べまして、賃金は、昭和四十六年で一五・九倍、国民所得は、昭和四十五年で一〇・八倍というふうに上がってまいっております。それだけを単純に見ますと、四倍というこの数字はむしろ非常に低いことになるわけでございますけれども、何も昭和二十三年の非常に貧窮な時代というものを基礎にする必要はないと考えた次第でございまして、経済事情が比較的安定したといわれております昭和三十年を基準にしますと、賃金の上昇率は約四倍、一人当たりの国民所得は約六倍となっております。  また、科刑の実情というものを見てまいりますと、昭和三十年当時の一件当たりの罰金の平均額は三千十五円でございましたが、昭和四十五年には一件当たりの平均罰金額が一万四千四百八十四円、ちょうど四・八倍という数字になっておりまして、昭和三十年を基準にしますと、現下大体四倍という数字が妥当なところではなかろうかと考えられるわけでございます。  他面、刑法全面改正という作業も行なわれておりますので、刑法全面改正が施行されますまでの間は、この四倍というワクに広げていきますれば、それまでは十分まかなえる数字であろうというふうに考えておるわけでございます。
  33. 安井吉典

    安井委員 刑法全面改正の問題も、時間があればあとで伺いたいと思うのですけれども、それがいつごろと想定しておられるのか。それまではだいじょうぶだとおっしゃったわけですが、何か特別な想定をなさっておられるわけですか。
  34. 辻辰三郎

    辻政府委員 法定刑の上限を、この法律によれば四倍にしていただくことになるわけですが、四倍になりますと、さらにまたいわゆる頭打ち現象がくるという時代は、経済状態がどういうふうに変動するか、これは一がいに言えないかもしれませんけれども、比較的安定した現在におきまして四倍にいたしました以上は、頭打ち現象がくる時期は、相当先のことであろうと思われるわけでございます。  他面、いま刑法全面改正のほうは、現在法制審議会審議も終局段階でございますから、これは国会の御審議その他いろいろ予想いたしましても、その時期までは、この四倍で十分にまかなっていけるものと考えております。
  35. 安井吉典

    安井委員 刑法が国会を通る時期までを、そんなに早目に、気楽にお考えなんですか。
  36. 辻辰三郎

    辻政府委員 法定刑の上限が四倍になりますと、これはいついつまで間に合うというようなことではなしに、最近における経済状態の推移というものを見てまいりますと、四倍になればずっとこれでもういけるということも、申し上げて過言ではないという数字であろうと思います。
  37. 安井吉典

    安井委員 佐藤内閣がいつまで続くのかわかりませんけれども、物価が安定していけばこれは文句ないわけです。だけれども、佐藤内閣以外の内閣が次にできれば、物価が急に安定するという見通しができるかできないか、それはあとのお楽しみということかもわかりません。  その議論はあと回しにいたしまして、この提案理由の説明の中に、第一ページ目の一番おしまいのところからあとのほうに、「これらの財産刑刑罰としての機能を低下させるばかりでなく、刑事司法の適正な運営を阻害するおそれも少なくないと考えられるのであります。」これは大臣の御説明であったと思います。この意味はいま言われた頭打ちの問題、そのことだけであって、それ以外のことではないのですか。
  38. 辻辰三郎

    辻政府委員 この提案理由説明の、ただいま御指摘の部分の前段でございますが、前段は、やはり一般的に罰金というものが、現在の所得というものと見合わないような状態になってきておる、一般的に低いので、財産刑としての効果というものが、一般的に現在の金額では低下してきておるという一般論でございます。  それから、そういう一般論でございますが、その後段、一ページの裏のほうでございますが、このほうは、これはまた一つの別の観点から、頭打ちという状況で適正な刑事司法の運営が阻害される面も出てきつつあるということで、基本的には同じでございますが、一応個別的に言うと違う理由になろうかと思います。
  39. 安井吉典

    安井委員 この罰金額が頭打ちになることによって、同じ罪を犯しても、それに対する刑というものは、自由刑の場合はほとんど変わりないわけですよ。しかし、罰金刑の場合には相対的に下がってきたという結果が、今日まであらわれてきているわけです。少なくとも四分の一くらいに下がってきたわけでしょう。そのことによって、犯罪はどんどんふえてきたということとは言えるのですか。
  40. 辻辰三郎

    辻政府委員 これは一がいに言えないと思います。この刑法犯を例にとります場合に、罰金刑が付されております罪の大部分は、同時に選択刑として自由刑の懲役刑が規定されておりますので、むしろ罰金法定刑が頭打ちになってまいりまして、この罰金刑でやろうと思っても、あまりにも金額が低過ぎるという場合には、考え方といたしまして、別の選択で自由刑のほうにいくというような考え方が出てくるのではなかろうかと思うのでございます。そういたしますと、本来は罰金刑でいいけれども、しかし、現在定められておる法定刑ワク内の罰金刑ではまかなえないというようなケースにつきまして、おそらく裁判所は非常に苦悩されると思うのでございます。  そういう意味におきまして、罰金法定刑の上限を上げていただきますと、罰金でいいのだけれども、多額の罰金が要るというケースが、やはり本来の形で罰金刑でおさまっていくという形になろうかと思うのでございまして、罰金刑機能が低下しておることが、直ちに犯罪の増減というものに結びつくかどうかは、的確に実証することは困難であろうかと思います。
  41. 安井吉典

    安井委員 私がいまこの文章のことを申し上げてお尋ねをしたのは、やはり金額の問題が非常に重大なネックなっている、刑事政策的に今日の段階では非常なネックなんだ、こういうおっしゃり方をされておると思うわけです。だとすれば、罰金の低いことがどんどん犯罪をふやしているとか、そういう側面がないとこの説明がつかない。つまり刑事政策という側面からいうと、犯罪を予防したり再犯をできるだけさせないようにしていく、そこに基本がなければならぬと思うわけです。それを単に罰金刑の額の問題だけにすりかえてしまって、それだけで問題を解決しようというふうな姿勢が法務省におありなのではないか、そういう疑問を持つものですから伺っているわけであります。  したがって、そういう観点からすれば、今度罰金引き上げますね、上げれば、それによって犯罪は減るのですか、あるいはまた体刑のほうにストレートにいくものを押えることができるのですか。その点はっきりお見通しをお持ちですか。
  42. 辻辰三郎

    辻政府委員 これは適正な科刑の実現ができるということは断言できると思います。犯罪の増減につきましては、罰金だけの問題で原因が片づくものではございませんが、本来罰金刑で刑事責任を追及し得るものについて、適正な罰金が科せられるという意味で、適正な刑事司法の運営ができるということは確信いたします。
  43. 安井吉典

    安井委員 どうやら私、いままでの御説明あるいはまたここに書いてある中身からわかってまいりましたことは、どうも刑事司法の運用の立場から、こうしたほうが運営するほうがしやすいからというふうな観点のほうが先へいって、犯罪を予防するとかなんとかいうのはあと回しになっている。つまり行政運営の立場だけが先行してしまって、犯罪を少なくしていくとかいうふうな刑事政策的な配慮というもの、それがどうも欠けているような気がするわけです。どうもその部分がないのですね。大臣、どうですか。
  44. 前尾繁三郎

    前尾国務大臣 犯罪が刑だけで減少するということは、私もそう簡単なものではあるまいと思います。ただ率直に申しまして、罰金刑意味金額もさることながら、罰金を科せられるという不名誉さ、そういうものが非常に大きな働きをしておると思います。  ただ、法の権威という点から考えまして、率直に言って、昭和二十三年にきめた額そのままが日本の現在の状態に適合しておるかということは、だれが考えても常識的にないのではないか。だから、やはり常識的なものでないと、たとえば現在の罰金刑でいきますと、円タクに乗っていったらその支払いのほうがよけいかかるじゃないかというふうなことは法の権威という点から考えましてもとるべきではないんで、私は、やはり科するからには適正なものでいくべきである、そういうふうに考えているわけです。
  45. 安井吉典

    安井委員 いま、常識的なということばが出ましたけれども、数字そのものについてはあるいはそういうことも言えるかもしれません。しかし、そのことによって、さっき私が最初指摘した、比較的お金のある人とそれから比較的ない人との間のアンバランスの問題だとか、さらにまたそのことが単なる常識であって、刑事政策的に犯罪を予防するとかなんとかいうことに対する別の配慮というものが何らなくて、ただ単に常識論なり、それから刑法を運用する立場の技術的な利便さだとか、そういったものだけであって、今後犯罪を予防するにはどうしていくとか、そういう新しい配慮というようなものが十分ないのではないか、そういう疑念はなかなか払拭するわけにはいかぬわけであります。  たとえば、罰金に対する執行猶予、今度この限度額も上がりましたね。上がっておりますけれども、この執行猶予的な扱いというのがあまりありませんね、この統計を拝見いたしますと。もう少しこういうようなものの運用だとか、そういうようなことは考えられませんか。
  46. 辻辰三郎

    辻政府委員 御指摘のように、罰金の執行猶予の率は、全罰金裁判につきまして非常に低いわけでございます。これはやはり罰金刑というものは、自由刑よりもなお一応軽い刑ということになるわけでございまして、罰金刑にした上でなおその執行を猶予しなければならないというケースは、実際問題としてたいへん少ないわけでございます。そういうことで裁判の実情を見ましても、やはり罰金の執行猶予というものは少ないのだというふうに理解をいたしております。
  47. 安井吉典

    安井委員 罰金効果というのは、財産の一部が剥奪される、そういうふうな問題と、もう一つは、いま大臣のおっしゃった不名誉感といいますか、その側面があるわけですよ。だから、過料なんかは今度は変えないのでしょう。額は非常に少ないけれども、やはりそれがあることによって規制の効果を発揮しているわけであります。だから、罰金の額だけがどうも先に立っているようだけれども、罰金ということの不名誉感といいますか、その側面効果というものがある以上、執行猶予というようなものももう少し活用する余地があるし、それから、さっき言いました富める者は別としても、貧しき人々に対する対策といいますか、そういう側面でももっと活用の余地があるのじゃないか、そういう意味合いから申し上げているわけです。どうですか。
  48. 前尾繁三郎

    前尾国務大臣 先ほど来申しておりますように、今度の措置はほんとうの臨時措置であります。率直に言いまして、罰金本来の考え方をすべて取り入れて直したかったわけでありますが、これは御承知のように刑法草案にかなり、十分であるかどうかは別といたしまして、資産その他の状況考えてやれというような草案になっておるわけであります。それをいま直ちにこの部分だけ取り入れるということにつきましては、法制審議会としては全体の一環として考えていくという立場できておりますので、率直に言って、いいところだけあるいは思いつきのところだけ先取りするということではどうもいくまい。この際は、新しい刑法ができます過渡的措置として一律に引き上げるということは、法制審議会の側からも主張されておる問題です。  そういう意味で、今回は、われわれとしましては非常に不十分なものでありますが、やむを得ない、かように考えたわけでございます。
  49. 安井吉典

    安井委員 執行猶予の問題について……。
  50. 辻辰三郎

    辻政府委員 御指摘のように、罰金刑につきましても、現在よりもより刑事政策的配慮というものを加えまして、執行猶予をふやしていけというような御意見、まことに御指摘のとおりの面が多いと思います。  なお、これは御承知と思いますけれども、罰金刑が確定いたしました場合に、執行いたします場合に、その運用といたしまして、罰金の分納、延納ということも現在行なっておるわけでございます。そこで、罰金を受けました者の具体的な財産状態を、さらに執行の面におきましても十分調整をはかって運用しておるという実情も、御理解を賜わりたいと思うのでございます。
  51. 安井吉典

    安井委員 今度の引き上げによって限度が上がるが、量刑そのものが全部一律に四倍になるのかどうか、これはわからぬわけですね。罰金の総額はどれくらいふえるお見込みですか。
  52. 辻辰三郎

    辻政府委員 大体、本年度はそんなにふえないというふうに見通しております。  現在、御承知のように、罰金額は四十五年で大体二百四十億くらいでなかったかと思うのでございますが、今回この法律案法律として成立いたしました場合には、ただいま御指摘のように、法定刑の上限が刑法犯について四倍になるわけでございますが、実際の裁判はその限度内で行なわれていく。おそらく司法の連続性という観点から、裁判所におきましては、四倍になったからといって、具体的な裁判についてすぐに四倍にするということはないと思うわけでございます。やはり徐々に実際の裁判というものは罰金が上がってくるだろうと思うのでございます。  しかも、この法律案にもございますように、この改正後の本法の適用を受けますのは、改正後に犯した犯罪について適用を受けるわけでございますから、本年度におきましては、罰金額はそう顕著にはふえてこないのではなかろうかと考えております。
  53. 安井吉典

    安井委員 しかし、将来はこれはだいぶふえていき、いつの年か四倍になるということになるのですね。
  54. 辻辰三郎

    辻政府委員 四倍になるということは、全部頭打ちになるということでございますから、それほどはなかなかいかないと思うのでございますが、やはり徐々にふえてくるだろうと思います。
  55. 安井吉典

    安井委員 額の問題、これはもう少しあとにおきますが、懲戒罰、執行罰のほうは、今度の改正の対象にならなかったわけですね。その理由はどうなんですか。
  56. 辻辰三郎

    辻政府委員 御承知のとおり、過料は行政罰でございます。今回の罰金のこの手当ての法律の全然対象外でございますので、この法律の中には入っておりません。したがって、過料につきましてはこの改正措置が講じられていないわけでございますけれども、この過料につきましては、関係省庁がたいへん多うございます。それぞれその立場において検討されていることと思うのでございます。  たとえば、私、所管外でございますが、当省の民事局におきましては、民事局所管の過料につきましては、十分その改定について検討をいたしておるというふうに承知をいたしております。
  57. 安井吉典

    安井委員 じゃ、いつか改定措置が行なわれるわけですね。
  58. 辻辰三郎

    辻政府委員 民事局におきましては改定を検討いたしております。そういう面で、いつかはその改定をお願いすることになろうかと思います。
  59. 安井吉典

    安井委員 この法律の附則で、地方自治法との関係が出ているようであります。条例で定める罰金及び科料の額についても、この法律施行後一年間は従来どおりだが、それが過ぎれば四千円以下は無効となる、こういう規定のようでありますが、条例制定権に対しても、この法律で影響を与えるという点について問題があるのではないかと思いますが、その点どういうふうな検討が進んでおりますか。これは法務省並びに自治省、両方から伺います。
  60. 辻辰三郎

    辻政府委員 御指摘のとおり、条例制定権は憲法九十四条に由来するところでございますが、この憲法九十四条におきましても、「法律の範圍内で條例を制定することができる。」というふうにございます。また、地方自治法第十四条第一項におきましても、法令に違反しない限りにおいて、条例を制定することができるということを明定いたしておるわけでございます。  したがいまして、この条例の定める罰金の額についてどのような制限を設けるかということにつきましては、これは国の立法政策の問題であろうと考えるわけでございます。現在は、罰金等臨時措置法によりまして、罰金は千円以上という国の立法政策があるわけでございますが、それを前提として、条例のほうも条例の罰則が制定されておるということでございます。そういうことで、条例で定める罰金の額についての制限というものは、国の立法政策の問題であるというふうに考えておるわけでございます。  かような基本的な立場に立ちまして、今回の法律案の附則二項におきましては、今回は罰金というものは四千円以上であるということがこの二条において出たわけでございますから、その範囲で、四千円未満の罰金を定めております条例につきましては、これは地方自治団体において御考慮を願いたい。それで一年間は猶予をいたしまして、その間で地方自治の立場においていろいろお考えを願いたい。それでもし何ら御変更がない場合には、その四千円未満の分というものについては、そう定めておる罰則については、法律との抵触があって失効するというふうに理解をいたしておるわけでございまして、この罰金の最低額を四千円という一つの立法政策の範囲内において、その内容をおきめ願うのは地方自治体においておきめを願いたい、かような考え方からこの附則ができておるわけでございます。
  61. 宮澤弘

    ○宮澤政府委員 ただいま刑事局長から御答弁ございましたので、もうつけ加えるところもないかと思いますが、御承知のように、条例に罰則がつけられるという自治法の規定があるわけでございまして、その刑罰のうちの罰金につきましても、やはり罰金として国の刑事政策なり何なりによって内容が訂正されるもの、こういうふうに私ども考えているわけでございます。  おっしゃいますように、条例は自治立法権でございます。その刑罰の中身というものにつきましては、やはり法律に対する罰則と同じような意味合いにおきまして、国の刑事政策の範囲内において問題を考えるべきもの、こういうふうに考えているわけでございます。  ただ、先ほども刑事局長から御答弁ございましたが、自治立法権でございますので、この法律によって一律的にすべて規定をしてしまうということではなくして、その改正の手続というようなものを地方団体にゆだねておる、こういうことであろうかと存じます。
  62. 安井吉典

    安井委員 私は、まず原則論を論じることにすれば、ここにおいて附則第二項の改正措置が講ぜられた趣旨は、物価に比べて罰金が低いから法律引き上げるというふうなこと、あるいは国法上の罰金を受けるものとの不利益の度合いとか、自治法上の条例の中でのアンバランスだとか、そういうことも配慮がなれさたことによって、この法律での改正というふうになったんじゃないかと思います。そうなんでしょう。
  63. 辻辰三郎

    辻政府委員 今回はこの第二条におきまして、罰金というものは四千円以上でございます、こういう法律規定ができたわけでございます。その照り返しといたしまして、条例のほうでたまたま四千円未満の罰金を定めておる条例につきましては、この法律の、罰金は四千円以上とするという条項と抵触するわけでございますから、これは一年間の猶予で、それぞれ地方においてこの改定をお考えいただきたいという趣旨なんでございます。  その結果、何か四千円未満の処罰をもししなければならぬというふうな必要性が地方においておありでございましたならば、その場合には、条例におきまして、罰金のかわりに科料を定めていただきましたならば、それで解決するわけでございまして、実際問題といたしまして、条例にいう罰則の罰金及び科料金額を、国のほうでどうこうするという考えではないわけでございます。実際の金額が適正な金額か、地方においておきめになる場合に、罰金としては四千円以上でないと困ります、しかし、それ以下のものであれば、新たに科料刑でお願いすればいい、かような考え方に出ておるものでございます。
  64. 安井吉典

    安井委員 私が申し上げたいのは、憲法九十四条をさっき引用されました。なるほど自治体のいろいろな財産管理や事務処理法律の範囲内でなければいけない、これはもう確かですね。しかし、第九十二条がもっと前にあるわけですよ。つまり、「地方公共團體の組織及び運營に關する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。」つまり、定律は地方自治の本旨に基づかなければいかぬということの限定を、憲法はその前に置いているわけですよ。あなたがお答えになったのは、法律が変わったのだから自治体は当然だ、こうおっしゃるが、その法律そのものが、地方自治の本旨にのっとっているかどうかということが、一つ先にあると思うのですよ。私はその面から問題を提起しているわけでありますが、いまおっしゃったようなことやら、私が先ほど申し上げたように、物価に比べて安いから四千円以下は切るとか、そういうふうなことがあっても、それを法律でまで自治体におせっかいをする必要はないのではないか、よけいなお世話だという声が、地方公共団体のほうから上がってくるような気がするわけです。  それで、その四千円という置き方について、あと科料にしたらどうだとか、それも私はたいへんよけいなお世話だと思うのです。そういうことまでをおっしゃる必要は法務省にはないのではないか。それを憲法九十二条が、「地方自治の本旨」ということばでぴしっと私はきめつけているような気がするのですがね。自治体の運営には地方自治法があるんだから、地方自治法のほうを改正するというふうな考え方もあるだろうし、あるいは国の仕組みの中で自治体がかってに考えればいい、何かそういう仕組みがあってもいいのではないかと思うわけであります。  そこで、その地方自治体の罰則のある条例について、自治省から調べていただきましたら、全部で——これはひとつ御説明願えますか。
  65. 宮澤弘

    ○宮澤政府委員 御要求がございましたので、私のほうで調査をいたしたわけでございます。罰則のある条例についての資料の御要求でございます。私どもも、常に今日の時点においてすべてのデーターを持っているわけではございませんので、大体の傾向と申しますか、こういうことでお聞き取りをいただきたいと思うのでございます。  地方団体が制定をしております条例、数多くございますけれども、そのうちで罰則のある条例は、私どものほうの手元の資料でございますと、二千五百九十一ということでございます。大体二千六百程度でございます。それで、御承知のように刑罰、各種ございますが、そのうちで懲役刑が三百二十二、禁錮が六十、それから罰金が二千三百五十、それから拘留が三百九、それから科料が七百七十三、没収刑が五、大体こういうような状況になっているわけでございます。   〔委員長退席、大竹委員長代理着席〕
  66. 安井吉典

    安井委員 それから、その罰金の種類のほうも、三万円以上、一万円以上三万円未満、四千円以上一万円未満、四千円未満とあって、四千円未満は七十五と、こうありますね。これは国のほうの罰金がこういうふうに四倍増というふうなことになることによって、地方団体のほうはどうなんですか。
  67. 宮澤弘

    ○宮澤政府委員 罰金の中身でございますが、二千三百五十の条例のうちで、三万円以上の罰金を定めておりますのが六百十九でございます。一万円以上三万円未満が七百十七、それから四千円以上一万円未満が九百三十九、四千円未満が七十五でございます。  したがいまして、今回御審議になっておられます法律が成立をいたしますと、この四千円未満の七十五の条例というものについて、さしあたり改正措置を講ずる必要がある、こういうことになろうかと思います。
  68. 安井吉典

    安井委員 私、伺っているのは、これはいまこの法律が通ればそうなるわけですけれども、この三万円とか一万円とかというのも、これは地方公共団体が自主的におやりになることですからあれですけれども、自治省としては、あるいは法務省としては、これはそのままでいい、こういうお考えですか。
  69. 宮澤弘

    ○宮澤政府委員 罰則の条例、各種ございますので、御承知のように地方自治法では、十万円以下の罰金を科する旨の規定を設けることができるということになっておりまして、そもそも条例に刑罰を設けるかどうかということ自身は、その条例の執行力を担保いたしますために刑罰をもって臨む必要があるかないかというのが、おそらく基本的な判断であろうと思われますし、また刑罰をもって臨む必要があるという判断をいたしました場合も、それにどの程度の罰則、刑罰を科すか、罰金を科すかということも、またその条例性質なりあるいは他の類似の国の法律を含めました法規なりとの権衡を考えて、地方団体が自主的に判断をしてきめていることであろうと思われます。  今回の法律改正に伴いまして、ただいまの千円が四千円に上がっていくということでございますが、それ以外のものにつきましては、個々具体的な条例につきまして、地方団体が判断をすることであろうと思います。私どものほうといたしましては、格別、それ以外のものにつきまして、こういうふうにやったらよろしいというような指導をする気持ちは、現在のところ持っていないわけでございます。
  70. 安井吉典

    安井委員 自治法の改正も行なうおつもりはないわけですね。
  71. 宮澤弘

    ○宮澤政府委員 現在のところ、そういうつもりはございません。
  72. 安井吉典

    安井委員 法務省は、自治体のいろいろな問題まで、下限のほうだけはずいぶん気を配った書き方をされているわけでありますが、先ほど来の御説明から言えば、物価がどんどん上がって四倍にしたということですが、自治法とのバランスの関係がありますが、自治法のいまのあれはいつ国会を通過した分ですか。いまの数字です。
  73. 宮澤弘

    ○宮澤政府委員 ただいまの十万円以下の罰金と申しますのは、おそらく当初からではなかったか。あるいは二十二年、二十三年の改正のときに多少入ったかもしれませんけれども、つい最近のことではございません。
  74. 安井吉典

    安井委員 ですから、私もその後十万円が変わったのは記憶にありません。だから、先ほど来刊事局長から物価所得の問題についている御説明がございましたけれども、自治省なりあるいは地方公共団体のほうは、あまりそういうことについての関心がないようですね。しかし、これは裁判所で処理する場合は、同じ法律ですから、あるいは条例ですから、同じ扱いになるわけですね。その点はどうお考えですか。
  75. 辻辰三郎

    辻政府委員 この点は、ただいま自治省の行政局長がお答えになったとおりに理解をいたしております。  ただ、しいてつけ加えますと、私どもは、もちろんこの地方自治の本旨に従って地方自治体でおきめになるわけでございますが、自治法十四条五項の「十万円以下の罰金、」というこの範囲は、十万円というワクがまだ相当高いところにおさまっているというふうに考えておりまして、そういう点から、やはり自治省がいまお答えになったとおりに私どもは理解をいたしております。
  76. 安井吉典

    安井委員 しかし、その下限だけは困る、こういうわけですか。
  77. 辻辰三郎

    辻政府委員 国のほうで、およそ罰金というものは四千円以上の財産刑をいうという一つ考え方を打ち出したいわけでございますので、そういう場合には、罰金と称するものはこれは四千円以上にしていただきたいと考えておりますけれども、純法律論でいきますれば、地方自治法十四条の改正ということで、自治体については、四千円未満の罰金もあり得るという法律を御審議願うということは、これは理屈の上では可能なことであろうと思います。
  78. 安井吉典

    安井委員 ほかにいろいろな法律はみんな変わってしまって、しかし、自治体のやつだけは、肝心の自治省そのものが十万円の限度を上げる気持ちはない。それから自治体のほうだって、そんなに刑罰を強めることによって、それだけで効果があがるものではないということをよく知っているからじゃないかと私は思うのです。ここで先ほどの議論に戻るわけですよ。ただ罰金の額だけを上げて、それによって犯罪を防止できるものじゃないということを、住民に直結している自治体だからよくわかるんじゃないでしょうか。だからいまのような事態にも、物価がどんどん上がっていますけれども、自治省のほうもあまりものに動じないでいるようでありますし、全国の三千幾つの自治体は、みんなそういうふうな考え方じゃないでしょうか。だから、どうも法務省だけが何だかいやにばたばたしている、重刑主義で、刑罰さえ重くすればそれで済むんだ、裁判がやりにくくてしようがないから上げるんだ、単にそういうサイドからだけの議証が行なわれているのではないかというふうな気がするわけです。  それからもう一つ、この法律で、ほかの法律に対してさまざまな影響を与えている点でありますが、公職選挙法だとかあるいは船員法だとか、そういうふうな法律の罰則規定、特に罰金規定の中で、八千円以下のやつは全部八千円とするという書き方があります。この資料の中にも書かれておりますけれども、たとえば船員法などを見ましても、五千円以下、三千円以下、二千円以下と、罰金の区分があります。しかし、今度のこの法律が通れば、その罰金の階級づけを、クラシファイをしているその趣旨は全部乗り越えて、全部八千円、こういうふうになるようであります。公職選挙法でも、七千五百円以下、五千円以下、二千五百円以下というふうなクラシファイがたしかあったと思います。しかし、この法律が通ってしまえば全部八千円、こうなるわけです。  現在ある法律、船員法にしても公選法にしても、その罰金の程度にニュアンスをつけたというのは、やはり罪の意識なり罪の種類によってニュアンスを付しているのではないか。そういうニュアンスがこれはみんな死んでしまうのじゃないかということでありますが、この点どうですか。
  79. 辻辰三郎

    辻政府委員 御指摘のとおり、今回のこの法律案は、第四条におきまして、刑法犯等以外のものにつきましては、その多額が八千円に満たないときはこれを八千円とするという条項がございます。その結果、影響を受けてまいります法令も相当数あるわけでございます。これは私どもの調べによりますと、現在二千円未満の罰金の定めがある法令は四十二でございまして、そのまた罰則数でまいりますと八十四でございます。それが、今回この法律案の四条で、全部多額が八千円未満のものは八千円というふうになりますと、八千円未満の罰金の定めのある法令が、全部一律に影響を受けるわけでございますが、八千円という基準で見てまいりますと、八千円未満の罰金の定めのある法令は百二十七でございまして、罰則の数にいたしますと二百五十八になるわけでございます。これだけの罰則につきまして、一律に多額が八千円になって、その間に、現在まで行なわれております罪に対する評価の区別がなくなるという御指摘の点が出てまいるわけでございます。  その点につきましては、私ども、できます限りにおいて、それで不都合がないかどうかということを検討してまいったわけでございますけれども、やはり現時点におきまして八千円まで上げることによって、顕著な弊害というものは全然出てこないというふうに考えておるわけでございます。もちろん、罪の観念的な評価という面においては混同されてくる面がありますけれども、実際の運営におきましては、何の弊害も出てこないというふうに考えておるわけでございます。
  80. 安井吉典

    安井委員 自治省のほうで公選法を担当されているわけですが、公職選挙法の問題点についてどうお考えですか。
  81. 山本悟

    ○山本(悟)政府委員 御指摘のとおり、公選法におきましては約九つの罪につきまして七千五百円、二千五百円というような罰金規定いたしております。  こういう点から考えますと、ただいま御指摘のとおりに、この際には、差異があった罪質というものが統一されてしまうのじゃないかというような問題点があるわけでございますが、今回の改正が、社会の実態に即応いたしまして、刑法全面改正、それに伴います特別法の罰則の整備ができるまでの暫定措置というような点から考えまして、やむを得ないのではないか、こう存じたわけでございます。多額が同じになりましても、ただいま申し上げました公選法におきます罪におきましても、選択刑といたしまして、禁錮刑あるいは罰金科料というような刑の選択ができるものがあるわけでございまして、実際の運用からまいりますと、適切な量刑が行なわれて、それほどの支障はないのではないか、こう存じておる次第でございます。
  82. 安井吉典

    安井委員 量刑のあり方は、これは裁判所がきめると思いますから、これは限度をどうすようとあれですけれども、しかし、国会がきめる法律という立場から言いますと、一体国会は何のために船員法なり公職選挙法なりその他の法律において、そんな区分をつけていたのかということになるのですよ。これは国会は、すでにある法律を新しい法律改正することはできますから、別に差しつかえはないことです。どんな法律改正しても差しつかえないわけですけれども、船員法なり公職選挙法なり、二つだけあげましたけれども、その他各種の法律の具体的な証議なしに、ただいろいろニュアンスは全部帳消しにして八千円ということでやってしまうのだということになりますと、一体いままでの国会の論議は何だったのか、こうなると思うわけであります。もちろん、それぞれの法律について担当省とは御相談されていると思いますが、それはされていますね。
  83. 辻辰三郎

    辻政府委員 相談しております。
  84. 安井吉典

    安井委員 しかし、国会とはこれが初めてでしょう、法律をきめた国会とは。担当する執行機関とは相談されて案をおつくりになったが、国会はこの場でただこういう法律をぼかっと出して、さあ審議してください、それだけじゃないですか。私はそれがきわめて不親切ではないかと思うのです。船員法なら運輸委員会があるし、公職選挙法なら公職選挙法特別委員会があって、そこで一生懸命論議してつくった法律じゃないですか、あれは。それをこの法務委員会にかかった一片の法律で、せっかくつくったそのニュアンスというものを全部帳消しにしてしまうというのですから、私はこれはいささか乱暴じゃないかと思うのですが、大臣、この点どうお考えですか。
  85. 前尾繁三郎

    前尾国務大臣 率直に言いまして、罰金というものがいろいろニュアンスをもってつくられておるということについては、私も認めざるを得ないと思います。  ただ、現在罰金のやっておる機能といいますか、それがあまりに低い額、以前でありましたらそういう非常なこまかい配慮で考えなければならなかったと思いますが、八千円という程度の場合に、それが七千円であるから、七千円と八千円とは非常に違うのだ、そういうことは、それほど以前のような鋭敏な違いではない思うのでありまして、八千円という金額に対する感覚というものは、これが最初にきめられました当時ほど鋭敏ではない。したがって、最小限で八千円ぐらいの苦痛は与えても差しつかえないのではなかろうか、そういうような考え方だと思います。  もちろん、これも率直に申しまして暫定措置でありまして、将来の問題として考えていくべき点はあるかもわかりませんが、この際の措置としてはそれで足りるのじゃなかろうか、かように考えております。
  86. 安井吉典

    安井委員 大臣、これは暫定措置じゃないのですよ。別な実定法を直すほうは、刑法関係のある部分は、これは先ほどおっしゃった法制審がいつ答申するかわかりませんけれども、それでいくのかもしれませんけれども、ほかの公職選挙法だとかあるいは船員法だとか、そのほかここでたくさんあげられている法律のほうは、これでおしまいになるわけですね。その法律全部をまた刑法改正のときにもう一度やり直しをするのですか。そうじゃないのでしょう。どうですか。
  87. 前尾繁三郎

    前尾国務大臣 刑法改正とは関係がありません。しかし、おそらく最低八千円、それでもし区別する必要があれば一万円とか、あるいは一万五千円とか、そういうような区分が出てくるのじゃないか、そういうふうに考えるわけです。
  88. 安井吉典

    安井委員 そうなんですよ。私が申し上げたいのはそれなんですよ。ですから、こんな法律で一ぺんに全部八千円でそのニュアンスを消してしまうという問題ではなしに、それぞれの法律改正すればいいのですよ。それぞれの法律をそれぞれの専門家が、法務委員会だけではなしに、船員法なら運輸委員会でやればいい。私もよくわからぬが、船員法では、何か段をつけたのにはそれぞれの理由があると思うのです。それをやはりそれぞれの専門委員会でその法律改正すればいいので、この一本の法律で、刑法に直接関係がないものまで一ぺんに消してしまう。これから下は御破算ですよというのは、これは乱暴過ぎる。それぞれの省がそれぞれの立場検討して、そしてそれぞれが必要なら改正をするという問題だと私は思う。どうですか。
  89. 辻辰三郎

    辻政府委員 このいわゆる刑法以外の法律刑罰規定でございますが、この特別の罰則という点につきましては、やはり刑法典にいう刑罰というものが一応の基準になってきておると思うのでございます。  そういう意味におきまして、刑法全面改正が実現いたしました場合には、それを基準として各特別法の罰則というものは、それぞれのお立場において検討されなければならない問題であろうと思うのでございます。  それはそれといたしまして、現在におきましても、それぞれの法律におきまして、はたして現下適正な罰則が定められているかどうかという点から、これはまたそれぞれのお立場で御検討されるべきものであろうと考えるのでございます。その点を何も否定するわけではございませんで、ただ今回は、先ほど大臣の御答弁にありましたように、これを八千円としても実質的な影響というものはほとんどないのじゃなかろうかという観点から、このような措置がとられたものと考えておるわけでございます。
  90. 安井吉典

    安井委員 どうも、このような措置がとられたものと考えていると言うが、この案は実際はあなたがおつくりになったのでしょう。ですから、刑法の抜本改正があればそのときにまた考えればいいと、こうおっしゃるけれども、この段階がA、B、Cの三クラスあって、それが一本になったものを、また次の改正といったって、なかなかそうはいきませんよ。そういうふうな問題もあるし、何よりも一つ一つ法律を、おそらく時間をかけて審議をした国会の委員会に対して、私はこれはいささか不謹慎だと思う。法務省だけで、それは金額を機械的に上げるのならまだ話はわかるけれども、そのニュアンスまで消してしまうというのは、これは立法の精神に対する、挑戦と言うと小し大げさかもしれないが、私はそれにかかわる問題ではないかと思う。それをこの一片の法律で、国会を通りさえすればいいというけれども、おそらくその委員会は知りませんよ。公選法の特別委員の連中にしても、運輸委員会の人たちにしても、そんなようなものがこの国会にかかっているなんておそらく知りませんよ。運輸省は知っておるし、自治省は知っているかもしれないけれども、国会のほかのほうはおそらく知りませんよ。だから、国会が、たとえば連合審査をするとか、そういうふうな仕組みまでしてやるべき問題、それくらいの問題点を含んでいるということを私は指摘をしておきたいわけであります。  刑法の抜本改正の問題がしばしば出ましたが、法制審議会での審議状況はどうなんですか。近いうちに結論が出そうな状況なんですか。
  91. 辻辰三郎

    辻政府委員 刑法全面改正の作業でございますが、これは昭和三十八年以来鋭意調査審議してまいりました法制審議会の刑事法特別部会の結論が、昨年の十一月二十九日に出されたわけでございます。そして刑法全面改正をする必要がある、その場合の改正内容は、刑事法特別部会できめた改正刑事草案によるのが適当であるという結論を出しまして、そしてこの部会は法制審議会の総会のほうに報告をいたしたわけでございます。  それで、法制審議会総会におきましてこの報告を受けまして、総会の立場改正刑法草案の審議を開始いたしました。これは四月に開始をいたしたわけでございます。それで、その審議を急いでいただくように努力をいたしておりますが、私どもの見通しでは、大体この一年ぐらいで法制審議会の総会の結論が出るという段階に立ち至ると思います。
  92. 安井吉典

    安井委員 私ども、新聞の報道等でしかわかりませんけれども、その伝えられるところによりますと、世論としては実務担当者を中心にして反対意見が強い。まあ日弁連の意見書とかそういうようなものが明らかにされておりますけれども、非常に反対論が強いようであります。そういうような中で、刑事局長がおっしゃるようなことではたしてすいすいといくかということは非常に疑問だと思います。いずれにしても、世界的に刑は軽くしようというふうな考え方があるのに対して、重刑主義的な傾向が強くて、これはまさに時代錯誤だというふうな言い方もされているし、治安立法的な性格の強いところも問題のようであります。  まあきょうは、その見通しがどうかということをお聞きしてもそれだけでは議論にならないわけでありますが、前尾法務大臣は参議院で、審議が手間どり過ぎるということについて不満を表明されたそうであります。そしてまた、もう少し審議を促進するということについての考え方もお述べになったそうでありますが、具体的な対策をお持ちなんですか。
  93. 前尾繁三郎

    前尾国務大臣 参議院でお答えしたのは、法制審議会あるいは法務省を通じて、現在、日本の憲法はもうすでに新しい憲法になり、また各法律はすべて新しい法律になっておる。ただ基本法であります民法あるいは商法、まあ刑法もそうでありますが、いまのスピードで考えていきますと、率直に言って明治四十五年間に新しく法律が全部つくられた。ところが、終戦以来御承知のように二十五年、これから二十年たってそれらの法律が全部新しい規定で読めるであろうかどうか。そういうことを考えますと、よほど法務省も法制審議会の構成も考えていかないと、いまの若い諸君が法文を読みながら非常に親しみにくい、非常に異様なものに感じはしないか。  そういう点から考えますと、全面的にいろいろ検討をして、そうして時代に即応する法律に直していかなきゃならぬ。その点については、まあ法務省としましても、いままであまりに法務行政にとらわれ過ぎて、立法の面というものが考えられていない。だからこの際は、われわれとしてもそういうことを考えながら、できるだけ審議を急いでいっていただきたい。と申しますのは、明治時代でありますと、草案には手間どりましても審議はわりあいに簡単に進んでおるわけです。しかし現在の国会を考えますと、あるいは法制審議会で時間をおかけになっただけ国会の審議期間を要するかもわからぬ。そういうことを考えてまいりますと、全般的にもう一ぺんわれわれは反省して、考え直してみなければならぬのじゃなかろうか、そういう趣旨のことを申し上げたのです。
  94. 安井吉典

    安井委員 それじゃ具体的にどうするというお考えは、いまお持ちじゃないんですか。
  95. 前尾繁三郎

    前尾国務大臣 これはもう法務省あげて検討してもらいたいというんで、法務省全体の各局長にそういう趣旨を申して検討をしてもらうことにしております。
  96. 安井吉典

    安井委員 非常に長期にわたる審議だということで、一番基礎になっているのは、昭和十六年の旧憲法時代の改正刑法であるわけですから、まさに前時代的なものの基礎の上に立って、それをああでもない、こうでもないとやっているうちに、いろんな別な要素も加わってきていることは確かでありますけれども、だから長期の審議のうちに、いまの時代に全く合わないものも残っているし、それから非常に新しいものもどんどん加わってきている。そういう非常に奇妙なものになってきているのではないかというふうな気もいたします。そして商法の問題だって、国会に出されて国会をすらすらと通るような情勢でないのは、法務省自身おわかりのとおりだと思います。  ですから、そういうふうな情勢の中で——むしろ現在の草案の中にもとるべき点はあるんですよ。私どもが見ても、これはいいじゃないかと思うような面もないわけじゃないですよ。だから、そういうふうに全体的なコンセンサスのできそうな部分だけを取り上げて、その部分だけでも改正の方向に持っていくというふうなことも必要ではないか。全部ができ上がってからというふうになったら、これはいつのことやらわけがわからぬということではないかと思います。そんなものに意見が全部一致して、国会でも意見が完全に一致するなんてことは、なかなか期待しがたいのではないかと思います。ですから、とるべき点をとりあえず実行に移していくというふうな考え方も必要ではないか、こう思うわけです。私は法務委員会の本来の委員でもないし、あまり勉強したことはありませんけれども、今度の法律をいろいろ読んでみると、何かつくづくそんな気がしてくるわけであります。今度の法律そのものに直接関係があるわけじゃありませんけれども、刑法体系全体の問題について、そういうふうな感じがしてまいります。その点、大臣いかがですか。
  97. 前尾繁三郎

    前尾国務大臣 まあこういうことを申し上げていいか悪いかわかりませんが、あなたと同様な考えを私は持ったわけで、そういうことを内心思っておるわけです。でありまするから、文章を直すとともに、当然だれが見ても直すべきところは直していくということをまずやるべきではなかろうかということを、まあ私みずからもやはり法務行政について全くのしろうとでありますが、あなたと同様な考え方を持ったわけであります。
  98. 安井吉典

    安井委員 コンセンサスというと、これは程度の問題もあるし、どの辺がコンセンサスかということはなかなかたいへんだと思いますけれども、一応大臣のそういうお考えを伺ったわけでありますが、これからの刑法問題をもう少しよりよい姿に結論を進めていくための、いまおっしゃったのは一つの有力な手がかりになるのではないかと思いますので、そういうようなこともひとつ御検討願いたいと思います。  そしてまた、きょう私いろいろな角度から問題を指摘いたしましたが、それらの問題について、この審議が完全に終わりますまでに、もう少し詰めていただきたい。これは政府当局にも委員長にもその点お願いをして、これで終わります。
  99. 大竹太郎

    ○大竹委員長代理 次回は、来たる二十三日午前十時理事会、午前十時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後零時二十一分散会