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藤木参考人 ただいま御指名にあずかりました
藤木でございます。
火炎びんの
使用等の
処罰に関する
法律案につきまして、
意見を述べるよう仰せつかって参上いたしました次第でございますが、何ぶんわずか三カ条の条文とは申せ、なかなかむずかしい
論点を含んでおりまして、特にこの現実の
火炎びんの
使用状況がいかがなものであり、はたしてどのような
立法措置が必要であるかということにつきましては、私どもたまたま目撃したことのある限られた事例以外には、もっぱら
新聞報道その他に基づいて知るほかはございませんで、そのようなことで
資料を十分に持ち合わせていないというようなことから、短時間の間に最終的な賛否の
意見をまとめるということは、なかなかむずかしいという事情もございます。
そこで、本日のところは、さしあたり、この
法案が成立した場合に一体どのような
運用がなされることになるであろうかという点を想像いたしました上で、問題であろうかと思われる点を御指摘申し上げることでお許し願いたいと思う次第でございます。
一応の
考え方といたしましては、この種の
立法をすること
自体は不必要であるとは申せないように思われますが、具体的な
内容につきましては、特に
三条のところでございますが、刑の重さの点と、
三条二項の
定め方の点につきましては、いろいろ
疑問点もあると感ぜられる次第でございますので、この点について特に慎重に御考慮いただきたいとお願いしたい次第でございます。この点を
中心にして若干の
意見にわたる
部分について申し述べさせていただきます。
まず、
法案全体のうち第一条でございますが、
火災びんの
定義規定につきましては、ほぼ明確に定められ、問題は比較的少ないように思われます。
また、第二条でございますが、これもどうも新しい
犯罪類型ではございますけれども、現在の
法律で
処罰されていない
行為が新たに
処罰されるということでは必ずしもないように思われます。まあ
罰則が整備されたということでございまして、特に深刻な
論点というものはないように拝見いたします。
ただ、
未遂の
規定について、特に
物件に対する
放火の点は、この現在の
刑法では
未遂を
処罰していないということとの均衡上、若干
問題点がないわけではございません。しかし、
火災びんを人や住宅あるいは車両などに向かって投げて不発に終わったというような場合を
考えますと、これは人の
生命、
身体に危害を及ぼす
意図で投げられたものでありまして、
暴力行為処罰法一条ノ二でございますか、この
凶器による傷害の
未遂の
規定などと比較いたしまして、必ずしも出過ぎた
規定であるとは
考えられないように見受けられるわけでございます。
問題は第
三条であります。第
三条は、
現行法に比べまして
処罰される
行為の
範囲が非常に大幅に広がっているわけでございます。
まず、第一項でございますが、
火炎びんの
所持そのものが
処罰されることになります。これは、
現行法では
凶器準備集合罪という
規定がございまするので、二人以上の者で
火炎びんを
所持しているという場合には、これは
現行法でも
処罰されることになっているわけでありますが、一人で持っていたという場合は
現行法から漏れる
可能性がございます。これは
殺人予備とかあるいは
放火予備などの
規定でまかなわれる
可能性もございますが、
放火の
意思ではなく、たとえば人に向かって投げるという
意思で、しかも別に
殺人の
意思なしに持っていたという場合には、これは
放火予備罪からも
殺人予備罪からも漏れますので、この点が、第
三条第一項で新しく設けられた
規定が、
処罰の
範囲を広げた典型的な場合ということになるかと思います。
それから第二項では、半
製品と申しますかあるいは
中間製品と申しますか、こういった
火炎びんに至らざる、
火炎びんとなる途中にある
段階の
物件の
所持が
処罰されることになるわけでありまして、これもかなりの
範囲において
処罰の
対象が広がることになるわけであります。
全体を拝見いたしまして、特にこの
法案の
重点が第
三条、とりわけ第二項にあるように承るわけでございますが、この
法律のおもなねらいは、そういった
規定の趣旨からいたしまして、
火炎びんの
事前の
取り締まりということに
重点があるように拝見するわけでございます。
そこで、この
規定の
当否、必要か不必要か、あるいは何らかの
規定を置くとすればどのように
考えるかということを検討いたします場合には、
事前抑制を強化するものであるというこの
規定の
性格からいたしまして、主としてその
当否を判断すべきであるということになろうかと思われます。確かに
事務局からちょうだいいたしました
資料を拝見いたしまして、
火炎びんによります人身や
物件に対する
被害というのは、これは相当な件数にのぼっているように見えます。そこで、このような
被害を防止するためには、どうしても
火炎びんが投げられるより前に所要の
措置を講ずる必要があるということは、これは一応納得できることでありましょう。
その点から
考えまして、第一項におきまして、でき上がった
火炎びんを
所持していることを禁止する。つまり
現行法では、二人以上で
所持していれば
処罰の
対象となるというものを、単独で
所持していても
処罰の
対象とするという
規定を設けておりますことは、これは刑をどのくらいにするのが適切かということは、あとで若干の
論点として申し上げますが、その点を別といたしまして、この際積極的にこれに異論を唱える
性質のものではないように思われるわけでございます。
しかし、第
三条の二項に定められました「
火炎びんの
製造の用に供する
目的で、
ガラスびんその他の
容器に
ガソリン、
燈油その他引火しやすい
物質を入れた物を
所持した者も、」
火炎びんの
所持と同じ刑で罰する。この
規定については、この
規定が実際上
運用された場合の
対象とされる
範囲というものが、必ずしも明確ではないと思われる点がございまして、この点が特に重要な
論点になるのではないかと存ずるわけでございます。
そこで、このような問題を
考えます場合の基本的な
考え方といたしましては、これは実質的な
加害行為が行なわれる前の
予備段階の
行為を
犯罪として罰するということでありますが、この種の
規定のおもな
役割りというものは、犯人に対して逮捕した上
裁判にかけて刑を言い渡すという面、これはもちろんでございますけれども、それよりもさらに、
犯罪を
事前防止するための
警察の
活動の有力な
法律上の根拠になるという点が強いわけでございます。したがって、
三条二項を
考えていきます場合には、
事件が
裁判所に持ち込まれたならば、
裁判所は一体どのような
解釈、
運用をするであろうかという問題を
考えることの必要であることはもちろんでございますが、
警察の
段階で、たとえば検問をして
凶器の検索を行なうとか、あるいは別の
事件の令状に基づいて
家宅捜索をしたという場合に、たまたまこの種のものが発見されたという場合にどう扱われるであろうか、こういった場面でこの条項がどのように
運用されることになるであろうかという点を、多少
考えておく必要もあろうかと思います。
この
事前抑制の
活動を強化することは、確かに
犯罪の
事前予防の上では非常に重要なことであります。非常に有効な手段でもあります。しかし他方、ちょうど非常にきき目の強い薬にかなり強い
副作用があるというのと同様に、社会的な
副作用というものが起こる
可能性は、これは
罰則というものには常に存在するわけであります。そこで、
犯罪の
事前防止の方策を
考える場合には、特にきき目のある薬を
考えます場合には、同時にその際の社会的な
副作用が
最小限度にとどまるような配慮をすることが、どうしても必要になるのではないかと思われるわけであります。
ここで、それじゃどういう社会的な
副作用というものが
考えられるかということでありますが、やはり一番重要な事柄は、この種の
事前防止の
法律を実際に
運用することによって、
法律を守る善良な
一般国民が巻き添えにされる、そして著しい不愉快あるいは不便な目にあうというようなことができるだけないようにしなければならない、こういうことであろうかと思われます。これは単に
国民の権利が害せられるというだけのことではありませんで、本来ならば法と秩序の維持に進んで協力しようと
考えております
一般の
国民に対しまして、かえって法の
運用のしかたに対する反感を引き起こして、協力的な
態度、これを阻害するというような面もあるわけでございます。
こういった点から、
三条二項の
規定の
定め方については、こういった
マイナス面をできるだけなくすような、そしてその
規定が不安なく
運用されるというような
性格のものになり得ることが、やはり必要ではなかろうかと
考えられるわけでございます。
それで、どのような点に
三条二項に
問題点があるかと申しますと、これはこの
法律案の
提案理由説明書にも述べられてございますが、
ガソリンにいたしましても、
灯油にいたしましても、また
ガラスびんにいたしましても、その他の
容器といわれるものにいたしましても、いずれも
国民の
日常生活上普通の形で使われているものであります。積極的に業務上必要だという場合もございますし、家庭の日常の生活上必要な
物件として使われているということもございます。そこで一歩拡大
適用されることになりますと、こういった
犯罪と何のかかわりもないようなこの種の
物件の
所持について、相当きびしい当局の
一種の取り調べ的な
行為が行なわれるという
可能性が生じないでもない。そのような
可能性をできるだけなくすようなきめ方が必要である、こう思われるわけでございますが、もちろんこの条文におきましても、
目的という面から一応のしぼりをかけてございます。その点、御提案になりました諸先生、いろいろ御苦心のおありのことと存じまして、敬意を表するのにやぶさかではございません。
ところが、
目的ということによってしぼりがかかるかどうかという点になりますと、やや問題がございます。
目的によるしぼりと申しますと、これは
最後に
裁判になって有罪か無罪かを争う
段階になりますと、
裁判ではこれは多数の証拠が出されまして、慎重な審理の結果そのような結論が出されるわけでございますから、したがって、
目的によるしぼりというものは相当有効に働く、こう
考えてよろしいかと思います。しかし、たとえば
警察活動の検問の場面とかあるいは捜索の場面で、たまたま発見されたものに対する処理ということにつきましては、これは事柄の
性質上、どうしても現場にあります
警察官がとっさの判断で処置しなければならないという
性格のものでございます。したがって、とっさの判断でありますだけに、いかに当該の
警察の方が慎重に行動されたとしましても、いろいろあとになってみれば相当の思い違いがあったということは、どうしても避けることができないように思われます。そのため、たまたま、何ら
犯罪の
意図もない、ある意味では法の執行に協力するような心がまえを持っていた
一般市民が、
犯罪の被疑者として相当長い職務
質問にあうとか、あるいは任意同行されるとか、あるいは場合によっては現行犯として逮捕されるというような事態が起こらないようにしなければならないわけであります。
特に、このような
問題点が生じ得る余地は、第
三条の二項の
容器につきまして、
限定がはっきりしていないことから起こるのではないかと思われます。
三条二項の
容器には特別の
限定がございませんから、
灯油や
ガソリンを入れた
石油かんも、これもここにいう
容器の中に入るように
解釈されるわけであります。極端に拡張いたしますと、自動車そのものも
ガソリンタンクの中に相当量の
ガソリンを入れているわけでございますから、これもやはり
ガソリンを入れる
容器だ、こういう
解釈も
三条二項の条文のままではあり得ないことではございません。
そこで、たとえば、これは多少極端な例で、まさかそういうことはないだろうとは思いますけれども、あるアパートに近所づき合いのわりあい悪い夫婦者がいた、あるいはひとり者が住んでいた。その人は非常に善良な市民でありますけれども、しょっちゅう留守をしている。そこで、たまたま管理人が留守中に届けられた荷物を部屋へ運ぼうということで部屋の中に入ってみたところが、そこにコカコーラのあきびんが何本かと
灯油かんが置いてあったという事態を想像してみますと、この場合、
三条二項の
規定がコカコーラびんに
灯油が入っていたという場合を罰するということであるならば、そういう問題は起きませんけれども、コカコーラのびんと
灯油かんが見つかったという場合に、
灯油かんそのものが
容器だという
解釈もあり得るわけでございます。その上に、コカコーラびんがそこにころがっているということは、そのコカコーラびんをもとにして
火炎びんをつくる
目的があったとその場で認定する
一つの情況証拠ということにもなります。そうなりますと、いまのような場合に、
石油かんとコカコーラびんが何本か見つかったということで、直ちに
家宅捜索が行なわれるとか、あるいはたまたま帰ってきた人に対して職務
質問とか、あるいは任意同行が求められるというようなことも起こり得るわけでございます。もちろんこういう場面に遭遇した方は、間違っても
犯罪者として
処罰されることはよもやあるまいかと思いますけれども、しかし、事情が明らかになるまでの間に相当不愉快な目にあうようなことになる
可能性もあるわけでございます。
それから自動車の場合も、たとえば自動車の中にあきびんが相当入っている、ほかに
ガソリンは何ひとつないという場合でありましても、自動車の
ガソリンタンクの
ガソリンが
火炎びんの材料であり、自動車そのものが
一つの
容器であり、そこに置かれておりますびんが
火炎びんを
製造するという
目的の情況証拠というような判断をかりにもされるようなことになりますと、その場でその自動車を運転していた人が、
三条二項の現行犯で逮捕されるとか、あるいは任意同行を求められるとかということが、理論的には
考えられないわけではございません。もとより当局がこのような
解釈をなさることがあるとは、よもや想像されませんけれども、現場の状況次第で、非常に緊迫した状況のもとでは、絶無とは言いがたいことかと思います。
そのほか、たとえば登山、キャンプその他に出かけますグループが、相当大量の油と
容器を持って歩くということはしょっちゅうあることでございます。そういった意味で——もちろんこの不法
行為をする者が、そのようなグループを仮装して物を運ぶという
可能性も当然ございますけれども、しかし、そのような外観を呈する大多数の人々は、
法律を守る善良な
国民である場合が大半ではなかろうかと思われるわけでございます。
そういうような点を
考えますと、この案の
三条二項そのままに
運用されます場合には、これは
取り締まりのほうからは非常に便利でございますけれども、このままでは善良な、法を守る
一般国民を巻き添えにして、かえってこの
取り締まりに対する反感を増大させるというようなこともあり得ないわけではございません。したがって、
火炎びんの半
製品の
取り締まりをすることについては、その
必要性の有無をやはり具体的な事情、具体的な事例などをもとにして、どうしても必要かどうか、いろいろ検討する必要があるように思われますし、また、かりにこの種の
規定がどうしても必要であるという結論に達するといたしますならば、いま申しましたような、
国民一般に不安を及ぼさないような、客観的な歯どめになるような
規定を置く必要があるように思われます。つまり、若干の一くふう必要ではなかろうかと思われるわけでございます。
具体的に申しますと、
目的というしぼりでは十分ではございませんで、
容器のほうに何らかのしぼりをかけたほうがよろしいのではないかと
考えるわけでございます。たとえばその
容器、
ガソリンなどを入れた
容器自体が、必要な
点火装置を施せばすぐに
火炎びんとして使える
性質のものであるというような場合、たとえば
灯油かんというものはその場合の
容器ではない、
ガラスびんその他直ちに
火炎びんとして投げることのできるような
容器だけが、この
三条二項の
容器に当たるということがはっきりわかるような
規定にする必要があるのではないか。まあ、この条文の具体的な条文については、これまたなかなか表現がむずかしいように思われますが、たとえば、
発火装置または
点火装置を施すのみで直ちに
火炎びんとして
使用することのできる
容器というようなしぼり方もあろうかと思われますし、直ちに投てきすることのできるような
容器に
ガソリンを入れて持っていたというような趣旨に改めることも一案かと思いますが、そのような点についてもし御考慮いただけるならば、いま申しましたような不都合はおおむね避けられるのではないかという感想でございます。
なお、そのほか別のこまかな点にもわたるかと思いますが、刑の点でございます。
三条一項、二項の刑の点は、
刑法の
殺人予備、
放火予備あるいは
凶器準備集合等、
現行法でも何らかの意味で関係のありそうな
規定、これは
懲役二年が最高限でございます。これを三年に上げているという点は、他の
犯罪の刑との均衡、特に予備罪的な
性格を持っているということの刑との均衡からいたしまして、いかがなものであろうかという
印象でございます。
以上、いろいろ
意見を申し述べましたが、何ぶん
資料不足のことであり、全体といたしまして最終的にこうすべきであるというほどの断定に至る
意見を申し述べることができない状態でございますけれども、この程度でありましても、いささかなりとも御
参考になることがございまするならば幸いに存じます。(拍手)