○
田上参考人 田上でございます。時間の
関係で簡単に
意見を申し上げたいと思います。
まず、第一の、
条文で申しますと第二条のところでございまして、
先ほども
古賀参考人からお話がありましたが、
警備業の本質、あるいは種類というか、
目的がどこにあるかということでありまして、たとえば御
指摘のあった一項四号に「人の
身体に対する危害の
発生を、その
身辺において警戒し、防止する
業務」というふうなことがあがっておりますが、確かに、この中には、
警察法の第二条にある「
警察の
責務」の中に含まれておることがかなり入っておると思うのでございます。その場合に問題になりますのは、
警備業法のほうでは、従来は
警察官の
職務とはなはだ似ておりましたけれ
ども、この際はできるだけこれを区別しようという方向にあると見るのでございます。そこに
立法の大きな
趣旨がある。たとえば、
服装の点においても、
一般の
世間の人が容易に本来の
警察官と
警備員と区別が、識別ができるようにしようということがねらいでございますし、あわせて、
法案の第八条のほうでは、
先ほども御
指摘がありましたが、
警備員は決して
警察官のような特別な
権限を持っているのではないとしております。つまり、言いかえますと、
一般の
市民と同じ
程度のことしかできない。
市民に自由にできることは
警備員としても一応認められるけれ
ども、
一般の
市民に認められないような
行動をとることは
警備員としてすべて許されない。これは
先ほども御
指摘がございましたが、ある
意味で当然のことでございます。大体、全体として見ますと、
警備業法というのは、
規定をしなくても当然と思われるようなことが
根本にあります。それくらいに
世間では誤解されている。あるいは、
警備員自体が、
服装やいろいろな
事情もございましょうが、何か、
権力意識をもって
権力を乱用するような心境にあるようでございます。一
がいに言えませんけれ
ども、そういう
傾向が見受けられる。そして、かなり不法な
事態が御
指摘のようにあるものでありますから、そういう
意味で、当然のことを注意的に
規定する必要がある。当然でありますけれ
ども、なおこれを明確にしなければならない。ここに大きな
立法の
趣旨があると
考えるのでございます。
でありまするから、そのことは、もう一度第二条に戻りますと、
警察が本来すべきことでありますが、さて、この
警備員を
民間の
団体で
契約によって依頼する。
警備を依頼するということは、これまた
一般の
市民として、ある
意味では自由にできることである。
根本は、特に、第二条一項の四号でありますと、
一種の
正当防衛とかのような
考え方があると思いまして、その
意味では、われわれ
一般市民として、自分の
生命、
身体に危険を感ずる者が
警備員に依頼して守ってもらうということは当然にできる。かように見るのでございます。
警備員のほうも同様である。でありますから、この
警備業法の第二条に列挙されておりますような
内容は、実は、当然
市民の
社会生活において許されることである。しかし、これをただ自由に放任いたしますと、非常な
弊害が現実に
発生している。そこで、当然できることを、そういう不祥な
事態をなくすためにきびしく取り締まっていく。そこにこの
法律の
趣旨があると思うのでございます。
した
がいまして、たとえば
政府のほう、
官庁方面で、特に
警備員によって
警備を依頼するというようなことになりますと、これはやはり
警察の本来
責務に属することでありますから、
警察法と矛盾いたします。けれ
ども、
民間の
団体が、あるいは一部極端な例は、
警察アレルギーのような
傾向もございますから、本来
警察官に依頼すべきことを、それは好ましくないと
考えて、
警備業のほうによって
身辺の
保護を求めるということを一
がいに
禁止する
理由はないと私は思うのであります。
要点は、だから、そういうことによって生ずる
弊害をできるだけ防止するということでありまして、正面から
法律で
禁止するということは、ある
意味で、
憲法の保障する
職業選択の自由あるいは
営業の自由と申しますか、これを規制することでありますから、その面から申しますと、やはり、
公共の福祉ということから、一体どの
程度まで許されるかという問題がございます。
私の
考えでは、この
法律は適正な
実施が
目的でありますから、そこで、いまの八条とか九条にあります乱用の
禁止あるいは
服装などについて、誤解、錯誤の生じないようにつとめること、
教育あるいは
資格の
制限という点において従来の欠点を極力是正していくことが必要でありまして、この場合に、繰り返し申し上げますが、八条にも明記されておるように、
警備員は
警察官にかわるものではない。
いろいろ御
指摘があったと思いますが、これは、
法律によって、特に
警備員の
職務について公認したというふうには
考えないのでございます。むしろ、
弊害を除去する
意味で規制を加えているだけであって、公的な性格を与えてはいない。したがって、
警備員の行なう
職務は警職法の
適用はなく、わずかに
正当防衛、
緊急避難の場合の
行動にすぎないという取り扱いも一応あるようでございますが、これは
一般の
市民に当然認められた
行動であって、
生命を守るということ、あるいは他人の
生命を守るということも含めまして、むしろ、人民から奪うことのできない
一種の自然権的なものでございます。
その他、あまり問題はないと思いますが、
警備の中で、
交通事故などの
発生を警戒するとか、あるいは盗難の
事故などの
発生を警戒するというふうなことでありますと、これは当然のことと思うのでございます。むろん、
警察に
警備を依頼するということも本筋かと思いまするけれ
ども、だからといって、
民間人、
民間の
団体が
警備業のほうに依願することを
禁止するということは、法的に見てちょっと不可能だと思うのでございます。
そこで、第
三条の「
欠格事由」というのがございますが、この
欠格事由もきびしく
考えるべきでありまして、大体、
犯罪の前科のあるような人に対して
警備を依頼するということは、
一般の
市民にとってははなはだ危険なことでございます。それによって窃盗を防止する
意味で、むしろ逆に
警備員によって財物を窃取されるような
事態も起こり得るからでございますが、ただ、この場合にも
欠格事由をきびしくしまして、当然にそういう――あるいは
先ほど御
指摘がありました
禁錮以上の刑に処せられた者、あるいはそれよりもっと範囲を広げるという案もございますが、しかし、これをきびしくいたしますと、そこにやはり問題があって、
憲法の平等の
原則ということから見てどういうものか。たとえば、御
承知の
選挙権などを
考えますと、
懲役、
禁錮等かなりきびしい
刑罰を受けた者でありましても、刑の
執行を終わった者、あるいは
執行猶予の
期間が過ぎてしまったような者については一応
復権の
手続を必要としない。公選法に
違反した場合には、なおその場合に
復権の
手続を要するのでありますが、
一般の法令によって処罰された場合にはそれすらもない。
懲役、
禁錮の刑に処せられた苦であっても、この
執行を終わりますと、一応
選挙権が回復されるのでございます。従来、旧
憲法時代には、
公権停止とか
公権剥奪というような
考えがございまして、六年以上の
懲役になった所は、
復権手続をとらない限りは、何年たっても
選挙権なり被
選挙権が停止される、奪われてしまうというような
制度がございましたが、今日は、そこに多少の御
異論があるかと思いますが、平等ということから、できるだけ
国民を差別しないということで、私はこれは少々甘いと思いますけれ
ども、そういう
制度、そういう
選挙権などは、刑の
執行を終わった者については当然認められるということでございます。ここの、
法案の
三条では、三年間その
資格を認めないということでございますが、これは御
承知のように、質屋とか古物商の
常業の
取り締まりに関する
法律でございますとか、あるいは
道交法にもやや近い三年ということで、三年以内の
期間、一度
交通違反でもって
免許を取り消されたような着は、再度試験を受けて
免許されることは
法律で認めないようになっておりますが、そういうことから申しますと、私も、
先ほど古賀参考人がおっしゃったように、第
三条などはもっときびしくしてもよろしいと思うのでありますが、ただそれには一応の
限度がある。でありまするから、もう少しこれを広げるということならば
異論はございませんが、やはり、あまりきびしくするということは、昔は
考えていたけれ
ども、今日の法制では少しむずかしいんではないかという感じがするのでございます。
それから
要点を申し上げますと、もう
一つは第八条のところでございまして、ここでこういうことを書いても、どうもおざなりのことであって、あまり効果がないんではないか、もっときびしく、たとえば
罰則をここに当てはめるとか、あるいは
労働運動などを明示して、それを犯してはならないというふうに
規定したらどうかという御
意見を伺ったのでございます。ただ、
刑罰の点はあまりはっきり伺っておりませんが、もし、この八条
違反に直ちに
刑罰を科するということになりますと、やはり、
刑罰の理論として、
罪刑法定主義から申しますと、この
規定のしかたがかなりあいまいである。
犯罪構成要件を明確にしないと、罰せられる者の
人権を侵すおそれがある。
先ほどの
古賀参考人の御
意見に私がここで議論するのは不適当と思いまするが、ただ、
一般の
世間の
意見としてお伺いいたしますと、もっとこれをきびしくせよということは、いまの
労働権を守るとかいうような
意味においては当然でございますが、その反面に、規制される
関係の
業者あるいは
警備員の
立場の
人権というものがやはりあるわけでございますから、その
程度を
一般的に申すと、必要の
最小限度にとどめる。ことに、
刑罰を科することになりますと、これはもっと明確な
規定が必要であり、そこに、この
法律の
一つの
趣旨、
規定のしかたでありますが、たとえば、私、ちょっとふしぎに思いましたのは、
欠格事由に該当する者が実際に
警備業を営むことができるかどうか。できないと
三条に書いてありますが、実際は、やっておりますと、当局のほうでそのことがわかれば直ちに
営業の廃止を命ずるという第十五条の
規定になるようでございますが、そして、その廃止あるいは
営業停止などに応じないときに初めておしまいの
罰則によって処断される。だから、第
三条違反だけでは
刑罰を受けないというふうになっております。
でありまするから、大体、この
法律は、そういう、実体的な
規定に
違反して
資格がないということから直ちに
刑罰とはこないのでありまして、一応そこに、
資格のない、
欠格事由に該当するということについて、行政当局の認定を入れまして、その認定に
違反したときに初めて
刑罰という手順を踏んでいるようでございます。こういうことははなはだ手ぬるいという感じもいたしますけれ
ども、はたして、具体的に、
法律三条なら
三条違反ということが裁判官によってすぐに認定してよいものかどうか。まず、その前に、あるいは検察官が起訴するということがあってよいかと申しますと、まず、行政当局の判断によって正式に
違反ということをきめてもらう。それから、それになお従わないときに初めて
刑罰、それくらいにいまここでは、一応の
法律の
立法の
趣旨は、
刑罰を科することあるいは
一般に規制を加えることについて慎重な態度をとっているというふうに見られるのでございます。この
考え方は、むろん
程度問題でありますが、一
がいに非難はできない。ある
程度この
法案をもう少しきびしくするということならば私も
考えられますが、一応行政出局の判断を中に入れないで直ちに規制するということは、規制される者の
人権に対してどうもきびし過ぎるのではないかと
一般的に思うのでございます。
それからもう
一つ。時間がございませんが、十条の「
護身用具」の点を簡単に申し上げたいと思います。
これは一項のほうを見ますると「法令の
規定により
禁止されているものを除き、」というふうにございます。だから、ここでも、
先ほどの八条で申し上げたように、当然のことを
規定している。
一般市民として行なえることであり、あるいは、自分の身を守るための必要なものを
警備員においても携帯することができる。かように思うのでございまして、いわゆる武器となりまして、たとえば銃刀法が
適用されるような武器の場合には
一般市民に
禁止されておりますから、むろん
警備員も許されない。また、かりに
警棒のようなものでありますと、直接銃砲刀剣ではございませんが、これも軽
犯罪法によってある
程度の規制は加えられまするし、もし、それを使って、いわゆる実力の行使、規則を加えることになりますと、そこに警職法との
関係がありまして、普通の人のようなことしかできない。
警察官にならっての武器の使用にあたるような
行動はできない。そこにきびしい規制が加えられますから、少なくとも、武器を、この
法律によって、
警備員が
警察官と同じように行使するというようなことはとうてい
考えられない。むしろ、その点の誤解を避ける
意味で明確に
規定を設けたと思うのでございます。もちろん、十条では、第二項がもう
一つありまして、
一般の
市民としては持てるものであっても、あるいは近ごろのヘルメットの学生が持っておるようなものでありましても、特に
警備員につきましては、必要があれば、
公安委員会のほうが認めまして、その携帯を
禁止することができる。そうなりますと、たとえばたてでありますとか
警棒あたりが問題だと思いますが、必要があると認めて、かえって、そういうものを
警備員が持つことは危険であると
考えれば、
公安委員会のほうで
禁止または
制限できる。かように
一つ制限がかかっておりますから、
一般市民でできることであっても当然には許さないということになっておりまして、
法規的には、これで一応
警備員の
行動から生ずる危害を防ぐことはできるのではないかと思うのでございます。
繰り返して申し上げますと、このような八条とか十条の
規定、さらには初めの
警備員としての特別な権能というか、
権力は、何も法的に認められていない。そして、もう
一つは、
警備業というものは、普通のいわゆる公
企業とか、特許
企業とか、あるいは国が
保護する
公共的な事業のように、国の
保護は何も用意されていないのでありまして、むしろ
企業にとってはマイナスの面だけで、
制限を加え、規制を加えるだけでありまして、そういう
意味におきましては、
企業の性格は公的なものとは認められない。むしろ私的な
業務であり、しかもそれは、どちらかというと、社会にマイナスの面がかなりある。そういう
意味のものとして、
民間企業として規制を加えるという態度でございますから、公認というふうなおことばもありますが、別に
法律が
警備業を特に公認したとも思いませんし、
民間の事業を特に
警察と同じレベルに格上げしているというふうにも思われないのでございます。
それから、もう
一つは、
先ほどの
労働争議との
関係のお話でございまして、これもまた
古賀参考人に対するお答えというわけではございませんが、私の
考えを申し上げますると、八条に関連してお話がございましたけれ
ども、
警備業の
目的は第二条で、かなり幅の広いものではないかと思うのでございます。しかし、実際はそんなところは第二条の四号が問題だということでございましょうが、この場合も、文字だけを見ますと、
身辺において危害の
発生を防止するということになっておりまするので、
労働争議に不当な弾圧を加える、いわゆる介入をするために
警備業がもし使われるとすれば、これは明らかに
制度の乱用であり、きびしく非難されるべきものでございますが、しかし、おそらく、具体的になりますと
意見が分かれると思うのでございまして、たとえば会社のほうでは、何も
労働争議の弾圧ではなくて、会社のほうの役員の
生命を守るためであるという理屈をつけることができるかと思うのでございます。
生命を守る。
生命、
身体の安全ということになりますと、これは、ある
意味で、
人権のほうから絶対なものでございますから、要は、
法律で抽象的に
規定することよりも、はたしてそれがどちらが真実であるのか、つまり主たる
目的が
争議の弾圧のほうにあるのか、あるいは文字どおり
身辺の
保護のほうにあるのかという具体的な認定を待って決定さるべきものであって、
法律の明文で、具体的な
事情を越えて、
一般に、
労働争議の場合に、
警備会社と経営君側とでもって
契約を結んではならないというふうに書いてしまいますと、少々これも行き過ぎがあるのではないか。つまり、具体的な
事情の裏づけがないときにもしいたしますと、逆手をとられるおそれがある。
法律の
規定は常に両面を
考えるわけでございまして、取り締まるほうの必要と、さらに
取り締まりを受ける者の
人権をどの
程度まで
制限できるか。私は
警備員を別に知っているわけではございませんが、
警備員のほうもやはり
職業選択の自由というものを主張する余地が十分ございます。
市民としてできることは当然にやってよいのではないかという言い分もあると思いまするので、それとの比較
検討をする必要がある。
先ほどの
護身用具などにつきましても、
警備員もやはり自分の
生命、
身体の安全を守る必要があるということも一方の理屈でござい出して、それを
一般に
禁止するということになりますと、これは逆に言えば、むしろ
一般市民との間の不当な差別をすることになるのじゃないか、平等の
原則に反するではないかという議論が他方で
考えられるのでございます。
そういう
意味におきまして、結局、この
労働争議の問題につきましては、私的自治として
一般市民が当然できる
一つの
民間業務を規制するということを
考え出すと、やはり、特別な
公共の福祉の必要がないと
法律的には
規定しにくい。その必要性というのは、常に
警備員を
経営者側で使いますと、それが必ず
労働争議に不当な干渉あるいは弾圧を加えることになるという、その点が明確になりませんと、そういう事例が多いというだけで直ちに
法規的につじつまが合うのかどうか。
法律に書きますと、今度は必ず逆の
立場から
憲法違反という議論も起こり得るわけでございまして、私の
考えは、要するに、
労働争議などにつきましては、具体的な場合に、
先ほどから御
指摘のあるような乱用のないように、あるいは
警察当局その他において、あるいは
労働省のほうできびしく監視していくということをお願いしたいのでございますが、
法律の
規定に書き込んでしまいますと、また抽象的な議論になりまして、具体的に必要の場合を越えて、なお、いかなる
意味においても、
労働争議中の会社は
警備員を絶対使ってはならないというところまで参りますと、あるいは会社の真意というか、あるいはそういう悪意をもって
警備員を頼んだのではないという場合のこともないとは言えない。つまり、会社側の人身
事故のようなものが多発するような場合には、常識的に
警備員を頼むことも
一つの行き方ではないかと、かように思うのでございます。
法律の中に入れることについては若干の疑問を持っているということを申し上げておきます。
それから、なお、その他の点では、時間もだいぶ過ぎたようでございいすが、十四条、十五条、十六条、このあたりは、
警備業に対する規制としてはまことにもっともな
規定だと思うのでございまして、「指示」は一番軽いものである。それから、やや悪質なものに対するきびしいものが「
営業の停止。」さらに、最後は十五条第二項にございますが、「
営業の廃止」。こういう段階をとっておりまして、法文の上でも「指示」など十四条によって処理できない場合に十五条。こういう段階をつけてございます。十五条で著しく適正な
実施が害されるおそれのある場合、そしてもう
一つは
営業の廃止の場合が一番きびしいのでございますが、これはある
意味で当然のことであって、
三条の
欠格事由に該当する場合でございますから、実は、念のために一応当局が認定を待って、それから
刑罰というふうに持っていくための
一つのクッションでございますから、この場合は、特に規制される者の、相手方の
立場を考慮する必要はない。
営業停止の場合、十五条一項でありますと、聴聞の
手続を要しますけれ
ども、二項のほうは、むしろ当然のことであって、十六条の
適用はないのでございます。こういう点も
法律はかなり比例
原則的な
考えを忠実に書きあらわしている。かように見るのでございます。
時間も参りましたので、なお御質問がございましたら、あとでお答え申し上げたいと思います。
以上をもって私の
意見の表明を終わります。(拍手)