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稲葉参考人 私は、
税制の
一般論議というよりも、特に最近
土地問題が深刻な課題であり、またこれをどのように
解決をしていくかということなしには、
日本の
経済の将来を前向きに考えるということがむずかしい、こういったようなことと
関連をいたしまして、
土地税制につきまして若干の
見解を表明させていただきたいと思います。
ちょうどいまから四年前に、
税制調査会で
土地税制部会が設置されまして、私、その
部会長にきせていただいたのでございますが、
答申をいたしました。そしてそれが
昭和四十四年度から
実施をされて現在に至っておるということは、
皆さま方御存じのとおりであります。そして必ずしも現在のような問題が過去になかったというわけではなくて、その後四十五年、四十六年と、
土地税制に対しまするいろいろな批判が起こってまいりました。そして、いまや私
たちは、そういったような
情勢を再
検討いたしまして、
一つは
土地税制の
臨時措置をやめるのかやめないのか、また、やめることによって
土地供給がふえ、そして
土地の
価格が安定するのかどうか、第二は、
土地税制を一応
臨時措置の
期間、つまり
昭和五十年度まで
実施をしていく、しかしそれと並行いたしまして、その他の
税制措置もしくは
土地政策そのものをもっと全体的に再
検討して
実施をしていくのか、このようなことにつきまして、さらに根本的に再
検討をしていかねばならぬときに来ているのではないかと思います。
そこで、最近の事態を
中心にして申し上げますと、
個人の
譲渡所得につきまして、段階的にいまのような
措置をとっていくのが、はたして
土地の
価格を安くしていく、また
土地の
供給、特に
住宅用の
土地を
供給していくということに対して
プラスになるのかどうか、こういう点が第一だと思うのでございますけれども、それについては次のように私は考えているということを申し上げたいのであります。
実は問題は、私
たちが
土地税制について
審議をいたしまするときにも起こった問題でございますが、
税制だけで
土地の
供給をふやしたり、また
価格を引き下げたりするということはなかなかむずかしい。むしろ
税制は総合的な
一貫政策として運用されなければその
目的を達し得られない。そのような
考え方は私は現在にも当てはまるのではなかろうかと思っております。
第二に申し上げたいことは、
土地の
供給をふやしていく、そしてそれによりまして
間接に
価格の
上昇を
抑制していくということを、
税制的にどのように援護していくか、こういうことが問題になりましたときに、実は二つの点につきまして、大きな
見方、
考え方の相違がございました。その
一つは、
土地供給を増加せしめるために、
一定期間譲渡所得を軽くして
土地供給をふやしていくという
条件をつくっていく。さらにもう
一つは、利用されていない
土地に対しまして、
臨時にまたは恒久的に、強い税金をかけて、そして
土地を利用せしめるような
条件をつくっていく。このようなことに対して、一体どちらが有効か、またどちらが実行可能かという問題でございました。これにつきましては、前者的な
考え方というものが採用されて現在に至っております。それによりまして、あとで申し上げますようにいろいろ問題が起こっているという事実は否定できないのでございますけれども、そこから申し上げたい点は、確かに
土地の
供給はそのことによってふえているという
要素を、どのように私
たちは認識をすべきかどうかということが、今後について重要な点だと思っております。
もう
一つ起こっておりました問題は、
法人による
土地の
売却益、また
値上がりということにつきまして、
個人の場合とどのように
均衡をしていくのか、また、
一般法人税制との
関連をどのようにしていくのか、さらに、
法人の中には、
デベロッパーという、
土地を
取得してそれを利用せしめるということに対しまして、専業的におやりになるところと、今度はそうでない、むしろ
土地の
値上がりというものを前提にして
土地を保有しているといったようなところと、二種類に分かれるわけでございますけれども、そういったような両者に対しまして、どのような
措置をとるべきか、こういうことが起こってまいりました。そして私
たちは、当時の
事情から申しまして、
個人との
均衡あるいは
一般法人との
均衡がまたなかなか
実態をつかみ得られないといったようなことから申しまして、
法人の
土地の
売却ということに対する
プラスについて、特別の
土地の
取得に対する
税制をここで打ち立てるということは、むしろ本来の
目的である
土地の
供給をふやしていく、また
価格の
値上がりを直接
間接に
抑制をするということに対しましてはあまり大きな
効果を発揮できないのではなかろうか、このような
見方、
考え方に立って
答申を申し上げ、あまりこまかい
説明はできませんですがそれが現在まで実行されている次第でございます。
私はここで、やはり
日本の
土地政策全体を考えましてどのような態度をこれからすべきかということについて、
税制をも含めまして再
検討する、こういったようなことに対しましてやはりもっと前向きの
体制がとられるということを切望いたします。しかし、申し上げたいことは、一部にいわれておりまするように、ただこの
税制をなくしてしまうということによって、はたしてそういう
効果が期待できるのかどうかということにつきましては、実は疑問を持たざるを得ないということを申し上げたいのであります。
そのような
観点からいたしまして、第一に私の
皆さま方に御
検討をわずらわしたい点は、やはり
土地問題の
重要性、こういうものがますます真剣にかつ深刻にこれからの
日本の
経済を左右する大きな
要素である、こういったような
観点に立ちまして、もっと
日本全体の
土地の
あり方、また
住宅用の
土地の
供給ということについてどのような
措置をとるか、こういうことにつきまして
政府各省におかれましてもっと前向きの
措置がとられるということを切望いたします。
第二に、税の面におきまして私
たちが感じますることは、こういう
譲渡所得に対しまする
臨時措置と並行いたしまして、私
たちはそれと並行して
保有課税をどのようにしていくのか、
固定資産税の
評価がえをどのように実効的にしていくのか、さらにそのほかの
土地の
評価と
公示制度といったようなものを全体的にどのように早く大きく普及をしていくのか、また
都市計画税といったような操作によりまして、全体の
土地の利用といったようなことに対しましての
財源をどのように確保していくのか、こういったような
措置が並行的にとられないと、この
部門におきましてやや不
均衡ということが生じておりましても、
土地の
供給はふえないし、
地価は安定しないし、
供給がふえたといたしましても、それが
住宅用の
土地にならないといったようなことになっておりますので、まず
皆さま方の間におかれまして、税の間のバランス、特に
保有課税をどのように
推進をしていくのか、それからさらに懸案になっております農地の
固定資産の問題をどのようにしていくのか、また自治省がお引き受けになっている
公示制度というものを早く確立して、それをやはり
一つの権威のあるものにし、また
社会の変遷に応じて三年、少なくとも五年
目ごとにはそういったような
地価の
推移を明らかにしていく、こういうことに対しまして前向きの
措置というものを進めていただきたいと思います。
その次に提示をしたい問題といたしましては、
法人の
土地入手の
一定歩合というものを
住宅用に提供させるということに対しまして、
税制とは別途何らかの
措置をひとつとるということができないかどうかということであります。ことに最近の
事情を見ておりますと、
土地を売る人がだんだんできながら、またそれが
民間の
住宅用の
土地になっていない、こういうことからいたしますと、やはり投機的なことが進行しているという事実は明らかであります。またそれを、
実態を見きわめなければ適切な税が取りにくいということも事実でありますが、それがどうも私
たちが期待をするように進んでおりません。ですから、そういったようなことに対しましてもっと前進をしていく、こういったようなことをひとつ
推進をしていただきたいということであります。
さらにその次に申し上げたいことは、私は、
土地入手をしていく、また公的に
土地を手に入れてそれを活用するということに対しまして、もっと前向きの
措置がとられる必要があるのではないかということであります。まあ、
住宅建設ということにつきましては、ここ十数年以来
政府がいろいろな
措置を進めてこられました。しかしどうも肝心なことは
土地にあるだろうと考えますと、これはかりの
考え方でございますけれども、公共的な
土地の
入手をもっと多くしていく、そのようなことからいたしまして、住宅金融公庫だとか
日本住宅公団、こういったような
機能はむしろ
土地をいかに組織的に手に入れるか、こういうことにひとつ力を注いでいただいて、そして、むしろ
建設ということにつきましては
民間デベロッパーに対しましてそういったようなものをやらせていく、こういったようなことのほうがどうも望ましい、このように思う次第でございます。
そのような点から申しますと、いろいろな
見方、
考え方がございますけれども、私は悪名高い
土地税制臨時措置を取りまとめて、ここに
会長さんがおいでになりますけれども、
税制調査会に御
答申を申し上げ、それが
政府措置として
推進をされる、こういったようなことにお手伝いをきせていただいた
人間であり、また私自身は、そのようになりました結果、必ずしも最近ではないが、
稲葉さんようこんな
税制をつくったな、こういうことをたびたび言われてきた
人間でございますけれども、要はやはり
国民が必要な
土地を提供していく、また
価格の
上昇をでき得る限り
抑制をする、こういったような
観点に立ちますと、
譲渡所得を
中心にした、
個人的な
譲渡所得に対する
臨時的なことを
答申をしたこの
税制調査会の
見解が全的に間違っておったのではなくて、それと並行してとらるべき諸般の
政策が十分でなかったためにどうもその
趣旨が生かされなかった。できれば、むしろ
昭和五十年まではこういうことを
補完をして、いまほかの
措置を
補完をして、そしてやはり
土地をでき得る限り
供給をする、こういったようなことのために、そのほかの
税制とか
一般の
土地問題の
解決に対しまして、もっと
政府が真剣に取り組んでいただくという
体制をおとり願いたいということを申し上げたい次第でございます。