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1972-04-13 第68回国会 衆議院 公害対策並びに環境保全特別委員会科学技術振興対策特別委員会連合審査会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十七年四月十三日(木曜日)     午前十時三十二分開議  出席委員   公害対策並びに環境保全特別委員会    委員長 田中 武夫君    理事 始関 伊平君 理事 八田 貞義君    理事 林  義郎君 理事 山本 幸雄君    理事 島本 虎三君 理事 岡本 富夫君       久保田円次君    浜田 幸一君       村田敬次郎君    加藤 清二君       細谷 治嘉君    古寺  宏君       合沢  栄君    米原  昶君   科学技術振興対策特別委員会    委員長 渡部 一郎君    理事 木野 晴夫君 理事 佐々木義武君    理事 前田 正男君 理事 石川 次夫君       大石 八治君    井上 普方君       堂森 芳夫君    三木 喜夫君  出席政府委員         科学技術庁長官         官房長     井上  保君         科学技術庁研究         調整局長    千葉  博君         環境政務次官  小澤 太郎君         環境庁企画調整         局長      船後 正道君         環境庁大気保全         局長      山形 操六君         環境庁水質保全         局長      岡安  誠君  委員外出席者         参  考  人         (鐘淵化学工業         株式会社常務取         締役)     大橋 清男君         参  考  人         (三菱モンサン         ト化成株式会社         第三事業部長) 采野 純人君         参  考  人         (東京大学助         手)      宇井  純君         参  考  人         (東京歯科大学         教授)     上田 喜一君         参  考  人         (愛媛大学助教         授)      立川  涼君         参  考  人         (都立大学助         手)      磯野 直秀君     ————————————— 本日の会議に付した案件  公害対策並びに環境保全に関する件(ポリ塩化  ビフェニール汚染問題)      ————◇—————   〔田中公害対策並びに環境保全特別委員長、   委員長席に着く〕
  2. 田中武夫

    田中委員長 これより公害対策並びに環境保全特別委員会科学技術振興対策特別委員会連合審査会を開きます。  両委員長の協議により、私が委員長の職務を行ないます。  公害対策並びに環境保全に関する件、特にポリ塩化ビフェニール汚染問題について調査を進めます。  本日は、参考人として鐘淵化学工業株式会社常務取締役大橋清男君、三菱モンサント化成株式会社第三事業部長采野人君東京大学助手宇井純君、以上の方々の御出席をいただき、また、午後からは東京歯科大学教授上田喜一君、愛媛大学助教授立川涼君、都立大学助手磯野直秀君、以上の方々が御出席になります。  この際、委員長から参考人の皆さんに一言ごあいさつ申し上げます。  本日は、御多用中のところ本連合審査会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございました。  申すまでもなく、わが国の産業科学の進歩、技術の革新に伴って著しい発展を遂げ、国民の生活に寄与してまいりましたが、一方では、広く公害問題と自然環境破壊問題が起こり、国民健康被害及び生命への危険を招くことになりました。特に、化学製品等のはんらんする中でPCB汚染問題は、さきカネミ油症事件をはじめとして、各地において人体への被害を生じ、大きな社会問題となっておりますが、その対策については、急務でありながらいまだ未知の分野も多いとされている状態であります。当連合審査会におきましても、参考人各位から貴重な御意見を承り、もって本問題の対策に万全を期する所存であります。つきましては、忌憚のない御意見をお述べいただくようお願い申し上げます。  なお、議事の整理上、御意見の開陳はおのおの十五分以内といたしまして、あと委員の質疑にお答えいただくようお願い申し上げます。発言の順位は委員長におまかせ願いたいと思います。  それでは大橋参考人からお願いをいたします。大橋参考人
  3. 大橋清男

    大橋参考人 私、鐘淵化学工業株式会社常務取締役化成事業部長大橋清男でございます。  ただいまから、世間一般でいわれておりますPCB、すなわち塩化ジフェニールに関しまして、当社の概況を御説明申し上げます。  当社は、昭和二十九年より、電機業界など関係各位PCB国産化への御要望を受けまして、自社技術でもって生産を開始いたしまして、以後産業界伸びとともに、生産の進捗に従いまして販売を行なってまいりました。  御承知のように、PCB不燃性合成油でございまして、電気的性質がよくて、熱安定性にすぐれていることによりまして、この用途といたしましては、不燃性トランス油コンデンサー油電気用熱媒体がおもなものでございます。すなわち、燃えないトランス油として、ビルの地下トランスあるいは電力会社等変電所トランス及び国鉄あるいは私鉄の車両用トランスに使用され、またコンデンサー油といたしましては燃えない性質のほかに、コンデンサーを小型化できる特徴も持っておるのでございます。  昭和三十二年にPCBは、不燃性絶縁油としての国家規格といたしまして、日本工業規格JISの制定も行なわれております。  熱媒体と申しますのは、化学石油化学合成繊維等各種工業プラント間接加熱加熱媒体として使用されておりまして、特にPCB不燃性特徴を持っております。  次に、当社PCB生産販売状況について申し上げます。  PCB製造は、外部より購入いたします原料ジフェニールを塩素化して製造いたしますが、用途によりまして二塩化、三塩化、四塩化、五塩化等の種類がございます。PCB生産昭和二十九年に始めましてから、需要伸びに応じまして生産能力を逐次ふやしてまいりまして、現在の生産能力は月間七百五十トンでございます。昭和二十九年より現在までの総生産量は約五万三千トンでございます。  PCB需要分野でございますが、重電機メーカーコンデンサーメーカーに納入いたしますトランス油やあるいはコンデンサー油電気用が最も大きく、次に加熱プラントに納入いたします熱媒体用でございます。昭和三十七年より感圧紙用、いわゆるノーカーボンペーパー用需要が始まりましたが、それまでの、昭和三十六年までの需要分野比率を申し上げますと、電気用約八五%、熱媒用約九%、その他六%でございます。その後の需要分野比率につきまして、一例といたしまして、昭和四十五年度は電気用が五六%、熱媒用が一六%、感圧紙用が一六%、その他二%、輸出が一〇%でございます。この、その他用途と申しますのは特殊な接着剤用塗料用で、少ない比率でございます。なお、昭和四十六年は通産省の御指導もございまして、PCB販売制限を行ないましたので、この比率は変わりまして、電気用が六五%、熱媒用が一八%、感圧紙用がゼロ、その他一%、輸出が一六%でございます。  販売にあたりましては、PCBの現品は需要家に直送いたしますので、流通段階でのストックはございません。  当社といたしましては、近時PCB環境汚染が問題となってまいりまして、通産省行政指導の線に沿いまして、販売分野うち感圧紙用用途への販売は、昨年、四十六年の二月をもって中止いたしました。その他開放系用途へは昨年末をもって完全に中止いたしました。今回の政府の通達によりまして、閉鎖系につきましても規制する方針が打ち出されましたので、当社といたしましても環境汚染防止する企業の姿勢から、このたび自主的に、本年六月末をもって生産を停止することにいたしました。  当社が実施いたしておりますPCB環境汚染対策につきまして御説明申し上げます。  まず、さきに申し上げましたように、開放系への販売制限、中止を行なう一方、需要家の御協力も得まして、排水処理等汚染防止を実施いたしております。なお、需要家において発生いたします廃油につきましては、焼却技術を確立いたしまして、高温焼却炉において焼却を行なっております。また、PCB取り扱いにつきましては、需要家に対しましてPCB取り扱いの注意を喚起してまいったのございます。  昭和四十三年に起きましたカネミ油症事件につきましては、経過、原因は不詳でございますが、まことに遺憾と存じております。患者皆さま方に対しましては、まことにお気の毒と存じておる次第でございます。  最後に、今後のPCB環境汚染対策につきまして申し上げます。  現在、政府のほうで専門家による汚染実態調査あるいは慢性毒性、その人体に及ぼす影響、それに基づきまして、環境基準なりあるいは食品衛生基準をおつくりになるということを承っておりますが、当社といたしましても、この基準政府の御指導に従いまして、積極的に環境汚染防止に努力いたしたいと考えております。また、PCBの使用の需要家に対しまして、政府の御指導も得ながら、環境汚染防止の徹底をはかる所存でございます。  今後のPCB焼却処理でございますが、政府の御指導も得まして、需要家関係業界と相談しながら、誠意をもって焼却処理に対処する考えでございます。  なお、当社といたしましては、今後の化学工業の新製品につきましては、毒性並びに環境汚染の問題も十分調査いたしまして、万全を期したいと存じております。  終わります。どうもありがとうございました。
  4. 田中武夫

    田中委員長 次に、采野参考人にお願いいたします。
  5. 采野純人

    采野参考人 私、いま御紹介にあずかりました三菱モンサント化成株式会社第三事業部の、技術担当部長をいたしております采野でございます。PCB製造につきましては、私ども事業部で管轄をいたしております。  皆さま承知と思いますが、三菱モンサント化成紹介を最初にさせていただきます。  三菱モンサント化成は、昭和二十七年の一月に設立をいたしました、三菱化成が五〇%、それからアメリカのモンサレト・カンパニーが五〇%の資本を持っておりますジョイントベンチャーでございます。資本金は四十億でございまして、主製品塩化ビニール樹脂、そのフィルムシート、それからポリスチレンの樹脂、そのフィルムシート、そのほか塩化ビニール可塑剤ゴム薬等有機化学製品と、塩化ビニール原料であります電解関係の苛性ソーダ、苛性カリ等無機製品を主製品としてつくっております。  本題に戻りまして、PCBの私ども現状について、これから御説明をいたします。  私どもPCB企業化をいたしました目的は、先ほど鐘化大橋常務からも御説明がありましたとおり、PCBといいますのは非常にユニークな特色を持っているということで、たとえば難燃性であるとか、あるいは安定性であるとか、不揮発性であるとか、それから電気的な性質が非常にいいとか、あるいは沸点が高くて分解をしにくいとか、物を溶かす能力が非常にあるとか、非常にいい性質を持っておりました製品でございまして、私どもがやりました時点では、すでに相当量需要日本国内にあったわけでございます。その当時私どもがこの企業を計画いたしました時点では、国内メーカー鐘化さん一社でございまして、石油化学製品に見られるように、同品種における競合といったような問題はわりになかったということで、私どもも、これをやっていったらいいじゃないかというふうに考えたことが、第二番目の企業化理由でございます。  第三番目には、私どもの親会社でありますモンサント社が世界的にシニアを持っておりまして、それから、さらに技術的にも非常にすぐれた技術を持っておるというようなことが、私どもがその技術をもらいまして企業化をするということに至った第三番目の理由でございます。したがいまして、私どもは、モンサント技術導入をいたしましてこの製造を開始したわけでございますが、技術導入につきましての政府認可は、昭和四十二年の九月に認可をいただいております。その後、直ちに建設準備にとりかかりまして、商業生産の開始は昭和四十四年の九月でございます。  生産量につきましては、昭和四十四年が四百五十七トン、昭和四十五年千三百十八トン、昭和四十六年六百五十一トン、四十六年末までに二千四百トン余りの生産をやっております。ちなみに、その各年度における全国需要量を申し上げますと、四十四年は七千七百三十トン、四十五年は一万一千百十トン、四十六年は六千七百八十トン、計二万五千六百二十トンでございまして、私ども生産比率は大体全国比の九・二%程度になっております。  販売状況につきましては、電気用用途が約千三十七トン、それから熱媒用が五百六十三トン、それから感圧紙用が四百四十トン、その他開放系が二百七十一トン、輸出が百二十一トンということでございまして、電気用が約六〇%、それから熱媒感圧紙その他が残り、輸出は非常に少ないという状況になっております。  ちなみに、四十六年は、先ほど申しましたように、PCB汚染の問題が全世界的にクローズアップしてまいりまして、私ども生産販売量も、四十五年に比べますと半減程度に減っております。四十六年度の時点におきましては、私どもは、この環境汚染防止いたしますために、開放用途販売をストップないしは制限いたしますと同時に、おもに使っていただいておりました電機工業会さんのほうには、鐘化さんと御一緒に、環境汚染を少なくするような方向をひとつ十分とっていただきたいというような説明会その他も行ないまして、ひとつ環境汚染防止ということに力を注ぎました。  それから、熱媒ユーザーさんのほうに対しましても、環境汚染が少なくなるように、ひとつ廃油あたり環境の中に捨てていただかないようにということで啓蒙をいたしました。さらに一部のコンデンサーメーカーさんには、私どもから参りまして、環境の中のPCB測定ということもやりまして、環境汚染防止についてのいろいろな指導もやったことを、この際つけ加えさしていただきたいというふうに考えます。  それから、申しおくれましたが、私ども工場の所在地は、三重県の四日市でございます。四日市におきましては、製造工程からのPCB環境への放出をできるだけ制限をいたしますために、工場排水につきましては、オイルセパレーターを二段に置きまして、そこでまず廃水PCB分を分け、さらにそれだけに、活性炭充てん塔を二基設けまして、いまそのオイルセパレーターPCBをとりました残りの廃水をさらに活性炭の塔に入れまして、非常に微量に残っておりますPCB活性炭に吸着をさせまして、あと工場全体の大きな排水口、そこにはほかの工場排水が約百倍ぐらいございまして、四日市工場外に出ますときにはもうPCB分としてはトレースになっているというような処置をいたしております。  それから、PCB無毒化処理につきましては、皆さまも御承知のように、PCBは非常に安定な物質でありまして、これを分解して無毒化するということは、現在の知識では、高温焼却するというより方法がないというふうに考えられます。私どもでは、塩化ビニールの副生物であります塩化タールというものを焼却する炉を持っておりますが、四十六年度にユーザーさんから返ってまいりました廃油につきましては、その炉でもって処理するというようなことをやっておりましたが、さらに、PCBの問題がクローズアップしました昨年の時点におきまして、新しく焼却炉、これは四日市工場のほかの廃棄物一緒に燃すという汎用炉でございますけれども、そういうのを建設することにいたしまして、その炉は、ことしの四月末に完成をいたします。この炉をもちまして、私どもは、このPCB環境汚染をできるだけ少なくするように、廃油を燃していくということで、無毒化処理に御協力をいたしたいというふうに考えております。  以上、三菱モンサント現状を御説明をいたしました。
  6. 田中武夫

    田中委員長 ありがとうございました。  次に、宇井参考人にお願いいたします。
  7. 宇井純

    宇井参考人 東京大学都市工学科助手をいたしております宇井でございます。  PCBの現況について、この数年間にわかりましたことについてまず御報告申し上げます。  生産の沿革については、ただいまメーカーのほうから発表されたとおりでございますが、実は、この物資の毒性はかなり以前からわかっておりまして、すでに戦前から扱っていた労働者工場災害として記録されております。戦後も、二十九年ごろにすでにPCBが毒があるということは、やはり工場災害として記録されております。  これが環境汚染物質として注意されるようになりましたのは、一九六六年に偶然、新しいふ化場でサケの卵がかえらないということを発見しましたスウェーデンの生物学者が、新しい水槽に塗っておりました塗料の中に入っているPCB原因だということを突きとめたのが発端になりまして、六七年ごろから続々そのデータが出ております。  特にバルチック海のワシとかサギに非常に多く、筋肉脂肪の中に一七〇〇〇PPM、なまの肉で一九〇PPMという数字がいままで外国で記録された最高であります。これは鳥のデータでございます。これと並行しまして、鳥の卵がかえらなくなる、からが薄くなってこわれやすくなるというふうな、カルシウム代謝に何か異常があるらしいということがわかってまいりました。それから北海のウエールズ地方のアザラシにも脂肪の中に二三〇PPMというものが発見されまして、やはりこれも毒ではなかろうと疑われていたところに、四十三年、六八年に日本カネミ油症という非常に大きな規模人体実験がなされまして、明らかに毒であるということが世界じゅうではっきりいたしました。  一般にこの化合物は藻類やプランクトンを食べる魚のほうに多くたまり、その魚を食べる鳥のほうにたまってまいります。ですから、いわゆる食物連鎖の高次のものほどたまりやすい。そうしますと、その一番上に乗っております人間には当然たまりやすいということになってまいります。しかも、大体おいしい食べもの、高級な食べものほどPCBがたまりやすいという一般的な傾向がございます。ヨーロッパの魚は、私が一九七〇年にデータを受け取った段階では、大体〇・一PPMどまりPCB含有量でございました。このデータ日本へ持ち帰って、たまたま愛媛大学立川先生あるいは京都市衛研藤原先生がはかられたデータと比べてみますと、日本は一〇PPM前後、つまり、ヨーロッパに比べて魚で二けた高いということがわかってまいりました。  そのうちに、七一年、去年の春になりまして、アメリカで、カリフォルニアからハワイまで地図の上に線を引きまして、その線に沿っていろいろな魚をとってはかってみましたところ、やはり〇・一PPMから一PPMPCBが魚の中に入っているということがわりました。すなわち、太平洋側大西洋側と同じように、あるいはそれ以上によごれているらしい、出どころといえばどうも日本が疑われるというのが、去年の夏のアメリカ科学アカデミー及びノーベルシンポジウムの討論の結論でございました。  七一年の春に、私もどの自主講座の聴講生が中心になりまして、日本PCB生産量がわかりまして、それから需要量がある程度わかりましたので、これを米国へ持っていって討論しましたところ、意外なことに、実は世界じゅうPCB生産量がわかっていたのは日本だけでありまして、米国、英国あるいはヨーロッパ各国とも、商業統計で、一社しか生産をしていないために、一切公表されていない。特にアメリカでは、科学アカデミーが、数年前から、モンサントケミカルに対して生産量公表あるいは用途公表を要求していたけれども、結局断わられどおしであったということがありまして、日本データをもとにしまして、世界じゅう生産量年間約十万トンのけたであろうというふうに判断いたしました。そのうちおよそ二割ぐらいは、感圧紙とかあるいはいろいろな油にまぜられた用途で、使い終わってから焼却される。そのときに大気中にほとんど分解せずに出るであろう、それから五%ほどは水のほうに、排水処理を不用意にやったとかあるいはその他水の中へ捨てたというふうな機会に出るであろうと判断しまして、世界じゅうでつくられたPCBのうち大体四分の一くらいが海に流れるのではないかという推定を、昨年アメリカ科学アカデミー作業部会で、私も参加して行なっております。  ところが、実は年間十万トンという生産量は大体DDTとほとんど同じ規模でありまして、DDTのほうは、生産が始まりましてからおそらく現在までに百万トンくらいの量が海の中へ入ったと推定されております。PCBは、同じようにして生産開始されてから大体二十五万トンくらいは海へ入ったのではないかというふうに推定されているのですが、ふしぎなことに、DDTPCBを両方はかってみますと、常に魚の中にはPCBのほうが多い。つまり、よけいたまりやすいという傾向が認められております。そこで、DDTではまだ人が死んだことはないのですが、PCBでは、カネミ油症という、明らかに人の命にかかわった事件があるだけに、毒性としては、慢性毒性PCBのほうがDDTよりも危険であるという結論科学アカデミーでは出しました。  それから最近、昨年からPCB毒性が強調されまして、だんだんに需要が減りまして、別の製品が使われておりますが、たとえば、私どもが調べましたほかの代用品としていま使われているトリフェニール類とかあるいはアルキルナフタリン類とかいうものは、急性毒性PCBとほぼ同じくらいらしい、慢性毒性については全くわかっていない、また、脂肪にたまりやすいという性質PCBとほとんど同じであるという見当はつくのですが、残念なことに、一つPCBは塩素がついておりますので、ガスクロマトグラフィーでわりあいにいい感度で測定ができますが、代用品として使われておりますアルキルナフタリンとかトリフェニール類というふうなものはガスクロマトグラフィーにかかりませんので、私どもからだの中にもしたまってまいりましても、どこにたまっているかわからないという問題がございます。また、そういうカメの甲がたくさんついているような化合物では発ガン性が常に心配されます。そういうことを考えますと、妙な表現でございますが、PCBを大切に気をつけて使っているほうが、変な代用品を使うよりはまだ安全かもしれないという気すらいたします。PCBを大切に使っていれば、どこへたまるかということは分析でわかりますが、PCBの代用品は、残念ながら、いまの分析技術ではわからないのでございます。われわれのからだの中へたまってまいりましても、あるかどうかがわからないという問題がありまして、いまのように代用品にすぐに取りかえるというのははたしていいことかどうか、私、最近疑うようになってまいりました。  それからPCB毒性については、カネミ油症という非常にみごとな実例がございますけれども、十分にこれが研究されていないということを外国から常に批判として私聞かされまして、たとえば神経毒性あるいは発ガン性というふうなものについては日本学者の報告がないではないかということをいわれておりますが、実際にカネミ油症患者の多く出ました地方を歩きますと、最近ガンで死ぬ人が多いとか、あるいは鳥の卵で当然予想されましたように、子供の歯のはえが悪い、骨の伸びが悪いというふうな、カルシウム代謝の異常が明らかに認められているようであります。これはまだ医学論文としてはまとまってはおりませんけれども、私ごときしろうとでも異常を感ずるような状況が北九州一円にございます。そこでまた、PCB毒性自体についても科学的にそれほど丁寧に究明されていないというのが現状でございます。  現在、許容量に対する唯一の手がかりとしてアメリカの数字があげられておりますが、この根拠については、残念ながら、私まだよく存じません。ただ、魚の中に五PPMまで認めるというのは、どう見てもちょっと高過ぎるように思います。アメリカ人の魚の食べ方と私どもの食べ方は全然違いますし、また、日本PCBのたまり方というのは、アメリカに比べてはるかに、一けたぐらい強いということも事実でございます。その上、私どもからだの中には、世界で一番よけいに、水銀とかカドミウムとか食品添加物とか、いろいろわけのわからないものが入っておりまして、こういうもののきき目にPCBがさらに加わるということは大体常識でございます。すでに、DDTのきき目をよくするためにアメリカPCBをまぜてまいてみたら、非常によくきいたという実例がございます。そうしますと、アメリカ並みの基準日本人に当てはめるということはきわめて危険なのではないかと考えます。  ふしぎなことに、太平洋のかなり先のほうへ行きましても、魚の中にPCBがたまっているということは、どうやら水だけではなくて、燃したものが大気に出て、それが風で運ばれて海へ落ちる、その量が年間使われた量の大体二割ぐらいは見込まなければならないのではないかというのが、去年の私どもの討論の結論だったのですが、そう考えますと、確かに、ハワイの沖あるいはグアム島などで高い濃度のPCBが見つかっているという断片的な報告も、うなずける面がございます。  こういう経験から申しますと、高温焼却でどの程度こわれるかも、ちょっとやってみないとわかりませんし、また、焼却炉というものが必ずしも思うとおりに動きませんでうまく高温にならなかった場合には、かえって深刻な大気汚染を起こす可能性はございます。また、すでに市場に出回りまして使われた感圧紙とか潤滑油とかいうふうなものは、これは自治体の小さなごみ焼き炉で結局は燃されるわけでございますから、どのように手を打っても結局は大気の中へ出ていって海にたまる。このように蓄積性のきわめて大きい化合物に対しては、環境基準などというものをきめてみましても、それにおかまいなしに食べものの中にたまってまいります。私どもはメチル水銀で過去に水俣病で経験いたしましたように、環境基準はついにきめられませんで、分析の精度以下ということにとりあえずきめられております。排出基準分析の精度以下ということにきめられておりまして、環境濃度は、たとえば海水の中の水銀濃度などにしましても、水俣病の最盛期の水俣においてさえ普通の海水と大差がなかったというふうな報告が会社側からも出ておりますし、第三者の研究者からも出ております。この前例から申しますと、許容基準をきめて環境基準をきめるといういまの対策の方向がはたして有効であるかどうかと考えますと、まず無効だと判断したほうがいいのではないかと、過去の経験が教えてくれております。この点でPCBは実は対策のない汚染でございまして、しかも私どもからだの中にすでにカネミ油症患者とほぼ同じ程度PCBがたまってきているというのがおそらくここ数年のことでございますから、これからもまだまだ主として食品から、特に魚から入ってくるPCBがわれわれの体内にたまることは覚悟しなければなりません。そこでどういうふうな障害が出てくるかは、いまちょっと全然見当がついておりません。残念ながら、カネミ油症調査は、補償がからんでおりますので、どうしても典型的な患者だけしか記録されておりませんで、自覚症状はあまりお医者さんたちにも相手にされていないというような現状だものですから、私どもにどんな自覚症状が出たらそれがPCBによって起こったものであるかという判断が、ただいまの段階ではできない状況にございます。  それからもう一つ、これから完全に使用を停止する、生産も停止するということなのですが、これまでにPCBの油、原体として輸入されたものの量は大体わかっておるのですが、たとえばパネルヒーターとか、特殊なコンデンサーとかトランスというふうな形で外国から輸入されたものにつきましては、商品の中に入っているものにつきましては、ちょっとどれぐらいの量が入ってきたか、私ども調査でもついに突きとめることができませんでしたし、今後も入ってくる可能性がございます。私どものうちで調べましたPCB用途は、大ざっぱにいって百ぐらい、こまかく分けると四、五百というようなことだったものですから、さてその一つ一つについて、外国からの輸入がどれぐらいあって、どんなふうに出回っているかということについては、とうとう手が回りませんでした。そこで、輸入、特に製品の形で輸入されるもの、製品の中に入って輸入されるもの、これについては、よほど丁寧に調べないと見つからないのではないかというふうに考えております。  最後に、去年からことしにかけての政府対策に対して私が多少かかわりましたことを一つつけ加えておきますと、七〇年の末にPCBデータがたまたま国際会議で入手できたものですから、七一年の春だったと思いますが、環境庁の担当官にPCBの危険性について警告をしたことがございます。そのときは、どう見てもまじめに受け取ってもらえなかったように記憶しております。その人が後に書きましたPCB毒性についての資料にも、たいしたことはないというふうな結論だったように覚えております。これが秋から急にPCB問題が各地で大きく取り上げられまして、現在ついに生産停止もやむない状況になったのですけれども対策がこういうふうにきわめてむずかしい、あるいは本質的にない事件なのかもしれないということが、残念ながら、学者の中でもあるいは行政官の中でも十分に認識されているとは言えないように私感じておるものでございます。  あとまたいろいろこまかい状況につきましては御質問に応じたいと思いますが、概況といたしましてはこのようなものでございます。
  8. 田中武夫

    田中委員長 ありがとうございました。  以上で午前の参考人からの意見聴取は終わりました。     —————————————
  9. 田中武夫

    田中委員長 参考人に対する質疑の申し出がありますので、順次これを許します。渡部一郎君。
  10. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 私は科学技術振興対策特別委員会を代表し、当科学技術委員会から公害対策並びに環境保全特別委員会に対し連合審査会を申し出ましたところ、快くこれをお引き受けいただきましたことにつき、まず公害対策並びに環境保全特別委員会委員長並びに関係委員皆さま方に深く敬意を表する次第でございます。まことにありがとうございました。  科学技術振興対策特別委員会PCB問題につき公害対策特別委員会に対し連合審査を申し出た経緯につき、一言申し上げたいと存じます。  PCB問題につきましては、私たちが新聞紙上から推測いたします範囲内におきましても、昭和四十五年に起きましたカネミ油症事件に端を発しまして、四十六年の一月からその暮れ、四十七年の今日に至るまで、その急速な汚染状態はまことにはなはだしいものがあります。そうしてそれに対して私たち関係委員が、あるいは商工委員会において、あるいは公害委員会において、あるいは科学技術特別委員会において数々の質問を展開したわけでありますが、その対策につきましてはきわめて不十分なことは、質問する私たちのほうも、また答える政府委員のほうにおきましても、つとに認識せられておったところであります。したがいまして、この問題の権威者に全国的に集まっていただき、そうして徹底的な対策と解明が行なわれなければならない、こういう意図のもとに、科学技術振興対策特別委員会におきまして連合審査の申し入れをしたわけであります。  先ほどからの御意見の中にもあるわけでありますが、私たちが現在一番深刻にこの問題について思っておりますのは、PCBのこの汚染が展開されていることはわかっているにもかかわらず、人体に対してどの程度の打撃を与えるか、その辺についてさっぱりわからないという、それこそ、おそろしさはあるが被害がわからないという問題が第一にあるわけであります。  第二番目に、私たちはこのPCB汚染について対応策をとれないものかということなのでありますが、その対応策が不明なことであります。対応策が不明な汚染問題などという、とんでもない問題に私たちがぶつかったのは初めてでありまして、まさに日本の政治の資質あるいは科学者の対策、その精神というものの内容が問われる時期になっておると思うのであります。  第三番目に、私たちはこういう問題が起こったときに、日本の現在の政治、経済の機構というものがこれに対応できないということを認識したわけであります。つまり、役所でいうならば、関係省庁がわからない。どの役所が全部やるかわからない。環境基準をつくるのが環境庁で、その分析方法をきめるのが科学技術庁で、工業原料の判こを押すのが通産省で、口の中へ入ったら厚生省だなどというようなばかばかしい分類が公然と語られ、そうしてその合い間においてPCB問題というものが一向に解決せぬ、これはもう言語道断というか、もうめちゃくちゃというか、人類の知性をあざ笑うがごとき結論であります。私は、これに対して対応しなければならない、こう考えるわけであります。  それからまた、先ほど宇井参考人が御指摘にもなりましたけれども、代替品、代用品についての研究がすでに行なわれているが、その代用品の安全性についてまた考えないでやるという、そういう工業の体質というものがある。これは要するに、PCBでもそうだったのでありますけれども、安全性を考えない工業原料あるいは食品といったものは、もはやわれわれの世界において許すべからざるものである、こういう認識がなさ過ぎたのだ、こういう怒りの覚えを感ずるのであります。  また五番目に私が感じますことは、もっとこのPCB問題から広く話を広げまして、工業原料であったからこそPCB問題はここまで制限がされませんでした。工業原料でない食品だったら、もっと早くいったわけであります。ところが、工業原料は何十万点何百万点あるのかわからないのでありますが、PCBと同じように多用され、あるいは用途が変われば有害である物が、もうそれこそ何千何百というほどあるわけであります。これについての規制は全くない。工業原料の有害性などというものについては私たちは考えようともしていなかった。つまり、銅の粉だって、それはぺろりと舌でなめれば有害なのであって、また砂だって、たくさん飲めばそれは毒なのであってというような、笑い話的な感覚でこの問題を扱ってきたところに、これほどの大きな問題が起こった。だから私は、このPCB問題を扱うにあたって、PCBだけでこれを扱ってはいかぬのだ、こう思っておるわけであります。だから、PCBと同じように、こういう危険性をはぐくむ可能性のある工業製品全般に関する規制をつくり上げるのでなければ、痛ましいカネミ油症の犠牲者に対しても、また、これから犠牲になろうとしておるところの何千何万という日本の人々、また世界の人類に対する責務というものがないのではないか、こう私はまず基本的に考えるのであります。  これら一項目ずつにつきましては、関係各委員からお一人ずつ御専門の方々が皆さん御質問なさると思いますので、私はあえてその回答を求めようとしておりませんのですが、とりあえずこのような重大な問題があることを提起いたしまして、関係各委員の御了解と御認識を賜わり、また御賛同を賜わりまして、この問題に対する一歩前進をはかっていただきたい、私はこう考えておるわけであります。  私、あと五分ばかりございますから、私はもう端的率直に二、三のことを三人の御参考人の方にお伺いしたいと思うのであります。  非常に率直な言い方をするわけでありますが、おそらくはかの委員からも詰め寄られるでありましょうから、加害者の立場になっております三菱モンサント化成株式会社並びに鐘淵化学工業の御両社の御参考人に対しては、私はきわめてやりにくい立場でただいまここにお越しになっておりまして——話を聞いていてください。あなた、そんなところでしゃべっていないで、話をちゃんと聞きなさいよ。何をそっぽ向いて話しているのか。委員から質問しているじゃないですか。加害者なんだよ、あなたは。何をべちゃべちゃ言っているのか。
  11. 采野純人

    采野参考人 速記のほうから原稿をいま出してくれと言われたものですから……。
  12. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 そうしたら話を早くやめたらいいじゃないですか。何を言っているのですか。  いまの態度でもわかるように、私はふざけていると思います。たとえば、一つのふざけ方につきましては、はなはだけしかりませんのは、これほどの問題が多発しているにもかかわらず、鐘淵化学におきましては、この製造停止を六月に行なうと先ほど述べられました。あやまちは早く改めるにしくはないというのは、これはもう歴史的な当然のことだと思います。そうして、商売の上の都合からいって、契約というものを打ち破ることがどれくらい大きな経済上のマイナスになるか私はわからないと思います。しかし、いま悪いとわかっていて、そしてきょうは四月の十三日であります。四月の十三日に悪いともう完全にわかっているものを、なぜ六月まで延ばそうとなさるのか、私は、企業の責任者として常務取締役でいらっしゃる大橋さんにこういうことを伺うのは、非常に気の毒だと思っておりますし、私は個人的に何の恨みもありませんが、これについては私は答えていただかなければいけないと思います。そうして、それに対して鐘淵化学は、こうも人類の平和と安全に関して無関心であるというならば、そういう企業に対してわれわれは挑戦しなければならない、私はこれを明確にしなければいかぬと思うのであります。ですから、これをまず答えていただきたい。  また、三菱モンサント化成さんは、先ほど、当社のいろいろなやり方というものに対して非常にユニークな技術を誇っておられた。ユニークな技術を誇るなら、なぜそれの無害対策を立てないうちにそういう製品販売したか、私はそのおそるべき責任というものがあると思う。それを一つも弁明がなく、謝罪のことばがあなたは一つもなかった。そういう態度で平然としてここでしゃべるのは、おそらくは社の方針であろうかと私は考えざるを得ない。このばかげた御説明、おそらく、ここにおいでになった参考人の中で、かくも人間の生命に対してべっ視を示されたのはあなたを嚆矢とするであろう。私はそのようなユニークな技術を持っておられるおたくの社の社員でなかったことを名誉としていま質問をするわけでありますけれども、そのような無害処理が全くできないものなのか。そして、明らかに昭和四十六年には問題となっていたものをわかりながらも販売したということに対しての責任と、そしてその技術を誇りながらも無害化できなかったその責任について話していただきたい。  私はこの二つの質問を二つの社の代表にまずお願いしたい。それでなければこの審議は始まらないからであります。まことに険悪な質問で恐縮でありますけれども、御両所にこれに対してお答えになるようにお願いいたしたいと思います。
  13. 大橋清男

    大橋参考人 御質問にお答えいたします。  御承知のように、九月一日以降密閉系の機器を製造販売することをやめろという通産の御通達が出まして、実はその御通達に基づきまして六月三十日といたしたわけでございますけれども、実はこのPCBというのは非常に燃えないという特性がございまして、国鉄あるいは官公庁、そういうところで使われておりますので、そういうところに御迷惑をかけてはいけないということで、暫時猶予期間といいますか、そういうものをとったわけでございますが、しかしながら、そういう御迷惑がかからないということが明白になりましたならば、私どものほうといたしましては、六月三十日ということに限定いたしませんで、そういうことが判明次第製造を中止いたしたい、かように考えておるわけであります。
  14. 采野純人

    采野参考人 ただいままことに失礼ななにをいたしまして……。  私どもは、昨年この公害汚染問題が出ましたあと時点で、お役所の指導によりまして販売制限をいたしましたが、さらに昨年末世界的な動向から考えまして、本年度はもうほとんど製造をしないというような方向にまいりまして、三月十一日をもって生産は中止をいたしました。  先ほど渡部先生からおっしゃいました、公害物質をつくっていながらどうして環境汚染対策についてまでやらなかったか、あるいはそういうのを販売したかというようなことでございます。が、私ども企業をやりました時点は、まだ毒性の問題、環境汚染の問題が出ておりませんで、したがいまして、私どもとしては、いまに至りますと、私どもの不明を恥じるのみでございます。  それで、先ほども申しましたように、四十六年におきましては、ひとつその環境汚染を少なくするという方向で、極力努力をいたしてまいった次第でございます。
  15. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 あまり私に時間がないようでありますから、私はいまの御答弁について批評をするにとどめたいと思うのです。  結局は、いま不明を恥じていらっしゃるわけであるけれども、その途中において、それが悪いとわかったのは、もう一年も二年も前です。三菱モンサントの理性というのは、悪いとわかってから、人殺しをしてから、二年間くらいたつとわかるという理性であるとしか考えられない、そんなものは。こういう批判があなた方の耳に届くまで膨大な時間がかかっていることを、あなた方はわからなければいけない。国民の大多数が不安におびえている中にあって、あなた方は工場の中に立てこもっていて、平然としてそういうものをつくっていた。その苦しみというものをいま味わわなければいかぬと私は思うのです。これは企業家として、技術者として今後考えるべきことだと私は思いますし、ほかの委員からも御質疑があるでしょうから、私はあえてこれ以上は言わないことにしたいと思います。  宇井参考人に対して、基本的な考え方について、私はお伺いしたいと思います。  私は、先ほどから数項目にわたりまして、このPCB問題についての私の見解を申し上げたわけであります。それに関して宇井参考人はどう考えられるか。特に、ぼくは宇井参考人に伺いたいのは、この問題に対してどういう対応策をとることが望ましいかという問題について、おそらく議論がされないままであったとしたら、これは委員会の審議にも何もならないのであって、今後いかにすべきか、どういう対応策を立てるべきか、私もそれに重点を置いておるわけでありますが、御意見を伺わせていただきたい、こう思うわけであります。
  16. 宇井純

    宇井参考人 お答えいたします。  確かに、渡部委員からいま御指摘のありました五つの点につきまして、現在まで、はっきりした答えが表には出ておりません。しかし、日本の特殊性を十分考えて落ちついて判断いたしますと、これは何もないというものではないのです。たとえば人体への影響がどれくらいあるかということにつきましては、まず、カネミの油症の患者が何名いたのか、一体何人がPCBを飲んだのかということすら、まだ調べ上げていなかったのですが、これは調べればわかることであったはずです。現在でも、もちろん手おくれではあっても、いわゆる認定患者だけではなくて、何人がどれくらいのけたのPCBを飲んで、いまどんなふうになっているか、それを調べることは可能であります。また、PCBメーカーあるいはそれを使います需要家の中で、PCBをふだん扱っておりましていろいろな症状が出た患者が必ずおるはずでございます。もちろん、これもまた、労災補償という非常に条件のむずかしい問題とからんでまいりまして、なかなか捕捉は容易ではございませんが、原理的には、必ず職業病の患者としておるはずでございます。その症状を丁寧に観察すれば、人体に対する影響というものはわかってくるはずでございます。  それから、私、先ほど、鳥の卵のからが薄くなるということとカネミ油症患者の、特に乳歯のはえぐあいがきわめて悪いということの間に関連があるのではないかということを申し上げましたが、同じように、たとえば最近ハマチの養殖で、PCBの多いハマチには骨曲がりが多いというふうなことが出ております。生物の反応というものは、確かに種によっていろいろな違いもございまけれども、注意深く観察すれば、人間にどのような病変が起こるかを判断する手がかりは、まだまだいろいろあると思います。  次に、対応策でございますが、実はほかの公害でも、多くの場合ほんとうの対応策というのはないのでございます。水俣病一つ例にとってみましても、水俣病の患者、あるいはすでに一たん水銀で汚染されてしまった不知火海沿岸については、実は対策というものは存在しない。ただできるのは、せいぜい損害の補償と、それから事件の経過を正確に把握して同じことを繰り返さないようにするというのが可能な対応策であったという歴史を、私ども持っております。それも十分にしなかったために、新潟にもう一つ水俣病が起こり、またさらに、外国で水俣病の危険が起こっても、日本政府からは何らまともな報告が出されなかったという苦い経験を、私ども持っておりまして、同じことが、カネミ油症で現在進行しております。私ごとき、医学とは一切関係のないしろうとのところに、カネミ油症についての問い合わせが、外国学者からぽつぽつ来るような次第でございます。日本で文献を調べましても、そういう基本的な観察がなされていない。これをもう一ぺん最初から出直すこと、これが一つ、どうしても日本の国際的な責任ではないかというふうに考えます。  そして、私ども自身のからだにしましても、私どもが食べます食品のすべて、PCB分析をすることは不可能でございます。どうしても、知らない間にだんだんにたまってくる。その結果、何かわからない新しい病気が出てくるということは十分考えられますが、これを注意深く観察するか、それとも、PCBは毒でないと目をつぶってからだをむちゃに扱うか、ここはやはりわれわれのなすべき判断だろうと思います。ですから、私、たいへん消極的な対応策ではございますが、それを一度、座して死を待つということばで表現したことがございますが、座して自分のからだを注意深く観察することが、やはり一番根本的な、いまできる対応策ではないかと考えております。  政治経済体制がこの問題について十分に対応できなかったということは、確かに御指摘のとおりなんですが、ここで私、一つだけは新しく評価していいのではないかという考え方が、PCBのときに出てまいりました。それは、つくった会社が責任をもって引き取って処理をするというやり方でございます。もちろん、このことが有効かどうか、どこまで処理できるかはよくわかりませんけれども、私どもがほかの分野で、たとえばプラスチックのごみ公害などというふうな問題でたいへん苦労しておりますときに、このPCBで出てまいりました原則、つくったメーカーが最後まで責任をもって始末をするということが、ほかの有害物質、危険物質についても徹底されれば、われわれの周辺にある公害の問題というものはかなり軽減されるのではなかろうか。そこで、そういう原則がほかの工業原料についても、あるいはわれわれの日常使いますものについても確立することを望みます。  それから、先ほどちょっと申しましたように、PCBの許容量をきめるということは非常に困難でございます。あえてきめるとすれば、相当の安全率を考えに入れなければなりません。先日、〇・七PPMPCBを含む母乳はそのままでは安全だ、さしあたって病気は出ていないというふうな言明をしたごとき政府の一部官僚の考え方は、ここでは厳に排されなければなりません。体重当たりで考えてみますと、すでに乳児のPCBの取り込み量は、〇・七PPMの場合にはカネミ油症と同じくらいになるという計算もなされております。それにもかかわらず、慢性の毒性についてはほとんど研究がされていない。たまに研究がされておりましても、もの言わぬネズミが相手でございます。片方にカネミ油症あるいは労働災害でちゃんとなま身の人間が、神経のおかされるかもしれない毒性によって大規模人体実験をしてしまったときに、人間のほうを差しおいて、もの言わぬネズミで神経毒性やあるいは発ガン性を調べようとしても、それはやむを得ぬ次善の策ということは言えましょうけれども、片方の人間を差しおいてネズミの実験のほうを大切だと考える考え方、これは明らかに間違っております。やはり現実から出発しなければなりません。  残念ながら、カネミ油症についての研究はきわめておくれていて、本来こういう議論は、おそくとも四十三年、カネミ油症がわかったときになされるべきものだったと考えるのです。あるいはもう少し私どもに予見能力があれば、すでに、工場の中でPCBが工業原料として毒性があるということがわかりました、職業病の患者が出た時点で考えるべき議論であった。残念ながら私どもはそのチャンスをのがしまして、四十三年のあれほど大きな事件に対しても、環境汚染ということを真剣に考えなかった責任はどこにあるのであろうかと、自分でときどき考えることがございます。あいにく私、そのときヨーロッパに行っておりまして居合わせませんでしたので、カネミ油症の全貌を知ったのはかなりあとでございます。外国から非常に注目されているこの病気が、日本では補償のからんだ事件として学者から敬遠されているという現状はきわめて遺憾な状態であって、その姿勢が変えられない限り、渡部委員の指摘されるような五つの問題点というものは、どうにも先へ進めようがないのではなかろうか。やはり科学者の責任というものをここで強く感ずるものでございます。また、もう一歩そういう科学者の怠慢を追及しなかった政治のこれまでのあり方というものにも、やはりずいぶん疑問を持つ機会もございます。この機会にやはり、世界で一番進んでしまった日本PCB汚染について、日本が答えを出さなかったら、もうほかに答えの出せる国はないのだということを覚悟して、とことんまでこの問題を追い詰めていこうと考えております。
  17. 渡部一郎

    ○渡部(一)委員 ありがとうございました。
  18. 田中武夫

    田中委員長 次に、浜田幸一君。
  19. 浜田幸一

    ○浜田委員 お許しをいただきまして、私は参考人に御質問をさしていただきたいと存じます。  まず第一に、大橋参考人にお伺いをいたしたいと存じます。私は、一問一答形式で、簡単に率直に御質問申し上げますので、率直にお答えをいただきたいと思います。  まず第一点の問題は、あなたの会社が、PCB人体に対して非常に大きな悪影響を与える、人間を死に至らしめる結果をも生ずるということをお知りになったのはいつごろでしょうか。
  20. 大橋清男

    大橋参考人 お答えいたします。  非常に大きな被害が出るというのは、カネミ油症事件以後でございます。
  21. 浜田幸一

    ○浜田委員 ということは、四十三年ということでございますね。
  22. 大橋清男

    大橋参考人 さようでございます。
  23. 浜田幸一

    ○浜田委員 そこで、もう一点お伺いをいたしますが、たとえば、先ほど宇井参考人からも申し述べられておりますが、この問題が提起されたのは、そのずっと以前に世界の判例の中に、すでに人体に影響を与えるということがいわれていたのでありまするけれども、その当時は、おたくの会社ではこの問題については全然取り上げなかったのですか。その点もう一点お伺いします。     〔田中委員長退席、島本委員長代理着席〕
  24. 大橋清男

    大橋参考人 実は昭和三十五年ごろでございますか、毎日新聞だと記憶いたしておりますが、そこに外電の記事が出たときに、PCBが有害であるという外国の——アメリカでございますが、そういう記事が載ったことがございます。実は、まことに申しわけございません、その当時の社会環境と申しますか、それをあまり強く取り上げなかったことは、非常に不明の至りだと思っております。
  25. 浜田幸一

    ○浜田委員 先ほどの供述についてお伺いをしたいのでありますが、通産省指導のもとに、これらの問題について積極的な回収策をしていきたいということを言っておられましたけれども通産省そのもののこの問題に対する規制というものが弱い中で、業界の代表であるあなたがそういう態度でいたら、この問題を解決できないと思う。その問題はまたあとで議論するといたしまして、明快に御答弁いただきたいのは、たとえば電機業界、特に家庭電器製品、たとえばテレビとかあるいは螢光灯等、メッキ関係を含めたそういう——トイレットペーパーとかいろいろ関係ありますが、特に電機業界の問題を先にあれしますが、その回収は、私どもが勉強する範囲内では、全く不可能に近い状況だと思う。そういう問題については、業界とどういう相談をして回収をされようとしているのですか。その点をお伺いします。
  26. 大橋清男

    大橋参考人 トランスコンデンサーにつきましては、電気機器メーカーがおつくりになって、そして販売されておるわけなんです。私どもといたしましては、どの先へ行っておるか、PCBメーカーとしては全然わからないわけであります。あくまでも電機メーカーさんで売られた先、そこから電機メーカーさんに返りまして、そして中を抜きまして私のほうへお持ち願う、そういう形になると思うのです。
  27. 浜田幸一

    ○浜田委員 先ほどの供述の中に、業界と相談をしてということでございましたので、これはまた、後ほど宇井参考人にお伺いすれば一つの目安が出ると思いまするけれども、実際のあなたの御答弁を聞いておりますと、解決されるかに聞こえるわけであります。私は、家庭生活の中に入り込んだものは、解決する見通しは非常に弱いと思うのです。そういうものについて解決ができるような感触を与えることは、私どもは国会議員としてできないわけでありまするから、たとえば業界と相談をしてということばの中でもはっきりと、これは政治の力以外に回収できるものはないという言い方をしていただかないと、せっかくおいでいただいても、私は、また業界追及だけに終わってしまって、その問題の真の解決策につながらないと思う。ですから、あなた方で回収のできる見通しのものは何か。特に数字を申し上げておきますと、いままでの中で回収を必要とするものが、たとえば五万三千トンなり五万七千トンなり出ていて、その中の四割なら四割というものは回収しなければならないとすれば、その回収見込みについてどうお考えであるのか、お答えをいただきたいと思います。     〔島本委員長代理退席、田中委員長着席〕
  28. 大橋清男

    大橋参考人 コンデンサー関係、これはおそらく、回収は業者では不能だというふうに考えております。ただし熱媒関係、これは回収可能だというふうに考えております。あるいはまたトランスにつきましては、その耐用年数がまいったときそれを抜かれて、これは特に官公庁、国鉄、そういうところのものは回収可能だというふうに考えております。  それから、業者と相談ということは、電機工業会でございます。むしろ業界でございます。私どものほうの能力というのは、現在のところある程度リミットがございます。それ以上のことになりますと、やはり電機メーカーさんの工業会でまとめて焼却というようなことをお考え願いたいという相談もいたしたいという意味でございます。その場合の技術的な私どもの案は、一切技術指導もいたしたい、そういう意味でございます。
  29. 浜田幸一

    ○浜田委員 ここで特に委員長にお願いをいたしておきますが、私は、本問題の解決のために、参考人として電機業界の代表を招くべきであったといま感ずるわけです。どうか次の機会に、委員長に格段の御配慮をいただきまして、電機業界代表をも参考人としてお呼びいただくような機会をおつくりいただきたいことをまずお願いをいたしておきます。  特に私は、弱電気関係の問題で参考人にお伺いしたいのですが、たとえば、一番家庭生活の中でわれわれ人体と密着しているものでPCBに特に関係のあるものは、螢光灯とかテレビとかそういうものだと思うのです。特に螢光灯なんか、家を建てかえまするとこれをかなりつけかえます。つけかえますと、それをどこかに廃棄するわけです。ところが、その回収能力というものは絶対にない。あるときには子供が、危険なものが中に入っているということを知らないでそれをもてあそび、その中から害を受けるような危険性もあるわけですね。だから、この問題を私は大橋参考人にお伺いしても、また、これは電機業界のことだということになると、前に進まないわけでありますが、まあ一応、PCB生産されている業界の代表として、そういう弱電気関係の家庭生活に密着したものの取り扱いはどうされたら一番解決しやすいものなのか、一応お伺いをさしていただきたいと思います。
  30. 田中武夫

    田中委員長 浜田君に申し上げます。  ただいまの御提案につきましては、後刻理事会で相談をし、できるだけ御期待に沿うようにはかっていきたいと思います。
  31. 大橋清男

    大橋参考人 ただいまの御指摘のとおり、特に家庭に入っておりますコンデンサー、これの回収は非常に私むずかしいというふうに感じておるわけでございます。どうしてもこれはひとつ、何らか公的な手段で回収願わないと、ちょっと困難じゃないかと思います。
  32. 浜田幸一

    ○浜田委員 私は、もう一点大橋参考人にお伺いいたしますが、これは私どもの資料が間違っているかもしれませんが、ひとつ参考のためにお伺いをいたしておきます。  これは「PCBの無害化に成功」、これが日本の新聞の中で報道されております。大阪府立の放射線中央研がこれの研究に成功したものでありますが、放射線の照射で分解ということで、実は記事に載っております。この問題については、全然お聞きになったことはございませんか。これは六月十八日にエルサレムで開かれる世界会議に、日本科学技術陣の粋を集めたものとして一応提案をされるということになっておりますが、もしほんとうにあなたの会社がこういう問題、人間の生命を守ることに真剣に取り組んでおられるとするならば、こういう大阪府立放射線の中央研とかそういうところと当然合議をしたり議論をしたり、勉強をしたり研究依頼をしたりして、そのくらい神経をお使いいただいて検討していただかなければならない問題だと思うのです。この問題、時間がありませんから文面を読むことは差し控えたいのでありますが、こういうことなんです。たとえば、コバルト六〇から出るガンマ線をPCB溶液二リットルに照射したところ、一〇〇PPB——一PPBは千分の一PPMでありますから、その濃度なら一千万レントゲン、一〇PPBでは一万レントゲンの照射で、ほぼ完全にPCBを分解することができた。一万レントゲンはバレイショの発芽防止に照射する量だといわれております。この実験例としてどういうことがやられたかといいますと、他の物質に変化していないかを調査するために、放射線照射を行なった後のPCBの一〇〇PPB溶液で淡水産のエビを飼育したが、七十二時間後も死亡率はゼロ。一方、放射線を与えない溶液では、エビは二十四時間で四〇%、七十二時間後には一〇〇%死亡したと出ている。これを、実は六月十八日にエルサレムで開かれる第六回国際水質汚濁研究会議で発表する。各国ともPCB対策はまだ手探り状態であるだけに、反響を呼ぶものといわれているということで、実は日本科学技術陣の中でもPCBそのものを、その部分的なものを解決する一つの技術というものは、日本科学技術の粋を集めて、レントゲンを放射することによって解決ができるということが明らかにされて、世界会議の中に出されようとしている。そういう現実があるのに、あなたの会社は全然、これらの問題と連携をとって研究調査もされたことがないのですか。その点ひとつお伺いしたい。このことをも知らなかったのかどうか、ひとつお伺いしたいと思います。
  33. 大橋清男

    大橋参考人 お答えします。  その件はよく存じております。私ども、さっそく技術者を派遣いたしまして、その研究内容を調査させました。ところが、現在の段階ではまだなかなか実用化しないという段階でございます。  それからもう一つ、最近、酵母菌にPCBを食わせる、こういう研究も東京工大の先生がやっておられます。そこにもさっそく技術者を派遣いたしまして、今後むしろ、その酵母に食わせるということが非常におもしろいのじゃないか。と申しますのは、私ども発酵技術を会社で持っておりますので、そういう方面と提携して積極的に、ただ焼却するだけじゃなくて、そういう方面も研究を進めております。
  34. 浜田幸一

    ○浜田委員 私は宇井参考人にお伺いをいたしたいと思います。  まず、専門的な問題になりますので確認をしたいと思いますが、現在日本列島の中で問題になっておりますこの検出例でありますが、たとえば瀬戸内海においては一・〇から〇・一PPM、それから福岡においては〇・〇二PPM、それから京都におきましては二PPMから三PPM、それから愛知県においては〇・〇六PPM、それから山形においては、最高が三・九PPMから平均で一・七三PPM、それから東京におきましては、最高が一〇PPM、平均が三PPM、特に東京湾のセイゴ等につきましては一二〇PPM、サギが九五PPM、こういう形で、実は現在の資料が発表されておるわけでありますが、この検出例について、宇井参考人は、これが正しいとお思いになりますかどうか、お伺いします。
  35. 宇井純

    宇井参考人 ただいまお読みいただいたデータは、実際に実測されたもののうちの一部でございます。それで、まあ、いまの分析技術で申しまして、おそらく正しいと信用するほかはないと思いますが、このほかにもまだだいぶデータがございまして、たとえば、琵琶湖の川魚の中には大体一〇PPM前後までのPCBが含まれていたということは、かなり早く、昨年の三月ごろからわかっておりました。それからセイゴの一二四PPM、これは確かに昨年わかりました魚の最高値でございますけれども、最近になって田子の浦とか高知とか、養殖ハマチの中にかなり、それに近いような数字がぽつぽつ出てまいりまして、私どもも、新聞などで発表されました数字を見て目を疑っているというのが、正直なところでございます。  最初に申し上げましたように、大体ヨーロッパから報告されたものは、高くて〇・一PPMどまり、多くの場合はその一けた下、〇・〇一PPMで鳥の生殖がとまるというふうな結果が出てきたものですから、日本のこの汚染状況がこのまま続きますと、おそらく魚を食べる鳥の生殖がとまるであろう。つまり絶滅するのではないか。それと、やはり私どもも毎日魚を食べなければ生きていけない環境でございますから、われわれ自身のことが今度心配になってくるというふうな水準でございます。
  36. 浜田幸一

    ○浜田委員 そこで私は、宇井参考人に重ねてお伺いをいたしたいのでありますが、これは専門ではないのでお答えにくいかと思いますが、ひとつ御指導の意味をもちましてお答えをいただきたいと思います。と申しますのは、われわれの一般常識論からいいますと直接関係がないと思われている魚にPCBが含有されている。その経路ですね、まず、魚に対してどういう経路でPCBが入っていったのか。特に、私どもが勉強いたしてみますと、ヘドロ地域において、このPCB含有量が魚に対して非常に多いということです。これは田子の浦の実例も御研究されてわかっておられるだろうと思いますが、なぜそういう魚に一番含有されるような結果が日本列島の中で起こってきたのか。特にこれは議論は、人体に対してどういう経路で入ってきたかということが問題になっておりますが、私はその以前の問題として、魚から人間に入る率が非常に多いということで魚の問題からお伺いをしたいのでありますが、たとえばPCBが魚に含有されるようになったその経路というのはどのようにお考えでございましょうか。
  37. 宇井純

    宇井参考人 魚にこういう蓄積性の毒物がたまる経過は水銀の場合でかなりわかっておりまして、PCBの場合にも、いままでに出た結果を総合すると大体このようであろうというふうな推定はできます。ただ、実験室の中でそういうことを、じゃ証拠をつくれといわれましても、非常に巨大な設備が要りまして実際には、自然を観察することで結論を出すほうが正確でございます。これは新潟の水俣病の原因の水銀の蓄積について、昭和電工と被害者の間で繰り返された議論と同じことでありまして、へたに実験室でやると、かえってわけがわからなくなるということがありますので、いま報告されました数値と場所から判断した経路というものを申し上げますと、いずれにしましても魚の場合にはえさが大部分であろうと判断されます。駿河湾の場合は、沼津の養殖ハマチで非常に高いPCBが発見されたのは、駿河湾の魚、イカナゴとかそういったものをえさとして与えていたものが特に高かった。比較的汚染の進んでいない三陸などのえさを持ってきて食わせていたハマチにはほとんどたまっていなかったということを聞いております。これは未確認の情報で、実はどのいけすということが入ってくるものですから未確認なのですけれども、ハマチの場合にはえさが大きいであろう。それから、イワシの中から大量に出ているという報告がございます。イワシは、わりあいプランクトンをこして食べるような性質でございますから、食べたプランクトンの中に入っていると考えるほかありません。  そしてプランクトン、特に外洋のプランクトンにまでどうしてPCBがたまったかということを考えてみますと、やはり去年科学アカデミーでいろいろ推定をしたときに出てまいりました大西洋のまん中でもPCB相当量出てくるというふうなことから判断しますと、大気を伝わって海へ落ちて——私どもは、いままで海というのはあの巨大な水のかたまりに溶けてしまえばたいがい濃度はゼロになるだろうと思っておったのですが、実はそうではないということがいろいろなことからわかってまいりまして、かき回されているのは、せいぜい上のほうの百メートルから四百メートルぐらいの間らしい。それから、静かな海には、しばしば天然のたん白質やあるいは脂肪酸などが表面に薄い油状の膜をつくることがあって、そこへPCBとかDDTが落ちてくれば、ほとんどそこで濃縮されてしまうだろうということがわかってまいりました。そしてその上、最近は油の放流が日本近海ではきわめて盛んであります。そうしますと、水の上に薄い油の膜が常時あちこちでできている。そこへ雨を通してDDTPCBのような油に溶けやすい毒物が物理的に濃縮する。私どもは、いままで生物を通して、生物学的な濃縮だけを考えておったのですが、日本近海のときには、物理的濃縮がその最初の段階で相当大きいことを覚悟しなければならないということに気がついたのは、実は残念ながら最近でございます。それまでは私どもも、海に流してしまえば大体薄まってつかまらなくなると思い込んでおりましたが、どうも日本の近海に関する限り、そういう虫のいい考え方は通用しなくなったということを私の専門の分野排水処理のほうでも痛感しております。  さて、このプランクトンに入りますほかにも、水にわずかに溶けているものが魚のエラを通じて入ってくる可能性はございまして、スウェーデンの湖で水銀のたまり方を調べたときには、それがかなり大きいということだったのですが、太平洋のような海に関してはまだ立証されておりません。私どもは、いまのところ、そういう次第でみずから直接入るものがあるかもしれないが、おそらく脂肪に対するPCBの親和力からいって、まずえさについてしまうであろう、そうすると、えさを通じて、特に魚を食べる、食物連鎖の好餌の魚、マグロですとかあるいはサバですとかハマチですとか、そういうふうな高級な魚に多く出てくるだろうというふうな予想を立てております。経路としては、そういう次第で魚のえさ、その手前は、今度は水からプランクトンヘと、そのプランクトンを魚が食べるという食物連鎖によって濃縮してくるものと判断しております。
  38. 浜田幸一

    ○浜田委員 重ねてお伺いいたしますが、次に、宇井先生が御研究になった範囲内では、人体PCBが入ってくる経路ですね。具体的にいまもう国民はそれを知りたがっておると思うんですが、その経路についてどうお考えになっておるか、ひとつお答えをいただきたいと思います。
  39. 宇井純

    宇井参考人 まず私ども、均等に入ってくるものは魚だろうと考えておりますが、そういう口を通して入るだけではないのではないかという疑いが——これは私も専門外でございますけれども、最近幾つか見聞する例がございます。  一つは、東京都の住宅局で感圧紙を使っている職場で、はだ焼けがしばしば起こる。それでしばらく休むとなおる。PCBを使わないようになったらとまったというふうな例が報告されております。  それから、トイレットペーパーの中に数十PPM程度入っているものが人間の粘膜を通じて入るかどうかということについては、まだ全然これはわかっておりません。ただ、私ども下水処理の立場から申しますと、このトイレットペーパーは必ず下水処理場へ流れてまいります。下水処理場では今度は汚泥に変わりまして、いまこれを焼却処理するのが大都市の下水処理場の普通の技術でございます。そうしますと、もう一ぺん空気の中へ出まして、また大都市周辺の海をよごすということになって、ぐるぐる回ることになるだろうという予想はついておりますが、まだ下水汚泥のPCB分析までは手が回っておりません。そういう次第で、ただいまのは推定でございますが、当然考えられる経路でございます。  そのほかに心配なのは、たとえばパネルヒーターとか、その他のいろいろな家庭電器製品PCBを使っているものが漏れて、われわれの体内に直接入る場合というものが考えられますが、これは日常そう急に起こることではないといいますか、一種の事故例というように考えてみますと、それよりもやっかいなのは、やはりこういった家庭電器製品が夢の島のようなところに投棄されまして、それから長い間にじわじわと水の中へ出てきて魚を通じてわれわれの体内に入る、あるいはごみの焼却炉からやはり大気に一ぺん出まして、それが海へ落ちて、魚を通じてわれわれのからだに入るというふうな、およそとらまえどころのない経路でたいへん困っておる次第でございます。  直接体内に入る例につきましてはまだ十分な検討がされておりません。ただ、参考に一つ私の手元にある資料を申しますと、昨年の、七一年の三月五日に富士写真フイルムという感圧紙メーカーPCBはマイクロカプセル中にごく微量に入っていて、人の健康に有害であるとの報告はないということをお得意先に配っております。ところが、よく調べてみましたら、このごく微量というのは三%から一二%だったということがわかりました。そしてその次に、今度は十一月二十四日に、旧PCB複写紙で有害の事実が判明したわけではないと書いて、新しい製品に完全に切りかえたというパンフレットが同じ会社から出ております。追い打ちしまして今度は十二月には、新しい製品は純炭化水素系化合物を使っていて無毒である。このことは東京歯科大学講師河井正計氏の動物実験で安全性を保障したものであるというふうなことが、三べん目のパンフレットで出てまいりました。ところが、この河井先生は、PCBを使用した感圧紙も安全であるという動物実験をおやりになった当人でございます。そうして新しい代用品毒性試験というものはどんなふうにやったかということを問い合わせてみますと、約一カ月程度のネズミヘの投与実験でネズミが死ななかったというだけのことでございまして、ネズミのからだのどこへたまったかというふうなことや、慢性毒性は調べていないのであります。  先ほど私が代用品のほうが心配だと申し上げましたのは、実はこういうふうな状況で、これは富士写真フイルムというのは、こういう問題については非常にまじめな会社であると思っておりますけれども、このまじめな会社でさえ、安全性というものについてはこのとおり、ちょっと実験してみたけれどもだいじょうぶだったから切りかえました、御心配要りませんというふうなパンフレットで、危険性を十分自分でつかんでないのではないかという工業界の空気に対しまして、たいへん心配といいますか、危険を感ずるものでございまして、PCBがさしあたってわれわれのからだの中へ毎日入っていることは確かなんですけれども、あるいはそれと同じぐらいの代用品が同じように入ってくるのかもしれない。そうなるとどういうふうにこれをつかまえていいのだろうか、あるいはわれわれの体内にPCBがかりに一PPMあれば、もう一PPMぐらい発ガン性のある何かわけのわからない物質からだの中にたまっていると判断せざるを得ないのかどうか。その辺まで考えてしまいますと、ちょっと悲観的になる次第であります。  ちょっとお答えからはずれましたけれども事件全体の見当はこんなところでございます。
  40. 浜田幸一

    ○浜田委員 次に、カネミ油症の例からとりますと、人体に影響があるその含有量というのは一三PPMから発病するということがいわれておりますが、これはもう実証例でありますが、その場合に、たとえば東京湾の魚を現在のまま一年間食べておりますと、ちょうどそれを上回るような含有量になるわけでございますが、いまわれわれがこれからの参考にするために、たとえば発病に至るまで大体みんなの体の中に入っていると考えていいわけですけれども、その点については、何PPMが、国民にわかりやすく危険度なのだと言える量なのか、ひとつお答えをいただきたいと思います。
  41. 宇井純

    宇井参考人 実は、それがたいへんむずかしい問いでありまして、カネミ油症の場合には、たまたまからだの中の脂肪PCB含有量を二、三例はかってみたら、それが一三から七〇PPMの間だったということなのでございます。もし、カネミ油症患者の体内脂肪PCB含有量測定値がもっと多ければ、たとえば一〇〇とか二〇〇とか、そういう例があれば、おそらく最低は三とか五PPMというふうに広がるでございましょうし、最高もまた広がるでございましょう。その数字から一体何PPM入ったら病気が出るかということになりますと、これまた非常にむずかしいことで、おそらく二百ぐらいの例を書きますと、こんなふうな平均のとれる何か山型の分布になって、大体十中、八、九、この一番多いあたりになったら出るだろうということは言えますけれども、何PPM以下だったら安全かということは、実は水俣病のときにも言えませんでしたし、カネミ油症の場合にもまだ言えない段階でございます。もし、そういうふうな数字が、許容基準とか環境基準とかというふうなものの土台となっておりますとすれば、これは非常に危険であります。  たとえば、この前の乳児の母乳のデータで〇・七PPMは危険かどうかという議論のときに、カネミ油症患者は二グラムぐらいのPCBを飲み込んで病気が出たという厚生省の言明がありましたけれども、これは明らかに間違いでございます。〇・五グラムから二グラムぐらいの間で病気が出たことはわかっているが、それ以下だったことも否定はできないというのが正確な言い方でございます。ですから、わかっていた例では〇・五グラムから二グラムだけれども、それ以下でも発病しないとはまだ言い切れないのでありまして、同じことが、この一三PPM以下の患者もあったに違いないけれども、まだつかまっていないということでございます。また、人によっては、五〇PPMたまっていてもぴんぴんして病気が出てこない場合もございましょう。いまのところ、高知で、漁民の体内から一三PPMをこえる数値が出てまいりましたが、さしあたって異常はないという報告でありますけれども、このさしあたって異常はないというのは、やはり十分ていねいに観察してみないと判断できない数字であろうと考えます。
  42. 浜田幸一

    ○浜田委員 私の持ち時間も迫ってまいりましたので、私は、今後の措置について宇井参考人にお伺いをいたしたいと思います。  先ほど渡部委員長からも意見がありましたとおり、行政措置の対応のテンポがおそい、このことが非常に日本人の健康に害を与えているという御指摘もあったのでありますが、なお、宇井参考人からも、この問題については指摘をされた問題であると思います。この問題については、われわれ政治を学び、行なう者の全体的な責任であると私は考えるわけでありまするが、ただ、研究調査を冷静に見守るということが大事なことはよくわかりますが、対応策として、いますぐにわれわれがしておかなければならない、国の行政の中においてしておかなければならない問題があると思います。その問題について、たとえばその回収の実績をどのようにあげるかとか、もう一つは、魚から体内に汚染されるそういう危険性を取り除くためにどうしたらいいのかとか、そういう幾つかの具体策を先生がお持ちであろうと思うわけです。  そこで、私は今後、われわれがこの問題に取り組んでいくための一つの政治姿勢として、同時に、その施策として、何を考え、何を取り上げていくことが一番国民の利益につながるのか、この点についてお考えがあったらお答えをいただきたいと思います。
  43. 宇井純

    宇井参考人 その点では私、先ほどちょっと申しましたが、つくったものは必ずつくった会社が処理をするという原則の確立がもしこのPCB問題を機会にしてできますれば、たとえば螢光灯が要らなくなったらこれは買ったメーカーに返す、それをつくったメーカーは、今度はその中からPCBを抜き出して鐘化さんにお返しをするか、あるいは螢光灯のままお返しをするか、その辺はわかりませんけれども、処理の技術を持っているところに返すというふうになれば、ごみの問題の中でも、螢光灯なんというやっかいなことについては消えてしまいます。まず、つくった者が責任をとるという原則の確立、これがどうしても早急に行なうべき問題だと思います。  それから次に、PCBの全面的使用禁止ということについて、私、必ずしもいまのところ踏み切れないということを最初に申しましたように、簡単に代用品にかえてしまうことはもっとあぶないということがございます。そこで、私が注意深く静観するという妙なことを対策として申しましたのは、あわててもっと毒なものを使うようなことはやめてもらえないだろうか。PCBならまだどこに流れ出してどこへたまったかということは、追いかけようがございますが、いま電機メーカー感圧紙メーカーがあげております化合物はもっと物騒な可能性が強い。  それから、どうしても許容量というものをきめなければならないのでしたら、やはり私どもからだがほかのいろいろな化学物質でむしばまれているということを考慮した上で、アメリカ並みなどというふうな甘いものではだめだろうということが言えます。この点で実は、政府の研究はほとんど進行しておりません。科学技術庁を中心に特別研究が去年始まったはずでありますけれども、その経過をいろいろ伺ってみますと、実はまだ分析法の検定の段階がおもであるというふうなことを聞きました。しかし、分析法の検定などというふうなことをやれば二年や三年はすぐたってしまいまして、それからPPMが高いの低いのというふうな議論をやっているうちに手のつけられない状況になります。それよりは、たとえば私——私ははかれませんが、ある研究室では高い数値が出る、ある研究室では低い数値が出るという現状をはっきり承知して、両方で並行してはかって、ある係数でもかけて比べればいいのでありまして、分析法の検討なんということをいまごろやっているような対策では全く手おくれだということは言えます。  それから、これはたいへん余談でございますけれども、私どもPCB調査してまいりました活動は全部手弁当でございます。私、東京大学におりまして、公害の研究のために国からあるいは大学から研究費をもらったことは一度もございません。日本の公害の研究というのはこういう状況でございます。それでいて、いま公害という名前をつければ、どういう先生でも、研究費は幾らでもくるというのが常識になっております。私は、こういう現状にいやけがさしまして、このごろは研究費の申請を一切行なっておりません。自費でやることにいたしました。もう片方で、しかし、三千七百万というふうな巨大な金がこのPCB調査費としてかけられておる現状でございます。それが分析法の検討というふうなことで大部分食われておるのが実情でございます。
  44. 浜田幸一

    ○浜田委員 私は、あと一点だけお伺いしておきたいと思います。大橋参考人采野参考人にお伺いをします。  いまの宇井参考人と私の質疑をお聞きであったと思いまするけれども、私が、この問題の解決のためにまず第一に参考人にお伺いをいたしたいのは、回収の原則ですね、この原則だけは貫いていただかなければならないと思いますが、当初その意思については発表がございましたけれども、あらためてあらゆる努力を尽くしても回収の原則はお守りいただけるかどうか、この一点をお伺いしておきたいと思います。
  45. 大橋清男

    大橋参考人 回収の原則は貫きます。
  46. 采野純人

    采野参考人 回収の原則は、私ども守ってやりたいと思っております。
  47. 浜田幸一

    ○浜田委員 私は、宇井参考人に対して、非常に御懇切なる御指導を賜わりましたことを心から感謝を申し上げます。  同時に、あと二分間だけ私の持ち時間がございまするけれども、林委員から関連質問をさしていただきたいという申し出がありますので、委員長ひとつお許しをいただきたいと存じます。どうもありがとうございました。
  48. 田中武夫

    田中委員長 林義郎君。
  49. 林義郎

    ○林(義)委員 浜田委員の質問に関連いたしまして、簡単にお尋ねいたします。  時間もありませんから、できるだけ簡単にお答えいただきたいと思いますが、宇井さんからお話がありました中で、PCBの代替品というのが非常に問題であるというような話がありました。トリフェニールとかアルキルナフタリンというような代替品があるけれども、そういったもののほうがかえって毒性が強いのではないか、しかも、これはわからないという話であります。この点につきまして、大橋さん、采野さん、こういった問題を企業家の立場としてどういうふうに考えられるのか。おそらく両社ともりっぱな技術陣を持っていられることでありましょうから、その辺について御検討しておられることがあれば、この機会に発表していただきたいと思います。
  50. 大橋清男

    大橋参考人 代替品と申しますか、このPCBの特性というのは、不燃性ということが非常に大きな特性なんでございますけれども、この不燃性にかわる代替というものはちょっといまのところないと思います。それからあと誘電率が高いとか、耐圧性がいいとかいうものが開発されると思いますけれども、しかし、従来ただそういう機能ばかりを非常に追求しておった。今後は、先ほども申し上げましたように、その毒性というものをやはり第三者の方、先生方によく御研究をお依頼して、そして毒性がないということが客観的に証明されるべきだ。私どもは、そういう方向で今後新製品を開発していきたい、かように考えております。
  51. 采野純人

    采野参考人 いま大橋参考人から御説明されましたが、やはりいままではどちらかというと、化学品についての毒性といったようなことについては、業界全般でわりに注意を行き届かしていなかったという傾向にあったことは事実と思います。政府のほうでもやはりそういうもの全般をやっていかなければならぬというなにが出ておりますが、私どもとしましても、今後はそういう点に十分注意をいたしましてやらなければならないというふうに考えております。
  52. 林義郎

    ○林(義)委員 私がお尋ねしたいのは、いま申しましたトリフェニール、アルキルナフタリンというものが代替品であるというようなお話がありました。こういったものは、一体その毒性というものについてどういうふうに考えておられるか、その点はお調べになったことはありませんか、どうですか。この点をお尋ねしたいと思います。
  53. 大橋清男

    大橋参考人 私どもはまだ代替品を開発いたしておりません。
  54. 林義郎

    ○林(義)委員 技術者の方にもついてきていただくというような話にさっきなっていたと思います。技術関係の方が来ておられたら、その方から御答弁いただきたいと思います。
  55. 田中武夫

    田中委員長 林君に申し上げます。  参考人以外は答弁できませんので、それじゃ大橋参考人にちょっと技術者と打ち合わせをしていただきます。
  56. 大橋清男

    大橋参考人 いま御指摘のものをうちでつくっておりません。
  57. 田中武夫

    田中委員長 林君、もう一問だけ許します。
  58. 林義郎

    ○林(義)委員 他社でやっておられるということであるから、おそらく言えないということであろうと思いますが、私は、やはり鐘淵化学さん、三菱モンサントさん、いずれも化学工業の雄たる会社であります。やはり業界の中でもこういった点について十分配慮していただくということをお願いいたしまして、私の質問を終わります。
  59. 田中武夫

    田中委員長 次に、島本虎三君。
  60. 島本虎三

    ○島本委員 鐘淵化学大橋さんにちょっとお伺いいたしますが、感圧紙は四十六年二月に中止、開放性のものは昨年の末で中止した、それから閉鎖性のものはこれから規制する、そうして環境汚染を自主的に解決しようとする努力を、六月の末までに全部生産を停止するというただいまの報告がございました。私は、この報告に基づいて、去年からまた本年、また六月までに規制するというならば、この毒性がわかった現在、なぜ即刻に中止しないのか、いまから六月までの間生産したものを何に使うのか、閉鎖系で使ったもののあとの責任はどうなるのか、当然これが疑問になるわけであります。したがって、その点に対しまして大橋参考人采野参考人にこの点特にお願いしたいと思います。
  61. 大橋清男

    大橋参考人 先ほど申し上げましたように、通産の指導が九月一日以降、それから熱媒につきましては四月一日以降その機器の生産を中止しろという御要請がございました。それで私ども、それにあわせた経過措置と申しますか、そういうような考え方で一応の六月三十日ということを設定したわけでございます。と申しますのは、まず第一に、国鉄なんかの関係、官公庁の関係、そういうものを、すぐこれをやめますと非常に混乱が起こるのじゃないかという配慮がございます。  それから第二点。これは私ども輸出をいたしております。輸出をいたしておりますと、どうしても契約輸出でございます。直ちにその契約破棄ということは非常に困難なのでございます。だから、そういう輸出に対する配慮、それによりまして六月三十日ということを一応暫定的にきめたわけでございます。しかしながら、これがユーザーの方に御迷惑がかからない、輸出というのも契約破棄ができるところがあれば、あえて私ども六月三十日ということにこだわっているわけではございません。これはあくまで商的な問題でございます。特に輸出はほとんどアメリカでございまして、アメリカの契約破棄というのは、非常に大きなペナルティー問題とか、いろいろな法律問題とか出てまいりますので、あれやこれやのいま申し上げましたような点で、六月三十日ということに一応いたしておるわけでございます。あえてそれに固執しておるわけではございません。
  62. 采野純人

    采野参考人 先ほども申しましたが、私どものほうは、実はもう三月十一日でやめたわけでございますが、かかる環境汚染と、それから毒性という問題が昨年来強調されまして、私どもとしては昨年度から調査を済ませまして、ことし三月の十一日でこれを中止をするということにきめたわけでございます。
  63. 島本虎三

    ○島本委員 次に、采野参考人にお伺いいたしますが、先ほどの、御存じのように宇井参考人の御意見によりまして、アメリカではこの一社、モンサント生産量用途、これを公表しなかった。しかし、その毒性については多分に研究が進められておったが、その後に日本であなたの会社と一緒になって生産を始めたようであります。もう生産の当初から毒性についての疑問、また、これを生産することによって国民に与える被害、こういうものが予想されておったはずじゃないか、こういうように思われるのですが、アメリカのこの現状からして、なぜその当時においてこの生産に踏み切ったのか。こういうようになってから、早くこれを中止したということはいいことには相違ありませんが、その以前にもうすでに知っておったのじゃないかと思うのでありますが、この点についていかがでございましょう。
  64. 采野純人

    采野参考人 この件につきましては、実は私どもが建設を完了いたしまして商業生産をいたしましたのが四十四年の六月でございますが、その前の時点には、あやしいという報告は、四十四年の初めにサンフランシスコ・クロニクルという新聞に出ておりまして、あやしいということは聞いておりました。ところが、先ほどからお話しがありますように、まだ人体への毒性とかいうような点がもう一つはっきりしないというような状況でありましたので、私どものほうとしましても、モンサントのほうからもこれが絶対にあぶないというようなインフォーメーションもございませんまま、それから、昨年まで、どのくらいあれば人体に影響があるかというようなこともはっきりいたしませんでしたので、生産は続け、販売は続けるという状況で推移をしたわけでございます。
  65. 島本虎三

    ○島本委員 その時点において、もうすでにアメリカ等においての調査や、またはその後調査することによってわかった、アメリカでは一切秘密にしておったということでありますから、もうそれはすでにおわかりだったと思うのです。  もう一つ聞きますが、両参考人ともに、回収の原則を守ると、先ほどこのように御発言がございました。それぞれに、使ったあと廃棄物の処理に対しては、どういうふうにしてその回収の原則を守ってあとの処理をするつもりなのか。専焼炉というようなものをつくるつもりなのか。そうするならば、これをどういうふうにして、いまの日本のいわば環境汚染の現実に対して公害をなくするようにするのか。先ほどはいろいろ、環境汚染を自主的にやめるといういいことばが出たのであります。そうすると、具体的に出回っているものに対して、専焼炉と申しますか、専門にその焼却炉をつくって、それで焼く以外にないのじゃないか、こう思われますが、この計画はどのようにお持ちでございましょう。
  66. 大橋清男

    大橋参考人 私どものほうにはすでに燃焼炉を持っております。これは千四百度の温度で燃焼するという方法をとっております。そこからやはり塩酸が出ますけれども、これも許容量内に入っておりまして、PCBは検出せずという結果が出ております。だから、その炉を使ってやっていきたいというふうに考えております。
  67. 島本虎三

    ○島本委員 それは全国で何カ所ぐらいを予定してございますか。
  68. 大橋清男

    大橋参考人 現在のところ、どういうふうに返ってくるか、たとえば末端のユーザーから電機メーカーコンデンサーなりあるいはトランスなりがどういうふうに返ってきて、そしてそれを抜いてどういうふうに燃すか、とにかく、先ほども申し上げましたように、トランスコンデンサーというもののつかみ方が、やはり電機メーカーの方の御協力を得ないとできない。だから、そういう御協力を得て、そしてその数字をつかみながら、われわれの持っております専焼炉の能力に合わせて計画的に燃焼いたしたい、こう考えております。
  69. 島本虎三

    ○島本委員 幾つあるのですか。
  70. 大橋清男

    大橋参考人 現在私ども一個でございます。
  71. 島本虎三

    ○島本委員 そうすると、全国でいままでの回収した分に対しては、原液の液状のものもあり、それから感圧紙のような、こういう複写紙のような、こういうような紙状のものもあるはずであります。そういうようなものに対しての専焼炉は、同一のものであってはならないのじゃないかと思いますが、全国の在庫もある、それからまだ六月までつくる、これに対しては一個で間に合うのですか。それでもって完全にやれるという企業良心なのですか。その点については、一カ所でやれるという考え方では私は納得できませんが、モンサントさんのほうはいかがでございますか。
  72. 采野純人

    采野参考人 いまお話しがありました原則というのは、私どものほうは、たとえば螢光灯であれば、螢光灯をつくったメーカーのほうで回収をしていただいて、実は私どもの持っております炉というのは、液体であれば燃せるというような形になっております。コンデンサーとかトランスだとかいったものを、そのまま廃物として出た場合に、燃焼ができる形にはなっておりません。それからPCB分を抜いていただいて、いわゆる液体の状態として私どものほうにお送りいただきまして、それを私どものほうでは燃して無害にするというような方式の炉でございます。したがいまして、固形物になった廃棄物は、そのまま送っていただきましても私どものほうでは燃せない形になっております。私どものほうとしては、液体の形にしていただきまして戻していただきましたら、それを燃すという形で現在考えております。
  73. 田中武夫

    田中委員長 大橋参考人はいいですか。
  74. 島本虎三

    ○島本委員 大橋参考人も……。
  75. 大橋清男

    大橋参考人 回収の原則と申しますのは、言うなればメーカーがつくってからユーザーに売っていく経路を逆に戻すような形になると思います。私どもPCBコンデンサーあるいはトランスメーカーに売って、そのメーカーがさらに各使用者に売っておるわけでございます。だから、私どもの回収と申しますのは、電気機器の回収というふうには解しておらないわけでございます。あくまでその中に入っておりますPCBの液体、これを焼却する、そういうように回収の原則というものを理解いたしておるわけでございます。したがいまして、そういう機器その他はやはりおつくりになった電機メーカーさんで処理していただかなければならない、かように私ども考えておるわけでございます。
  76. 島本虎三

    ○島本委員 そうすると、回収の原則を守るということ、これはやはり鉄則でございまして、そういうふうにしてもらわなければならないのでありますが、その中で、三菱さんのほうでは、では、回収してどういうふうにしてこれを処理なさるのですか。それと同時に、複写紙のようなものに対しては、これはどういうふうにしてやるのですか。全国の在庫と合わせて、これは一個の専焼炉くらいではどうにもなりませんけれども、これはどういうようにお考えでございましょうか。いま三菱さんのほうでは、ないように伺ったのですが、おありになるのですか。
  77. 采野純人

    采野参考人 私どものほうで現在持っておりますのは、塩化ビニール工場塩化タールというのを燃す炉がございまして、これはやはり千四百度ぐらいの温度で、液体が燃せるような形になっております。私どものほうに現在までユーザーから戻ってまいりました廃油は約十五トンぐらいございまして、これはその塩化タールを燃します塩化タール燃焼炉で焼却をいたしました。それから四日市工場廃棄物を燃す汎用炉としまして、さらに現在焼却炉を建設いたしておりまして、これは四月末に完成をいたします。これもやはり液体を燃すという形になっておりまして、この両方を使いまして私どもは液体であれば燃せるという形になっております。  それから、いま御質問がありました感圧紙のことにつきましては、私どもも現在の時点でどういうふうにして回収し、無毒化をしたらいいのかということについての具体的な対策は持っておりません。
  78. 島本虎三

    ○島本委員 これは重大なことでございます。回収の原則は守っても、現在あるものに対してどのようにして回収するかの方法がまだ不分明なようであります。それに対しては原則ははっきりしていても、責任ははっきり持っても方法がない、こういうようなことでありまして、まことに私は残念に思います。  それともう一つは、鐘淵化学大橋参考人に伺いますが、いまあなたのおっしゃった専焼炉で処分する、その場合には塩素も出るとおっしゃいました。この塩素を除去する装置が当然必要じゃないかと思うのでありますけれども、これに対しては何にもこれは害がない程度だというだけの話でありますが、この除去装置に対してはどういうふうになってございますか。
  79. 大橋清男

    大橋参考人 私は事務屋で、名前はちょっと失念いたしておりますが、除去装置はついております。
  80. 島本虎三

    ○島本委員 この専焼炉で処分をする、よくわかりました。そうすると、あなたは塩素が出るとおっしゃいました。塩素が出るけれどもたいした問題じゃないから、これは気にかけなくてもいいということをおっしゃったようでしたけれども、この塩素を除去する方法は当然なければならないし、塩素の除去装置というようなものは当然ついていなければならないが、それをつけて塩素も完全に除去しているということなんですか。それとも塩素が出るのが少ないからその点においてはまだたいしたことはない、こういうわけですか。その点をこの際ですからはっきりしておいていただきたい、こういうことです。
  81. 大橋清男

    大橋参考人 塩素はアルカリで中和する装置をつけております。したがいまして、安全というふうに考えております。
  82. 島本虎三

    ○島本委員 現在時点で安全、よくわかりました。なお私も調べてみますが、その点についてはなお一そうの御研究を願いたいと思います。  ノーカーボン紙、こういうようなものについて、PCBのいろいろな現在こういうような被害が出てまいりましたけれども、代替品の化学名と申しますか、何でやっているのか、これもこの際ですから、ひとつ明らかにしておいていただきたいと思います。この代替品についてはお考えございませんか。やる意思はございませんか、また現にやっておりませんか、そのお考えをこの際お伺いしたいと思います。
  83. 大橋清男

    大橋参考人 代替品と申しますと、結局PCBにかわる代替品と申しますと、先ほどもちょっと触れましたように非常に誘電率の高いもの、それから耐圧のいいもの、いまの代替品——昔の鉱油でございますと、御承知のように非常に誘電率が低うございます。そういう関係で非常に容量が大きくなります。したがいまして代替品といいますと、いま言ったような電気特性のものが代替品というふうに考えられるわけでございますが、私どもの会社におきまして現在需要家の非常な御要望がございまして、早く毒性のない代替品を開発しろという御要請がございます。現在その研究はいたしておりますけれども、まだこれを開発、販売段階には至っておりません。
  84. 島本虎三

    ○島本委員 この際ですから最後に一つだけはっきりさしてもらいたいのは、回収の原則を守るという先ほどの御発言、これに対しまして、いま言ったように、複写紙の在庫が多量にあるのじゃないかと思います。これに対して鐘淵化学でも三菱モンサントでも回収については十分配慮して、いわば金の多寡を問わず回収することによって焼却する、それによって完全に無害化をはからなければならないと思います。この焼却炉というものに対して、複写紙ですが、これはっきりしたものがあるのですか、ないのですか。これをもう一回はっきりさしてもらいたいのが一つです。もう一つは、この在庫が多量にある。このものの回収と、いま聞きますと一個しか焼却炉がないというが、この一個で足りるのかどうか、日本国じゅうのもの全部やるのに。もし足りないとするならば何個くらい必要で、今後どういうふうにするつもりなのか。そのお考えも、この際ですから最後にお伺いしておきたいと思うのです。お考えございましたらはっきりお願いしたいと思います。
  85. 大橋清男

    大橋参考人 私どもの専焼と申しますのはPCBの液体の回収専焼でございます。これは解釈はどういうふうにされるかわかりませんですけれども、いわゆるノーカーボンペーパー、こういうものはやはり製紙会社さん、これがおつくりになったものでございます。したがいまして、私どものほうといたしましてはこれは製紙会社のほうで処理されるべきものじゃないかというふうに考えておるわけでございます。
  86. 島本虎三

    ○島本委員 原料は。
  87. 大橋清男

    大橋参考人 原料は、紙とそれからPCB、それによって感圧紙をおつくりになる。したがいましてその感圧紙をおつくりになったところ、ここで焼却処理されてしかるべきものじゃないか。紙の装置は私どもございません。あくまでPCB自体を燃やす装置しかないわけでございます。
  88. 島本虎三

    ○島本委員 それで複写紙のようなノーカーボン紙、いわゆる感圧紙に対しまして在庫がいかにあっても、それは鐘淵さんも三菱モンサントさんも責任がない。これは製紙会社のほうである。したがって、その焼却炉も考えておらない、こういうようなことに承りましたが、そうですか。
  89. 大橋清男

    大橋参考人 おっしゃるとおりでございます。
  90. 采野純人

    采野参考人 もし製紙会社さんのほうでPCBを分けていただきまして、液体として私どものほうに戻ってまいります場合は私どものほうでやれるという形になるわけでございます。
  91. 島本虎三

    ○島本委員 原料を提供してそれをつくった。その紙の中にPCBがある。そのものは分けてくれるならばできるというのは、ちょうどシャイロックとアントニオのようなもので、肉はやるけれども血の一滴だに許さない、これと同じようなもので、現行ではなかなか不可能じゃないか、こう思うのです。それは責任を持たないということ、それはわかりましたが、これは重大なことでございます。もうそろそろ時間になって、この点もう少し詰めたいのですが、残念です。しかしながら、はっきりいたしましたが、この問題の解決は緊急であります。  それで最後に宇井参考人にお伺いいたします。それはアメリカモンサント生産量用途、これが公表されなかった時点でこの毒性というものはわからなかったとおっしゃっておりますが、これはわからなかったのは事実でしょうか。  それともう一つ、先ほど重大な発言がございました。許容基準をつくって環境基準をきめるのは効果がないのじゃないか、こういうような御発言があったのであります。そうすると許容基準をつくって環境基準をつくる。環境基準は守らせる。守ってなおかつ排出量もきめていって、こうやるのがいまの行き方なんですが、そうするといまの環境保全対策は何にもならない。法あっても対策なしということになるわけであります。この点についての御見解を承っておきたいと思います。
  92. 宇井純

    宇井参考人 まず第一の点ですが、日本三菱モンサント生産を始めましたのはたしか四十四年と先ほどお答えあったようですが、その前にはすでにカネミ油症は出ていたはずでございますし、それから労災のほうの毒性は、これは当然周知であったはずでございます。いわゆる塩素挫傷とか、あるいは肝臓がやられるというふうなことは、外国では戦前から、日本でも戦後二十九年にはすでにはっきりした法文があったはずでございまして、これはやはり毒性データとして評価されなかったとすれば、残念だったと考えます。  それから、一般的に排出基準をきめまして、環境基準をきめてというやり方が全部無効かどうか、私まだ結論が出せませんが、蓄積性の毒物である水銀、メチル水銀、PCBDDTというふうなものにつきましては、多くの場合環境の濃度をはかりましても、濃度が低過ぎて分析にかかりませんが、生物の中にはどんどんたまってまいります。そうなりますと、環境基準というものをきめましても、机の上でしかきめられない、あるいは一時水銀のときに議論されましたように、メチル水銀が、たとえば千分の一PPMくらいではどうだといいますと、これはちょうど分析の限界がそのくらいでございますが、そういう水をもし許しましたら、魚の中には一〇〇PPMくらいメチル水銀がたまってきて、全部水俣病になることになります。  そこで、環境に検出することを得ずというふうな基準をきめても、その検出することを得ずのうちでまた高い低いがあって、高ければたまってくる、低ければたまらないというものですから、数字でも文字でも環境基準というものは、こういう物質のときにはまずきめられないと考えたほうがいいのではないかと、私、過去の経験から考えております。ただこれは、私実験屋でございますし、また、世界各地の汚染の現場を見て歩くほうが仕事でございますから、行政の立場からするとどうしても排出基準環境基準と二つのものを、数字か文字できめなきゃならぬのだといわれれば、それはそういうものかと思いますけれども、実際に効果があるかどうかは、こういった蓄積性物質の場合はまず疑わしいというよりも、効果がないであろうという予測を立てております。もちろんBOD物質とか、一般的な汚染の場合に若干の効果はあると思いますが、そのことで実は別に公害があまり減っておらないのでございます。御存じのとおり、基準をきめたから公害が減ったかということになりますと、実は最近の公害行政の進展に伴い公害もまたふえておるような次第でございまして、やはり数字で規制するということにかなり限界があるなということを、私、公害を調査して一般的にも感じておりますが、PCBの場合には特にこれはもう見込みがないというふうに考えます。
  93. 島本虎三

    ○島本委員 ありがとうございました。
  94. 田中武夫

    田中委員長 次に石川次夫君。
  95. 石川次夫

    ○石川委員 参考人にお伺いいたします。  いろいろ質問が出ておりますけれども、私も製造工場にかつていたことがあるんで、大体企業の側というのは利潤追求といいますか、とにかく好意的に見ても生産を上げることを通じて社会に貢献をするという気持ちがどうしても先行して、それにとらわれてしまう。したがって、どうしても世の中にこれが公害であるというようなことが公にされて、責任を追及されるという場にならないと、重い腰を上げないというような共通した態度があると思うのです。これは別にきょうおいでになったお二方にだけ申し上げることじゃなくて、企業に共通の態度ではなかろうか。こういうことを大いに反省してもらわなきゃならぬと思うのは、きょうの参考人のお話の中で、お役所の指導に従ってということばが再三出てくるわけです。しかし、お役所の姿勢自体が、われわれ非常に疑問が多いわけなんです。ところが、お役所の指導がなければやらなくてもいいんだというようなことが、そのことばの裏にくみ取れるということは、非常に私は残念でたまらないのであります。  ということで、簡単に時間がありませんからなるべく要領よく質問したいと思うのでありますけれども、すでに生産量は五万八千三百三十トン、それから輸入量は五百九十トン、そのうち三万トンは大体回収されないで流出をしているであろうというようなことが、ある学者の研究の結果発表されておるわけでありますが、その中で大体三塩化物が四六%、四塩化物が一八%、五塩化物が三一%、六塩化物が五%ぐらいではなかろうか。これは過去十年の実績に基づいた数字でありますけれども、大体これは当たらずといえども遠からずでしょうが、両参考人どちらでもけっこうであります。
  96. 大橋清男

    大橋参考人 私ども、輸入のほうはわかりません。そのほかは、おっしゃる程度だと解しております。
  97. 石川次夫

    ○石川委員 三塩化物が四、五、六となればなるほど濃度が高くなって、非常に安定がよくなって蓄積度が高いというようなことになるわけでありますけれども、このトランスなんかは五塩化物が非常にたくさん使われておるというようなことで、非常に危険なんです。先ほど専焼炉のことについて島本委員のほうから質問があったわけでありますが、モンサントのほうは生産量は若干少ないわけでありますけれども、それでも回収したらわずかに、いまあげた数字から見ると十五トンですね。鐘淵化学さんのほうはどうなのかわかりませんけれども、液体でなければこれは専焼炉としてどうにもならぬということで、鐘化さんのほうは相当多いわけでありますから、十五トンよりはるかに多いとは思いますけれども、現在までに回収されずに放出してあるのに比べると九牛の一毛というかっこうになって、あとはもう液体でなければ回収できません、そしてこれは処理はできませんという結果に、結論としてはなってしまうんじゃなかろうかという点は、どうお考えになっておりますか。
  98. 大橋清男

    大橋参考人 回収につきましてはおっしゃるとおり、現在の能力から申しますとかなり長年月かかるということになろうかと思います。しかしながら、今後の実態としての回収でございますが、たとえば電気メーカーから返ってくるトランス油あるいはコンデンサー油、そういうものがどういうふうに返ってくるか、これは電機メーカーの方の御協力を得まして調査いたしまして、その調査に基づいて、今後どのような燃焼設備をやらなきゃいけないか、その方法としてやはり電機工業会と共同で、場所はどこになるかわかりません、共同でやはり燃焼炉をつくっていくという方法もあろうかというふうに考えております。何ぶん非常に多量でございますから、やはり元メーカーだけじゃなくて電機メーカーさん、工業会と共同で専焼炉の増設をはかっていく必要があろうかと存じておるわけでございます。
  99. 田中武夫

    田中委員長 采野参考人のほうは……。
  100. 石川次夫

    ○石川委員 一応同じような御返事だろうと思うので……。そうしますと、やはり責任の根源は自分にあるとはお考えになっておらぬわけです、電機メーカーその他の製造会社は。やはり責任の根源は、善意があるかどうかということは別にして、鐘化とやはり三菱モンサントさんだというふうにお考えになっておるし、当然責任としてこれは回収しなければならぬと考える企業はないと思うんです。したがって、私は、たいへん多量に三万トンぐらい回収されずに流出したもののうち、回収できる見通しは非常に少ない、そしてそれが大気汚染あるいは水質汚濁というかっこうになって、流出しっぱなしというかっこうにならざるを得ないのではないか。この対策を一体どうするのか、これはきわめて深刻な問題になりますけれども、これは行政面で考えるということはありまするし、企業の側でも責任をとってもらわなければならぬと思うのでありますけれども、いまのお答えでは国民の側からすればこれは回答なしだ、ほとんどお義理である程度のものを回収して、千度じゃ分解できないから千四百度という温度でもってやるんだ、しかもその中にはPCBの酸化物、これは催奇性を持っておる非常に猛毒な物質塩化ダイベンゾフランといいますか、こういう猛毒性のものまで微量ではあるけれども、入っているというふうなことがありますけれども、それが入っておるかどうかということについて研究をされたことがございますか。モンサントさんでもそれから鐘淵さんでもけっこうでございます。
  101. 采野純人

    采野参考人 私どものほうではまだダイベンゾフランというのが見出せておりません。
  102. 石川次夫

    ○石川委員 しかし、学者の中ではすでにそういう研究がなされておるわけですね。ごく微量ではあるが、きわめて猛毒で、催奇性を持っておるということも発表になっている。企業の側でそういうことが研究されてないということは非常に怠慢ではなかろうかという感じがしてならないわけであります。  御承知のように、これは濃度だけが問題ではないわけです。どんどん蓄積されて、現在東京湾では一二〇PPMPCB脂肪中から検出されたということになっておりますが、どう考えても欧米よりは一けたか二けたか多いという計算が出ております。  それで現在調べられておりますことは、急性の問題として、研究費といたしまして三千七百万ですか、これは科学技術庁から出した予算で、この研究に基づいていろいろなケースがわかってきたということなんですけれども、まことに微々たる予算で、こんな予算ではどうにもならない。きょうはその話をする場じゃありませんから省略をいたしますけれども、その研究の中で、急性だけではなくて慢性のほうの危険性も十分に考慮をしなければならぬと思うのでありますが、慢性のほうまではまだ研究がいっておらぬわけであります。しかし、慢性のほうこそ——脂肪中に集まったものが、脂肪が今度は新しいエネルギーとして転化して急に活動を起こしたという場合に、肝臓や脳のほうにそれが転化をして、いままでのPCBと合体をして急性症状を起こすというようなことの危険性がいま問題になろうとしておるわけであります。したがって、急性だけではこれは問題にならない。したがって、水俣病とかその他いろいろ研究されておりますけれども、それだけではきわめて不十分な研究にしかなっておらない。慢性の研究も十分にやらなければならぬし、臓器の変化を表面的に検査するだけではきわめて不十分だということで、酸素活性や細胞の微細構造とかいろいろなものを研究しなければならぬということになっておると思うのですが、全然そういうところにも研究が行き届いておらないというのが実態で、これでは対応策も何もできないのではなかろうか。したがって、研究費のきわめて不十分ということが問題になるわけであります。  そこで、東京湾では現在〇・〇〇一PPMPCBを含んでおるわけです。これは先ほど宇井さんから御説明があったようないろいろ経路で入っておるわけですが、クルマエビなんかを〇・〇〇一PPMの海水で飼いますと、四十八時間でもって百四十倍になる、ピンフィッシュになりますと、九百八十倍になるというおそるべき結果が出ております。それから〇・〇〇五PPMだと、カニは二十日間で二三PPMになってしまうというようなことになっておるわけでございまして、現在すでにどうにもならない状態になってしまっておるというようなことで、これに対して一体どう対応したらいいのかということは、渡部委員のほうからも先ほど宇井さんのほうに御質問がありましたけれども、これはもうほとんど対応策がないというような実態になってしまっておるわけです。したがって、ある程度基準を設けたところでどうにもならぬ。〇・〇〇一PPMでもどんどん蓄積されていくというのが実態でありますから、まことにおそるべき毒性を持っているものだといわざるを得ない。  そこで、実はこれは明日質問をすればよろしいかと思うのでありますけれども、この代替品の問題で、三菱製紙あたりでは炭化水素系の物質にするのだ、それ以上のことはひとつかんべんしてもらいたい、こう言っておるということを聞いております。ところが、これはたとえばアルキルナフタリンとかその他のものの代替品を使いますと、いま宇井さんから御説明のあったように計測できない、分析技術が確立されておらない、したがって、いまのままのほうがまだいいんだというような可能性があるわけです。そういう点を十分御配慮になって、代替品の開発というものをいま御両社がお考えになっておられるのか。いまいえる段階として、どういう系統のものに置きかえようとしておるのか、これだけ問題が大きくなっているわけですから、いまの段階でどういう代替品が考えられるということをひとつ御発表いただきたいと思うのです。
  103. 大橋清男

    大橋参考人 私どものほうでは、代替品につきましては、トランスコンデンサーオイルの代替品をいま研究中でございまして、まだはっきりしたこれというものは開発いたしておりません。いずれまたこれは開発するようになりましたならば、第三者の専門家によく分析していただきまして、あるいは動物実験なんかをいたしまして、その結果安全であるという結論が出ましたら、またその結論が第三者に認められましたら発売に踏み切りたい。現在のところはまだ開発中の段階でございます。
  104. 采野純人

    采野参考人 三菱モンサントのほうにおきましても、まだ代替品は見出されておりません。研究室のほうで、何とかいいものがあればやることで検討はさせておりますが、まだ出ておりません。これにつきましては、先ほどから御発言がありましたように、毒性というような面を十分考慮いたしまして、あらかじめそういうものをチェックした上で新製品にするというような心がまえでやっていきたいと考えております。
  105. 石川次夫

    ○石川委員 有機塩素剤のかわりに有機燐酸とかカーバメート剤とか、いろいろお考えになっておられるようですけれども、どうもどれを見ても分析技術というものが確立されておらないという非常な不安がつきまとっておりますので、この点については代替品の場合には十二分に事前に慎重な考慮をお願いしなければならぬと思うのです。  それで宇井さんにいろいろ質問したいことがたくさんあるのでありますけれども、何しろ時間がございませんで質問ができないのは非常に残念でありますが、御両社とも、お役所の御指導によってということをよく言っておるのですが、しかし、お役所の御指導がどういうものかといいますと、〇・七PPMの母乳でも六カ月程度であれば特に問題はないんだ、こういうことを厚生省は発表したわけですね。しかし、そのあとよく調べてみると、カネミは成人でもって五百ミリグラムから発病している実績のデータがあるわけです。赤ん坊にこれを換算すると、赤ん坊は抵抗力が弱いということも含めて考えますと、その目方だけの比率で考えても、〇・七PPMなら一日一リットルずつ飲んで三カ月で発病するというデータになるわけです。しかも抵抗力がきわめて弱い。こういうことははっきりしているのに、〇・七PPMなら問題ないんだということを言い切るという、非常にずさんで無責任なやり方は慨嘆にたえないのです。そういうお役所の御指導であればよろしいんだという企業の態度もそれに輪をかけているのではないか。みずからの責任を痛感してもらわなければたいへんなことだと思わざるを得ないのです。  それで伺いたいのでありますけれども、話は全然別に飛躍いたしますが、実は食品添加物なんか私は前から取り上げておりますけれども、一品種について百万円しか予算がついていない。それからお役所の体制は国立衛生試験所毒性部でもってたった十六人の職員なんです。これで三百五十一種類、こまかに分ければ何千品目になる食品添加物の毒性やなんかを検査できっこない。だから、まず許可してましう。ちょっと検査して許可してしまう。許可したあとで何か問題があったら取り消す。こういうのがお役所の指導なんです。事前に慢性のほうまで十分に調べて、対応策を考えながら慢性というものも試験をした後にこれを許可するという体制ではないわけです。  こういうふうな予算の少ないこともあります。科学技術庁の調整費を三千七百万もらって、やっといまのような研究調査が細々と出て、しかも急性だけで慢性のほうは全然手が届かないという状態でありますので、これは国の取り組み姿勢がきわめて怠慢であるといわざるを得ないのですが、新しい問題として、これは宇井さん御存じであろうと思うのでありますけれども、このじん肺の問題でアスベストがたいへん問題になっています。ところが、この肺ガンの原因になっているのがまたアスベストではなかろうか。しかも、世界のどこでも発見されない。都会の中の、東京都でこのアスベストの正体というものはからだの中から発見をされてきている。このパーセントが非常に高いのです。アスベストが含まれているのが、日本の場合は大体四八・三%。アメリカあたりでもそういうことになっている。日本はもっと高い。ブレーキライニングなんかも問題になっている。これは新しい問題が、PCBと同じように、肺ガンが非常に激増しているという原因として発見をされようとしているわけです。こういうものに一体行政をどう対応したらいいのだ。これは、PCBの問題と同じ問題が次々に出てくるわけです。しかも国立衛生試験所の毒性部では、現在は十六人から若干ふえているかもしれませんが、こんなていたらくで一体国民の健康と生命を守れるのか。しかも一体どこが責任で、中心になってやるのか。こういう体制が全然もう五里霧中というかっこうになっておるので、これをどう考えるか。私のほうもちょっと考えあぐんでいるわけですが、宇井さん、何かお考えがあったらお知らせを願いたいと思うのです。
  106. 宇井純

    宇井参考人 確かにおっしゃるとおりに非常に深刻な事態になっておりまして、この間の議論で、ここまではやれるがここから先はこういう考え方でいくほかはないというふうな大体の見当が私にもできてまいりました。それは、まずここまではすぐやれることではないかと感じますのは、新しい製品をつくるときに、それが何を使っているかということをまずやはり国民には知る権利があるのではなかろうか。企業秘密だから中身が言えないということでは、われわれの体内にどんなおそろしいものが入ってくるかわからない。やはり国民の立場からいたしますと、新製品というものはほんとうに安全なのかどうかを知る権利があり、つくるほうはそれをはっきりさせる義務があるというふうな考え方が根本に現在必要だろうと思います。  その次に、今度は実際の政治の問題といたしまして、確かに御指摘のあるような行政の立ちおくれ、またこれまでの制度が不十分だったということを、私も別に告発する側としてではなくて、自分の仕事としてやはりそういう仕事に携わっておりますので、つくづく痛感いたします。環境庁とか厚生省とか、あるいはいろいろな研究所へ参りますのは、私どもの卒業生でございます。そういうふうな安全性の考え方がきちんとたたき込まれていない学生をこれまで出してきた私どもの責任を痛感するものであります。しかし、助手という立場におりますと、学生の教育には責任を持ってはいかぬというたてまえになっておるんだそうでございまして、私もそういうことでやむなく夜間講座を自分でかってに非合法に開いておるような次第でございます。現在の教授、助教授たちにはこういった毒性環境という問題について全くセンスがないままに公害の研究費をとっているというのが残念ながら事実でございまして、この問題に対して私もやはり格闘をしている最中で、これがうまくいくかどうかちょっと見当はつきませんが、できるだけやってみようと思います。私どもが見ておりましても、こんな心がまえでいいんだろうかと思うような学生が環境庁や厚生省に就職していくのが現状でございまして、残念ながらこれは何とかして早いうちに直さなければならない。あるいは東京大学というものをなくしたほうがいいんじゃないだろうかとときには思ったりすることもあるぐらいでございまして、その点はこれからは努力していこうと思います。  ちょっと横道にそれましたけれども、アスベストの問題、確かに御指摘のとおりでございます。しかも肺の中だけではなくて、胃のほうにもだいぶ入るらしいということをアメリカ学者が最近指摘しております。なぜ日本人は胃ガンが多いのかということが世界的に有名な事実になりまして、いろいろ調べてみたところ、一つの原因と考えられるのは、米のつき粉の中に微量のアスベストがどうもまじっていることが確かめられて、これが原因ではなかろうかという論文を、私、外国から送ってもらったことがございます。これはアメリカの研究ですが、アメリカ日本の胃ガンの研究をやってくれているというふうな現状でありまして、日本の危険物質の研究もこういうふうにはるかにおくれている。  その上、ほかの機会にも私、申したことでございますが、日本は公害が一番ひどくなっておりまして、われわれのからだは一つでございますから、いろいろな毒物を受けとめております。それを外国並みの基準外国並みの対策でいいはずは全くないのであります。ところが、学者にしましても行政にしましても、外国並み、アメリカ並、ドイツ並みだからいいだろうというふうなことをしばしば言います。生活の違いやそういった食品添加物などの条件の違いを考えますと、日本基準は世界一きびしくてもおかしくはないのでありまして、そこの考え方をやはりきちんときめる必要がございます。先ほどの、〇・七PPMならいまのところ病気が出てないから赤ん坊に飲ましてもだいじょうぶだろうというふうなことを責任ある厚生省の係官が言うようでは、私ども心配でとても行政にまかせることはできません。といいましても、私の手元にあります分析の機械というのはきわめて限られたもので、結局われわれの食べるものを全部分析するというわけには事実上まいりません。そうすると、相当きびしい基準をそれぞれの物質について定める。それでもどうにもならない分がございます。どうにもならない公害の進行というものはやはりございます。これに対しては、やはり現実を直視するほかないと思います。  たとえば、われわれがどれほどこれまで現実を直視してこなかったかという一つの典型的な例がこのPCBでありまして、カネミ油症の報告は、実は日本政府がこの六月にストックホルムで開かれる人間環境に関する国連総会に提出いたしましたナショナルリポートの中には一行も書いてないのでございます。水俣病やイタイイタイ病については、一部メチル水銀やカドミウムで健康障害が生じた地域もあると書いてあるだけなのでございます。こういうふうな事態の把握が日本政府がいま外に向けて出しておる報告でございまして、こういう把握では、おそらく公害の現状というものは、いままでの行政のワクの中でちょっと数字を操作すればできるだろうというふうな甘い対策しか出てこないのではなかろうか。やはり現実を、カネミの油症患者は一体何人あったのか、はっきりだれが見てもわかる患者が何人で、かすかでも何か普通の人と違う症状が何人出たのかというふうなことからもう一ぺん洗い直さなければ、この問題も先へ進まないように考えます。  これは確かにかなりの部分まで私ども科学者の責任でもございます。それでもだめな分はどうするかということを実はよく外国へ行くと聞かれまして、いやわれわれ先に死ぬから、私のからだを引き取ってよく解剖して何がたまっているか調べてみてくれというふうな話をするのですが、その点でも日本はおそらく世界で一番汚染が進んでいて、この効果がここ十年ぐらいのうちに社会のトップに立つ人から出てくるのではなかろうかという危惧を持っております。先ほど、高級な食べ物ほどPCBが多いといった例がございますが、同じような問題が重なってまいりまして、社会のトップに立つ人に何かわけのからない病気がだんだんふえてきて、社会全体がつぶれるような事態にならなければいいがということを、いま全国の公害反対運動の人たちは真剣に心配しております。  これはほんとうにお答えになりませんけれども、事態はそういうところまで来ているという認識からまず出発するほかないのではなかろうかというのが私の根本的な態度でございまして、そこまで腹をきめれば——また、これからあぶないものは一切使わない、PCBでも失敗したし、水銀でも失敗したのだから、もうあぶないものは一切使わないというふうな態度が最も科学的ではなかろうか。しかし、現に感圧紙PCBがだめだから、何かわけのわからない、綜研化学のSKオイルというふうなものを、動物実験してみてもさしあたり変化がないようだからやってみますということが現に感圧紙では起こっておるのでありまして、それくらいだったら、多少不便でも、昔の手書きのカーボン紙でしばらく現状を凍結しておいて、その間にそれにかわる便利な物質、そして安全な物質をさがそうというのが科学的な態度ではなかろうかと考えます。
  107. 石川次夫

    ○石川委員 ありがとうございました。時間がないのでこれでやめます。
  108. 田中武夫

    田中委員長 次に古寺君。
  109. 古寺宏

    ○古寺委員 時間がございませんのでまとめて御質問申し上げますが、第一番目には、PCBが有害な危険物質であり、かつ、環境汚染につながるということを十分に承知していながら、なぜ企業側は自主的にこの製造を中止しなかったのか。また、現在一億国民が一億総油症の不安におびえているわけでございますが、この点についてどういうような責任を感じていらっしゃるか。  次は、公害は労働災害から始まるといわれておりますが、企業内に現在PCBの中毒による職業性疾患と思われるような患者が発生していないかどうか。  第三番目は、現在PCBのストックはどのくらいあるのか、また、この適正使用についてはどういうふうにお考えになっているか。  第四番目といたしましては、環境汚染度の調査が今後必要になってくるわけでございますが、その調査に際して、当然汚染源、また汚染経路、そういうものの調査が必要になってまいりますが、PCBの銘柄ごとにどういうふうに現在までPCBが使用されたかを企業側として公表するお考えを持っているかどうか。  以上の点についてお答えを願いたいと思います。
  110. 大橋清男

    大橋参考人 有毒なのになぜつくっておったかという問題でございます。先ほど申し上げましたように、PCBは電気特性が非常にすぐれておるというので、電機メーカーなりそういう機器をつくっておられる方々の非常に強い要請があったわけでございます。特にこれは不燃性という防災上の特徴がございます。そういう関係でぜひつくれということでつくってきたわけでございます。しかし、その毒性に対する認識というものは、仰せのように、非常にわれわれ認識の程度が浅かった、その不明は重々わびておるわけでございます。  それから労働災害でございますけれども、私ども昭和三十年から電機工業会とともに、PCBの、たしかウサギの実験をいたしました。それからいろいろなデータを出しまして、その作業者、取り扱い者はかくかくの注意をしなければいけないということで、作業環境の改善につとめてきたわけでございます。それにつきまして、私どもの会社におきましては、毎年二回血液あるいは尿の特殊の検診をいたしております。現在私どものオペレーター、実際に現場で作業をしております中からは、そういう皮膚疾患とかあるいはほかの症状が出ておる者は一人もおりません。  現在、私どものほうにはストックはございません。いわゆる注文生産で、そういう関係でストックは持っておりません。
  111. 采野純人

    采野参考人 まず最初に、PCBが非常に毒性があるにもかかわらず企業が続行していたということについての責任はどうかということでございます。現在の時点で見ますと、われわれのほうがまことに不明でありまして、恥じ入るのみなわけでありますが、実は私どもがやりました時点では、企業をスタートいたしました時点では、まだこれほどまで汚染が進み、毒性もあるといったようなことが私どものほうに認識されてなかったということが、いま考えますと非常に恥じ入るだけだという感じがいたします。  それから企業の中に患者がいますかどうかということにつきましては、私どもの会社は、ほかの化学品も含めまして健康診断、血液の中の濃度だとか肝臓の状況だとかということを定期検診いたしておりますが、PCBの現場につとめております作業員の中からは、昨年の夏一名、皮膚に発疹が出たのがあらわれまして、これは約一カ月でなおったのでありますが、それがPCBの影響であったかどうかということにつきましては、現地の医者でもってそのとき調査をいたしました。その結果は、はたしてPCBの影響であったかどうかということについてはよくわかっていないという状況でございます。  それから、ストックにつきましては、現在ございません。市場にストックはございません。  それから、使用先を公表するかどうかということにつきましては、私ども公表をいたしたいというふうに考えております。すでに通産省のほうには御連絡をいたしております。
  112. 宇井純

    宇井参考人 第二項の、現在労働災害の中毒者はあるかどうかという問題について、私、必ずあると判断しております。ただ、現在の労災の補償のからむ調べ方では、絶対につかまらないかあるいは表へ出ないであろうということでございます。あっても発表しないと申しますか、現在の私どもの知る限りの労働衛生医学というものが、典型的な患者だけを労災として認定するという考え方が強うございまして、何かわからないけれども毒があるのではないかという安全性の考え方が徹底しておりません。ですから、日本の公害の被害者は二重に不幸であります。まず公害にやられます。そして今度は医者にかかりますと、主として労働衛生関係の文献にはっきりと症状が出ている例でなければ認めてくれないという習慣のついたお医者さんに見られて、おまえは公害病ではないと言われるのです。このことがあらゆる部門で出てまいります。水俣病の原因究明があれだけ長引き、さらに今度は隠れ水俣病というふうなものが残ったのも、実はこの労働衛生の考え方が公害病に適用されたからであります。イタイイタイ病の原因についての幾多の議論もさようでございます。そしていまPCB中毒につきましても、私は、当然工場の中で蒸気を吸いあるいは手につくような環境でしたら何らかの変化は出てくるはずではあっても、典型的な皮膚症状ではないとか、あるいはいま伺いました血液、肝臓、尿というふうなところにはPCBの影響というものはあまり出ません。相当脂肪の中へたまってから影響が出てくるのでありまして、そういうはかり方ではおそらくつかまらないだろうと思います。  それから用途公表につきましては、これは当然であります。私ども昨年、日本需要調査を何とかかんとかしていたしましたところ、実はそれが世界で唯一の用途がはっきりしている例でございまして、それを使いまして全世界のPCB汚染経路を推定するというふうな離れわざをやりました。これはいろいろなところの協力は得ましたけれども企業側の協力と役所の協力が思ったように得られなかったのが実情でございます。同じようなことを日本の工業製品のかなりの部分についてこれからやらなければならないのではなかろうか。特にこの機会に申し上げておきますと、芳香族系の塩素化合物についてはわりあいにPCBが取り上げられて脚光を浴びましたけれども、いわゆる脂肪族系の塩素化パラフィンとか、あるいは塩化ビニールの合成の際出てまいります廃油とか、あるいは去年の科学アカデミーで問題になりましたのは、フレオンとか、いろいろなハロゲンを含んだ有機化合物がございます。これがどういうふうに世界じゅうでつくられて、どう海の中へ入ってどうわれわれのからだにきているかというあたり、まだほとんど研究が進んでおりません。少なくともこれほど海に依存することの大きい日本という国は世界で最も早くそういうふうな問題点を明らかにすべき立場にあると思います。ところが、たいへん残念なことに、日本の海洋汚染を代表する学者として私ごときが外国に呼ばれるというふうな惨たんたる状況でございまして、この点は日本の海洋学者にも大いに海洋汚染に目を向けていただいて、日本、特に世界で最もよごれているとだれしも認める日本近海の汚染状況とその経路について、はっきりした報告を早急につくることが国際的な責任でもあるだろうと考えます。
  113. 田中武夫

    田中委員長 次に米原昶君。
  114. 米原昶

    ○米原委員 いままでの質疑応答の中で、だいぶ問題がわかってきましたが、第一に、私、大橋参考人采野参考人にもう一点だけお聞きしたいんです。  いままでのお話の中で、PCB生産を開始された時点では、これがどんな毒性を持っているかというような点について非常に認識が足りなかったということをお二人とも言われました。ですから生産開始したときに、その製品が最終的にどのように処理されるものかというようなことも十分に考えておられなかったように思いますが、一点だけ考えるのは、少なくともあのカネミ油症事件が問題化した時点では、PCB毒性について深刻に考えられるべきだったのが当然だと思うのでありますが、あのときにこの問題についてどういう検討を行なわれたか、またはそういう検討は全然なかったかどうか、その点についてお聞かせ願いたいんです。
  115. 大橋清男

    大橋参考人 あのカネミ油症事件につきましては、私ども全く予測しておらなかった、非常にアクシデントだと思います。あれだけ大量に使われ、入ったとかいうことを聞いておりますけれども、これは一つのアクシデントであって、その因果関係なんかいろいろわれわれ考えましたのでございますけれども、はたして結論的にどうなるかということを非常に疑問に思いながら需要家の要請に従って製造をやってきたわけでございます。
  116. 采野純人

    采野参考人 いま大橋参考人からおっしゃいましたと同じようなことでございまして、私どももこれはあくまでアクシデントであった。でありますから、電機用その他については非常に管理をよくしてやっていけばいいんじゃなかろうかというふうな考え方で推移をいたしておりました。
  117. 米原昶

    ○米原委員 カネミ油症事件にはもちろんアクシデントが若干加わっているのは事実ですけれども、しかし、それがどんなにおそるべきものかということは、少なくともあの時点でわかるし、ですから今後少なくとも製品の管理はどういう注意を払わなければならぬかということ、当然あの時点で考えられるのが私はあたりまえのような気がするのですが、そのあたりも十分ではなかったということがわかりましたから、時間もありませんし、第二の質問に移ります。  それは、いまも用途は今後公表したいと言われたことは非常にけっこうなことだと思うのですが、先ほど宇井参考人の発言によりましても、PCBの研究調査というものはまだ十分でない段階——非常に私この問題重要だと思うのです。今後PCBによる汚染調査とかそれに対する対策、治療、そういうものをかなり徹底的に進めていかなければならぬ段階だと思うのです。そういうものに必要な資料ですね。これは工場側が持っておられると思うのです。こういうものを、できるものは公表という手もありますし、あるいは研究者とかそれから自治体なんかで要求した場合にはすべて公開されるということにしていただく必要があると思うのです。これについてお二人の方の御意見を聞きたい。
  118. 大橋清男

    大橋参考人 PCB環境汚染につきましては、当然企業側としてもそういう面で協力すべきだと考えております。
  119. 采野純人

    采野参考人 われわれのほうも私どもが持っておりますものは出して協力をいたしたいというふうに考えております。
  120. 米原昶

    ○米原委員 それから宇井参考人にお聞きしたいのです。  宇井さんの意見では、先ほど、ちょっと発言ありましたPCBを全面的に禁止できたらいいにきまっているんですが、必ずしも全面禁止でなくて、もっと注意して若干は使ったほうが、現実にはそういう処置をとったほうがいいんじゃないかということをちょっとおっしゃったので聞くのですけれども感圧紙など、たとえばPCBを使用しなければならない必然性があるのか、また使用のメリットがどんな点にあるのか。代替品は非常に危険なものが多いということを聞きましたので、その点でどういう考えでああいう発言をされたかということをお聞きしておきたい。
  121. 宇井純

    宇井参考人 私も判断に迷うところなのでございますが、感圧紙の場合には、これはいわゆる開回路の使い方でございますし、それに現実に少なくとも皮膚に発赤でございますか、いわゆるはだ焼けが出ている例がございますから、これはPCBは使うべきではないと思います。もちろんいま使われている代替品は大体三通りのようで、一つがトリフェニール、もう一つがアルキルナフタリン、もう一つが先ほど申しましたSKオイルという成分不明のものでございまして、これはいずれも毒性がはっきり——はっきりしないというよりは大体劇物に扱われているものですから、やはり感圧紙に使うのは望ましくないという気がいたします。そういうものを全部やめてしまったら、感圧紙というものが安全なものではできないのだということになりましたら、多少手間がかかってもやはり昔のカーボン紙に戻っていいのではなかろうかというふうに考えます。  それから、その他の用途でやはり閉回路で使われていて、しかも何かの拍子に、先ほど鐘化の方も、モンサントの方も事故とおっしゃいましたけれども、事故で出てくるようなもので、しかもなかなかつかまえにくい、一たん環境に出てしまったらどこへ行ったかわからないというふうなことになりますと、まだ札がついているだけPCBのほうが安全といいますか——安全とは言えませんが、まだ行き先がわかるだけありがたいというものがございます。  そこで、事故ということについてやはり私ども事故だからこれは心配ないだろうというふうな考え方をこの際ほかの物質に対してもはっきり捨てる時期に来たのではないかと考えます。ですから、ただいま申し上げましたような代替物質、もうすでに古くからいろいろな用途に使われておりまして、やはり丁寧に調べればおそらく同じような事故を起こしているはずであります。その事故を丁寧に調べてみれば、やはり慢性毒性どもかなりはっきりしてくるはずでありまして、過去の例を丁寧に調べることによって、どういう物質が安全かどうかというふうなことを洗い直す段階に来たように思います。私PCBの全面禁止に踏み切れないと申しますのは、そういう、せっかく札がついていて検出しやすい物質というものを、わざわざ検出しにくくて、しかもどれくらいおそろしいかわからない物質に取りかえることが、これは判断の問題といたしまして正当かどうかという疑問がまだ残るのでございます。もちろん行政的指導でともかくとめることにしてしまったんだからとめるんだということであれば、それでしかたがないかとは思いますが、一つの危険物質をやっととめたと思ったら、二つも三つもまたわれわれのからだに背負い込むようなことになれば、これはもっと悪いのではないかという心配をしております。
  122. 米原昶

    ○米原委員 いまの問題は、日本の国内の生産を停止しましても、これはまだ輸入するということがあり得るわけです。あり得るというよりもむしろまだあるんじゃないか、輸入で補うという面が出てきますから。その点は処置のしかたとして考慮する点だと思って聞いたのです。  それから処理の問題ですが、宇井さんにもう一点聞いておきたいのは、田子の浦のヘドロの中にPCBが含まれている。あそこの処理は非常に困っているわけですが、あのヘドロの処理に関して、PCB汚染をも考慮してやらなくちゃならぬという事態になっていると思うのです。何か安全な処理方法があるかどうか、この点について最後に聞いておきます。
  123. 宇井純

    宇井参考人 私の知る限りでは残念ながらございません。先ほど、感圧紙に入ってしまった分については紙屋さんが分けるというふうなことでもない限り無理だと専門のモンサントの方がおっしゃっておられるので、ましてヘドロの場合にはこれはもうどうにもなるまいというふうに考えます。で、世の中にはこういうふうな対策全くなしの公害、科学技術の進歩で対策が立てられぬという種類のものがだいぶこれからふえてくるようなので、この場合はむしろないということを直視するほかないんじゃないかと思います。ですから、ヘドロをこれ以上出さないようにするしか対策はないということでございましょうか。
  124. 田中武夫

    田中委員長 以上をもちまして、午前の参考人に対する質疑は終了いたしました。  この際、一言ごあいさつ申し上げます。  参考人各位には、御多忙中のところ長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただきまして、ありがとうございました。厚くお礼を申し上げます。  午後二時再開することとし、この際、暫時休憩をいたします。    午後一時四十二分休憩      ————◇—————    午後二時十三分開議
  125. 田中武夫

    田中委員長 休憩前に引き続き連合審査会を開きます。  公害対策並びに環境保全に関する件、特にポリ塩化ビフェニール汚染問題について調査を進めます。  午後の参考人として東京歯科大学教授上田喜一君。愛媛大学助教授立川涼君、都立大学助手磯野直秀君、以上の方々が御出席になっております。  この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用中のところ本連合審査会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございました。  申すまでもなく、わが国の産業科学の進歩、技術の革新に伴って著しい発展を遂げ、国民の生活に寄与してまいりましたが、一方では、広く公害問題と自然環境破壊問題が起こり、国民健康被害及び生命への危険を招くことになりました。特に、化学製品等のはんらんする中でPCB汚染問題は、さきカネミ油症事件をはじめとして、各地において人体への被害を生じ、大きな社会問題となっておりますが、その対策につきましては、急務でありながらいまだ未知の分野も多いとされている状態であります。当連合審査会におきましても、参考人各位から貴重な御意見を承り、もって本問題の対策に万全を期する所存であります。つきましては、忌憚のない御意見をお述べいただくようお願い申し上げます。  なお、議事の整理上、御意見の開陳はおのおの二十分以内といたしまして、あと委員の質疑にお答えいただくようお願い申し上げます。  それでは上田参考人からお願いをいたします。上田参考人
  126. 上田喜一

    上田参考人 三人の方がおられますから、私は人体に関することだけを申し上げたいと存じます。  最初に、カネミ・ライスオイルの患者の症状、それからあと現在の人体汚染状況、その間の、どう解釈するかということを申し上げたいと思います。  カネミ・ライスオイルの中毒に関しましては、九州大学の皆さまが研究班をつくられまして、非常に精細に仕事をなされておられます。それでそれらの中毒症状を一括いたしますと、まず皮膚あるいは粘膜にあらわれるものと、それから全身症状にあらわれるものとこう二つに分けられると思います。  皮膚にあらわれますものは、実はこの事件よりずっと前から産業界ではよく知られておりましたことで、特に今回特異的な発見というわけではございませんけれども、大体この塩素の入っております有機化合物を扱います人たち、あるいは今度のように、それを口から食べましても同じでございますが、みな皮膚の毛孔に一致して黒い点がまずあらわれまして、それからそこがちょうどにきびのようになります。それで塩素にきび、クロルアクネと申しまして、これは産業界ではもう古くから知られていることでございます。それがだんだん入り口が角化いたしまして、場所によりましては皮膚のあぶらの腺がだんだん袋のようにふくれてくる、大きくなる、そういうような症状がございます。それから皮膚の着色、それから同じように口腔の、口の中の粘膜あるいは歯ぐきの着色、こういうことが一つの特徴になっております。それからつめがやはり着色いたしますかあるいはまるみを失って平らなつめになる。一部の人では毛が抜けるというようなことが記載されております。それから目が、やはり目にもあぶらを出す腺がございますから、目やにが非常にふえてくる。それから結膜と申しましてもまぶたの裏の結膜、これが充血し、濁ってきて、そこにも色がついてくる。それから一部の方では視力が少し衰えたというのがございます。これらは皮膚粘膜の共通な症状でございますが、一方全身症状となりますと、これは神経系統のものとしましてはだるい、それから食欲がない、腹が痛いとか吐き気がするというような症状。それから一方には手足の神経がじんじんとしびれる。それから感覚が鈍い、こういうようなことがございます。これは電気生理的にも知覚神経が損傷を受けているということが証明されております。  それから、近ごろ新しくいわれ出しましたことは、気管支炎が非常に多くて、肺や何かのそういう気管支周囲その他にも繊維が増殖するというようなこと。それからたんの中にPCBが出てくる。つまり、いままでPCBの出る場所として考えておりました皮膚のあぶらの腺、あるいは大便とかそういうようなもの以外に、気管支にも出るのであるということがだんだんわかってきております。それから月経の異常とか性欲の減退とか、そういうことも訴えられておりますし、それからごく近ごろは、歯が折れやすいということを訴える人、あるいは骨が少し異常があるということを報告した方もあります。  以上が外から見た臨床症状でございますが、あと臨床検査室でいろいろやった検査のうち一番顕著なことは、アルカリフォスファターゼと申します酵素、燐を遊離する酵素の機能が高まっている。しかし、これをすぐ骨と結びつける方がありますようですが、これはいろいろ調べて、どうも肝臓のほうがオリジンであって骨ではないというような結論になっておるようであります。それから塩素イオンがふえる。これは塩素が離れてくるのかもしれませんし、そこまでの追及はございません。一番著しいことは、血液中の中性脂肪の値が非常に高くなる。これは皆さま御存じのように、高血圧などのときにそうなるのと同じように、グリセリンの三つつきましたトリグリセライドの値は非常に高い人が多いということが非常な顕著な症状だと言っております。  さて、そういうような症状を起こした人たちはどれくらいの量をとったであろうかといいますと、九州大学の倉恒教授その他の疫学的調査によりますと、まず、体重一キロ当たりぐらいで長い間米ぬか油をとっていたとしましても、その全量が二グラムぐらいというのが平均ではないか。ただ、一番少しの量で発病した人が二人ありまして、これは軽い病気でありましたけれども、その人たちは三カ月の間にたった〇・五グラム程度しかとっていない、そう申すのでございます。それで、〇・五グラムを体重五〇キロで割りまして、それから百五十日、五カ月でございますが、かりに割るとしますと、一日体重一キロ当たり〇・〇六ミリグラム前後が最小の発病量ではないかというのが倉恒教授の御意見でありまして、こういうことは、やはりどういう場合にも動物実験というものはあまり根拠になりませんで、人の中毒の量というのが一番たよりになる量でございますから、これが一応国際的にも危険な最低量という考えでございます。  さて、いま人体はどれくらいの汚染が起こっているかということを見ますと、困ったことにはPCBは非常に脂肪組織に溶けますので、外から簡単にはかることができません。人体脂肪が出てくるものとして母乳をはかるということが各地で行なわれております。もう一つは、解剖のときあるいは手術のときに内臓の脂肪が、どうせ胃を切除いたしますようなときは一緒に取れてまいりますから、そういうものをはかる、両方の面からの接近法があるわけでございます。いま母乳はかなりの県でやっておりまして、まだ未発表のものを入れたらたくさんあると思いますけれども皆さま承知のように、最高を発表されておりますのは大阪の公衆衛生研究所から、十五人の産婦のうちの平均が〇・二八PPMである、一番多い人は〇・七、一番少ない人で〇・一、これが非常に多い量だと思います。それに次ぎますのが京都市の衛生研究所から出ました十人の産婦の母乳でして、この平均が〇・一二PPM、最高が〇・三一、最低が〇・〇六と、この辺がいままでのうちでは一番濃いところでございます。あとの高知とか福岡とか愛知とかいうところはみな〇・〇三とか〇・〇六とかいうような一けた違う低い値が出ているわけでございます。  外国ではどうかと申しますと、このPCBの定量法はいろいろむずかしいところがありまして、各国の値をすぐ比較することは無理なところがございます。これはいずれ後ほどお話があると思いますが、しかし西ドイツが平均〇・一、日本の京都くらいの値を出しているほかは、やはり〇・〇三とか〇・〇八とか、イギリス、アメリカその点を出しておりまして、いまのところ母乳としましたら京都、大阪は少なくとも世界では最高の値と考えます。  次に、解剖の場合、あるいは手術の場合に取りました脂肪組織の中のPCBでありますが、これは最高が京都の十九名でございまして、この平均が大体四・七PPMと申しております。その次が高知で約二・九PPM、それから東京も三PPMぐらいを出しております。愛媛とか山形が一から二PPMぐらいを出しております。この場合西ドイツに五PPMという報告がありまして、これも測定法が違いますのでそのままとは申せませんけれども、西ドイツのと比べれば京都と西ドイツが似たようなところ、そして東京、高知、その辺が日本としては高い値を出しております。  いまそのようにデータが足りませんので、それくらいしかわからないのでございますが、一方、北九州でライスオイルのために患者になりまして、その後なくなられた方が三例あります。そのうち一例だけは分析ができておりますが、そのときの二十五歳のトラックの運転手、発病以来一カ月ぐらいで心臓の症状でなくなった方の体内では、腸間膜、つまり腸の回りについております脂肪、それから心臓、それから骨髄、この辺が八とか九PPMという高い値を示しておりまして、皮膚は三PPMでかえって低くなっております。このような脂肪組織の七・五と比べますと、京都その他の値はわりあいに近いところ、ある場合にはそれをこしている人もおるような次第でございます。  さて、いまの人体汚染あるいは母乳汚染がどの程度の危険性を持っているのかということを考えますと、なかなかこれはむずかしいところがございます。それは、ライスオイルというのは非常に多量を比較的短時間にとった場合でございます。それから、われわれのような一般国民の場合は、かなりの少量を、そのかわり毎日毎日とっている、こういうケースでございまして、体内分布も少し違いますし、もう一つの問題と申しますのは、こういう物質、あるいはカドミウムにしましても、水銀にしましても、毎日とっておれば、必ずそれに日数をかけたらば総量幾らになる、そういう計算は、微量摂取の場合には決して成り立たないのでございます。それはどういうことかと申しますと、初めは急速にたまりますが、だんだん体内のレベルが上がってまいりますと、入ってきます血液のレベルとの差が少なくなりますから、蓄積のスピードはおそくなってまいる。一方、排せつは少しふえてきまして、どこかで頭打ちが必ずまいります。昔アメリカで、DDTを一日三・五ミリグラムとその十倍の三十五ミリグラムを毎日毎日有志被験者に飲ましたという実験がございますけれども、とった量は十倍の差がありますが、体内にだんだんやはり山がきて、頭打ちになってしまいます。そのときのレベルは、十倍ではなくて、もう少し下がって小さいものになっております。ですから、毎日とっているわれわれは、汚染がもし同じでありましたら、あるところで頭打ちがくるわけです。しかし、その頭打ちになりましたときの、たとえば肝臓の中の濃度というものは、毎日とる量が多い人ほど高いところでバランスがとれます。高いところでバランスがとれたままで長いこと肝臓がいるということは、やがてそこに変化をもたらすことになるわけです。それで、いまのように、一日とっている量にすぐ日数をかけるということではちょっと計算ができないのでございますけれども、いま、京都で一番高い母乳の〇・七PPMというものを飲んでいる赤ちゃんをいまのような計算をしてみると、相当の危険率の領域にあるのではないかというのが、九州大学の倉恒教授の御意見でありました。  このように人体の中の汚染が進みましてたまっていったとき、一体何が起こるであろうか、あるいは起こっているだろうかと申しますと、これはなかなかむずかしいことでございます。DDTに関しましても、ずいぶん昔から古い汚染がありまして、人体内のレベルというものよくわかっておりますけれども、少なくともDDTで何か病気が起こったということはなかなか証明することはできません。PCBも同じようなところであると思いますけれども、確実に言えるであろうということは、こういうような塩素剤が入ってまいりますと、肝臓はそれを解毒するあるいは排せつするということのために、薬物の解毒酵素あるいは酸化酵素が誘導されてできてまいります。その量は相当微量でできることがネズミでは証明されております。人間の場合には、すべてのこういう塩素剤にはこういう作用が共通でございますから、いま私ども日本人の皮下脂肪あるいは脂肪組織には、いま言った数PPMPCB、プラス、DDTがやはり六、七PPM、それからBHCが東日本では三、四PPM、西日本の人は一二PPMぐらいたまっておる。これはみな同じ作用を及ぼすのでありますから、総合的にはやはりいまの薬物の分解酵素というものが高まってくるということはまず想像できることでございます。こういうものが高まった、それはある意味では解毒でありますから、目的に沿った反応でありますのですけれども、そのためにかえって今度は、自分の体内にありますホルモン、副じんから出ます副じんステロイドホルモンあるいは性ホルモンそれ自身をこわしてくるということが、動物実験でありますが、証明されております。鳥の生息数が急速に減ったことの原因としては、鳥の性ホルモンがこわれる、自分のホルモンがこわされていく、DDTPCBがたまりましてこわれることという推論と一緒に、逆に人工的にそういうものにPCBあるいはDDTを与えてそのとおりになること、あるいは卵のからが薄くなること、そういうようなことを証明されております。ですから、私の考えでは、一番最初に起こることあるいは気がつくことは、そういうことであろうと思います。いま私の考えでは、この塩素剤が三つも四つもDDT、BHC、PCBで掛け算のようになるということはまずないだろうと思います。しかし、足し算になることは確実だと思います。  発ガン性に関しては、いまのところ、いい実験はありません。この一、二年のうちに各地から報告があると思いますが、いまのところはございません。  それから、奇形児が生まれる催奇性に関しては、実はPCBの中にまざっております、ちょうど塩素化ベンゾダイオキシンあるいは塩素化ベンゾフランと申しますか、そういうようなものがその原因であるということを発表した人がありますけれども、こういう副産物はその製品によって非常に違いまして、フランスの品には多いけれどもアメリカの品には少ないというようなことがあって、日本の品に多いかどうかは、だれも報告がないようでございます。そうでなくとも、PCB自身にもそういうことがあるかもしれませんが、このほうもまだ報告が一つもありません。  それから、染色体に異変がないか。これは多少核酸の影響があるような動物実験がございますから、あるかもしれませんが、これも穫極的な証明はいまのところありません。  さて、こういう人体汚染はどこからきたかという考えに対して、アメリカでもそう言う方がありますが、私もこれはもっぱらお魚からが最大の原因だろうと思います。その証拠に——証拠と申してはあれですが、高知の衛生研究所では、漁民と一般市民とでは、漁民の体内のPCBが断然多いということを報告しておられます。それで、お魚ということになりますと、日本人の平均摂取量は大体一日に八十六グラムくらいだと申します。八十グラムといたしますと、外国のあまり食べない国は二十グラム以下、食べても四十グラムと申しますと、魚というものは非常に大きな原因であろうと私は思います。  それで、こういうことが起こることを防ぐのは、いつもあとを追っかけて起こっているようなわけでございまして、その最大の原因は、私の考えでは、工業薬品は、特許とかあるいはノーハウということで、何をつくっておって、何に用いているかということが一切わからないうちにこの世の中に使われているわけでございます。ですから、今後そういう新しい製品をつくるメーカーは、その毒性あるいは環境汚染程度をあらかじめ調べておくという義務があると思います。この場合は、もしそういうことが起これば、それはそのメーカーの過失であるという習慣をつくっていけば、よほど早手回しに危険な物質が使われているということがわかるのではないかと思います。最大の原因はやはりそこにありまして、事実が常に公衆衛生に先行しておるために、いつもあと回しになっておる、そういうふうに考えるのでございます。  時間が参りましたので、一応ここで話を終わらせていただきます。
  127. 田中武夫

    田中委員長 ありがとうございました。  次に、立川参考人にお願いいたします。
  128. 立川涼

    立川参考人 愛媛大学立川でございます。本連合審査会で発言の機会を与えていただいたことをたいへん光栄に存じます。午前のお三方の御発言を伺うチャンスがございませんでしたので、あるいは発言に重複があるかもしれませんが、お許しをいただきたいと思います。  さて、私どもPCB環境汚染について研究を始めまして実は一年とちょっと程度の経験しかございません。しかし、この短い期間に、関係者の懸命な努力によってずいぶん汚染の実態がわかり、何がしかの対策がとられてまいりました。しかし、私どもが現在持っております情報はまだまだ不備でございまして、今後の検討にまたないといけない点が多々ございます。ここでは、時間の関係もございますので、主として対策あるいは提案といったものを中心に申し上げてみたいと思うわけですけれども、とうてい私一人で網羅的に申し上げるわけにはいきません。あるいは問題の評価ないしは判断について誤りがないとも言い切れないと思います。きわめて個人的な意見であることをお断わりしておきたいと思います。  一応、対策あるいは提案を三つに分けて申し上げてみたいと思うわけです。第一は、当面の緊急の対策、第二に、いわば中期的な対策とでもいいましょうか、そういうもの、そうして最後に、長期的あるいは関連した問題というふうな順番で申し上げてみたいと思うわけです。  まず、当面の対策でありますけれども、このところ、生産の中止あるいは使用の規制が行なわれております。しかし、すでに環境に投入されてしまったPCBというのは、おそらく最低一万トン、最高三万トンくらいあったかと思われます。これが自然環境の中で次第に分解はしていきますけれども、そのスピードはたいへんおそいと考えざるを得ません。したがって、当面私どもは、最低限、人間のからだへ入ってくるものを断ち切るという作業がどうしても必要になると思うわけです。そして、その対策を立てるためには、一体人間へはどういう経路でPCBが入ってくるのかということを明らかにしなければいけません。先ほどのお話がありましたように、上田先生のおっしゃいました魚のルート、おそらくこれが一番大きなルートであろうということは、国際的にも定説になっております。しかし、魚だけではおそらく十分には説明し切れないと思われるようなデータがだんだん集まってきております。たとえば紙製品の中には大なり小なりPCBが入っておりまして、加工流通食品は紙に包まれ、包装されて流通するわけです。その過程で、ガス化したPCBが食品に入る。現にこれはアメリカやスウェーデンでかなり問題にされているわけです。日本では残念ながらそのデータはまだ出ておりません。あるいはいろいろなPCBの使用点でPCBがガスになって大気に行くということもあるわけです。呼吸だとか、そういった大気汚染のルートを通して人間にどのような影響が及ぶのか、これもやはり今後の検討にまたなければいけない点です。  さらに、農薬として使用しなかったかどうかという問題があるかと思われます。アメリカで使用していたことは確かでありまして、一昨年の十一月に農薬への使用を禁止する規制が行なわれております。日本ではこの点確実に使っていなかったという保証もありませんし、また使っていたという証拠も出ておりません。しかし、いずれにしてもこれは確認を急がなければいけない問題だというふうに考えております。  そして、人間への汚染の経路は、おそらく食品が一番大きな割合を占めるだろうというふうに考えております。このルートを推定するためには、いわば全食事分析とでもいうようなものがやられてみる必要があるという気がいたします。つまり、朝昼晩の日常的な食事を調理いたしまして、それぞれどういう食品のルートからPCBが来るのか、そういったものを地域的あるいは季節的にやることによって、日本人への食物ルートを通すPCB汚染経路が大体推定できると思います。その結果に基づいて、いろいろな食品の規制などが可能になってくると思われます。  当面、魚の汚染がたいへん著しいことはもう確実でありますし、定評でもあります。この魚の規制については、はっきりしている点でもありますので、作業を急ぐ必要があるというふうに考えております。欧米で使われております五PPMという魚の食べる部分の許容値、これは、FDAが、きわめて暫定的な措置であって、この量をFDAは認めるものではない、パーミットするわけではない、今後いろいろな状況がわかるに従って、当然この数値はもっと低くしなければいけないであろうということを言っているわけです。魚をたいへん食べますわれわれにとっては、おそらく五PPMという数字では済まない、もっと低い線できめなければいけないだろうというふうに予想しております。  ただ、この場合水産業への影響を配慮することはどうしても必要だと思います。われわれ一般消費者への影響は、ある意味では証明をすることが困難なような問題です。見解によっては影響がないとする研究者もいないわけではないわけです。しかし、水産業への影響はおそらく直接的だと思うのです。おそらく生活がかけられている、そこに直接的なダメージがいくと思われます。当然のことながら、そういった末端の漁民、水産業へのしわ寄せのないような形で、あるいはそれを軽減するような処置とカップルした形でこういった食品の基準がきめられていかなければいけないだろうという気がするわけです。  それからもう一つ、回収されたPCBの処理の問題があります。現に、おそらく数万トン、二万トンとか三万トンのPCBが現実に使われております。いずれこれが回収されて、どこかへ集中的に集まっていく。これはそのまま放置しておくわけにはまいりません。現在のところ、こういったものを処理する方式としては焼却しかないと思います。しかし、この焼却の方式、その技術というのは、完成されたものとはいえないと思います。どういう条件でPCBが燃焼し、あるいはどういうふうな中間過程を通って最終の産物になるかというような、基礎的な燃焼過程の研究の報告も全く見当たりません。一昨年、世界最大のメーカーであるモンサントは、PCBのいい焼却炉を開発したといって、わざわざ記者会見をしたぐらいです。つまり、裏を返して言えば、それぐらいPCBの完全な処理はむずかしいということだと思います。この点、日本としましても焼却処理の研究を急ぐ必要があると思います。  次に、中期的と申しますか、もう少し長いレンジで考える場合に、やはり毒性の研究試験を急ぐ必要があると思います。私どもが必要なのは決してPPM値ではございません。環境あるいは生物、人間の中のPPM値は、人間にどういう影響があるか、どういう悪作用があるかという点で判断しなければいけないわけです。いかにPPMが高くても、問題の少ない物質もあるわけです。生物学的な影響にPPMを読みかえなければいけない。その作業の基礎になるものがいわば毒性データなわけです。しかし、現実にはこの毒性データが十分だとは言いかねるのが現状です。したがって、われわれが分析しましたPPM値についての判断にいろいろと大きな分かれが出てまいります。したがって、対策にもいろいろ混乱ないしは大きな幅が出てくるのは、ある程度避けられないというふうに考えております。特に毒性を考える場合に、先ほどのお話にもありましたけれども慢性毒性とか複合毒性といった問題、やはりこれははたで言うほどどうもやさしい問題ではないようですけれども、やはりこの辺の研究を急いでいただく必要があるという気がするわけです。さらに環境汚染の観点からいいましても、やはりPPM値だけでは実ははなはだ心もとないわけです。われわれが必要なのは、やはり環境にどのくらいの量のPCBが出たのか、あるいはそれがどのような広がりを持っているのか、あるいはその汚染がどういう時間的な変動を示しているのかというふうな知識、情報がほしいわけです。あるいは食物連鎖を通して一体どのような濃縮が現実に行なわれるのか。つまり、学問的な領域でいいますと、地球科学的あるいは生態学的な調査を組んでいく必要があると思うわけです。で、おそらくその場合にPCBだけではありませんで、先ほどのお話にもありましたように、BHCとかDDTとか、ドリン剤といわれるような有機塩素系の殺虫剤、これは環境で全くPCBと同じような挙動をするわけです。生物体へも同じように蓄積されます。おそらく生物への影響も非常に類似しているだろうといわれているわけです。そうしますと、こういったいろいろな有機塩素系化合物環境での挙動、その推移といったものを予測していく作業が必要なわけだと思います。そして、そういった長期的なこういった有機塩素系化合物汚染の象徴の予測をもとに長期的な対策が立て得るというふうに考えております。  最後に、長期的あるいは関連的な問題を幾つかお話ししてみたいわけです。  これまで実は私ども、常に事件あと追いする形で、状況に追随する形で問題を追ってきたわけです。もちろん、私どもの目の前に降りかかる火の粉を払わないわけにはまいりません。しかし、やはり防火建築を建てるほうをどうしてもこの際考えなければいけないと思うわけです。  その点に関連して幾つかの問題がございます。たとえば代替品の問題です。化学製品というのは、テレビなどと違いまして、代替品がいつもあるわけです。テレビは、おそらくテレビでしかその機能を果たせません。しかし、化学薬剤というのは、若干性質の違ったものが常にあるのが普通でございます。そしていままでわれわれがこういう問題に対処したときには、いままでの薬品は危険だった、したがって、今度は安全な薬品を見つけてきたから、これは野放しにルーズに使ってもだいじょうぶだというふうにして問題が処理されてきたわけです。これは、しかし、見ようによっては問題のすりかえにすぎないのかもしれません。といいますのは、私ども化学薬剤の安全性についてなかなかきっちりした解答を持ち合わせていないのが実情なわけです。これはチクロとかキノホルムの例を見れば明らかだと思うわけです。今日の良薬が一夜にして毒薬になるというのは、いわば歴史的な教訓だと思うのです。しかもこれはたまたま事故として起きたのではありません。私ども毒性の判定がたいへん甘いために、今後とも一定の確率でこういう事件は起こり得るものと考えなければいけません。したがって、こういった化学製品を使う場合には、そういった確率的に起こり得る危険性を常に考慮した形での使用、慎重な使用がどうしても必要だと思うわけです。そういう意味で、いわば薬剤といいますか、製品の選択にばかり対策が傾斜し過ぎていた。むしろどんなものでもあぶない可能性があるので、慎重に使わなければいけない。そういった安全使用の技術、おそらくこれは企業にとって最もコストが高くつく対策かもしれませんけれども、これがやはりたいへん大事だと思うわけです。  さらに、農薬だとか薬品などにつきましては、いろいろ残留分析なり環境汚染なりが考慮されてきたわけです。しかし、実はいろいろな化学工業製品がわれわれの末端を取り囲んでおります。いずれ最終的な使用の結果として環境に投入されるような化学製品については、やはりその環境汚染あるいは生物への影響を総点検しなければいけない時期に来ていると思います。これは必ずしも分析法を組み立て、現実の環境汚染調査をしなくても可能なわけです。それぞれの化学製品生産量あるいは使用の状況、そしてその化学製品のいわば物理、化学的な性質、そういったものがわかりますと、いわば既存の資料だけで十分ある程度の判定が可能なわけです。その中から軽重を適当に判断しまして、重要なものからプライオリティをつけた対策を考えていく。状況追随ではいけない時代になっているという気がいたします。そして、今後新しく開発する、あるいは認可されていく工業製品については、いわば開発の段階で、公害の有無といいますか、環境汚染への影響そういったものを評価する作業を必ず組み込んでいく。技術評価の中にそういった環境汚染の有無というものを当然組み込む作業が今後は必要になってくるというふうに考えております。  それからもう一つ、これは医学的な問題かもしれませんけれども、埋もれた油症患者がたぶんずいぶんまだいるのではないか。これはたいへん状況証拠的にしか私どもの耳に入らないわけですけれども、たまたま正式に浮かび上がっている方以外にも、その影響はさまざまだと思いますけれども、いろいろ埋もれた油症患者がいらっしゃるに違いない。そういった患者を発掘し、治療する、国家的な援助を差し伸べるということは、人道的にもたいへん重要なことだと思いますし、これは人間への影響を推定するかけがえのないたいへん重要な科学的な資料でもあり得るというふうな気がいたします。  そして最後に、最近のこういった社会的背景で、公害とか環境汚染、そういった問題についていろいろな法体系が整備されてまいりました。それに対応しましていろいろな行政機構あるいは官庁関係研究機関が急速に整備されてまいりました。一方、それに引き比べて、大学の側のそれに対する対応は著しくおくれている。実はほとんど何ごともなされていないのが実情だと思います。需要増が当然予想されますこういった方面の専門家の供給機関としても、あるいは基礎的な問題を掘り起こしていく機関としましても、関連分野の大学研究機関の充実もやはり大きな問題だというふうに考えております。  以上です。
  129. 田中武夫

    田中委員長 ありがとうございました。  次に、磯野参考人にお願いいたします。
  130. 磯野直秀

    磯野参考人 ただいま御紹介にあずかりました都立大学生物学教室の磯野でございます。  上田先生、立川先生がお話しになりましたことと重複する部分があるかと思いますが、それはあらかじめお許しをお願いいたします。  さて、私は、この短い時間でございますので、汚染の実態というもの、それが人体にどういうふうな影響を及ぼすかという見通し、それから今後の対策の三点に分けてお話を進めたいと思います。  まず汚染の実態でございますが、これは世界でも日本でも、かなり魚とか鳥とか、そういうものの汚染実態が報告されております。分析方法が違いますので、そのまま比較することはほんとうは無理かと思いますが、外国のうちで一番よごれておりますといわれておりますニューイングランドから東カナダのあたり、そこら辺の魚は外国では一番よごれているといわれておりますが、一番よごれているものでも、たかだか一PPMをこえるかこえないかというところでございます。それと比べますと、日本の場合は、東京湾などは一PPMをこえる魚がかなりとられておりますし、琵琶湖の南部のほうの魚でございますと一〇ないし二〇PPMというふうに、外国のものと比べますと、大体十倍、それ以上の開きがございます。おまけに日本人は魚をたくさん食べますので、先ほどの話にもありましたように、人体の中にもかなりたくさんだまってまいっております。  私、生物学なものでございますので、そのほうの観点からお話を進めたいと思いますが、このPCBと申します物質は水に溶けません。生物からだの中に入りましたものは、水に溶けますものですと、これはじん臓を通して尿に排出することができますが、PCBのように水に溶けないものは、その経路からなかなか排出できません。ほんとうはそういうものを分解すればよろしいのでございますが、実はこのPCBに限りませんで、DDTとかBHC、いわゆる有機塩素化合物といわれるものでございますが、これは天然にはほとんど存在いたしておりません。でございますので、生物の側もその対策を備えていない、つまり分解する手段を持っていないというのが普通でございます。それで、自然にもPCBの場合には分解しにくいというのが特徴でございますので、これは入ったら分解もされない、排出もされないというわけで、からだの中にたまるということになってしまいます。そして、これは油の中に溶けやすい物質でございますので、脂肪の中に蓄積いたしまして、そこの中で保存されるわけでございますが、鳥などで知られておりますことによりますと、体力を消耗したとき、たとえば鳥が渡りをするとか子供を育てる、そういうときになりますと脂肪を大量に使いますので、そこの中にたまっておりましたPCBが出てまいりまして、そして別の脂肪の多いところ、肝臓とか脳、そういうところにたまりまして毒作用を発揮すると考えられております。DDTも同じでございます。  いま、排出の道はほとんどないと申し上げましたが、実は幾つかの道がございます。その一つが、母親のからだの中で直接胎児に移すというやり方でございます。第二番目が母乳。母乳は脂肪分が三ないし四%というふうに多いものでございますから、そちらのほうを通して捨てるという道、これが第二の道だと思います。あと、先ほどの上田先生のお話にもありましたように、胆汁を通すとか、皮膚の脂肪を通すとか肺を通すとか、そういう捨て方もございますが、私が考えますに、母乳を通す捨て方というのがかなり有効な捨て方である。その結果は、生まれてくる子供に一番しわ寄せがいくわけでございます。つまり、からだの中におりましたときは母親から直接PCBをもらいまして、生まれ落ちてからは母乳としてPCBをもらう、そういうかっこうで、子供に対する蓄積並びに子供に対する影響というのを一番憂慮しなければいけないのではないかと私は考えております。  現実に人間にどのような影響が出てまいるかということを考えますと、これは先ほどのお話しにもございましたように、肝臓の酵素の作用が増加いたしまして、その結果、性ホルモンの分解などが起きる、こういうことが実際に生物でも知られておりますし、それからカネミ患者の場合でも、聞くところによりますと、ホルモンなどに多少の異常があるようでございます。また、同じカネミ患者の場合に、どうも免疫力などが低下しているという報告を私、聞いたことがございます。生物のほうでも同じような実験がございまして、烏にPCBを食べさせておきまして、それからウイルスを打ちますと、そのウイルスによる死亡率が数倍に高まるというふうな実験もございます。  あとは、次の世代に対する影響でございますが、これも最近、外国学者が発表準備をしておる実験でございますが、やはり同じ鳥にPCBを食べさせまして、そして第一世代、第二世代と飼いますと、第一世代の場合、卵のふ化率は普通の鳥と同じなのでございますが、第二世代になるとそのふ化率が非常に落ちる。約二〇%までに落ちてしまう、そういう実験もございまして、その場合、調べてみますと染色体に多少異常が起きている、こういう報告もございます。人間に影響が出るといたしますれば、いきなりカネミ患者のような激しい症状が出ることはまずないと私は思っておりますが、こういうふうにホルモンのバランスが乱れるとか、それから免疫力が低下する、そういうふうに、一見してはわからない形で異常が進行していくおそれが現在でも多分にあるのではないか、こう考えております。  なお、毒性に関しまして一言申しておきたいことでございますが、普通PCBには、塩素の含有量がいろいろのものがございます。一般には塩素化の程度の高いもの、高塩化物のほうが毒性が強いといわれておりますが、これはどうも場合によってだいぶ違うようでございまして、私自身が魚などで影響を調べますと、カネクロール三〇〇——三塩化物が主体になっているものでございますが、このカネクロール三〇〇の致死効果が最も強い。その次がカネクロール二〇〇、四〇〇。五〇〇、六〇〇はかなり弱いというふうな結果を得ておりますし、外国でも同じような報告がございます。ですから、低塩素化物のほうが安全だということは決して言えないと思います。  次に、現在のPCB環境汚染によります人体中へのPCBの摂取でございますが、先ほど上田先生もお話しになりましたように、これはカネミで最低発症量というものがわかっております。  九州大学の倉恒先生が、「労働の科学」という雑誌がございますが、それの最近号にこう書かれております。「油症患者のカネクロール摂取総量を調べてみると、二人の成人患者がそれぞれ三カ月、五カ月間にわたって〇・五グラム摂取しているのが最小摂取量である。かりにこの二人が体重五十キログラムであったとし、平均四カ月間に〇・五グラムを摂取したとすると、発病最小量は六十七ガンマ・パー・キログラム・デーとなる。」つまり、一日当たり、体重一キログラム当たり六十七マイクログラムで発病した、こう書かれております。そして倉恒先生は、それに続きましてドイツの母乳の例を引かれまして、これは〇・一PPMPCBを含んでいるわけでございますが、この状態を計算いたしまして、非常に憂慮すべき状態であるというふうに書かれております。  先ほども上田先生のお話にありましたように、体重当たり一日にどのぐらいとるかということが、普通われわれが使う方法でございます。それで、では、いま普通の日本人がどのぐらい食べるかということを計算いたしますと、たとえば琵琶湖の南部地帯では、魚が平均して一〇から二〇PPMPCBを含んでおりますが、かりにこれを一五PPMといたしまして、一日に平均して七十グラムぐらい食べるのが普通の日本人の魚の食べ量でございますので、それを用いまして計算いたしますと、その魚を普通に食べておりますと、一日に体重一キログラム当たり二十マイクログラムずつPCBを取り入れていくということになります。これは、先ほどのカネミ油症患者の場合の七分の二でございます。ですから、魚をたくさん食べる人、かりに普通の三倍量食べる人がいたといたしますと、大体カネミ患者の最小摂取量と同じだけとることになります。  また、母乳の場合で申し上げますと、大阪の場合、平均が大体〇・二六PPMPCBを含んでいたといわれます。これから計算してまいりますと、この赤ちゃんは、体重一キログラム当たり平均して一日四〇マイクログラム、つまりカネミ患者の場合の半量より少し多く取り入れることになります。また、最高の量でございます〇・七PPMの場合を計算いたしますと、これは一日に体重一キログラム当たり一〇五マイクログラム、つまりカネミ患者の場合よりも多いPCBを取り込むという計算になります。これはあくまで計算でございまして、このとおりの数字になるからすぐあすに発病するというものではないと思います。先ほど上田先生もおっしゃいましたとおり、摂取のしかたが多少違います。そういうこともございますので、あらわれ方は、すぐ病気になるというものではないと思いますが、きわめて憂慮すべき状態だと私は考えております。  そこで、対策に移りたいと思いますが、対策の第一点は、これはやはり、魚から人間のからだの中に入っているのが大筋だと私は思います。そこで、そういう食品に基準をつくらなければならないと思いますが、アメリカのFDAでは、現在、魚の食肉部分に五PPM、鳥の食肉部分に五PPM、ミルクに〇・二PPM、卵に〇・五PPMという一応の暫定基準を採用しているようでございます。ところが、最近の向こうの報道を参照いたしますと、先ほど立川先生も言われましたように、魚に関しては少し高過ぎる、つまり五PPMではちょっと高いのではないか、もう少し低めなければいけないのではないか、そういう声が科学者からあがっております。次に鳥でございますが、これはいままで全体の量の五PPMだったのでございますが、今後は脂肪の中の量の五PPMというふうに変えよう、そういう動きがFDAの中にあるそうでございます。こういたしますと、この基準のきびしさが大体十倍程度きびしくなります。また、ミルクの〇・二PPMももう少しきびしくする方針のようでございます。さらに、現在はございませんが、幼児用食品に関しまして、アメリカでは、近々〇・一PPMという基準を設けるそうでございます。  こういうふうな基準がどういう計算から出てきたかは、私詳しくわかりませんが、どうもカネミ患者の発病量を基準にして計算したようでございます。ですので、かりに一応これを、日本でもそのまま採用してもいい、私はかように思っております。ただし魚の場合、日本人はアメリカ人よりたくさん食べますので、これは五PPMでなくてもう少し低く、たとえば二PPMとか一PPMとか、そういうふうな低い値でなければならないのではないかというふうに考えております。  さらに、同じ食品のことでございますが、いますぐにでもできることが一つございます。それは魚の食べ方について、これは指導すると言うと大げさになりますが、ある助言をしてもいいと思います。たとえば、分析によりますと、魚の中でも内臓部分に非常に高いPCBが見られます。PCBが非常にたくさんだまっております。ですから、魚のあら、内臓はあまり食べないようにするとか、それから魚ばかり食べるような偏食、こういうことが非常に危険でございますので、偏食をしないように指導をするとか、ことに母親に対してこういう指導をする、これはあすからでもできることではないかと思います。  次に、今後の問題でございますが、先ほど立川先生もおっしゃいましたように、回収の問題がございます。回収の問題に関しましては、これは全部回収することは不可能だと思っておりますが、一番困りますのは、現在どういう製品にこのPCBが使われているか、私たちでもつかみかねているというのが実情でございます。ですから、メーカーの方なりまたは加工業者の方なりが、これこれの製品にはPCBが確かに入っているということをお調べになる、または発表なさる、そういうことがまず第一ではないかと思います。その上で、できる限り回収してこれを処分するわけでございますが、処分の方法は、残念ながら、いまいい方的はないようでございます。ただ一つ可能な方法は焼却だと思います。これもかなりむずかしい問題がありまして、立川先生も言われましたように、アメリカでもなかなかいい方法がないようでございますが、これの研究をやはり進めていくのが第一だと思います。  そのほか、最近ではバクテリアによる分解とか紫外線による分解、放射線による分解などがいわれておりますが、こういうものはまだ実用化にはほど遠いと思いますし、もし実用化いたしましても、これが実際に応用できる範囲というのは非常に狭いのではないかと思います。あまり過大な期待を持ってかかることはかえって危険かと思います。  最後に、PCBが使用禁止になりますと、必ず次の物質が出てまいります。だいぶ立川先生と重複するようでございますが、あえてもう一度申し上げますと、有機塩素化合物というものは、初めにも申し上げましたように、生物にとっては全く異質のものでございます。ですから、PCBがほかのものにかわっても、その影響はたいして変わることはない。つまり、本質的に危険である。また、それでは塩素がついていなければいいか。このごろよく、これは塩素を含んでいないから安全である、こういうふうな報道が目立ちますが、確かに塩素がついておりませんと分解しやすい、その点は一歩前進すると思いますが、実は毒性の点では大同小異というものが多いようでございます。私、生物学のほうの立場から申しますと、人間がつくり出した化合物の大半は、生物にとってなじみのないものでございます。もちろん人間も生物でございます。こういうものは本質的に危険である、こういうふうに初めから考えてかからなければならないのではないか、これが私が考えております持論でございます。その上で、どうしても必要な場合に限りまして、十分なテストを繰り返した上で必要な部分にだけ使う、こういうふうにしていかない限り、今後第二、第一二のPCB様の公害がまた出てくるのではないかと、私は非常に心配しております。  最後に、同じことでございますが、現在新聞等の報道で見ますと、PCBのみが取り上げられておりまして、農薬の問題とかほかのいろいろな公害物質の問題は、非常に影をひそめております。しかし、農薬はなおかつ、われわれのからだの中に残留しております。たとえば、アメリカで計算したところによりますと、DDTを使用禁止にしても、からだの中のDDT量が現在の十分の一になるのに四十年かかるそうでございます。PCBDDTよりこわれにくいものでございますから、おそらくもっともっと長い年月がかかるのではないかと思いますし、またPCBだけが取り上げられて、DDTとかそういうものが忘れ去られるということはかえって非常に危険ではないか、こういうふうに私は思っております。ですから、PCBに限らず、いま申しましたように、われわれがつくり出した化合物全般をこの機会に見直して、そしてあらためて将来を考えていく。もしPCBの公害を災いから福に転ずることができるといたしますれば、そういうふうに私たちの姿勢をちょっと変えてみる、そういうことが大事ではないかと私は考えております。  以上でございます。
  131. 田中武夫

    田中委員長 ありがとうございました。  以上で参考人からの意見聴取は終わりました。     —————————————
  132. 田中武夫

    田中委員長 参考人に対する質疑の申し出がありますので、順次これを許します。林義郎君。
  133. 林義郎

    ○林(義)委員 午前中から、いろいろな参考人に来ていただきまして、お話を聞きました。ただいま上田先生、立川先生磯野先生からお話を聞きましたが、これはたいへんな問題であります。  PCBというものが発見または発明されてから、最初におきましては有用な物質であるというように考えられておった。ところが、一時点においては、それがどうも人体に影響が出る。さらにはカネミ油症事件を契機にいたしまして、それが全く危険な物質であるということがわかってきたということは、私は非常な文明の悲劇のような気もするのであります。しかし、何といったところで一番大切なものは生命でありますから、生命中心という形でこれはいろいろと取り組んでいかなければならないと思います。  きょうも、そういった意味でいろいろと参考人からお話を聞いているのでありますが、参考人のお話の中で、少し私はこまかくお話を聞かせていただきたいと思います。時間の制約もありますので、できるだけ簡単にひとつ御答弁をいただきたいと思いますが、まず、PCBがいろいろ吸収されるということは、午前中のお話、また上田先生、立川先生磯野先生からのお話でもわかるのですが、上田先生お話しになりましたように、人体の中でだんだんたまってくる、ところがある一定の段階になってくると、それがストップするというか、あまりたくさんだまっていかないというようなお話もありました。一体PCBが排せつされるというのは、皮膚であるとかあるいは脂肪であるとか、ふん尿であるとかということでありますが、どの程度まで人体の中へ蓄積されるのだろうか。人体の中に残留ということばを使ったらおかしいのかもしれませんけれども、どの程度まで入ってくるものなのか、また、それがどの程度まで入ってくると危険になるのかというような点につきまして、実験データその他事例がありましたならば、御説明をいただきたい。
  134. 上田喜一

    上田参考人 先ほど申し上げましたように、まだPCBの排せつ速度と申しますか、それが、人体に関しては少しもわかっておりません。ただ類推して、DDTの皮下脂肪から抜けていく速度は大体二年間に半分になる、二年目にその半分になる、それで、さっきおっしゃったように、結局は十何年かかるということだと思います。ただ、皮下脂肪よりもこの場合重大なものは肝臓だと思いますが、肝臓はもう少し早いスピードで抜けると思います。  それから今度は、どれくらいたまったらあぶないかということもまた、解剖例が少ないので申し得ないのでございますが、さっきの二例の解剖のうちの一つが、大体七、八PPMくらいがたまっていたわけでございます。ただ、これは一年後でございますから、最初のライスオイルをよした時点では、もっと高かったかもしれません。そういたしますと、いまたまっている一番高い人というのと同じくらいの率ではないかと思います。
  135. 林義郎

    ○林(義)委員 カネミ油症事件というのは、むしろ慢性の問題ではなくて急性というか亜急性というか、そういった事件だったろうと私は思うのです。いま問題になりますのは、海洋の中に、太平洋の中にもまた瀬戸内海の中にも、いろんなところに拡散しているPCBを、魚類等で人体がだんだん吸収していくという、それをとっていくからだんだん人体の中に蓄積をされる、そういったいわゆる慢性中毒の問題をいま一番取り上げていかなければいけない。先ほど立川先生がおっしゃいましたけれども——立川先生でしたか磯野先生でしたか、急速な、カネミ油症事件のようなものはないのだというお話でありましたが、まさにおっしゃるとおりで、これから慢性中毒というものをどう取り上げていくかということが一番問題だろうと思うのですが、慢性中毒ということになりますと、一体どういうふうな形で技術的には、医学的には診断されるのか。何か吐き気がするとかなんとかということでやられましても、はたしてそれがPCBの影響であるかどうかというのは、相当に突っ込んでやらなければいかぬ。何か特別の症状とか何かがあってやらないとやはりいかぬのだろうと思います。そういった慢性中毒と診断されるような医療技術というものが一体確立されているのかどうか、磯野先生ですか、御説明いただきたいと思います。
  136. 磯野直秀

    磯野参考人 現在、そういうふうな診断のいい方法というのは確立してないと思います。ただ、カネミ患者の場合などを考えますと、尿中のホルモン量が変化するとか、ホルモンの関係物質が変化するとか、それからアミノ酸などの組成が変わるとか、そういうことがわかっておりますが、もし検出するといたしますと、そういう方法以外にはまずないのではないかと思います。     〔田中委員長退席、山本(幸雄)委員長代理着席〕 しかも、これはかなり微妙な差でございますし、私が一番おそれているのは、からだが悪いかどうかわからない、そういうかっこうで状態がだんだん悪化していって、気がついたときにはどうにもならないということではないかと思っております。
  137. 林義郎

    ○林(義)委員 私も非常に心配をしておるのです。私でも、気がついてみたらPCB患者であったということになると、これは非常に困るのではないか。やはり医学ですから、できるだけ早いうちに手当てをしなければならない。やはりそういった技術、どういうふうな形でPCB、疑わしいのだということを見ていただかなければならない。単にたんが出るとかせきが出るとか、少し皮膚の色がどうなってきたということだけで判断してやるということになると、相当大部分のところ、かけていかなければいけないのだろうと思うのです。こういった点の診断技術というものを確立をする方法というのは一体あるのかどうなのか。上田先生、磯野先生でもけっこうですが、お答えいただきたいと思います。
  138. 上田喜一

    上田参考人 やはりこれは、PCBそのものを証明することだと思います。ただ、さっき申し上げましたように、血液から出します量は、体内貯留量に比べますと非常に低いものですから、いま一つのねらっておりますことは、母乳なり血液なりと体内の量との比較を、手術のときとかいろいろなことでその関係を早くつけてほしい、あるいはつけようという研究は進んでおります。その場合、血液をたとえば五CCか十CCをとって、そこに出たPCBから推察するわけでございますけれども、いま言ったように急性中毒は非常によくわかるのですが、慢性になると、それでも誤差の範囲に入るおそれがございます。それで一番いいのは、ちょっと盲腸の手術でもするときに、皮下脂肪をついでにとってもらって見てもらえば——いま一番たまっておるところは皮下脂肪ですから、それだったら、その方の体内のたまり方はわかると思います。ただ、たまっているからそれですぐその人は悪いということはないのでございますけれども、さっきちょっと申し落としましたが、いまの脂肪代謝に非常な影響がございますから、それにもともとそういう疾患を持っている方は非常に弱いのではないか。少し、普通の人では何ともない量がたまっても、そういう人には動脈硬化あるいは心臓の障害が起こるので、現に死んだ方のかなりの人は、この心障害で死んでおられるのであります。
  139. 林義郎

    ○林(義)委員 それから、先ほどからいろいろお話を聞いていますと、諸外国の例等でPCB分析の方法が違うからというようなお話をちょっと聞いたのです。午前中もそんなお話がちょっとありましたが、臓器であるとかからだの中とかそういったものに入っているところのPCBの、何PPMが入っているとか、いろいろな測定技術について、これは十分確立されたところの、世界的に認められたというか、あるいは学界一般に認められたところの方法というものが一体あるのかどうか。また、そういった一つのきまった方法、ルールで測定することになっているのかどうか。その辺について、どなたかわかりませんけれどもお答えいただきたい。
  140. 立川涼

    立川参考人 万人が認めますPCB分析法はないと思います。それから、あらゆる目的に一つの分析法が可能だということもないわけです。分析法は本来、研究の目的、実験の目的によって、それぞれ研究者の判断で選ぶべきものだと思います。PCB分析法、確かに問題がございまして、たとえば、一PPMと二PPMは一体差があるのかないのかということになりますと、実験方法いかんによっては、それは差がないと言ってもいいかもしれません。オーダーが違わない、つまり一PPMと一〇PPM、これはおそらく、どの方法でやっても差があると言っていいと思いますけれども、方法いかんによっては二倍、三倍の差が出ることは、現状では避けられないと思います。ただ、PCB分析が、ほかの環境汚染物質分析に比べて精度がいいか悪いかということになりますと、別問題です。  これはたいへん有名な例がございまして、一昨年でしたか、大西洋と太平洋の三千メートル下の海水をくんでまいりまして、世界じゅうの、腕に覚えるのある分析研究者に送ったわけです。世界的な恥をかいてはいかぬということで、みんなかっかとしてやったわけですね。その結果として、たとえば海水中の亜鉛のデータというのが、最高と最低が、同じ海水で三十倍違った。つまり、いろいろな公害関係のPPM分析というのは、事と次第によっては、やはり特にルーズに、ルーチンにやっている場合、かなり違うことがあり得るわけです。これまでの公害行政がPPMでやっていたにしては、PPMを出す水準について、技術について、いささか無関心であったことのほうにむしろ問題がある。PCBに関しては、問題にした最初から分析法の精粗を問題にしたわけですけれども、絶対的には確かにいろいろと問題がございます。しかし、ほかの公害分析に比べて特に誤差が大きいとは考えておりません。それなりにみんな研究者の努力によっていろいろ汚染の実態はわかってきておりますし、それなりに十分使えているというふうに考えております。
  141. 林義郎

    ○林(義)委員 そうすると、ますますわからなくなるのですが、先ほど来何PPMだとか、いろいろお話があります。その目的によって、またやり方によって違うということになりますと、やはりそういった目的がこうであるからこういう分析をしたのだというような話をつけていただかなければ、われわれしろうとからすると、一PPMと一〇PPMあるいは一PPMと二PPMと比べれば、数の多いほうがやはり危険だということは当然に考えるのだと思うのです。だから、むしろそれよりは与えられたところの数字がどういった意味を持つかというのが私は問題だろうと思うのであります。これは一般的に公害の問題にすべて言えることじゃないかと思うのでありますが、少し話がはずれますけれども、このPPMの問題に関連して、一体その辺の数字というのはどの程度のものを考えたらいいのか、この辺をちょっと教えていただきたいと思います。
  142. 立川涼

    立川参考人 おのずからデータの集積によって一つの結論といいますか、要約ができてくるわけです。たとえば、食品の中では魚の汚染が一番著しいというのはおそらく間違いがないと思います。     〔山本(幸雄)委員長代理退席、田中委員長着席〕 あるいは日本でいいますと、都市工業地帯の汚染は激しいけれども、もう少しローカルのところに行くとそんな汚染はないとか、その辺はやはり間違いなく言えることだと思うのです。  ですから、いろいろと問題がありますけれども、積み重ねの中でだんだん確からしさがふえていく、本来そういうものだと思います。たとえば、海の底の分析をやりますと、一メートル離れたところをくんできましても、PCBの値は数倍違うことだってあるわけです。そうしますと、一体どこのサンプルをとってきたかというサンプルのとり方一つで、全く同じ分析法の場合でも、分析法の差よりはサンプルの差がもっと大きい場合だってあり得るわけです。公害関係の仕事はすべてそうです。分析法よりもむしろサンプルのとり方、どういう実験目的で、どういうサンプルをとるかという問題、やり方による差、これは実はたいへん深刻なわけです。ですから、そういうことを無神経にやった場合には、ある意味であらゆる命題が立証できるようなサンプルがとれるという可能性もあるわけです。
  143. 林義郎

    ○林(義)委員 私は、前からこの委員会でいろいろと参考人その他の方とお話をしているのですが、やはりいろいろな分析をする場合に、一つには、やはり分析のメソッドというものをある程度まで統一をしていただくということが一つの方法だろうと思います。  それからいろいろなお話がありましたが、たくさんのデータが集まってこうだということでありますから、やはりデータをできるだけたくさんつくっていく、しかも、お互いに公正な立場においてつくっていくのですから、一つのものをとらえてやるときに、分析をするときに、三つなり四つなりのところでやって、それをクロスチェックをするというような方法というのが一番望ましいのだろうと思うのです。どうもそういった体制というのがなかなかできていないように私は思うのですけれども、この点は、ぜひこれからもいろいろな形でやっていかなければならないと思うのですが、この辺は、どうも学者の中でもいろいろとあってなかなかできないのじゃないかというところが私は実情だろうと思います。上田先生は教授でございますから、上田先生から、一体そういったことをどういうふうにしてやったらいいものが出てくるか、おそらくいろいろなデータというものを集めて統計的な手法も入れてつくっていかなければならないのだろうと思いますけれども、学界の状況その他からいたしまして、何かいい方法でもあれば教えていただきたいと思います。
  144. 上田喜一

    上田参考人 ただいまお話のうちの一番いい例はマグロの水銀だと思います。これはほんとうにフランクに水銀をはかっているところに同じマグロからつくったかん詰めを配りまして、めいめいの方法でやってどれくらい違うかというのを出しまして、いまそれはほとんど、ある程度までみな一致してきた。今度はアメリカがつくったかん詰めを日本とカナダとスウェーデンとに配りまして、国際的にもその技術を合わせようとしております。  PCBに関しましても、立川さんなどが中心になられまして、一応科学技術庁の標準法というのができました。少しむずかしくてめんどうくさいのでございますけれども、いまのようにPCBだけをはからずに、DDT、BHCその他も一緒にはかるという方法なんでございますが、厚生省ではその講習をいたしまして、各県の衛生研究所は大体その方法で今後は行なうと思います。そうしますと国内のことは大体そろってくると思いますが、国際間ではまだなかなか統一がとれないと思います。  私が皆さまにお願いいたしたいことは、そういうような研究所にサンプルが参りました場合に、それはもともと農薬をやっていた係でございますから、そこへPCBが来ますと、作業が三倍にも四倍にもなる。政府というものは、機械はどうやら買います、が、人間をつけてくれないのが普通でございます。これがアメリカと全く違いまして、人間をつけてくれないときは結局徹夜でやる、その場合はエラーも入るだろうし、それからかりにお魚に許容量ができましても、このお魚はあぶないといったときは全部市民の口に入っておしまいになっている。食品の許容量というものは本来そういう性質のもので、ある意味での道徳的規制だと思います。つまり調べている間に生鮮食品はもう売られてしまう。アメリカでさえ、ブドウを押えようと思ったら、そのブドウは全部市民の口に入ってしまっていた。アメリカぐらい早くても同じことが起こります。農薬の場合は、まく人の徳義心に訴えることができますけれどもPCB環境汚染では、そういうわけにはいきません。私自身の考えは、もう少し大規模に宣伝して——すべてのお魚が悪いわけではありません。大体内湾にいるお魚が悪くて、外のお魚はあまり悪くない。そのうちでも東京とか近畿地方が一番悪いと思います。それはPCBの使用量が一番多いのだと思いますが、これはあまり——さっき立川先生おっしゃったように、産業に悪いかもしれぬけれども、たとえばボラは悪いとか、その悪いというものをはっきり言って、少なくとも妊娠しているおかあさんはなるたけそういうものを食べないようにというのが一番私は早道ではないかと思います。ただ、それにはたった数尾をはかったのではいけません。もっと同じ種類をたくさんはかった、そういう値が必要だと思います。
  145. 林義郎

    ○林(義)委員 さっきの慢性中毒の問題に議論は返りますが、慢性中毒であるという診断をする技術もなかなかむずかしいというお話でもあります。一体PCBについて慢性中毒があることは、やはり私はあるだろうと思うのです。それではどのくらいの量のものがどのくらい入っておれば発病、発症するのだというようなデータとかなんとかというものもないのですか。それとも、この程度のものまで入ったならばこれは必ず発病するのだというようなところのものはあるのですか、ないのですか。この辺、どの先生からお答えしていただいたらいいのかわかりませんけれども、皆さん同じようなお話ですから、どなたかお答えいただきたいと思います。
  146. 上田喜一

    上田参考人 さっき私も申し上げましたように、また、磯野参考人も申し上げましたように、いまカネミで一番少ない量で発病した人というのが、大体一日体重一キロ当たり〇・〇六六ミリグラムというのでしょうか、相当少ない量ですけれども、でも五十キロをかけますと相当になります。それが最低の人ですけれども、最低の人と同じ量をとったら、いまおっしゃいました必ず発病すると言うことはできません。ということは、たとえば、マグロ漁船の漁船員の頭の毛の水銀は、阿賀野川事件患者の水銀より二倍ぐらいの人があって、ぴんぴんしている人があります。そういうふうに、そうは言えないのですけれども、一応私どもとしたら、あるいは学界としたら、一番弱い人、一番かかりやすい人を対象としてそれより低いところに押える必要があると思います。ですから、一応いまの線を一日〇・〇六、七ミリグラム、体重一キロ当たりという線、あるいはもう少しその下の線を安全量と見るのがよろしいのだと思います。ですけれども、そう引きますと、人によっては、それをさっき磯野先生おっしゃったように越す人も出てきて、それがすぐあぶないかということはなかなか言えないと思います。  それともう一つは、年々そういう人体汚染が進みつつあるのかということが必要です。いまアメリカでは、一九六七年から行政解剖あるいは手術のときなどの人体脂肪組織を何千例と分析して、人体なんでしょうか、汚染モニタリングというのが始まっております。そのことが必要で、昭和四十七年にはかったということよりも、五年後はかってそれよりよくなったか、下がったか、そういうことが非常に大切で、もし上がりつつあるならば、私自身も、きょうはよくても五年後はどうかわからない、そういう判定ができると思います。
  147. 林義郎

    ○林(義)委員 先ほど来お話がありました中で、同じ有機塩素系の中でDDT、BHCの問題がありましたですが、これはやはり海の関係とか陸の関係とかいろいろありますと、相乗作用というのか、PCBDDT、BHCが一緒になって中に入ってくるというような問題があるだろうと思う。そうしますと、PCBDDT一緒になった、あるいはPCBとBHCが一緒になって、魚であるとか、あるいは動物の中に入っている、または動物の脂肪の中に入っている、こういったようなときに、相乗作用で何か出てくるというようなことについては常識的には考えられるのだと思いますが、そういった何か学問的な研究をしておられるのかどうか、お尋ねします。
  148. 磯野直秀

    磯野参考人 お答えいたします。  実験的に、これはこん虫でございますが、DDTPCB一緒にしますと毒性が非常に強くなるという実験、BHCについてもあったと思います。農薬にPCBをまぜまして、まいた、これはアメリカあたりでやっていたことらしいのですが、その一つの目的は、農薬の効果を延長させるという目的だったようですけれども、もう一つは、殺虫効果を強めるという目的も多少あったらしいのです。  それから、哺乳類、鳥、そういったものでも多少実験がございますが、これは実験数が非常に少のうございます。いまのところ、哺乳類だったと思いますが、DDTとの相乗効果はない、足し算の効果、相加作用がある、こういう報告が一つたしかあると思いますが、それ以外は見かけておりません。私なども、いまからそれをやろうと思っております。
  149. 林義郎

    ○林(義)委員 先ほどの上田先生のお話に返りますけれども、先生は、魚はなるべく食わせない、ある程度まで道徳律でもってというような話でありましたけれども、やはり特に日本人はたいへん魚を食う民族でもありますから、魚が汚染経路の中で一番大きな問題であるということになるとたいへんなことになると私は思っております。先ほど立川先生からもお話がありましたように、水産業に対してどうするのだというような問題までほんとうに出てくると思います。一体そういったときに、磯野先生もおっしゃいましたけれども、FDAでのいろいろな基準がこうあります。日本として魚を食うなというわけにもなかなかいかないと思います。それから、内陸の魚を食うなというわけにもなかなかいかないだろうと思うのです、はっきり申し上げて。そのときに、それではPCBをはかって、この魚はPCBをたくさん食っているから、これはだめであるとか、これは食ってないからいいとかなんとかということも、おそらく技術的には私は不可能だろうと思います。どういうふうなことをいまからやっていったらいいか、その辺についてやはりおかあさん方は魚を食うなというくらいなことで当面やっていくよりほかに方法がないということなんですか。それとも魚も一日の摂取量は何ぼ以下、こういうふうな形でやれとか、あるいはまさかこういうところで言えないと思いますけれども、魚を食うなというところまで主張しなければいかぬのか、その辺、全体をごらんになって、日本の近海あるいは日本の内湾、そういったものが汚染をしているか、これについてはどういうふうにお考えになられますか。
  150. 立川涼

    立川参考人 一番魚が問題になるのはやはり漁民の方だと思うのですね。漁民の方はふだん普通の方のおそらく場合によっては十倍くらいお魚を食べる。したがって、一番問題になるのは漁民だと思います。したがって、漁民のたとえば手術のときのチャンスだとか、母乳をはかることによりまして、やはりいまの一番の危険なレベルは、おそらく人間の場合はそこに出る。その辺をまずチェックしておくことが人間の最高汚染をそこで見つけられるということがあると思うのです。その辺が魚の人間への影響をひとつ推定する基準になってくると思うわけです。  魚自身何PPMで線を引くかなんということになりますと、かなり問題ですけれども、たとえば二PPMで線を引くとします。そうしますと、食べる部分で二PPMがひっかかるお魚というのはそれほどないと思います。外洋の魚はまずかかりません。内洋の魚、それはもちろん東京湾とか局所的にはたいへんひどいものがありますけれども、漁獲高からいえば実は微々たるものです。おそらく瀬戸内海東部、特にその養殖漁業が一番問題になると思います。ハマチ、ボラ、そういったたぐいのものがおそらくやはり一番問題になる可能性があると思います。  ただそういったものは水の汚染からくるわけではありませんで、えさからくるわけです。ハマチやボラの養殖に使っておりますカタクチイワシとかイカナゴとか、いろいろ小魚がございます。それが汚染されているためにハマチやボラの汚染が生ずるわけです。したがって、えさを切りかえるということが当面の対策だと思います。外洋の魚を使うとか、いろいろこのごろは人工配合飼料みたいなものができております。ですから、至急えさを切りかえる。そのことによってぼくはかなり軽減されると思います。いま育ってしまった、いま蓄積してしまったものは何ともしようがありませんけれども、今後は、そういうやり方で、そういった沿岸養殖漁業はかなり事態を改善し得るというように考えております。
  151. 林義郎

    ○林(義)委員 魚はそうですが、一般の許容基準というか、われわれ一般庶民が魚を食うときにどうするのだとか、こうするのだというのは、先ほど上田先生からお話がありましたように、やはりおかあさんはあまり魚を食わないようにしてくれとかというくらいの話ですが、やはり遠洋でとれる魚は食ってもいいが内海とか、いまのお話でいいますと、瀬戸内海の東であるとか、東京湾であるとかというようなところでとれる魚は絶対に食っちゃいかぬというくらいな話でされるのか、その辺、感じがちょっとわからないのですが、お話が非常に中毒の症状がわからないとか、数字もよくわからない云々ということですから、学者方々でいろいろと検討しておられまして、大体の感じとしてどの程度のところを目安に置いてやったらいいのかということが一つあるだろうと思うのです。これは別に理論的にどうだということではなくて、勘の問題としてあるのじゃないか。どうもはっきりいろいろな問題がわからない。分析の方法がないんだし、中毒の状況がどうだとか、いろいろな問題がたくさんありますから、そんなものを詰めておったのでは、もうとにかく人間全部滅びてしまうかもしれないわけです。それじゃ困るから、やはりとりあえずの暫定措置として何かやらなくちゃいかぬということでしたら、私は、何かやはりそこで線を引くことが必要だろうと思うのですね。その辺はどういうふうにお考えになりますか。おそらく三人の先生みんな違うかもしれませんし、あるいは大体同じかもしれませんけれども上田先生からひとつお答えいただきたいと思います。
  152. 上田喜一

    上田参考人 実はその問題がだんだんやかましくなりまして、厚生省では今週土曜日に第一回の会議を開いて一、二カ月でその線を引くそうです。ただ、それはどこに引かれるかわかりませんが、やはりお魚をたくさん食べる日本は魚に関してはアメリカよりきびしいほうがいいと私は思います。それでその線は一応引けましても、さっき申し上げましたように、それを越している魚がありました場合に、それを摘出するのに時間がかかりますので、結局は食べてしまうかもしれない。ですから、遠慮なく私はあぶない魚はこれとこれとこれだということを申しまして、普通のおとなはそれを一週間に一度や二度食べたって問題ではない、しかし妊娠した人はよすように、もし、それで産業があれしたら、国がそれを賠償してもいいのじゃないか。と申しますのは、これはドル・ショックで糸のほうを助けるというなら同じことだと思います。同じことより、もっと人の生命に直接関係しているのだと思っております。
  153. 林義郎

    ○林(義)委員 時間でございますからこれで終わりたいと思います。どうもありがとうございました。
  154. 田中武夫

    田中委員長 次に、堂森芳夫君。
  155. 堂森芳夫

    堂森委員 時間がきわめて制限されておりますので、参考人の三氏の方々に具体的に数点について伺ってみたい、こう思うのであります。  午前中の参考人の中で、東大の助手宇井純氏からも発言がございました。通生省は近くPCB生産を中止させるということを通産大臣が先般国会でも発言しておるわけです。そして科学の進歩があるのであるから、代用品、代製品というものの開発が不可能なんということはないのだ、そして無害なものにかえていくということにするのだと、わりあい簡単な答弁をしておられるが、学者としてどうか、こういう質問もしておられます。そうすると、宇井参考人は、私の考えでは、代製品を使っていくということもきわめて危険であるので、何を使うかわからぬような、そしてその本体もよくつかめないようなものを代製品として使っていくということは危険である、したがって、ほんとうに規制が可能ならば、このPCBを使うものもあっていい、そうあるべきではないか、こういうような、ちょっと発言のことばはそのままではないですが、そういうような意味の発言もあったのでありますが、こういう点についてお三人の学者方々はどう思われますでしょうか。しかし、原則としては、このPCB製造の禁止、使用禁止、観念的にはもちろんそうあるべきと思うのでありますが、実際にはそういうことをやって、かえって逆にいろいろな弊害がくるのではないか、こういうような発言があったのですが、三人の参考人方々、どう思われましょうか。答弁は簡単でようございますから……。
  156. 磯野直秀

    磯野参考人 お答えいたします。  私は、先ほども申し上げましたように、無害な代替品があるとは思っておりません。やはりある程度有害だと思います。ですから、宇井さんがおっしゃったかと思いますけれども、ある場合には、回収が完全にいくならば、あと焼却処分が完全に行なわれるならば、PCBの使用をそのまま認めてもいい場合もあると思います。たとえば、新幹線のトランスなどというような場合には、これは漏れたらたいへんなものでございますし、漏れない構造になっております。国鉄というのは大きなところでございますので、管理が安心だと仮定いたしますと、これは危険なものである、そういうふうに十分知りながら危険なものを使う、そのほうがかえって安全ではないか。たとえば、話は全然変わりますが、シアンという青酸がございます。青酸は非常にこわいものという認識が徹底しておりますが、意外に青酸による事故というのは、実験室などでは起こりません。むしろわれわれが普通何げなく使う有機溶媒のようなもので事故が多発いたします。今後のPCBに関しましても、これを簡単に代替品にかえればいいというふうなものではないと思います。もちろん回収不可能なものに限っては、これはもうPCBでは困ると思っております。
  157. 上田喜一

    上田参考人 PCBの代用品というものは、いま国産で二つ、それからアメリカモンサントが一つ、つくっております。それからはいずれも塩素を含んでおりませんけれども、少なくとも国産のものの毒性試験というのは、まだネズミを三週間飼ったところまでしかできておりません。そういう意味では、磯野先生のおっしゃるように、どれだけ悪いのかというのは、やはり二年ぐらい飼わなくてはわかりませんし、それから、そういう物質がどういうふうにこわれていくかということがわからないと言えません。ただ、私ども毒性学をやっている者から申しますと、そのすべての物質が危険ではなくて、その中にはいろいろな危険さの程度があります。いま代用品とされている品物は、わりあいに一部分がこわれて尿に排せつし得ると思われるようなかっこうをしておりますから、私としては、PCBを続けるよりは、当座にでもとにかくかえて、至急そういう毒性試験の完全なものを完了するということが必要だと思います。いまのところ、三週間の実験で、PCBに比べて肝臓の障害その他ははるかに少ないと思います。これは私どものところの実験でございます。
  158. 立川涼

    立川参考人 少し一般的にお答えしたいのですけれども、農薬の場合に、たとえばBHCが徹底的な規制をされました。しかし、残りの何百という農薬は依然として使われておりまして、実はまだあまりきっちりした規制が行なわれていないというのが実情です。しかし、農薬問題は、BHCによって一見解決したような印象が与えられております。こういった問題に対して世論なり社会が、いわばたいへん情緒的な反応をいたします。それに対して対策のほうもかなり情緒的に行なわれてきた。やはりクールな判断でメリットとデメリットをしっかり評価しながら冷静な一つの選択をしていかなければいけない。PCBの場合もやはりそうだと思います。利用の側から見ればたいへんすぐれた性質がある。とすれば、むしろそれを安全に使いこなしていくのが技術だという気がするわけです。その辺、やはり技術の展開のしかたに、あるいは企業の姿勢にも問題がなかったとは言い切れないというふうに考えております。
  159. 堂森芳夫

    堂森委員 時間もありませんので、この問題だけに限っていろいろ御意見を聞くわけにもいきませんが、もちろん通産大臣も、どうしてもこれがなくては目的が達せられない、しかも回収が確実に可能であるものは当分使用していくこともやむを得ない、こういう意味の答弁をしておるわけであります。この問題は、いずれわれわれまた政府当局といろいろ議論をいたしてまいりますので、次の問題に移りたい、こう思います。  立川教授の、しゃべられたのか書かれたものか、新聞でよく読むのですが、このPCB分析方法は非常にむずかしいのだ、そして、分析をやったものを積算していくときの積算の方法等もいろいろあったりして非常にむずかしいのだ、こういうふうに——私、しろうとですから、新聞記事を読んでそういうふうに理解したのです。そこで、いろいろな日本全国で検出されたPCBの定量の結果を見ておりますと、PPMは世界的にも非常に高いものである。そうして世界一のPCBの公害汚染国である、こういうふうに断定していいものでありましょうか。その点、立川参考人から伺いたい。
  160. 立川涼

    立川参考人 まず使用量から考えていくとよくおわかりいただけると思いますが、おそらく単位面積当たりですと、日本は最もPCBを使っております。したがって、単位面積当たり環境に投入されたPCBの量も、おそらく世界で最高だと思います。そういうことが当然反映しまして、どろなり生物なりの汚染になっている。そういうところで、しかも東京とか大阪というふうな大都市工業地帯では、PCBの使用量が集中しております。そういうところでは、当然使用状況から考えて、世界で最も高い汚染が出てもおかしくはないというふうに考えております。
  161. 堂森芳夫

    堂森委員 私が調べました数字では、一九七〇年にアメリカでは三万七千トンが使われておる。わが日本では一万一千トン。スウェーデンの国土は、われわれよりも広いですね。それでも一九七〇年に使用されている量はわずか五百トンです。そしてわが日本は一万一千トン。もう格段の差がある。国土はスウェーデンのほうが広いと思います。アメリカはもちろん多いけれども、国土は比較にならぬほど広い。こういうふうに、立川参考人がおっしゃるような意味でも、私そう思うのであります。  そこで、さっきも林委員から御質問がございましたが、厚生省では、食品類の許容基準量をきめてこれを近く公表する、こういうことをきめた、こう新聞には報道されておるわけです。しかし、けさからの、あるいはただいまの御意見等を聞いておりますと、わが国におけるPCB汚染状況というものは、どこにどれぐらいのものが汚染を起こしておるのか、その状況が、ある意味では、私具体的にわかってない、こう言っていいと思うのです。そういうような状態で、実情もわかっていないときに、許容基準量というものがきめ得るものだろうか、そんなものは科学的に何の意味があるだろうか、こういうふうにも考えるのです。たとえば大阪で、母乳の中に〇・七PPMPCBが定量された。今度は厚生省は、直ちにそれくらいのものはだいじょうぶだ、そんな乳を一リットルですか、三年間飲んでも、それぐらいならばだいじょうぶだというような発表をしたりしておるわけでありますが、許容基準量というものをこんな何にも——何にもと言ったら語弊がありますけれども、正確な科学的な基礎というものを持たぬときに、そういうものがはたしてきめられるのでありましょうか。そしてきめたものが、そんなものがはたして権威があるものでありましょうか、立川参考人からお答えを願えたら、こう思うのであります。
  162. 立川涼

    立川参考人 おそらく、たとえば、いろいろな政治的な決定あるいは経営の判断などというものは、一〇〇%確実な証拠があり、一〇〇%確実な将来予測のもとにやられることはないと思うのです。公害問題のようにたいへん複雑な社会現象であるような場合に、やはり五割、六割の確からしさがあれば、それにかけて一つのアクションをしなければいけない、そういうものだというふうに考えるわけです。そういった判断に立つ限り、いまある材料でもそれなりにきめ得る。それはおそらくきめないよりはいいだろう。その結果、それがよけいな心配であるならば、それはむしろ幸いなのだというふうに考えるべきではないかというふうに思っております。
  163. 堂森芳夫

    堂森委員 ないよりはいい、こうおっしゃると、これはどうでしょうか。そういう表現のしかたは科学的と言えるでしょうか、私は疑問に思うのであります。たとえばPCBがゼロのほうが、これは理想的だと思うのです。食べものに全然ないのだということ。しかし、われわれは必要な最低のカロリーというものをとらなければ生命を保てない。日本でいまそういう最低のカロリーを保とうとすれば、PCBを含んだものをかなりとらなければできない、こういうことでありますから、そんな理想的なことを言っておっても不可能でありますが、いま持っているようなデータからいって、そういうものをきめても、ないよりはいいのだ、こういうことになれば、これはまた話は別でありますが、私は、ほとんどそういうものは価値がないのではないだろうか、こう思うわけであります。まあ議論をするわけではございません。  そこで、すでに昭和二十九年から昭和四十六年までに五万七千トンぐらいのPCB生産された、それからさらに六百トンぐらいのものが輸入されておる、こういうふうにいわれておるのでありますが、さっきも、一万トンから三万トンぐらいのPCBは、もう日本の国土あるいは大気中あるいは海水中あるいは河川の中にそういうものがばらまかれてきた、こういうふうに立川参考人もおっしゃいましたが、ここで生産をやめ、そしてこれからつくっていかないことを原則として、使用も極力これを押えていく、特に開放的な方面に使われるものはもう一切やらない、こういうことに国はやっていくに違いないと思うのですが、それでもいままでに蓄積されたものを一体今後われわれ人間に悪い影響を及ぼさないようなことに持っていく方法というものは見つけ得るものでありましょうか。これは私はよくわからぬのですが、学者として立川参考人どうお考えになるでありましょうか。御意見だけでけっこうであります。
  164. 立川涼

    立川参考人 実は農薬のDDT、BHCあるいはディルドリンの場合、使用が少なくなりましてから当然食品としての人間への供給量が減ってまいりました。その結果として人体の中のそういう農薬の量は現在すでに減り始めているようです。PCBの場合まだ十分な測定データがないために、まだ上昇過程にあるのかあるいは下がり始めているのか、その辺は、はっきりわかりません。しかし、魚がおもな給源だとしますと、一般に陸上での使用のピークよりは魚の汚染のピークは時間的にだいぶおくれてまいるのが常識です。したがって、魚の汚染は今後まだ当分は上昇していく可能性がある。したがって、人間の汚染もまだしばらくは上昇していくというふうに見なければいけないと思います。ただ、それがどのぐらいの広がり、ないし時間がかかるのかという辺は、まだ十分な結果がございませんので、何とも申し上げかねるというのが実情かと思います。
  165. 堂森芳夫

    堂森委員 時間が来ましたから……。実は私、若いころ医学を学んだ者なんです。それで最後に、この点について学者として立川参考人に、こういうことが可能であると考えておられるか、お聞きしたいのです。  もうすでに人体に入ったPCBは何とかして人体から追い出さなければいかぬ、それからまた病気になった人は、何とかしてこれをなおさなければいかぬ。その二つのことがきわめて重要なことだと思うのであります。PCBといろいろ取り組んでおられて、どういうふうにお考えになられますか。想像、幻想でもいいんですが、そういう考え方をお尋ねしておきたい、こう思います。
  166. 立川涼

    立川参考人 私、医学のほうは専攻しておりませんので、この問題は、たぶん上田先生にお答えいただくほうがいいかと思うのですが……。
  167. 堂森芳夫

    堂森委員 では、上田参考人からお願いいたします。
  168. 上田喜一

    上田参考人 そのことに関しては、九州大学が長いこと苦労されまして、動物実験ではPCBの害を防ぐというようないい薬は一つも見つからなかったということでございます。ただ、患者のほうは、皮膚に関しては、ビタミンAの入った軟こうなどを塗りますと、わりあいに表面がやわらかくなって、にきびの中がとれますし、それから固くなった角化層がとれまして、顔のほうはだいぶよくなってきたということが書いてございます。それから、あと、たん白を沈着するホルモンというのを使っておりますが、それなどを使って少しはよくなっている人がありますが、それはまず軽症ぐらいのところ、中等症から上の人は、いろいろな治療にがんこに抵抗して、いまのところよい方法はないそうです。ただ、動物実験でございますけれども、BHCを食べさせたネズミにわりあいにたん白の多い、それから脂肪の多いものを食べさせたときの体内の減り方は非常に早かったというのが、大阪の衛生試験所の研究にございます。ただ、PCBの人は、脂肪代謝が狂っておりますから、うっかり脂肪をやって、新しい脂肪で古い脂肪を追い出そうということは、PCB患者には危険かもしれません。いまのところ、九州大学も特別なよい方法を持っておられないようです。
  169. 田中武夫

    田中委員長 次に、島本虎三君。
  170. 島本虎三

    ○島本委員 磯野先生にお伺いいたしますが、アメリカのFDAの基準、これは日本のカネミ患者を基礎にしてつくられた暫定基準である、こういうふうに承っておりますが、もしそうだといたしますと、亜急性と申しますか、亜急性の状態、そういうような患者だったと思います。そうすると、一挙にきたけれども、それが蓄積された、両方一緒にきた——蓄積されていくような、いわば慢性の症状のままで生命を失ったという事例が日本にあるかどうか、お知りになっておったならば、その例をお知らせ願いたい。  それからもう一つは、この亜急性の患者の中に黒い赤ちゃんが生まれた例があるということを報道によって私は知らされました。しかし、これは急性、亜急性、慢性いずれを問わず、こういうような状態を招来するものであるかどうか、この点について、ひとつお知らせ願いたいと思います。
  171. 磯野直秀

    磯野参考人 前のほうはあれでございますか、そういう例があるかないかということでございますか。
  172. 島本虎三

    ○島本委員 アメリカのFDAが暫定基準をつくったのは、これはもう日本のカネミ患者の発生したそれに基づいて、それにならってつくられた基準であるというふうに承っておるわけです。したがって、アメリカが暫定基準をつくった、これはまずわかりまするけれども、それにしても、日本自体でカネミ患者——この被害はわかりましたが、あれは亜急性の患者であるということを承りましたけれども、慢性で、そして生命に異常を来たしたような、こういうような実例がございましたならば、それをお知らせ願いたいということと、この亜急性、慢性、それから急性を問わず、黒い赤ちゃんが生まれたということを新聞で知らされましたけれども、これはいずれの状態で発生するのか、またいずれもの状態で発生する現象なのか、この点をお知らせ願いたい。
  173. 磯野直秀

    磯野参考人 まず最初の点でございますが、普通の人でPCBによって影響が出たという例は、いままでに日本でないと思います。ただ、職業病といたしましては、慢性中毒と思われる例が報告されております。たとえば五〇年代でございますが、コンデンサー工場で働いている作業員の、はなはだしいときは五〇%以上に発しんなどの状態が出た、こういう例はございます。ただ、これは現在の状態とだいぶ違う状態でございます。  それから、第二の黒い赤ちゃんのことでございますが、これは原理的には、急性であろうと亜急性であろうと慢性であろうと、こういうふうに胎児にPCBが伝わるということはあると思います。ただそれが、この黒い赤ちゃんのように激しい症状を呈するかどうかということになると別だと思います。私の予想では、いきなりこういう激しい症状を呈することはまずないだろうと思っております。
  174. 島本虎三

    ○島本委員 慢性で死んだ例は、御存じございませんか。
  175. 磯野直秀

    磯野参考人 職業病として報告がございますけれども、これはほかの薬剤とPCB一緒に使っていて死亡した例でございまして、PCBの影響かどうか、断定はできないと思います。
  176. 田中武夫

    田中委員長 次に、細谷治嘉君。
  177. 細谷治嘉

    ○細谷委員 時間がありませんから、二、三、まとめて質問したいと思うのですけれども、最近PCBの問題が毎日のように新聞に出てまいっております。そういう問題に誠心誠意取り組んでいらっしゃる数少ない国内の学者の方でございますが、先ほど来、研究体制の整備——あるいは官庁では、機械は買ったけれども、それを動かす職員なり技術者がおらぬ、こういうことも行政管理庁あたりから指摘されておるわけですけれども、三人の先生方のところで、この問題に取り組む研究スタッフあるいは研究費、こういうものはどのくらいお持ちでおやりになっているのか、一体その金というのはどこから出てきているのか、この辺をひとつ端的にお答えいただきたい、こう思います。これが第一点であります。  第二点は、これは立川先生がいいと思うのでありますけれども、朝からずっとお聞きしておりますと、PCBの処理については、最近工業大学で、バクテリアによる分解とかあるいは放射線による分解とか、いろいろあるわけでありますが、午前中の宇井さんの発言で、太平洋のまん中に住んでおる魚が汚染されておるのは、これはやはりPCBを焼く、焼いたのが空気中に分解しないで飛散をする、それが空気で運ばれて大気汚染していって、太平洋のまん中の辺の魚を汚染しているのではないか、こういうことを言われました。燃焼過程、燃焼による生成物はどういうものになるのか、これを十分解明しなければ、燃しちゃえばいいんだ、こういうことでは片づけられないと思うのでありますが、この辺について、ある程度立川先生のところで研究を進められたことがあるのか、あるとするならばその辺のデータ、むろん十分じゃないと思うのですけれども、それを教えていただけば幸いだ、こう思うのです。  それから、第三番目はPCB毒性に関する点でありますけれども、先ほど磯野さんがPCB三〇〇あたりに一番毒性が強いのだ、こういうことでありますけれども、これは化合物そのものの毒性ということより、常識によると、おっしゃられるように、塩素の含有量が多ければ多いほどそのものの化合物としての毒性は多いというのは常識的に考えられます。しかし、それが生体の中で、たとえば生体の中での安定性なりあるいは脂肪に対する溶けぐあいとか排出性の難易、こういう問題でいろいろかかり合ってくるわけでございますけれども、ずばりいって、このPCBというのは安定しておる、難溶性だ、脂肪に特に溶けるのだ、排出は母乳とかあるいは胎児を通じて以外ないのだ、こういうことに難物の難物たる問題があるのですけれども、一体ついておる塩素というものが毒性の大きなウエートを持っているのか、骨格であるビフェニールというものがその毒性の主体をなしておるのか、この辺がわかるかどうか。と申しますのは、いまの三〇〇が一番強くて二〇〇、四〇〇というのはその次ぐらいにランクされるのだ、こういうことです。かつて戦争前の熱媒体というのはクロールの入っておらぬいわゆるビフェニールというものを熱媒体として使っておった。しかし、これは可燃性ですからそれにクロールを入れて難燃性にした、こういう経過があるように思うのでありますが、化学構造上から見た毒性、こういうふうな問題についておわかりでしたら、先生の知見をひとつ拝聴をいたしたい、こう思うのです。  それからこれに関連して、立川先生のところあたりで、カネミ油症患者の幾つかの例について、油症問題が起こった四十三年当時、四十五年、四十六年、七年と、時の経過に伴って人体の脂質の部分にあるPCBというのが変化していっているというようなデータをお持ちかどうか、こういう点であります。  もう一つは、どうもこのPCBというのは、一度亜急性なり急性の中毒をいたしますと、その人はこの種の薬品、PCBに限らず有機の芳香族塩素化合物に対して耐性が非常に劣ってくるのじゃないか。病気の場合は免疫性というのができますけれども化学薬品に対して一度中毒いたしますと、その薬品あるいは同族のものに対して非常に鋭敏になってくるというのが、大体化学薬品に対する人間の状況ですが、PCB等の場合は一体どうなのか。一ぺん急性あるいは亜急性等でだんだん蓄積してきますと、人体というのが非常にそれに敏感になっていく傾向があるのかないのか、この辺をお尋ねをしたいと思うのです。  以上です。
  178. 上田喜一

    上田参考人 私どもPCBのうちの多少環境汚染に関係いたしますものは、ただいまは環境庁、前は厚生省の委託研究でございます。それはPCBだけというのが百万円ぐらいでございましょうか。それにまざってほかの重金属その他と一緒というのが、これはどれくらいがPCBであるかどうかはわかりませんが、あと人体汚染に関するものは、厚生省でもいまその主管の課がないわけでございまして、これは大学の自分のお金でやっております。人員は三人くらいで、ガスクロマトグラフィーが三台でございますが、人件費は、学校の職員なので不必要でございます。大学院の学生か助手ですから、別にそれは本俸をもらっておりますから。ただ、私の考えますことは、そういうようないろいろな調査というのはやはり大学の、少なくとも医学関係の大学がやることではないのではないか。われわれは、医学に関係のあるものは、むしろ人体に関すること、あるいは解毒とか毒性、そういうことに主力を置くことが主であって、環境汚染調査はやはりおのおのその専門の方にまかしたほうがいいのだと考えております。いま申し上げましたように、仕事が多くなると人体汚染の研究がおろそかになります。  次に、さっきお話がございました三〇〇が強いというのは、磯野先生の言われたお魚に対する毒性でございますけれども、動物に対しますと、これは委託研究として神戸大学の喜田村教授がやられておりますが、三〇〇は早く消え去りまして塩素の多いほうがやはり残ります。カネミの患者は五塩化あるいは六塩化が多いというのが九大から出ております。ですから、私どもはあまり三〇〇を考えておりませんで、やはり四塩化より上のものを人体に関しては考えればいい。もちろん複合で三塩化がございましたら毒性のプラスになりますけれども、長い目で見ますとそれは早くからだから抜けていく、そういうふうに、考えております。
  179. 立川涼

    立川参考人 私どもの研究スタッフは、私と助手一名、技官一名です。実際には大学院の学生とか卒論の学生がおりまして、そういったメンバーの助力なしには事実上動いていかないのが実情です。  研究費のほうは、PCBに直接関連しては、厚生省の今度の分析や委託でいただいたお金が百万ばかりございます。それ以外には直接PCBでいただいたお金はございません。ただ、たまたま文部省のほうの研究費として、実は農薬による生物汚染とか環境汚染のお金を五人ほどのチームで二百五十万ほどいただいておりまして、実はそれをかなり流用してまかなっておるというのが実情です。  それから処理の問題ですが、これは私どものほうで燃焼の研究は全くやっておりません。これはたいへんお金がかかるわけです。燃焼炉をつくりませんと事実上やれないわけですから、私ども現状ではとても手に負えかねるわけです。私の知る限り、日本公表された燃焼のデータはおそらくないのではないかという気がいたします。しかし、これはいいかげんな燃焼をしますと、そこからまた二次公害が起きるわけです。そういう意味でも、やはりきっちりした処理の研究が必要だと思います。  それから、ちょっと関連しまして、いま上田先生のほうから生物で若干分解するというお話があったわけですが、どろの中でもカネクロール三〇〇ないしは四〇〇は徐々にではありますけれども分解いたします。全く分解しないということはございません。それから空気の中で光によってもPCBがある程度分解をするということはわかっております。それで、外洋のPCBの給源が何かというのは実はかなり見解が分かれておるところでありまして、欧米の学者には大気汚染説がたいへん強いわけです。おそらくそうだと思いますけれども、船底塗料といったものも可能性としては残るかと思います。  それから油症患者についての経過分析例があるかということですが、私どものほうは油症から研究をスタートしたわけではございませんで、環境汚染として問題をスタートしたものですから、あまりそういう古い実験例を持っておりません。
  180. 磯野直秀

    磯野参考人 まず、大学における研究の実態でございますが、お恥ずかしいことに、都立大学でこの問題をやっておりますのは私一人でございます。関心を持ってくれる学生もおりませんし、一緒にやろうというスタッフもおりません。研究費も年間五万円そこそこでございまして、私は目下ポケットマネーで、持ち出して仕事をしているという状態でございます。おそらくこういう問題を解決するのには、環境生物学というふうな基礎生物学が必要だと思うのでありますが、日本現状は非常におくれております。都立大学に限ったことではございません。この点を私深く困ったことだと思っております。  それから、PCBのカネクロール三〇〇の毒性のことでございますが、私の申しましたのは、魚に対するいわば急性中毒に近い実験でございまして、数日問かかって死亡率を見るという実験でございます。このカネクロール三〇〇がかなり毒性が強いというのは、毒性そのものというよりはえらからの吸収率が三〇〇、四〇〇、五〇〇とそれぞれ違ってくるのではないか。これはいまのところ想像なのでございますが、えらからの吸収率が多少違ってくるためにそういうふうに死亡率に差ができてくるのではないかと思っております。ですから、人体の場合にはいままで高塩化物のほうが残りやすいし、影響が強いといわれておりますので、魚と同日に論ずるわけにはいかないと思いますが、吸収の形態とかそういうところでも、かなりものによって違ってくるので、検討する必要があるのではないか、こういう意味で申し上げたのでございます。  それから、塩素が毒性が強いのかビフェニールが強いのかということでございますが、いまのように細胞の中に入ってしまったあとでは塩素の程度の多いもの、高塩化物のほうが毒性が強いというのが正しいのではないかと私は思っております。ですから、ビフェニールのほうが毒性は低いだろう。  最後の問題ですが、有機芳香族化合物に一ぺん中毒にかかりますと鋭敏になるというお話でございますが、これは残念ながら私はよく存じ上げません。そういうこともあるかもわかりませんが、お答えできません。
  181. 田中武夫

    田中委員長 次に岡本富夫君。
  182. 岡本富夫

    ○岡本委員 参考人の方には長時間たいへん御苦労さんです。もうしばらくですから、ごしんぼう願います。  そこで、昨年の十二月の十八日に愛媛大学立川先生分析をしていただきましたが、富士周辺、すなわち田子の浦のヘドロにつきまして、この問題の中で湿泥、これが七〇〇PPM、それから乾土でございますが、一五〇〇PPM、ヘドロが四七〇〇PPM、それから同じくヘドロ、とる場所がちょっと違うのですが、二三〇〇PPM、こういうように分析をしていただきました。  そこで、先般田子の浦のヘドロの処理について視察に行ってまいりましたが、現在九十万トン以上、こういったヘドロがある。それから毎日六十万トンから八十万トン、相当な量が出てくるということで、この処理について見てみますと、陸上にこのヘドロを上げて、そうして乾燥をして、その分をそのまま埋め立てのようなところに持っていきまして、上から草を植えている、こういうようなやり方。それからもう一つは、船でどこかに運ぶというようなやり方、こういうふうなことでありましたのです。こういう処理をしたとしますと、PCBが相当地下に浸透したり、あるいはまた海洋の汚染をし、特に魚の問題が先ほど出ましたけれども、そういった漁場をよごさないようにするという面に考えましても、このPCBの処理については相当問題があろうと思うのですが、それについての何か先生の御意見がございましたら、立川先生からお願いしたいと思うのですが、いかがでしょうか。
  183. 立川涼

    立川参考人 技術的な問題について十分な判断をする能力がないわけですけれども、たいへん突き放した言い方が許されるならば、しゅんせつをして上げましても、もともとPCBはなくなるわけではありません。そういう意味ではむしろ住民の選択の問題かもしれないなという気もしないわけではないわけです。ただヘドロの問題につきましては、PCBはたいへん問題になっておりますけれども、繊維かすとか、リグニン廃液というような有機物が大量にあるということがやはり一番大きな問題、その次にやはりいろいろな硫黄化合物だとか、いろいろな塩類が含まれてまいります。そういう問題が大きいのだろうと思います。     〔田中委員長退席、始関委員長代理着席〕 PCBの問題は何番目にくるかわかりませんけれども、おそらくヘドロにとって一番大事なのはそういう繊維かす、木材かすの問題という気がいたします。  ところで、そのヘドロに含まれているPCBはそういう作業に伴ってどういう影響ないしは汚染を起こすかという問題、一つはやはり作業の途中で露出するものですから、その過程でかなりガス化されると思います。特にあれはカネクロール三〇〇というたいへんガスになりやすいPCBが含まれております。ですから、その作業の過程で大気汚染としてある程度出ていく可能性はあると思います。あと、埋め立ててしまったあとの変化はたいへん緩慢だと思いますけれども、有機物がだんだん腐る過程でフミン質というようなものができますと、学問的にはそれは重金属を溶かしてみたり、PCBのような油に溶けやすいものを溶かしたりする能力があるわけですから、場合によっては地下浸透という形でPCBが地下水を汚染したり地層を汚染する可能性はあると思います。ただそれが現実にどのぐらいの意味がある汚染になるかどうか、この点については残念ながらいまのところ、ちょっと判断をする能力を持っておりません。
  184. 岡本富夫

    ○岡本委員 そこで、あれは富士川の河川敷だったと思うのですが、あそこでこのヘドロを天日に干して、固めて、そしてあとまとめて埋め立て地へ持っていく、こういうことですと、やはりそのときに、数値を見ますと相当に多いわけですが、そういったPCBによって大気汚染というのが相当あるのではないかという考えもあるのですが、この点についての御見解がございましたらひとり……。
  185. 立川涼

    立川参考人 ガス化して大気汚染が起きることは間違いございません。間接的なデータはいろいろございます。しかし、大気中のPCB濃度を直接はかったデータはまだ日本にないわけです。したがって、どのくらいかということについて実ははっきりしたお答えができないわけです。汚染することは間違いありません。
  186. 岡本富夫

    ○岡本委員 そこで、これは実は大気中のPCB濃度についてでございますけれども、先ほど先生方から米国の食品・医薬品局ですか、FDAですね、ここの基準よりも低くすべきだというようなお話もございましたが、今後PCB問題について私たちが取り組むについて、大気中のPCBの濃度実体どのぐらいが衛生基準といいますか——米国基準、これは間違っているかどうかわかりませんが、〇・五または一ミリグラムというような、これは工場大気中でありますけれども、大体日本ではどのくらいのところに規制をしたらいいのか、この点についての御研究はございませんでしょうか。     〔始関委員長代理退席、田中委員長着席〕
  187. 立川涼

    立川参考人 まだ研究はございません。さっきおっしゃいましたように、アメリカのいわば労働衛生基準といいますか、産業衛生基準として、低塩素化物であれば一ミリグラム、高塩素化物であれば〇・五ミリグラムパー立米という基準がきめられております。しかし、これは労働衛生基準ですから、普通の人にとてもこんな高い数字は考えられないわけで、おそらく百分の一あるいはそれ以下でなければいけないだろうというようなことが一応申し上げられる程度です。
  188. 岡本富夫

    ○岡本委員 そうでしたね。これは産業衛生基準でしたですね。そうしますと、そこでけさも科技特の委員長の渡部先生から話がありましたが、食品の許容基準、これは厚生省、あるいは環境基準環境庁、製品製造はこれは通産省分析方法が科学技術庁と、こういうように分かれておるために非常にきちっとした一つのルールができないのではないか。いま、こういったPCBの公害の問題が非常におもてにあらわれてきたときに、今後の公害を未然に先取りするための体制をつくる、これがいまチャンスではないか。そういったところからも補助金をもっとたくさん出して、先生方にももっと研究をしていただく、こういうような一つのプロジェクトといいますか、これは少し政治的判断でございまして、先生方にお答えをいただくかどうか、ちょっとあれなんですが、その点についての御意見がございましたらひとつ……。
  189. 上田喜一

    上田参考人 このPCBでなくて前に起こりました農薬を例にとりますと、いまおっしゃいましたとおり、各省に分かれております。また、同じ農林省の中でも、水産庁と、自分は被害者だというところもございますし、それからいまの船底塗料などという話になりますと、これは運輸省かもしれませんです。同じ厚生省の中でも、当時は母乳は母子衛生課とか、農作物は食品化学課、それから牛乳になりますと、それは乳肉衛生課というように、ほんとうに縦割りであるために、いろいろなことが総合的施策がおくれたということは、もう確かにございます。私は前からそれを指摘しておるのでございますが、PCBのように、主目的は、これは化学工業でございますから農薬ほど範囲は広くはないのでございますが、それを使う用途がたいへん複雑なものですから、環境汚染方々に広がっております。私の考えでは、やはりこれは政府の中に総合委員会のようなものがありまして、ことに常設の委員会がありまして、事が起こったからあわててやるのでなくて、ふだんからそういうことを考えていて、しかも今後何が起こるであろうということを予想しながらそれを前もって調査するというプロジェクト、それが必要なんだと思います。私どもの立場から申しますと、すべての物質がこれを起こすのではございませんで、やはり食物連鎖その他で生体内に濃縮が起こるもの、それをまず第一目標にすればよろしいので、金属の中でもそうたくさんあるものではありません。有機化合物の中でもそうたくさんあるものではありません。ですから、やはりそういうものを目ざすと一緒に、また、そういう性質を持ったものはどういう物質があるだろうかという基本的研究もどこかで進めていく、そういうようなことですね。その基本的な基礎的研究と常設の委員会というものを私は提唱したいと思います。
  190. 岡本富夫

    ○岡本委員 いま母乳汚染のお話が出ましたが、この母乳汚染につきまして厚生省のほうでは問題ないという発表をいたされましたけれども科学的根拠がないと、そういうわけで、世論はほんとうにだいじょうぶなんだろうかというように非常に心配もいたしておりますし、したがってこれについて、これは上田先生が特に何か御意見がございましたら——確かにだいじょうぶなんだろうか、あるいはまた何か不安があるのだろうか。これはいままでのデータは御存じだと思いますが、それに対する御意見がございましたらお聞きしておきたいと思います。
  191. 上田喜一

    上田参考人 その後、大阪でこれらの乳児の精密検診を専門の小児科がなさって、一つも悪いことは見つからなかったということでございます。しかし、長い経過をとってどういうことが起こるかということは、まだいま言えることではございませんで、砒素ミルクだって、いまになって後々の影響を騒がれておる次第でございますから。これはほんとうに私のプライベートの意見ですけれども、もし高い人が見つかったらば、少なくともそのおかあさんには、さっき申したように、こういうようなお魚はおよしなさい。母乳は小児科の専門医に聞きますと、いま三カ月ぐらいで離乳するのだそうです。ですから、もうごく初期の消化不良を起こしたら困る時期を過ぎたら、早く母乳はおよしなさい、粉ミルクにしなさいというようなことを言ったほうがいいのではないかということを私は考えております。かなりそういう気持ちにみななってきておるのではないか。ちょっと私は私ながら考えております。
  192. 岡本富夫

    ○岡本委員 確かに、そういういい御意見を伺わしていただきましてありがとうございました。現在は何でもないけれどもあと三年したら全国各地で相当被害が続出するのではないかというような、これは参議院で小平さんからの追及に対してそのとおりだというような意見、お答えが出ておるわけですが、そうして、そうであって、いまのところはたいしたことないのだということでは、このままだけでは厚生省としても少し指導が、ほんとうに住民サイドになっていない、被害者サイドではないというように感じられましたのでお聞きしました。それを聞いてたいへん安心しました。  次に、先ほどからお聞きしておりますと、分析方法あるいは分析価、これの評価がばらばらである。研究所あるいは各国によって違うというようなお話でございましたが、これは自然界にもあるわけですから、全然許容基準というものがないというわけにもいかないと思うので、やはり分析の方法あるいは分析価というものが大体一定してくるということが望ましいと思うのです。そこで科学技術庁のほうで、一応全国に統一したところの抽出方といいますか、ガスクロマトグラフィーというのですかね、こういう方法を発表しておりますけれども、これも十分でないというような発表で、まあほぼ満足すべき結果が得られたということのような資料が来ておるわけです。そこで、はたして確実なと申しますか、こういった科学技術庁の分析方法というものは確実であるのか、あるいはまた、まださらに研究をしなければならぬのであろうかということを、先生方の分析をされておる立場から一ぺん教えていただきたいと思うのですが、いかがですか。どなたでもけっこうです。
  193. 立川涼

    立川参考人 先ほども少し似たことをお答え申し上げたんですけれども、一応一定の水準の専門家、研究者がそれなりに熟練をしますと、一応使える。これは今度の科学技術庁の方法にしましても、あるいはその他の二、三の方法にしましても一応使えると思います。それはたとえばカドミウムだとかメチル水銀をわれわれがPPMで出し、そのデータでいろいろ判断をし規制をする、その程度の水準にはPCBもなっているというように考えております。
  194. 岡本富夫

    ○岡本委員 磯野先生もやはりこれと同じやり方で分析をなさっておるのですか。どうですか。
  195. 磯野直秀

    磯野参考人 私のところでは、分析はやっておりません。
  196. 岡本富夫

    ○岡本委員 分析をなさっているのは、そうすると立川先生だけですね。上田先生もやっていらっしゃいますか。
  197. 上田喜一

    上田参考人 私もその委員の一人でございましたから、それに従わないわけにはいかないわけでございますが、これはたいへんめんどうくさい、むずかしいことでございますから、場合によってはPCBだけをはかるもう少し簡単な方法を使います。現に方々の、大阪のデータもその簡単なほうだと思います。東京の都立衛研も簡単なほうだと思います。しかし、さっきからお話が出ましたように、DDT、BHCその他の有機塩素が一緒にあれば、足し算で影響があるということになりますと、立川さんがおきめになったそのめんどうくさい、あんまりいやですけれどもDDTやBHCも一緒にはかるという方法がやはり必要になる。これからは少なくとも厚生省あるいは環境庁関係の研究所は、その方法で分析が出てくると思います。そういたしますと、データは相互に比較することは前より容易になると思います。
  198. 岡本富夫

    ○岡本委員 この問題につきましては、実は分析方法ではないのですが、公害のいろいろな検査、大気汚染の問題、いろんな問題がありますけれども、西ドイツのほうに行きますと測定機器も一定しておりまして、それから測定の場所もきちっと一つのルールというのがあるわけですが、わが国ではいろんな機械でやるものですから、測定値がずいぶん違うわけですね。ですから分析のほうも、全国的に何らか一定していただいたほうが非常にいいではないかということを考えたからなんですが、そこで上田先生はそのほうをいま担当していらっしゃるのですから、ひとつその点もよろしくお願いをしておきます。  最後に、カネミの中毒がありましたのが、あれは四十三年度だったと思うのですが、それからのそういった患者あるいはまたそういった被害者の方々に対する治療法と申しますか、PCBの、やはりこれだけわが国の国土にあるわけですから、完全な治療法というものがなければ救えないんじゃないか。あなたはPCB汚染患者ですよと言われても、そうですかと死ぬまで待つしかない、こういうことでもならないので、この完全な治療法は四十三年からこちらどこでもやってないのか。あるいはまた、そういった問題についての御意見なりがありましたら、承っておきたいと思うのです。
  199. 上田喜一

    上田参考人 これは先ほど申し上げましたように、昭和四十三年度から治療法に関する科学技術庁の研究費が九州大学を中心に出ているわけでございます。それはさっき申し上げましたように、すばらしい薬は見つからなかったということでございます。いま一つは、グルタチオンとかSH基がついたようなものは、もしかしたら塩素にひっついて塩素を一つはずすのではないかということで、そういうのを与えている。それからビタミン氏を与えている。それから硫黄の温泉がわりあいにいいというのは、こういうところの角化層が溶けまして中のあぶらが出やすくなる。こうすると次から次へと出て、皮膚のあぶらとしての排せつが促進される。それからにきびがよくうみまして、それをかくもので、私の知った例もほんとうに見苦しく大きくなることがあります。それを防ぐための化膿どめの消毒剤で皮膚を塗るとかいうことと、さっき申し上げましたたん白沈着ホルモン、例の太るホルモン、そういうものを使ったりしておられて、軽症の人はわりあいによくなっていく。顔もつるつるになった人もあるということ。ところが中等症、重症の人はほとんど見るべき効果がないというわけでございます。ただ、さっき申し上げましたように、油症の人たちは相当に大量をとった人ですから、いまの環境汚染国民一般に入る量というものは、油症患者から見たら軽症のまたその下でございますから、当然それは治療しないでも、PCB汚染からだに入るほうを減らせば出ていく程度であろうと私は思います。いまの御質問は油症の患者のほうでございますね。ですから重症の人はほんとうにお気の毒で、早くもっと何かいい方法を考える。体内で塩素をはずす方法というようなことを考えなくちゃいけないと思います。いまはあまり成功しておりません。
  200. 岡本富夫

    ○岡本委員 それで四十三年のカネミの中毒は、これはカネミの油を使用したとかあるいは体内に入れたとかいうことがみなわかりますから、ああして全部たどっていって救うことができたわけですが、いま医学界でよくいわれておりますのは、もう医学には限界が来た。なぜかといいますと、その原因がわからないから治療の方法がないのだというようなことを言っている学者もいます。そうしますと、このPCBは大体二十九年からわが国に入ってきた。それから四十二年九月。午前中に参考人の皆さん、メーカーの皆さんに聞きましても、まだわが国では汚染されてから非常に期間が短いわけですね、考えてみると。だから蓄積も少ない。これからどんどんふえてくるのではないか。そうして重症になったりいろいろなことが起こってから、これはたいへんだということではまずいのではないか。したがって、早期発見というような点もひとつ考えなければならぬのではないか。先生いまおっしゃったように、軽い方は非常にうまくよくきいた、こういうことですから、こういったPCB汚染されているというのはなかなかわからないわけですからね。魚を食べても、その魚で規制していくということもありますけれども、魚が一々わしはPCBを食べてますよといえば話はわかりますけれども、たいがい抜き取りだったりしますからね。そうしますと、ちょっとでも症状が出たときにはこういうような治療法がいいのだというようなことが全国にわかるような指導があれば非常に幸いではないかというような、早期発見の面について何か御意見がございましたら承っておきたいと思うのです。
  201. 上田喜一

    上田参考人 さっき申し上げましたように、唯一の望みがあるのは血液からはかることだと思いますが、これはそうたくさん血液をとるわけにいきませんので、やはり誤差、エラーがたくさん入ってまいります。その上に個人差がありますので、よほどひどい人は見つかると思いますが、普通の人ではなかなか見つからないのではないかと思います。もう一つ困りますことは、私をどうか調べてくれという、たとえば母乳の場合にそういう例がたくさんあるのでございますが、それを引き受けてくれるという研究所がまずないのでございます。日常の仕事が一ぱいでございまして、そういう割り込みはほとんど県あるいは地方官庁、行政庁の研究所では不可能、大学も同じだと思います。それで、ある基準量以上はいけないと申しましたとき、母乳などでございますけれども、それでは私のをやってくれといったときお手あげになってしまって、実際上はどうも基準は引いたが、個人個人の人の依頼には応じられないだろうというのが現状でございます。
  202. 田中武夫

    田中委員長 次に合沢栄君。
  203. 合沢栄

    ○合沢委員 参考人の皆さんには長時間たいへん御苦労でございます。  まずお伺いしたいのですが、PCBは非常に水に溶解しにくい。溶解度は〇・五から一・五PPMだというようなことがいわれておるわけでございますが、東京湾だとかあるいは大阪湾だとかこういうPCBをうんと使っておる地域の海の溶解の程度というか、そういったようなものについて調査されておられるかどうか、もし調査されておったらお聞かせ願いたいと思います。
  204. 立川涼

    立川参考人 海の中の濃度は一PPBをこえることはまずありません。これはたとえば東京ですと隅田川とか多摩川とかいろいろな流入河川があります。それが大体〇・一PPBないしはそれ以下くらいだと思います。それで東京湾の海水に流入するPCBはそれ以外にも多分あるに違いない。たとえば下水処理場とかそういうところからPCBが出る可能性があるわけです。たとえば欧米などでは海湾の汚染はむしろ主として下水処理場の排水だというふうなデータも出ております。もちろんそういうところでは工場排水、生活排水がすべて下水にくるということもありまして、汚染源すべてがそこからくるわけですけれども日本の場合はやはり河川からきたり下水処理場から、あるいは工場からも直接くる、そういうふうなことがあると思いますけれども、海の場合は河川よりもやはり一段と低くなるわけです。沿岸に非常に近いところは川とあまり変わりませんけれども、低くなりますと、やはり〇・〇一PPBといいますか、そのくらいまで下がると思います。外洋のデータはありませんので、ちょっとわかりかねますが、もっと低いと思います。
  205. 合沢栄

    ○合沢委員 そうすると、海の中におけるPCBのあり方ですが、どのような状態にあるか。溶解したのはそのようなことのようです。そうすると、あとのそれ以外のものはどういう形であるのか。というのは、海底に堆積されてあるのか、それとも適当なところで動いているのか。それはどうなんですか。
  206. 立川涼

    立川参考人 濃度的にいいますと、海の底のどろのほうがはるかに高い濃度になっております。これは東京湾ですと、たとえば横浜から東京寄りといいますか、東京湾の東側では一PPMをこえる地点がしばしばございます。二PPMあるいは三PPMもあります。ところが、千葉側は一PPMをこえる例はまずほとんどありません。つまり東側はきれいなわけです。つまり大都市工業地帯がないほうでは、やはりきれいなわけです。海水に比べますと、そういうふうにどろの汚染はおそらく百倍も千倍もあるいはそれ以上も高いようです。海水の中で考えますと、これは実験データと若干の類推を含めるわけですけれども、水に溶けにくいためにいわば非常に表層に集まってくるわけです。ですから海の非常に表面に皮膜状といいますかあるいは微粒子状で分散状態であるらしいというふうに考えております。したがって、そこからはどんどんガス化するわけです。大気にいけば大気の動きは海水よりもはるかに早い。そのために汚染の拡大といいますか広がりが大きくなる、あるいは伝播の速度が早くなるというような問題が出てくると思います。海水中では当然いわゆる食物連鎖によって濃縮されていく、一部の死骸は底に沈んでどろの汚染になるというふうな経過をとるというふうに考えております。
  207. 合沢栄

    ○合沢委員 そのPCBが直接われわれの体内に入ってくる場合は、一番多いのはプランクトンを通じて魚だと思うのですが、PCBとプランクトンの汚染ですか、プランクトン汚染はどのような形で汚染されるのか、ちょっとお聞かせ願いたいと思うのですが……。
  208. 磯野直秀

    磯野参考人 一つにはおっしゃるようにプランクトンから魚に入っていく、こういうふうにDDTと同じような濃縮の形があると思いますが、私はもう一つ海水からダイレクトに魚に入っていく道もあるのではないか。これは確実な証拠があるわけじゃございませんが、実験的なことから考えますと、海水から直接魚にいっている場合もあるのではないか、そういうふうに思っております。食物連鎖が起こっておりますことは、プランクトンをはかったデータ外国にございますが、これは魚よりもやや低いようでございます。
  209. 合沢栄

    ○合沢委員 このPCBが主として海の表面と海底にある。中間には比較的少ないと思うのです。プランクトンは主としてその中間にあると思うのです。したがって、プランクトンの汚染というものは比較的少ないのじゃなかろうかというように考えたのですけれども、プランクトンの汚染というものを、汚染されたプランクトンを魚が食って、その結果魚が汚染されているというように考えるものですから、その辺ちょっとプランクトンの汚染の経路というものをお聞きしたかったわけです。
  210. 磯野直秀

    磯野参考人 プランクトンというものはまず海水のかなり上のほうにおります。夜と昼とで上へ上がったり下がったりいたしますので、かなり移動いたします。私の考えではいまの海、ことに東京湾などは油が浮いておりますが、この油の中にはかなりDDTPCBが濃縮されてくるのではないかと思います。これは外国DDTに関してはそういうふうな報告がございます。そこら辺のところにプランクトンがたくさんおりますので、そこから直接摂取するのではないか。魚もまた油でよごれた水をえらから入れておりますので、そういうかっこうでやはり魚の中に入ってくるのではないか、この二つの道ではないかと思っております。
  211. 合沢栄

    ○合沢委員 大気汚染によってそれが海中を汚染するというようなことがいわれておるわけでございますが、そうすると大気汚染は海だけでなくして土壌汚染ということも当然考えられると思うのですが、土壌汚染状況なり調査したものがあればお示し願いたいと思うのです。
  212. 立川涼

    立川参考人 現在調査中のものが多いためにはっきりしたことはお答えできませんけれども、たとえば高知県や愛媛県の水田地帯ですとたいへん低い値です。たとえば一〇PPBとか、陸地土壌ではあまりPCBを使った可能性がないために非常にきれいというふうにいえるかと思います。ただやはり製紙排水あるいは製紙工場の近辺、あるいはこの間から問題になっております例の日本コンデンサの排水とかいうふうにPCBを使っている工場排水の影響が及ぶところ、あるいはその大気汚染が及ぶところでは、やはり大気汚染による土壌の汚染があり得るというふうに考えております。いずれそのデータはまとめて公表できると思っております。
  213. 合沢栄

    ○合沢委員 この土壌汚染と植物汚染との関係ですね。野菜等についてはPCB汚染が認められておるということでございますが、土壌汚染による植物汚染との関連はどうなんでしょう。
  214. 立川涼

    立川参考人 これも中間的な段階でたいへん恐縮なんですが、PCBはあまり水に溶けません。したがって、どろから根のルートでそれほど吸収するとは思えません。もちろん土壌根という形態で植物の地上部に上がっていくという可能性がないとは言えません。しかし、意外にばかにならないのがどろの表面からガス化したり、よそからガスになってきたPCBがそのまま地上部に、葉っぱからあるいは茎から吸収されるということがむしろ大きいと思います。これは現実にそういうことが起きております。
  215. 合沢栄

    ○合沢委員 この植物汚染が比較的少ないとなると、たとえば牛乳の汚染程度が少ないというように考えていいと思うのですが、牛乳の汚染状況はどうなんですか。
  216. 上田喜一

    上田参考人 幸いなことに、牛乳の汚染は〇・〇幾つPPMというところでございます。ですから、その点はよろしいのでございますが、今度は大阪以西のほうが牛乳にベータBHCがございます。ですから、もしPCBとプラスに働くなら牛乳からBHCがきて、お魚からはPCBがくるということになります。
  217. 合沢栄

    ○合沢委員 次に、日常われわれが使っている紙類、たとえばペーパータオルあるいはトイレットペーパーといったものですね。こういったものにもPCBが含有されているのだというようにいわれているのですが、こういったものの含有の程度等を調査しておられますか。
  218. 立川涼

    立川参考人 私どもが愛媛県で入手できる市販品を分析した限りでは、ペーパータオルで二五〇PPMぐらい出たのが一番高い数字です。一般にバージンパルプと申しますか、木材からつくったパルプを一〇〇%原料として使った紙製品、この場合には一PPMをこえることはまずないと思います。しかし、再生紙である場合には、直接ノーカーボン紙がまざったり、あるいは過去にその紙はノーカーボン紙が混入していたということで、大なり小なりPCB汚染がございます。ただ、昨年の秋から現在まで、ときどき製紙排水の分析をしておりますけれども、少しずつPCB濃度は下がってきております。したがって、故紙として使われているノーカーボン紙あるいはPCBの入ったノーカーボン紙が故紙に入っていく割合は次第に減ってきているというふうに考えていいかと思います。しかし、すでに紙製品に入ってしまったものは今後とも何度も再循環されるわけですから、それが消失していくためにはやはりかなりの期間を予想しなければいけないと考えております。
  219. 合沢栄

    ○合沢委員 そういったペーパー夕オルみたいなものですが、二五〇PPMも入っている。そういったものは皮膚から人体汚染するというようなことはありますか。
  220. 立川涼

    立川参考人 この辺、実は実験をしたことはありません。ですから全く推定で申し上げるのですが、直接使うときの影響はあまりないのではないかというふうに考えております。これは食べたりするものではございませんから、むしろこれがごみとして、あるいは下水処理場に流れた結果としていずれ環境に出てしまう。その環境汚染がいずれ魚の汚染とか生物汚染にきいてくるかもしれない。そちらのほうの影響のほうが大きいのではないかというように判断しております。
  221. 合沢栄

    ○合沢委員 このPCBの最も大事なことは、焼却すればいいのだということを聞いておったのですが、先ほどの話では、やはり高温焼却にも非常に問題があるという意味の御発言がございましたが、その点をもう少し詳しくお聞かせ願いたいと思うのです。
  222. 磯野直秀

    磯野参考人 私も実験をして確かめたわけではございませんので、ある程度推測でございますが、これは鐘淵のメーカーのほうから聞いております話では、千三百度以上に重油を加えまして燃やす。そうしますと、完全に分解してしまう。この際一緒に出てきます塩素ガスはアルカリに吸収させて炭酸ガスになるのだ、こういう説明でございました。ただ、これが応用できますのは、絶縁油とかそういうふうな純粋な油だけでありまして、ほかのものがまざると、炉がいたみますし温度が下がりますし、非常にやりにくいのだという話を鐘淵化学のほうから聞いたことがございます。普通の都市の焼却炉のようにかなり温度が低い場合には、これはそのまま空気中に逃げてしまうほうが多いのではないか。またはある程度酸化されてかえって毒性が高いかっこうになるのではないかと推測している人もございます。  いずれにいたしましても、高温焼却炉には特別な機材が必要でございまして、いまのところ、メーカー側でしか持っていないと思います。
  223. 合沢栄

    ○合沢委員 最後に、海水とか土壌、湖底等、汚染されているものを解毒するというか浄化するというか、そういうことが非常に大事だと思う。そういうことについては、バクテリアとか放射線とかいうような方法で研究を進められているというふうに聞いているのですが、これの今後の実用化の見通しなりそういったものを御存じであれば、お教え願いたいと思います。
  224. 磯野直秀

    磯野参考人 バクテリアの場合でございますが、非常に特殊な場合、たとえば田子の浦のヘドロですね、こういったものに関してあるいは応用できるかと思いますが、確実に応用できるとは申し上げられません。それから一般の海水に入ってしまったもの、大気中にあるもの、こういうものは処理しようがないと思います。放射線分解に関しましても、これは研究者自身が申しておりますが、非常に用途が限られております。水道原水中のPCBを分解する、そういった目的にあるいは使えるかもしれない。そのくらいのことを研究者自身が語っております。普通の水にはとても応用できません。
  225. 合沢栄

    ○合沢委員 どうもありがとうございました。
  226. 田中武夫

    田中委員長 次に米原昶君。
  227. 米原昶

    ○米原委員 午前中から参考人方々の貴重な意見を伺いまして非常に痛感したのは、PCBのような、一面では非常にすぐれた性質を持っているけれども、反面では危険、有毒な性質を持っているこういう物質を開発し製造する、こういうことに対してどういう態度をとったらいいかということを考えさせられたわけであります。あしたは、参考人でなくて政府当局に対して、われわれこの問題で質疑をやるわけですが、それの参考にするために、今後どうすべきかという点で若干お聞きしたいわけなんです。  PCBのような合成有機物質製品化しようとする場合に、いままでは非常にむぞうさにやっていたように思うのですが、毒性を十分に試験することが必要だし、その物質の特性に応じてどうしたら無害化できるか、処理方法も十分に検討して、そうしてから行政庁が認可を与えるというようなシステムに変えていく必要がどうしてもあるのじゃないかということが一つなんです。しかし、完全に処理方法ができなくても、これは必要上つくらなければならぬというような場合でも、毒物劇物の取り締まりのように、製品に対して何かこれは有毒だ、あるいはこれはどういう範囲で使わせるとか、回収にあたっての注意とか、そういうものを指示して今後やらせるようにすべきじゃないかということをつくづく感じたわけですが、この点についてひとつ御意見を聞きたいわけなんです。どういう方法がいいだろうか、磯野さんでも立川さんでも、そのあたりちょっと一応聞かしてください。
  228. 磯野直秀

    磯野参考人 おっしゃるように、まず十分な毒性のテストをして、それから処理方法も考えた上で許可する、そういうことは必要だと思います。それからいままではいわば物を野放しに使ってまいりました。ある意味では消費量がふえることがいいんだというふうな見解を持ってきたわけですが、われわれはそれに対しても反省を持たなければいけないのではないかと思っております。  それで、私、生物学をやっておりますのでちょっとそのほうから申し上げますと、生物からだの中には塩素イオンというものが血液の中にも一ぱいございます。海にもございます。ところが、そういうふうにたくさんありました塩素が、有機塩素化合物という形ではこれまで全然つくられなかったということは何かを意味しているのではないかと思うのです。つまり、非常に毒性が高いとか、生きもののいまのシステムにとっては処理しにくいとか、そういうふうな生きものの実情というものも今後あわせて考えていかなければいけないのではないか、それが一つの参考になるのではないかと思います。
  229. 米原昶

    ○米原委員 もう一つ感じましたのは、四十三年のカネミ油症事件が起こったときに、それがPCBによる亜急性の中毒ということがわかりました。急性または亜急性中毒が明らかである、こうした物質ですね。それがしかも排出されにくくて蓄積されていくんだということも、当時もうわかっていたと思うのです。少なくともあの段階で行政官庁はあのカネミ中毒事件後直ちに、慢性中毒についても一応疑わしいとして、その研究を徹底的に進めさせるというような措置をとるべきではなかったかということを痛感するのです。製品の使用禁止とか生産禁止はすぐの段階でできなくとも、少なくともいま言ったような要注意品として特別な表示をつけさせていくような処置をあの段階でもとれた。とるような措置をとるべきではなかったかと思うのですが、どうでしょうか。
  230. 磯野直秀

    磯野参考人 その点に関しましては、私は同感でございます。  もう一つは、その当時、あれは昭和四十三年でございますから、もう外国ではこのPCB環境汚染が一部の学者の中で問題にされていた時期でございます。ですから、あの時点日本政府なりどこかが環境汚染の問題の研究を始めましたらば今日のような状態になっていなかった、こう私は思って、返す返すも残念なことだと思っております。
  231. 米原昶

    ○米原委員 立川先生にお聞きしたいのですが、先生が昨年の二月に発表されてから政府のほうも対策の検討を始めたようですが、分析のやり方を一応標準化したのがことしの一月末で、汚染実態調査もそれから始まったように思うのです。つまり、立川先生が発表されてから一年もたってやっと国としての調査が始まったような実情じゃないかと思うのです。確かに分析方法の統一は必要だと思います。しかし、それができなくても、全国の研究機関の協力を得て直ちに必要な調査を開始して、その結果を真に科学的に検討する、その中で統一的な手法も確立する、そういうふうに進めていくのがほんとうのやり方だったのじゃないかという気がしてならないのです。非常に手おくれになっている。この点について立川先生の御意見を聞きたいと思います。
  232. 立川涼

    立川参考人 おっしゃるとおりだと思います。確かに厳密な意味での分析法はなかったかもしれません。しかし、それなりに十分所期の目的を果たせるだけの分析法はすでにいろいろとあったわけです。したがって、そういったものを十分活用しながら、もっと早いスピードでやれたかもしれません。ただ、いろいろないままでの化学物質による環境汚染問題を考えてみますと、PCBの場合はむしろ、率直に申しますと、異例のスピードで事態は変わってきた、動いてきたと思っております。ただ、それでもなおかつ、現在までとられてきた対策なり処置なりが、われわれの健康を保障するのに十分であったかということになると、それはまだまだ遠いといわなければいけないというのが現状だと思います。そういう意味ではやはりおそいのかもしれません。
  233. 米原昶

    ○米原委員 最後に、いまも問題になりました、回収してこれを処理する問題ですが、午前中に企業側の方が二人来られまして聞いたのですが、回収するとは言っておられるのですが、実際どういうふうにするかというと、いまもお話しになった焼却炉焼却する。そのためにはできるのは廃液だけですね。政府の方針もそうなっておりまして、廃液をメーカーの炉で焼却する、その他の感圧紙とか小型のコンデンサーとか、これは一般の廃棄物の処理のベースで行なうということに、いまの方針ではなっておりますね。これでだいじょうぶかということを午前中も聞いていて痛感したのです。この点、どんなふうに処理したらいいのかという点ですが、意見がありましたら立川先生から聞きたいのです。
  234. 立川涼

    立川参考人 これは一度開放系に出してしまいますと、いわば手の打ちようがない代表的な物質だと思うのです。そういう意味では確かになかなかいい方法がないのが現状だと思います。熱煤体とか油のままで回収できたもの、これは何とか打つ手があると思います。しかし、それ以外に非常に分散した形で出てしまったもの、これは事実上手がないという気がいたします。したがって、先ほど私が申しましたのは、最低限人間への影響だけは断ち切る、そういうふうな方策を考えなければいけないのではないだろうかというのが私の考えです。
  235. 米原昶

    ○米原委員 終わります。
  236. 田中武夫

    田中委員長 以上をもちまして、参考人に対する質疑は終了いたしました。  この際、一言ごあいさつを申し上げます。  参考人各位には、御多忙中のところ長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただきまして、ありがとうございました。厚くお礼を申し上げます。御苦労さんでございました。  次回は、明十四日金曜日午前十時から連合審査会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。    午後五時二十八分散会