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大石国務大臣 ストックホルムの
会議では鯨が
相当重大な問題になろうということは、予想しておりました。そこで、私どもも、立つ前には、水産庁なりあるいは業界の代表を集めたりあるいは学者を集めたりして、この問題についてのわれわれの
基本的な
考え方を十分取りまとめて参りました。おっしゃるとおり、鯨を守るということは非常にけっこうなことだと私は思います。私も個人的には、できることならば鯨はとりたくないと思います。ことに、いま
日本とソ連が鯨をとっておる元凶のようにさんざんいわれますけれども、鯨をこんなに絶滅に導いたのは西欧諸国であります。アメリカとかノルウェーとかイギリスとか西ドイツのような国がさんざんむちゃくちゃにとり尽くしまして、そして少なくとも五つの種類の鯨については
捕獲禁止をきめまして、その間にわずか数百頭とか数千頭しか残っていないような
状態をつくったのは、西欧先進諸国であります。
あとから
日本とソ連がそれにくっついていって鯨をとっておるものでありますから、まるで
日本とソ連が鯨絶滅の元凶のようにいわれますけれども、そういう絶滅の機をつくったのは彼らなんです。
それはそれといたしまして、鯨は残したいと思いますが、現在
日本で鯨をとっておるそのことによって幾つかの企業が成立しておるわけです。何万人かの従業員と家族が
生活しておるのです。これを一挙にやめろといっても、急にはできません。しかも、おっしゃるとおり、だいぶ絶滅に瀕しておる鯨もたくさんございますけれども、イワシクジラとかあるいはマッコウクジラについては、資源の
保護を
考えてやればまだまだ実際はとり得る——とり得るといっても、これを減らさないで済む
状態になっていますから、やはりしばらくの間はいわゆる商業捕鯨を認めまして、しかもそれは資源の
保護を
考えながらある時期までは認めるべきであるということが当然だと思います。
それで私は、渡り鳥の問題でさきにモスクワに参りましてソ連の連中と会いましたときにも、その問題に触れようとはしませんでしたが、向こうから一言出まして、鯨では共通の問題であるから、ぜひがんばってもらいたいということを言われたわけであります。
そういうことで、鯨はやはりあのような決議をさせたくない——ああいう決議案かすでに提出されておったわけでありますから、決議されては困ると思いましたので、実は短い期間でありましたが、私はイギリスの代表のウォーカー
環境大臣に会いまして話をしまして——IWC、インターナショナル・ホエトリング・コミッティーというものがロンドンにございまして、
世界の十四カ国が入っております。これは
日本もソ連も入っておりまして、そこで大体鯨をどのように守ったらいいか、どのくらいとったらいいか、どうするかということをきめるのがこの
委員会でございまして、これは
相当の
規制力もあれば権限もあります。ここで
世界じゅうの鯨の専門家が集まってやるわけですから、これが一番権威があるわけです。ですから、ここで鯨をどのようにするのか、十年間モラトリアムというものでやるのか、あるいは数年、五年なら五年をとって資源を調査してその
あとで判断するかということは、ここできめるべきであると思います。そこで、
人間環境会議の中の鯨の問題の決議はある
程度うまくぼやけさせて、
最後の結論はIWCで出すべきだ、そのような
方向に持っていったらいいと
考えまして、ウォーカー氏にそういう話を持ちかけたのです。ちょうどロンドンでやるのだから、あなたがそういうまとめ役をしてくれませんかということを頼んだのです。彼自身は、私のほうでは、実際のことを言うと鯨なんかとっていないのだから、あまり興味もない、重大な問題ではない。だけれども、せっかくの話だから、われわれ代表として話をして、できるだけ
努力しましょうという返事をもらいました。
アメリカの代表のトレイン氏にも、さらに今月の下旬にロンドンで開かれるIWCのアメリカの代表でもありますから、この人に会いましてゆっくり懇談した。
日本のいろいろな実情なり、現実にこうしたらいいということをいろいろ話しましたところが、彼は
日本の事情はよくわかる、十分理解できる。だが、自分のことも
考えてくれ。下院では十年間のモラトリアムの決議がされておる、上院では十五年のモラトリアムの決議がされておる、すべての鯨について両院でそういうものが決議されて、どうにもこうにも
動きがとれない。だからおれの事情も察してくれというようなことになりまして、お互いに理解し合って何か妥協案をつくってもらって、IWCで決定的なものをきめてもらおうという
考えでいろいろな話をしてきたのでありますが、結論的にはあのようなきびしい決議になったわけでございます。しかし、ここでは強制力はありません。問題は今月下旬のIWCに持ち込まれると思いますから、ここであらゆる
努力をして、もう少し何年間かそれをやって、その間に
実態を調整して、その結果によってどうするかということを判断するようなことに持ち込まなければならないと
考えます。
ただ、あまり
日本の捕鯨を守るために何でもむちゃくちゃなことをがんばって、ここから脱退するようなことになりますと、なるほど、ある
程度捕鯨はまだできましょうけれども、そのかわり、国際世論に反して
日本の国が孤立するということもございます。したがって、この点は十分に両方
考えまして、両方がうまくいくような
方向にこの
会議を進めるべきではなかろうかと
考えております。