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加藤参考人 私、
加藤でございます。
七〇年以来すでに二年にわたりまして
原因不明の光化学汚染
現象が起こっておりますが、この
原因に関しまして、私どもの
研究室で
研究して
原因を推定した結果を御報告いたします。
私どもが連続的に観測を始めましたのは、去年の六月からでございます。約一年間のデーターを集めたわけでございます。現
段階ではそれの観測結果、これは科学的なデーターでございます、及びそれに基づいて推定される
現象のメカニズム、こういうことを述べる
段階でございます。結論というような絶対的な結果というのはまだ今後の問題となっております。したがって、観測結果は、私持っておりますが、これは機会を得て報告させていただきますが、それに基づく推定というものをここで述べさせていただきます。
まず、こういう汚染
現象の起こる場合には
原因があるわけでございます。その
原因の一つといたしまして、
自動車排気ガスがあげられております。これは十数年前に
ロサンゼルスで行なわれた
研究に基づいて、
自動車排気ガスによる光化学というものが解明されております。実はこの
自動車排気ガスというものの追跡ということは私ども十二年間にわたって断続的でございますがやってまいりました。その結果、まず
東京都
周辺におきまして、質におきまして最初普通ガソリンというものが都市空気中に常時見られておりました。ついで不飽和低級
炭化水素、ブテン類でございますが、これがたいへん多く見られた時期がございました。そうして二年前からは芳香族がたいへんまじったガソリン、こういうものが見られるに至りました。量について言いますと、
自動車数は年間二割程度ずつ増加しております。そしてその
排出量は膨大に増大しておるのでございますが、特に顕著な相違というものは、従来都心部における交通渋滞、アイドリングと申しますが、そういう汚染が、最近は
周辺部の高速道路網の発達によりまして、
排気量それから
排出ガスの成分等に変化が見えてきておる、こういうことが
状況判断として考えられます。
以上の質及び量の観点から考えまして、たまたま光化学が起こった時点というものと考えますと、
原因及びその結果ということがわかるわけであります。
原因はそのような
自動車燃料の変化及び量の変化というのが一つ、それから結果というのは、光化学
被害が従来起こらなかったのが起こり出した、こういうことでございます。その間を結ぶために、われわれはかスクロマトグラフという
装置を使いまして空気の汚染質の全分析という立場で分析をしてまいりました。そしてその結果都市の大気中から見出される成分といたしまして、芳香族
炭化水素の割合が非常に高いということがわかりました。千五百検体はかりまして、芳香族の割合が四四%に達しております。平均でございます。これは正確なデータの意味はまた
あとで誤解のないようにいたしたいと思いますが、非常に高うございます。これに対しまして
燃料の中の芳香族というのも、これも鉛を除外するという目的に入れかわりまして年々入ってきております。この状態はときどき変化はあるのですが、この二年間減少という傾向は見られておりません。現在三〇%程度が分析から出ておりますけれども、これとそれから空気中に出てくる値とは若干差がございます。このような点は厳密な解析が必要だと思います。そしてこの分析の結果、その原料以外に発見されました
物質としてアクロレインがございます。
光化学スモッグの成分といたしまして従来からいわれておりますようにアルデヒドあるいはPAN、そういうものの中で特にアクロレインが顕著に見出されたわけであります。分析をもっともっと正確にやればいろいろなものがわかるわけでございますけれども、現
段階で観測結果から見ますと、場合によれば異常に高いということをわれわれが見出したわけでございます。そのアクロレインというのは、
排気ガスの爆発過程でできるということと、それから空気中の光化学でできる、二つの経路がございます。この二つの経路を追及いたしますために室内及び観測実験をやった結果、芳香族を増した
自動車の高速運転というものから多量に排出されるという傾向があります。それからもう一つ、スモッグチェンバーといったような人工的な照射実験によりましても、アクロレインが大量に出る場合がございます。
ただ、アクロレインというのは、アルデヒド
一般も同じでございますが、そのスモッグの
生成の途中のものでございます。これは
オキシダントではないのであります。したがって、
オキシダント系というものではひっかかってこないという性質がございますので、昨年の九月、このことを報告いたしまして、
オキシダント系以外の汚染物の追及が必要であるということを私は述べたわけでございます。したがって、現在起こっておりますような
オキシダントが低いというときにも
被害が出るというような場合の一つの
原因物質として考えてもいいのじゃないか、こういうふうなことでございます。また、それ以外の何ものもないということでございます。特にアクロレインというのはそういう特異な性質を持っておるから、これに注目しなければならないというのがわれわれの考えでございます。
アクロレインの刺激というのは、これは目の刺激が明らかにありまして、たいへん強烈なものでございます。これは一時は毒
ガスなどにも使用されるような劇薬でございます。これに関しまして、私自身が目の実験をいたしまして、その
症状を豊島病院の蒲山医師に診断していただきました結果、スモッグ時に起きた
症状と同一であるという証言を得ました。私は医者ではございませんから、
症状その他のことについてはわかりませんが、少なくとも同じである、こういうことでございます。他のもので同じ
症状があるかどうか、こういうことはわかりません。そういうことがわかりました。したがって、スモッグの
症状を起こす一つの有力な
物質として現に空気中にあるものでありますので、それを考えて、その
生成経路というものを追及していくということが必要である、こういうふうに考えるわけであります。
研究というのは多方面のことが必要でございます。あるいは遠くの
工場原因説だとか、あるいはまたもっと何かわからないものとか、
硝酸ミストとかいろいろなことが考えられますけれども、一つでもわかったことというものは、やはりこれを追及していかなければならないというのが私どもの態度でございます。したがいまして、一応アクロレインというものが明らかに空気中にあるので、しかもこれが
症状を呈するということ、そういうことをもとにいたしまして
研究を続けたわけでございます。
一年間やりました結果によりますと、年間を通じましてアクロレインの計測率というのは一〇〇%に近いわけでございます。ときどきゼロというのがあります。ですけれども、ほぼ一〇〇%に近い値——正確にはデータでもって
あとであれしますが、近い値で計測されております。しかも、その変動率が非常に高いわけでございます。大体空気中の汚染質というものは時々刻々百倍程度の範囲で変化しております。そのようなことから類推いたしますと、一時的に高い
濃度が起こるということは十分考えられるということであります。
研究の方法といたしまして、現に
被害の起こっている
現場におってはかるというのが原則でございます。このために極力努力いたしましたが、実際のそういう交通混雑とか、われわれの
研究室の微力というものがありまして、そういう努力の結果なかなかそういうところまでいきませんので、完全な証明というまでには至っておりませんが、そういうところにあればもっと高いのが出てもいいのではないかというような、そういう推定に十分なデータというものを集めております。
先ほど申しましたように、この測定したデータは千五百検体でございます。その千五百検体によって統計的にその変化というものをとりました結果、以上のような、アクロレインが非常に重要な
影響がある、しかも酸化性のないそういうものがある、こういうことになったわけでございます。
さらにその推定を推し広めますと、大気というのは、私は十二年間大気の分析に携わってきておりますが、そういう経験から照らしまして、大気の構造というものは普通にいわれているような均一なものではございません。たいへん不安定なまだらな構造を持っていると考えます。その大気の構造に対しては原則というものがございまして、二、三それを申し述べますと、一つは、汚染は風上には起こらない、こういう簡単なことでございますが、ということ。それから、二種の違った気団、空気というものは容易にまざらないということですね。それから、汚染物があるところにたまるとかいう表現が使われますけれども、こういうことはあり得ません。濃いものが薄まらないということはあるのですけれども、たまるということはないわけでございます。それから、距離につれましてだんだん薄まっていくということです。
以上、
四つ五つあげましたけれども、こういうことは熱力学というようなそういうことから考えまして、汚染質がたまったり一カ所に吹きだまりになったり、そういう
現象というのは考えられない。一つが出ればかわりに一つが入ってくる、こういうことから考えまして、よく推定されているような——推定は自由でございますが、その
原因説の中にはそういう原則に反するものがあるのではないかとわれわれは考えます。したがって、事複雑な
現象であるということは事実でございます。これはそう簡単ではございませんが、ただそれが複雑で複合的な汚染であるとか、根拠もないのに常識に反するようなことは、私どもはとらないところでございます。
したがって、最も平易な常識的なデータだけから見たということになりますと、比較的簡単なんでありまして、そういう
自動車から出ました芳香族を含みまして、非常に反応性も高いようなそういう気団が、あまりまだ遠くへ行かない範囲で光化学の反応でさらにそういう変化を受ける、それがそういう空気のまだら構造で濃いところと薄いところとありまして、その濃いようなところでは
被害が起こる、そのような推定をいたしますと、どこで起こるかわからぬとかというようなことも、これは実は常識であたりまえのことになります。
それから、
オキシダントというものとの
関係があるもの、ない場合、ございます。当然
オキシダントがあるような場合には反応がありますから、そういうときの
被害というものもありますが、ない場合にも起こっているということの
説明も、それほどむずかしいものではないわけであります。
そのようなことを考え合わせまして、このアクロレインが
原因の一つである、しかも
自動車の最近のいろんな変化によってこういうものができてくるだろうというような推定を現在まで否定する結果を得ておらない。ちょっと科学的な表現をいたしますと、積極的に、証明というのはたいへんでございますが、それを否定する材料がない、こういうのが現在の結果でございます。
最近起こりました
石神井南中学の問題も、実は昨年アクロレインというものがある、
オキシダント以外のそういう
原因物質もあるというようなことがありましたもので、そのときに言ったことがこれに当てはまるのじゃないかというようなことで、新聞その他で問い合わせを受けた、こういう次第でございまして、特にわざわざそこへ行きまして、たままた一回だけはかって、そしてこれはこれにと、こういうことを申したわけではございません。前からやっておったやつを、あそこにもやはり同じものが見えた。ただし、一度だけ非常に高い値が出ておりますので、やはりそういう空気のまだら構造の中でそういう高いのが出るような現時点において
関係があるのではないか、
状況があるのではないかというふうに考えました。そのときに測定しました何点かの中に、一点だけでございますが、〇・一七PPMというような値も出ました。これはたいへん高い値でございます。外国などでいわれている値にいたしましても十数PPBでございますか、それくらいが普通の値でございますが、ときどきわれわれはもっと高い値を観測しております。全体の平均といたしましては約一〇PPBあるいはそれ以下という値が常時の値でございますが、そのように一〇〇を越える値もときどきあるということを申し添えておきます。
そのようなことで一つの推定を結論的に申しますと、
自動車の廃
ガスがかなりまとまって出まして、それが大体千分の一程度に薄まりまして、そして上昇いたします。そして光をそういうまとまった
段階で受けまして、還元性の
ガスが徐々に酸化性のものに移ってきます。その途中で
生成されるオゾン、オゾナイド、アルデヒド、それから最終的にはPAN、パーオキシベンジルナイトレートというようなものに進んでいきますが、その各
段階に応じていろいろ作用が違うと思います。そのようなものがあまり遠くに行かない距離、先ほどのいろいろの原則から考えまして、あまり遠くいかない、せいぜい数百から一キロ程度というような距離においておりてくる、こういうのが一番自然に考えられる一つのモデルではないかと思います。したがって、
被害が起きているところのまわりには必ず高速道路がある距離を隔ててあるというのが、そういうことを類推する地理的にいいました場合の一つの
状況というふうにも考えております。
大体以上のような
状況でございます。したがって、私の
意見といたしましては、そういう
原因不明の
複合汚染とかその
対策に結びつかない探求というのは廃しまして、
原因がこういうところにあればたいへんであるから、つまり
燃料を何とか規制をするとかあるいは高速道路の設計並びにその運行を正しくするとかいうようなある程度の
対策が打てるというようなところから
研究を進めていくというのを一つの方法の中に考えておるわけでございます。
複合汚染ということになりますと全然
対策が打てません。これは
原因をぼやかす一つのそういう何と言いますか、一つの言い方をいたしますとそういうことになるわけでありまして、やはり一つ一つ
原因を追及していくつもりでやった結果が以上のような、アクロレインというものを一つの問題にあげている、こういうことになったわけでございます。
また
あとで質問その他ございますでしょうから、大体
概要はそういうところでございます。(
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