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1972-05-16 第68回国会 衆議院 公害対策並びに環境保全特別委員会 第16号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十七年五月十六日(火曜日)     午前十時三十九分開議 出席委員    委員長 田中 武夫君    理事 始関 伊平君 理事 林  義郎君    理事 藤波 孝生君 理事 山本 幸雄君    理事 島本 虎三君 理事 岡本 富夫君    理事 西田 八郎君       伊東 正義君    葉梨 信行君       浜田 幸一君    村田敬次郎君       細谷 治嘉君    米原  昶君  出席国務大臣         国 務 大 臣         (環境庁長官) 大石 武一君  出席政府委員         環境庁長官官房         長       城戸 謙次君         環境庁企画調整         局長      船後 正道君  委員外出席者         議     員 島本 虎三君         法務省民事局参         事官      古館 清吾君         衆議院法制局第         一部長     川口 頼好君     ————————————— 委員の異動 五月十六日  辞任         補欠選任   左藤  恵君     梶山 静六君   中山 正暉君     村上信二郎君   土井たか子君     細谷 治嘉君   浅井 美幸君     林  孝矩君   吉田 賢一君     合沢  栄君   浦井  洋君     米原  昶君 同日  辞任         補欠選任   細谷 治嘉君     土井たか子君     ————————————— 五月十三日  狩猟者団体法制定に関する請願(荒舩清十郎君  紹介)(第三二〇六号)  同外二件(櫻内義雄紹介)(第三二八三号)  同(中村寅太紹介)(第三二八四号) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  大気汚染防止法及び水質汚濁防止法の一部を改  正する法律案内閣提出第九七号)  公害に係る事業者の無過失損害賠償責任等に関  する法律案島本虎三君外七名提出衆法第一  四号)      ————◇—————
  2. 田中武夫

    田中委員長 これより会議を開きます。  内閣提出大気汚染防止法及び水質汚濁防止法の一部を改正する法律案並び島本虎三君外七名提出公害に係る事業者の無過失損害賠償責任等に関する法律案の両案を一括議題とし、審査を進めます。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。林義郎君。
  3. 林義郎

    ○林(義)委員 議題になっております大気汚染防止法及び水質汚濁防止法の一部を改正する法律案及び公害に係る事業者の無過失損害賠償責任等に関する法律案につきまして、政府及び提案者に対して御質問をいたします。  両案とも問題となっておりますのは、公害にかかわるところの無過失損害賠償責任の問題であります。無過失賠償責任の問題は、民法不法行為の特例をなすものである、こういうふうに私は考えるのであります。この点につきまして政府側提案者のほうも御異論はないと思います。そこで私は、いままで当委員会において議論されました点、いろいろとありますが、やはり両案出ておりますから、この二つの案につきましてやはり相当調和点を見出す、あるいは共通の問題点を見出すという努力をしなければならないと私は思うのであります。そこで私は、民法不法行為というものが何であるかということについて、ひとつお尋ねをしたいと思うのであります。不法行為というのは、民法の七百九条以下に条文がずっと掲げてありますが、民法不法行為原則というのは何だろうかということであります。現行民法不法行為原則というのは、現在の社会体制、この体制におきましては、いわゆる個人の自由を指導原理とする体制というものがある。個人の自由しかもその活動を活発ならしめていくということであるならば、その責任程度というのは、当然にその人の故意または過失によって問われるというのが近代的な考え方一つであります。ところで、ある各個人が自由に活動する半面、社会生活というものを営んでおりますから、単にその各人の自由行動の結果はすべてよろしいというわけにはなかなかいかない。特に最近のように、非常に密接な社会関係共同生活というものが、お互い相互関係というものを重視していかなければならないような時期になりましたならば、法律指導原理個人の自由を保障することをもって最高の理想とせず、社会行動の全体的な向上発展をもって理想とするようになってきておりますから、やはり相互に利益を与える共同関係であるというふうに社会関係認識する以上は、このお互い不法行為の問題も、そのような観点に立ってやらなければならない。社会、文化の発展のためには、やはりその自由という原則——自由という原則故意過失責任を問うということでありますけれども、そういった原則を修正する必要があるというふうに私は考えるのであります。その点におきまして現行法がどうなっておるか。私はいろいろとあると思いますが、民法規定によりますと、七百九条において基本原則は掲げてある。七百九条はそうであります。故意または過失を問うということであります。しかしながら、その一つ例外といたしまして七百十五条に使用者責任というのがあります。使用者責任というのは、使用者がその使っておる人のやった行為について無過失責任を負うということであります。それから、いわゆる学説上報償責任の問題といわれております七百十七条、これは工作物設置等につきまして瑕疵がある場合に起きる責任であります。いわゆる危険責任の問題であります。こういった二つの点におきまして、私は重大な例外を来たしておると思うのであります。私は、こういった観点からしまして、企業、特に近代社会における企業発展、そういったことからしますと、いろいろと問題が出てくる。特に内部関係において、これは使用者責任の問題でありますが、いろいろな関係が出てくる。いわく労働立法の問題であります、いわく社会保障制度の問題、労働災害補償制度の問題、いろいろとございます。企業の外部的な関係におきましては、鉱業法であるとか、あるいは運輸通信業であるとか、運輸交通業であるとか、その他いろいろな関係におきまして、そういった企業無過失責任というものが、だんだん法制化してきておるということは、御承知のとおりであります。私は、大体現在の情勢におきまして、いままでの状態についてこういうことだと大体私の申し上げたようなことだというふうな御認識を持っておられるものかどうか、あらためて環境庁長官及び島本先生お尋ねしたいと思います。
  4. 大石武一

    大石国務大臣 私も御意見のとおり考えております。
  5. 島本虎三

    島本議員 大体そのように思います。ただし最近の情勢は、許された範囲の行動そのものが大いに重たりまして、そのあとに法に準拠しながらも、法に準拠した行為そのものの蓄積が何ら過失でないにかかわらず損害を与えているという事例が多々あります。そういうような点からしてやはり無過失であっても、法の体系をここに変えても被害者救済をどうしても急ぐ、そういうような点に立脚したところの法制化も必要である現状がいまである、こういうように私どもは強く認識しております。
  6. 林義郎

    ○林(義)委員 民法の問題、さらにいまお話がありましたとおり、最近の状況においては無過失責任相当に追及していくべきであるというお話がありましたが、私はそういった観点で、いずれも二つ法案ができていると思うのであります。  そこで私はお尋ねしたいのでありますが、勘本先生外七人の御提案法案であります。この法案の中で、私わからない点があるから少しはっきりさせていただきたい。  第三条で無過失損害賠償責任規定がありますが、その「事業者」ということであります。第二条の定義からいきますと、「事業を行なう者をいい、」と書いてありますが、「その事業活動に伴って生じた公害によって他人損害を与えたときは、」というふうに書いてあります。そういたしますと、事業を行なう者でありますから、いろいろな事業があります。単に工場事業場だけではない。車の排気ガス等につきましてもこれは入るということであります。そういうふうに当然解されるだろうと思いますが、人がいろいろ営業活動をいたします。その営業活動のときに、当然に車の運転、車で物を運ぶ、こういうことがあります。その活動はやはり事業活動でありますが、それに伴って公害が発生する場合というのは当然に入るというふうに考えてよろしいのかどうかお尋ねします。
  7. 島本虎三

    島本議員 当然そのようにわれわれは理解しております。
  8. 林義郎

    ○林(義)委員 そうしますと、実は東京、川崎その他の大都会におきましてたいへんな自動車公害があるわけであります。そのときには自動車のメーカーは責任を負わない。自動車のユーザーでありますオーナードライバーというものが責任を負うわけであります。私はこれは何千何万という非常な数になるだろうと思うのであります。いかなる形においてこれをやっていくかというのは非常にむずかしい現実問題だと私は思うのであります。この辺につきましてどういうふうな考え方をこの法律体系でやっておられるのか、お尋ねいたします。
  9. 島本虎三

    島本議員 最近の公害問題の中で、ただいま質問なさいましたいわば複数公害と申しますか、こういうような問題の処理こそ重要になってきております。そしてこそ複数原因者損害賠償責任、こういうようなものに対してもやはりこの法律ではっきりさせておるのでありますけれども、いわゆる川崎型といわれるいろいろなかっこうのいわば公害がいま出ております。しかしやはりこれも複数であるのには相違ございません。ですから、把握されるものであるならばできる限りそれを把握して、それによって被害者救済してやるというのがたてまえであります。したがって、あるいは工場あるいは排出ガス、こういうようなものではっきりわかった者に対しては、その者を加害者として被害者に対しての賠償を行なわせるようなたてまえは御承知のとおりでありますが、いま申しましたように、煙、自動車排気ガス、こういうようなものは加害者であるには相違ございませんが、特定し把握しがたいものであります。把握できる場合にはよろしいが、把握しがたいというところに難点がございますので、いわゆる都市公害の問題についてはまだまだ——把握した者に対しては適用被害者救済をしたい、こういうような認識の上に立った立案ではございますが、把握しがたいものであるという点が難点でございまして、ただいまの点、具体的な適用は今後の推移にまつ、こういうようなことであります。
  10. 林義郎

    ○林(義)委員 今後の推移にまつとおっしゃいますが、法律で書いたら完全に責任があるんですね。法律で書いたら当然の責任がある。全部追及すべきであります。いやしくも法律で書くならば当然に追及すべきであるというのが法のたてまえだろうと思うのです。わからぬから適当にやっておくということでは私は法律にならないと思います。  そういったことでわからないときには一体どうするのですか、法律適用として。たとえば私が自動車排気ガスを流して大原交差点を通りましたから、私についても一端の責任があるんでしょう。要するに、自動車排気ガスを出したから責任があるといって訴えられます。そうすると私だけではない。訴えられた人だけを相手にしてやるということですか。それとも私が今度訴訟参加という形でたくさんの人を引っぱってくるというような形でやるわけですか。その点につきましてはやはり法律的な何かの規定が要るだろうと思うのであります。当然にこの規定をこの法律案の中に入れておかなければならない問題だろうと思うが、ごの点はどうするのですか。
  11. 島本虎三

    島本議員 そういうような被害によって具体的に人に支障を来たした、こういうような場合には、把握し得る者を訴える。その人は当然自分が原因者であるけれども、原因者はそのほかにある、こういうような場合には当然第三者に対しての求償権を持つものである、こういうようにわれわれ理解します。  ただし、現在の光化学スモッグのようなものは実際は原因がわかっている、また推定もできる。しかし、把握したい。第三番目には自然現象さえ入ってくる。こういうようなものに対してはなかなか把握がめんどうであるから、いわゆる都市光化学スモッグのようなものに対しては、救済しなければならないが、直ちにあてはめてその者に対してやるということはなかなか把握困難性がある、こういうことを言っておるわけです。
  12. 林義郎

    ○林(義)委員 私は実態論お尋ねしているのではなくて、法律論といたしまして、この法律の三条にこういうふうに書いてありますから、当然にたくさんの人につきまして責任があるということであります。責任があるわけですからその中の人に対してどうするか。連帯責任でありますから、たとえば私が訴えられますと、ほかの人は私もわからないというときでありますから、むしろ被害者のほうがこれこれの人であるということをある程度まで言わないといけないだろうと思うのです。これは現行民事訴訟の大前提になっているのじゃないか。だから、私がその加害者と思われる人に対して請求するのは求償権でありますが、そういった場合、すべて私が責任をとらなければならないということになるのではないか。そうなるとあまりにも私がかわいそうだとお感じになりませんか。
  13. 島本虎三

    島本議員 前に答えたとおりでありますが、この第三条によりまして、われわれとしてはやはり損害第三者行為によって生じた場合といえども事業者賠償責任に応ずるということをここにはっきりうたっておりますことは御承知のとおりであります。ただ、第三者に対して事業者求償権を持つということははっきりさしております。その点は、われわれはいまのような状態解釈して、すべて救済し得るものは、不可抗力に対する以外は責任を課するのだ、こういう考え方で第三条ははっきりしております。この点については法制局当局もはっきりこの認識の上に立ってやっておりますから、もし立法上の問題で疑問があるならば法制局をして答弁さしてもいいのですが、それ以外にどういうようなことですか。
  14. 田中武夫

    田中委員長 ちょっと速記をとめてください。   〔速記中止
  15. 田中武夫

    田中委員長 それでは速記を始めてください。   〔委員長退席始関委員長代理着席
  16. 林義郎

    ○林(義)委員 敬愛する委員長お話でありますから、私は島本先生あるいは野党の御提案につきましての質問あとにいたしまして、政府案について少しお尋ねいたします。  実は私が考えておることがありまして、先に野党のほうからお尋ねをして、いろいろ議論をした上で政府案に入ったほうが問題の焦点がはっきりする、こう思って私はやりかけたのですが、しかたがありませんので、少し政府側お尋ねしますが、私は今回の立法をするにあたりまして、いろいろ考えなくてはならない点があります。無過失賠償責任の問題でありますから、現在の不法行為制度という民法上の規定のみならず、民法条文に従って発展してまいりましたところの判例法的な解釈を十分に尊重して立法をすべきだろうと考えるのであります。しかし、もう一つ観点があります。いわゆる判例法と申しますのは、法解釈学に立った立場であります。法解釈学立場のみならず、私は、立法を行なう場合におきましてはやはり法社会学と申しますか、社会実態に照らして政治的な判断を加えた立法をしなければならない、こういうふうに思うのでありますが、そういった点で少しお尋ねをしたいと思います。  まず、最近非常に問題になっておりますいわゆる有害物質としてPCB問題があります。PCBは、現在のところは大気汚染防止法におけるところの健康被害物質としての指定もない、また水質汚濁法に基づくところの指定もないのであります。こういったようなものはまだ健康被害になるかどうかということがはっきりわからないからということで指定をしておられない。当然であります。しかしながら、今回のこの無過失賠償責任の問題を見ますならば、新たに健康被害物質となった場合に無過失賠償責任の問題を適用する、こういうことでありますし、また法律施行の日を見ますとこの法律昭和四十七年十月一日からの施行ということになっております。私は、公害の問題ということで考えるならば、特にここにおけるところの健康被害物質というものが健康をそこなうおそれがあるという物質であるという関係上、そういった点においてここで政令指定をしてきた、あるいは、法の施行の日の十月一日以降のものについて適用するということでなくても、おそれという問題でありますから、私はさかのぼっていってもいいのではないだろうか。たとえばPCBの例で申し上げますが、PCBをいつ御指定になるか知りませんが、相当な学問的な研究結果がわかってから御指定になるのだと思うのであります。そうすると、それまでには相当——いまの段階では問題になっている。この前も決議をいたしましたので、いろいろなところでやってもらっております。これはやはり事前予防の対策であります。事前予防を十分にやらなかったというようなところについてまで責任を負わせることではないというのが原案であります。私はこれは非常にむずかしい問題でありますけれども、やはり一つ考えなければならない問題だろうと思うのであります。一体どういうふうにこの辺をお考えになっているのか、環境庁長官お尋ねいたします。
  17. 大石武一

    大石国務大臣 PCBがいま非常な社会の注目を浴びまして、有害な物質であるという判断になっておるわけであります。その実例も、いままでのたとえばカネミ油症事件であるとか、その他について見ましても、確かに有害物質であることは確実であると思います。ですから、この物質は当然われわれの健康に被害を及ぼす物質として、無過失の中にこれは繰り入れるべきだと思います。ただ、いずれは近い将来にはそうしなければならないと思いますけれども、現在、まだ私ども、本体が一向わからないという問題があると思います。われわれが無過失責任制度の中にこの物質を取り入れる以前にもっとわれわれの直接健康を守るため、水質汚濁防止法の中の有害物質として、当然これはもう指定しなければならない。それがむしろ先だと思います。そこの中にまだ指定しかねておりますのは、PCBのいろいろな本体と申しますか、たとえば人体にどのようだ量でこれが作用するのか、どのような量、微量ならばどういう問題になるのか、どの量が何であるとかいうようないろいろな、たとえば人体に対する作用さえまだ十分にわかっておりません。そういうことを考えますと、これはいたずらにこの新しい無過失賠償責任制度の中に取り入れましても、裁判の上に非常な混乱が起こると私は思います。そういうことで、これは早く、もういずれ近いうちには実態がわかるという見通しが大体ついておりますので、その実態本体なりあるいは人体に対する影響なり、そういうものを、もう少し明確な知識なり概念というものを持ち得ませんと、むずかしいのじゃないかと思うのです。そういう意味でいずれは近いうちに入れなければなりませんけれども、もう少し本体が解明されまして——第一、分析法さえまだ確立しておらないのですから、これはもう少し本体を解明した上で、水質汚濁防止法なら防止法有害物質指定をしまして、同時に私はこの中に組み入れるべきだ、こう考えておる次第でございます。
  18. 林義郎

    ○林(義)委員 長官は、どうも私の質問の御趣旨を間違えておとりになったのではないかと思いますが、実は私が申し上げておるのは、PCBをたまたま例にあげましたが、一つの新しい有害物質が出たときに、それを指定した日から無過失賠償責任が発生する。指定しない前はどうであるかということであります。私はなぜそういうようなことをしなければならないのか。本来ならば健康被害物質としてこの大気汚染防止法及び水質汚濁防止法の中で政令指定するわけでありますから、それはあくまでもおそれのある物質であります。それがはたして健康に被害があるおそれがあるかどうかというものは科学的な判断因果関係、その他におきまして、当然裁判所において争わるべき問題であります。これは行政庁がきめたからといって健康に被害を及ぼすおそれがある、こういっただけで私は当然すぐ被害損害に対して賠償しなければならないほど民法原則というのはゆるんでないと思います。あくまでも科学的な原因究明というものがあってこそ、それが裁判所においてほんとうに納得されてこそ初めて被害者に対して損害賠償責任を負うということであります。それならば一体なぜここでこういうふうなかっこうにされたのかということを、私はお尋ねしたいのです。
  19. 船後正道

    ○船後政府委員 大気汚染防止法の第二十五条の二項で、新たに健康被害物質指定されました場合には、無過失の問題はその指定日以後の排出についてのみ適用があるという規定でございますが、この規定考えは、この無過失規定いたしました今回の改正はすべてが遡及させないということと同じ考え方でございまして、先ほど先生も御指摘のように、現在の民法考え方は、個人の自由なる活動というものを原則として尊重いたしまして立てられておるわけでございますが、こういう原則に対しまして、最近非常に危険物というようなものが出てまいりまして、それでは律し切れない、どうしてもいわゆる危険主義というような考え方に立ちまして故意過失がない場合下でも、無過失であっても、発生いたしました損害に対して責任を負うというたてまえでございます。そうでございますから、こういう大きな例外でございますので、やはり法的安定性と申しますか、個人の権利を制限したり、義務を課すというような規定はさかのぼらないというような考え方で、この不遡及の問題もまた二十五条の二項もつくっておるわけでございます。
  20. 林義郎

    ○林(義)委員 危険責任の問題のお話が出ました。鉱業法が改正されましたときの問題であります。鉱業法に無過失賠償責任という規定が入ったそのときの規定をいろいろと調べてみますと、鉱業法においては明らかに遡及をしているのであります。  それから、もう一つ申し上げますが、いま危険責任の話が出ましたから言いますが、危険責任は七百十七条であります。「土地工作物設置ハ保存ニ瑕疵アルニ因リテ他人ニ損害ヲ生シタルトキハ」とこう書いてあります。先週の議論で少しこの辺がはっきりしていなかったという気がいたしますので、この点を少しお尋ねいたしますが、私は七百十七条の規定というのは「土地工作物設置ハ保存ニ瑕疵」ある場合、「設置ハ保有」てありますから、つくる場合、それからそれを維持する場合というのが原則だろうと思うのであります。工場をつくる場合、または工場をそのまま平穏な状態において維持するという場合というのがこれに当たりますが、工場がいろいろ活動する場合煙を出すという場合には第七百十七条の規定には、いまのところはなかなか入らないだろうと思うのであります。いろいろな事業活動というものをどの程度まで「保存」ということばで読むのかというような解釈問題はあるだろうと思いますが、七百十七条で書いてあるところは瑕疵があるという点につきましての問題は、そういったふうに解するのか、保存というのはもう少し広げて解釈するのか。広げて解釈して、いわゆる工場の維持と活動自体保存であるということであるならば、私は七百十七条の規定適用したほうが、現在出ていますところのこの二十五条の規定よりははるかに救済になるのではないかと思うのであります。この点についてどうお考えでありますか、法務省でもけっこうです。
  21. 古館清吾

    古館説明員 民法七百十七条の一項の「土地工作物設置ハ保存ニ瑕疵」があるという場合の、この「瑕疵」と申しますのは、工作物あるいは工場の施設、これが危険防止をするにつきまして不完全である。つまり危険防止をするための十分な設備を整えていないということでございます。そういうことでございますから、これは工作物自体の問題でございます。工作物をつくる際に不完全であるという場合が工作物設置瑕疵があるという場合でございます。工作物をつくる場合は完全であったけれども、その後に不完全になったという場合がその保存瑕疵があるということかと思います。そういうことですから、結局工作物をつくる際に瑕疵があり、それをそのまま放置しておくということは結果的にはその保存瑕疵があったというふうにも言えるのではなかろうかと思います。そういうことから現在では結局土地工作物の維持管理に瑕疵がある場合というふうに読みまして、結局工作物自体危険防止のために十分な設備を施していない、つまり防止上不完全であるという場合に工作物設置保存瑕疵があるというふうに解されております。そういうことでございますから、これは工作物瑕疵がない、それにもかかわらず被害が生じた、たとえば工場から有害物を排出した、その結果損害が生じたという場合に、そういう場合でも工作物自体瑕疵がないということになりますと七百十七条は適用されないということになります。
  22. 林義郎

    ○林(義)委員 何か質問と答弁がぴったりかみ合わないのですけれども、たとえばこういうことなんです。近代工業におきましては、御承知のとおり石油精製工場等につきましては全部パイプラインでずっと並んでいるわけです。コンピューターで全部工場を管理いたします。これは工作物であります。やはり一つ工作物だと思います。全く無人化工場というものを想定していただいてもいい。そこでうまく動いてなかったならば、やはりそのパイプがずっと並んでおりますところのものにどこかにきずがある、それによって悪いものが流れた、それがある、あるいはそもそも機械をつくるときに完全に排出基準を守らないようなことであったという場合があるだろうと私は思うのであります。むしろそれがやはり公害になるというような事例があるのではないかと思うのであります。そこまで考えますと、一つ工場から出たような場合におきましては七百十七条の規定適用してもほとんど変わりないような場合が出てくる。したがって、今回そういったような大きな装置工業そういったものにつきましての二十五条の規定というのはどこに新しい意味があるのだろうかということであります。
  23. 古館清吾

    古館説明員 七百十七条の要件を満たす場合には七百十七条で権利の保護がはかられるということになります。しかし七百十七条の要件は満たさない、しかし二十五条の要件は満たすという場合は二十条のほうを引かれるということになろうかと思います。  そこで、ただいまのお話、二点でございますけれども、パイプラインに瑕疵があるというような場合でございますね。この場合には、いまのパイプラインはお話のとおり工作物でございます。そうしますと、それによって損害が生じたということになりますと七百十七条の適用ということが考えられます。またその場合に、二十五条の適用ということが問題になります。それからいまの工作物瑕疵がないけれども、結局排出基準を守らなかったというような場合、そういう場合になりますと七百十七条の適用は問題になり得ない、二十五条の問題になるというふうに考えられます。
  24. 林義郎

    ○林(義)委員 最後のところをはっきりしていただければけっこうであります。  もう一つ聞きます。こまかな問題でありますが、二十五条の二の中の「民法第七百十九条第一項の規定適用がある場合において、」という規定があります。七百十九条を見ますと、第一項、第二項とございます。この二項は「教唆者及ヒ幇助者ハ之ヲ共同行為者ト看做ス」という規定であります。結論から申し上げますと、私は「第七百十九条第一項」と書かなくても、七百十九条の規定適用がある場合において、と書いておいてもよかったのではないかという気がするのでありますが、一項だけに限定をしたということはどういうことなんですか。私は「教唆者及ヒ幇助者ハ之ヲ共同行為者ト看做ス」という規定はみなし規定でありますから、これをほっておけば共同行為者にはならないと思うのであります。この規定がなければ共同行為者にはならないということであります。そういたしますと、いまのパイプラインでありますけれども、パイプラインのような場合におきましては、パイプラインの設置をした業者——いろいろな業者がありますが、この業者は幇助者になるのではないか。全部その工場の下請をいたしましてやった。しかも排出基準がこうである。あるいは設置瑕疵があるというような場合におきましては、パイプラインのずっといろいろなものにつきましてのものは幇助者になるかどうかということが一点ですが、なるとすれば、この幇助者に入るならば、この規定がなかったならば当然に、原因程度が著しく小さいと認められる事業者があるときには、事情をしんしゃくすることができるというふうに書いてあるのですから、そういった機械設置業者については、本来はやはり共同不法行為責任を負わしてもいいのだろうと思うのですけれども、わざわざここで除いておられるのは何か意味があるのかどうなのか。私は実はそういうふうな読み方をしたのです。そうではなくて——私、もう一つ解釈を申し上げますけれども、「第七百十九条第一項の規定がある場合において、」というのは、「教唆者及ヒ幇助者ハ之ヲ共同行為者ト看做ス」というのはあと規定であるから、たまたま一項の規定だけ入れておけば、みなされて、すべての適用があるというふうに解釈をするのかどうか。「第一項」と書いた点の解釈は一体どちらなのかということをこの際はっきりしておいていただきたいと思います。
  25. 古館清吾

    古館説明員 問題は二点ございまして、第一点のパイプラインの請負業者、これが幇助者になるかという御質問でございますけれども、これはならないというふうに解すべきではなかろうかと思います。といいますのは、この七百十九条二項の幇助者といいますのは、加害者不法行為をしようと決意している、あるいはそれをしているという場合に、それを助長させる行為でございます。これが幇助でございます。ところがいまのパイプラインの行為の段階では企業者は不法行為をしようと考えておりません。そういうことからこの幇助者ということにはならないのではなかろうかというふうに考えられます。  それからもう一つは、この二十五条の二で七百十九条一項を引用いたしまして二項を引用しなかった理由でございますけれども、この法案過失がなくても責任を負わせるという規定でございます。したがいまして、過失がある場合は当然責任を負うということになろうかと思います。ところがこの二十五条の二で結局複合公害の場合につきまして、無過失責任を負わせるということになりますと、結局その排出が微量なものでこの責任は非常に重くなるということがございますので、複合公害の場合に責任を広げるかわりに、そういった寄与度の著しく小さいものについてはその事情をしんしゃくしようということでございます。そういうことになりますと、結局いまの幇助者といいますのは積極的に不法行為をさせようというものでございます。したがいまして、そういうものを保護する必要はなかろうというふうに考えるわけでございます。  この関係は、たとえば二十五条の二で、微量排出者が故意有害物質排出した場合どうなるかという問題とも関連するかと思います。この場合は、その二十五条の二はその点何も申しておりません。故意の場合はどうか、無過失の場合はどうかという限定をしておりません。ですから、二十五条の二そのものを見ますると、これは微量排出者、寄与度が著しく小さい者が故意でした場合もしんしゃくされるというふうに読むことも可能かと思います。   〔始関委員長代理退席委員長着席〕 しかし七百十九条の趣旨からいたしますと、そういうような解釈にこれもまた問題があろうかと思います。したがいまして、そういう場合にはその他諸般の事情を考慮しなければならないかとも思いますけれども、そういう場合にはおそらく全額について責任を負わせられるだろうというふうに考えます。そういうことになりますと、結局幇助者につきましてもやはり全額について当然損害が負わされてもいいじゃないかということから、ここでしんしゃく規定からはずしたというふうに私どもは理解しております。
  26. 林義郎

    ○林(義)委員 ちょっと最後のところがわからなかったのですが、これは原因が非常に小さいからその事情をしんしゃくするという規定だと思うのですね。そうしますと、原因が非常に小さいというのは、共同不法行為者でありまして、先週〇・二とか〇・一とかいう場合にどうするのかという話がありましたけれども、そういった横の関係、幇助者及び教唆者というのは縦の関係であります。この縦の関係も横の関係も一緒にしてここへ入れておこうということじゃないかと私は思うのです。七百十九条の現在の規定は、そうしますと、こちらだけ除いちゃってということでやるのですか。むしろ同じように考えてもいいんじゃないですか。その共同不法行為者の中で非常に影響の小さい人、しかし幇助者として非常に影響が大きい場合がある。たとえば先ほど石油パイプラインの話を出しましたが、石油精製工場でパイプが並んでいる。そこでもっと自分のところの工場でたくさん出してやるぞと考えて、本来ならばもっと完全に設備ができるかもしれないけれども、企業採算上安くしてやってやれという形で、暗黙のうちに機械メーカーのほうに話してそのメーカーが装置をするという場合、そのメーカーはやはり幇助者になるだろうと思うのです。機械メーカーのほうもそれを事情を知りながらやったということになれば、私はやはりなるのではないかと思う。そういったものはやはり共同不法行為の中に入れておかなければならない問題だろうと思うのです。それが程度が少ないという場合には、程度が少ないという形で事情をしんしゃくするという規定を置いておいたほうが、立法論としてはいいのじゃないか、こういうことであります。この点についてお尋ねいたします。
  27. 古館清吾

    古館説明員 私先ほど誤解いたしましたが、いまの二十五条の二と申しますのは、結局複合公害の場合でございますね。ですから、それぞれが有害物質排出している事業者でなければならぬということでございます。いまのお話しの請負業者、これは排出しているわけではございませんから、結局そういう意味でこれは対象にならない。そういうことになりますと、いまの教唆の問題がありましても、これは排出している事業者でございませんから、これはその点について二十五条の二で対象にする必要はないということになろうかと思います。
  28. 林義郎

    ○林(義)委員 考え方として、大気中への排出行為をとらえてそこで無過失の問題を議論する、その前のいろいろな設置とかなんとかいう問題には触れない、こういう考え方でございますね。それならわかりました。  それから実は共同不法行為の問題でありますが、私は共同不法行為の問題に入る前にちょっとお尋ねしたいのです、島本先生が来られましたので。「西田先生は商工で質疑があります。岡本先生は所用で不在です。」こう書いてあります。非常に残念でありますけれども……。
  29. 田中武夫

    田中委員長 りっぱな提案者代表がおりますから、どうぞ。
  30. 林義郎

    ○林(義)委員 こういった事案がある。バナナ、レモン、パイナップルなどの薫蒸倉庫を建設しようとした。右薫蒸には消毒剤としてシアンガスを利用するものというふうに考えられる。隣の人から、薫蒸作業を行なうと隣人の生命、財産、健康に対して壊滅的な損害を生ずる明白な危険があるから、その薫蒸作業をやめてくれという申し立てがあった。裁判所におきましては、一応隣人がそういった疎明をいたしました。シアンガスを使えば相当な猛毒である。その建物の構造、耐震性、気密性等につきましては大体立証されたということでありますが、はたして生命、身体、財産に対して回復することのできない損害を与える可能性があるかどうかについては、東京都公害局やその他のところにおいて試験の結果、平常時においてはなかなかガスは発生しないであろうという一応の診断が下ったという事件があります。島本先生お尋ねしますが、こういった場合には島本先生は、本来ならばその薫蒸設備を取り消せとおっしゃいますか、それともおっしゃいませんか。
  31. 島本虎三

    島本議員 何の設備ですか。
  32. 林義郎

    ○林(義)委員 シアンガスをたいて虫を殺す設備なんです。バナナとかパイナップルとか輸入いたしますでしょう。輸入しまして、それでいろいろな虫がついている。また腐る。したがってそのためにシアンガスを中でたくのです。いわゆる薫蒸と申します。いぶすのです。そういった設備があります。隣人に被害を及ぼすかもしれない。被害を及ぼすだろうということは相当に言った。しかしいろいろと調べてみたところでは、まだはっきりわからないという一応公的な証明が出ましたという話であります。そういったときには、その建物はやめろとおっしゃいますか、やめるなとおっしゃいますか、先生はどう考えられますかということが第一点。  第二点は、裁判所でこれは出ておりますけれども、裁判所ではどういうふうに判断をしたかという点につきましてどういうふうに考えられますか、その点お聞かせいただきたいと思います。
  33. 島本虎三

    島本委員 残念ながらその具体的な点よく理解できないのです。それによってどれだけの被害を与えるのか与えたのか。全然与えないのに、そのようなことをやることに対して被害を及ぼすおそれがあるからそういうものに対して禁止させるのかさせないのか、こういうようなことになるのですか。どうも私は理解できない。ただはっきりしているのは、そういうようなシアンを使ってやって、自家営業は完全にやれる、しかしそれによって十分な配慮を欠いて他人被害を及ぼすおそれがあるということで、当然もうやめてくれという申し立てがあるのじゃないか、こういうような意味ではなかろうかと思います。そういうような場合には、はっきりそれはありませんというようなことを納得させるべきであって、被害があった場合には、それは私のほうの被害じゃないということを逆にこれは例証する以外には、当然そういうようなことをしてはならないはずじゃございませんか。また損害賠償をそれによって要求された場合は、それは無過失ではなくて初めから有過失ではありませんか。それによって被害者をつくっているというのなら無過失じゃなく有過失ではないかと私は考えますね。
  34. 林義郎

    ○林(義)委員 いや、有過失、無過失の問題じゃないのです。因果関係の説明の問題でお尋ねをしたいのです。いまから家を建てよう、バナナ、レモン、パナップルというものを外国から輸入をしてきましてそういった設備をつくります。それでシアンガスを発生させますが、隣の人からあそこでシアンガスをたかれるとここに危険性があると言われる。裁判所で調べた、あるいは被告と申しますかその会社のほうから客観的な証明があって、通常の場合においてはそういった危険性がないという話であります。それは裁判所はどう判断したと思われますか。無過失、有過失の問題じゃないのです。具体的な因果関係判断の問題です。
  35. 島本虎三

    島本議員 その点はわれわれと一緒にやりました優秀なる法制局がおりますから、その法制局のほうによって法的な解明をさせてみたいと思います。
  36. 田中武夫

    田中委員長 法律的な専門の問題でございますので、法制局から答弁をしていただきます。衆議院法制局川口第一部長。
  37. 川口頼好

    ○川口法制局参事 林先生お話を一生懸命聞いておったのでありまするが、失礼でございますけれども、因果関係があるかどうかという点を問題にしていらっしゃるのでございましょうか。よくのみ込めませんではなはだどうも申しわけありませんが。
  38. 林義郎

    ○林(義)委員 因果関係の問題で二つの争点があります。被告のほうからは一応の疎明をいたしました。そのときに原告のほうから法的な、県庁であるとかいろんな衛生局がありますが、そこが調べてみたところではない、こういうふうな話であります。その場合においてその因果関係というものは一応お認めになる、害があるというふうにお認めになるつもりでありますか、そうではないのですか、こういうことなんです。
  39. 川口頼好

    ○川口法制局参事 この因果関係論というのは御存じのように自然科学上の論証の問題でございまして、実際問題となりますとはなはだしくむずかしいのはよく御存じのとおりでございまして、公害問題というのがはかどらない実は最大の根本、しかもそれが単純なる法理論で事が片づかないというのは全部そこに問題があるわけでございますが、いまおっしゃるような具体的な事例でどういうふうになるかはよくわかりませんけれども、いま純粋に自然科学的原因ばかりをたどっていくと被害者救済になるケースは非常に少ない。そこでいろいろな刑事責任と民事責任の場合の因果関係論について若干法律学の部面でも一種の理論上の再編成の時期に現在到着しておりまして、そこで疫学的方法などというのが最近唱えられておりますが、いまの場合先生お話を承りました私の印象で申しますと、そのような専門家の試験等によりまして、その原因ではないということが明確になっておるときに、法理論を幾らどんなにねじくりましても、それはもう因果関係を否定せざるを得ないだろう、このように考えます。
  40. 林義郎

    ○林(義)委員 その点につきましてはまた相当因果関係というのを科学的に究明をしていかなければならないし、科学的に反証出すなら出しますが、一方において最近の阿賀野川事件あるいはカドミウム事件のように、相当科学的な分析におきましてもいろいろな議論がされておりますことは御承知のとおりであります。この点につきましては島本先生ほか七人の方々がなされたところにおいても同じであるかどうか、この点をお尋ねします。因果関係原因究明、これはやはりやらなくちゃならないということであるのかどうか、この点についてお伺いします。
  41. 島本虎三

    島本議員 因果関係原因の究明ということですか、あまりにもどうもわれわれのほうとしては理解しがたい点がありますから、これはどうしてもわれわれは因果関係の推定が現在必要であるということで立法化したわけであります。したがって、因果関係の議定、われわれの案によりますと、これは被害者救済する上には必要であり、この方法こそが現在最も要求されている点だということでこの立法をしたわけです。必要であるかないかということになりますと、これは必要であるから立法化したのであって、ないという原点には立っておらない。  私、変に理解しておるかもしれませんが、もし間違っておるならもう一回ここで指摘していただきたいのでありますが……。
  42. 林義郎

    ○林(義)委員 第五条の規定でありますけれども、因果関係の推定という規定があります。「事業者事業活動に伴い公害原因となる物質排出した場合において、」とこう書いてある。「公害原因となる物質」ということでありますから、「公害原因となる」ということはやはり健康被害、生活環境被害があるということであります。この点については科学的な論証というか科学的な証明が当然にされなければならない、こう考えます。法制局からお答え願います。
  43. 川口頼好

    ○川口法制局参事 林先生の御主張のとおりだと考えます。
  44. 林義郎

    ○林(義)委員 わかりました。  そこでこの規定でありますけれども、それは因果関係の証明はいたしました。「その排出による損害が生じうる地域内に同種の物質により生じうる損害が生じているときは」ということであります。これは、ある一定の地域があります。たとえばどこか火力発電所がございます。ここに高い煙突がありますから、たとえて申し上げますが、発電所から三キロ以内はばい煙がこの「生じうる地域内に」到達する、そういうことであると思います。その「地域内に同種の物質により生じうる損害が生じているときは、」とあります。そのときには、とにかくそこでたとえば中小企業がいろいろな排出をしておった。同じばい煙を排出しておった。これは何でもよろしい。ふろ屋でもけっこうでありますし、中小企業でも何でもけっこうでありますけれども、排出をしておった。そのときにこの両方が共同責任を負うというこの規定だと私は思うのです。これは間違いありませんかどうですか、法制局からお答えいただきたい。
  45. 川口頼好

    ○川口法制局参事 そのとおりでございます。
  46. 林義郎

    ○林(義)委員 そこで問題は、いまの発電所のほうにおきましては全く環境基準内でやっておった。いま申しました中小の業者、たとえばふろ屋としましょう。いろいろな例がありますけれども、ふろ屋にしたほうが簡単ですから、ふろ屋がどうもあの発電所はけしからぬ。あの電力会社は非常にけしからぬ。うちのほうでばあっとばい煙をたいてやれ。たまたまうちの範囲内であるからぱあっとたいてやれ。そうすると、必ず住民にぜんそくその他の病気が出てくるだろうということで、ばあっと排出基準以上にたいた。ふろ屋に排出基準があるかどうか知りませんが、ばあっとたいた。その煙突のおかげでそのふろ屋の地域の人たちだけは健康被害が出てきたあるいは財産上の被害が出た、非常に不愉快な感情を持ったという場合があります。これをもってこの場合は当然訴えられるわけであります。この規定によれば、当然にそういったものは発電所のほうは守っておったにもかかわらず、こちらのほうが故意を持ってやった場合、こちらは故意がない、こちらは故意がある、そういった場合においても、これは共同不法行為が成立するというふうに読めるんですが、そうじゃないんですか。
  47. 川口頼好

    ○川口法制局参事 いまの御提示になりました論点はいろいろ複雑な問題を含んでおりますが、まず第一点は排出基準を守っていたかどうかということと、それからこの損害賠償の問題は一体どうなるんだ、これは一般論でございまして、民法自体の不法行為成立の問題は何も無過失損害賠償の問題に限ったことではなくて一般論でございますが、これは以前にこの委員会でもすでに政府側と議員さん方との間の討議によりましてほぼ明確に結論が出ておりまして、排出基準を守っていたかどうかということと、守っていたんだけれども実際にはけが人が出たという問題とは全然切り離して考えます、昔の大審院の判例は少し違っておりますけれども、そのように考えますという政府側から明確な答弁があります。速記録にございます。したがいまして、いまの御質問を、その点をどのように解釈したらよろしいか、私ちょっと迷うのでございよずが、かりにその政府側の御説明を前提として考えますと、これは排出基準を一方が守っていたか守ってなかったかということとは実は全然関係がないわけでありまして、おそらく御質問の趣旨は、電力会社のほうは因果関係の論証、つまりその原因によってそのような被害者が出たという論証が全然できなかったのに、ふろ屋のほうだけはそういういたずらをやったという場合どうなるかという非常に単純な問題に帰するかと思うのです。そういたしますと、これは別にいまの推定とかそういった問題ではございませんで、一般論の問題でございまして、ふろ屋はもう排出基準にも違反しておりますし、当然に加害者であるということは明確でありますから、答えは非常にあっさりしておりまして、一般論で片がつくんじゃないか、このように考えます。
  48. 林義郎

    ○林(義)委員 それならば私お尋ねしますが、その場合にふろ屋とその電力会社と共同して訴えるということができるわけでしょう。少なくともこういうふうに書いてあると、私は共同排出した地域内においてはどんなことであれ、とにかくその「地域内に同種の物質により生じうる損害が生じているときは」ということですから、そこにおいては発電所のほうが出しておって、もちろん全然発電所だけのものでは被害はないし、通常にふろ屋がやったような場合においては全然被害がない、被害がないにもかかわらず悪意を持って、悪意というか要するに故意にやったようなものが出てきた場合においても、この因果関係の推定の規定が働いて——これは当然に働きますね。当然に働いて、その発電所もやはり訴えの対象になることがあると、またそういうふうに解さざるを得ないというのが、私は第五条の推定規定だと思うのであります。ちょっと御答弁をお願いします。
  49. 島本虎三

    島本議員 当然その場合は両者であります。ただし両者の間で、いままで発電所関係のものが排出基準に沿ってやっておった結果は何でもない、あとからふろ屋さんのいわゆるいたずら行為と思われるようなことによって、そういうような損害複数状態で発生した、こういうような場合には、当然この発電所そのものは因果関係の遮断をすべきであって、それをはっきり申し出て、私のほうではありませんと、こういうようなことを言った場合には、それはもうりっぱに発電所ではないということははっきりわかる。いままでは例証によって何でもなかった——発電所の例証が悪いのですよ、ですけれども、発電所がやっていたときには何ら影響はなかった、ところが、いたずら行為であるか知らぬけれども、ふろ屋さんが——そのいまのは煙ですか、水ですか、(林(義)委員「煙です」と呼ぶ)煙によってやった、その場合には発電所のほうはたいがいあるわけですけれども、これはないという想定ですから、それによってやってみますと、それでやった場合は複数になる、複数公害の場合は両方が訴えられる。その場合、ほんとうに事件なら事件ではっきりとして争えばいいのであって、あくまでも両者である、こういうようなことははっきりしております。
  50. 川口頼好

    ○川口法制局参事 ただいまの島本先生の御答弁を少し補足して申し上げます。  若干、字句論になりますが、野党のほうでお出しになった五条の条文を読みますと、「事業者事業活動に伴い公害原因となる物質排出した場合において、その排出による損害が生じうる地域内に同種の物質により生じうる損害が生じているときは、」これにいまの林先生の御質問を当てはめてみますと、ふろ屋を「事業者」に当てはめますと、ふろ屋が事業活動に伴い公害原因となる物質排出した場合におきまして、それからそのあとの同じ地域内に同種の物質により云々、これは主語が書いてございませんが、その同種の物質排出しているほうの主体は電力会社になるかと考えます。一応そのように読むべきだと考えます。  そこで、いまのを補足して申し上げますと、ふろ屋のほうは、これはもう実際問題としておそらくお話しのとおり明瞭な加害者でございます。そこで電力会社も仰せのように一般論としてはこの条文によりますと共同加担者といいますかで訴えられる、当事者として起訴されるというか被告になる可能性はございます。ございますけれども、論理的に申しますと、同種の物質によりそのような損害を電力会社のほうは出してない、おそらく排出基準以下でやっておりますというと、その因果関係の論証は電力会社についてはできないだろう、こう考えるわけであります。したがって、一般論として一たん訴えられますけれども、結果としては、それはいま島本先生がおっしゃったように、あとでおまえのほうは何もなかったということになるであろう、このように考えます。
  51. 林義郎

    ○林(義)委員 それはまた非常におもしろい解釈をされたと思うのです。私は「同種の物質により」というのは当然に排出ガスとかばい煙とかなんとかいうことをさしているのだろうと思うのです。排出量以下であるから「物質」でないとかなんとかいう議論になりますと、私は条文を変えなくちゃいかぬだろうと思うのです。  それから島本先生お尋ねしますけれども、さっき先生がおっしゃった話でありますが、そういうふうにいろいろな形で別の救済をするということであれば、これは当然因果関係の証明をすることができるという話でございますが、なぜこの推定規定を置くか、これは法律上の推定でございます。法律上の推定というものは反対の証明をしなければなかなかひっくり返せないものなのであります。一応とにかくいまの話でいうならば電力会社は必ず責任があるという推定規定なんです。法律的な考え方からすれば当然なんです。私はそう思うのです。そうでなかったらわざわざ推定規定を置く必要はない。どちらでもかってにやってよろしいということであったら、わざわざ推定規定を置く必要はない。立法政策の問題としては当然それは裁判所にまかしていい問題であります。これは立法解釈立法技術の問題として当然そういうことだと思うのです。  それから先生がお立ちになりましたから話が中途になりましたけれども、自動車排煙の問題であります。自動車を運転する人はやはり「事業者」の一端であります。中小企業のおやじさんがトラックを運転するのも事業者であります。その人が市街地の中で自動車排煙を出している、これは明らかに健康被害であります。たとえば大原交差点のようなところにおいてはやはり相当自動車被害だろうと思うのであります。そういったときに、たまたま大原交差点の近くにAという工場ができた、そうするとそのAという工場からやはり同じようなものを出しておる、亜硫酸ガスとかあるいは硫黄酸化物とか窒素化合物というものを出すような工場があったとします。そういった工場があの辺にできたとします。そういった場合には、その工場はいかように排出をやったところで、とにかくこの規定からすれば共同不法行為責任という形で、そのものはその工場は訴えられるという形になると思うのです、私は法律論からいえば当然そうなるだろうと思います。また因果関係の推定が働きまして、その地域内においては当然排出による健康被害が生じたということになると思う。これはなかなか、それではひっくり返せといったって、このA工場は自分のところから若干は出すわけですから、出したときにおきましては私はこの五条の因果関係規定が働いて、また第四条の複数原因者賠償責任規定が働いてその工場というものは責任をとらなければならない。しかも、たくさんのものがありますから、それについてどういった責任請求をする。たくさんの自動車があっても、一日何万台と走っております自動車に対してどういうふうに遡求したらよろしい、そういった規定がなしにこれだけのことをやったならば、その一つの小さな工場だけが責任をとるということにならざるを得ないと思います。この法律でそういったことでやるならば、そこの規定をはっきり置いた上でこういった規定を置くべきだ、こう思うのでありますが、いかがでしょうか。
  52. 島本虎三

    島本議員 いま大原交差点の例をお出しになりましたが、窒素酸化物によるもの、炭化水素によるもの、それにまた自然現象が働いて、いろいろな光化学スモッグのような状態を現出する。しかし、この排気ガス工場のいわゆる排煙と炭化水素、いわゆる九八%から九九%までといわれるこういうような自動車関係排気ガス、こういうようなものは混然一体になってこの複数公害を出しておる。いまの光化学スモッグのようなものです。それだけではなしに、自然現象もまたこれに加わるわけであります。ですからこういうような現象の中ではたして——工場の廃液、この一、二の特定したものを把握できた。自動車排気ガス、これも特定するものは、そこを通過するものだけは把握できた。しかし、把握できたものだけかというと、把握できない方面からの被害というものもこの中にプラスされる、こういうようなことだから、これはやはり救済しなければならないけれども、加害者把握がなかなか困難であるいわゆる都市型の公害というものは、わかったものに対してはやはり救済しなければならぬのははっきりしておりますけれども、把握がなかなか困難であるということで、これは具体的な例によってとらえなければしようがない。しかし救済というものを主にするならば、早くこの辺について具体的な問題と取り組んで救済する法にしておかなければならない問題だ、こう思います。
  53. 林義郎

    ○林(義)委員 私も被害者救済しなければならない点においては、全く同一意見であります。ただその被害者救済するのに、法律で何でもかんでも全部責任をどこかにぱっと預けてしまうというような立法態度こそ反省されなければならない問題だと思う。やはり救済するならば救済するようなほんとうの法律的な手続をはっきりつくってやるべきだろうと私は思うのであります。私はそういった意味におきまして、島本先生の案にあるところの、第八条に損害賠償保障制度というものがあります、私はこういったものを法律的に早くつくることが、いまいろいろな議論をいたしましたような点の一番解決になるだろうと思うのであります。私は、これは与野党を問わず、国民の健康を守るという観点に立ってぜひやらなければならないだろうと思います。国民の健康を守り環境を守る、まさにこの規定こそが一番必要なんでありまして、その前のほうの議論ではないのではな・いか。いまお話ししましたように、私がこの無過失賠償責任にいろいろな議論をいたしますけれども、たくさん問題が出てくる。法律にやっておかなければならない点がたくさん出てきております。私はそういった点をきょうは申し上げたいのであります。  実は時間もあまりないようでありますから、ひとつ環境庁のほうにお尋ねいたしますが、大気汚染防止法とか水質汚濁防止法について、たとえば大気汚染防止法では、排出規制の対象となる施設とそうでない施設というのがあります。たとえば大気汚染防止法の第二条第二項等で「政令で定めるもの」というふうにありまして、これは政令の中で、たとえば排出量が何ぼ以下というようなものについては排出特定施設ということで除いてあります。これは大体中小企業者でありますが、こういった中小企業者は、一般的に排出量が微量で被害者の受忍限度内であるということで考えられたものだろうと思います。そういったものについてはやっぱり違法性があるのかないのか。その点につきましては、私はおそらくこの大気汚染防止法それから水質汚濁防止法の中に入ってます規定関係からすれば、そういったものはないというふうに了解をしていいだろうと思います。おそらく受忍限度とかなんとかという問題からそういったような立法姿勢ではなかったかと思うのでありますが、その辺につきまして環境庁船後調整局長、どういうふうに考えられますか。
  54. 船後正道

    ○船後政府委員 御指摘の問題は、たとえば大気汚染防止法等で特定施設として取り締まりの対象としていない施設、こういう施設から発生するいろいろな物質についての損害をどう考えるかということだろうと思いますが、この大気汚染、水質の規制法で対象としていない施設というのは、一般的に排出量がきわめて微量であるという観点から対象としていないわけでございますので、不法行為の成立要件といたしましての違法性あるいは受忍限度の解釈の問題がありますが、私どもといたしましては、こういう施設からの発生はきわめて微量でございますので違法性がないとされる場合が多いのではないか、かように考えられます。
  55. 林義郎

    ○林(義)委員 もう一つお尋ねしますが、これもやはり中小企業対策であります。大気汚染防止法の改正法の二十五条の二、または水質汚濁防止法の第二十条の規定でありますが、いずれも「当該損害の発生に関しその原因となった程度が著しく小さいと認められる事業者があるときは、」これは 「その事情をしんしゃくすることができる。」というふうに書いてあります。普通、その事情をしんしゃくするということは、原因が非常に小さいのだからその事情をしんしゃくするということになれば、当然その損害原因となる程度に応じてやるというふうに解釈してよろしいものですか、どうですか、お尋ねします。
  56. 船後正道

    ○船後政府委員 大気汚染防止法の二十五条の二の規定でありますが、「その事情をしんしゃくする」といたしておりますのは、「当該損害の発生に関しその原因となった程度が著しく小さいと認められる」というような事情でございまして、立案過程におきましては寄与度に応じて、原因となった程度に応じて賠償額を定めるというような書き方も考えられたわけございますが、そのように規定いたしますと、今度は逆に寄与度というものを非常に厳密に考えていかなければならないというような問題もございますので、このような規定にいたしたのでございますが、考え方といたしましては先生の御指摘のような考え方であります。
  57. 林義郎

    ○林(義)委員 先ほどちょっとお話を申し上げかけたのですが、健康被害物質となったような——健康被害物質というのは、大気汚染防止法水質汚濁防止法の一部改正法律案の中ではこれが一番大きな問題だと思うのです。先ほどPCBその他の話をいたしましたが、そのほかのいろいろなものがやはり出てきた。いま、たとえばPCBなんというのが出ております。またDDTというものも出ておりますが、これはどんな影響を及ぼすかというのは、いまから学問的に研究していかなければならないのであります。そういったときに、私ははっきりとそういうものを指定をするというときに、しかもその指定をしたならば無過失責任になります。指定をしなかったならば無過失責任にはなりません。有過失責任であります。これは私は非常に問題だろうと思う。本来、逆に言いますと、いま二十八項目か指定してあります。政府がそれを政令からぱっと落としてしまったならば、政令から有害物質指定をはずしたならば、そのときから無過失でなく有過失になるわけであります。全く行政庁判断によって裁判所があっちに行ったりこっちに行ったりしなければならないようなことが出てくるわけであります。やはり法的安定性を害しないという観点から言うならば、私は有害物質政令委任事項でなくて法律でもってきめるべきではないかと思うのであります。将来の形であります。あるいは、何か法律の委任が非常にあいまいであります。健康に対するおそれがある、おそれがあるというのは一体どの辺までおそれがあるかということは非常にむずかしい。私はこれこそ立法府が解決すべき問題だろうと思います。またそれだけの損害賠償責任というのは何億、何十億という場合があると私は思うのであります。それを単に一片の政令でもって変えるということでは、立法府の権限、権威はおかされているのではないか。私は将来においてこの点はぜひ考えてもらわなければいかぬ問題であろうと思うのであります  そこで時間もありませんから申し上げますけれども、いまからいろいろと日本の社会は非常に発展してくると思うのであります。いまから技術革新を遂げて相当発展をしていく、新しい事態というのがますます出てくると思うのであります。その場合におきまして、やはり日本の発展というもののささえになるのは技術の問題であろうと思うのであります。そうしますと、技術がいままでのような形で進歩するならばどうしてもPCBであるとか何であるとかいろいろな新しい物質が出てまいります。先般もPCBのときも話がありました。PCBをやめてむしろこわいのはPCBの代替物である。新しい科学の進歩によって代替物も出てくるだろう。お互いの生活が非常に発展して豊かな生活を追求する場合におきまして、そういったものを排除するようなことをやらなければならない。先ほど、まさにそういった有害物質については法律指定をするということでありますが、なかなか法律——会議員が全部科学技術の先端を知っているわけではないわけであります。この辺の調整をどうしていくかというのは、私は立法府がほんとうにいまから頭をしぼっていかなければならない問題であろうと思うのであります。そういった点で、そういった未知の物質につきましていまからどうするかという問題でありますが、これはやはりほんとうに考えていかなければならぬ。一方、企業のほうにとりましても、そういった新しい物質を発見すれば新しい物質として相当に売れてくる。PCBなんというものは急激に伸びてきたわけです。そういった場合におきまして、一方において売れるからそれを放置してよろしいということではなくて——ということもあります。あるいは売れるから、売れるということは、非常に値段も安いし非常に有益だから売れるのであります。人に便利さがある。一方において人の健康なり環境に対する影響というものが出てくるわけでありますから、その点について何らかチェックシステムというもの、何かコントロールをするような体制というものをぜひ考えなければならない。しかもいろいろな資本主義のメカニズムの中においてそういったものを考えていく必要があると私は思うのであります。私は個人的には、将来発生するような被害の問題については保険制度的なものを何か考える必要がある、こういうふうな、個人的な考えでありますけれども持っております。やはりその辺をやっていただきたいということがあります。それが第一点であります。  それから第二点でありますが、政府案におきましては健康被害という形になっておりますが、これは長官からもたびたびお答えがありましたように、できるだけ早い機会に財産問題まで広げていくべきではないかと私は思うのであります。財産問題まで広げていけば、またいろいろな問題が出てくるのは当然のことであります。一ぺんにばっと広げちゃったらいろいろな問題が出てきますから、いろいろなケースを考えてずいぶんやらなければならない。先ほど野党の案につきまして私はいろいろ質問いたしました。ああいうふうな非常にラフな考え方ではなかなかいけないのであって、もう少しこまかな議論をしていかなければ解決できない問題がたくさんあると思うのであります。たとえば、私申し上げますが、瀬戸内海は非常によごれている。赤潮などで非常に騒いでいる。赤潮で当面被害を受けますのは漁業者である。漁業者は魚をとって生計を立てておるのであります。では一体漁業者だけを補償すればよろしかというとそうではない。瀬戸内海というのはきれいな砂浜であります。だれも瀬戸内海の海岸において泳ぐところの権利はあるだろうと思う。海岸を散歩して白い砂浜を楽しむ権利というものはあるだろうと思う。一体そういう権利というものを、はたして被害者を補償をするのか補償をしないのか、どこまでやるのかというような問題、これもあります。単に簡単に被害だから何でもやれといって、それではそういった権利をどうするか、島本さん、よく考えてください。さらには恋人同士が散歩をする。かつてはきれいな海であった、だから散歩ができた。海がよごれちゃって散歩はできない。あんなきたないところで散歩できるものか。そんなときにはその人に対する期待権の侵害であります。その辺まで一体入るのか。私はいろいろな問題がたくさんあると思うのです。単に財産被害までぱっと含めてよろしいという議論は、はっきり申し上げてなかなかできない。憲法二十五条で書いてある、健康で文化的な生活を守る権利というのはあるわけです。この規定をどう解釈してやっていくかということは、これは大問題であります。私はこの際予想しておきますが、当委員会においてまたわれわれ当然やらなければならない問題でありますけれども、政府当局においてもこういった問題について徹底的に新しい考え方のもとに体制をつくっていただくことをぜひ要望したいと思うのであります。  私がいま申し上げました技術革新におけるところの新しい物質の問題それから環境の問題その他につきまして、環境庁長官どういうふうにお考えになりますか、御所見を賜わりたいと思います。
  58. 大石武一

    大石国務大臣 これからいろいろな科学技術がますます進歩してまいりましょう。そうしますと、われわれの生活なりに非常に便利な役に立ついろいろな新しい製品がますますたくさんつくられてまいると思います。これは非常にけっこうなことでございます。しかしわれわれはすでに科学の中途はんぱな扱い方によりまして、いままで大きな公害の発生という被害を受けております。われわれはすでにそのような経験を積んでまいりました。今後はこのような前車のわだちを二度と踏まないようにやることが、われわれの大事な行政の仕事だと思います。そういう意味で新製品が出ました場合には、新しいそういう進歩に付随する公害が起こらないように、いまからそのような行政上の努力をしなければなりません。どういうことをしたらいいか。私は結論だけ申しますと、いまそういう法律の規制はありませんが、近い将来にはぜひとも新しいやはり法的な根拠を持った、いろいろな新しい製品、たとえばここに化学製品が一番多いと思いますが、そういうものがつくられる場合には、それがすべて無害であるという証明がなされない限りは発売してはならないという規定とか、あるいはそこから出るいろいろな廃棄物が無害であるあるいは有害でないという証明がなされない限りは、そういうような製造を許してはならない、きびし過ぎますけれども、このような考え方を基礎とした規制をしていかなければ、いつどのような公害が出るかわかりません。われわれは二度といつまでも繰り返し繰り返し科学の中途はんぱな、技術によって新しいものが出たけれども、われわれが考えられない公害が出たというのを繰り返してはならないと思うのです。ですからやはりそのような基本的な考えにおきまして、何らかのそのような新しい規制の法的な根拠を持つ必要があると考えておる次第でございます。  それから財産の補償についての問題でございますが、これはおっしゃるとおりぜひ入れなければなりません。ごく近い将来少なくともわれわれの生業に関するもの、これだけはぜひ取り入れたいと思います。しかしこの財産につきましてもいろいろなむずかしい問題がございます。それでいろいろとやはり一つ一つりっぱに裁判上において拠理ができるようなもの、それからまたそのようにでき得るようにわれわれはいろいろな原因とかそういうものを究明していくということの努力が必要だろうと思います。ただ先ほどおっしゃるように赤潮が出たり、海がよごれた場合には漁業の被害があることは確かでございます。これは当然近い将来入りますが、たとえばきれいな砂浜で泳げなくなった場合にどうかということでございます。これはいわゆる環境権の問題に入ると思います。現在では環境権ということは非常に問題になりまして、今度のストックホルムの会議におきましても環境宣言ということが一番重大な問題になっております。いずれ近い将来には環境権というものの定義がはっきりときめられまして、これを守るためのいろいろな措置が行なわれなければならないと思います。現在におきましてはまだそこまでいっておりません。ですからその砂浜の海水浴の場合、恋人の散歩の場合はこれは数十年あとの問題かと思いますけれども、少なくともいろいろなわれわれの直接の環境を守るための環境権というものにつきましては、やはり早い機会に十分に正しい概念と申しますか、そういうものを早くわれわれみんながつくり上げて、それを守るような方向にわれわれの政治を持っていかなければならないと考えておる次第でございます。
  59. 島本虎三

    島本議員 特に指名はございませんでしたが、いまいろいろ言った中で一つだけはっきりさせておいたほうがいいと思いますので、あらためて答弁させてもらいますが、先ほど言ったように憲法二十五条のいわば期待権を含めてのこういうような一つのしあわせの追求、そのための立法化、こういうような点はもちろん必要なこと、同感であります。その点においては同じであります。ただ野党案に対しては、これはラフだ、こういうような——しかし、天網恢々疎にして漏らさず、こういうようなことによりまして、せめてこの辺まではっきりさして、せっかく公害対策基本法で典型公害として七つあげておるわけでありますから、今後科学技術の発展によって、おっしゃるとおりでありますから、どのようなことにならぬとも限りませんから、あらかじめそういうふうになった場合の対処、これは行政的にもはっきりさしておいたほうがよろしい、こう思いますので、せめて野党案のよいところ、十分お認め願って、これに賛成した上であとは行政的に対処するように、御高配を特にお願いしたい、こういうふうに思うわけであります。
  60. 林義郎

    ○林(義)委員 私が先ほどから申し上げておりますように、実はラフだと申し上げたのは、私がくどくど申し上げるまでもない、いろいろな法律的な規制措置をここに入れておかなければ十分でないということなんです。私は時間もありませんから終わりますが、最後に一つ、いろいろとこれからやっていく場合に考えていただきたい。それは憲法二十五条の規定であります。健康で文化的な生活を保障する、その場合に、公害問題だけではないと思うのであります。これは政府のほうから見れば環境庁であるから公害問題であるということでありますが、やはり政治というのは国民の立場に立ってやらなければならない。国民の立場に立てば、PCBの汚染もまたいろいろな有毒の食品公害の問題におきましても同じ問題であります。すべてそういった国民の健康で文化的な生活に対して悪であるようないろいろな問題については同じような問題があると思うのであります。食品の添加剤、いろいろだ問題があります。現在食品衛生法で規制はしてあります。規制はしておりますけれども、行政的に漏れている場合がある。行政庁としてはっきりいいといった場合におきましても、健康被害が出ないという保障は何もないのであります。科学が進歩してくれば当然そういうことになってくる。たまたまいままでなかったからといって、これからないという保障はどこにもない。そういった意味におきまして、ほんとうにそういったものを守るところの体制をひとつ考えていただきたい。単に公害と申しましても公害対策基本法の中に書いてあるものだけを思っておるわけではないと思います。私はそういった国民のためにやる立法というものをこれからほんとうに考えなければならない、これは与党だけではない、政府だけではない、やはり野党とともにわれわれとしては前進しなければならないだろう、こういったように思っておりますので、この点に関するところの環境庁長官及び野党代表の島本先生から一言見解を賜わりまして、私の質問を終わります。
  61. 大石武一

    大石国務大臣 ただいまの御説は私もその趣旨同感であります。われわれはやはり国民のすべての健康なりそういうものを守る義務があります。いまの話でおそらく具体的な例のことをお考えだろうと思いますけれども、漫然と守る姿勢だけでは申しわけありませんので、最初に一番考えられますことは、公害病患者の生活の保障の問題ですね。あるいは公害病患者でなくても、ほかにいろいろな、たとえば食品中毒でも何でもけっこうでありますが、そういうものに対しては生活の保障をすることが基本的な根本的な問題であると思います。これにつきましては、いままでの国の行政の方針というのは、要するに原因者、汚染者がそれを負担することが原則になっております。今後も私はこの方針は守っていかなければならないと思います。ことにPPPというものが出てまいりますから、やはりこの原則は守るべきだと思います。しかしこれは原則でありまして、その場合にその原因者、汚染発生者がすべての責めを負い得るかというと、当然できない場合が非常に多いと思います。その場合にはだれが一番困るかといえばその被害者であります。したがって、やはりどのような場合におきましてもその被害者を守るべき一つの対策、処置というものが絶対必要だと思います。そういう意味で私どもはやはりそのような被害者の生活を保障する、これは要するに生活面だけの問題になりますけれども、保障する財源というものについてわれわれは十分に考慮しなければなりません。これはだれがその財源の金を出すか、あるいはどのような形で、保険がいいのか、基金制度がいいのか、あるいは私どもが考えております、一部で考えております課徴金制度がいいのか、あるいは国家の補助がいいのか、いろいろな考え方があると思いますが、そういうものをとにかく早くまとめまして、そのような財源を十分つくって、いろいろな生活を保障するような財源というものを早くつくりたいと考えております。そういうことで、いま私ども中央公害対策審議会に対しましてもそのような財源のあり方について早く考え方を示してもらうように、費用負担の特別部会をつくりましてそこにそのような考え方をいま諮問しておるわけでございます。いずれ近くその答申が出てくると思いますが、そういうものを土台としていまのような救済の方法を進めてまいりたいと思っております。
  62. 島本虎三

    島本議員 野党案第八条によるところの保障制度の問題とあわせて、二つだけはここに一致点を見出したのでありますが、この点私も同感であります。ただ私どもはやはりこの法律案立法一つの根拠でございます、科学が進歩したならばやはりこれは人間の幸福に寄与しなければならないはずのものを、それがだんだん現在の情勢を見ますと被害者が続出し、それがやはり現在国民がしわ寄せを受けつつある。この救済だけは、私どもはいまの立法一つの根拠としていままで申し上げてきたところでありますが、憲法の二十五条にとどまらずやはり憲法の全部の条項を生活の中に取り入れて、そして格調の高い国民生活のあり方にする、それがやはり基本でありますから、林委員、二十五条のみならず憲法の全条を生活の中に取り入れたほうが一そういいものである、こういうふうに理解して、私の一つの所感といたさせてもらいます。
  63. 田中武夫

    田中委員長 林君の質疑は終わりました。  次に、細谷治嘉君。
  64. 細谷治嘉

    細谷委員 最初に、議院の法制局の部長さんに、法律のしろうとでありますからお尋ねしておきたいのですけれども、いま審議中の無過失賠償責任法の政府案を拝見しますと、「第二十五条を削り、」と第一条にあるわけですね。それから次に水質汚濁のほうでは「第四章削除」とこう書いてあるわけですね。実はいまの水質汚濁の第四章なり、大気汚染防止法の二十五条なりというのは、四十五年の改正の際にこれはなくなっておるわけですよね。しかし削除というのが一つ条文だそうですから、たまたま今度の場合はそこへうまく法律がはさまるようになったわけですね。はさまりましたけれども、二十五条を削っただけで、二十五条の一条しかありませんから、あと二十五条の二、三、四、五、こう入ってきたわけですね。水質汚濁のほうは四章削除ということはなくなって、第四章損害賠償、第十九条、第二十条とあったのが、それでははまりませんから、二十条の五までいったわけですね。確かに法律技術上は簡単でいいと思うのですけれども、「削除」と「削り」というのが使い分けられておって、どうもやはり法律屋のための法案というような感じがするので、国民のための法律ということになるのならば、煩をいとわずきちんと整理していくほうがいいのじゃないか。たまたま今度はぴしゃっと——ぴしゃっとじゃありませんけれども、入らないところは何条の二とか三とかつけて入れましたけれども、こういう感じがいたします。今度の国会を見ますと、こういう問題のほかに、法律が二本違った省から出ております。全部を問わずその一本をある委員会で可決いたしますと、もう一本のほうが自動的に、こちらのほうが審議した直後に、あるいは審議する前に改正が起こっている、こういう事態もあるわけです。こういうやり方がいいのか悪いのか。私はしろうとだけに不親切だ、間違いじゃありませんけれども、どうも問題があるのじゃないかという感じがいたします。これについてひとつ部長さんの御見解を承りたいと思います。
  65. 川口頼好

    ○川口法制局参事 この問題は政府案についての御質問でありますので、私がお答えするのはちょっとぐあいが悪いのでございますけれども、法律を立案する技術屋の一員という意味で、一種の共同責任を持っておりますから、そういう意味で、御参考に供する意味で申し上げます。  確かに御指摘のように、私ども自身も立案の途次で、先生と全く同感の気持ちを持ちまして、できるだけ枝番号とか、それから「削る」と「削除」なんという、国民にわかりにくい技術はなるべく弄しないようにというふうにするのがあり方であると考えます。その点は全く同感でございますが、時間、その他の関係でやむを得ずそういうことをやっているのが現状でございます。ただ、将来の理想を言えば 先生のおっしゃるように、途中で何か建物の横っちょにちょっとつけ足したり、それから部屋の窓をすっかり整理しないでいいかげんにするような感じがいたしまして、いまのような第一点の問題は同感でございますが、事実上仰せのようにできないで、その点はわれわれも今後大いに戒心すべきだと考えます。しかし現状ではある意味ではやむを得ない場合がある、このように考えます。  それから第二点の委員会の所管が国会にくるといろいろ分かれている、ところが法案の脈絡上、論理上、これは一体にしないとぐあいが悪い、こういう問題が実は国会運営等の政治上の問題と立法の技術とが非常にからみ合いまして、これは一つの非常に大きな問題でございまして、これをどうするかというのがはなはだ困難でございますが、立法の技術論からしますと、二つ法案が論理的には非常につながっておる、これはどうにもやむを得ない実態上の必要でございます。ところが委員会にいくとそれが分かれる、そこで一方が通ったら別な委員会の所管に関することが自動的に変更されている。これは極端にいうと別な委員会はときにはうっかりしてよくわからなかったという事例すら起きる。この問題の解決方法は、目下のところあんまりいい知恵はございません。これもしかし大きな問題であることはよくわかっております。どうも非常に申しわけありませんが、目下のところいい知恵がございませんので、御趣旨には同感でございますけれども、今後将来の課題としてこのような問題は考えていきたい、このように考えます。
  66. 細谷治嘉

    細谷委員 それでは内閣法制局。いまちょっと伺ったのですけれども……。
  67. 田中武夫

    田中委員長 内閣法制局は来ておりません。
  68. 細谷治嘉

    細谷委員 それではまた……。  たとえば一番長い法律だといわれます地方税法なんか、これは五百条ぐらいあるわけです。その中の二百十一条を削ると、あとは全部一条ずつずらすとかなんとかいうことはたいへんなことでしょうけれども、この大気汚染防止法にしても、これはわずかの条文ですね。たまたま今度は非常にうまくそこにぴしゃっと入った。ある意味では大石長官ができる前にこの法律が改正されて、二十五条が「削除」という条文だけになっておったわけですけれども、大石長官ができたらここへ無過失を入れるつもりで生かしておったのではないかという感じさえするほど、ぴしゃっと合った。しかし、入り切らんで枝がついたわけですけれども、こういう点がやはり国民の法律として——確かにこの法律そのものばかりではなくて、関連法律条文もいじらなければならぬでしょうけれども、これは附則のほうで常にやっていることでありまして、大した煩をとるわけではないと思うのです。そういう点で私はやはり親切に、しろうとの法律なんですから、国民の法律なんですから、そういうことで御検討いただきたい。  もう一つ、この場合にはございませんけれども、たとえばせんだって衆議院を通過いたしました公有地拡大の法律案等、これは建設省と自治省の共管でありますが、建設省から出ます新都市整備の法律というものがあるわけです。新都市整備の法律が通りますと、自動的に、可決されたとたんに、あるいは法律として成立したとたんに公有地のほうが変わるわけですね。それが問にその新都市整備法というのが入ってくるというだけならよろしいわけですけれども、非常に問題が多い条文がちょろっと附則で入ったということになりますと、これは、国会議員というのは必ずしも法律の専門家ではありませんから、私は問題があろうと思うのです。そういう点、ひとつ衆議院法制局でも御検討いただきたいし、いずれまたおりを見て内閣法制局の見解をお聞きしたい、こう思っております。  そこで大気汚染防止法及び水質汚濁防止法の一部を改正する法律案として、いわゆる無過失賠償責任法というのが環境庁長官就任と同時に、何が何でもこれをやりとげるのだ、こういう所信で今度の国会に出てまいったわけでありますが、私は、拝見いたしまして、いろいろな問題点があろうかと思うのです。それだけに、問題がきわめて重要なだけに、野党三党の共同提案という形で独自の無過失賠償責任制度についての法案が、政府案に対するものとして提案されておると思うのであります。そこで私は、条文を追いながら、政府案野党三党提案のものを比較しながら質問をしてまいりたいと思うのであります。  まず第一に、政府案の第二十五条でありますが、「工場又は事業場における事業活動」、こういうことで、工場または事業場と範囲を狭めた意図は一体どこにあるか、お尋ねいたします。
  69. 船後正道

    ○船後政府委員 大気汚染防止法の現在の第一条の目的におきましても「この法律は、工場及び事業場における事業活動に伴って発生するばい煙」その他の排出規制を目的としている法律でございます。この法体系の中で生じますいろいろな健康被害というものを規制の対象といたしました関係上、二十五条におきましても同様の規定を設けたわけでございます。
  70. 細谷治嘉

    細谷委員 納得しませんけれども……。  そこで、その「工場又は事業場における事業活動に伴う健康被害物質」というのは「生活環境のみに係る被害を生ずるおそれがある物質として政令で定めるもの以外のものをいう。」ということでありまして、具体的には政令でどういうものになるのですか。
  71. 船後正道

    ○船後政府委員 ただいま御指摘の規定大気汚染防止法の二十五条のみにございまして、水質汚濁防止法の同じような規定である十九条にはその規定はございません。これはもとの法律におきましても水質汚濁防止法のほうでは物質健康被害にかかわる物質と生活環境にかかわる物質と両者に画然と分かって規制をいたしておるわけでございますが、大気汚染防止法のほうにおきましてはそのような区別をせずに、ばい煙粉じん等々の規制をいたしておるわけでございます。したがいまして、これらの物質の中にはもっぱら「生活環境のみに係る被害を生ずるおそれがある物質」というものがあり得るわけでございます。そういったものとして具体的に何が考えられるかといいますと、その点は粉じんの中でも現在規制の対象にいたしておりませんところのたとえば小麦粉等の粉じんというものが考えられるわけでございますが、こういったものがはたして人の健康被害に全然影響がないかどうかという点につきましては、当然科学的な種々の検討が必要でございます。そのような検討をいたしました上でそういう物質がございますれば、これは政令で除外するというような道を開いたものでございます。
  72. 細谷治嘉

    細谷委員 「健康被害物質」というのは新しいことばですね。そうでしょう。「健康被害物質」というのは新しいことばでしょう。ちょっとはっきり言ってください。
  73. 船後正道

    ○船後政府委員 大気汚染防止法の系統では御指摘のとおりでございます。
  74. 細谷治嘉

    細谷委員 「ばい煙特定物質又は粉じん」、これは大気汚染防止法の場合に政令の第一条で「有害物質」、第十条で「特定物質」とこういうものがあげられておりますね。それから水質汚濁法では政令の第二条に具体的にあげられておるわけですね。その具体的にあがっておるものは「工場又は事業場」ということで自動車による公害等ははずされておるわけでありますから、自動車によるもの、たとえば四つばかりありますね、一酸化炭素、炭化水素、鉛化合物、窒素酸化物、これは「自動車排出ガス」についての政令規定でありますから、それ以外の「生活環境のみに係る被害」というものとあるいは「人の生命又は身体を害」するというのが「健康被害物質」として仕分けされるわけでしょう。そうしますと、この政令に載っておるもののうちの何が除かれるのですか。
  75. 船後正道

    ○船後政府委員 新たに政令でもって「生活環境のみに係る被害が生ずるおそれがある物質」という指定をしなければ、現在この大気汚染防止法の系統でばい煙粉じん、特定物質というものとして指定になっておる物質はすべて無過失損害賠償の対象になる。積極的にもっぱら生活環境のみにかかわるものとして除く政令が出ない限り、現在取り締まりの対象となっておりますものはいずれも無過失の対象になるという立て方でございます。
  76. 細谷治嘉

    細谷委員 積極的に「健康被害物質」としてこの二十五条を受けて政令を出されるのですか、あるいは現在の二法を受けての政令規定された物質でそのままいくというお考えですか。いずれですか。
  77. 船後正道

    ○船後政府委員 大気汚染防止法の第二十五条の規定のしかたは、健康被害物質これをカッコの中で「ばい煙、特定物質又は粉じん」を言うわけでございますが、その中で特に政令で生活環境のみにかかわるものは除く、こういうわけでございますので、この除く政令が制定されない限り「健康被害物質」とは現在の大気汚染防止法で「ばい煙、特定物質又は粉じん」として政令指定されておるもの、このすべてを含むわけでございます。
  78. 細谷治嘉

    細谷委員 私が聞いているのは「生活環境のみに係る被害を生ずるおそれがある物質」ということで現在政令であげられてある物質がそのまま「健康被害物質」となるのかあるいはこれが縮小されるのか拡大されるのか、それを聞いているわけですよ。
  79. 船後正道

    ○船後政府委員 冒頭に申し上げましたように、現在新しい二十五条の政令でございますが、これでもって一応検討の対象といたしておりますのは、粉じんの中でたとえば小麦粉の粉じんというようなものを除外することを検討しようというだけでございますから、その他の現在大気汚染防止法施行令でそれぞれ取り締まりの対象とされておる物質は無過失の対象になるわけでございます。
  80. 細谷治嘉

    細谷委員 おおむねわかりました。  私はこの現在の法律を受けた政令のたとえば「有害物質」ということで——少し話がこまかくなりましたけれども、「窒素酸化物」というものを入れておって、なぜ大気汚染の場合に炭化水素を加えておらぬのかという疑問があるわけです。炭化水素といいますとベンゼンとかトルエンとかキシレンとかこういうことですね。このベンゼンなりトリエンなりキシレンというのもこれは有毒なんですね。特定物質の第十五にはベンゼンというのがあげられておるわけですね。それから十七号にフェノールというものがあげられておるわけですね。それでは同じようにクレゾールあたりは流してもいいということになるわけですね。これはそういうことになりますね。ですからここに政令としてあげたものを一々あげませんけれども、私はいろいろ問題があると思うのですよ。  そこへ持ってきてたとえば最近問題のPCBというのは一体どうなるのか、これはどうなんですか。PCBというのは間違いなく健康被害物質ですね。お答えいただきたい。
  81. 船後正道

    ○船後政府委員 本来なら所管の大気保全局のほうからお答えすべきものでございますが、大気汚染防止法施行令の第一条に掲げております物質の中に炭化水素等を含んでいないではないかということにつきましては、これは法律の第二条の第一項第三号の「物の燃焼、合成、分解その他の処理に伴い発生する物質」というものを政令で定めた規定でございます。この規定自体がその後も追加もございまして、常に検討されておる対象でございますが、現在こういった施設から発生するこういう物質といたしましては、炭化水素が現在のところ予想されないというような関係法律の第二条第一項第三号からは除かれておるわけでございます。なおPCBにつきましては、その蓄積性あるいは慢性毒性というようなことが問題になっておりまして、現在そのメカニズムでございますとか人体等に及ぼす影響につきましても鋭意検討しておるところでございます。そのような化学的な検討結果を踏まえました上で、これを水質汚濁防止法の系統等によりまして対象とするかどうか、あるいは大気のほうではどうかというような問題は検討しておるところでございます。
  82. 細谷治嘉

    細谷委員 そう答えちゃうと私もちょっと問題にせなければいかぬわけですね。それなら政令の第十条「特定物質」の中に、あなたの言い分では、PCBについてはまだ毒性、急性毒性あるいは亜急性とか慢性とかいうようなものが明確じゃないから、それが明確になってから加えると、こういうふうにおっしゃっているわけですね。大体あなたのほうで二十八もあげておる中で、二十二のクロルスルホン酸というのは前の十八の硫酸のSO3を含むと書いてあるのに、その前の九に塩化水素というのがあるんですけれども、塩化水素と硫酸のくっついたやつがクロルスルホン酸だから、そんなばかなこと書く必要ないでしょう。重復しているでしょう、化学的には。あなたがそこまで化学的、合理的なことをおっしゃればそう言わざるを得ないのですよ。クロルスルホン酸というのは塩化水素とSO3、三酸化硫黄のくっついたものですよ。それをわざわざ別にあげておいて、きわめて明確になったしかもPCBなんというのはいまわかっちゃおらぬと言うけれども、すでにもう戦争中から明らかに被害があるという研究報告があるんですよ。最近もたいへんな問題になっているでしょう。カネミ油症、そればかりじゃなくていろいろな問題が出てきているでしょう。にもかかわらずその辺がまだわかりません——大体公害の場合は疑わしきは罰するということでしょう。それは環境庁長官その基本態度でしょう。(大石国務大臣「そのとおりです」と呼ぶ)それなのにPCBを加えないで、加えない理由はこうだからというんならば、このあげてあること自体がおかしいじゃないか。足らないものもあるし、数ばかりふやして二つ寄せ集めてみたら別のほうにあがっておったというようなかっこうですよ。おかしいじゃないですか、どうなんですか。
  83. 船後正道

    ○船後政府委員 あるいは私の御答弁のしかたが非常に消極的に先生おとりになったかとも思うのでございますが、決してそうではございませんでして、現在PCB問題につきましては環境庁あげてこの対策に努力いたしておるところでございます。  私どもといたしましてはまず食品上の安全基準というようなもの、それから排出規制面の排出基準あるいは環境基準といったようなことが関連性があるわけでございますので、厚生省におけるそのような食品の安全上の基準というものの作業とにらみ合わせつつ、規制法の対象でPCBを取り上げることにつきまして、現在鋭意検討しておるところでございます。
  84. 細谷治嘉

    細谷委員 大臣、もうPCBは化学的にほぼ証明されておるわけですね。証明されておるわけですよ。ですからいまのような答弁で、しかも、くだらないとは申しませんけれども、化学的に見ますと重複するようなもので数だけふやしておいて、しかも現在毎日のように新聞をにぎわしておるそのPCBの毒性がまだ不明だから厚生省と打ち合わせてどうのこうのという事態じゃないと思うのですよ。もういろいろの例をあげなくてもPCBだけでもこれはやはり水質汚濁の中に入れなければどうにもならぬ、こう思うんですね。健康被害物質というものを明らかに生活環境の上にかかる被害ということで押えるわけですから、この表に落ちているPCBは何が何でもこれは入れなければどうにもならぬじゃないか、こう思うのですよ。  私はいろいろお聞きしたいんですけれども、一体PCB被害というものは、大臣、これで被害が起こった場合に無過失と思うんですか、あるいは過失なんですか、どちらなんでしょうか。
  85. 船後正道

    ○船後政府委員 まあ無過失というものを法律上の問題としてとらえるか、あるいは道義的な、あるいはまた経済的な問題としてとらえるかによって、私どもの答え方も違ってくると思うのでございますが、法律的には明らかに無過失責任の対象としていなければ、やはり不法行為が成立するためには故意過失要件が必要でございます。ただ道義的な問題あるいは経済的な問題というふうにして考えてまいりますれば、ともかく未知の化学物質、難分解性の化学物質というようなものが環境上に蓄積されて、それによって被害が起こったということについては、なかなかその故意過失というものもむずかしい問題でございます。そうでございますから全体の経済的な制度といったようなものを考えます場合には、私ども今後、将来このようなPCBというものによる被害があらかじめ発生しないように、そういう仕組みをつくる必要がまずあり、発生した場合の責任負担というものを経済的にどのように配分するか、これは委員会でも問題になっております損害賠償措置制度の問題でございますから、そういったものとして対処していかなければならない、このように考えます。
  86. 大石武一

    大石国務大臣 いまのむずかしい法律解釈は私ちょっとお答えいたしかねますので、政府委員からお話ししましたが、私はPCBはできるだけ早い機会にこれは有害な物質として指定しなければならないと考えます。そういうことで、できるだけこれが有害な物質として指定できますように、早く理屈づけができるようにしたい、そのことでいま努力している最中でございまして、ごく近い将来にはぜひこれは取り入れなければならぬと考えます。ただ、いまいろんな厚生省その他の意見を聞きましても十分な定量、定性が、定性も完全でありませんので、なかなかうまくいかない、実態がつかみかねておるというようないろいろな理屈がございます。  たとえば医療について、私も先ほど妙な答弁をしたのですけれども、人体に対する影響について、微量がどうであるとかなんとかいう議論がまだできてない、検査ができておらないからだめだということを申し上げましたが、考えてみるとこれもちょっと妙な議論です。いまたくさんあがっておりますいろいろな有害物質が、それはおそらくみんな人体に対する影響を実験しておらないと思うのです、人体実験できるはずがないのですから。ですから、PCBだけがそのようなことをしなければならぬということも、いま考えてみるとちょっとおかしい感じがします。ですから、もっとおおらかに考えまして、こういうものは至急有害物質として指定することが必要である、そう思います。そうなりますと、当然これは無過失物質の中に入ってまいりますから、それによっていろいろな被害が起これば、無過失責任を負うということになると考えます。
  87. 細谷治嘉

    細谷委員 大臣、阿賀野川の第二水俣病の裁判は、これは水俣病の実態も知りながらやったという形で、あれは過失責任という形で判決が出されているわけです。このPCBの問題もいま申し上げたように、労働科学研究所の労働病理学研究室で野村という人がずいぶん古く「クロルナフタリン中毒の本態とその防遏に関する研究」という中で、PCBがずば抜けて毒性が強いという研究もあるのですよ。それを取り上げておらないわけですから、何か先ほどの経済的、人道的というのは、どうも反経済的というか、あるいは資本のための経済ということを考えて、人道的という意味は反人道的という形でものをお考えになっているんじゃないか、こういうふうに考えざるを得ないわけなんで、大臣、いまPCB実態がそこまで来ているんです。でありますから、人体に対する健康被害物質の中には積極的に何が何でもPCBは入れていただかなければならぬ、こういうことであります。  そこで第十条の特定物質にアクロレインといろのが十一号に入っております。それから三十八号にメルカプタンというものが入っております。間違いなく入っております。アクロレインとかメルカプタンというのは悪臭防止法の対象物質なんです。そうなってまいりますと、二つ法律だけに限って、そして悪臭防止法という法律が現にあるのに、その悪臭の張本人であるメルカプタンとかあるいはアクロレインというものを大気汚染のほうで取り上げていっている。そうしますと、悪臭の大宗をなす柱が大気汚染のほうに入っているわけですから、大気汚染と水質汚濁だけを取り上げたというのはこれは問題がある。合理的な理由がないということですよ。典型公害といって基本法に示されたものがありますが、この大気汚染の中に悪臭の大宗をなす張本人があげられておるわけです。そしてこのたった二つ法律だけに限って悪臭だけを排除しているということは合理的な理由がない。ほかにいろいろありますけれども、この具体的な例で合理的な理由がないと思います。  しかし時間が来ましたから、お答えは次の機会にいただくことにしまして、次の質問を保留して、きょうはここで終わっておきます。
  88. 田中武夫

    田中委員長 細谷君の残余の質疑は次の機会に譲ることとし、本日はこの程度にとどめ、次回は、明十七日水曜日午前十時理事会、午前十時三十分から委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。    午後零時五十四分散会