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1972-05-09 第68回国会 衆議院 公害対策並びに環境保全特別委員会 第14号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十七年五月九日(火曜日)     午前十時三十七分開議  出席委員    委員長 田中 武夫君    理事 始関 伊平君 理事 八田 貞義君    理事 林  義郎君 理事 藤波 孝生君    理事 山本 幸雄君 理事 島本 虎三君    理事 岡本 富夫君 理事 西田 八郎君       梶山 静六君    久保田円次君       中島源太郎君    葉梨 信行君       浜田 幸一君    阿部未喜男君  出席国務大臣         国 務 大 臣         (環境庁長官) 大石 武一君  出席政府委員         環境庁長官官房         長       城戸 謙次君         環境庁企画調整         局長      船後 正道君         環境庁大気保全         局長      山形 操六君  委員外出席者         法務省民事局参         事官      古館 清吾君         日本国有鉄道副         総裁      山田 明吉君     ————————————— 委員の異動 五月九日  辞任         補欠選任   古寺  宏君     林  孝矩君     ————————————— 五月一日 狩猟者団体法制定に関する請願(鴨田宗一君紹  介)(第二八九九号)  同外二件(細田吉藏紹介)(第二九一八号)  同(松永光紹介)(第二九一九号)  同(坪川信三紹介)(第二九九四号)  同(天野光晴紹介)(第三〇六二号) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  大気汚染防止法及び水質汚濁防止法の一部を改  正する法律案内閣提出第九七号)  公害に係る事業者の無過失損害賠償責任等に関  する法律案島本虎三君外七名提出衆法第一  四号)      ————◇—————
  2. 田中武夫

    田中委員長 これより会議を開きます。  この際、御報告申し上げます。  去る四月十三日の本委員会科学技術振興対策特別委員会との連合審査会に出席されました参考人鐘淵化学工業株式会社常務取締役大橋清男君から、同連合審査会議録第一号七ページ三段二十六行の同君の発言中、「三十五年」を「四十五年」と訂正願いたい旨の文書が四月二十四日提出されましたので、御報告申し上げます。      ————◇—————
  3. 田中武夫

    田中委員長 内閣提出大気汚染防止法及び水質汚濁防止法の一部を改正する法律案並び島本虎三君外七名提出公害に係る事業者の無過失損害賠償責任等に関する法律案の両案を一括議題とし、審査を進めます。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。島本虎三君。
  4. 島本虎三

    島本委員 今回の場合は、特に大気汚染防止法及び水質汚濁防止法の一部を改正する法律案、こういうような名称で無過失賠償責任法案、いわば佐藤総理三年前の約束はいよいよもって実現の運びになったわけです。いままで始関委員その他の質問によっても明らかになってまいっておりますけれども、これはまことに不完全な法律案だと、こういわざるを得ないのであります。長官の場合は特に国民からこの問題に対してははっきり期待を持たれておる人でありますから、不完全なままで出すということは少し見識に欠けるんじゃないか。なぜこれをこういうような状態で出したのか、また出さざるを得なかったのか、出すことによってどういうようなことになるのかということについて、まず見解を表明しておいていただきたいと思います。
  5. 大石武一

    大石国務大臣 この法律案は、ただいま島本委員のおっしゃるとおり非常に不完全なものでございます。ただ、不完全でありますが、どうしてもこの国会には提出をしておきたい。そしてこの無過失損害賠償責任制度考え方をはっきりと行政に確立したいという念願から、あえて不完全とは自分考えましたが提出した次第でございます。  その理由はいろいろございます。第一に、私が環境庁長官になりましてから、この法案提出するまでには、まだ八カ月しかございません。その間、わずか半年ぐらいでこれを一つの大きな法律案に、完全とは申しませんが、りっぱな、体系づけられた法律案につくり上げるには、とうてい半年そこいらの時間ではやはり不可能でございます。少なくとも一年かあるいは二年の時間はかかります。そういう完全なものを考えてまいりますと、この無過失損害賠償責任制度法律案国会に提案するのは、少なくとも次の国会か、さらにあるいはその次の国会になるかもしれません。そのような時間的な余裕は許されないと考えております。  御承知のように、わが国の、ことに健康被害者に対するいろいろな補償というものを何とかしてめんどうを見るのが、いま一つの緊急な問題でございます。もちろん健康以外にも財産等いろいろなことについても補償のことが必要でございますが、とりあえずいま一番苦しんでおります健康被害者の方々に対する生活費なり、あるいはいろいろな補償というものについては、やはり緊急な問題だと考えております。そういう場合には、やはり一日も早くそのような補償考え得るような手だてをしてあげることが、一つの大事な仕事じゃなかろうかと考えております。それが完全な法律案になりますと、御承知のように、法律というものは環境庁だけの考えでつくれるものではございません。あらゆる各省にわたって、みなの了解なり、話し合いをして、十分な理解がない限りは、この法律案国会に提案できないことは御承知のとおりでございます。そういうことから考えますと、これが一本の法律となって、健康被害はおろか、財産すべてのものまで包括するとなりますと、やはり各省の了解を得るにはとても半年や一年では不可能でございます。そういう意味で、とりあえず私は、まず行政の中にこのような新しい考え方を取り入れまして、一つ土台をつくって、それを土台として近い将来にいろいろな問題まで大きく総合的に発展させることが早道である、こう信じたわけでございます。そういう意味で、あえて不完全とは考えましたが、これを国会に提案したのでございます。もちろんこれは無過失損害賠償責任制度という形の名前のほうがはるかに形もよろしいし、かっこうもいいと私も思います。しかし、そういうものをつくるにはただいま申し上げたように時間がかかりますので、とりあえずこの考え方を早く確立したいという意味で、不完全ながら二つの法律改正ということにいたしたのが実態でございます。
  6. 島本虎三

    島本委員 三年前のことを三年かかって時間がないということは、私は理由考えられない。まして現在出された法律案内容等を見ましても、複数公害に対する部分、その原因物質を列挙するという、これは以前より変わった点であって、それ以外はほぼ前から考えられているとおりであります。そうすると、いま長官がおっしゃったように、これを土台にしてやる。土台は前に進むための土台でなければならないと長官は申されました。その土台のために、なおぐらぐらしたりうしろ向きになったりすることは許されないと思います。そういうことからして、いまこの法律案を出すことによって——物質損害に対しても、無過失損害賠償判決はあるわけです。そういうふうなことになっておるのに、物質、すなわち財産一般に対してのこの条項が削られたところから、物質についてはすべて今度は過失責任ということで、また逆戻りしてしまう。物質損害についてはこれはもう過失責任でいけ、こういうような根拠になってしまうじゃありませんか。まさに一歩前進のための土台だというけれども、いままでの判例やこういうような実例からして見ると、今後はそれをやっちゃだめだぞという、逆にうしろ向き法案になるおそれがあると考えませんか。この点があっては私はほんとうに困ると思うのであります。  それで、念のために聞くのですが、法制局並びに事務当局にはっきりこの点を答弁してもらいたい。
  7. 古館清吾

    古館説明員 民法不法行為におきましては、過失責任原則としております。これを無過失責任とすることは、民法原則に対する例外でございます。したがいまして、公害一般につきまして、抽象的に無過失責任とすることにつきましては、相当問題があろうかと思います。そういうことでございますので、企業実態あるいは企業活動に即応しまして、必要、合理的な範囲で無過失責任を認めるのが相当であろう、こういうふうに考えます。  そういうところから言いますと、現在喫緊の問題はやはり健康被害だと思います。物質損害につきましては、健康被害に比べますと喫緊の度合いは相当違うのじゃなかろうかというふうにも考えます。そういうことになりますとそれは民法原則にもとるわけでございまして、特段に被害者の不利益になる筋合いはなかろうかと思います。
  8. 島本虎三

    島本委員 さすがにそういうような考えだから法律前進しないのであるということが大体わかりました。おそらくは日弁連並びに学者あるいはいろいろな学説、こういうようなものより法務省のほうがやはり数等おくれておるようです。  それならばあえてはっきり聞いておきたいのですが、公害罪処罰法がある。公害罪処罰法制定にあたって、因果関係に関する推定規定を、おそれというものは除いたけれども、これを入れてあるわけです。この場合にはある弁護士会のほうでは相当の意見も出して、これは民法には入れるべきであろうけれども、刑法に入れることは悪用されるおそれがあるのじゃないかということで、だいぶ反対意見もあった。しかし公害罪処罰法の中に、人権尊重のたてまえから、厳格な立証を当然要求されるはずの刑罰規定推定規定を置きながら、民事法の分野で因果関係推定規定削除というようなことにしてしまった場合には、何か本末転倒になっているのじゃないか、こういうようなことさえもいまはっきり指摘されております。長官あたりは、あなたが出る以前の問題ですから、これはなんですけれども、刑罰法規公害罪処罰法にはちゃんと推定規定がある。民法ほんとう被害者救済しなければならないのに、推定規定を抜いて、そしてそれを出した、こういうようなことに対して、これは当然だと思いますか。おそらくこれは本末転倒だ。これだったら国民はがっかりするのは私は目に見えるような気がします。これに対して、推定規定をとられるような反対意見が出てきたのに、長官はこの公害罪処罰法を一本出して食い下がって、これはしゃにむに入れさすべきじゃなかったですか。おそらくこういうふうないろんな点で考慮されなければならない点が多いようないわゆる政府提案の無過失損害賠償責任法、これの中でも推定規定があるから、これは一歩前進でいいじゃないか。これはたった一枚の目玉だ。この目玉をとられてしまった。しかし、ちゃんと刑罰規定のほうの公害罪処罰法には推定規定がある。なぜほんとう被害者を助けなければならない立場に立った民法、この公害罪のほうの水質大気のほうにこれを入れることについてあなたはがんばらなかったのですか。これはとんでもない法律になって出てきておるから、最後まであなたはこれに食い下がって、この問題に対して自分で明らかにすべきじゃなかったかと思う、片方にこれがあるのですから。
  9. 大石武一

    大石国務大臣 因果関係推定規定は、初め私どもは入れることに考えておりましたが、最終案にはそれを抜いたことは御承知のとおりであります。私はいろいろな点を考えまして、私が判断をしまして、これは入れたほうがよろしかろうという判断のもとに実は入れたのでございます。しかし最終的にはいろいろな意見が出てまいりまして、その意見を無視するわけにはまいりません。その意見というのは単なるそれを妨害しようという意見だけではございませんで、やはり理屈の上でもこれは一応考慮すべきものがございましたので、私はいろんなことを考えまして、まあ最終案としては抜いたわけでございます。しかし、因果関係推定規定がないからといってこの法案意味がないとは私は考えておりません。やはりこのような無過失責任制度のようなものの新しい考え方行政に取り入れることが、いまの段階では非常に重大なことであると考えました。しかもはっきりと複合汚染を入れまして、実際にそういうことが非常に価値があると私は思いますので、因果関係推定はいろいろないきさつはございますが、私もこれは入れても悪くはないと思います。近い将来において、いろいろな判例が重なりましてそういう方向意見が固まってまいりましたならば、私はあらためてそれを入れてもけっこうだと思います。ただ現段階におきましては、いろいろな異論がございますので抜いたということだけでございまして、これを抜いたことによってこの法律案の生命がなくなったとは考えておりません。そういうことでございます。
  10. 島本虎三

    島本委員 そういうようなあいまいなものではないはずであります。ことにこの法案の中でいま長官が言ったようにして入れても入れなくても、これはもう適用できるのだ。こうであるならば、入れなくたっていままでのような水俣病イタイイタイ病という人たち推定規定によって十分やっていけるんだ、こういうことに当然なるだろうと思うのです。やっていくためにはこの法律で完全にできましょうか。ことにこの中には不遡及原則さえもわざわざ明文化してございましょう。こういうようなものが原則としてきめられてあるのになぜまたこれを明文化したのですか。これはどういう意味でしょう。これは入れても入れなくても不遡及原則は生きているのです。生きているのに、それをよくするはずの法律の中にまた不遡及規定を入れた。これはどういうわけですか。
  11. 船後正道

    ○船後政府委員 一般的には島本先生御指摘のように、国民に義務を課したり権利を制限いたすという法律ができました場合には遡及しないわけでございます。今回の場合におきましても、このような原則に従いましてさかのぼらないということを規定したまででございます。したがいまして、規定がなければどのようになるか、これはやはり従前の例によるというのが一般的な解釈であろうと考えますけれども、その点を明文でもって規定したにすぎません。
  12. 島本虎三

    島本委員 救済をはっきりとこうしなければならないと、被害者のためにある法律にその原則を盛るということは、それならば被害者のために一そうよくなるということをはっきりさせなさい。
  13. 船後正道

    ○船後政府委員 事業者は無過失損害賠償責任を課するということが、ひいては被害者にとっても利益になるわけでございますが、今回の法律はそういう改正でございます。ただ、過去の問題につきましては、これは過去の法律制度によって損害賠償が行なわれるということを明らかにしたわけでございます。
  14. 島本虎三

    島本委員 過去のものに対してさかのぼらないということが被害者に有利になるか不利になるか、これをはっきりさせてくれというのです。
  15. 船後正道

    ○船後政府委員 この法律施行前に生じました問題につきましてはこの法律は及ばないわけでございますから、被害者にとりまして特に有利になる、不利になるということはないわけでございまして、従来どおり民法原則ということで裁判が行なわれる。したがいまして、イタイイタイ病でございますとかあるいは阿賀野川の事件でございますとか、こういったときに適用されましたような法律あるいは裁判所のものの考え方ということでもって被害者救済が行なわれる、かように考えます。
  16. 島本虎三

    島本委員 これが被害者救済するためであるというならば、不遡及原則を入れないでおいたほうが被害者のためには一番いいんです。入れないからといってこの原則が消えるわけじゃない。それをわざわざ入れたというのはどういうわけなんだ。これによってなお被害者救済になるかというんです。ところがそれを聞いたってなるような理由一つもない。水俣病イタイイタイ病、これは下級審判例はあるようですが、最高裁のものはないようですけれども、これはもう因果関係規定を、推定規定遡及してやっておるでしょう。それを今後は、因果関係推定はいけないということをあらためてこの法律規定してしまうことになる。そうしたならば、いままでの判例にこれはストップをかけることになるじゃありませんか。こういう考えほんとう被害者のためになるというなら、そういう本末転倒した考えのほうがよほどおかしい。どういう考えでこれをやったのですか。そうならないならこれをはっきりしなさい。
  17. 船後正道

    ○船後政府委員 まあ、因果関係推定そのものは本来裁判官自由心証に属する問題でございまして、具体的なケースに即しましてどのように因果関係推定するか。特に最近の公害事犯におきましては、被害者側に厳密な科学的な証明を課することは非常に困難でございますので、阿賀野川裁判におきましてもあるいは神通川の裁判におきましても、裁判官はいわゆる蓋然性の理論というものに基づきまして被害者立証責任をかなり緩和いたしておるわけでございます。  この点につきましては、今回の法案因果関係法律上の推定規定に触れておりませんから、従来どおり阿賀野川裁判、こういったものの考え方に従いまして裁判官は当然被害者立証責任を緩和されるような方向でもって判決が行なわれ、そういった判例というものが積み重なっていくのではないか、かように考えております。
  18. 島本虎三

    島本委員 これは不遡及原則があり、また除かれた推定規定——水俣病イタイイタイ病も、これはやはり遡及して適用しているんです。それを今度この不遡及原則を新たに入れる、こういうようなことになってしまうと、今後因果関係推定してはいけないということになってしまう。そうなると、いままでの判例ストップをかけることになるおそれがないかどうか。これは重要なことじゃありませんか。
  19. 船後正道

    ○船後政府委員 少なくとも因果関係の事実上の推定につきまして、今回の法案判例の動向にストップをかけるというようなことは絶対にない、さように考えております。
  20. 島本虎三

    島本委員 絶対ないと信ずるといったって、それならば不遡及原則を入れないでおけばいいでしょう。いままでそれでやっているんだから。あらためて入れると、それでもうもとに戻りませんよと言い切ることになってしまうでしょう。原則としていままで適用されているこれを認めているというならば、あらためてここに遡及しないということを入れないほうがなおいいじゃありませんか。入れて何でもいいというんならば、入れないほうがなおいいでしょう。いままで原則としてそれでやってきているんだから。あらためて入れたからこれがおかしくなる。これは厳重な施行を迫られる、こういうおそれは被害者に対して不利になるんじゃないかと言うんです。有利になるというならばこれは本末転倒した考え方じゃないかと思う。そこをはっきりさせてください。
  21. 古館清吾

    古館説明員 この法律で結果的には因果関係推定を禁止したことになるんじゃなかろうかというふうな御趣旨先生質問をされていると思われますけれども、この法律では因果関係推定については全く触れておりません。したがいまして、その不遡及規定につきましても、因果関係推定をしちゃならぬということをきめているわけでございませんし、それについては全く触れていないということでございます。したがいまして裁判所としましては、従来どおりの方法で訴訟活動あるいは立証してよろしいということでございます。
  22. 島本虎三

    島本委員 従来どおりであるならば、いままでやってきた。判例も優秀な学説もあるが、不遡及原則をあらためてここに入れて従来どおりであると言う。従来どおりであるなら、これはなくても、いままでやってきたのだから、この原則を入れないほうが正しいんじゃないですか。どうも入れてなおよくなるというのは本末転倒した考え方じゃないですか。
  23. 古館清吾

    古館説明員 不遡及原則を入れた趣旨は、法律社会規範でございます。社会秩序を維持するための規範でございます。これの法律でございます。  ところで、民法における不法行為におきましては、加害者故意過失に基づきまして他人に損害を与えた場合、この場合に、不法行為に基づく損害賠償というものが発生します。つまり、加害者故意過失を前提としております。そういうたてまえでございますから、これは言いかえますと、加害者故意過失がない以上、被害者損害が発生しましても、加害者損害賠償責任を負わない、その限りで活動の自由が保証されているというたてまえを民法はとっておるわけでございます。それで、このたてまえのもとに社会法的安定性が過去から現在まで維持されてきているわけでございます。それを本法案でこの無過失責任遡及させるということになりますと、社会の法的安定をくつがえすことになりますし、社会秩序を混乱させることになる、これは非常に好ましくないということから、この不遡及についての規定を設けた、そういうふうに理解しております。
  24. 島本虎三

    島本委員 それはどうしても、何ぼ言ってもだめなんだ。そういうような考え方でやって、現在のような多発している被害者に対して、救済の効果がどれだけ上げられますか。原因物質さえもまだわからないけれども、被害者になってだんだん出てくる。PCBだって、わかってもこの措置さえできないような状態だ。こういうような状態なのに、過去にさかのぼらない。過去に出したものなら、こんなものは知らないのだ、こう言われたとき、これは全部被害をかぶるのは被害者じゃありませんか。被害者には何の罪があってそんなことが言えるのですか。さかのぼってもいいから、ちゃんと原因者と思われる人に推定規定を働かして、ちゃんと措置させるのが、これはやはりだれが見ても正しい考え方です。過去にやったやつはさかのぼりません、まさに企業者擁護一辺倒、そういうような考え方であるならば、全くもって遺憾千万です。しんしゃく規定をあらためてこの中に入れたというこの理由は、長官、何ですか。
  25. 大石武一

    大石国務大臣 これはやはり御承知のように、私たちは常識的に考えましても、大企業なら——もちろんこれは企業としては責任がありますから、当然補償を負わなければならないわけでございますけれども、小さな、たとえばふろ屋の煙突から出たものについても責任を持たせるということについては、小さなふろ屋がかりに大きな賠償責任を負わせられたとしますと、これは当然補償されることはそのとおりでございます。したがいまして、これはやはり大企業にできるだけ責任を持たせる、そういう考えから、ことに小さなものに対してはしんしゃく規定をつくったという常識的な考え方でございます。
  26. 島本虎三

    島本委員 小さな企業に対してのしんしゃく、それがそのまま政府案によってしんしゃくされるでしょうか。
  27. 大石武一

    大石国務大臣 ただいまのところは、実は、この法律案をつくるときにも、非常に議論のあったところでございます。どの程度までを一体小さな企業とするのかですね。それがお互いに自分は小さなところであると主張したならば、なかなか裁判所判断に苦しむだろうというようないろいろな問題がございました。確かにおっしゃるとおり、そういう点ではむずかしい点もございます。しかし、やはりそのような規定を設けることが、日本ほんとうに小さな企業と申しますか、中小企業をある程度考慮してやることが、あたたかい行政であると考えまして、それはおっしゃるとおりむずかしい問題はありますけれども、必ず裁判所がりっぱな判断をしてくれるだろうという考えのもとにこのような規定を入れたわけでございます。
  28. 島本虎三

    島本委員 「損害の発生に関して被害者の責めに帰すべき事由があつたときは、裁判所は、」云々、こうなっているわけです。「あつたときは、」ですから、ない場合にはこれはやむを得ないでしょう。しかし、この考え方自身が、やはり民法の七百十九条、共同不法行為という、こういうようなものに対しての大審院以来の判例、こういうようなものに対してどう考えているかの問題じゃないか。それに対して一つの別な考えを示したことになるじゃありませんか。   〔委員長退席始関委員長代理着席〕 これはやはりもう全共同不法者に対しては連帯責任を認めるというようないままでのこの考え方、これに対して今度過失相殺的な考え方をこの中に入れてきた。もしそうだった場合には、やはりこれも一歩後退になりはせぬか。中小企業を救うためにこれを入れたといいながらも、中小企業というけれども、おそらくその範囲とその方法によって大企業も入るかもしれない。そうなった場合は、被害者がどのような責めに帰すべき理由があってそういうふうにされなければならぬということに当然帰することになるのじゃないか。あえて言うと、頭から無過失考え方過失相殺的な考え方を入れる、こういうようなことに対してはちょっとおかしいんじゃなかろうか、こう思っているのです。ですから、この案一つ見ても、中小企業のためにということを前提にして考えたと言うけれども、これは逆に、中小企業という名の理由のもとに被害者にしわ寄せを及ぼすおそれがないか。そういうようなおそれがある場合には、この法律案に対して、今後環境庁長官としてどういうような態度をとるつもりなのか、ここはやはりはっきりさせておかなければならないと思います。どうかすると、有害物質を出しているのを知ってそこに居住してきたのが悪いんじゃないか、そういうようなところまで考えられる。あとから来たからいけないんだ、こんなところまで考えられるようならこれはとんでもない。イタイイタイ病にしても、いろいろ学説はあるけれども、栄養失調なんだからというような学説もあるようですが、だからおまえのほうは関係ないんだ、こう言われたら、被害者は立つ瀬がないと思います。そういうようなことからして、被害者の責めに帰すべき理由、こういうようなのは何だというふうにお考えでしょうか。私は、それは一片だにない、つめのあかほどもない、こういうような考えを持っているのです。おそらくこのしんしゃく規定、こういうようなものをはっきり挿入することになれば、相当裁判の行き方をこんとんさせるし、それによってのがれるものは大企業のほうにも及ぶだろうし、またそのしわ寄せば被害者に及ぶ。こういうようなものを中に入れるということは、これは長官としてまことに遺憾である、こういうふうに思うわけなんです。
  29. 大石武一

    大石国務大臣 ただいまの御意見は、考え方によってはそのようなこともあり得るということをいまあらためて私も認識したわけでございますが、私どもは初めから、共同不法行為の連帯責任をのがれさせようとか、あるいは大企業を擁護しようという意味からこの規定を入れたのじゃございません。環境庁というものは常に被害者の味方でございます。そういう立場で環境庁がつくられておることはよく御認識のことと思います。そういうことで、いろいろな考え方をすれば、いまのお話しのような考え方になるということも初めて、私も気がついたわけでございますが、私どもは、そのようなくだらない、けちな考えでつくったのではございません。ただ、あくまでも中小企業をある程度立場を認めてやらなければならないだろうという気持ちから、そういうような規定を入れたわけでございます。なるほどそのような考え方になるとすれば、やはりこれについては何らかの規制と申しますか、考慮を加えなければならぬと思います。それにつきましては、十分に考えまして、もちろんどこまでが中小企業かという判断裁判所がするでありましょうけれども、それに対しても何らかの正しい一つ判断ができるような基準みたいなものをわれわれこれから考えなければならない、そう思います。
  30. 島本虎三

    島本委員 そういうようなのやいろいろございます、いろいろございますが、きょうは、特にこの問題だけ深入りするのは次回に譲らせてもらいます。と申しますのは、理事会でも言ったとおり、あまり時間がないのでございまして、その前に二つほどはっきり長官にただしておきたいことがある。  やはりそういうように長官のはっきりした賢明な考え方によって今度この法案が出たわけですが、出れば出るほど野党三党によって出した法案のほうがむしろ長官の意に沿っているのじゃないかと私思わざるを得ないわけです。そして、今度の公害の差しとめですが、始関委員にも答弁がございました。差しとめということに対しては、従来実体法にあまり類例がないですね。したがって、立法上の措置がこれはもう被害者側から望まれていたということは長官も知っておるところだと思うのです。これはもう最近のこの環境汚染で人に被害を、損害を加えたり、そのおそれがあるとき、これは事業の一時停止、その他損害の防止のために必要な措置、こういうようなことをはっきりやれるのでなければ、長官被害の防止を先に考えたと言うけれども、それをやらなければほんとうの防止にならない。ほんとうの防止を考えるならば、これくらいの手続はちゃんととっておいてやってこそ、長官のお考え方に到達できるのじゃないか、こう思うわけです。差止請求にしてもいまだはっきりした明文がないのに、これは被害者からも相当強い要望があったはずです。これをあえて入れなくてもやっていけるという理由、画竜点睛を欠くおそれがないかと思って心配なんです。なぜこれを入れなかったのですか。野党案にはちゃんとついているのです。
  31. 大石武一

    大石国務大臣 いま、野党案と申してははなはだ恐縮ですが、島本虎三委員外数名の方の提出せられました法律案ですな、これはまことに私は参考にすることがたくさんございます。その中にはわれわれ近い将来、そういういいところをたくさん取り入れてわれわれがいま出しておりますいわゆる政府案の内容を総合的に充実することが必要であると私どもは考えております。ただ、先ほど申し上げましたように、そのような、島本虎三先生案のようなりっぱな案は、なかなか半年やそこらではとてもつくることはできません。おまえの前にも二、三年くらいの時間があったじゃないかというお話でございましたが、その前の考え方は私どもの考え方と違っておりましたから、やはり私の代から新しい考え方に変わったと思わなければならない、そういうような意味で、島本虎三先生案のようなりっぱな案はとうていこの国会提出の時間的な余裕がございません。ですから、いままで何回も申し上げてまいりましたように、この法律案土台として、できるだけ近い将来に財産、生業、そういうようなものを取り入れて総合的に発展さしたいと考えておるわけでございます。決してこれは島本先生案を粗末にしているわけではありませんで、心から尊敬を払っているわけでございます。  差止請求権でございますが、これは新しい考え方でありますので、どうしたらいいか戸惑いました。ことに環境庁の仕事は公害を防止することにございます。何とかして、いま、御承知のように、いろいろと十カ月来何回もいろいろな環境基準その他を改定いたしまして、次第にその基準をきびしくしてまいっております。こうしてできるだけ早く公害を防止する、公害の防止ということは、結局は基準をきびしくして監視体制を強化する以外に道はないと思います。そこに私たちの一番の根本の仕事があるわけでございますので、その方向に向かいつつございますし、これを早くそのように持ってまいる考えでありますので、この方向を進めていけば必ずしも請求権の発動をしなくても済むのではないかという基本的な考え方でございます。そういう考え方と、さらにいま現段階におきましても、仮処分の請求ですか、いろいろその他のことがございまして、ある程度のこれに近いような制度はございますので、そういうものを活用しながら、同時にいま申しましたような公害の防止の規制をきびしくするということによってそれをやっていけると考えまして、差止請求権はまだこれをつくらなかったのでございます。
  32. 島本虎三

    島本委員 公害防止ということ、被害国民に与えないということ、その時点に立てば差止請求権をはっきり行使できるような体制にしておいてこそ企業も命令に従い、その指示に従う、こういうようなことにも相なるのじゃないかと思うのですが、公害は、侵されているから公害、自然環境はそれを侵されないようにするのが一つの環境保全、こういうようなためにいまいろいろやっているのです。やはり侵されたものに対してはそれ以上また輪をかけたように侵すおそれのある場合は、差しとめしてこそこれが被害者保護になるのです。ですから、それを持つのが何かいやらしいように聞こえるのですが、持たなければほんとう公害の防止にならないということ、ここをもう一回お考え願いたい。  それから自然保護に対しては、現在も破壊されつつあるから、これを破壊されないように守るのが環境庁のたてまえなんです。林野庁との間にいろいろもんちゃくがあって、これさえも守れないような状態だと最近聞いているのです。よごされたところも守れない、差しとめもできない、これから保全しなければならないところも伐採その他やるのをそのままにまかせる。こんな環境庁ではだめじゃありませんか。自然保護環境保全法、それは一体どうなんですか。これとあわせてきちっとしないとだめなんです。侵されるものをこれ以上ひどくしない、侵されないものはこれを最後まで守る、両様のかまえでないとだめなんです。両方ともやられっぱなしじゃだめです。最後の目の一つも失ったのですか。
  33. 大石武一

    大石国務大臣 だいぶおしかりをいただきましたが、それは激励のことばと考えております。  自然環境保全につきましては、これは政府同士で民法土台として裁判を起こすわけにはまいりませんで、これは政府の段階におきまして、何といいますか、行政上の調整によって自然環境を守る以外にないと考えております。そういう意味では自然環境保全法というものを法案をいま出したい考えでございますが、これを何とかあらゆる努力をして提出いたすいま努力をいたしているところでございます。近く出せるのだろうといま考えております。そういうことでいま一生懸命努力いたしておりますので、ひとつ大いにバックアップしていただきたいということを考えておる次第でございますが、(島本委員「しかし、骨抜きになったのはだめですぞ」と呼ぶ)これはあまり骨抜きということはありませんで、多少骨抜きをいたしましても、ある程度土台さえできますれば発展できますから、これはひとつ骨抜きと言われないで、お手伝いをお願いしたいのでございます。  御承知のように、差止請求権でございますが、初めから私どもはこれは考えておりませんでした。いま申しましたように、われわれの一番の目標が公害を防止し、侵された環境をできるだけ復旧することにわれわれの仕事があるわけでございます。そういうことで、かりにいまこのわれわれのいろいろな規制に違反しまして、あえてさらに公害を現出するというような企業に対しては厳重な罰則がつくってございます。体刑も科することができるわけでございます。  そういうことで、ただ残念ながら御承知のように環境庁ができてからまだやっと十カ月、ことに全監視体制というものを各地方自治体に全部委任してございますが、これははたしていまの段階では必ずしも十分な効果をあげているとは思いません。それは十分な準備もございませんし、心がまえもまだ十分に整っておりませんし、またそれだけの人なり、あるいはものというのが備わっておらない。いろいろな点でまだ不十分でございますから、必ずしもその監視体制も十分に強化されているとは申されませんけれども、しかし、やはりそのような方向に進み出した以上は、そのような理想に向かって前進することが一番大事でございます。そういうような体制もできておりますが、とにかく一年より二年、二年より三年たってまいりますと、必ず効果があらわれてまいると思います。そのような点から公害の防止あるいは公害のより進むことを押えることができる、押えなければならぬ。ここに基本的な考えがあると考えておるわけでございます。
  34. 島本虎三

    島本委員 それと同時に、そこまで行ったならば、当然地方自治体に規制措置の請求、これをはっきりさしたほうがいいのじゃないか。というのは、おととしの暮れから基本法をはじめ十四法案の規制改正がなされました。あるいは新設の法律もあるのです。その法律を通して調和条項の削除、いろいろなものもございましたが、一歩前進だと思っています。この前進した中で、中央が持ち過ぎている権限、これを地方に委譲せよという、こういうような運動が大きくなって、当然政府もそれを認めて委譲をある程度しています。しかし、委譲を受けた地方自治体の中には、環境の汚染や損傷、破壊、こういうようなものに対して行政機関の規制権限、これが完全に行なわれているというようなことは思えない。全部住民から摘発されて、ようやくその問題に取りついているという例が多いのです。鹿島なんかその例が一番多い。最近PCBの問題なんかでも役所そのものは一生懸命やっているけれども、それ以外の摘発によって知ったという面も相当多い。ですから、そういうようにしてみると、やはりこの国民監視というか、いわば前例のないようなこういうような一つの行き方を盛り入れてやってこそ公害ほんとうの防除になるのじゃなかろうか、こう思うのです。したがって、私どものほうとしては、特に規制措置の請求というものを入れましたけれども、大気汚染や水質汚濁防止法、そういうようないろいろの法律が内容的にも整備されてきておるのがわかるのです。しかし整備されてきても、依然その整備に先立って公害のほうがよけい発生しているのです。整備されればされるほど、公害のほうが増発してよけい出ている、こういうような現状、これだけは見のがすわけにいかない。そうなればなるほど、この関係法案の不備、欠陥、最小限度の規制、こういうようなことすらどうも行なわれていないという点がわかってきているわけです。何としてもこの問題に対しては、規制権限を発動しない行政機関に対しては、住民が何らかそれに対して規制措置を行なわしめるようにしておかなければだめだと思います。それでなければ自治体のほうへ権限を委譲した意味がなくなってしまう、こういうようなことです。なぜこの点を考えて入れなかったのか、これに対して長官、どう思うのですか。また、自治体が委譲された権限の行使を怠っていた場合には、じゃどういうふうにしようと考えているのか、これを明確にしておいてほしいと思います。
  35. 大石武一

    大石国務大臣 いま島本委員の仰せられたことには私はいろいろ妥当な面が非常にたくさんあると思う。私は十分に参考にしなければならぬ面があると考えております。ただ、先ほど申し上げましたように、いわゆる監視体制ですか、こういうものは全面的に地方自治体に移管されましたけれども、要するに公害に対するものの考え方とか体制というのがまだ十分にできておらないということは御承知のとおりであります。したがいまして、これを全部各地方自治体が一〇〇%正しくやっているのだとは言えないかもしれません。中には企業体と癒着している一部のものもあるかもしれません、それは広い社会ですから。しかし大多数においてはまともにやっていると思います。ただ御承知のように、まだ新しい公害に対する心がまえというものが必ずしも全面的にできているとは限りません。また、監視体制に対するいろいろな——人が一番大切でありますが、人の養成がまだ十分行なわれておりません。これは全くそのとおりでございます。同時に、これに対するいろいろな設備、そういうものがまだまだ不十分である。ことに水に対しましては予算的に不足であるばかりでなくて、監視をするだけの十分な新しい機器がまだ考究されておらない状態であります。こういうことでいろいろ不備がありますので、全面的な権限を委譲しましたにかかわらず、必ずしも大きな効果、十分な効果をあげ得ないことはおっしゃるとおりであります。いずれ次第に時間がたてばりっぱに整ってまいると思います。また、われわれもそのような体制が整えられるようにあらゆる努力をいたす決意でございます。  なお、近い将来にこのような監視体制がはたして十分に行なわれるかどうかということに対しましては、私は何らかの中央における一つのその監視体制を監視する機関が必要だろうと思います。ですから、たとえば会計検査院という存在があるように、何らかの公害監視体制に対する一つの監視機関というものを将来つくらなければならぬのではなかろうかということを私はいま心の中で考えておるわけでございます。その必要が認められましたならば、そのような方向に参ると考えております。
  36. 島本虎三

    島本委員 どうもそういうようなことからして、私のほうとしては、まだまだ本法案の将来に期待しなければならない点が多過ぎます。どうせほんとうにやるならば、もっともっと野党案を取り入れた、ほんとう被害者救済に徹したような法律にしてもらいたいことを望んでやまないものです。まだまだ不足な点はあるのですけれども、申しわけないけれども、あと岡本委員のほうにやってもらうことにして、次のほうに行かしてもらいますが、先ほど申し上げたように、不遡及原則を新たに入れたり、しんしゃく規定を入れたり、過失相殺的な見解を入れたり、物質被害を入れなかったり、健康被害のみに限ったり、また推定規定、こういうような点なんか、以前の判例ストップさせるようなおそれさえあるのじゃないか、こう思われる点、いろいろ私ども自身ここでいま聞いてみましたが、それでさえも推定規定が入っているならばこれでもやっていけるんじゃないか、しかしながら、推定規定をとってしまって、あと後退を示す規定だけが残っていって、むしろこれだけでは加害者に対する保護法案になるようなおそれがないかどうか。むしろこの法律被害者を保護するための無過失損害賠償責任法だと言っているけれども、逆にいま言ったような事項からして加害者保護法案になるのじゃないか、こういうようなことを私は心からおそれるのです。したがって、しんしゃく規定の問題、その他この推定規定、そのほかまたいろいろ私が指摘してまいりましたけれども、差止請求権の問題や規制措置請求の問題、こういうようなものを入れればほんとう法律が生きるように思います。それもない以上、被害者保護法でなく加害者保護法案にならないように、これはあくまでも監視しなければならないし、いまのままでは私はそうなるおそれが十分ある、このことを心から憂えます。時間が三十分までなので、これで終わったのじゃございません、これだけ言って一時休憩というところです。これできょうは終わらしてもらいます。  最後に長官加害者保護法案にならないという確信を示してください。
  37. 大石武一

    大石国務大臣 そのような加害者保護法案にならないように努力せいという激励を賜わりましてうれしく思います。断じてそのようなことのないようにあらゆる努力をいたす決意でございますので、その点御了承をいただくとともに、御援助を賜わりたいと考える次第でございます。
  38. 始関伊平

    始関委員長代理 岡本富夫君。
  39. 岡本富夫

    ○岡本委員 ただいま議題になっております無過失賠償責任法について若干質問いたしますが、最初に、本法案大気汚染あるいは水質汚濁、こういう無過失賠償責任が認められているところの範囲を、まず大気汚染と水質汚濁に分けてはっきりしてもらいたい。
  40. 船後正道

    ○船後政府委員 今回の法案は、大気と水の二つの法案の一部改正の形式をとっておるわけでございますが、これは今回の無過失損害賠償責任の対象といたしまして、人の生命、身体というような被害に限ったわけでございます。このようにいたしますと、現在公害の加害行為のほうからいたしまして、大気及び水を通ずる有害物質の排出ということに限られてくるわけでございますから、この二法の改正という形をとったわけでございます。
  41. 岡本富夫

    ○岡本委員 この質疑を通じまして、大気汚染それから水質汚濁、その無過失責任を認めるという物質、これをひとつはっきりしておいてもらいたい、こういうことなんです。
  42. 船後正道

    ○船後政府委員 原則といたしまして、対象となる有害物質は、大気汚染及び水質汚濁の二法におきまして、人の生命、身体に害を及ぼす、いわゆる健康項目にかかわる有害物質でございます。大気汚染の場合でございますと、法律自体が物質を、健康にかかわる物質と生活環境にかかわる物質というふうに区別いたしておりません。したがいまして、今回設けました大気汚染法のほうの第二十五条におきましては「ばい煙、特定物質又は粉じんで、生活環境のみに係る被害を生ずるおそれがある物質」というものは政令で除外する、こういうことを考えております。さようでございますので、原則といたしましてはこのばい煙、特定物質、粉じんのすべてであり、その中で生活環境のみにかかわる被害の生ぜられるものが除かれるということになります。こういう物質としてどういうものを想定できますか、これは今後のいろいろな科学的な試験というものにもまつわけでございまして、たとえば粉じんの中で小麦粉等の粉じんといったようなものがこれに当たるというふうに考えております。  次に水質汚濁のほうでございますが、このほうは法律上健康項目にかかわる有害物質を明らかにするというのでありますから、そのものが該当するわけでございます。  なお、これらの有害物質は、今後新たに取り締まり体系におきまして有害物質としての指定がございますれば、そのつど追加されるというふうな仕組みになっております。
  43. 岡本富夫

    ○岡本委員 そうしますと、これはぼくのほうの調べたところによると、いま現在問題になっておるところのPCB、この汚染問題についてはやはりこの法の適用になるのかならないのか。それから、今後新しい有害物質が出てくる、こういうものもちゃんとこの中に入るのかどうか。これもひとつ念を押しておきたい。
  44. 船後正道

    ○船後政府委員 PCBは現在新しい汚染物質、しかも水及び大気を通ずる汚染物質として問題になっておるわけでございますが、このほうは現在有害物質として取り締まりの対象にはなっておりません。したがいまして、私どもはまず何よりも、大気及び水質汚濁の原因物質といたしましてこのPCBをどのように考え、取り締まるかということが先決問題でございまして、そのほうの結論がつきまして、PCBが大気汚染及び水質汚濁の規制の対象物質となりますれば、当然PCBも無過失損害賠償の対象になるということになると思います。  なお、今後新たな健康被害物質というものが考えられるわけでございます。今回の法律改正におきましてもそのことを当然予想いたしまして、たとえば大気汚染防止法の第二十五条の二項におきましては、そのことを規定いたしております。取り締まり対象として追加された場合には、当然その物質無過失責任の対象になるという規定を設けておるわけであります。
  45. 岡本富夫

    ○岡本委員 長官、当委員会でもあるいはまた四十三年のカネミ油症事件ですか、あのときも非常に問題になったPCBがまだ入ってないのですね。こういうようなことになりますれば、これはほんとうにしり抜けではないかと私は思うのですよ。なぜそういうのをまだ入れないのか。これは四十三年からずっとやかましくいわれておるし、また相当被害も出ておるわけですね。母乳の中にも出ておりますし。そういうことになると、なぜこれをこの中に入れないのか。そういった面を考えますと、提案理由のうしろのほうに「公害に係る被害者の保護の重要性にかんがみ、人の健康に有害な一定の物質大気中に、又は水域等に排出されたことにより人の健康に係る被害が生じた場合」とこう言いながら、なぜそれを抜いているのか、どうも私は合点がいかない。それをひとつお尋ねいたします。   〔始関委員長代理退席、委員長着席〕
  46. 大石武一

    大石国務大臣 岡本委員のお考え、私も理解ができます。私もこういうものはやはり、このように世間を騒がしたものは、有害であると認められたものはできるだけ入れたいと思います。ただ、御承知のように入れるには入れるだけの科学的な根拠がなければなりません。それがPCBは残念ながらまだ実態——PCBそのものは、組成なりそういうものはわかっておりますけれども、それを実際に汚染物質として扱う場合の実態というものはまだ残念ながらわかっておりません。どこにどのように存在するのか、どのような量があるのか、実際にはまだわからないのです。ここに私は現在の科学の大きな欠点があると思います。ですから、そういうものをはっきりと実態をつかまない限りは、これは当然裁判に出てもむだだし、だめになると私は思うのです、実態がわからないのですから。そういうことで、これは当然一日も早くこの実態というものをつかみまして、そうして、どのような形でどこにどのように存在するのか、それが人体にどのように入ってどのように影響するのかということを早く確かめる、そうした上でこれをはっきりとこの中に入れるということでないと、なかなかうまくいかないと思うのです。そういう意味で、御趣旨はよくわかります、私もそのような気持ちでおりますけれども、ただ、いまの科学というもののおくれを早く取り戻して、そのような実態をつかむことを先に力を入れる以外にないと、こう考えておるわけでございます。
  47. 岡本富夫

    ○岡本委員 そういうようにいまあなたから話がありましたように、科学論争をすればこれは切りがないわけですよ。あなたがおっしゃったように、科学のおくれというものを非常に認められていらっしゃるわけでありますが、そうしますと、イタイイタイ病にしましてもあるいはまたいろいろな公害裁判が行なわれておりますけれども、結局科学的なところの判断といいますか、科学的な根拠、こういうものの有無によって、被害を出したところの加害者と申しますかその企業が野放しになっているわけですね。そうするとどうしてもここに必要なのは、やはり推定規定というものがなければ何といっても被害者救済できないのではないか。そういうようなあなたのお考えで最初の環境庁の原案には推定規定が入っていたのではないか。ところがそれが抜けたわけですね。どういう圧力があってか知りませんが、抜けた。その推定規定がなくとも同じ効果があげられるというところの根拠、これがどうも私には合点がいかない。これは長官、その点のお答えといいますか、それは非常にむずかしいと私は思いますけれども、それはこの前お話しのように、まことに残念だというお話しはよくわかるのですが、しかし、この推定規定がなくともそういう人たちを救えるのだという根拠は、これでは成り立たないと私は思うのですね。ですから、そういう点については非常に後退をしておると指摘せざるを得ないのですが、事務当局としてこの点についてどういうように考えておるのか。いま長官ははっきり残念だとおっしゃったが、あなたのほうではどういうふうに考えておるのか。
  48. 船後正道

    ○船後政府委員 推定規定を削除いたしました理由及びこの推定規定がなくとも実際裁判には支障がないのだということを御説明いたします前に、私どもが当初の原案でどのような推定規定を設けようとしておったかという点につきまして申し上げますと、一般的に、不法行為の成立というものを証明いたしますためには、当該被害が当該事業者の排出によって生じたんだということを証明いたすわけでございます。ところが公害事案におきましては、これを直接に証明する、しかも厳密な科学的な立証をするということは非常に困難でございまして、場合によっては不可能に近い問題でもございます。そこで当初の原案におきましては、当該事業者の有害物質の排出によりまして被害が生じ得る地域内に同種の物質により被害が生じていることを証明いたしますれば、当該被害は当該排出によって生じたものだということを推定しようといたしたわけでございます。この場合には、因果関係のすべてにつきまして証明しようとしたものではございません。いわゆる物質と病気との関係、病因だとか、それからその物質事業者から排出されたという排出のメカニズム、これは従来どおり被害者において立証するわけでございまして、ただ汚染の経路と申しますか、到達の経路と申しますか、そこの部分につきまして、被害が生じ得る地域内に同種の物質により被害が生じているときはという証明方法をもってかえようとしたものでございます。一般的に裁判では裁判官自由心証の問題といたしまして、いろいろ推定を事実上いたしておるわけでございますが、これを法律推定規定に高めようといたします場合には、どのようなケースをつかまえて推定規定を設けるべきかが問題になるわけでございます。今回の問題におきましても、たとえば一般的に因果関係推定規定を設ける、いわゆる蓋然性の理論というふうなものを一般原則として書くというような考え方があるわけでございますが、これは技術的にほとんど不可能に近い、困難だと思います。そういたしますれば、あとは代表的なケースをつかまえまして、こういう代表的なケースについてはこういう推定方法でいいんだということになるわけでございます。私どもはそういう点からいわゆる汚染経路につきまして代表的なケースを設定したわけであります。ところがその後種々関係方面と折衝いたした結果でございますが、一つには最近の判例が、阿賀野川裁判だとか神通川の裁判で明らかでございますように、実際上因果関係立証はかなりゆるやかになっております。しかしゆるやかにはなっておりますけれども、現段階におきましてはまだまだ判例の集積がございません。そこで現段階であのような形でもって因果関係推定を定着させてしまうということは、これはあまり大胆に過ぎるのではないか。むしろ判例動向の進歩というものを見きわめた上で書いたほうが妥当ではないか。たとえて申しますと、今回のこの汚染経路の推定規定規定のしかたといたしましても、私どもは被害が生ずる地域内というような原案を考えましたし、これに対しましては、たとえば日弁連の意見にございますように、有害物質が到達し得る地域内というような規定のしかたもあるわけでございます。どのような規定が妥当であるか、これはやはり現段階においては判断に苦しむ問題でございまして、判例動向というものを決定づけるおそれもございますので、今回のところはこれを見送り、判例の動向を見守りながら、判例の集積によりまして方向がほぼ定着したという時期に成文化するのが妥当である、このような判断に達したわけでございます。したがいまして、この規定がなくとも、当然裁判官は、あるいは阿賀野川、神通川の判例で示されておりますような方向でもって因果関係の事実上の推定をおやりになると思いますし、その点につきましては今回の法案は何ら触れていないわけでございます。
  49. 岡本富夫

    ○岡本委員 私は、今回のこの法案の中から推定規定が抜かれたということが、結局はいま行なわれておるところの裁判あるいは今後の公害裁判に、被害者のほうから見た場合、かえって悪影響を及ぼすのではないか、その点を非常に心配しておるわけですが、これはひとつもう一度具体例をあげまして次の機会に出します。  次に、この法律の二十五条、「無過失責任」のところで、「人の生命又は身体を害したときは、」この「害したとき」これは生命を害したときと身体を害したときとの二通りがあろうと思うのですが、そういう状態、例をあげますればイタイイタイ病の場合あるいはまた四日市ぜんそくの場合、この状態を例をあげて一ぺんあなたのほうからまず説明をしてもらいたい、こう思うのです。生命を害したときというのは死に至ったときか、あるいはまたカドミ中毒においてはどういうことかということを、一ぺんはっきりとこの二つの例をあげて説明を事務当局から伺いたい。
  50. 船後正道

    ○船後政府委員 今回の法案で対象といたしました被害は、いわゆる死亡に至るおそれのあるような健康被害ということを常識的に考えたわけでございますが、これを法律上どのように表現するかということにつきましては、先例といたしまして自賠責法があるわけでございまして、「生命又は身体」というような表現を用いております。一般的にはこれは分離解釈すべきではないと思いますけれども、生命は死亡に至る問題であり、身体は障害の問題である、かように解されておるわけでございます。
  51. 岡本富夫

    ○岡本委員 もう少し例をあげて——じゃ私のほうから言いますけれども、イタイイタイ病一つ取り上げますよ。そうしますと、カドミの慢性中毒症において現在認定基準が四期、五期と——これは萩野先生のあの長い間の経験の上から出したところのカドミ中毒の症状を言っているわけですけれども、鑑別診断班の中の一員でありますから、これを無視するわけにはいかないと思うのですが、一期、二期、三期の症状において身体を害したとき、それから四期、五期の症状によって身体を害したとき、こういう点をやはりはっきりしておきませんと、私はただ「人の生命又は身体を害したときは、」といっても納得がいかないのですが、この点について事務当局はどういうように考えておりますか。
  52. 大石武一

    大石国務大臣 おっしゃるとおりそれが大事だと思います。いまたとえばイタイイタイ病のお話でございますが、これも去年の秋でありましたか、私どもは次官通達を出しまして、公害病患者については疑わしき者も救済するようにとの通達を発しまして、その解釈を、何と申しますか、俗に拡大したと申しますか、とにかく一人も漏れなく公害病に悩む者を救済しようということをはっきり方針をきめたわけでございます。この方針によりまして、イタイイタイ病につきましてもいまいろいろと検討中でございます。いわゆるカドミウム中毒ですね、慢性中毒によりまして身体にいろいろな障害が起きました場合には、それがいわゆる骨折を伴う末期症状、それのみがいま大体イタイイタイ病公害病患者に取り上げられておるようでありますけれども、われわれはさらにその疑わしき者も救済するという方針によりまして、いまその判定の基準と申しますか、これを考慮中でございます。したがいまして、こういうものが近い将来ははっきりいたしますが、そうすればいままでの御心配の点はなくなる、こう考えたわけでございますので、その点を御了承願いたいと思います。
  53. 船後正道

    ○船後政府委員 ただいま長官が申し上げましたのは、現在の被害者救済の特別措置法の対象としての公害病の認定の要件でございまして、行政上の基準でございます。これに対しまして、私法上の問題といたしましては、イタイイタイ病の発生原因あるいは発生段階につきまして種々の学説はございますけれども、現に原因物質によりまして被害が生じておるというような場合には、それは行政上の公害病であろうとなかろうと、いずれにいたしましても無過失損害賠償の保護の対象となる被害である、かように考えております。
  54. 岡本富夫

    ○岡本委員 そうしますと、いま話が二つに分かれましたが、一つは、長官のお答えは、カドミ中毒によって一期、二期、三期、四期、五期と、こういうように分かれておる中から、いまは四期、五期を公害病の認定にする、それの範囲を拡大することをいま検討しておる、こういうようなお話でございました。まずこの問題からちょっとお聞きしておきたいのですが、私の聞いておるところによると、鑑別診断班のほうから、カドミ中毒の三期症状以上はイ病に認定をしたほうがよいというような答申がすでに環境庁のほうに出ておるように聞いておるのですが、この答申についてのお考えですね。私、いままでいろいろな政府の答弁を聞いておりますと、これは答申にこうありますから、したがってこういうようにやっておりますと、都合のいいところだけ答申。それで、では答申を全部尊重するかというと、尊重しないものもある。これでは私は、せっかく先生方が一生懸命につくった答申に対して、尊重しない場合があるというのは、非常にふに落ちないわけですけれども、それはそれとして、鑑別診断班の答申を尊重なされて、そして環境庁長官としては、いま疑わしき者も救済していこうという考えであれば、三期以上の症状もイ病に認定したい、こういうお考えなのか、これをひとつ確めておきたいと思います。
  55. 大石武一

    大石国務大臣 いま新しい基準のあり方を鑑別診断班を中心としてつくってもらっております。その答申が来たか来ないか、まだ聞いておりませんが、いずれは答申が参りましょうし、そういうものを中心として新しい判断のしかたをつけ加えてまいるわけでございますので、われわれはそういうものは十分に尊重して、もちろんそのようないわゆる科学的な正しい判断に基づくものをわれわれは拒否する理由はございません。十分に尊重いたします。  ただ、われわれはいろいろな審議会とかそういうものについての答申というものを一〇〇%うのみにする考えはございません。去年の暮れ、運輸省に対して勧告第一号を出しましたが、その場合には審議会の答申をわれわれは無視いたしました。無視しまして、われわれの信念どおりの、それは伊丹と羽田空港の騒音防止についての勧告をいたしたわけでございます。この場合には答申を必ずしも全面的には尊重いたしません。一部だけは無視いたしました。私はこれは当然だと思います。行政上、自分の信念に基づくもので、諮問機関のものを全部うのみにするというわけにはまいりませんので、そういう方針でまいりますが、われわれが依頼した科学的な判断というものに対しては、当然その権威をわれわれは尊敬する考えでございます。
  56. 岡本富夫

    ○岡本委員 さすがは環境庁長官であり、また健康被害者あるいは被害者を守ろうという考えからの答申無視、これはまことに勇断であると私は思うのですが、このイタイイタイ病の認定の問題につきましては、やはりこれはそういう観点からすれば、ほんとうであれば一期あたりから認定してあげるくらいの勢いがあってもいいぐらい。しかしそうもまいりませんでしょうが、これは三期まで認定基準にしていこうという、これは答申もそういうように出ておるということを私は内々聞いておるのですが、まだ長官の手に入ってないかどうか知りませんが、そういう答申が出たら必ずこれは三期まで入れる、こういうお考えがあるのかどうか、これだけひとつもう一ぺん聞いておきたい。
  57. 大石武一

    大石国務大臣 私どもの考えは、去年の秋に出ました次官通達の内容、疑わしき者も救済するようにとの考えに徹しておるわけでございますから、そのような方針で答申を見、あるいは判断のしかたをしてまいりたいと考えております。
  58. 岡本富夫

    ○岡本委員 ちょっともう一つつけ加えておきたいのですが、企画調整局に鑑別診断班のほうからこの問題について答申が来ているかどうか。これはまだ来てないのですか、どうですか、手に受け取っておりませんか。
  59. 船後正道

    ○船後政府委員 近く結論が出るという報告を受けましたが、現在のところ私は承知いたしておりません。しかし、近くまとまるはずでございますので、結論が出ますれば、先ほど長官が申し上げましたとおり、私どもの気持ちといたしましては、疑わしきは救済するという気持ちでございますから、このような気持ちに科学的な知見というものが基礎づけられまして、当然その線に従って措置するというふうに考えております。
  60. 岡本富夫

    ○岡本委員 その次には本論に戻りまして、「人の生命又は身体を害したとき」、この状態につきまして、イ病に認定されるされないにかかわらず、この工場の廃液あるいはまた排煙であるということが科学的に証明されなくとも、「これによつて生じた損害賠償する責めに任ずる。」こうなるわけですか。
  61. 船後正道

    ○船後政府委員 先ほども申し上げましたとおり、今回の無過失損害賠償は、行政上の措置としての公害病とは本質的には関係はございません。したがいまして、原因と損害ということが明らかであり、現に健康被害が有害物質の排出によって生じておるという場合には、当然無過失損害賠償が適用になるわけでございます。ただ、その原因と損害との因果関係立証はきわめて困難でございます。これは私、先ほどるる申し上げたとおりでございますが、この因果関係立証につきましても、最近の判例動向は必ずしも厳密な科学的立証というものを被害者にしいるものではなく、かなりゆるやかないわゆる蓋然性の理論に基づきまして立証いたしているということは、すでに神通川の裁判あるいは阿賀野川裁判等においても行なわれておるとおりでございます。
  62. 岡本富夫

    ○岡本委員 そこで、この提案理由の説明からいきますと、やはり公害にかかる被害者の保護の重要性ということを考えますと、これは典型公害全部に無過失責任のこういった賠償責任を義務づけなければ、水質汚濁、大気汚染だけで、ほかのもののところの被害の保護にはならないのではないか。なぜこの七つの典型公害にこれを適用しなかったのか、この点をもう一ぺんお聞きしておきたい。
  63. 大石武一

    大石国務大臣 それは先ほど申し上げておりますように、いろいろなほかのものにつきましてもやはりこの法律の内容を広げてまいることが必要であると考えております。そうすることによって総合的なものになると考えておるわけでございます。ただ、御承知のようにいろいろな理由、たとえば、先ほど申しましたようにこの国会に提案するためにはそのような広大な、総合的な法律案をつくるだけの時間的な余裕がなかったということ、あるいはいろいろな財産とか生業の被害を取り入れるにいたしましても——赤潮発生によって漁民が被害を受けたことは確かにわかりますけれども、赤潮の発生の原因が必ずしも企業側の汚水だけによるという完全な立証がまだされておりません。おそらくことしか来年中にはそこの発生の機序というものが明確にされると考えておりますが、まだ私どものほうでそこまでいっておりません。赤潮なんていうものはまっ先にいま言った無過失の中に取り入れなければならないものだと私は思いますが、そういういろいろなむずかしい面がございます。そういうことでこういうものを一日も早く一たとえば土壌の問題とかあるいはその他いろいろな問題がございますが、そういうものについてももう少し科学的な根拠と申しますか、基盤を固めた上でないと取り入れることはむずかしいと考えておりますので、そのような大きな二つの理由からとりあえず今度は健康被害だけに限ったということにしたわけでございますが、もちろん近い将来には、おっしゃるとおりできるだけこの内容を広げてまいる考えでございます。
  64. 岡本富夫

    ○岡本委員 長官ほんとう環境庁として、また人の健康を守っていこうという立場から見れば、これは一歩前進どころか後退だと私たちは感ずるわけですね。もしもほんとうにそういった科学的な根拠を出させようとすれば——これは役所には悪いですけれども、企業のほうが非常に進んでいるわけですね。ですからそういった無過失賠償責任をぴしっとしたときに、今度は科学的な挙証責任の転換と申しますか、そうではないんだというような非常に科学的な論拠をどんどん出してくるのが企業なんですね。そういったほうの科学的分析あるいはまた科学的ないろんなところの原因というものがはっきりすると私は思うのですね。いまの場合でしたら、これはどっちかといいますと、大企業なんかは利益になるほうの技術はどんどん進みますよ。しかし反面、今度は不利益になるほうには進まない。それが今度のPCB問題の大きな原因になっていると私は思う。しかも、この間私は商工委員会でこの問題を論議したのですが、PCBというのはJIS規格になっておるのです。その論議をしたJISの専門委員を見ますとほとんど企業ばかりでして、そこには健康被害に対するところの委員は一人も入っていない。たとえば長官のようなお医者さんは一人も入っていない。ところが四十二年にJISの規格をきめるときに——日本工業規格というのは相当権威があるものですね。御承知のようにあっちこっちの工場を見ますと、JIS規格表示工場というのは相当権威がある。これは工業技術院の話でありますけれども、そういった根本問題が、結局何といいますか企業育成あるいはまたそういう面の技術ばかり進みまして、健康被害のほうの技術はちっとも進んでいない。こういう面から考えますと、私はいま長官がおっしゃったように典型公害を全部かぶせて、そしてそれはそうではないんだという挙証責任の転換を企業にはかったほうが、健康被害あるいはまた被害者救済というものは非常に進むのではないか。また、私はわが国としましてこれは非常に大事なことだと思うのです。その点については、まあ時間がなかったという大臣の先ほどからのお話でありますが、時間がなければひとつ時間をじっくりかけて、そしてわれわれ野党で提出しているような——これもまだまだもっと進めなければならぬと私ども思っておるのですが、ですからそういったものを含めた検討が必要じゃないか、こういうように思いますが、いかがですか。
  65. 大石武一

    大石国務大臣 おっしゃるとおり、時間をかけるものは時間をかけて明確化してから法律の内容にしなければならぬと思います。ただいまお話しの内容、私どもちょっと理解しかねるところがございますけれども、たとえば悪臭と人間の健康被害との間にはどれだけの関係がございますか、これは科学的な立証はいまのところ残念ながらできません。悪臭によっていろいろ不快を与える、生理的に影響を与えるということは確かにございますけれども、それが、このような影響によってなったんだという科学的な根拠はないのです。こういうことは因果関係推定以前の問題でございます。そのようなはっきりした科学的な理論とかすべての土台がなしに、われわれが人間を規制する法律の中にこれを簡単に入れることはできないと思います。たとえば悪臭にしても振動にしてもこれは公害の中に入っておりますが、振動があることによって人間にどのような健康被害があるのか、どれほどの影響があるのかということはまだ内部の実体がわからないのです。たとえばPCBにしましても、いまPCBが有毒であるということは確かにわかりますけれども、じゃそのPCBはどこにどのようにあるか、どのように人体に入っているかというのは、測定方法さえいまはっきりしないのです。薬品中とか食品の中におけるPCB、それもPCBの定量ではなくて、ある一つの光の測定のしかたによってある判定をするだけで、これが何ぼあるかということは出し得ないのです。またそういう分析ができておらない。このようなすべてに不備な点があるところに、全部について人間の権利、義務をはっきりと規制する、また法律の対象に入れることは、私は不可能だと思うのです。  ですからそういうものを確かめて、はっきりと権利、義務を規制するに足るだけの科学的な土台ができた上に取り入れることが大事だと思いまして、何もかにも初めから七つの公害問題を全部取り入れるということは、これは御意見ではございますけれども、私はそれを国会に出す勇気はとうていございません。しかし、いずれ近い将来にはおっしゃるとおりできるだけ幅広く、できるだけ国民の権利、義務を守ってあげたい、あるいはいろんなものを守ってあげたいと考えますので、そういうことにあらゆる努力をいたしますけれども、初めから全部ということは、いま申しましたように時間的制約というものもあり、おそらく五年たってもこの法律案は出せない。何もかにも振動から悪臭から全部規制するとなると、十年たってもこの法律案は提案できないと思います。そういう意味でとりあえずできるものからしでいこうという考えで、少しでも役立ちたいという考えでこの法律案を提案したのが私どもの真意でございます。
  66. 岡本富夫

    ○岡本委員 悪臭あるいは振動につきましても相当被害者はいるんです。私どもはその人たちに直接会っておりますけれども、そういったものをほんとうに今度科学的に、あるいはまたそのメカニズムといいますかそういうものを全部試験するということが必要であろう。必要なんだがそれができないんだ、これは長官、申しわけないのですが、当委員会で騒音防止法をやりました四十二年当時から、公害対策基本法の時代から私やっておるのですが、そのたびに私どもは当委員会で論議しました。しかしだれ一人として政府でそういった人体被害調査——私、騒音防止法につきましては、全然ないと言うから、かつて佐藤総理に、たとえば航空騒音についての人体調査をやれと言いまして、これはやってもらいたいということが最後のきめ手でして、やりますということになっていまやってもらっておるわけですけれども、それについて、どういう調査費を出してどういうふうにして、どういうふうに出てきたのかということになりますと、これは少しも進んでないですよ。そしてわからない、わからない。これは被害を受けている国民からしたらどういう感じがしましょうかね。わからないからしかたがないんだということで、国民のほうに対して、一般のしろうとに対してそれを出してこいというのは、これは酷ですよ。だから私はそういった研究調査、こういうものを環境庁のほうでほんとうに真剣に取り組んでいただいて、悪臭についてはこうだ、ここまで進みました、しかしまだこの先がわからない。あるいはまた振動については、ここまでだけれどもこの先がまだわからないのだという確固たるところの説明がなくして、そうして全然それはわかりません、これでは国民のほうは納得がしにくい、こういうふうに私は思うのですね。
  67. 大石武一

    大石国務大臣 岡本委員のお話は理解できますけれども、それは要するに行政としての悪臭なり振動、騒音に対する行政であって、これを無過失賠償責任制度の中に入れるかどうかという問題、お話の内容はいまちょっと違うと思うのです。これは民法の訴訟で起こることですからね。ですから、これによって起こるんだ、こういう原因で振動によって、悪臭によって、騒音によってこのとおりこのような被害にあったんだというその因果関係、というより、もとの病気と患者との関係がはっきりわからない限りは、一つ裁判なり法律に入れられないと思うのです。おっしゃるとおり、いま国民公害に対する関心といいますか不満が一番大きいのは騒音であります。その次に悪臭なんです。ですから、これに対してはわれわれはあらゆる努力をしてこの悪臭なり騒音というものをできるだけなくするように努力しなければなりません。それは、おっしゃるとおりわれわれの責任でやらなければならない。いつもわからないわからないでは済みません。何としても努力しなければならぬと思います。しかし、騒音を入れてわれわれが裁判で言う場合に、やはり根拠がなければだめなんです。問違いなくこのような悪臭によって、このような症状があったんだ、あるいは騒音によってこのような障害、故障が出たんだというはっきりした科学的な医学的な根拠、基礎がない限りは、私はこれはとても法律に、いわゆる無過失賠償責任制度の中に入れられないと思うのです。そういうことで私は、全部の公害をここに含めれば、いますぐはできませんということをそういう意味から申し上げたんで、悪臭とか騒音に対する行政的な努力というものはあくまでもおっしゃるとおり一生懸命やらなければなりませんことは覚悟いたしております。
  68. 岡本富夫

    ○岡本委員 長官、私が言っているのは、行政の立場は行政の立場でありましょう。しかし健康被害調査、どういう状態によってこうなったか、これは実は富山県のイタイイタイ病にしましても、当時の厚生省が非常にがんばった。そうしてああした神岡鉱山以外の排出は見当たらない、カドミウム中毒によるんだというこういうものが出たために裁判の対象になったわけです。あれが出なかったらとっかかりも何もないわけですよ。かつて環境庁におきまして、悪臭による人体被害についてどういう調査があるのか、どういう関係があるのか、あるいはまた振動によってどうなのか、確かにノイローゼになった人たくさんございますよ、病気になったのはそれが原因で。この因果関係というものがはっきりしておるのは交通騒音なんです。いままでは全然そこに道路がなかった、そこに大きな道路がついたためにノイローゼになってしまった。いまその病気になっているのを医学的に因果関係を解明をするというのは非常にむずかしかろうと思うのです。ではこれはどこでやるのかということになるんですよ。結局、行政もありますけれども、そういった研究をやってあげることが環境庁としての大きな一つ責任ではなかろうか。こういう研究所がなくて、こういう人体との因果関係の解明がなくて、行政だけではうまくいかないと思うのです。そこのところを私は先ほど話したのであって、いま長官の言うようにこのままいきましたら、その解明は七年も八年も、十年たってもおそらく出てこない。出てこないというのはどこに原因があるのか。こうした悪臭や騒音の人体被害の調査研究をしなかったところにある。だれがするかといったら、企業はやりませんよ。原因を出している者は絶対しません。だから私が言うのには、そういうものを含めれば——そうすると今度は基本法はそうではないんだという挙証責任の転換と申しますか、こうだこうだということになって非常に進むのではないかという御意見を申し上げたわけです。これはどっちかというと政府がやらぬからこういうことになるのですよ。だから国民の立場、被害者の立場に立った場合はそうしなければならぬのじゃないか。一つの例をあげますから聞いておってもらいたいと思うのです。国鉄来ておりますね。——これは長官判断してもらいたい。  山陽新幹線ができまして、私この間ずっと調査に行って見てきたのですけれども、尼崎地区におきましてはものすごい騒音と振動なんですね。それに対して国鉄は市長との間に覚書を交わしておる。「乙は、」乙とは国鉄です。「乙は、地元住民等から新幹線列車の運行により騒音、振動等の実害が発生した旨の申入れを受けたときは、遅滞なく実情を調査のうえ、一箇月以内に当該申入者に対し、公害対策、補償等について回答しなければならない。」こういうふうになっておる。それは国鉄の新幹線は決して過失をおかしておるのではないでしょうね、運行しておるわけですから。ところが被害を受けている方は非常に困っているわけです。これに対してどういう調査をし、またどういう対策をしたのかひとつ聞かしてもらいたい。
  69. 山田明吉

    ○山田説明員 いまお話しのございました尼崎地区は、山陽新幹線の三月十五日に開業いたしました大阪−岡山間の部分に該当するわけでございまして、初めて新幹線が通りましたので、いままで経験のない高速の列車に対して地元で不安があったことは事実のようでございます。それで開業してから大体二月経過いたしました。その間に沿線で二十件ばかりの苦情が私どものところに参っております。騒音の問題もございますし、振動の問題もございます。それにつきましては、現在私ども誠意をもって実態を調査いたしておりまして、またその過程におきまして地元に種々御説明もし、あるいはまた今後の措置につきまして御協議もいたしております。またあるものは具体的な対策を講ずるように、たとえば防音壁を高くするとかというような、これは一例でございますが、設計中のものもございます。  以上のような状況でございます。
  70. 岡本富夫

    ○岡本委員 これは国鉄は別に過失をおかしておるのではないと思います。無過失には違いないけれども、いまあなたはそうおっしゃっているが、私は一ぺん実地調査をしてもらいたいと思う。私ども一軒一軒の全部調査をとっておるのです。大体三百軒ぐらいの調査をとっております。家は傾いておる。亀裂しておる。  もう一つこういうことがあるのです。これも全く無過失責任ですよ。昨年の十月十五日、あなたのほうの下食満の南台工事事務所、ここへ付近の住民の皆さん来てくださいということで、新幹線の建設について交渉の呼び出しがあった。それをやっている最中にあなたのほうの事務所のうしろに立てかけてあった大きな戸が倒れて、頭を打って症候性てんかんになって、その後入院している。これに対してもわずか二回で二万円の治療費か何か出しただけですよ。これもおそらく過失があったのじゃなしに、無過失に違いないけれども、こういうことを見ましても、あなたのほうは実情をあまり知らないのじゃないかと私は思う。だから、この点について、こういった一つ一つの調査についてあなたのほうの総裁室で全部調査しているのかどうか。大阪の工事局の聞いたことを受け売りだけをして、あとみんな隠している。これはあなた、お山の大将過ぎるのじゃないですか。相当新幹線で金も上がっているということを聞いていますけれども、事故を受けた被害を受けたそういう人たちに対してはこんなことで——この人なんか三百人を使った事業家なんですよ。会社はどうにもならない。新幹線とめにいくというて奥さん方いきまいていますよ。こういった面から考えましても、もっと国鉄として——これから新幹線を相当つくるわけですから、私はこれは一つの氷山の一角だと思うのですよ。われわれ当委員会で騒音防止法を討議したときも、新幹線公害についてはきちっと今後騒音防止法の中に入れなければならぬという決議も与野党でしているわけですが、これについて国鉄はどういう考えでおるのか、もう一ぺん明らかにしてもらいたいと思うのです。
  71. 山田明吉

    ○山田説明員 前段でお話がございました説明会でけがをされたという話を、実はまだ私聞いておりませんのでしたが、新幹線と直接の因果関係はないとは思いますけれども、新幹線を通すための説明会のできごとでございますので、間接的な因果関係があったかとも思います。それで、そういうことはほんとうのハプニングだと思いますし、現地の局でそれ相当のお見舞いはいたしておると思っておりますが、なお実情をよく調べてみたいと思います。仕事の段取りで本社が直接やるものもございますし、それから局長限りでやるものもございますので、全部こさいにあらゆる問題が私の耳に入っているわけでもございません。その点は御容赦願いたいと思います。  それから後段の、これから全国的に新幹線網ができていく際に起きますことが予想されるいわゆる公害問題につきましては、これは正直に申しまして、東海道新幹線をつくりましたときには、あまりその問題が取り上げられなかったのは事実でございます。しかし、その後、東海道新幹線沿線でも、現在約百八十件ばかりの苦情が出てまいっておりまして、それを参考にいたしまして実は山陽新幹線の設計を進めたわけでございます。しかし、人口棚密なところを通るルートがある以上、全然無音、無公害というわけにはまいりません。それで、音の問題にいたしましても、それから振動の問題にいたしましても、できるだけそれを軽減するような設計、ルート変更をやったわけでございますが、さらに今後出てまいります東北あるいは上越、それからごく最近工事の指定がおりるであろうと思われます札幌あるいは九州、北回りの新幹線等につきましては、さらに設計その他についての研究をいたしたいと考えておる次第でございます。
  72. 岡本富夫

    ○岡本委員 これは湯口貞雄さんというのですが、こういうことももっとよく調査しなければ、今後まだまだたくさん新幹線をつくるというような考えを持っているのでしょう。長官、私申し上げたいことは、東海道新幹線をつくったときも、この実態からして新幹線から横の側道、これは少なくとも二十メートル以上にしてくれというたくさんの要望があったのですが、そうはならないのです、何といいますか、費用の点といいますかあるいは予算の点で。こういうものを考えましても、こういった騒音問題を無過失賠償責任の中にびしっと入れておけば、これはあとでたいへんだからというのでやはりそれだけの設備をきちっとするわけです。だから、典型公害にちゃんと入れておけば、それに対処した工事あるいは対処したいろいろな公害防止の対策ができるわけです。私あっちこっち回りまして、たとえばいま中国縦貫道路をやっておりますが、これを見ましても、この工事をやっている人が言うのです。これはあまりにも住民不在過ぎる。工事をやっている人が言うのです。公害に対するところの費用なんか一つもないのだ、あまりにも気の毒だと思いながらでも、やらなければしかたがないからやっているのです。私一人一人の声を聞いてきたのです。この無過失賠償責任法案の審議にあたって、真実をこの場で訴え、また申し上げて、そして長官に一考をしてもらわなければならぬ。これはやはりきちっと調整しあるいはまた指導し、そしてやるためには、もう環境庁以外にないわけです。長官の双肩にかかっている、こういうことを私はつくづく、各所に参りましてこの審議にあたって調査しまして感じました。一つ一つ出しますとまだまだあるのです。こういうところが不備だ、だからこういうことなんだということをまだまだ申し上げたいのですけれども、ちょうど約束の時間でございますので、一応きょうはこれで私のほうは打ち切って、そしてまた法案の中身についてもまだまだ論議がございますが、一考していただき、また改めるべきところは改めていただき、修正もする、そしてよりよき法案をつくって国民の皆さんの期待にこたえていくというのが立法府の私どもの役目ではないか、こういうように考えるわけです。  じゃ、これで一応。委員長、ありがとうございました。
  73. 田中武夫

    田中委員長 岡本君の本日の質疑は終わりました。  次に、西田八郎君。
  74. 西田八郎

    ○西田委員 最初に長官にお伺いしたいわけでありますが、無過失賠償責任に関する法律の整備ということについては、早くから政府のほうでも検討をされ、またわれわれ議員からも立法の要求をしてきたわけであります。今回われわれはまたその提案をいたしておるわけでありますが、さらに佐藤総理公害対策特別委員会に御出席になりまして、各委員質問に答えて必ずと、こういうことであったわけであります。ところが、それが延びに延びて二年ばかり経過をして、そしてようやく今度提案されてきたのは、結果的には大気汚染、水質汚濁防止法の一部改正という形で出てきたわけであります。この無過失損害賠償責任を負わせるという重要な意味は、そのことによって被害者救済するということが法のたてまえでなければならないのではないか、同時に、その被害救済しなければならないから、加害者である事業活動を行なう者にあってもそういうものを排出をしてはならないというそのことからこの法案というものが相当世間でも論議をされたものだと思うのです。したがって、そうした意味からいいますと、やはり単独立法としてこれを特別に網羅的に規制すべきではなかったかと思うのですが、これを大気汚染防止法並びに水質汚濁防止法改正という形で出されてきたその理由を、ひとつ長官からお聞かせいただきたい。
  75. 大石武一

    大石国務大臣 単独立法であるか法律の一部改正であるかということにつきましては、これはなるほどかっこうからいえば単独がかっこいいのですが、実質をわれわれ考えてまいりたいと思います。そういう意味で、実質的にはこの法律、要するにものの考え方、新しい民法考え方、これを行政になるように仕立てるということで、別にかっこよさにはこだわらず、こういうことになったわけでございますが、その他の理由につきましては、やはり今度の法律案の内容が健康被害に限ってありますので、一番健康被害に直接大きな影響を持つ水質汚濁防止法大気汚染防止法、この二つを改正するということにいたしたわけでございます。
  76. 西田八郎

    ○西田委員 結局そうすると、いま長官が言われたように、健康被害に限ったのでということで、まだ法案——先ほどの質疑の中で出ておりましたように、臭気だとか騒音だとかあるいは振動という問題があるわけですね。そういうものとの関係は一応抜きにして、とりあえず人の生命と身体にかかわるいわゆる健康被害というものに限定するということで、法体系としてはまだ不備である、したがって水質汚濁防止法大気汚染防止法、その改正ということで一応補完をしていくんだ、いずれはそうしたものも網羅的に考えて、そうしてまた、後ほど質問しますが、被害者救済についてもまだまだ不十分な点がたくさんある、そういうものも先ほどの答弁なんか聞いておりますと、それらも今後の法の運営の中で十分整備をしていきたい、こういうようなこともあわせて、いずれ整備する時期が来ればそうしたものを網羅して整備をしたいというふうに理解していいのかどうか。
  77. 大石武一

    大石国務大臣 西田委員の仰せのとおりにわれわれは考えております。できるだけ早い機会に、いろいろなものを取り入れて、ほんとうに広く被害者の役に立つものにいたしたいと考えております。
  78. 西田八郎

    ○西田委員 そうすると、いずれそうした形で整備されて出てくるということでありますが、しかしそれにしても現在の改正案そのもの、非常に不備が多いと思うのです。そこで、具体的にいろいろな点についてお伺いをしていきたいと思うのですが、まずその公害のいろいろなものが、最近科学の進歩といいますか、によって排出され、それが有害でないというふうに思っていたものが意外に大きな被害を与えているという事例もないわけではないわけですね。しかも、それらが一つ物質の場合にはたいしたことではないけれども、他のものと複合する、化合することによってさらに大きな影響を与えるというような、いわゆる複合汚染というものが出てきておるわけです。典型的なもので光化学スモッグというものもそんなものではなかろうかと思うのですけれども、これは事務局のほうからお答え願いたいのですが、複合汚染といわれるものにどんなものが一体例としてあるのか、ひとつ御説明いただけませんか。
  79. 船後正道

    ○船後政府委員 いわゆる複合汚染による健康被害の代表的な問題といたしましては、恥及び粉じん等による気管支系統の疾患というものが考えられると思います。
  80. 西田八郎

    ○西田委員 そこで、もう少し詳しく説明してもらいたいのですがね、たとえばAという物質だけならたいして健康に対しての被害を与えない、しかしBという物質と複合することによって非常に悪い影響を及ぼすというような場合があるかどうか。
  81. 大石武一

    大石国務大臣 それはあると思います。いろいろな薬のほうでも、どっちも一つずつの効果のあるものをくっつけますと五つの影響を及ぼすこともありますし、その逆のこともありますから、当然そういうものはあると思います。たとえば近ごろいわれておりますのはPCBでありますが、BHCとかDDTとかああいうものと一緒になりますと——どちらにしましても塩素化合物ですが、一緒になりますとさらに大きな毒性を増すのではないかということは、愛媛大学の立川助教授等が申されておりますが、そういうものはあり得る。われわれはいまちょっと考えられませんが、またほかにもいろいろなものがあり得ると思います。
  82. 西田八郎

    ○西田委員 そうしますと、その複合汚染の場合の責任はいずれが負うべきかという問題が出てきやしませんか。たとえばAという物質を排出しておるだけならたいして影響はないのに、Bというものを排出したことによって生ずる被害ということになってくると、その複合した汚染の場合の責任は一体双方にあるのか、片一方にあるのか。
  83. 船後正道

    ○船後政府委員 ただいまの御質問は、たとえばAという物質のみによっても被害が生ずるがそれにBという物質が加わることによってさらに被害が加重されるというふうな場合、AもしくはB単独では被害が生じないが両者が合わさって初めて被害が生ずる、種々のケースが考えられるわけでございます。結局この問題は民法七百十九条にいう共同不法行為が成立するかどうかという問題でございまして、やはり私ども、種々の学説がございますけれども、終局的には裁判所判断にまちたいというように考えております。
  84. 西田八郎

    ○西田委員 裁判所の御判断ということになると、行政上そういうことに対する手はもう打てないということになるわけですか。
  85. 船後正道

    ○船後政府委員 裁判所裁判所としての判断があるわけでございますが、しかし行政サイドといたしましてこういった問題を全然放置するというわけではございません。たとえば先ほど来も問題になっておりましたイタイイタイ病とカドミウムの問題につきましても、厚生省が発表いたしましたいわゆる行政見解というものが神通川裁判におきまして因果関係立証にかなりのささえとなっておることもございます。したがいまして、私どもも原因物質と病気というものの科学的な関係というものにつきましては、今後とも十分にその究明に努力をしてまいりたいと思います。
  86. 西田八郎

    ○西田委員 そうなりますと、これは因果関係立証というものについて被害者の立場は非常に苦しくなるわけですよね。そうなりやしませんか。被害者の立場は、その裁判所判決を待つんだということになったら、今日の裁判というものは非常に時間がかかりますよね。そうすると二年も三年も待たなければならぬ。場合によってはその加害者と目される人が故意に延引をしようと思えば、いまの裁判は幾らでも延引できるということになるわけです。そうすると先ほどのように、その裁判判決が出なければわかりません。裁判によって立証され、判決が下さなければならないということになると、被害者はもうその間ずっと待たなければならぬ。そうしてそれが加害者でないということになれば、その排出は続けられるわけです。そうすればさらにその被害は加算されていって、ますますひどくなる。だから早期発見をし、早期に排出が停止をされ、そうしてそれが人体に侵入することを未然に、というよりも軽度のときにこれが防止をされておればそうでもなかったものが、そうした諸般の事情のために三年も四年も五年も引っぱられて、それがだんだん、だんだん加算されていって、なおるべき病気もなおらぬという結果になるというおそれが生じてきますね。その場合、一体どうしてやるのか。そこにその被害者救済するという本法のやはり目的も置かなければならぬのではないかと思うのです。
  87. 大石武一

    大石国務大臣 いまの御意見ですが、それはいろいろなことを想定しますとそういう御意見もたくさん出てくると思いますが、はたしてそのような事態が起こり得るかどうかということも考えなければならぬ、われわれは、またそのような事態の起こらないようにやることが、やはり環境庁の当然の仕事だと思います。たとえばAという単独で無害の物質がある。Bという単独で無害の物質がある。合わさった場合に非常な被害を人間に与えるということは理論的に考えられますけれども、実際そういう事態が起こり得るかどうかということは、そうはあまり——これはいままではPCBは何て便利なものだといってわけのわからぬものを使ってまいりましたけれども、このようないろいろな経験をわれわれはしてまいりましたから、今後そのような事態が起こらないように努力することがわれわれの大きな仕事であり、また人類の科学の進歩もそこにあると思うのです。そのように、想像だけで起こり得たらどうか、あるいはこういう物質があるかないかわかりません。ある可能性はあるが、わかりませんが、そういうことを前提にして初めから人間の権利義務を規制する、いわゆる法律の対象としてつくるということはなかなかむずかしいものじゃないかと思いますけれども……。
  88. 西田八郎

    ○西田委員 先ほど岡本委員質問に答えて、たとえば長官は、PCBが現在有害指定になっていない、それはまだ実態がつかめないからだというふうにおっしゃいました。そのように実態がつかめないからということで指定がおくれる。おくれる間にどんどんPCBの汚染が進んでいくということになれば一体どうなるのか。大体そもそも公害問題が起こってきたのは、すべて後手に回っているからだったのでしょう。予測できないからということでちゅうちょすれば、そのちゅうちょすることが結局人の命並びに身体に害を及ぼしておる、こういうことになってきておるのが今日の公害のすべてじゃないでしょうか。ですから、石油をたいて亜硫酸ガスが出ることは初めからわかっている。こんなことをわからぬ人はだれもおらなかったと思う。ところが、その亜硫酸ガスは少々のものならだいじょうぶだということで個々に規制をしておった。ところがそれが複合され、かつまた拡充されてたいへんな大気汚染を起こした。だから何とかしなければならぬということで問題が起こっておるのじゃないか。そもそも公害問題が持ち上がってきたのは、そういうものの考え方自体に問題があるように思うのです。だから、それはやはり可能な限り人間の英知を結集して、それを分析する中からそれを未然に防ぐということが政治の責任ではないかと思うのです。だから、そういうふうに長官のように言われますと、大体公害にかかるのが悪いのであって、公害を出しておるのはやむを得なかったのだということになるのじゃないでしょうか。
  89. 大石武一

    大石国務大臣 公害に対する責任のある者の態度としてはただいまのお考えはそのとおりの心がまえだと思います。われわれもそう思います。公害をできるだけ出さないようにすることにわれわれは全力を注ぐべきであります。ただ、そのこととこの無過失の問題とはすぐ直接には、だからこうだとつながらないと思うのです。私は、無過失賠償責任制度というものは、かりにつくりましても将来はなくなるべきものだと思います。ほんとう公害対策が実際行なわれまして正しく規制や監視が行なわれまして、出なかったらこういう法律は実際は要らなくなると思うのです。なかなかまだ急にはそのようなすばらしい公害対策ができるとは考えられない。時間がかかると思いますので、やはりその間は被害者に対する救済措置としてこのような無過失のものも考えなければならぬという現在の立場で、必要性があってつくるものだと私は考えておるわけでございます。そういう意味で、いまの西田先生のおっしゃるとおりの公害に対する心がまえというものは全く同感でございます。われわれも、それにおっしゃるとおりできるだけ努力してまいろうと考えておる次第でございます。
  90. 西田八郎

    ○西田委員 この法案がいろいろと審議された過程の中で、新聞報道等にも何回か出されてきたわけですが、その過程をたどってみますと、最初出されたものは非常に勇断をもって実行されるなという期待を持ってわれわれもながめておった。ところが、二回、三回と修正されてくるたびに慨嘆せざるを得なかったというような結果になってきているわけであります。したがって、私どももいまおっしゃるように、長官公害をなくす、そして無過失賠償というようなことはしなくてもいいような状態をつくり出すのが公害対策の最終目標である、これは私もそのとおりだと思うのです。しかし、そうなっていない現実があるから、われわれは非常に心配をするわけですよ。長官、ものの製造に関しては通産省が責任を持つわけです。したがって通産省のほうではものの製造、特に生産第一主義をとられておる現内閣のもとでは、少々の無理はということで行なわれてきておる。そのために、幾ら環境庁ががんばってみても問題が解決しないという、いわゆる政府のばらばら行政というものがこういうところに如実に出てきておると思うのです。ですから、いまここで長官がただ委員会における答弁として行なわれるだけでなしに、長官の職を賭してでもこの問題に対して努力していただくということをお願いして、質問の時間が限られておりますから次に移りたいと思います。  そこで、原因者が非常に多い場合に、損害賠償をしなければならぬことははっきりするわけですが、一体その負担の率をどういうふうにきめるのか、これは非常にむずかしい問題だと思うのです。原因者が多数の場合、これについてはどういうふうにお考えになっておるのか。それと、これは裁判所がきめることですからここでは答えられないかもわかりませんが、裁判の上でしんしゃくして賠償額を減ずることがあるということがあるわけですね。その減ずるということはゼロということなのかあるいはゼロではないということなのか、この両方についてお答えいただきたいと思います。
  91. 船後正道

    ○船後政府委員 複数原因者によります損害賠償につきましては、民法七百十九条で、全体で賠償責任を負うわけでございます。したがいまして、全員が連帯して全体の賠償の責に任ずるわけでございます。問題は、連帯者共同の人たち相互間における求償権の問題としてどのような分担になるかという問題でございますが、私どもの考え方といたしましては、やはり原因となった寄与度に応じて分担するのが妥当ではないか、このような考え方から、今回民法七百十九条が適用される場合で、その損害の発生に関しまして原因となった程度が著しく小さい、こういう微量寄与者につきましては、裁判所がその損害賠償の額を定めるに際してしんしゃくし得るという規定を設けております。これはその事情をしんしゃくするという規定ではございますけれども、原因となった程度、その寄与度というものがまず第一にしんしゃくされなければならない、かように考えております。
  92. 西田八郎

    ○西田委員 こういう場合がありはしませんか。大きな工場があって、そして有害物質を流していた。その工場の下請を中小企業が引き受けて同じような仕事をさせられるので、同じような物質を排出していた場合、大企業が流しておる範囲では環境基準なり排出基準が守られておった。ところが、中小企業の下請がふえたばかりに基準ぎりぎり、限度一ぱいまできたというような場合が起こり得ますね。その場合に責任はやはりもとから流しておった大企業にあるのか、あるいはあとからそれに加わった中小企業も同じようにその責任を分担しなければならぬのかということになると、私は非常に問題があるように思うのです。現実にそういう例が、工場団地等がどんどんふえておりますから起こりつつあるわけです。そういう場合はその時点になってみなければわからぬとおっしゃればそれまでですけれども、およその考え方をお聞かせいただきたい。
  93. 大石武一

    大石国務大臣 これはたとえ排出基準を守っておる会社といえども、当然その責任を負わなければならぬと思います。実はこれと逆な実例を一、二私は聞いたことがある。川崎に東京電力の火力発電所がありますが、私はいろいろ見てまいりました。そのとき、そこの正親と申しましたか取締役がおりまして、いろいろ懇談をいたしました。彼はこういうことを申しました。   〔委員長退席始関委員長代理着席〕 われわれはできるだけ努力して基準を守るようにやっておりますしゃります。いずれ達成いたしますけれども、しかし、そのような能力のない中小企業がたくさんありますとなかなか全体としてのあれを達成することができなくなります。ですから、われわれ大企業は、少なくともお互いに相談をし合って、中小企業の出す分までもわれわれがより少なく規制して、そうして全体としての環境を守るのが一番大事ではなかろうか、そういうことを考えて、いまわれわれは寄り寄り各企業と相談中でございますというような話を聞きまして、当然それはその心がけでなければならぬと言ってきたわけでございますけれども、そういうことで、やはり彼らも、大企業は無過失ですから、これは基準を守っておってもだめなんですから、大企業は何といっても一番ひっかかる。請求するほうも、被害者は何といっても実体の弱いところよりか大きいところをねらうにきまっているのですから、責任を免れることは絶対にあり得ないと考えております。
  94. 西田八郎

    ○西田委員 その点は実は、私の知り合いに現実にそういう心配にとらわれておる人がおるわけなんです。同じ電気関係の仕事をしておりまして、片一方でPCBを出しておる。自分のほうでも同じようにPCBが出るわけなんですね。ところがこれは無過失ですから、基準を守ろうと守るまいとそんなことは関係ないのですけれども、要するにやかましくいわれるようになってきた。そこで、それを焼却したり処理をしたりするための設備をこしらえる。そのために膨大なる費用がかかる。それを親企業に言ってみたところで、そんなものは融資も何もしてやれぬということになってくる。そうなれば事業を締めざるを得ないというような心配をしておるわけですね。これは排出をどうするかという問題ですけれども、結局、それが今度のように無過失だということでその責任を問われるということになると、これはもう一千万そこそこの資本金でやっている中小企業というのはたちどころにだめになってしまうという心配が起こるわけですね。したがって、そういう場合においての——それは裁判で最終的にはだれがとう負担せいということにもなるのでしょうけれども、しかしそれはやはり行政指導として相当な指導をしないと、そういう問題は結局は大企業中小企業にしわ寄せをしていくという心配がある。これは必ず起こってくると思うのです。そうでなくとも、仕事をさせてやっておるからということで、たとえばこれは全然別個な話ですけれども、ある協会から一つの寄付を申し入れられた。その会社に一千万なら一千万の寄付を申し入れられた場合に、自分の大企業の親会社からは十分の一しか負担しない。あとの十分の九を自分のさせている中小企業に負担をさせるというようなことが現実にあるわけですよ。ですから、こういう賠償責任についても、おれのところでも負担をするけれども、おまえのところも仕事をやっているじゃないか、ちっと出せというようなことで、現在の二重構造、特に中小企業の立場の弱さからいうと、そういう面でいじめられる場合が起こってくると思うのです。そういう場合が起こらないように、十分行政上の処理として、私は強く要請をしておきたいと思うのです。   〔始関委員長代理退席、委員長着席〕
  95. 船後正道

    ○船後政府委員 確かに西田先生御指摘のように、最近の傾向といたしましては、排出規制が強化されますと製造過程の中の汚染物質が出るプロセス、この部分を下請企業のほうに回して大企業のほうはそれを免れるという傾向はなきにしもあらずでございます。しかし、この問題はただいま御提案いたしておりますこの無過失損害賠償という私法の分野において考えることはまず困難でございます。さらに、行政の面におきましても、取り締まりという点から考えますと、排出口のそれぞれの排出物質を規制するのが現在のたてまえでございますから、これも困難でございます。ですから、やはり問題は一つ中小企業対策でございますか、そういった産業政策の問題として解決すると同時に、ただ私どもが考えておりますのは、今後損害賠償措置制度と申しますか、事業者賠償責任を担保すると同時に、被害者は迅速に救済されるというためには、何らかの行政的な賠償制度が必要であると思いますが、そういった制度を考えます場合にはこのような事情というものも十分に検討してまいる、かように考えております。
  96. 西田八郎

    ○西田委員 私の質問をする前に答弁をされたわけですが、結局、私の言いたかったのは、そういう損害賠償についての担保並びに補てん制度というものを考えなければ実際にやっていけなくなるのではないかというふうに考えるので、考えるというとでありますから、その面は行政の面でやれることですから、ぜひひとつ実現をしてもらいたい。要望しておきますが、同時に、そういうものができればおれのところのほうはもう安心なんだというようなことから、公害に対する認識が低まってはならないと思うのです。自動車の交通事故でもそうなんですが、賠償保険があるから、だからということで私は運転者が注意を怠るということも現実にあるのではないかと思うのですね。そういうことが人間の常だと思うのです。ですから、そういうことの起こらないように特に厳重に指導を強化してもらいたいというふうに思いますが、長官ひとつ……。
  97. 大石武一

    大石国務大臣 ただいまの西田委員の全部の御提案、私は非常にけっこうなことだと考えます。おっしゃるように、この無過失責任制度をつくる以上は、やはり片方においては補償に対する財源、これを考えることが当然必要で、これは車の両輪のようなものだと思います。同時に、財源は無過失だけの関係の財源ではなくて、もっとそれ以前の、たとえばいろいろな問題、いまの公害病患者の被害者、そういうものの補償考えなければなりませんし、さらにもっと考えますと、公害をできるだけ予防できるような大きな共同の施設とか、いろいろなものについてもわれわれは大きな財源を考えなければならないので、そういうものを考えますと、広く全体から、基金にしたらいいか、保険にしたらいいか、あるいは課徴金のような形がいいかわかりませんが、いろいろな形でしなければならぬということで、いま御承知のように中央公害対策審議会にこれを諮問いたしまして、そのあり方をいま諮問中でございますので、早く結論を出してもらいまして、その方向に向かっていかなければならないと考えております。  ただ、私は思いますが、この公害防止に対する企業努力というものをますますわれわれは高めていかなければならないと思うのです。それにはもちろん根本的にはいわゆる環境基準、排出基準というものをできるだけきびしくしてまいりまして、それに対する監視体制を強化するということ、これが基本でありますけれども、それは非常にやらなければならないと思いますが、同時に、企業意欲、企業公害防止に対して意欲を持ち得るような制度にしなければならぬ。これは私はまだ考慮中でございますけれども、環境基準というものを、いまの環境基準では必ずしもほんとうの理想的な基準から遠いものがずいぶんございますから、ほんとうに理想的な環境基準、あるいはその次の二段階、三段階というものをつくりまして、その上の段階に向かって努力をしたものについては課徴金みたいなものを少なくするとかなんとかいう制度をとっていけば、おのずから公害に対する企業の意欲というものも高まっていくのではなかろうかと考えておる次第です。
  98. 西田八郎

    ○西田委員 次に、人の生命と身体にかかる被害のみにこの法律は限定をされてきたわけですが、たとえばせんだって問題になりました土呂久のような場合、一体これはどうなるのかという心配が一つ起こってくるわけです。ということは、現実にそのことによって身体並びに生命に被害を受けた場合、これはその部分について救済はされる。しかし、原因となっておる土なりズリ山なりは、処理しなければ幾らでも排出は続けられるわけですね。この場合の責任は一体どこに持たせるのか。もちろん鉱山法によって責任を持たせられている部分もあるけれども、しかし、これも期限がありますね。だとすると、客土をしたりあるいはズリ山の処理をしたりするのはだれの責任になるのか。さらにまた、それが原因で流れていくということになりますと、たとえば土呂久の場合はずっと流れて延岡の先にまで廃滓があるというようなことが起こった場合に、その廃滓から生じてくる米を食ってさらに被害が蔓延していくという形になる場合、それらのいわゆる防止の事業というものは一体どうなるのか、だれの負担になるのか。これは都道府県ということでいったって、都道府県はとてもじゃないがたいへんですから、そういう場合、責任はどこまで追及されるのか、また、生命と身体の被害ということの関係においてどこまでそれを追及し得られるものなのか。
  99. 大石武一

    大石国務大臣 この問題は二つに分けて考えなければなりません。一つは住民の健康の問題です。もう一つはその地域の環境の保全の問題、環境を是正するという問題でございます。われわれが一番気になりますのは、やはり何といってもそこに住んでいる住民の健康の問題であります。これをできるだけ十分な検証を行ないまして、そうしてとにかくみんなが健康であってほしいと思います。からだの悪い者は十分に手当てをしなければなりません。その間にはたして公害病患者であるかないかということ、そういうことも重大な問題でございます。われわれとしては別に公害病患者が発生することに何にも反対する理由はありません、阻止する理由もありません。無理につくることもありませんが、一番正しい姿で判断され診断が行なわれますことを望んでおります。そういう方針でやっておりますが、いままだ結論が出ておりませんので、十分にその結論を見まして、われわれもこれに関与いたしまして、正しい判断をして正しい処置をしてまいりたいと思います。  それからその次の水の問題なり土壌の問題なりいろいろな問題がございます。こういうものはどんなことがあっても全部直さなければだめです。あくまでも正しい環境基準に合うようにこれを全部直さなければなりません。これはどこの責任であろうとやらなければならない。そういうことにあらゆる努力をいたします。それはただしいろいろな費用の負担であるとか何かは、いまいろいろな法律もありましょう、なにもありましょうけれども、それがもし不備ならば直ちに直していかなければなりませんし、いつまでもほうっておくわけにまいりません。ただ、残念ながらあまりにそのようないわゆる休廃止鉱山で痛めつけられた地域が多過ぎます。十分な科学調査がまだできておりません。行政としては非常におくれておりますけれども、やはりこういうものはみんなが協力して一日も早くこれを直していかなければならぬという決意でおるわけでございますから、そういうことは通産省のほうもみな同じような気持ちで一生懸命努力いたしておりまするので、必ず近く効果があがるものと信じております。
  100. 西田八郎

    ○西田委員 非常に念を押すようですけれども、これはみんなの力ということですが、みんなということになると、国民それぞれ分に応じて税金を納めておるわけですから、全部国庫負担でやるというふうに解釈していいのかどうか。
  101. 大石武一

    大石国務大臣 なにもかにも国庫ということはあまり基本的によくない考えだと思うのですが、それぞれの法律もあります。法律に準拠して、ただしかしいままでの法律だけで解決つかない場合には直さなければなりませんので、詳しい法律は私はわかりませんが、いろいろあるはずでございますので、そういうものに準拠して適当な費用をみんな適当なところで負担してやるべきだと思うのであります。
  102. 西田八郎

    ○西田委員 ということは原因者である事業にも応分の負担はさせるというふうに理解していいんですね。
  103. 大石武一

    大石国務大臣 当然鉱業権者はそれだけの責任があるように法律はなっております。ただ問題は、鉱業権者がなくなったりつぶれたりした場合に問題があるわけでございますので、それに対してはいろいろな問題を考えなければならないのであります。
  104. 西田八郎

    ○西田委員 次に、先ほど岡本委員質問の中で、特に今度は水と空気、大気だけに限定をされてきたわけでありますが、私はやはり騒音だとか振動、これは非常に身体に影響を及ぼすと思うのです。先ほど長官は、科学的に根拠がないのでということであったけれども、それならば科学的根拠というものを示したらこれはやはり救済する方法を考えるのかどうかです。先ほど新幹線の話が出ておりました。私どものほうも新幹線が縦断をしておるわけですけれども、相当な被害が出ておって、これは公害委員会においても国鉄の関係者に質問もし調査を依頼した。ところがその調査の結果が発表されておらない。著しい被害が起こっておるわけです。それでノイローゼになって一年ばかり会社を休んだ、現実にそういう人がおるわけです。それでもなお因果関係がはっきりしないということになれば、その沿線に住む住民というのは、新幹線がつくられたらもうそこから立ちのかなければしょうがないということになるわけです。ですからそういう問題について、まだ振動についての具体的な法律がきまってないわけですけれども、私は去年であったと思うのですが、振動についてどの程度研究が進んでいるのかという質問をいたしました。ところがその質問のときに資料の提出を求めてそれで終わったわけですが、出されてきた資料では、まだ十分なものは考えられておりませんという結果の報告しかなかったように思うのです、いろいろ資料の分厚いものをいただきましたけれども。したがって、この振動が人体に及ぼす影響というものは私は相当なものだと思うし、騒音の場合は特に難聴という問題もあるわけですよ。ですからそういう問題は、当然、生命とまではいかなくても、身体に影響がある。さらに生命ということになれば、たなから物が落ちて打ちどころが悪かったら死んだということも考えられるわけです。これはほんとうに笑いごとでなしに、それはひどい振動なんですから。たなの物がどかどか落ちてくる。したがってたなに物が置けないというところがあるわけです。これは新幹線のみならず高速道路にもそういうところがある。ですから、そういう科学的というよりも、事実そういう因果関係というものが明らかであるにもかかわらず、どうしてそういうものが今回除外されたのか、その辺、実態について御説明いただきたい。
  105. 大石武一

    大石国務大臣 われわれはいずれこの法案をできるだけ大きくしたい。いずれそうなります。単独法にもなりましょうけれども、大きなもの、総合的なものにする考えでおりますから、そういう振動にしてもあるいは悪臭にしても、むずかしい問題ですが、そういう問題もできるだけ包含してまいりたいと思います。ただ問題は、裁判所判断することでございますから、判断し得るものを、やはり一つの医学的なというか、そういう根拠ができないと、裁判所はとてもそれは判断しにくいと思うのです。そういうわけで、そのように早く医学的、科学的な土台ができることにわれわれは努力をしなければなりません。御承知のように、これは当然いままでそのような勉強、努力もしておらなければならなかったのでありますけれども、残念ですけれども、やはり御存じのように、日本の政治の方向なり行政方向というのは必ずしもそういう方向に向いておりません。日本全体の姿が、行政、政治ばかりでなく、国民のものの考えも、ようやくいわゆるヒューマニズムを土台にした政治の方向なり国民考え方がここ数年方向がきまって固まってきたわけでございますから、こういう振動なり悪臭なりあるいは騒音に対する、いわゆる行政面ばかりでなく、たとえば学問的な面におきましても研究がおくれていたということはやむを得なかったと思いますが、これからはやはりこういうものと真剣に取り組みまして、ほんとう国民が、人権が尊重されて、明るい生活ができるような正しい国民全体の考え方、政治、行政に変えていかなければならないと思いますので、われわれも努力してまいりたいと考えております。
  106. 西田八郎

    ○西田委員 特に新幹線が、これは三時間十分で東京−大阪、さらに今度姫路まで四時間十分で行くわけです。時間的に非常に距離が短縮される。そういう環境に人間はならされてきますと、それをなかなか五時間にして少し速度をゆるめて振動を落とそうというようなことを言ってみたところで、これは振動の被害を受けている人自身の気持ちからいけばありがたいと思うかもしれませんが、しかしそれよりも新幹線を利用する人のほうが多い場合は、もとの新幹線開線当時の四時間が五時間になるということでは承知しなくなってくるわけです。その辺の調整が私は政治じゃないかと思うのです。しかし大衆のために、それを利用する人が多数だからといって、少数の人が犠牲になるということは断じて許されないことだと思うのです。そうだとすれば、当然そういうことが起こってくるだろうということは予測せざるを得ないわけであります。しかも実際に新幹線が、これは夜は走っておりませんが、六時の一番から往復で走られて晩の八時三十分、両方の終着駅に着くのは十一時過ぎて四十分になるわけです。その間に大かたもう行楽の季節ですと三分ないし四分の間隔で走っておるわけです。ほとんど家はゆれっぱなしです。子供も寝つかなければ、ゆっくり落ちついて話もしておれないというような実態があるわけです。それがすでにもう立証されておる部分があるのに、どうしてこういうものが取り上げられないのか。国鉄は国の仕事だからということで、もういわゆる民、おまえたちは言うことを聞けという姿勢なのかどうか。副総裁は帰られましたけれども、そういう点でやはり是正するとすれば、国民の生活環境を守るという立場からそういう問題を強く言うていかなければならぬのじゃないかと思うのです。だからそうだとすれば、当然具体的にもそういう例が起こっておるわけですから、どうしてこれが取り上げられなかったのか、私どもはほんとうにふしぎでならないのですが、一体それではいつごろになったらそうした問題について資料をそろえ、研究、調査を終わらして、そういう債任を問うということになるのか。
  107. 大石武一

    大石国務大臣 無過失の問題は、これは一つの大きな行政上の分野でありますけれども、この新幹線の問題にしても、振動の無過失責任制度の問題を取り上げる前に、もっとそういう振動から地域住民を解放することが一番大事な問題だと思うのです。去年までは環境庁はありませんでした。また、必ずしもいまでもすべての行政に関与する、そう大きな権限はございません。しかし、当然日本国民の正しい環境を守る立場において、行政面にもいろいろな意見が反映するような機構のあり方にしなければならないと、いまいろいろ考えている最中でございます。そういうことで、いままでの新幹線が非常に振動がやかましいことは確かにお話しのとおりでありますが、これからさらに新しくつくられます場合には、そのような被害がごく少なくなるように、つまり市街地を避けるとか、人のいないところ、トンネルを通すとか何かによって、やはりそのような考慮を加えることが絶対必要であると考えまして、そのようにわれわれも日本行政を進めてまいりたいと思っております。いままでの振動に対しましても、やはりこれは国鉄としてもあらゆる努力をして、できるだけ補償して疎開をしていただくとか、あるいはその他いろいろなことをやって、騒音の防止、影響を少なくするということが一番大事な行政の方法ではなかろうかと思います。同時に、いまおっしゃられるように、たなからものが落っこちて頭にぶつかって、その人が死んだという場合には、私、法律のことわかりませんが、こういうものは無過失ではなく過失責任だと思うのです。だから無過失に入らないと思いますが、やはり騒音によっていろいろな、たとえば肉体に影響がある、精神に影響があるということは、これはやはり将来十分に考えておかなければなりません。それに対してもわれわれはまだ不十分でありますけれども、できるだけそれに対する裁判所判断に使い得るような医学的な具体というものを早くつくらなければならないというふうに考えておる次第でございます。
  108. 西田八郎

    ○西田委員 それは無過失過失かということなんですけれども、国鉄がかりに新幹線を敷く場合に、通すところを地質学的にいろいろ研究して、これならだいじょうぶだということできめた、そしてかりに振動の規定が定められて、ある一定の測定をしたところでは、その振動の規定は守られていた。しかし、それ以外のところでいわゆる例外的にレアケースとして出てきた。これは国鉄には責任がないという場合に無過失というものが出てくるわけです。それによって生じてくるのだが、そういう問題が多過ぎるから心配しておるわけですよ。ひとつここで議論してみても、そう言うなら入れましょうというところまではいかぬでしょうから、いずれこれはわれわれの提案しているものは、そういうものまでも取り上げておりますから、ぜひそういうものを検討していただいて、無過失全体についての損害賠償ということを御考慮願うという意味で、政府案撤回、野党案賛成という形にしていただければまことにありがたいと思うわけです。  次に、先ほどの話の中で、疑わしき者は救済するという、こういうことがありました。私、しろうとですからわからぬのですけれども、司法の面では疑わしきは罰せずということがあるわけですよ。そうすると、そこで疑わしき者は救済するというのと、疑わしき者は罰せずという、司法と行政との立場で、因果関係がきわめてあいまいな場合、一体その救済はどうなるかという心配が起こってくるわけです。その場合には、行政面としては疑わしきを救済するという面を貫かれるのかどうか。
  109. 大石武一

    大石国務大臣 御趣旨がちょっとわかりませんけれども、片っ方で疑わしきは罰せず、片っ方は疑わしきは救済するというのですけれども、罰せずというのと救済するのとでは方向がまるっきり違いますから、やはり罰せずと救済するとでは逆と逆で、マイナスとマイナスはプラスになりますから、ちょうど方向は合うと思うのです。私はそう思います。そういう意味で、法律で疑わしきは罰せずということは、疑わしき者を救済するというのと同じような精神だと私は思います。つまり、どちらも人権を尊重しての話でございます。疑わしきは罰せずというのは人権を尊重しての話だと思う。同時に、われわれは疑わしき患者を救済するというのも、これはやはり人権尊重の精神から出たものですから同じものだと思います。ただそう言っては失礼ですが、医学的に使う疑わしいということ、疑いということと、一般に世間で使う疑わしいということとは意味がずいぶん違います。そういう意味で、われわれが疑わしい者というのは、二%か三%怪しいけれども、あいつは怪しいやつだという意味ではありませんで、既往歴であるとかいろいろなことから、必ずしも十分に一〇〇%これはこうだと診断つけ得ないものであっても、まだ症状がそろう前であるとか、いろいろなことで、相当の根拠があってこれは否定することはできないというものを、われわれは疑いと医学的に言うものでありますから、根拠あるものでございますので、その点をひとつ御理解願いたいと思っております。
  110. 西田八郎

    ○西田委員 この辺は委員長のほうがお詳しいと思いますが、どうもいまの話を聞いておると、マイナスとマイナスでプラスになるというような、ごまかされておるようですが、片一方で疑わしきは罰せずというのですから、認定する場合に、ちょっと疑いがあるけれどもこの程度ならばということで認定されなかった場合ですね。たとえば疑わしきは多少二%か三%の可能性があれば救済しようといっても、片一方で認定ということの拒絶が出てくるのではないかという心配なんですよ。
  111. 大石武一

    大石国務大臣 裁判のほうの疑わしきは罰せずという疑わしいというのはどういうパーセンテージか私は知りませんですが、全然カテゴリーが違うと思うのです。裁判所の疑わしきというものと患者の救済の疑わしいものというのは全然違いますから、罰せずとか罰するとかいっても全然関係ないことだと思うのです。比較できないと思うのです。私が申し上げたのは医学的に二%か三%の疑わしいものは入りません。医者の言う医学的に疑わしいというものは、おそらく四〇%か五〇%か、いろいろな根拠がありまして、何といいますか医学的な判断から除外できないと認められるものをいうのでございまして、二%や三%のものはこれは問題になりません。そういう意味で、疑わしきものというと、ちょっと世間一般に誤解を受ける点もありますけれども、われわれが疑わしきものと申しますのは医学的の意味の疑いということでございますので、そういうことで御理解願いたいと思います。
  112. 西田八郎

    ○西田委員 これは主観的な問題も含まれてくるので、非常に議論はやっても切りがないと思いますが、私の心配するのは、先ほども局長からその認定を裁判所がするのだという答弁がありましたね。だからその認定の裁判がされるのなら、そこで裁判の認定がなされなかた場合に、救済はどうなるかという心配が出てくるわけですよ。だからそのことを申し上げておるわけです。そこで当初出ておった因果関係推定というものがなくなっているわけです。そうすればよけいその問題が心配になってくるわけですよ。やはり推定規定があってはじめて被害者自分みずからが推定をするということで、しかもそれは医者なりあるいは科学的にある程度の根拠をもってやっていけばいいということになるわけですが、そういう規定がない場合にどうするのかという、被害者救済の面から考えてみると非常に心配になるわけですよ。ですから申し上げたわけなんです。
  113. 大石武一

    大石国務大臣 御質問の御趣旨はようやくわかりました。それは局長から申し上げたのは表現が足りなかったか、あるいはちょっと趣旨を違えてお聞きになったのかと思いますけれども、裁判所はこれが公害病患者であるかどうかということは関係ございません。これはわれわれがすることです。行政面ではっきりと環境庁が、あるいは厚生省とお互いに協力を得て、これは公害病患者だ、でないということをわれわれが認定するのです。裁判所がこれが患者であるかどうかということはできません。それは能力がありませんからしません。問題は因果関係推定ということはそれとは関係ないのです。はっきり公害病患者であるかどうか——公害病というとおかしいですが、このような原因でこうなったのだということはわれわれがきめるのです。その場合、いま局長も言った一つの代表的な例ですが、到達する汚染経路だけを推定するというのがわれわれの考えておったことですから、いまのような違いはないと考えて、その点をひとつ御理解願いたいと思っております。
  114. 西田八郎

    ○西田委員 そうすると、ちょっとわからないのですが、たとえばカドミによる健康被害にしても、そうであるという説とそうでないという説があるわけです。これは両論ありますね。その場合にいずれをとるかということで訴訟が行なわれているのじゃないですか。
  115. 大石武一

    大石国務大臣 これはカドミウムであるかないかという考えによって、これは因果関係推定と関係はないのです。これは行政面ではっきりイタイイタイ病の原因はカドミウムときめてあります。でありますから、何らの間違いはございません。ただ、医学的に医学界においては、カドミウムが必ずしもイタイイタイ病の原因ではないという意見もございます。そう言う方もあります。それはその意見があってもかまわない、当然なことで、正しいものが何でもかでも一つにきまって、それ以外の正しいものは一つもないということじゃちっとも進歩がありません。少なくとも科学というものは、常に疑いを持つことによって進歩があると思うのです。ですから、学問的にイタイイタイ病の原因がカドミウムであるかないかという議論は十分あっていいと思います。そういうことを議論をして、将来、二十年たったとき、実際にはカドミウムが原因でなかったという医学界の結論になるかもしれませんし、あるいは間違いなくカドミウムであったということになるかもしれませんが、それは学問の社会で検討してもらうことであって、行政面でははっきり断定しなければなりませんから、行政面ではカドミウムが原因であるということがきまっておりますから、そのほうの裁判所の間違いはないと考えます。いま言ったようなわれわれの無過失関係の法案のことにつきましては、そういう混乱はないと思います。
  116. 西田八郎

    ○西田委員 もう一つ何か釈然としないのです、いまの長官の説明だけでは。どうも私どもの心配することの本意がわかってもらえないのかもわからぬけれども、被害を受けている人の立場からものを言いたいと思うのです。その立場からものを言う場合に、たとえば推定規定がなくなっておるし、同時に、そういうものが原因でおれの病気が出ておるんだという場合に、そういうものをひとつ出すことをやめてくれという、いわゆる差止請求だとかあるいは規制の措置を強化してほしいという請求権というものも、当然、そういう公害を起こしている事業に対して、これは被害者国民としてあると思うのです。そういうものも当初は政府原案にというか、一番最初の要綱というのが発表されたのに入っていたと思うのです。そういうものがないわけです。だから、そういうものがないということは、一体、被害者がこのままでほんとう救済できるのだろうか、してもらえるのだろうかという心配があると思うのです。それで私がこのことを申し上げておるわけです。だから、それが企業過失でなかったとしても責任を持てということに対してのこの法案趣旨はよくわかるのですよ。わかるけれども、なおかつ、そういうことによって言いのがれをしようとか、あるいはさらに、その事業を続けるということによってなお被害が増大するというような心配がありますね。これは長官、そういうふうに考えられませんか。だから、過失責任といったら、これははっきり追及できますよ。しかし、企業そのものには無過失なんですよ、過失がないわけでしょう。それを損害賠償させようという法律ですから、だから、そうだとすれば、そこには非常にむずかしい問題ができてきやしないか。そこのところを一体被害者がどういう救済を受けられるのか、非常に問題だと思うのですよね。
  117. 船後正道

    ○船後政府委員 今回は、不法行為の成立要件の中の故意過失要件というものにつきまして、無過失によりということに規定しただけでございます。被害者救済を求めるのは、最終的には裁判所の手続によらねばならぬことでございますから、この場合にまず問題になるのは因果関係の問題でございます。これは先ほど来種々申し上げましたが、私どもが初め考えました因果関係推定規定におきましても、病気の原因については何も触れておりません。たとえばカドミウムがイタイイタイ病の原因であるかどうか、これは被害者立証すべき問題でございます。これは当初の推定規定におきましても触れておりません。この点はたとえば神通川の裁判でございますが、この裁判の際におきましても、やはり大きな問題でございまして、いわゆる蓋然性の疫学的方法というものを用いて裁判所イタイイタイ病の原因はカドミウムであるということを認定したわけでございます。やはりそういうことでもって今後の裁判が進められるよう、私どもはあえて因果関係推定規定というものがなくとも差しつかえはない、かように判断した次第でございます。  それから次に、差止請求の問題は、確かに問題ではございますけれども、これは現在、実定法の運用といたしましても、あるいは物権に基づく請求権、あるいは人格権に基づく請求権といったような法理論のもとに行なわれているわけでございますから、特に規定しなくても差しつかえはない、かように考えているわけでございます。  また、行政措置要求の問題にいたしましても、事業者におきまして法律違反の状態があるということがわかりますれば、これはもう当然行政権といたしましてそれを是正せしめるのが当然でございますし、また一般国民からそのような通知がございますれば、直ちに所要の措置をとるはずでございますから、そのような規定を特に設ける必要はない、こういうことから、いずれもこれら規定は設けておりません。
  118. 西田八郎

    ○西田委員 それは大体理解できるわけですが、それじゃ、できるから設けないのなら、できるのなら設けたって同じことじゃないですか。差止請求にしても、規制措置請求にしても、当然、国民の権利としてありますからというのなら、権利として、条文としてこしらえることを何でちゅうちょされるのですか。
  119. 船後正道

    ○船後政府委員 今回の立法の目的が、やはり国民が現実に被害を受けました、その中でも特に社会的に緊急性のあるものの救済に限ったわけでございます。差しとめの問題については、たとえば日照権の問題等をめぐりまして種々議論のあるところでございまして、これを公害の場合にどのように盛り込むかという点につきましては、日照権等々との関係につきまして十分調整を要するところでございますから、そういった問題の進展ともにらみ合わせ今後検討してまいりたいと考えます。
  120. 西田八郎

    ○西田委員 大体時間がきましたので終わりますけれども、いまの説明の中でも大体はっきりしたように、現在の起こっている問題についての処置等も勘案しながら、こういうことでもって、要するに、これは被害者を全面的に救済しようということよりも、加害者に対する多少の手心を加えようということのほうが私としては重点を置かれているように思うのです。したがって、あくまでもこれは無過失なんだから、だから過失のなかった事業にあんまり責任をかぶせるのは気の毒だということのほうが先に立っているんじゃないか。そのことによって被害を受けている国民救済するというよりも、被害者救済するというよりも、加害者であるものが、いままでそれを許してきたという——過失でなかったということは、結局、基準なりなんなり守ってきたということになる。それらをつくってきたのは自分たち責任だ。それを守らせてきておったけれども、なおかつ、過失のないところに問題が起こってきたのだ。だから、これは政府にも責任があるんだけれども、それを全部向こうにかぶせるというのはどうも気が引けるというところが政府案にはありありと見られるような気がするのです。ですから、そういう面からいっても、もう少し慎重に考え、かつ、先ほど申し上げておるようないろいろないわゆる振動、騒音を含めて新たな角度から検討をし、そうして抜本的に考え直すべきものではないかというふうに思うのですが、長官、いかがですか。
  121. 大石武一

    大石国務大臣 このいま御審議を願っております法律案は、確かに十分なものではございません。ございませんけれども、私は今後、この新しい日本公害に対する行政のあり方の画期的なものとして貴重なものと考えております。決していま言ったように、どういう理由加害者を擁護するのかなんていうのは、ちょっと私は想像もつきませんけれども、そのような御批判を賜わりましたので、後日ゆっくりいろいろな理由を承りたいと思いますが、われわれは加害者を助けるために何でつまらない法律をつくる必要がありますか。そんなことは常識でおわかりかと思いますけれども、われわれはそのようなけちな気持ちでやっておるのではございません。ほんとう被害者の立場に立ってやる。ただ、われわれはでき得る限度がございます。それは時間的な制約とかあるいは大きな一つの政府という、たくさんの官庁、役所が集まった中におけるいろいろな折衝とかいろいろなものがございますので、おっしゃるとおりもっともっと大きなものにしたいのでありますけれども、いまでき得る限度ではこの程度でやむを得なかったという、言いわけになりますが、そういうことはありますが、決してそのような加害者を助けるとかいうようなことではなくて、被害者の立場に立って考えておることを御理解願いたいと思います。
  122. 西田八郎

    ○西田委員 もう時間が来ましたので、これで終わります。いまのは長官とやりとりすればもうきりがない、これは際限なく議論しなければならぬところだと思うのです。いずれ私の不十分な点につきましては、あらためて同僚の中からひとつ明確にしていただくことにしまして、本日の私の質問はこれで終わります。
  123. 田中武夫

    田中委員長 以上で西田君の質疑は終わりました。  本日の質疑はこの程度にとどめ、次回は、来たる十二日金曜日午前十時理事会、午前十時三十分から委員長を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。    午後一時三十一分散会