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森参考人 私は、
日本海難防止協会の
理事長をいたしておるものでございます。
日本海難防止協会というのは、お手元に資料をお配りしておきましたので、ごらんいただきたいと思いますけれ
ども、海難
防止の目的のために、海運、水産、造船、港湾、気象、海員組合、保険その他海難
防止に深い
関係を持っておる団体を会員といたしまして、
昭和三十三年に設立されたものでございます。それ以来、海難
防止に関する周知宣伝であるとか、調査研究、訪船相談等、いろいろの活動をいたしてまいったのでございますが、最近は海洋汚染
防止に関する事業をもあわせて行なっております。そういうわけでございまして、当協会では、海難
防止の調査研究という項目の中で、海難
防止の法規の研究も、いままでしばしば
委員会等を設けましてやってまいったような次第でございます。
それで、今回この
法案を御
提出相なりましたことについて申し上げたいことは、まず、わが国の
海上交通の
現状にかんがみまするときに、
海上交通安全法の
制定は最も急を要するものであると確信いたします。そして、今日やっとこの
法案が
提出されたというのは、むしろおそきに失するものではないかという感じさえ持っておるものでございます。
その理由について申し上げますと、まず第一に、近年におけるわが国の
海上の輸送状況が非常に活発になり、重要な港湾とか、これに通じるところの狭
水道なんかの
交通量が非常にふえますとともに、技術革新に伴うところの
船舶の大型化、高速化、特殊化というような現象が起こり、これに伴って操船の性能とか、あるいは
運航の形態なんかがいろいろ多様化してまいったことは、先ほどからも論じられたところでございますが、こういう
状態は放置できないところに来ておるということでございます。こういうような
状態があるからこそ、たとえば浦賀
水道でございますとか、あるいは瀬戸
内海なんかにおきましてたびたび危険な
衝突その他の
事故が起こっておりまして、あわや一大惨事に至るというようなおそれを感ずることが常でございます。昨年新潟で起こりましたジュリアナ号の
事故なんか、ああいうのがこういう
海上交通の過密地帯で起こりましたら、どういうような
被害が起こったであろうかと、考えるだけでもおそろしいような気持ちがするわけでございます。
こういうような
海上の
状態に対しまして、その安全をはかるためにはどうしたらいいかということになりますと、非常にいろいろな問題が考えられると思います。まず、港湾とか狭
水道の
航路のしゅんせつの問題であるとか、港湾施設の
整備の問題であるとか、
航路標識の
整備あるいは情報体制の
確立といった、いわば
交通環境の
整備というような問題が一番必要であることはもちろんでございます。しかし、それだけではこの
交通の安全を期することは不十分でございまして、あわせて
海上交通法規の
整備ということが必要になってくると思うのでございます。先ほどからもお話に出ておりましたが、
海上の安全をはかるための法規といたしましては、
海上衝突予防法とか、特定水域
航行令であるとか、あるいは港則法というようなものがあるのでございます。あるものは国際的な
関係を持っておるものでございますが、いずれもこれらは一船対一船というような状況を前提に置いて考えられたものでございまして、現在のように船がずっと続きまして、いわば流れとしての
海上交通を考えなければならないというような事態に対しましては、十分ではないのでございます。また、港則法のように港域あるいはその周辺だけに効果が及ぶものでは、とうてい現在の
状態に対処できない
状態に至っておるものでございます。
こういうような
状態でございますので、
法律によらないで
海上交通を
規制する
方法は何かないかということも、いままでたびたび試みられております。たとえば、民間の申し合わせによりまして、通航船の
航路を左と右に分けるというようなことも考えられましたし、あるいはまた、行政的に、推薦
航路を横切るというようなことをしないようにというような指導が行なわれたこともございます。しかし、これらのやり方は、いずれも法的な拘束力がございませんので、強制するわけにもいきませんし、それからまた、
航行船舶は非常な数にのぼっておりますので、これを一隻ずつに対して周知徹底するということも非常に困難でございまして、実際その効果が
制限されておるというようなのが
現状でございます。
こういうような
状態でございますので、特に重要港湾に通ずる狭
水道における
海上交通の
規制というようなことを行ないまして、
交通の安全を
確保するためには新たに特別な立法を行なうことがどうしても必要でございます。そうして、これは早急にやらなければならない問題であるということを考えておるわけでございます。そういう
立場から、私
どもといたしましては、従来、
関係官庁をはじめ
関係の方面にいろいろ
意見具申もいたしましたし、また、法令の
整備につきましていろいろ御諮問に応じて技術的なお答えもしておるというのが、いままでの実際でございます。
次に、現在でき上っております
海上交通安全法案の
内容に関しまして
意見を申し上げたいと思います。
昭和四十二年に、
海上安全審議会から
運輸大臣に対して、「
海上交通規制に関する
法制の
整備について」の答申が行なわれております。この答申に基づきまして、私の承知しておるところでは、二回、
海上交通法案が立案せられておるのでございますが、二回とも海運
関係と
漁業関係との調整が難航して、
法案として上程されるというところまでいかなかったように聞いております。
実際、海面を利用するところの各種の活動というものは非常に複雑でございまして、そのうちの海運
関係だけをとってみましても、大型船と
小型船の
関係であるとか、旅客船と貨物船の
関係であるとか、いろいろなものがございまして、利害は必ずしも一致いたさない場合があるのでございます。特に
漁船と運送船との利害につきましては一致しがたい場合があるのも事実であると思います。しかし、
海上の安全と申しますことは、究極におきましては、どの分野の活動にとりましても共通の利益でございます。安全なくして
海上活動ということは考えられないと思うのでございます。しかも、それらの活動の舞台となっておるのはいずれも同じ海面でございますから、相互に譲り合って妥協点を求めるほかはないと考えます。
今回上程されました
法案は、この意味におきまして各方面の利害を調整しておつくりになったものと考えるわけでございますが、またそれだけに不徹底な点と申しますか、あるいは実施上疑問を抱くような点がなしとしないように思われるわけでございます。
いまその幾つかについて申し述べてみますと、まず第一に、この
法案では、適用
海域を東京湾、伊勢湾及び瀬戸
内海に限っておられます。ことに十一の
航路を中心にして
規定をされておるわけでございます。おそらく、これは最も緊急を要する
海域から解決していこうというお考えだろうと思いますけれ
ども、たとえば
航路の選定なんかにつきましては、このほかにもいろいろ
交通の多いところ、重要な
航路もございますので、それ以外のものをほっておいていいのかどうかという点、若干の疑問を持っておる次第でございます。
それから第二番目に、
巨大船が
交通ひんぱんな湾内とかあるいは
内海を
航行するということは許すべきではない。湾外にCTSを設けるというような
方法をとり、パイプラインで石油輸送なんかやったらどうかというような御
意見がございます。もっともな御
意見と存ずるわけでございます。もちろん、大きな船に湾内を自由に走り回られては、
交通安全の面から申しまして決して歓迎すべきことではないと思いますが、しかし、この問題は、国土開発計画と申しますか、工場の配置とか港湾の施設とか、その他非常に広範な面に
関係がございますので、なかなか急にはできない問題ではないかと思います。大型船の湾内
航行にかわるところの方策が研究され、これが実施されるということになりますと非常にけっこうなことと存じますけれ
ども、それを待っておったのでは、
現状はどうにもならないと存じます。大型船を湾内から締め出すというようなことも、ことばとしては非常に景気がいいようにも思いますけれ
ども、なかなか実際的にはそれを待っておれない。したがいまして、さしあたりの問題としては、この湾内を走るところの大型船を前提といたしました
航行安全に関する施策を進めていくことが、どうしても必要ではないかという感じを持っております。
第三番目に、本
法案の
航法に関する
規定の中心は、
巨大船と
漁船に置かれておるように考えるのでございますが、実際通航船の大多数を占めておるのはそれ以外の船でございます。
漁船あるいは
巨大船以外の船の地位はどうなるかという点につきましては、この
法案では明確を欠くうらみがあるように存ぜられるのでございます。特に、今度の
法律が
成立いたしまして特定水域
航行令が廃止されるというようなことにでもなりますと、
巨大船以外の
船舶と
漁船との
関係というものは、
海上衝突予防法によることになるのじゃないかと思いますが、その辺の
関係が複雑であるばかりでなく、また、漁ろうに従事している
船舶に関するこの
法案の二十四条二項の表現は、さらにこの辺の問題を複雑にしているというような感じがいたしまして、その辺懸念をいたしておる次第でございます。
第四番目に、わが国の
沿岸におきます海難のうち、特に大型船の海難についてみますと、外国船が
関係しておるものが非常に多いのでございます。そういう事実にかんがみますと、わが国の
海上交通法規も国際法規とできるだけ歩調を合わしていくということが望ましいと存じます。この点からいきますと、現在改正が検討されておるところの
海上衝突予防
規則のうち、特に深喫水船に関する
規定であるとか、
漁船と一般船の
航法関係の
規定の改正の問題等、いずれもまだこれは進行中でございますが、そういうような改正の方向に注目していく必要があるのではないかという感じがいたします。
第五番目に、本
法案の実施につきましては、
航路の標識の設置の問題であるとか、それから
航路の水深の維持管理の問題であるとか、情報体制の
整備の問題であるとか、その他いろいろの施設面の
配慮を前提とするものであろうと思います。これらの
整備、維持ということは非常に重要でございまして、万全を期していただかなければならないのでございますが、現在の機構だけでこれが十分であるかどうか、懸念をいたす次第でございます。それから、
船舶の
責任とせられているような事項のうち、たとえば海難
船舶の標識の設置というような問題は、これは民間の力をもってしてはなかなか実際上むずかしい問題ではないかと予想いたしますので、こういう点につきましては国家の助力が望ましいというように存じます。
第六番目に、本
法案の実施につきましては、その周知徹底について十分
努力をするとともに、親切な指導を行なっていただきたいということでございます。特に、
隻数からいえば、通航
船舶の大多数を占めておるのは
小型船とか
漁船でございますが、これらの
船舶は、いままでの経験からいきますと、なかなか法令の徹底とか周知というものは行き渡りにくいのが実情でございまして、そのためには、十分に時間をかけまして
努力を傾けて新しい
法律を徹底させて、進んで新しい
交通方法に協力してもらうというような方向に持っていっていただくことが必要であると存じます。なお、わが国の
沿岸には数多くの外国船がやってきておりまして、しかも海難を起こしておるのが多いのでございますから、この方面に対する周知についてもゆるがせにできない問題であろうと存じます。
以上、本
法律案に関します疑問とか希望とかを若干申し上げましたが、いずれにいたしましても、現在の
海上交通が
ふくそうしておる状況はこのまま放置することはできないものでございます以上、各方面の利害を調整して、
海上安全という共通の目的に近づく方策としての立法が絶対に必要であると考えます。その意味におきまして、本
法律案は、現在可能なあらゆる
努力の上にでき上がったものと存じますので、これを一日も早く
成立、実施されんことをお願いいたしまして、私の
意見にかえます。
終わります。