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1972-06-07 第68回国会 衆議院 科学技術振興対策特別委員会 第14号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十七年六月七日(水曜日)     午後一時二十五分開議  出席委員    委員長 渡部 一郎君    理事 木野 晴夫君 理事 佐々木義武君    理事 田川 誠一君 理事 藤本 孝雄君    理事 前田 正男君 理事 石川 次夫君    理事 近江巳記夫君 理事 吉田 之久君       大石 八治君    橋口  隆君       福井  勇君    井上 普方君       堂森 芳夫君    三木 喜夫君       古寺  宏君    内海  清君       山原健二郎君  出席国務大臣         国 務 大 臣         (科学技術庁長         官)      木内 四郎君  出席政府委員         科学技術政務次         官       粟山 ひで君         科学技術庁長官         官房長     井上  保君         科学技術庁研究         調整局長    千葉  博君         厚生省公衆衛生         局長      滝沢  正君         厚生省医務局長 松尾 正雄君  委員外出席者         科学技術庁原子         力局次長    倉本 昌昭君         文部省大学学術         局研究助成課長 手塚  晃君         国立がんセン         ター研究所長  中原 和郎君         参  考  人         (東京大学教授太田 邦夫君         参  考  人         (財団法人ガン         研究会ガン研究         所所長)    吉田 富三君     ————————————— 委員の異動 六月七日  辞任         補欠選任   近江巳記夫君     古寺  宏君 同日  辞任         補欠選任   古寺  宏君     近江巳記夫君     ————————————— 本日の会議に付した案件  科学技術振興対策に関する件(対ガン科学に関  する問題)      ————◇—————
  2. 渡部一郎

    渡部委員長 これより会議を開きます。  科学技術振興対策に関する件について調査を進めます。  対ガン科学に関する問題調査のため、本日、参考人として財団法人ガン研究会ガン研究所長吉田富三君及び東京大学教授太田邦夫君に御出席を願っております。  この際、両参考人に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用中のところ本委員会に御出席くださいまして、ありがとうございます。  わが国のガン研究は、ガンに関する各種学会研究機関、病院、大学等において熱心に進められているのでありますが、医学の急速な進歩にもかかわらず、ガン患者は、日本のみならず世界的に年々増加の傾向を示していることは、まことに憂慮すべき状態であります。加うるに、高度経済成長に伴う大気、水質、土壌等環境汚染は想像を越える速度で進行しており、これらと発ガンとの関係についても、国民は少なからず危惧の念を抱いていることは事実であります。  そこで、本日は、ガンに関する専門家である両参考人から御意見を承り、本問題調査参考に資したいと存じます。どうかそれぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べくださるようお願い申し上げます。  それでは、最初に、吉田参考人よりお願いいたします。
  3. 吉田富三

    吉田参考人 吉田でございます。  最初意見を十五分ほどということでございますので、そのくらいの時間で申してみます。  まず、ガン研究目標はどういうものかということを考えてみますると、第一はガン原因を究明いたしまして、それによって予防対策を樹立することができるようにすること、これが一つの大きな目標であります。第二は、治療対策であります。ガンにかかった人の治療に完全な治癒を期待し得るような治療方法を見出すこと。この治療方法といいますと、現在、外科手術方法と放射線による治療というものがありますが、これはそれぞれ限界を示しておりますので、残るのは化学療法薬剤療法の問題でありますが、こういうものをあわせて完全な治療を期待し得るような方法発見する。  この二つが、研究立場から考えてみましても、ガン研究というのはガンというはっきりした一つの実在する病気を対象とした研究でありますので、それを克服するという目標でありますので、こういうことははっきりしているものだと思うのであります。これは国民の要請ということから考えましても、行政、政治の立場から考えても、そういうことになると思うのであります。  そこで、本日の「対ガン科学に関する問題」というこの問題は、私の了解するところでは、この二つ目標に向かって現在ガン研究がその目標からどのくらい遠いところにあるか、どのくらいの速度で近づきつつあるか、そういうことを念頭に置いての参考意見を述べよということであろうと思うのでありまして、私見を率直に申しますと、私は現在ガン研究はこの目標からはかなり遠いところにある、そう思います。それからこの目標に向かっての速度は、最近かなり鈍化している、鈍いと思うのであります。あるいはさまよっているような姿であると言ったらいいかと思うのであります。これは決して日本だけの問題ではなしに、欧米先進諸国、特にガン研究世界のリーダーをもって自認しており、また、それだけの実力のあると思われるアメリカにおいても、事態はほぼ同じであると私は見ております。  現代ガン研究を顧みてみますると、私は大体四十年の歴史であると思っております。それは一九三〇年、あのころ一、二年の間に、ガン原性化学物質あるいは発ガン化学物質について重大な発見が次々とありました。そのころ、同じときにホルモンによる乳ガンの発生という問題についても新しい発見がありまして、それから戦争まで十年の間、このガン原性化学物質というものは、次から次に新しいものがつくり出されたり、生み出されたりしまして、非常な勢いで進んでまいりました。ホルモン研究も進んでまいりましたし、同時に、ガン原因になるところのウイルスの存在、そういうことにつきましても、十年ほどの間に大きな進歩があったと思います。  それから戦争に入りまして、あと先十年近くの、世界の交流の絶えた時代がありましたが、戦後に至りまして、このガン原因に関する研究というものは、その躍進がストップしております。研究は非常にこまかいところに進んでまいりましたけれども、この研究の方向に一大転換を与えるような重大な発見というものはまだあらわれていない。つまり、それなりに研究はこまかく分散したような形で現状に至っております。つまり、予防対策考え得るようなガン原因に関する知見の開発というものは、まだ学問的には起こっていないという状態であります。それから化学療法につきましては、これは明らかに第二次世界大戦後に登場をいたしまして、サイエンティフィックな研究の場に乗ったものであります。これも最初はナイトロジェンマスタードだとか、そのほか有力な化学物質が次々とできまして、明るい希望を持たせる研究が十年ほどできましたけれども、大きな壁にぶっつかったという状態であります。免疫学的方法研究もずいぶん追求されたと思いますけれども、同じような状態で壁のところで横ばいをしているというような状態であります。いまだその壁をぶち破るハンマーが見つかっていないという、そういうところに、この原因治療に関する四十年ほどの現代ガン研究進歩がここへきてさまよった形になっているのが現状であると私なりに見ております。  こういうときに、日本の国としてどういうことをしているかと申しますと、やはり一番大きいものは、文部省厚生省が出しているガン研究費であります。文部省科学研究費のうち、ガンに関するガン特別研究費というのは、徐々に増額いたしまして、現在では五億から六億にかかっている額であります。厚生省もほぼそれに見合った四億から五億の研究費を盛っております。ですから、学術的研究というものに使える科学研究費は、合わせて十億、日本政府から出ているというのが現状であります。これは前から見れば、ずいぶんの増額でありますが、この研究費が何に使われているかということを見ますると、日本ではこれが自由なるガン研究に使われている。自由なる研究というのは、研究者の自由な発想による、自由に選ばれた研究方法による研究で、外から拘束を加えられない自由な研究、それに各種研究所大学等においてこの十億の金が使われているわけであります。この研究にある希望をつけるとか要望を乗せるということは、研究に関しては日本では総理大臣国会もこれを行なっていない、あるいは総理大臣ガン研究に関してはこういう希望を持っている、こういうことをやってほしいというようなことを研究者にわからすようなことは講じられていない、自由に使われているというのが研究費だと思います。  そこで、こういう状況が外国ではどうかということを見ますると、ヨーロッパの自由諸国、これは日本と大差ないと私は思います。しかし、アメリカは少し様子が違うと思います。大きなポイントをあげてみますると、終戦後間もなくアメリカで、日本立場から見るとびっくりするような金を国会の決議によって出したことがあります。あれは、私が耳学問で聞いているだけでありますけれども国会においてある議員議員のグループが、原子爆弾をつくったアメリカの頭脳と人力と物量とをもってやれば、ガンの克服くらいできないはずはないだろう、金を出してごらんということを言ったのでああいう金が出たということであります。そういう形でアメリカでは考えてまず金が出てきている。その次にケネディ大統領になったときに、脳卒中と心筋梗塞とガンとを克服すれば、アメリカ人は百まで生きるだろうというわかりいい文句で大きな金を出したことがあります。それから、これも日本の十億というような金で考えると、けたはずれの金でありますが、第三番目に、昨年ニクソン大統領が百ミリオン、一億ドルの研究費ガンに対して出しておりまして、世界各国に向かっても、コントラクト、契約研究をやろうというようなことを呼びかけてきておるわけでありますが、これがまた増額される見通しであるということであります。  こういう三つのことを考えてみましても、アメリカでは金を出すときに、こういう目標で出すのだとは言わない。はっきり、エクスプリシットリーにそういうことは言っていないけれども目標は何となく流れている。この目標に向かって金を出すのだ、この目標というのは最初二つだと思います。そういうもので出しているのであります。  こういうことに関連して、私は実は十日ほど前にも、今度のニクソンの金で世界の文献をアメリカに集めて研究データのバンクをつくるという会議に呼ばれて行ってまいりましたのですが、特に最近痛感したのですが、アメリカではこういうガン研究をどうするかというような国民に緊急な問題のときに、大統領と申しますか、国会姿勢というのは、日本とかなり違っていると思う。たとえば大統領ガン研究はどこまで進んでいるであろうかというような質問をすることはないのであります。どうしたらガン研究が進められるかという、その目標に向かう最短距離は何であろうかということを研究者に求めるという形、相談するという形で近づいてくるように思います。大統領学者に相談をしかけてくる、一緒になって考える、そういう姿勢アメリカは非常にはっきりしていると思うのです。その三つの金の出し方の場合、それがどう運用されるかということについてそうであったのであります。  そこで、少し余談になるかと思いますが、ここに国立がんセンター研究所中原所長もおられるので、あとで御意見を伺いたいと思いますけれども、今度アメリカ国立ガン研究所所長は、大統領の親任といいますか、直接の任命になっております。いままでは国立衛生研究所の中のガン研究所長であったのですが、大統領直接になっております。そういうことは、アメリカでは国立ガン研究所所長大統領に直接責任を持つということ、つまり研究所大統領一体である、つまり国民納税者一体なんだということをはっきり打ち出すのがアメリカの行き方であるように思います。  ところが、日本では、国立というのは、これはあとから御意見を伺いたいところなんですが、省立だと思うのです。厚生省立運輸省立農林省立文部省立という省の立であって、総理大臣は直接関係しない。したがって、国会は直接関与していない、そういう形があると思うのであります。そういうところから、国立研究所あるいは国立大学といっても、国民に対して直接に責任を負っているとは自覚しない。納税者の金を使っているのだという自覚がなくなっている、乏しいということが起こっていると思います。これは国立大学を見れば一番よくわかるのですが、国立大学学長会議文部大臣の言うことには何でも反対する、文部大臣と対立する、文部大臣が中教審の委員をお願いしても拒絶する、これはアメリカ流考えからは出てこない。そしてそれに対して、総理大臣国会も一切口を出さない。文部大臣孤立無援であります。こういう奇現象というのは、国立ということでアメリカのナショナルインスティチュートというものと一緒考えられない、そういうことだと思うのであります。  それで、日本ガン研究費、つまり国民の納税されたそのお金というのは、そういう大学に均等に分けられて、自由なる研究に使われている。そういうところで、ガン対策をどうしようかというようなときに、日本のそういう研究体制あり方、それから国民意識あり方研究者意識あり方というようなことでかなり検討を要するところがあると思います。にわかにそれを改善することはむずかしいかと思いますけれども、そういうところに大きな問題がこれからあるように思います。少し時間を超過しましたが、こういうことが一応私の申し上げたいところであります。  最後に、結びとして申しますと、このアメリカの一億ドルという大きな金がどういうぐあいに使われるのかという問題は、たいへん興味のあるところでありますが、これはたいへんむずかしいし、ここでは私は触れることができないので、それは預けて触れないことにいたします。  それから第二点は、アメリカのようにこういう大きな金をかけて、大きな網をかけて予防方策でも研究してみようというやり方と、日本の従来の古典的な自由主義に立った自由なる研究というものと、究極の成果としてどっちがいいのかということは、これはたいへんむずかしい問題で、私も意見を控えるべきことだと思います。ただ、日本でも総理大臣が、ガン研究はどの辺まで進んでおりますかなというような御下間のようなことをされるのではなく、大統領研究所とが一体になって、国民に対してわれわれが負っている責任はその質も量も同じだということで、研究者一体になってこのガン対策を練る、そういう姿は日本でもある程度導入してもいいのではないか、そういう感想を持っております。  たいへん話を簡単にしましたので、はっきりし過ぎたところもございますけれども、後ほど御質問のときに訂正の機会があれば……。
  4. 渡部一郎

    渡部委員長 どうもありがとうございました。  次に、太田参考人にお願いいたします。
  5. 太田邦夫

    太田参考人 私、東京大学太田でございます。  吉田先生はたいへん崇高なお話をなさいました。吉田先生は主として基礎的のガン実験的研究を推進なされた世界的な巨人でありますが、私はむしろ人体におけるガンのことをいままでやってまいりました。それの裏づけのための実験を少しずつやったという程度のものでありますので、ものの見方が吉田先生とはたいへん違いまして、あるいは少しこましゃくれたことになりまして、大統領の話は出てこないと思いますが、私はそういう意味で、やはり医者医学者として考えますと、ガン対策は、先ほどお話がありましたように、一つには予防が第一であります。第二には治療であります。  その予防の点につきましては、主として基礎的の実験が必要になってまいりますが、治療の面、これはまだやることがずいぶんあると思います。実際に日本において、たとえば胃ガン早期発見あるいは早期治療というようなことが行なわれまして、世界的には非常に注目されて、胃ガンに関しては日本世界じゅうのメッカになっているというような状態でありまして、たいへんなコントリビューションをしたと私ども考えております。そのほか子宮ガン等につきましても、すでに日本子宮ガン死亡率が下がっております。胃ガンは、ついでに申しますと、世界各国文明国ではだいぶ前から徐々に下降の線でありましたのに、日本だけは少しずつのぼっておりました。ところが、最近になりまして、日本でも少しずつ下がってきたというようなことであります。  医学の他の科学分野と非常に違いますところは、たとえば工学系統でありますと、ある新しい材料ができ、あるいは新しい技術——接着法とか接続法とかいうようなものができますと、ある橋がかかるわけであります。医学はそうではありませんで、いつも未知なものをかかえていながら、割り切れないものを持ちながら、それに刻々と対処していかなければそのときに生きている人間のためにサービスすることができないという非常に矛盾した面を含んでおります。  ガンの場合につきましても、やはり同じだと思います。それに対する学者あるいは医者態度は、先ほどアメリカの話が出ましたけれども、最近、アメリカ日本では非常に差異があるように私は思います。大統領が号令したからかどうかわかりませんけれども医学者医師も、とにかくガンを撲滅してガン患者をなおしてやろう、そのためにはどうすればいいか、少し行き過ぎなことがあってもやろうという態度が非常に強く打ち出されております。若い医者は、何とかして助けるのだということを非常に意識して仕事をしているように思います。その点がいまの日本医師あるいは医学者全体に浸透しているかどうかということはやはり疑問であって、私ども医学教育に携わっている者はやはり反省しなければならないと私は思っております。  さて、研究のことでございますが、研究研究者にとりましては、非常に言いにくいことでございますけれども、たいへん困難なことであります。一つ一つが困難を打開してやらなければならないことである。そのためには、一つ仕事——仮説というものをつくりまして、その仮説が成り立つならばこの段階ではこれはこうあるべきだという数段の段階を念を押しながら進んでいくわけであります。これは私、中原先生から教わったのでありますけれども、たとえば百の仕事をしても、仮説に合うようなデータが出て、それがほんとう進歩につながっているというようなものは一つ二つである。多くの仕事をしてもそのぐらいのことであります。ですから、研究者がいかに一生懸命やりましても、チャンスと能力ということによってむだ金ができることは確かであります。やはり科学技術的な政策をお立てになります場合に、そういうことは当然あるのだということをお考えおき願いたい。一つの投資でありまして、回収をいかに能率的にするかということの技術は、ほんとうに私は研究面についてははっきりした方法論が打ち立てられていないと思います。やはり優秀で独創性のある研究者を育てるということが一番大事である、少しとんでもないのが出てきても、そのアイデアを生かすというだけの度量が必要であると思います。  そのために、現在の大学あるいは研究所等研究費あるいは研究員あるいはその補助者実態はどうなっているかということを考えますと、これは非常に日本実態はおそろしい、あるいは恥ずかしい状態にあると思います。それは、よい指導者のもとに若いよい研究者の育つべきいすの数が少ない。また、その待遇があまりよくない。よくないために内職をしなければやっていけないということがかなり多いのであります。また、これはどの国でもそういうことがあるのかもしれませんけれども日本では非常に例外的な高さでそういう状態がある。  その次に、私が非常に感じておりますのは、研究補助者の問題であります。現在たとえば国立大学等におきましては、研究補助者定員定員法によって削除されようとしております。これは非常にゆゆしいことでありまして、それではいままで日本大学あるいは研究所研究補助者が十分にあったかというと、非常に少ないのであります。たとえば教授が一人、助教授が一人、それに大学院を出た博士を持っているような助手が二人ぐらいついていて、それに研究補助者が二人ぐらいしかいない。あるいは三人いるところもありますけれども秘書もおりませんし、あるいは図書を管理する人もいない、あるいは材料を整備する人もいない、あるいは研究材料をつくる、あるいは研究機械を整備するという者もいないのであります。そのいない、非常に乏しい人の中から、また研究補助者定員法のワクによって削られようとしております。これは非常にゆゆしいことでありまして、新しい研究所ができますときにも、そういうことをよく考えていろいろ設計いたしましても、上の役所、予算の段階で、これは非常識だというわけで削られる。たとえば、一人の研究者に対して三人ぐらいの補助者があるというのが私は一応のいい形だと思いますが、現在では一対〇・五ぐらいしかない。これは欧米各国先進国に比べて非常に劣っていることであって、研究能率を非常に下げることであると思います。それじゃどうしているのだといいますと、私どももそうでありますけれどもポケットマネーをさいて秘書を雇っている、あるいは研究補助者を雇っている。そういたしますと、この補助者は、政府定員で雇っておられる人と同じことをしているのに、待遇が違う、あるいは社会保障が違うということで、現在行なわれております東京大学内の大学紛争は主としてそれでありますけれども、そういうことが起こってきているのでありまして、有能な研究者もそういうことが起こることをおそれて助手を雇うことをやめている、あるいは大学当局も各教授にそういうことをしないようにということを言っている。つまり、手足を縛って研究をしろというようなことをしているように思います。これはやはりこういうことをお考えになっていただく委員会としてはたいへん大事な問題でありまして、研究関係全般について、私は医学だけではないと思いますが、お考えいただきたいと思います。  それから、機械設備等でありますけれども、いま見ますと、各大学とか研究所で一応の機械設備は整っておるかのごとく見えます。しかし、たとえば欧米研究所で一種類機械が各研究室にあるというときに日本では十くらいの研究室一つあるという程度であります。ですから、数を問題にしないで、ある機械種類だけをあげますと、これもあるこれもあるということでありますけれども、全然違うのであります。ですから、何か同じような研究、同じ測定をするときには、同じ機械に来て順番を待って列をつくらなければならぬというようなことが起こっております。  もう一つ機械に関してでありますが、最近の機械進歩は非常に激しい。大体五年くらいたちますともうその機械はアウトオブデートになり、更新しなければならない。そしてその機械が非常に高いものでございますから、なかなか有能な学者でたくさん研究費を集めている人でも、その研究機械、機材をアップツーデートにすることは非常に困難であります。そういう意味で、日本は形は整ってまいりましたけれども、やはりまだ差があるということを申し上げたいと思います。  それから、国庫からいただいておる研究費はどのくらいかということでありますが、私は大学の例を申し上げます。東京大学で各教授が持っております一講座の研究費は、文部省を出るときはおそらく五百万円程度であろうと思います。しかし、その中には庁費がかなり含まれておりますので、文部省ですでに何%かはねられます。それから東京大学本部ではねられる。それから医学部本部ではねられまして、手元に渡るのは大体二百五十万円くらい、半分くらいの額になるのであります。年間二百五十万円で、若い人をかかえて、いろいろの機械を買い、材料を買ってどれだけの研究ができるかといいますと、非常に限られたものであります。私はほかの学部のことはよく知りませんけれども、各学部も大体同じだと思います。やはり大学研究費はお考えいただかなければ、若い人が育ちにくい。  これは新聞にも出たのですが、現に東京大学医学部で、卒業生で基礎医学をやる人がいないというような状態になりましたのは、大学研究室が他の研究所あるいは外国の研究所に比べて非常にみすぼらしいからではないかと思います。もちろん教授の能力が落ちあるいは学問に魅力がないということはあるかもしれませんせれども一つはそうであります。  若い人を育てるために外国ではどういうことをしておるかというと、研究費を配分するときに、その研究費の中には、若い人を雇って、その人を研究させながら育てていくだけの研究費がついておるのであります。それにはつまりその若い人の生活費も入っておるということであります。これは必要にして十分な程度研究費でありますが、そういうものを与えておる。つまり十万ドルの研究費をもらいますと、そのうちの五、六万ドルで、それで暮らせるような若い人が雇えるわけです。学者が雇える。テクニシャンでなくて若い学者が雇える、こういうことをしているのであります。日本では、これは私もそういうふうにしていただくとけっこうだと思いますけれども、なかなかいろいろなところに困難がありまして実現されないのであります。  ガン治療あるいは予防の問題でありますけれども、私はことにそういうことに関係しておりますが、私がいま自分の専門と関連して非常に残念に思っておりますことは、たとえばガンというので手術をして胃なら胃を切り取りますと、その胃を調べて、どういう種類ガンがどこにあって、それがどこまで発展しておるということを調べる病理学者、つまりガンをなおす医師のチームメートになるべき者がいないということであります。  いま、国際的の常識でありますと、手術をする病院には病理学者がいてそれを調べるということが常識でありますが、日本ではそれは常識になっておりません。これは医療法にそういうことが規定されていないからでありますし、もっと大きな理由は、病理学者を雇いますと非常に金がかかる。病理学者が一生懸命やればやるほど病院のデフィシットを多くしていくということで雇えない。また雇われても非常に安い賃金で雇われる、そういう状態で、現在は病理学者の数が減りまして、雇おうと思ってもいなくなってきたわけであります。つまりそれでは、ガンをなおそうとしておる人は、ガンに向かって鉄砲は撃っておるけれども当たったか当たらないかわからないことをやって、そうして保険のお金をいただいておる。そういう状態であります。つまり、反省のない医療をしておる。これは医療の問題でありますので、研究とは関係ないというふうにお考えかもしれませんけれども医学研究の根本的問題は、日本人にどういう病があって、どういう種類のものがどのくらい、どういう層に、どの地域に発達しておるかということを見るのがやはり出発点だと思います。それが出されていないのであります。  そういうふうなことを申し上げますと我田引水になってまいりますけれども日本ガン研究は一面では世界をリードしておりますけれども、案外根本的なところで穴があります。それは医学界全体が反省しなければならないところでありますけれども、政治家あるいは経済界の方々が、医療とはどういうものであるか、ただ鉄砲を敵に向かって撃てばいいのだというものではなくて、病院でも治療でも、ちゃんとそれが的に当たったか当たらないか、どういう的だったかということを調べる余裕を得られるだけの医療にしないと、世界の笑いものになると思います。  研究費の問題とかあるいは人の問題とか申しましたけれども、これはある意味ではいますぐにでもできることだと思います。病院の問題等は、かなり時間をかけても、国があるいは医学者一つ目標を立てて行なうべきものだと考えております。  たいへん時間をとりまして申しわけありませんでしたが、いささか考えを述べました。
  6. 渡部一郎

    渡部委員長 どうもありがとうございました。  以上で参考人からの冒頭の意見陳述は終わりました。     —————————————
  7. 渡部一郎

    渡部委員長 引き続き中原国立がんセンター研究所長より説明を聴取いたしたいと存じます。中原説明員。
  8. 中原和郎

    中原説明員 説明というのは、どういう説明をいたしますか。
  9. 渡部一郎

    渡部委員長 参考人が対ガン科学問題について一般的に御自分の見解を述べられましたと同じような立場で、研究所長としての立場から意見を述べていただければけっこうだと存じます。詳しいお話はとても無理だと思いますから、それはあと委員質問いたしますから、そのときに質疑応答の形で補足していただけばけっこうだと思います。
  10. 中原和郎

    中原説明員 そういう点でいえば、先ほどの吉田参考人からのお話の、アメリカ日本とのガン研究なるものに対する大統領との密着度というような点なのですけれども、これは私の見地からいたしますと、よしあしであると思います。大統領は、ただ金を出しさえすればできると思っておるが、原子爆弾をつくるのとガンをなおすということとは根本的に違っておる。なぜ違っているかと申しますと、こうこうこういうふうにすれば原子爆弾をつくることができるという原理がわかっていた。だから、そこに大きく金をうんと出してやればできるはずだ。また、それでできた。ガン一体どうしたらいいかというのは、だれも知らないのです。それをやるのがわれわれの責務なんであって、それをただ金さえ出せばできると思ったら私は大間違いだと思うのです。金がなくていいという意味じゃないですけれども、根本的にそこに大きな差がある。ですから、大きくガン対策というものを国家が取り上げるとか総理大臣が取り上げるとか、たいへんそれはけっこうだと思いますが、それがかえって雑音のもとになる可能性がなきにしもあらず。たとえばいまのアメリカ国立ガン研究所ですか、いささか金をもてあましておるのだということであります。はっきり申しますと、これはちょっとおかしな話ですけれども、どうして使おうかということを考えておる。それからあらゆる学者が、たとえばあそこの所長ガンビールス説を非常に大きく言っておる。そうすると、アメリカじゅうの学者がみんなそれに取っついてくる。つまり、そこへ行けば金がもらえると思ってやってくる。そういう烏合の衆が非常にあると思うのです。ガンに対する免疫とそれからいまのビールスの問題、これが現在アメリカ研究の主流をなしていると思います。しかし、ほんとうに何が見つかったのかということになりますと、はなはだ心細い。われわれとしては、やはり研究大統領の号令によらないで、研究者の自主的なものの考え方を尊重してまいりたい、そういうふうに考えております。  そのほかの点で、太田先生の言われたことは全部無条件に承認いたします。全くそのとおりであります。そんなところでございます。
  11. 渡部一郎

    渡部委員長 ありがとうございました。     —————————————
  12. 渡部一郎

    渡部委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。最初井上普方君。
  13. 井上普方

    井上委員 貴重な御意見を承りまして、非常にありがとうございます。私も、先ほどガン研究の先駆者であり、大御所である吉田先生お話を承っておるうちに、戦後ガン研究というものは停滞しておるというお話を承りまして、実ははだ寒い思いがいたしておるのでございますが、それはともかくといたしまして、今後の研究体制あり方につきましてのお話が、中原先生吉田先生との間でだいぶ違っておられるようで、私も学者というものは……(吉田参考人「違っていませんよ。その受け取り方は困ります。全然違っていませんよ。参考としてアメリカを申し上げただけです」と呼ぶ)参考として、アメリカ大統領のもとで、特に中原先生がいま指摘せられたように、研究所長の意見がビールス説であったならばそれに追随する学者が集まって困るというようなことも、私はあるのではなかろうかと思うのでございます。したがいまして、やはり学者というものは自由で、オリジナリティーを持つ方々がたくさん集まって自由に研究さす、そこで初めて新しい知見なりが得られるのではなかろうか、私どもにはこのように考えられるのでございます。  そこで、問題は、国民に対して責任を持つのだということにつきましてのやり方です。その点について、いままでの研究者があまりにも象牙の塔に入り過ぎておったのではなかろうか。それが一つは、数年前の大学紛争一つの大きな原因でもなかったかと私どもには感じられるのであります。しかし、現在、あの貴重なる大学紛争をわれわれは経験いたしましたが、はたしてその後大学研究体制というものがどういうように変わっておるだろうか、この点、私ははなはだ疑問に感ずるのであります。これは先生方が大学で、あるいは名誉教授として、あるいはまた現役の教授としての先生方であられますので、あえて私は申すのでありますが、この点が若い研究者が集まらない原因の最大の要因ではなかろうかと思うのでございます。もちろん太田先生が先ほど指摘されましたように、研究費の不足あるいは研究補助員の不足という問題もありましょう。しかし、現在の若い人々の価値観はわれわれとはだいぶ違っておるのではないだろうか。価値観の大きな転換が行なわれておる時代に、はたして大学研究体制が、若い人たちに即応したような研究体制ができておるのだろうか、この点を私は疑問に思うのでございますが、太田先生の御意見をひとつお伺いいたしたいと思うのでございます。もちろん日本の一講座に対する研究費が非常に少なくて、非常にお困りであるという点はわかるのでございます。もちろん国は、ここにも科学技術白書が出ておりますが、基礎研究は欧州並みに出ておるなんということが出ておりますけれども、実を申しますと、私どもはその内容を見まして実にりつ然とせざるを得ないところがたくさんあるのであります。こういうような点をもう少し明快に、詳しくお話しになっていただきたいと存ずるのであります。  それから学者の社会というのは、先般も私、公害対策委員会にちょっと出ておりますと、何でございますか、例のイタイイタイ病につきましての原因につきましてけんけんがくがくがございました。そこで両者が感情的な対立を示しておるようでございまして、私は学者の狭量さにあきれ果てたのであります。そういうようなことがはたして日本医学界にないだろうか。あるいは、われわれ一般人から見ますと、例の長野の研究者に対して目くそ鼻くそというような話が出てみたりするようなところに何かあるのではなかろうかというのが国民一般の感覚と私らには受け取られるのであります。あれは、日大の皮膚科の教授の何とかワクチンというのは、中原先生にお伺いするのですが、一体日本研究体制の中でどういうように取り上げられておるのでございましょうか、その点ひとつお伺いいたしたいのであります。  いろいろとお伺いしたいことがたくさんありますけれども、もう少し学者はみずからの、ガン研究をやられておる方々ももう少しワクを、自分の壁を取っ払って、フリーな態度でやっていただく必要があるのではないかというような気が部外者としてはするのでございますが、この点いかがでございましょう。どなたでもけっこうでございます。ひとつお伺いいたしたいのでございます。   〔吉田参考人「個人でいえば、ワクなんぞない   ですね」と呼ぶ〕
  14. 渡部一郎

    渡部委員長 参考人の先生方に申し上げますが、委員会のしきたりとして、御発言のときにはどうか手をおあげになっていただきますようにお願いいたします。  それから先生方、お声が少し小さいようで速記者が困っておりますので、少し大き目にひとつお願いいたします。質問者側はばかに大きな声を出しますので、ひとつよろしくお願いいたします。  それから、御質問者に申し上げます。質問をあんまりたくさん一ぺんになさいますと、先生方、科学的にお答えしにくかろうと思いますから、一問ずつきちっとお話をお願いいたします。  それでは最初太田先生、お願いいたします。
  15. 太田邦夫

    太田参考人 先ほどの御質問の中で、大学における研究体制がどう変わったかということでありますが、これは非常に私、説明がしにくいと思いますのは、じゃ大学研究はどうあるのが一番いいとお考えか、いまどうなっているんだ、それじゃおかしいじゃないかというお話だといいんですが、われわれ大学の先生をしております者は何が一番大事かといいますと、やはり大学における研究室というのはよい学者を育てることだと思います。ですからそのためにはあらゆることをしております。決して若い人の芽をつむというようなことはするわけがありません。  そういう意味からいいますと、私自身、紛争前と紛争後は全然変わっておりません、私自身の態度は。それから若い者の態度はあまり変わっていないので私は少し不満であります。つまり、学問というのはだれでもできるものではないと思います。学問に入るということを希望する若い人がおりましても、その人はある程度やってみて自分がいけるかどうか、自信を得られるかどうかということをためす期間が必要だと思うのです。また指導者としましても、この人はどちらの方向に伸びるか、あるいは非常に優秀な人であるあるいはやはりだめな人かという判断をする責任はあると思います。しかし、それを何か札をつけてしまうということはいたしません。それは、アドバイスはいたしますけれども、初めからこの人はだめだというようなことを言うことはありません。  それから、私が非常に失望しておるというのは、若い世代の人が自分のオリジナリティーでどんどん伸びていくだけの気概を持つ人がふえたかというと、ふえていないということです。むしろたよる傾向がふえてきたと思います。これは非常に残念でありますが、実際そうです。しかし、中には非常に優秀な人もおります。これは紛争の前とあとで違うかというと、私は違わないと思います。いずれにしても非常にすぐれた研究者というものはそうたくさん出るわけのものでなくて、おそらく十人入りますとその中で一人とか二人とかいうような数であろうと思います。  それから第二の点で、学者が狭量だということをおっしゃいましたけれども、これはいろいろのものの価値を判断いたしますときは、自分の経験あるいは自分の経験から人のデータを判断して正しいと思う、そういう基盤に立ってするわけであります。それが第一の立場、それから第二の立場は、学問というものは必ず新しい知見が出て古い考えは打ち破られるのが、これが最も普通のことであります。事実私が非常に恥ずかしい思いをしておりますのは、私の主張してきた点が私の助手であった人によって反対の証明をされたというふうなこともあります。しかし、その人をそれじゃ恨むか、そんなことは全然ありません。その人の能力を非常に尊重しておる。すべての先生はそういう経験をしておられると思います。決して私だけじゃないと思います。そういうことが起こることが先生はうれしいのでありまして、決してそんな狭量なものでありません。つまり、自然科学に関する限りは、私は狭量な学者というものは、大体世の中に認められないと思います。だから、ある地位を持つことはないと思います。そういう意味で、私はそういうことを局外の方が御心配になるのはもっともでありますけれども、しかし、危惧ではないか。しかし、歴史から見ますと、たとえばルードルフ・ヴィルヒョウが若い学者の説に反対をしたということはありますが、学問の進歩がいつもこう反対意見が出て進歩するんだということをよく知っていればあたりまえの話だと私は思っております。  たいへん失礼でございますけれども……。
  16. 中原和郎

    中原説明員 ただいまのお話で、何でしたか、研究者が象牙の塔に立てこもっておる、そうして基礎研究ばかりやって、それが実際役に立たぬではないかというようなこともお話しになった——そんなことはない、それではいまの答弁は必要がないことになります。  BCGワクチンでしたか、あれは近いうちに——現時点において方々で、アメリカでもやっておりますし、おそらくきかないんだと思います。実験的にはある程度の効果は認められるかもしれない。実験データというのは、動物においてですが、人間には非常に——第一、あぶないと思います。
  17. 井上普方

    井上委員 いろいろとお伺いしたいのですが、太田先生、なぜ若い人たちが集まらないのか、特に病理学者というのは非常に少なくなって、全国でもほとんどなくなっておるんだろう、少なくなりつつあるのが現状じゃないかと思います。先生のおっしゃるように、やはり病理学者がおることによって私は基礎的データは整えられると思います。この病理学者が少なくなってきておる、そうしてまた病理学を専攻する人たちが非常に少なくなってきておる原因は、研究費の不足はもちろんのことではありますが、そのほかに何かあるのじゃないのだろうか。特に東大におきましては基礎医学に入る人がことしは全然なかったというような新聞記事を見まして、そういう傾向はずっと続いておったのが事実でありますが、そういうような現象が出てきておる。これはいまの若い人たちの新しい価値観というものに対して現在の制度そのものがついていけないのではないだろうか、私はこのような感じがしてならないのでありますけれども、この点お伺いしたいのです。
  18. 太田邦夫

    太田参考人 まず第一に、病理学者の数が減ってきておるということは、ふえる傾向がとまっておるということでありまして、決して数がアブソルートに減っているというわけではありません。ただ需要が非常にふえてきております。というのは、新しい病院ができて需要があるのでありますが、それを満たすことができない状態であります。  その原因でございますが、価値観も私は確かにあると思います。その価値観がたとえば学問的な価値観とかあるいは人生の価値観とかいうことがあると思いますが、私は一つには、これはどのくらいの重要さを持っておるかわかりませんけれども、やはり経済的の問題があるんだと思います、経済的のものも価値観だと思いますが。それからもう一つ、これは非常に困ったと申しましたけれども、大体それじゃ基礎医学に行く者がどのくらいいるかといいますと、吉田先生が前に、もう十年か十五年前にお調べになったとあまり変わらないのであります。百人東京大学医学部を卒業いたしますと、九十五人は臨床家になります、あるいは社会医学者になりますが、あと五人ぐらいが方々の基礎医学教室に入るということであります。それで新しい基礎医学教室、たとえばメディカルエレクトロニクスとかいうものができますと、一時はちょっと人がふえますけれども、平均しますとほとんど基礎に行く人は五%というのがコンスタントであります。ですからほかの大学においては、たとえば卒業後十年間基礎をやる人というようなものの数字あるいは五年間やる人の数字、あるいは二十年たったときにどうなっておるかというような数字を、正確に調べてみたことはありませんけれども東京大学より少ないのじゃないかと思います。
  19. 井上普方

    井上委員 それでは絶対数は確保できておるのだというお話でございますので、基礎医学者が少なくなっておるということについての私どものおそれというものはある程度なにでございますが、しかしともかく、いずれにいたしましても、そういうような医学教育に携わられる方でございますので、特にこの点につきましても、さらに一そうの御努力をお願いいたしたい、このように思う次第であります。  ガン研究費が、端的に申しまして、年間三十億、国が出したのだ。けれども、はたして末端の研究者にどれだけいっているのかという点、私ども実は不安であるのです。科学研究費の振り割りにいたしましても、共同研究で、二十人に対して一千万円渡したというようなことでは、これは文献の印刷費だけにすぎないというようなことも起こってくるのじゃなかろうかと実は私は感ずるのです。それを効率的にやるにはどうしたらいいのだろうか。ガン研究費が出ましても、それを効率的に、末端に届くには一体どうすればいいのだろうか、この点は御意見ございますか、どうでございますか。
  20. 太田邦夫

    太田参考人 先ほど二十人で一千万円とおっしゃいましたけれども、それだけいただけるのは非常に幸福な研究者でありまして、これは補助金でありまして、あるいは助成金でありまして、これだけで全部研究しろというわけではないのでございます。ですから何とかしてやって、ほかのところからのお金も入ってくるでございましょうし、大学の講座費を使うこともありますし、いろいろなことをしてやりくりをしておるのがほんとうでございます。しかし、それだけの研究費をいただける人は幸福なほう、現状からいいますとそうでございます。
  21. 井上普方

    井上委員 しかし私どもは、対ガン研究費として、先ほども吉田先生がおっしゃられたように、国では十億円ぐらいしか出ていないという話でございますけれども、いかにこれが効率的に使われるかということを、私どもは少ないながらもそういうことを念願いたしておるのでございます。一方におきましては、先ほど申しましたように、学者に自由に研究をさせたほうが、私は学問の進歩のためにもなると思いますので、そこらあたりをいかに調和させるかというのが一つの大きな問題だろうと思いますが、これにつきまして御意見ございませんか。
  22. 太田邦夫

    太田参考人 実は国から出ております文部省科学研究費につきましては、吉田先生がこのガン研究費の基礎班というものをおつくりになりまして、その班長をおやりになっております。そして日本におけるガン研究者、若い層も含めて大体どのくらいかと申しますと、いまのところ六百人から八百人ぐらいというところであります。そういう若い人たちも含めた組織ができておりまして、共同研究とかあるいは討議の場とかいうものをつとめて持つようになっております。それから、シンポジウムを開催するとかいうようなことで、私は、現在いただいておりますガン研究費は、現在の状態では非常に効率的に使われておると思います。その研究費で行なわれた以外のいろいろな情報もその席を通じて流されておりまして、私はちょっとこれ以上うまいやり方はないのではないかと思うぐらいであります。
  23. 井上普方

    井上委員 それで安心いたしまして、私、質問を打ち切ります。
  24. 渡部一郎

    渡部委員長 次に堂森芳夫君。
  25. 堂森芳夫

    堂森委員 私、他の委員会出席しておりまして、途中から出席したものですから、参考人の皆さんの御発言を聞き違えておるあるいは聞き漏らしておる点があると存じますが、二、三の点について、しろうとでありますので、簡単な質問をして御答弁を願いたい、こう思うのであります。  われわれの若いときよりも、戦後、特に近年、ガン死亡率が非常に高いようにわれわれしろうとは思うのでありますが、それはガンにも、いろいろな場所によって違うでありましょうけれども、たとえばわれわれ若いころには肺ガンというようなことはあまり聞かなかったのです。しかし、このごろ、よく年配者の人で、肺ガンで死んだ、つい最近まで元気でおった人がなくなって、肺ガンであった、こういうようなことを聞くのでありますが、わが国におけるガンの発生率といいますか、死亡率といいますか、そういう傾向は、戦前と今日でどんなふうな傾向でございましょう。まずこの点について、太田先生あるいは三人とも非常な専門家でありますので、御答弁を願いたい、こう思います。吉田先生でもどなたでもけっこうであります。
  26. 太田邦夫

    太田参考人 私が一番若いので……。  ガンの発生率とかというような問題は、非常にむずかしいことが入っております。現在厚生省でお調べになっております死因統計の中でガン死が幾らあるかということは、死亡診断書が出ますが、保健所に出るわけですが、それが全部統計調査部に集まりまして、その診断をもとにして行なわれておるわけであります。これはつまり一人一人のお医者さんが診断した診断名で載っているわけでありまして、それが正しかったかどうかということはわからないわけでございます。たとえば戦前、いまのような医療が普及していない場合には、医者にかからないで死んだ人もありますでしょうし、あるいは在宅死亡もたくさんあったと思います。そのために、たとえば肺炎でなくなったということになっているけれどもほんとうは肺ガンだったかもしれない。つまり診断率が向上したということで肺ガンがふえたということはあると思います。しかし、そういういろいろな面を考慮しましても、肺ガンがふえておることは確かだということが、世界的に各国で分析されておりまして、いわれております。  その原因は何かということになってくると思いますが、肺ガンにつきましては、たとえばエアポリューションとかたばことかいろいろなことがございます。しかし、それでみな説明できるかというと実はできないところがあります。たとえば子宮ガンは非常な勢いで減っておる。これは世界的に減っておりますが、どうして減ったのかというと、細胞診が発達して子宮ガンにかかる人はあるけれども死ぬ人は減ってきたのだ、あるいは早期に治療してしまうからだというようなことも言えるのでありますが、しかし私、前に文献を調べましたときに、そういうことがわからなくて、何だかわからなくてふえてまた減ってくるというのがあるのでございます。たとえば前立腺ガンというものは現在アメリカの男性の死亡の中では非常に大きな率を占めております。第一位に罹患率としてはなるのであります。これはアメリカで白人を代表するようなガンだと思いますが、一九〇〇年ごろは前立腺ガンというのは非常に珍しい病であった。それから相当の解剖をやっておるところでも前立腺ガンというものはそんなに見つけていないのであります。ところが、非常にふえてきてのし上がってきた。ということは、どういうわけかどうもわからない。これはエアポリューションと前立腺とがかなり遠いものですから、すぐには結びつかない。あるいはホルモンの問題とかストレスの問題とかありますけれども、そういうスペキュレーションはできますけれども、ほとんど説明をつけることができないものがあります。肺ガンの場合は、一部は説明がつくけれども、全部が説明がつくというわけには私はまいらないのではないかと考えております。
  27. 堂森芳夫

    堂森委員 私はしろうとですから率直なお尋ねをするんですが、たとえば胃ガンは、さっきの太田参考人でございましたか、日本世界のメッカだとかこうおっしゃる。これは多いという意味でもございましょうか、あまり名誉なメッカではないわけです。そこで、われわれ子供のころから知っておるのは、奈良県でありますか、山間部で、毎朝熱いおかゆを食べる地域では非常にガンになる人が多いとか、何か食事に熱いものを特別に食べるような地域ではガンの発生数が高いとか、食物と胃ガンとは関係があるんじゃないか、いろいろなことが、これは単に民間で言っている話であるかもしれません、そういうことも聞いております。  そこで、いまも前立腺ガンについて原因がわからぬ、肺ガンはどういうわけで起きるのかそれはわからぬということで、いろいろ総合しますと、三人の参考人の方にお尋ねしたいのですが、一体ガンというものはどういう原因でなるか、これはどうなんでございましょうか。それはわからないということでございましょうか。もっといろいろ突っ込んでお聞きしてみたいのですが、いかがでごさいましょうか。これはしろうとだから、よく答弁してください、わかるように。
  28. 中原和郎

    中原説明員 ガン原因は多種多様なりと昔から山極教援が言われておるのであります。今日それはなお正しいのであります。というのは、どれがガン原因だ、これこそ一つガン原因だというものがつかまれていないからであります。たとえばバイラス説をとる人はバイラスだと言っております。しかし、ほんとうに人間のガンがバイラスでできるという証明は一つもないのです。エアポリューション、たばこが肺ガン原因である、それも確かに考えられる一つの大きなファクターではありますけれども、それではたばこをやめたらなくなるか、決してそうじゃないです。ですからまだまだこれは相当の研究を要する事態である。そもそもガンができるということは、ノーマルな細胞、われわれの普通のからだの細胞がガン細胞に変わるということを意味する。まずそれが起こらなければならぬ。それはやはり細胞の中の遺伝因子の変化を想定しなければならない。というと、つまり今日、今日といってももう何十年になりますけれども、いわゆる分子生物学の領域でこれを開発しなければならぬ、こういうことになるわけであります。
  29. 堂森芳夫

    堂森委員 そうしますと、一体ガンというものをわれわれ人類が征服できるという希望ですか、いつからいつ、それはわからぬかもしれませんが、いまの話では原因がわからぬ。それでは一体そういう征服ができるような希望をわれわれ人類は持てるのでしょうか、あるいはいまの医学じゃそれは全然持てぬということなのでございますか、その辺をひとつお教え願いたいと思います。
  30. 中原和郎

    中原説明員 これはガン原因となるべきものが非常にたくさんあるということを最初に申し上げました。そのうち一つでも除けば除いただけ、それだけ人間がガンにかかるチャンスが少なくなるということです。ですから、ガン予防ということも必ずしも夢ではないと思っております。ただし、人間の生活環境の中にはガン原的に働くものが非常にたくさんありますので、もし少しぐらい、たばこをやめるとかなんとかいろいろなことをやってみたところで結局間に合わないで、人間が百まで生きるとか百五十まで生きるとすれば、全部人間がガンになって死ぬ可能性は確かに残ると思うのでございます。
  31. 堂森芳夫

    堂森委員 たくさんの原因があるであろうというふうに考えられる、こういうことぐらいは私たちにもわかるわけでありますが、私はさっきの中原先生の御発言を別に曲げてとるわけじゃないですが、金だけあってもできないんだというお話。私は金だけあったら何でもできると言うのじゃないんですが、金がなくてはいかぬと思うのです。絶対必要だと思うのです。  たとえば、私はよく国会の派遣で海外へ出張させられます。せんだって南米のベネズエラへ行きました。あそこの首都で、私らの高等学校のずっと後輩が私の名前を知っていて、会いたいといって大使から連絡があった。会ってみたのです。おれは日本へ帰れぬと言うのですね。ベネズエラは石油で裕福な国ですから月給は日本の金で七、八十万円もらえるし、住宅はただだし、研究費はふんだんにあるし、あんな五万や三万の月給の日本へ帰れるかと言うのです。そうだと思うのですね。やはり六百、八百の学者というものが基礎研究をやっておる。これはふんだんに金があるということは絶対条件だと私は思うのです。あすのパンを心配するようなことで学者がどうして勉強できるのでしょうか。それはやはり一人前の生活ができるような保証をしなければ、五万や六万や十万の月給くらいでどうして伸びていきますか。それはお金は絶対必要だと思うのです。そうでないでしょうか。  そして、どんどん金をつぎ込んで、たとえばガン原因がたくさんある。たくさんのお命をつぎ込んで、こういう場合もこういう場合もこういう場合もあるが、これは人間の力で、いまの学問で、いまのわれわれ人間の持っておる英知で省いていくことができるかどうかということをずっとやるということが私は絶対必要だと思うのです。金がなかったらそんなぜいたくなことはできません。私は、さっき吉田参考人がおっしゃった考え方には全部は賛成できないのですが、国がもっと金をつぎ込む必要があるということだけは絶対私は賛成なのです。文部大臣がどうの、大学教授がどうの、あれは私はちょっと賛成できませんけれども、別に中教審の委員にならねばならぬという理屈は私はないと思うのです。われわれが政権をとった場合は別でありますが、とにかくいまの内閣に協力しておってもそれができぬのはあたりまえでありますから、私はそれはいいと思うのです。しかし、金をどんどん国が大量につぎ込んでいくということ以外には、このガンというような難問題に真剣に取り組む、しかも効果があるような研究をどんどんやっていくということは不可能だと思うのです。そんなわずかばかりの金でどうしてできるのでしょうか。  吉田先生に一ぺんお尋ねしますが、一体日本ガンのための基礎研究を本格的に、世界一流のようなそういう研究陣でやっていくためには、どれくらい一年に金があったらいいと思われますか。それくらいの構想はあるでしょう。御答弁願いたいと思います。
  32. 吉田富三

    吉田参考人 私はガン研究を男の勢いでやってみせるというような、これだけの金があったらやれるという、そういう勢いのいいことはあまり賛成いたしません。中原さんがさっき、金さえあればいい、それだけでできるものではないと言われたのは、いまおっしゃった意味ではないと思うのです。ガン研究のような未知の世界を開拓していくのには、非常に落ちついた、長い時間をかけたすぐれた研究者の集中した研究が必要なのであって、それは金銭とは別の話だ、そういう意味であるということを私は中原さんにかわって申し上げておきます。それは、この先生の持論を私は長年知っているからであります。ただ、そういう研究者をつくるのに金が要るということはお説のとおりであると思う。ですから、その二つは違うことです。  それから、日本でいまガン研究、基礎研究を十分に推進していくのにどれくらい金が要るかという、そういう計算の用意は私にはありません。けれども、大きな金が必要だということは私も同感でありますけれども、どのくらいと言われると私は困ります。ただ、おたくが政権をおとりになったときには話は別だということばじりをとるようでありますけれども、このガン研究のごときは私は超党派でなければならぬと思います。私の聞いているところでは、ニクソンが一億ドルのお金を出したというのは、あれは本来民主党のケネディの案だそうであります。それをニクソンが一年早く出しているということで、アメリカガン研究所は、所長はケネディとたいへんよく連絡をとってそういう仕事をしていっている、そういうことを聞いて、そういうものでなければならぬと私は感じました。ですから、超党派でお願いしたいと思うのです。  大きな金もでありますが、あるいは我田引水になって恐縮かと思いますけれども、私は財団法人の癌研究研究所所長として責任を持っておる者でありますが、いま私の計画しておりますのは、あの研究所化学療法研究センターというものをつくることであります。それはいまいろいろな化学療法の薬剤、いろいろありますけれども、それの使い方を現在あるものをできるだけよく使っていくという方法研究する、そういう臨床と基礎研究とを完全に結びつけるような研究をする場所であります。つまり、手術を終わった人はあと化学療法以外に手はないわけですね。しかし、その人が七割くらい、三年か五年で再発するというようなのを何とぞその半分にでももっと減していこうというのには、そこの研究をしていかなければならぬ。再発を早期発見早期治療するような研究をしよう、そういうのに研究所の建物で三億円ほどの金が要る。それの経常費に毎年四千万ぐらいの金が要る。それに研究病棟をつくれば十億くらいの金が要るわけですが、研究所だけの場合には四千万くらいずぶに、まるまる外からもらわなければならない。その金のくめんにいま日夜苦労しているわけです。その運営費の四千万と見積もって、毎年毎年、千五百万はアメリカから契約研究でもらえる。日本ではまだもらうめどがついていないのです。どこからもそういうものを出せるめどはない。政府へ言ったってこれはとても出てこない金ですね。そういう小さな金で苦心しているということも、皆さまそういう穴があるということ、財団法人の研究所にはそういう金がないわけです。昔のような殿さまがあったり、大財閥があって、五、六千万ならおれが毎年ポケットから出してやるよというような人はいまいないわけですから、たいへん苦労するのだという、大きな金もですが、私はいまそういう小さい金の計算をいたしております。  私の考えるところでは、これはガン研究を、私のところの病院と研究所研究を人体の治癒という、治療という方向に集中していく一つの無言の中心物になるわけです。若い人がそれに興味を持ってくるようになる、研究の方向が自然にある目標に向かっていくというようなことで、たいへん大事なことだと私は信じてその仕事にかかっている。そういう、これはささやかなものですが、実態でありまして、巨大な計算でないので、たいへん恐縮でありますが、小さな計算を旧しました。
  33. 堂森芳夫

    堂森委員 ただいまの吉田参考人の御答弁で、私の申し上げたことに誤解があると思うのです。私はガン研究に何も党派がどうだとか、そんなことを申した覚えはないと思うのであります。中教審のことに関してということであって、何もあなたがさっき中教審の委員に任命したところ、国立大学教授、たとえば加藤学長なんかのことをおっしゃるのじゃないかと思うのですが、あれがどうと、こうおっしゃったから、これはそれを断わったっていいじゃないか、こういうことを申し上げたのであって、ガンについてどうこうということを私言っておるわけではないのです。それはガンについて私は党派がどうだ、そんなけちなことを言うはずもないし、それから、私は幾らしろうとでも金が幾らあって、これだけ使えばガンがめどがつく、そんなことを私は言っておるのじゃないのです。少なくとも、日本ガンに対する研究世界一流並みの国のような姿でガン研究を進めるにはどれくらいの金があって、どれくらいの学者が向かうということが日本なら可能だろうかということをお尋ねしたのであって、金さえあれば解決する、そんなことを私は言っているわけじゃないのです。  それから、中原さんのさっきのお話について私が申し上げたのは、やはり学者をどんどんどんどんと生活を保証しつつ養成していかなければできぬじゃないか、だから金は絶対必要じゃないか、こう私は申し上げたのであって、何も反論みたいにして言っておるわけじゃないのです。  そこで、さらに質問を一、二してみたいのでありますが、このごろよくこういうものが食料品の添加物だとかいろいろな生活必需品に使われる、いろいろな染料だとかいろいろなものが、あれは発ガン性の物質であるとか、いろいろなことが言われておりますね。それから何かいろいろなものでそういうものがある。一体、こういうものについて確かな具体的な研究調査というようなものがあるのでしょうか、あるいはどういう程度信用できるのでしょうか。そこら辺が全然わからぬのですが、こういう点についておわかりでしたら御答弁を願っておきたい、こう思うのであります。
  34. 太田邦夫

    太田参考人 太田でございますが、これは厚生省がお答えになることかと思いますが、国立衛生試験所がありまして、かなりよくやっておられます。それから国際的の機関としては、やはり有名なアメリカの食品添加物の研究所がございます。それからインターナショナルにもそういうものが国際情報が流れております。ですから、現在はかなりよくやられておると思いますけれども、何しろ意外に手がかかる仕事であって、やっておるのはよい研究者でなければできない。そういう人たちが非常に生きがいを感じてやれる仕事ばかりではないので、私ども同僚から見ると多少気の毒な気がいたします。しかし、日本でもよくやられておると思います。
  35. 堂森芳夫

    堂森委員 ガン問題について、ことに基本的ないろいろな重要な問題がやはり山積しておると思うのでありますけれども、短い時間でありますから、何もかも質問をする、あるいは何もかもお答え願うということは無理なことであるとは思うのでありますが、日本ガン研究、さらにガン征服のために、権威のあるお三人の学者でありますので、大いにもっと若い人を叱咤激励してもらいまして、大いに学問の進歩のためにがんばっていただきたい、こういうふうに私はお願いをしまして、二、三の質問を終わる、こういうことにしたいと思います。  どうもありがとうございました。
  36. 渡部一郎

  37. 近江巳記夫

    ○近江委員 私はほんとうに全くのしろうとでございます。そういうことでほんとうに素朴な質問になろうかと思いますが、よろしくお願いしたいと思います。しろうとはしろうとなりにそれだけにまた一つの意義があるのじゃないか、このように思いますので、よろしくお願いしたいと思います。  私は、三人の先生方の御意見をお聞きしまして、そのお話の中にも、今日のガン対策実態というものもいろいろお話を伺ったわけでございますが、特にきょうは国立がんセンターの中原先生がお見えになっていらっしゃいますし、やはり何といいましても、この中原先生のところの研究所が中心になってやっておられるのじゃないか、そのようにしろうとなりに考えるわけです。いろいろと政府ガン対策についてそれぞれの対策はとっておるわけでありますが、実際に一番の先端でがんばっておられる所長さんのところの実態というものにつきましてもう少し聞かしていただければ、このように思うわけです。  そこで、一つは、今後基礎研究部門にどんどん力を入れなければならないということも各先生からお話しがあったわけですが、そういう点についてどういう壁にいまぶち当っていらっしゃるかということです。それで、人手が足らないということもずっとおっしゃっておられたのですが、がんセンターにおいてはどうかということです。私、ちょっと前に耳にはさんだことがあるのですが、十年前から定員増が一名もないのだということもちらっと聞いたように思うのですが、そういう実態であるのかどうかというようなこととか、その辺の実態につきましてお聞かせ願えれば簡潔にお願いしたいと思います。
  38. 中原和郎

    中原説明員 創立以来十年になるのですけれども、初めから全部ができておったわけではないのです。現在十二部からなっておるのでありまするが、それは数部ずつ年々つけ足していって今日に至っておるわけでありまして、全然増員が初めからなかったというのとはちょっとニュアンスが違うと思います。  それから、もちろん手が足りないということは事実です。しかし、これはわれわれのところばかりじゃなくて、日本じゅうあらゆる研究所はみんなそうじゃないかと思います。われわれのほうでも非常に足りないと思っております。ただし、これは定員制によって縛られておりまして、これはどうするわけにもいかない。何とかそこのところをうまく緩和できれば非常にありがたいと思います。現に、われわれのところへ来て仕事をしたい、こっちもそういう人をここで仕事をさしたいというような人があるにもかかわらず、採用することができない。そういう実例をわれわれはたくさん現在持っております。  それから、研究そのものの内容についてお尋ねでしたが、それはまず基礎的の仕事から申しますと、先ほど分子生物学というものを非常に大きく申し上げましたけれども、それよりももう一つ下の量子生物学までいっておるのです。量子、分子、それから普通の意味の化学、生化学、それから化学療法実験化学療法、つまりこれは人間の化学療法に使えるような物質を選び出そう、新しい化学物質を開発しようという試みであります。それから、太田先生の言われたような病理学ももちろんやっております。組織培養もやっています。  そういうようなわけで、あらゆる方面に手を出してはおりますが、やはり手が足りないということはまことに事実であります。いまやっている仕事に対して非常な支障を感じておるというよりも、やりたいことがまだあるのだけれどもというふうに申し上げたほうが、おそらく正しいのじゃないかと思います。  一つ仕事、たとえばごく最近、私のほうの一つ発見だと思いますが、これまで人間のガン胃ガンの話がずいぶん出ておりますが、人間の胃ガンに匹敵するようなガンを動物でつくることができなかったが、これが一応成功いたしました。人間のガンにそっくりのものを犬までいっております。サルでもいっております。マウス、ラット、ああいう小動物でもみんないくのです。ですから、これからたとえば早期胃ガンであると病理学者が言っておられるようなものがはたしてしかりやというようなことすら検討することができるという時期に達しております。しかもこれは臨床方面の仕事の人と共同作業になりますので、現実にバリウムを飲まして犬の胃を検査したり、そういうようなことまでやれるように進展しております。  それから、化学物質ですが、化学療法物質、これはまた非常に困難な問題ですが、これは全く枯れ草の山の中から針をさがすようなもので、いつどこにどうなるかということが全くわからないのですが、やっているうちに何か見つからないことはない。これまで俗にアラシーという薬があります。これは白血病なんかにもわりあいにきく、ある程度の効果をもたらす薬、しかし、それはわりに有毒である、毒性が非常に強くてこれはあまり芳しくなかった。それと同様の効果を持った、しかも毒性においてははるかにそれよりも落ちるというものが発見されております。  こういうような仕事は、それをいまやろうといって始めたって、そういうことが始まるものじゃない。これはやはり基礎が要るわけです。胃ガンをつくろうたって、そうめっちゃくちゃにやってみたってできるものじゃない。これはやはり長年の、十年かかってできたような仕事になる、こういうことなんです。  ですから、われわれとしてはただいま国立がんセンター研究所として国家の費用でもってやらしてもらっておるわけですが、それに対する、つまり吉田参考人がこの間ちょっとおっしゃっていた国家に対する責任というか、これはいまの状態ではわれわれは十二分に果たしておると存じております。
  39. 近江巳記夫

    ○近江委員 胃ガン等につきましては発見等についてかなりな手がかりがあるというような、非常に希望的なお話をしていただいたわけですが、そこで、たとえばわれわれ診察を受けにいった人の話を聞きますと、レントゲン写真をとるだけで三カ月ぐらいかかるとか、あるいは末期のガンの症状になると全然収容してくれないとか、そういうような話もよく聞くわけなんです。そういうことで、一つ希望が灯がともっておりながら、現実にレントゲン一枚とってもらうにもこれだけかかる、そういう現状につきまして、むしろそれは治療面というふうになるのでしょうか、その辺のことにつきまして、もう少しお聞かせ願いたいと思うのです。
  40. 中原和郎

    中原説明員 私は臨床家ではございませんので、そっちのほうのことはしかとは申し上げられませんけれども、現実に早く入院しなければならぬというような場合に、病室が足りない、いま現に入っている病人を出して入れることはできないのでありますから、病室が足りない、診療施設の数がまだ十分でないということは言えると思います。理想的には病室なんか少し空室がまだあっていいんであります。それくらいの施設がほんとうはほしいと思っております。
  41. 近江巳記夫

    ○近江委員 その施設の不足という中にもちろんレントゲンとかいろいろなことが全部含まれてのお話と思いますが、そういうように非常に施設も足らないというようなこと、これは非常に大きな問題であると思います。それで、いまお聞きしてもわからないと思うのですけれども、臨床的な立場からこの日本ガン患者実態について、特に著しい増加を示すガン種類、あるいは疾病等について、簡単にひとつ、どの先生でもけっこうですからお聞かせ願いたいと思うんです。
  42. 太田邦夫

    太田参考人 私も臨床家でございませんけれども、病理学者立場から申しますと、日本で現在著しい増加を示しておるのは肺ガンとすい臓ガン等ではないかと思います。それは国の統計上からも、あるいは国際的な意味からも非常に注目されるものであります。しかし、たとえばすい臓ガンというようなものは絶対数が非常に少ないものでありますから、肺ガンのように大きく問題になりませんけれども、これは国際的に非常に臨床学者は注目しておりまして、国立がんセンターのほうでも非常に注目して、やはり国内で特別の研究班ができて、早期診断というようなことの研究がもうすでに三、四年にわたって行なわれております。それで日本研究者がふえておると思います。
  43. 近江巳記夫

    ○近江委員 それから、ガン研究という面は非常に幅広く、深く、そのように思います。しかし、先生方が、それだけの幅広い深い研究でありますけれども、今後特にその力を入れなければならない部門というものについてどういうようにお考えでございますか。
  44. 中原和郎

    中原説明員 つまりガン研究の将来へのビジョンという意味でございますね、御質問の趣旨は。いろいろあると思います。こまかく下に掘り下げていく、つまり分子レベルに掘り下げていくというのも一つです。しかし、もう一つもっと手っとり早くできることとしては、化学物質を、ものを見つけることです。これまではよそでつくったものをもらってきてそれをテストするというような状態。それじゃ人がつくったものをもとにしてやる、つまり頭脳はよそにあるわけですね。主導権はこっちにないわけです。そういうんじゃなくて、こっちでものをつくる、つまり製薬会社の研究所みたいなものをガンを中心としてつくるということが必要ではないかと私は思っております。これはいますぐにこれをつくろうといったってたいへんなことですけれども、行く行くはそういうふうにあるべきじゃないかというふうに考えています。とにかくものをつかまえないことには話にならない。ですから、生物活性を有する物質を発見すること、これが私としてはガン研究の必須の将来へのビジョンとして、手っとり早く、かつ人間が神さまにならなくても、それだけの英知を得なくてもなおかつできることじゃないか、そういうふうに考えております。
  45. 橋口隆

    ○橋口委員 ただいまの近江委員の御質問に関連してちょっとお伺いしたいのでございますが、国がこのガン研究についてお手伝いできることは予算面であろうと思います。そういう点でちょっと参考までに伺いたいのです。  四十七年度予算におきまして、国立がんセンター、また癌研におきまして御要求の何分の一くらいが認められておりますか、それをちょっと伺いたいと思います。
  46. 中原和郎

    中原説明員 いま、がんセンターで使っておる金、厚生省としてですね、それと助成金として使っておるものと、両方合わして七、八億くらいになりましょうか、数字は私弱いので、はっきり申し上げられません。
  47. 橋口隆

    ○橋口委員 それは御要求の何分の一くらいになりますか。
  48. 中原和郎

    中原説明員 ちょっとそこのところで私、注釈を加えさしていただきたいのですが、私はもともと野育ちの人間で、大きなことを言わしてもらえるなら幾らでも言いたいと思うのですけれども、そうではなくて、私もここで十年この職におりますので、いっぱしの官僚のつもりなんです。そういう点からいきますと、一体要求して通りそうなことと通りそうもないこととの見当は、一応私にはつくのです。それで通りそうもないような要求をするばかはないと私は思っております。したがって、われわれの要求の、そうですね、要求増ですよ、この場合は。現在にこれだけ増すという、その増の半分くらいは認められているように考えます。
  49. 近江巳記夫

    ○近江委員 それから、いま放射線等を使ってガン治療に当たるというようなことがあるわけですが、これは効果としてはどんなものなんでしょうか。そういう研究をなさっていらっしゃる立場の人もあろうと思いますし、非常にその点は言いにくいと思いますけれども、おわかりにならなければけっこうです。
  50. 太田邦夫

    太田参考人 これは端的に申しますと、非常に効果がございますし、もう日常使われております。ただ御承知のように、ガンはいろいろな進行期がございますので、早い時期に使えば非常によくきく。広がってしまいますと、そういうものを使ってもだめになるということがあります。もちろん一方では副作用がございます。免疫抑制の作用がありましていろいろなことが起こりますけれども、しかし、効果からだけ言いますと、ある臓器のガンによっては非常な効果があるということが言えると思います。
  51. 近江巳記夫

    ○近江委員 それではきょうは厚生省も来ておられますし、お聞きしますが、厚生省としてこのガン対策について今後どういうような点に力を入れようとなさっているのですか、その辺についてお聞きしたいと思うのです。
  52. 松尾正雄

    ○松尾政府委員 私どもとしましては、その一つは、先ほど来いろいろと御議論がございましたように、ガン研究自身の問題の推進をはからなければならない。特にこの問題につきましては、基本的な、基礎的な問題は主として文部省系統の費用でございますが、さらにいわば臨床的な問題そういったものに関連します分野は主として厚生省が担当すると、こういうことでございまして、先ほど来いろいろなお話がございましたように、私どももやはりもっとこの研究費を増額をして、そして日本じゅうの研究者の共同研究というものを推進してまいりたい、これが一つでございます。  それからまた第二には、その中心といたしまして、ただいまがんセンターのお話がいろいろ御指摘ございましたが、御承知のとおりのああいう建物でございます。したがいまして、去年からこれを新しくつくり直すという計画をいまやっておるわけでございますが、これはぜひひとつ中心機関としてふさわしいものに仕上げてまいりたい。  それから第三は、まだガンにつきましていろいろなわからない点はございますけれども、しかし、また打たなければならないいろいろな要素というものがたくさんございます。ただいまも御指摘のように、放射線治療といったようなものも現在ではこれはもう大いに使うべきものでございます。したがって、従来から大体全国百七十カ所のガン診療センターといったものの整備をはかってまいりましたが、これはいまほぼ目標に近づきつつございます。しかしながら、ただいま御指摘のように、いろいろな集団検診等が発達をしてまいりますと、これを早期に精密検診をして確定しなければならぬ、いま御指摘のように、それに相当時間がかかるじゃないか、こういうことじゃやはりガンの早期対策を逸するわけでございます。したがって、私どもはさらに今後の段階といたしましては、単なる従来の診療センターのみならず、そういう早期発見、早期診断を確定するような機能というものを今後拡充するということに重点を置いていきたいと存じます。  もちろん、これらの問題をやるにあたりましては、この関係する人々の養成ということは不可欠の問題でございます。したがいまして、医師をはじめといたしまして検査関係に至りますまで、そういう専明家の養成というものを同時に並行して行なっていく、こういうことが大体の骨子でござ  います。
  53. 近江巳記夫

    ○近江委員 この予算面に対して厚生省、科学技術庁、文部省は今年度どういう処置をとりましたか、簡単にお願いします。
  54. 松尾正雄

    ○松尾政府委員 ことしの要求は正確に覚えていませんが、研究費の要求はたしか六億から七億の台であったと存じます。それが昨年の約三三%増ということで、ことし初めて大願にふえまして、二億七千八百万程度研究費が特別研究費としてついております。そういったような状況でございます。  それからなお、がんセンターについては、人の増員というような問題がございます。これはたしか二十二、三人の最終的には要求であったと思いますが、予算上は十六人の増員ということに終わっておりますが、こういうような大体の推移をたどっております。がんセンター自体の費用全体といたしましては、前年度より約五〇%増ということで三十八億程度になってまいりました。
  55. 千葉博

    ○千葉政府委員 科学技術庁は、御案内のとおり各国立研究所研究の調整をいたしております。そういった面で、ガン研究の全体につきましてこれの調整をし推進をしているわけでございます。四十七年度のガン予防治療及び研究費などの全体は七十二億八千五百万円でございます。その中で、これはもちろん文部省も入っておりますが、当庁関係は放射性医学総合研究所などでございまして、約六億三千三百万円でございます。そういった研究所における放射線医学領域における研究費及び設備整備費も含めての金額でございます。
  56. 手塚晃

    ○手塚説明員 文部省関係では、国立大学の特別会計のほうに出しますものとか、吉田先生の癌研究所の補助金等もございますが、はっきりまとまって出しておりますものは科学研究費補助金でございます。四十七年度は実際にガン研究のために配分いたしました金額は六億四千五百五十二万円でございまして、昨年度の五億五千三百九十万に対しまして九千二百万程度の増額になっております。この金額は十年前から実はガン研究のために特別ワクでガン研究費の中でスタートしているわけでございますが、三十八年度が約一億弱でございまして、大体その六倍半になっております。
  57. 近江巳記夫

    ○近江委員 科学技術庁のいまの御報告を聞きますと、これは放射線医学ということをおっしゃっていますが、放射線医学というのはガンばかりやっているのですか、一部分でしょう、一部分じゃないですかこれは。では放射線医学総合研究所にはガン研究をやっているのは何人いるのですか。
  58. 倉本昌昭

    ○倉本説明員 放射線医学総合研究所ではガン研究につきましては現在ごく一部でございまして、ただいま調整局長から説明のございました予算の大半は、将来放射線を用いてそのガン治療研究していくための大型サイクロトロンの建設費でございます。
  59. 近江巳記夫

    ○近江委員 それはまあいいとして、ほかにそういう研究調整費というものがあるわけですし、そっちのほうの出費はどうなっているのですか。
  60. 千葉博

    ○千葉政府委員 実はこのガンの問題につきましては十年前からのいろいろ懸案事項でございまして、かつては特別研究促進調整費で合わせますと約一億くらいの命を、大体毎年二千万くらいずつ出しております。ですから、厚生省にがんセンターができましてそこで集中的にやるということに相なりまして、それでこの特別研究促進調整費のほうはガンのほうは最近はずっと出しておりません。そういったような状況であります。
  61. 近江巳記夫

    ○近江委員 しかし、研究部門というものは、いま客先生方がおっしゃったように非常に部門も広く深いわけでありますし、やはりそういうところの、各省でもカバーできないところもたくさんあると思うのですよ。ですから、そういう点で、すでに研究が始まってだいぶんたつからという、そういう前提条件で遮断してしまいますとどうしようもないと思うのです。そういう領域にこそやはり科学技術庁が力を入れるべきじゃないか、私はこう思うのです。  それで長官、ガンに対してどのようにお考えか、ひとつ伺いたいと思います。
  62. 木内四郎

    ○木内国務大臣 ガン対策、いま委員各位も非常に御心配になっておりますし、きょうおいでの先生方も非常な努力をしていただいておるのですが、いまお話しの研究調整費というものは各官庁において緊急に研究を必要とする問題が起こってきた場合にそこから出すのでありまして、いま調整局長の申し上げましたように、過去においてガン対策の経費というものは各省に盛られておらなかったときに研究する項目が出てくるとそのたびに出しておったのですが、たとえばことしならことし急にそういう問題が出たときは調整費から出す、それで来年になれば当然もう予算に組んで出すのでありまして、研究調整費というものはそういう場合には使わないことになっています。  そこで、いま調整局長の申しましたように、最近においてはがんセンターを中心にして厚生省その他がいろいろやっておられまするので、研究調整費のほうからは出しておらない。出しておらないということは、そういう必要もなくまた要求もなかった、こういうことであります。ことばをかえれば、他の官庁においてそれぞれ必要な経費は予算で取っておる、こういうことであります。もし取っておらないのに急にここにガンに関して特殊な項目が出てきて、その研究のために金が必要だというときには、もちろんこの研究調整費から出すことはやぶさかではありません。
  63. 渡部一郎

    渡部委員長 参考人のうち、財団法人ガン研究会ガン研究所長吉田富三さんは、先ほどから三時半に退席したいというお申し出がございまして、退席なさいます。よろしゅうございますね。  吉田参考人には、たいへん長時間にわたり御意見をお述べいただき、ありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼申し上げたいと思います。
  64. 近江巳記夫

    ○近江委員 それで、参考人の先生方から、現実にそれだけ研究部門も広いけれども、なかなか手も出ないというようなお話もありましたし、科学技術庁長官は、関係各省がそれだけの予算をつけているのだ、現実にはそこまで手がいかない、こういうギャップがあるわけですよ。そういう点で文部省、それから厚生省はいますでにこのように研究もやっておられるわけであります。ただ参考人の御意見を聞くということだけではなくして、いまの中年から高年に至る死亡の第一位がガンということにもなっておるわけでありますし、これはほんとうに最大の課題じゃないかと私は思うのです。そういう点で、今後はさらにこの両省が特に力を入れていただくということが最も大事じゃないかと思います。その辺の御決意だけ、ひとつ簡単に表明してください。
  65. 松尾正雄

    ○松尾政府委員 おっしゃるとおりだと存じます。われわれもさらに、先ほど申しましたような線を含めまして、十分努力したい。特に、中原所長からもお話しのように、わが国でとにかく世界に先がけているようないい研究も出てきているわけでございまして、私どもはやはりそういったものに着目しながら、国際的な意味からいっても、そういうものを伸ばすべきじゃないか、かように存じております。
  66. 千葉博

    ○千葉政府委員 いま私のほうの木内大臣が申し上げましたとおり、私のほうも決して出さないとは言っておりませんので、そういったような分野がありますれば、たとえばライフサイエンス的な、基礎的な、要するに分子レベル以下の研究と申しますと、非常に広範囲なところから攻めていかなければいかぬというようなところで、いろいろな研究の需要が出てくるだろうと私は思うのでございます。そういう点出てきますれば、調整費を出しまして促進したい、かように考えております。
  67. 手塚晃

    ○手塚説明員 文部省といたしましても、従来から、ガン研究につきましては、特定ワクをつくりまして研究を推進して、先生方と相談してずっと伸ばしてまいってきたわけでございます。決してまだ十分とはいえないと思いますけれども、幸いいろいろな科学研究の中でも、先ほど太田先生が言われましたように、ガン研究研究体制が内部的に非常によく整っておって、われわれも安心して推進できる、心配のない研究グループでございまして、なお一そう努力してまいりたいと思います。
  68. 近江巳記夫

    ○近江委員 もう時間がありませんから終わりますが、あと一点だけ、ちょっともとへ戻りますけれども、四十歳以上の死亡の原因の第一位がガンであるということを聞いておりますが、この四十歳以上の人が約四千万人おられるわけなんです。これの検診率というのはどれくらいになっておるのですか。また、それに対して対策を今後どのように考えておられるか、この点をお聞きしたいと思います。
  69. 滝沢正

    ○滝沢政府委員 ガン対策につきましては、これは予算上の対策として、御存じのように胃ガン並びに子宮ガンの集団検診を実施いたしております。四千万という数字と、四十五年度胃ガン検診を受けた方は二百十六万、こういう数字とたいへん大きな違いでございますが、この二百十六万の中からさらに精密検診を受け、胃ガン発見された者は二千四百三十八、いわゆる精密検診を受けた者の一・一%、最初からの受診者の〇・一%の胃ガン発見いたしております。  子宮ガンについては、自動車による子宮ガン検診で約〇・二%発見し、病院等医療機関における子宮ガンの検診において〇・二四%発見いたしております。  この機能といたしまして、先ほど太田先生が触れられましたように、わが国の胃ガンのレントゲンの検診、これだけでは不十分でございまして、特に胃の中をのぞいて見ることのできる胃カメラの発達というものが、先ほど太田先生のおっしゃった、世界から注目されておる、日本胃ガンに対するメッカであるというおことばの内容であろうと私は理解いたしております。そういう点で、今後集団検診から精密検診への内容を高めるということと、先生御指摘のように、これを全体の国民に健康管理という立場でどういうふうにして及ぼしていくか。たいへん量の多い、しかも医療機関、供給側の体制というものとのからみ合いを考えますと、急速な拡大はなかなか困難ではございますが、もっと緻密に、特に医療面に恵まれない地域に対する対策というようなことを重点に、いわゆる健康管理の面からアプローチしていきたい、こういう考え方でございまして、特に来年、四十八年度以降の健康管理体制は予算的にも十分考慮してスタートいたしたい、こういうふうに考えております。
  70. 近江巳記夫

    ○近江委員 じゃ、その点を特に要望しておきます。現実にデータの上からも死亡第一原因にもあがっておるわけでありますし、こういうところにこそ力を入れてもらわなければ困ると思うのです。この点を特に要望いたしまして、もう時間がありませんので、これで一応終わります。
  71. 渡部一郎

    渡部委員長 次に古寺宏君。
  72. 古寺宏

    古寺委員 太田先生、中原先生にお尋ねしたいと思うわけでございますが、今日までのわが国のガン予防を見ますと、第二次予防、第三次予防には相当力を入れてやってきているわけでございます。第二次予防といわれるいわゆる早期発見、集団検診にいたしましても、先ほど吉田先生からもお話がございましたけれども、非常に壁にぶつかって、一年間にわが国では大体二百万人くらいの人が胃の検診を受けておるわけでございます。その中で約〇・一%の二千人の方が胃ガン発見、早期診断によって治療を受けておるわけですが、年間約五万人の方が死亡しておるわけでございます。これらのすべての胃ガンの患者さんを集団検診によってキャッチをするということは、これはとうてい不可能に近いことでございます。  さらにまた、第三次予防と申しますか、実際に入院をして治療を受ける方々もいろいろな制約がございます。がんセンターにおいてさえ相当数の患者さんが入院を希望しても入院ができない、あるいは抗ガン剤にいたしましても、これは当然ある程度の問題があるわけでございまして、今後この第一次予防、いろいろな発ガン物質、約千近いといわれておる発ガン物質、あるいは何十種類といわれるガンビールス、こういうものに対しての行政的な予防対策というものを推進していかなければならないのではないか。ですから、現在までの学問の水準において判明している問題については、これは積極的に行政面において取り上げて、そしてガン予防というものを推進すべきではないか、こういうふうにしろうとながら考えているわけでございますが、この点についてはいかがでございますか。
  73. 中原和郎

    中原説明員 いろいろな原因をどうして予防するかという問題ですね。ビールスということをいまおっしゃいましたけれども、たくさんのビールスがあります。さっき申し上げたと思いますけれども、人間のガン原因となるビールスというものはまだ発見されておりません。これだというものはないのです。ですから、それをどうして予防するかとおっしゃっても、ちょっと方法はないように思います。相手が、敵がわからない。それから環境におけるいろいろな化学物質、これはもう無数にあります。これはその軽重によって、重いもの、重罪であると思われるものからだんだんに征服していくよりほかしかたがない、それはできることであると思います。
  74. 太田邦夫

    太田参考人 中原先生と同じような意見でございますが、私はこの間にいろいろなことを考えなければならないと思います。いたずらに世の中を騒がす必要はないと思うこともあるのであります。たとえば何か化学物質がありますと、いかに微量でもこれは危険であって、それをゼロにしないとやまないのだということをやるだけの必要があるかどうか、それの根拠も求めてかからなければならないと思います。やはり科学的のデータのもとで、たとえば恕限度のところまで下げるというような努力が必要じゃないかと思います。しかし、それにはまた将来ほかのデータが出てくるというような可能性もありますから、その時点でできるだけのことを協力してやるのがほんとうじゃないかと思います。
  75. 古寺宏

    古寺委員 私が言い足りなかったと思うのですが、たとえば現在発ガン物質としてはっきりわかっているもので食品の中に日常含まれているもの、あるいは血清肝炎と関係のあるオーストラリア抗原等は、輸血の際に十二分にこれを予防しようと思えば予防できるわけです。しかし、これがいままで行政サイドにおいて十二分に行なわれなかったために、血清肝炎の患者さんには非常にガンの患者さんが多い、こういうようなことも聞いているわけです。こういう面については、積極的にガン原因予防するという立場から、研究とあわせて推進していく問題ではないか、こういうふうに考えたものですからいま申し上げたわけでございますが、この点について、血清肝炎について、いわゆるオーストラリア抗原についてはどういうようなお考えをお持ちになっていらっしゃるか、中原先生にお伺いしたいと思います。
  76. 中原和郎

    中原説明員 オーストラリア抗原が血清肝炎と密接な関係があること、これは今日エスタブリッシュされたことだと見てよろしい。それでオーストラリア抗原の検出法についていろいろ研究されております。しかし、それはあくまでも血清肝炎に関しての問題が実際問題としては主であります。  血清肝炎とガンとどうつながってくるのかというのはちょっとした問題でありまして、われわれのほうでは現にオーストラリア抗原とガンの発生ということについての特別な研究班をつくって、これからやろうと思っているところであります。
  77. 古寺宏

    古寺委員 今後のわが国のガンによる死亡率というものを、壁を破って減少さしていくためには、そういうような具体的なこまかい面においても行政面に反映さしていきませんと、国民は、研究費はずいぶん使っているけれどもガンの死亡者は減らないじゃないか、また一方では、イギリスやアメリカに比較をして、日本研究費はあまりにも少ないではないか、いろいろなことが論議されているわけでございますが、やはり根本はガンの患者さんをいかにして予防し、いかにして今後死亡率を下げていくかということが大きな問題になると思いますので、そういう研究段階でわかったものは今後どんどん行政面に反映いたしまして、死亡率の減少をはかるべきじゃないかと思うわけでございます。  と同時に、ニクソン大統領がソ連に行った際に問題になりましたいわゆるガン研究の国際的な研究体制の問題でございますが、今後日本ガン研究を推進させていくためには、やはり国際的な研究の協力体制というものに乗っかっていく必要があるのではないか、こういうふうに考えるわけなんですが、この点に対しての先生の御意見はいかがでございますか。
  78. 中原和郎

    中原説明員 国際的の交流といいますか協力といいますか、そういう研究はいますでに非常に発達しておりまして、現に実行中であります。第一次の国際的の機関として重要なものは、WHOの中でインターナショナル・エージェンシー・フォア・キャンサーですか、リヨンに新しい研究所をつくっております。そこもわれわれが中に入っておりますし、また、現にわれわれの研究所とそことが研究員を交換し、同一の協力研究をやっております。  それからUICC、これはもっと古い歴史を持った世界研究機関でありますが、一種の協会ですね、これとも密接な関係を持っておりまして、役員もたくさん日本側から出しております。また、国立がんセンターはWHOの胃ガンに関するしフェレンスセンターとして指定され、世界的に仕事を分担しています。  そういうようなところでございます。ですから、協力し得るものとはほとんど全部すでに協力しておる、つまり確実に国際協力の線に乗っかっておるわけであります。  それから、これは小さいことですけれども、高松宮妃癌研究基金、これは毎年国際シンポジウムをやっております。これは、おかしな話ですけれども日本でやりながら用語を英語に統一しておりますが、純国際的なシンポジウムでございます。国際協力の面ではおそらくまず十分なるものがあると思います。  もう一つ、日米学術協力体制ですか、ケネディ大統領と池田総理の会談によってできたもので、あれの中にもガンの部分がありまして、向こうでやるときには向こうが費用を持つ、こっちでやるときにはこっちが費用を持つというような協力体制で、これも密接に交流しております。したがいまして、現在のところ国際協力の面ではおそらくわれわれは十分にその線に乗っかっておると存じます。
  79. 古寺宏

    古寺委員 これは私の勉強不足かもわかりませんが、WHOのガン研究機関に対しては、ことしから初めて日本が加担をいたしまして、実際の人事の交流その他はいままではなかったというふうに聞いているわけです。今年度から初めてこの予算が計上されたということを聞いておったものですから、いま申し上げたわけでございますが、今後アメリカではニクソン大統領ガンの問題には相当力を入れまして、一つ目標を定めて研究をするわけでございます。こういうような各国のガン研究のいろいろな体制の中に、やはりわが国といたしましても協力するとか、あるいはいろいろなビールスの照合とかいろいろな問題があるようでございますが、そういう問題についても今後積極的に国際的な研究の協力体制というものが必要じゃないか、こういうふうに思って、いま申し上げたわけでございます。  次に、先ほど太田先生からお話しがあったように、わが国の大学研究室は非常に弱体である。私どもも地方の大学等に行きましていろいろ伺いますと、教室の研究員が足りないために非常に困っておられる。基礎においては特にお医者さんでない他の系統の方々が教室の研究員になっていらっしゃる。あるいは大学教授の先生でも、相当長い間一生懸命大学に勤務をしておられても非常に報酬が安い。一カ月九万か十万という先生もいらっしゃるのだそうでございますが、学生にコーヒーのごちそうもできない。したがいまして、本来の研究が十分にできないのみならず、アルバイトをしていかなければならないというようなお話も聞いているわけでございます。こういう点について、今後わが国の、ガンのみならずすべてでございますが、特にこのガン研究を推進していくためにわが国のいわゆる大学のあるべき方向というものはどうしたらいいのか、どうあったらいいのかという、太田先生が日ごろお考えになっている点についてお話をしていただきたいと思います。
  80. 太田邦夫

    太田参考人 たいへんむずかしい、どうもお返事しにくいのでございます。というのは、ガン研究と申しましても非常に基礎的な研究から臨床的な研究もありますし、そういうものを総合した立場のものもございますので、たいへんむずかしいと思います。それから大学というところは研究だけやっていればいいのじゃなくて、やはり教えなければならない。現在ではアンダーグラデュエートの教育だけでなくて、やはりポストグラデュエートの教育をずいぶんやっておりますものですから、そういう面がかなり多いということを御了解になっていただきたいと思います。  それで、将来学問の研究大学研究室で行なわれるべきか、あるいはもう少し高度の研究所で行なわれるべきかということは、研究者研究のいろいろな指導者の中でも意見の差異がありますが、現在多くの人が考えておりますのは、現在のような大学あり方ではとうていりっぱな研究がそこから期待しにくい、これからもっと高度なものをするためには、たとえば大学大学とかあるいは各専門にわたる研究所を整備すべきであるという考えが多いようであります。しかし、研究所をつくりますと、今度は人事交流の中でなかなかむずかしい問題があります。ことに定員が非常に少ない場合は確かにむずかしい。先ほど申しましたように、研究費の中に人を養えるぐらいの金が入っておりますと、これはかなりなことができると思いますけれども、現在のように定員法で縛られた定員の中では非常にむずかしい。研究所は一たんできますと老化しやすいというようなこともありまして、そういうことも含めて考えまして、やはり専門の研究所を置くのがほんとうではないか。大学はアンダーグラデュエート及びポストグラデュエートの教育に専念しながら研究を続けていく。そこからもちろんいい研究は出ると思います。が、もっと高いものを期待するなら、やはり研究所を整備するのがほんとうじゃないかというふうに考えます。
  81. 古寺宏

    古寺委員 次にお伺いしたいのは、わが国の厚生省ガンに対するいわゆる機構というものが非常にばらばらになっているわけです。したがいまして、ガン予防課であるとかあるいはガン対策課というようなガンを担当するような担当課をつくっていただきたいという要請が国民の間から非常に出ているわけでございますが、こういう点については、太田先生あるいは中原先生はどういうふうに考えていらっしゃるかというのが第一点でございます。  それからもう一つは、ガン予防法というものをつくってもらいたいという声が相当に強いわけでございますが、この点に対するお考えもあわせて承りたいと思います。
  82. 太田邦夫

    太田参考人 御指名でありますので、たいへん御返事しにくいことをお答えしなければなりませんが、ガン課とかガン予防課とかいうのをおつくりになるのもけっこうだと思いますが、私は実は厚生省ガンの窓口は非常に簡単になっておって、ほとんどがんセンターそのものがそれをおやりになっているように考えておりまして、これはちょうどアメリカ国立ガン研究所と同じような仕組みになっているのじゃないか。私は非常にすっきりしていていいのじゃないかというふうに考えております。  それからガン予防法の問題でございますが、これは理念的には私は非常にいいものだと思いますが、実際先ほどからお話が出ておりますように、四千万人の人間をたとえば一年あるいは半年ごとに検診するとどういうことになるか。現在国としてもしそれを立法するなら実行可能なことしかできないので、その実行可能な面を生み出すような研究を一方ではやり、それから他方では、そういうガン予防法のようなものを準備してやれるのじゃないか、あるいは準備しておくことがいいのじゃないかと私は考えております。たとえばレントゲンをとらなくても、血を一滴とればいろいろなことがわかるというようなことに進む可能性は現在の情勢ではなきにしもあらずであります。しかし、それの正確度がどのぐらいであるかというようなことも問題になってまいりますので、現在ではまだしばらくの間できないと思いますけれども、それに近い、つまり体液をとってその中のたとえば酵素を調べるとかというようなことである程度の診断なりあるいはセレクションができるということが近づきつつあって、将来は四千万人のスクリーニングも可能になるかもしれないと思っております。
  83. 古寺宏

    古寺委員 中原先生からお答えがなかったようでございますが、先ほど吉田先生から、日本国立の機関というものは省立の機関である、こういうようなお話があったわけでございます。そういう面からいいましても、やはりがんセンターが厚生省の一部であるというような、ところが実際にはこういう問題についてはいろいろ厚生省に折衝しなければならない、非常に機構がばらばらになっているわけでございますので、やはりこのガン予防法等をつくる場合にも、当然その責任の所在というものをはっきりさしておく必要があるのじゃないか、こういうふうに考えていまお尋ねを申し上げたわけでございます。  次に、小児ガンの問題でございますが、現在がんセンターではわずか二人ぐらいの先生が担当してやっていらっしゃるわけですね。この小児ガン研究については、やはり先ほど吉田先生等からもお話がありましたように、一般の寄付金を一つの対象にした研究の体制が一応はできております。しかしながら、こういうことでは小児ガンの究明というものは早急に解決がつかないと思うわけです。こういう点について、今後中原先生はどういうふうな体制で進むべきであるか、そのお考えをひとつ承りたいと思います。
  84. 中原和郎

    中原説明員 小児ガンの問題は小児だけの問題じゃないのですね。その妊娠しているおかあさんの問題である。ガン原性物質が妊娠している母親に持ち込まれると、そうするとそういうものが胎児に対して影響を及ぼす。胎児に対して影響を及ぼすということは、つまり胎児が発ガンしてしまうのです。というのは、若い者ほど影響を受ける。これは物質にもよりますけれども、そういう例が非常にたくさんあります。つまり、胎盤を通して発ガン性物質が胎児に働くということがあるのでありまして、これは現段階ではそこまで考えている人はそうたくさんはないと思いますけれども、現実に研究者の間では活発な議論の対象になっております。また、実験の対象にもなっております。これはおそらく、こういうものはあぶないぞ、こういうものならば問題なかろうというような点が次第にはっきりしてくると思っております。非常に重大な問題です。
  85. 古寺宏

    古寺委員 時間がないので、最後に大臣にお尋ねしたいのですが、いまお話がございました小児ガンの問題、これは体内において、研究を進めれば未然に防止できる問題であるかとも考えられるわけです。こういう面について、政府はやはり積極的に研究費をつぎ込んでやるべきであるし、またさらに、研究費が非常にわが国では制約があって、私も、これはガンの話ではありませんが、血液製剤の研究費関係であるところへ行きましたが、何年計画かでやるのですが、ことしは冷蔵庫を買う、ことしは施設の一部をつくる、こういうような体制では、ほんとう研究の推進というものはできないと思います。そういう点からいきまして、やはり今後のわが国のガン死亡率を何とかして低くしていく、患者さんを救済するという立場からも、もっと積極的に政府もこの問題と取っ組んで、現在低迷している、壁にぶつかっているわが国の対ガン政策、対ガン研究というものを今後強力に進めるべきであるというふうに考えますが、この点について承りたいと思います。
  86. 木内四郎

    ○木内国務大臣 このガン対策の重要性につきましては、各委員の方々非常に心配になっております。したがいまして、本日もこの問題を特に科学技術のほうの委員会でお取り上げ願ったのだと思います。また、これについては先ほど来いろいろ御意見を伺っておりますが、参考人の方々も非常な御心配をしていただいておるのであります。厚生省もこの問題は熱心にかつ積極的に取り組んでおると私は了解しておるのですけれども、今後政府におきましても、一そう厚生省をわれわれとしても鞭撻しまして、ひとつ積極的にこの研究を進めるようにいたしたい、かように思っております。もちろん、いろいろ財政上の理由もありまして、十分な金額を直ちに盛るというわけにはいかぬ点もあるかもしれませんけれども、財政事情等を考慮しつつ、できるだけの努力を積極的にいたしたいと思っております。
  87. 渡部一郎

  88. 山原健二郎

    ○山原委員 私は初めてガンお話を最高の権威からお伺いしておったわけですが、私が率直に感じたことは、一つ吉田先生の言われた、わが国のガン対策はさまよっているということば、それともう一つは、太田先生の言われました、根本的なところで大穴があいているという、この二つのことばが私にはたいへん印象的に映ったわけです。だから、このガン問題におきまして、この二つのことばに象徴された問題をほんとうに解決をしていくかどうかということが非常に重要な問題だということを私は感じ取ったわけでありますが、これは中原先生、私の感じ方はどうでしょうか、正しいでしょうか。
  89. 中原和郎

    中原説明員 吉田君の言われたのは、大穴があいているということ、それから壁につかえているというような表現を彼が使ったのは、世界共通の問題なんです。世界じゅうでガンの問題について同じように壁にぶっかっており、大穴があいておるということで、日本ガン対策だけが特別にどうとかという意味では全然ございません。
  90. 山原健二郎

    ○山原委員 私は世界ガン対策もそうだろうと思いますけれども、しかし、わが国のガンの問題を考えましたときに、吉田先生の言われたこのことばというのは非常に重大だというふうに感じているわけです。これは科学技術庁長官にも伺いたいと思っておりますけれども、時間がかかりますから、伺いましても十分な御回答は得られないと思いますので、きょうはおきたいと思うのですが、ガンというのは一つの刺激というものが繰り返し繰り返し行なわれたときに発生するものであって、遺伝ではなくして、これは環境によって生ずるものだというふうに私は聞くわけですけれども、この見解は正しいでしょうか、太田先生にお伺いいたします。
  91. 太田邦夫

    太田参考人 いまおっしゃいましたような解釈をしていた時代がございます。しかし、現在はだんだんガンの本体あるいはでき方についての考え方が変わってまいっておりまして、非常に特殊な物質であれば、たとえば一分子が細胞の中に入っていっても、その細胞がガンになる可能性はあるわけでございます。ただ、それがガンになりましても成長しなければだめでございますから、成長する条件が与えられなければならない。  それからもう一つは、先ほど遺伝ではないとおっしゃいましたけれどもガンになり得る素質というものはやはり遺伝いたします。しかし、これはある見方から言いますと、外の環境が非常にガンをつくる強い力を持っていれば、遺伝的のこまかい差というものを無視してみんなガンができる。遺伝的にガンになる素質が非常にたくさんありますと、非常に小さい外部の刺激でもガンになり得ます。化学物質だけについて言いますと、そういうことが言えると思います。  それから放射線等につきましても、これは非常にうまいところに放射線の力が加わりますと、ガンになり得る可能性はございます。しかし、必ずそれがガンになるかどうかということは、また別の機構がありまして、たとえば放射線がある分子を切ってしまう、その分子を直す機構もありまして、その直す機構が欠けているような場合にはそういうことをやると非常にガンになりやすいけれども、直す機構があるときには別に何も起こらないというようなことも、だんだんわかってまいりました。  先ほど吉田先生が、ガンに関してはさまよっておるということでありますが、私は、多方向性に研究が非常に進捗しておるのであって、私どもから見ますと、その研究は非常な勢いで走っております。ただ、吉田先生のような大きな目から言いますと、これは目的地に近づいておるのか、あるいは反対方向に行っておるのかわからぬ、いろんな場合があるのだということでありまして、ある意味ではすべてのものの発達が、たとえば対数曲線のように上へ上がっていきますと、しろうとが見ては、進歩しているのかしてないのかわからないような状態がありますけれども、あるいはそういう一つ段階に来ているのかというような感じも持っております。  ガンのでき方に関する問題は、中原先生が非常な権威でいらっしゃいまして、先ほど先生がおっしゃいましたように、刺激が重なることもあるのです。それから重ならないこともあります。ですからどれか一つで言えといわれますと、一つだって起こり得るということを申し上げざるを得ないことになるのです。
  92. 山原健二郎

    ○山原委員 刺激が重なる場合ですが、それがどの程度に重なった場合に発ガンをするのか、あるいはどの程度の年数によってそういうガン状態発見できるような状態になるのかというようなことは、これはおそらくいろいろな形があると思いますけれども、そういう点は現在の研究段階ではどんなになっているのですか。
  93. 中原和郎

    中原説明員 刺激ということですが、これが非常にあいまいもこたるものでして、刺激ということばを使うのは変なんです。これは昔、そういう慢性刺激がガンのもとだということは伝説的に広まっておりますけれども、事実そうだかどうだかわからない。刺激とは何ぞやということになる。また、ガンをつくるような刺激がガンをつくるのだというのだったら、これはあまり意味がない。現在の分子生物学ではもっと非常にこまかいレベルでノーマルな正常な細胞がガン化する、どうしてなのかということをいまやっておるわけでありまして、たとえばいま太田教授が言われたように、一つガン原性物質の一つの分子が入っただけでも可能性は十分あります。というと非常にこわいようですけれども、そういうことは現実にどの程度起こるものか、実験的にはわかるけれども、それがわれわれの人間の場合にどういうふうに当てはまっていくかというとなかなか大問題です。
  94. 山原健二郎

    ○山原委員 肺ガンの場合にしぼってお尋ねしますと、肺ガンの場合はどういう刺激物によってそれが起こるか、あるいはそれは呼吸から起こるのか、そういうことはわかっておりますか。
  95. 太田邦夫

    太田参考人 動物実験では、たとえば吸気を通じて肺にガンを起こさせるような物質を与えることもできます。それからたとえば皮下注射等をいたしまして、全然吸気とは関係ないようなルートでそこへガンを起こさせるような機転を働かせることもできます。しかし、それでは人間の場合はどうかというのは、動物の場合の類似から類推するよりしかたがない状態であります。実際私ども考えておりますのは、化学的物質が吸気を通じて肺に入ることは確かにあると思います。しかし、肺からもものは吸収されますから、肺から吸収されたものがぐるっと回ってきてまた肺に出てくる、そういうときに働きをする場合もあり得るのじゃないか。またある種の肺ガンはひょっとしたらこれはビールスで起こるのじゃないかというものもあります。これはマウスなんかもそうでありますけれども、大きな羊とか牛とかいうようなものに起こる肺ガン、そういうものに類似を求めることができます。人間の肺ガンがどうして起こるかということは、そういうふうな動物実験での類似から類推しておることでありまして、こうやって起こる、これだけしか道がないのだということはちょっといまのところ言えないと思います。
  96. 山原健二郎

    ○山原委員 最近問題になっております例の新日鉄のタール蒸気による職業性肺ガンの問題でありますけれども、このことは御承知のようにすでに三十五名の人が死んでおるという状態です。こういう職業ガンといわれるものの歴史と申しますか、それについてちょっとお聞きしたいのですけれども、こういうタールによるガンがいつごろから知られておるのでしょうか。
  97. 太田邦夫

    太田参考人 一七七五年にサー・パーシバル・ポットという人がロンドンの煙突掃除人の睾丸の皮、陰嚢にガンができるのは、これはタールによるものじゃないかと言ったのが初めでございますから、大体二百年前です。それから近代工業と関係いたしましては、アニリン工業ができてからでございますけれども、実際職業領域における発ガンということで化学物質を直接に想定したのは、おそらくやはり八幡製鉄所の発生炉の問題であります。これが私ちょっとはっきり覚えておりませんが、一九三〇年かそのあたりでございますから、四十年ほど前でございます。同じようなことがちゃんと言われて、それが学問的な文献になったものとしては非常に早くりっぱなものであったということで注目されております。
  98. 山原健二郎

    ○山原委員 たいへん教えていただいてあれですが、八幡製鉄の場合が、先生が言われましたように、昭和十一年だったというふうに私はお聞きしておるのですけれども、コールタールより三・四ベンツピレンが分離されまたは合成され、それが発ガンの作用物質であるといわれるようになったのは、大体そのころからでございましょうか。
  99. 太田邦夫

    太田参考人 ややそれより前で三〇年前後、二九年か三〇年じゃないかと私は思っております。
  100. 山原健二郎

    ○山原委員 四十数年前からそういう問題が出ておりまして、三・四ベンツピレンは薫製のハム、ソーセージなどをはじめとする食品中にも存在する。また、たばこ、大気汚染にも存在するといわれておるのでありますが、そういう中で、たとえば川崎市の場合における調査では、汚染度の高い地域でガン患者が多いという報告がされております。そういうことを考えますと、四日市あるいはその他の石油コンビナート地帯の汚染地域では同様な状況が出ているのではないかと思うのです。  そういうことについて、これは厚生省にちょっとお尋ねしたいのですけれども、こういう地域におけるガン対策調査というようなものはどのようになっているのでしょうか、これが第一点です。厚生省おいでになっておると思いますが……。  それからもう一つは、先ほど言いました新日鉄における職業性肺ガンの問題ですが、これなどにつきましては、これは当然職業病としての認定をすべきだというような声も出ているわけですけれども、これらについてどういう研究がなされ、厚生省としてどういった見解を持っておるのか。  その二つの点について、この際伺っておきたいのです。
  101. 滝沢正

    ○滝沢政府委員 ただいまお尋ねの、大気汚染等に基づきます特定な地域における肺ガンの問題でございますが、実は先ほど御説明の中で申し上げましたように、厚生省がやや組織的に実施していますのは、日本人に最も多い胃ガン、それがら御婦人の子宮ガンということでございまして、肺ガンにつきましては、結核の検診の際レントゲンをとることによって発見できそうであるという一つ考えはございますけれども、実は肺ガンの発生部位等の関係が肺門部と申しまして、レントゲン等で非常に把握しにくいところに多く出る。もちろんそれ以外のところに出る場合もございますけれども、そういうことを含めて集団的ないわゆる住民検診的な意味発見することについては、かなり学問的にもまた技術的にもむずかしい問題がございます。一般的に統計学的な点につきましては、各地の保健所あるいは県段階における死亡統計等について、大気汚染の肺ガンの増加に影響するその実態というものは、私、川崎がいまどう、あるいは四日市がどうという数字を持ち合わしているわけではございませんが、日本人全体に肺ガンがふえている、その上どういう地域的な片寄りがあるかということは、確かに重要な問題でございますので、いわゆる死亡統計の処理の上から、たとえば最近肝硬変という病気がございますが、これが西日本に多くて東日本に少ないという統計調査の結果を厚生省の統計調査部から発表いたしたわけでございますが、このように把握できる面もございます。だんだんふえてはまいっておりますけれども、肺ガンもまだ比較的少ない病気の一つでございますが、今後はこのような統計処理について御意見のように注意して対処をしてまいる必要があろうと思います。  それから、職業性疾患につきましては、労働省が主として所管しておりまして、これについて住民検診という立場では厚生省を通じまして、県あるいは県の機関でございます保健所等が協力いたしまして、検診等を特定な条件の場合には実施いたしておりますが、主として職業性疾患は先ほど来太田先生からお話のございましたように、学問的には大体職業性疾患としてガン関係あるものは指定されておりまして、学問的にも明らかになっておりますので、それの労働環境の問題、あるいは工場労働者の特殊検診というような問題につきましては、今回労働省が設けました安全衛生法等にもその点を強調してございまして、特段明確にわかっておるものについてはやるわけでございます。ただ、今後、いまわからない問題であって、なおかつ労働環境等でガン関係するものが起こる可能性につきましては、やはりガン研究との兼ね合い、特に肺ガンとの兼ね合いによってのみその根拠が出てまいるわけでございますので、根拠が出てまいりませんと、集団的あるいは健康管理上の立場からはつかみにくい、こういうようなことで、たいへん言いわけのようなことでございますけれども実態を申し上げる次第でございます。
  102. 山原健二郎

    ○山原委員 昭和十一年に、八幡製鉄において特別な調査がなされてすでに四十年ですね。しかも、悲惨なことには、退職をして後にガンが発生して死亡するというような問題が起こっているわけですね。私はそういう点を考えましたときに、現在要求されておる職業病としての認定の問題は非常に大事な問題だと思うのです。これは労働省との関係もありますから、ここでそれ以上申し上げませんけれども、こういう問題については、私は先ほどガンと環境の問題をしろうとながら先生方に御質問をしたわけですけれども、環境という問題が非常に重要な意味を持っておるのではないかというふうに感じますので、その点は今後も強く要請していきたいと思っています。  それから、この四月の二十日に大蔵省が発表しました、紙巻きたばこの箱に「健康のため吸いすぎに注意しましょう」という注意表示が行なわれるということになっております。これは表示しないよりは一歩前進だという評価もありますけれども、これは先生方にお伺いしたいのですが、たばことスモッグの肺ガン発生への相乗があるというふうに私はお聞きしておるのであります。こういう今度出されました注意だけの消極的な態度で、この問題はそれでよいのかどうかという問題ですが、その点について見解をお持ちでございましたら、一言伺っておきたいのであります。
  103. 中原和郎

    中原説明員 見解というよりもお話しをいたしましょう。  最近世界じゅうで日本だけが肺ガンが減っているんです。それはちょうど戦争中に巻きたばこというものが非常に欠乏した時代に成長した人がいまガン年齢に達して、それで減っている。うちの統計学者によりますと世界にこういう国はないそうです。それで趣きたばこは肺ガン原因じゃないかということを主張したい人はそれをそういうふうに利用するわけです。それを私は否定する意思はありません。けれども、戦時中に欠乏していたものは巻きたばこだけじゃない。お砂糖もなかった、そのほかいろいろなものがなかった。ですから、そういうふうにものを簡単に割り切ってしまうということはやはり学問的には警戒を要する点があると思います。
  104. 山原健二郎

    ○山原委員 どうも専門家にあうと一々あまり得手のすくないことになってしまうわけですが、次にこれは厚生省に伺いたいのです。  例のアスベスト、石綿製造の問題で、これにつきましても、肺ガンがこれと関係があるという報告がなされたのが一九三五年だと聞いております。その後一九七〇年、一昨年十一月に大阪で絶縁材あるいは断熱材としての電気器具、建築用のものに広く使われておる石綿の製造工場で従業員に肺ガンが多発しておるという問題が出ておりますが、御存じだと思います。これはすでに泉佐野、泉南、両市の石綿紡績、石綿紡織工場で最近十一年間に八人の肺ガン患者が出ており、そのうち六名が死亡しておるという状態でありますが、これについてこれらの工場における——全国的にこれはあると思いますけれどもガンの定期検診とかあるいは精密検査、健康診断などがなされているんでしょうか、その点を厚生省に伺ってみたいと思います。
  105. 滝沢正

    ○滝沢政府委員 石綿も先ほど申し上げました肺ガン関係を認定をされました職業性疾患と私は理解しております。したがいまして、石綿の健康管理につきましては、労働省が今度安全衛生法を改正しました中に、従事中に特殊な職業性疾患を起こすおそれのある工場に従事していた職員に、退職後も手帳を持たせまして健康管理をするという法改正をいたしましたので、先生の御要望にその関係者はこたえられると思うのでございますが、その周辺の者、住民というような問題が起こり得る可能性がある条件の場合には、これは一般住民対策としてわれわれが健康管理の立場からは実施する必要がございます。したがいまして、石綿等の工場の最近の実態というものは、労働衛生の立場からかなり周辺に散逸するような点を防止する対策が行なわれておりまして、過去のそのような工場が地域社会に粉じんをまき散らしたというような状態はかなり改善されていると思うのでございますが、問題がそういうように発展する可能性は防がれているとは思いますが、あれば一般住民の検診についてはわれわれのほうで考慮する必要がある、こういうふうに考えております。
  106. 山原健二郎

    ○山原委員 たいへんおそくなってお疲れだと思いますが、あと二つだけまとめて質問をいたしたいと思います。国立がんセンター疫学部と癌研究所病理部が、沖繩医学会との共同調査、昭和四十二年から四十三年に行なわれております沖繩の全ガン患者千九百八十三例を診察集計したものでありますが、それによりますと、沖繩の胃ガン患者は本土の胃ガン患者の半分という数字が出ておるわけでございますが、これは事実こういう状態でしょうか。日本人に胃ガンが多いのはなぜ多いのかということは、ガン専門家の間でもなぞにされておると言われておりますが、今後沖繩と本土のこの大きな差というものを足がかりにしまして、それぞれの胃ガン原因を調べることにより、胃ガンの征服への道を開くことができると私は思うのでありますが、これについてどういう研究をされようとしておるのでしょうか。そういう計画があれば知らせていただきたいと思うのです。たとえばいままで胃ガンは米食によって生まれるなどということを私どもは聞かされたことがあるわけです。しかし、沖繩は同じく本土の者と同じように米食でございます。そういう点から考えまして、この差は一体どこから出てきたのか、どういう環境の中から出てきたのかというようなことが当然問題になると思うのでありますが、それらのことについて現在どのような研究段階にあるのでしょうか、伺っておきたい。
  107. 中原和郎

    中原説明員 沖繩のガン問題につきましては、いま胃ガンのことをおっしゃいましたけれども、もちろんそれも問題であります。しかし、あそこにはまだほかにおもしろいものがあるので、それで沖繩のガンに関しては、私どものほうの疫学部では、今後特に注意して研究するつもりであります。というのは、あそこには日本にあまりない上咽頭ガンというのがあるのです。これはビールス関係があるかもしれないと疑われておるものです。それからオーストラリア抗原の話も出ましたが、ああいうものがわりに日本内地よりも多いというような、断片的な事実ではあるが、いろいろのデータが集まりつつあるので、今後沖繩のガン問題についてはわれわれのほうでも特に研究したいと思っております。
  108. 山原健二郎

    ○山原委員 こういう一昨年の研究調査によって、いまお話しになったような状態だと思うのですが、だからこういう統計が出たからといって、簡単に、こういう環境の中でこれだけの違いが出てくるのだなどということはもちろん言えないと思いますけれども、しかし私は、一面では、沖繩のあの美しい空、海というものを考えますときに、やはりこの大気汚染の——毎日光化学スモッグで子供たちが倒れておるというふうな東京を中心とする汚染地帯との差というものがあるような気もするわけです。これは当然精密な研究がされると思いますけれども、ぜひこの問題についての研究を深めていただきたいというふうに考えます。  最後に、国立がんセンターの問題につきましてお伺いしますが、これは中原先住に伺うわけですけれども、患者が受付をしましてから初診を受けるまでに平均一カ月ぐらいかかるといわれておるわけですね。それから入院患者の場合も、先ほどいわれておりましたこういう問題、さらに、医師、放射線技師あるいは看護婦等の定員は、ガン治療日本における中枢としての役割りを果たし得る状態なのかどうかという点を、先ほどから出ておりましたけれども、いま一度お伺いしたいのです。  それから現在の実情を見せていただきますと、研究職の人の中に九名近い欠員があるわけですね。こういう状態でいいのかどうかという問題です。それはどうしてそういうふうな研究職の欠員が生まれてきたのかという問題が第二点であります。  さらに、現在放射線による治療の機器の活用状況というものはどんなものであろうか。たとえば、私しろうとでわかりませんが、一度私はがんセンターへ行って見せていただいたことがあるのですけれども、リニアックというのが二台あるわけです。これなども全国では七台しかないのだそうですね。その中の二台が国立がんセンターにあるわけです。そしてこれらリニアックあるいはベータトロン、コバルトというようなものを操作する技師というのが六名しかいないというふうに聞いております。実際はもっと要るのではないか、九名程度は少なくとも要るのではないかというふうに私はお聞きするわけですけれども、そういう不満足な状態なのかどうか。さらにこの複雑な器械の故障に対する保守人員もあまりいないように聞いております。また治療計画についても、専従職員がいないというふうに聞いておるわけですが、こまかいことは別にしまして、そういう状態ではたして十分な、日本の国におけるガン問題の中枢としての役割りが果たし得るのかどうか、それをお聞きしておきたいと思います。  さらに研究体制の問題でありますけれども、基礎研究が比較的弱いとわが国はいわれているわけですが、これなどについて、ほんとうに基礎研究を総合的に進めていく体制というものはどうすればいいのかということを、国会の科学技術委員会でこの問題が取り上げられた以上は、そこまでの展望をわれわれは見出す必要があると思いますので、それらについて中原先生の見解を最後に私伺いたいと思います。
  109. 中原和郎

    中原説明員 病院の運営上のいろいろの短所といいますか、そういうものは全くあるのだと思います。これで十分であるという体制であるとは思いません。増員はできる限りやってもらいたい、こういうことはしょっちゅう要求はしておるわけです。しかし、それにはやはり何かのワクがあるのでしょう、われわれの管轄以上のというか以外に属する因子があって、われわれのかってな、われわれがこれだけ看護婦がほしいからくれ、それでもらえるものでもないようです。しかし、そういう短所を補う努力は、一生懸命やっておるわけです。  それから、基礎研究をやるのに十分なるものであるかどうかということですけれども、これは先ほどからも申し上げましたように足りない、手が足りないということは事実です。しかし、それは、私どものほうだけじゃなくて、日本じゅう、研究機関がみんなそうだと思うのですけれども、そういう状態ですから、これでおまえら国家のガン研究センターとして十分やっているのか、十分なのかと言われれば、残念ながら私はやはり不十分であるといわざるを得ない。しかし、やっておる当事者としては最善の努力をしておる、これだけは自信を持って言うことができると思います。できるならばそういう大幅の増員、大幅の定員増、大幅の研究費増がやはり非常に望ましいところであって、これでいいなんと思っているわけじゃございませんから、どうぞそこいら御推察願いたいと思います。
  110. 渡部一郎

    渡部委員長 関連質問の申し出がありますので、これを許します。三木喜夫君。
  111. 三木喜夫

    ○三木(喜)委員 たいへん有益なお話を聞かしていただいて、ありがたかったのですが、当委員会で以前SIC論議があって、ガンの問題を相当何回もやっていただいたわけです。その中で私、気にかかることは、一つ、たとえば蓮見療法とかあるいはSICとか、こういう、民間の奇特な医師によって研究が進められておるのですね。こういうものとの関係はどうかということと、あるいはその中で見るべきものが、癌研なりがんセンターとしてあるとお考えになっておるかどうかということが一つです。  それから、ここでの論争の中でやかましく言われたのは、いまお話あったビールス説と血液の汚濁説と二つ出てきたわけなんですが、私はこの血液の汚濁ということを信ずるというたらおかしいのですが、そんな感じがするのです。そこで、西医学なんかは、血液が酸性になるとだめだというようなことで、ガンもこの西医学でなおるのだ、こういうことを言っておるのですが、その療法の中に、菜食といいますか、それから水——きたない水、水道の水はいかぬですが、井戸の水、温冷浴、こういうことが、血液の清浄ということと非常に関係が深いというような感じがするのですけれども、そういうことに対するお考えはどうなんですか、ちょっとお考えを聞かしてください。ぼうっとした話で申しわけないのですが。
  112. 中原和郎

    中原説明員 お答えしましょう。  民間に存在する、いろいろのガンのなおす方法とか原因とかなんとかということについて、いろいろの憶説が行なわれておることはもう十分御承知のことで、そのうちで、もしわれわれの目から見てこれは取るに足ると思うものならば取り上げるのにやぶさかでない。しかし、それはやはり研究者というのは自主的の研究者ですから、研究者が自分でやりたいと思わなければ、どこへ持っていってもこれはいやだと言われれば、これはどうもしようがないのですね。強制的にこれをやれといって研究させるわけにいかない。そういう状態がございますので、必ずしもすべてのものについて全部を取り上げて研究するということはおそらくできておりませんし、今後もできないんじゃないかと思います。やはり研究者とそういうものとの気が合わなければ取り上げられないのじゃないかと思います。意識してそういうものを除外しておるというわけでは全然ございません。ただ、民間の憶説というものはいろいろさまざまありまして、お互いにけんかし合ったりなんかもしておりますし、どうもそこにわれわれが割り込んでいく勇気がございませんのでひとつ……。
  113. 三木喜夫

    ○三木委員 血液のほうは。
  114. 中原和郎

    中原説明員 血液もそうです。血液に対しても同じことです。いろいろさまざまのことで言われております。
  115. 三木喜夫

    ○三木委員 そうですか。いいです。
  116. 山原健二郎

    ○山原委員 どうもありがとうございました。  質問を終わります。
  117. 渡部一郎

    渡部委員長 この際、太田参考人に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただき、本問題調査のためたいへん参考になりました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。  次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。    午後四時四十二分散会