○中尾辰義君 私は、公明党を代表して、円の
ドルに対する大幅な
切り上げに関して、その政治責任と今後の
日本経済に対する
政府の
対策について、
総理並びに
関係閣僚に
質問を行なうものであります。
政府は、十九日の
ワシントン十カ国
蔵相会議の
合意に基づいて、対
ドル為替レートを二八・八八%
切り上げ、一
ドル三百八円と
決定しましたが、まず疑問に思うことは、
通貨調整の
年内解決は、よくて五分五分、あるいは七分三分と
予想されていたのであります。ところが、急遽
年内解決となったことは何らかの要因が働いたのではないかとしか思えないのであります。一
ドル三百十円なら
米国の課徴金がつく、あるいは三百八円ならつかないというわけでもないのであり、それにもかかわらず、
わが国が
円切り上げの
大幅譲歩をしたとたんに、難航必至を
予想された十カ国
蔵相会議が急転直下
解決したことは一体何が原因なのか、何ゆえ
政府は一
ドル三百八円の
為替レートにしなければならなかったのか、
中小企業はじめ
わが国経済に与える痛烈な
打撃を知っておりながら、何ゆえ大幅な
譲歩をしたのか、
大蔵大臣の専横の処置については全く理解に苦しむものであります。私は、このような
決定をした
ほんとうの原因は、
沖繩返還を急ぐあまりの
佐藤内閣の対米追随外交、対米隷属外交にあると言いたいのであります。今回の
通貨調整は、戦後
米国が
世界じゅうに
ドルをばらまき、冷戦構造のささえとしてきたものを、いま
日本をはじめとして
各国にツケを回して清算をはかったものであります。特に、
米国のベトナム戦争への巨額な出費がその拍車を一段と強めたことは疑う余地がありません。
アメリカが一連の国際
通貨会議では終始自国の
経済外交
政策の失敗で生じた
国際収支の悪化を黒字国に責任転嫁をはかり、結果から見ても、ほとんど責任転嫁をなし遂げたというのが
ニクソン大統領の偽らざる心境ではないかと思うのであります。
ここで言いたいのは、IMFの創設にあたって、黒字国が自国
通貨を
切り上げて国際的
調整の責任を果たすべきであるとする英国のケインズ案を拒否したのは、ほかならぬ
アメリカ自身であり、また、金と
ドルのかわりにバンコールという名の国際準備単位を創設し、それを国際準備
通貨とせよというケインズ案を拒否したのも、これまた
米国であります。しかるに
米国は、その
態度とは正反対に、今回の
通貨調整においてはその
役割りを黒字国に負わせ、すでに基軸
通貨としての地位のゆらいでいる
ドルの威信をさらにゆるがせているこの
米国の
態度は、あまりにも身がってなものとしか言えないのであります。しかも、今回の
通貨調整で一応
主要国は固定
為替相場に復帰することになったのでありますが、肝心の
ドルと金の
交換性は依然として
停止されたままになっているのであります。このような
アメリカに追随し切った向米一辺倒の
政府の外交姿勢が、結果的には
わが国の貿易、
経済に大
打撃を与える円の
大幅切り上げをもたらしたものと思うのであります。
政府は何ゆえこのような
米国追随の
通貨調整に終始をしたのか、その政治責任をどう
考えているのか、
総理より御
答弁を願いたいのであります。
第二にお伺いしたいのは、何ゆえ
ドルをささえねばならないのかという点であります。
総理はしばしば日米安保条約による核のかさを強調しておるのでありますが、
経済においても
ドルのかさを強く意識しているのではないか。しかし、
ドルがそれほど強固であり、
ドルの
経済支配力がそれほど偉大であるとは思えない。それは
ニクソン・ポンピドー会談で、あれほど
米国が拒否をしていた金の対
ドル価格の
引き上げを行なったことでも証明されていると言えるのであります。また、
経済力においても
米国の比にもならないフランスの
要求に
米国が屈したということは、言いかえれば、それほど
ドルの威信が低落しているということである。しかるに
わが国は、
米国のどうかつにあって一度にすくんでしまったのは何としても理解ができないのであります。
沖繩返還の前には大幅な
通貨の
切り上げもやむを得ないということで、一切手をこまねいてきたとしか見えませんが、この点、
お答えを願いたい。
さらに、これから先再び
ドルが基軸
通貨として堅持される見通しは少ない。だからこそSDRに対して再び
各国の
検討が始まっておるのでありますが、このような不安のある
ドルを何ゆえ
日本は大事にしなければならないのか、
日本経済の
自主性はどこにもないとしか言えないではありませんか。これこそ、対米隷属のあらわれであり、
総理の頭の中には、
沖繩返還を急ぐあまり、
日本経済の自立については何もないとしか見えないのであります。防衛においても、
経済においても対米追随となれば、どこに
わが国が主権国家としての
自主性があるのか。むしろ
ドルに一方的に依存するよりも、金及びマルク、フラン、ポンド等の複数の国際
通貨に依存して、
経済の独自性を保つべきであると思うが、
総理の所見とその責任をお伺いしたいのであります。
第三番目には、
政府は円の
切り上げ幅が
予想以上に大きくなったのに対して、決して敗北でなく妥当な線であった、このように主張をされておるのでありますが、一六・八八%、つまり一
ドル三百八円という
レートは、
国民も、おそらく
政府自身も、全く
予想だにもしなかった数字ではないか。
譲歩できる最大限の線は一五%か一六%といわれていたが、それを大きく上回ったことは、まさに対米追従に終始した
通貨外交の完全なる敗北としか言えないと思うのであります。この責任は実に重大であり、また
政府は、
世界経済の大きな変容に対する見通しを誤った点はきわめて怠慢であると言えるのであります。
すなわち、いままでの
生産第一主義、高度成長の
経済運営はまさに暴走ぎみの
経済までも引き起こし、
世界経済協調の動きに対応できなかった、これが第一の怠慢であります。第二番目は、
国際収支の黒字国としてその節度と責任を二の次にして昨年の
金融引き締め解除のタイミングを誤った。さらに第三番目が、本年六月の円
対策八
項目策定についても、その実行を渋り、第四番目に、変動相場制への移行のズレを大きく引き起こしたことであります。これらの数々の失態と怠慢が重なり合って、
不況のもとにおける円の
大幅切り上げという最悪の
事態を招いたのであります。この政治責任はきわめて重大であります。
円切り上げなど、私の頭の片すみにもない、円の
切り上げは国益を害する迷妄である、このように再三国会で
答弁をされ、平価
切り上げは主権の問題とうそぶいて、単独でも三百六十円の
レートを堅持するかのようなかまえを見せたのは、ついきのうまでの
政府の姿勢であったはずであります。
大蔵大臣は言うに及ばず、
総理みずから、内外
経済政策の失敗による今回の結末は、
わが国手持ち
ドルの価値を邦価換算にして約九千億円も減価させ、
日本国民は、みすみすばく大な財産を失った結果となりましたが、
政府はその責任をとって、内閣はみずからその職を辞し、
国民にその失政を陳謝することを私は進言するものでありますが、
総理の御所見を伺いたいのであります。
第四の
質問は、
中小企業をはじめとする
日本経済に対する
影響と
施策についてであります。とにかく、
予想以上の大幅となった
円切り上げに
経済界は深刻な表情でありますが、特に
中小企業の倒産が一番
心配されるのであります。繊維、陶磁器、洋食器、メガネワク、
雑貨等の業界では、輸出商品の値上がり、需要の減少、
生産の減退になるか、それとも、製造の段階で
切り上げ分を吸収するか、そうでなければ、
生産者や、下請業者に
負担をかけざるを得ないと見ており、数年間はその
影響が大きくあらわれ続くものと見ております。また、
ドル債権を持っている造船界では、いままでの債権分だけで二千七百億円の
為替差損が出るといわれ、これからの
国際競争力の
低下が憂慮されているし、肥料業界では硫安だけでも五十億円の売り上げの減少を
予想しているし、
為替差損の
財政援助を求めておるのであります。このように、
日本経済の中で苦況に立つ業界が非常に増加することは明々白々であります。特に、この
影響は明年三月ごろにあらわれてくると見られるだけに、
政府の万全の
対策を求めてやまないものであります。
しこうして、
経済にあらわれる今回の
円切り上げの
影響は、
円高による輸出の減少、
輸入の増大によるほか、いわゆる
商社の
ドル引き揚げや、ホットマネーの流出、また外人株主の
ドルの引き揚げなどで、現在百五十億
ドルに達するといわれる外貨準備金が相当減少することも
予想されるのではないのか。その点の見通しについてお伺いいたしたい。
もし、そうなれば、必然的に国内の
金融逼迫の
事態を招くおそれがあるのではないかと思われるのであります。それに加えて、
不況の進展は、最終需要の減少を招き、
政府が行なった
公共投資の追加も三月までには多くの期待がかけられないと思うし、また、納税期にかかるだけに一そう三月危機の様相が強くなると見なければならないでのあります。
政府は、
金融、
税制、
財政面で
対策を講ずると言っていますが、その効果はほとんど期待できないのではないかと
心配されるわけであります。
経済企画庁長官にお伺いしたいのでありますが、明年上半期の
経済は一体どうなるのか。私の申し上げたようなおそれはないのかどうか承りたいのであります。
第五番目に、
通産大臣にお伺いしたいのでありますが、
中小企業は大
企業の円の
切り上げ対策のため下請単価を
引き下げられ苦境におちいっていますので、それだけに、
対策については一そうきめこまかいものが必要となってくるのであります。下請
中小企業に対してはどのようなきめこまかい
対策を講ずるのか伺いたいのであります。いままでの
中小企業の官公需の確保についても、その金額ははなはだ少額としか言えませんが、この
拡大に対してはどのようになさるのか。
さらに、現行の
中小企業基本法に始まる一連の
中小企業対策は、どうしても優秀なる
中小企業、つまり優等生だけを守ったものになっておりますが、今日このような危機を迎えようとしているときにあたって、第一線で
中小企業対策を行なっている市町村に対して
不況緊急
対策としての補助金を支給すべきであると提案するものであります、その補助金は、市町村の指定する
金融機関から、
中小企業が借りている
資金の
利子補給を市町村が持つために使うようにする。さらに、市町村が、その補助金から
中小企業をおもな対象にする
金融機関に預託をさせ、小口融資のワクを
拡大するような
金融のきめこまかな
対策をはかるようにすべきであると思うのでありますが、
通産大臣はどのようにお
考えになるのか。すでに、
不況対策条例をつくって、
政府の
対策の前に救いの手を伸べている市町村もある現在、
政府はその
対策を急ぐべきであると訴えたいのであります。大臣の明快なる御
答弁を
要求してやみません。
第六に、
政府の内外にわたる失政による
通貨外交の敗北のために、
不況に加えて、輸出規制、そして今回の
大幅切り上げ、さらには特恵関税や発展途上国の追い上げで壊滅的
打撃を受けた繊維、
雑貨等の
中小企業のメーカーには、一般
中小企業と異なる特別の
対策が必要であるが、
政府は一体どう
対策を講じようとしているのか。少なくとも、
年内にはガイドラインを発表し、
対策を年頭早々に打ち出すべきと思うが、その
対策の中身と今後の見通しを伺いたいのであります。
最後に、今後の
わが国の
輸入政策は、
国民福祉優先、国際協調という点から是正されるのは、これは当然と思われるのであります。これまで
自由化、あるいは関税
引き下げや
円切り上げによる
輸入価格の
低下が
消費者価格の
引き下げにつながらないのが現状であります。
そこで、この際、
円切り上げ後の
輸入品の
価格の
低下の恩恵を
国民全体に及ぼすため、これらを阻害している総代理店契約による一手
輸入といったようなもの、あるいはまた、
国内産業保護のための
価格支持制度、流通のメカニズム等の
改善について
政府はどのように対処していく所存であるか御説明を願いたい。また、
政府自身もこの点について、主導的役割を果たすべく、小麦の
輸入価格の
引き下げ分を、末端のパンの
小売り価格に反映できるよう対処するつもりはないのか、
経済企画庁長官にお伺いをいたしまして、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣佐藤榮作君
登壇、
拍手〕