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玉置和郎君
皆さん、ありがとうございます。
私は、
自由民主党を代表いたしまして、ただいま
議題となっております
琉球諸島及び
大東諸島に関する
日本国と
アメリカ合衆国との間の
協定の
締結について
承認を求めるの件の
賛成討論を行なうものであります。
この
協定は、
戦いに敗れた国家が、全くの平和と互いの
信頼の上に立って、失った国土の
返還を実現し、主権の
確立をかちえたものだけに、
わが国の
外交史上最もすぐれた成果であると確信いたします。と同時に、戦後はいまここに初めて終わったという深い感慨を込めて本
協定に心から
賛成の意をあらわしたいと思います。(
拍手)
振り返って考えてみますと、
沖繩の
歴史は長く苦しい
イバラの道でありました。はなやかな
琉球文化を築いた三百年前の
王朝時代でさえ、
薩摩藩から重圧を加えられるとともに、お隣の
中国にも年々みつぎものをささげなければなりませんでした。
明治の初め、
沖繩県が誕生して以来、
本土との
風俗習慣の違いなど、大きなギャップを埋めながらようやく
近代化が軌道に乗り始めたときに、
悲劇の第二次
大戦によってすべてを失ってしまったのであります。さらに、打ち続く二十六年間、ただひたすらに耐えて生きるだけの
生活をしいられた
沖繩県民にとって、
祖国日本への
復帰は、何よりも強い
民族的願望であり血の
叫びでもありました。
昭和二十年三月、文字どおり激戦のるつぼに巻き込まれ、多くの
同胞がそのとお
とい生命を散らされたわけでありますが、いまここに戦火の
犠牲となられた多くの
県民、軍人のみたまに対し、あらためて心からその御冥福をお祈りするとともに、命にかえて守り抜こうとされたその
沖繩が、いままさに
祖国に返らんとしていることをつつしんで御
報告申し上げる次第でございます。
以下、数点にわたって、今回の
歴史的な
沖繩返還の意義について申し述べたいと存じます。
その第一は、
沖繩返還が、
アメリカ合衆国の善意に基づいて、あくまで平和のうちに取りきめられたことであります。
かつて、私が
アメリカをたずねた際、さる
高官が、当時
本土復帰を要望した
松岡琉球政府主席をきびしく批判したことを思い出します。その
アメリカの
高官は
ことばも荒く、「
沖繩の
悲劇は
日本の
真珠湾奇襲攻撃に端を発したものであり、
戦争による
犠牲の
責任は、あげて
日本自身にある。
アメリカが
沖繩を占領できた陰に、数万に及ぶ
アメリカ人の
犠牲のあることを、
日本や
琉球政府はほんとうにわかっているのか。」と言われたのであります。この
ことばに私は、
アメリカ人の持つ
沖繩に対する強い執着を感じるとともに、戦って敗れるということがいかにみじめなものかをつくづくと思い知らされたのでございます。
また、昨年
ハワイで
日本人会の幹部の
方々と話し合いをいたしましたが、その際、
ハワイ日本人会の
方々はこうしたことを申されました。もし、第二次
大戦で
日本が勝ち、多くの
同胞の
犠牲によって
ハワイを占領し、その上に
施政権が
確立されたとすれば、いかに二十数年の
平和関係が続こうとも、その
施政権を返す気持ちになれるかどうか。かつて、
日清戦争でかちとった大陸での権益をロシアから守るというだけで国をあげて
戦争をした
日本ではないか。
沖繩返還を当然のごとく考えている
人たちに、このお話をよく伝えてほしいと言われたのでございます。
私は、
アメリカ政府が、
沖繩の
施政権を
日本に
返還しようとする好意をすなおに受け取って、その
理解ある
態度に深く敬意を表してこそ、礼節を重んじる真の
日本人の
態度であると信じるのであります。また、そうした相互の
理解と
信頼があってこそ、はじめて野党の諸君が心配される核の問題、
基地縮小の問題等々も、
わが国にとってきわめて有利に解決されるのではないでしょうか。ただもう
アメリカに反発する素材の一つとして
沖繩をあげつらう一部の勢力がありますことは、
日米間の相互
信頼のきずなを断ち、
沖繩県民をより深い混迷の中におとしいれる以外の何ものでもないことを、この際、はっきりと申し上げたいのであります。
さて、第二の点は、本
協定の
世界史的意義についてであります。およそ、昔から「戦場で失ったものを講和のテーブルで取り戻すことはできない」といわれております。敗戦国として文句のつけようのない領土の処分問題が、このように平和な話し合いによって、
戦いに敗れた国の希望を大きくいれて円満に解決されるということは、古今東西の
歴史にほとんどその例を見ないのであります。また、このことは、自由
世界の東西の極点に立つといわれる
日米間の強いきずなを
世界に示すものとして高く評価されている問題でもあります。
御承知のように、
返還協定の成立を見ますまでには、長期間にわたる外交交渉が繰り返されたわけでありますが、かつて屋良主席ですら、「自分が生きているうちは返ってこないかもしれない」と漏らされたほど、たいへんむずかしい交渉を重ねて今日に至ったのであります。全
世界の目が、その外交交渉に注がれ、今日の成果に大きな意義を見出しているはずでございます。なぜかと申しますと、「戦わざれば得られず」という考え方が過去のものとなり、お互いの忍耐と
努力によって平和のうちに国土、権益ですらこれを得ることができる時代になったという証拠であるからであります。実に
沖繩返還協定はこの
意味において、新しい
世界の夜明けと呼ぶにふさわしいものではないでしょうか。(
拍手)
第三の点は、
施政権の
返還が即
沖繩県民の
基本的人権の回復であることであります。
現在の
沖繩県民の
皆さんは、まことにお気の毒ながら、
基本的人権をすら侵された
生活を余儀なくされております。たとえば、外国人から違法行為を受けて泣き寝入りさせられる
生活を
本土の国民が想像できるでしょうか。
日本人でありながら、買いもの一つにもドル、セントといったお金を使わなければならず、
本土との行き来にめんどうな手続が要る。こうした人間として、
日本人として認められないような
生活から、いま、解放されるときが来たのです。革新の屋良主席でさえ、「
協定の再交渉を求めるものではない」と
発言いたしておりますことは、
協定の個々の
内容について幾つかの不満はあっても、一日も、いっときも早く、
本土の法のもとに返り、人間らしい
生活がしたいという心からなる
叫びがあるからにほかなりません。(
拍手)
沖繩百万の
県民が、二十数年にわたって待ち望んだ人間復活のドラマは、いま輝かしい幕をあけようとしております。その新しい時代の幕を開くことこそ、何にもまして私
ども政治家に与えられた大きな責務ではないでしょうか。
次に第四点は、この
協定の成立によって
本土との格差をなくし、経済上の不安を取り除けることであります。
今日の
沖繩は、二十四万の賃金労働者のうち、
基地労働者が約四万五千名、
基地関連事業で働く
人々やその家族を加えると実に
沖繩人口の半数にも及ぶといわれております。それだけに
米軍基地につきまとう第三次産業の肥大化につれて、その産業構造がいびつになっており、加えて、
沖繩の
県民所得は
本土の約六割というありさまでございます。こうした中で
復帰後の暮らしがかえって苦しくなるのではないかという不安を訴えているのが実情であります。ですから、この際、
本土との格差を埋めて現在より豊かで希望の持てる新しい
沖繩を築くためには、何としても
沖繩に適した産業の振興開発を積極的に行なう必要があります。税制その他に適切な
措置を講じるのはもちろん、社会
福祉や教育などの充実向上につとめ、地元の伝統産業や、新しい産業の振興育成に懸命の力を尽くし、明るく豊かにたくましい新生
沖繩を期しているわけでありますが、そのためには、まずもって、現在、沖特委で
審議されている関連諸法案が一刻も早く可決されなければなりません。(
拍手)
以上、四つの点について述べてまいりましたが、さらに、今国会における
審議のあり方について触れてみたいと思います。
野党の諸君は、核の問題について、
日米共同声明第八項、
協定第七条、及び
アメリカ上院外交
委員会のロジャーズ国務長官、パッカード国防次官の証言によって、
返還時に核が存在しないことを重ねて表明しているにもかかわらず、これを全く
理解しようとしないばかりか、さも
日本本土にまでも核があるとか申しております。これほど国民を不安におとしいれるものはございません。またもし、野党の諸君が
反対の
立場をとられるのであれば、本
協定にかわるべき、即時実現でき得る対策を国民の前に堂々と御提示されるのが政治家としての
責任ではないでしょうか。(
拍手)
沖繩百万県民が、いま真の平和と人間復活を得ようとするとき、イデオロギーを持ち込んで、その悲願を妨げるようなことが断じてあってはならないと思うものであります。
さらにまた、本
協定に対し、
沖繩県民の大半が
反対されているかのごとく言われておりますが、そうした考えを持つ諸君に一言申し上げたい。
沖繩県民の政治の最高機関である立法院で、本
協定の早期批准を決議したのはどう考えるべきでしょうか。また、
協定調印直後の
参議院選挙で、七二年
返還を公約した
自民党稲嶺
議員が、
県民の圧倒的支持を受けて当選されたのをどう
理解すべきでしょうか。これこそ、
沖繩県民の大多数が本
協定に
賛成していることのあらわれにほかなりません。
本
協定の成立は、
沖繩県民大多数の心であるとともに、民族の悲願なのであります。そしてまた、
日米両国の友好
信頼関係を確固不動のものとして、同時に、
わが国の太平洋新時代とも言うべき新たな局面を開かんとするものであります。全
世界が注目する中にあって、平和共存共栄の新時代への力強い一歩を踏み出すかいなかは、かかって良識の府である
参議院の決断によることをお考えいただきたいのであります。この際、党利党略にとらわれることなく、真の
日本人として、その心意気を四海に披瀝するためにも、本
協定はもちろん、重大な
関係にある
沖繩関連法案の会期内成立に十分な御配慮あらんことを切望して、私の
賛成討論を終わらしていただきます。
ありがとうございます。(
拍手)
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