○松永忠二君 私は、
日本社会党を代表し、
昭和四十六年度補正予算三案に対し
反対いたします。
佐藤内閣の最大の欠陥は、長年政権を担当してきた自民党内閣の政策に対する反省がなく、その
政治責任を明らかにしないことであります。
現在、日中
関係について、長期的展望に立った基本政策を持たず、その場その場の
外交工作に終始した結果、国連においてむざんにも国際世論の否定的審判を受けたことに対する反省とその
政治責任を明らかにすることを強く求められていることは申すまでもありません。
繊維についても、
国会決議を無視し、二者択一を迫る
米国政府の強圧的
態度に
屈服しながら、あえて
国益と強弁し、行政的
措置と称して、
国会に
政府間協定を提案して、民主的決着をつけることを避けてその
政治的
責任を明らかにしようとしないのであります。
経済問題について、
日本が不況の中で通貨調整に追い込まれ、七千五百億の国債の発行を含む補正予算を提案せざるを得なくなったことに対する反省とその
政治責任の意識が欠除しているのであります。総理は、戦後体制の行き詰まりが経済面で国際通貨の
危機となったと言って、その
責任を戦後体制にかぶせ、大蔵
大臣は、国際通貨不安の根本的な原因は
米国の
国際収支の悪化したことにあると、これまた
責任をなすりつけているのであります。蔵相は、
国際収支の黒字の累積は、もっぱら不況や投資などの異常が原因で、
日本には基礎的不均衡はないと
主張していますが、西独のシラー経済相は、世界最大の黒字国である
日本に基礎的不均衡がないなら、世界じゅうの経済学の辞典から「基礎的不均衡」という文字を削除するほうがよいと言っています。世界一の赤字国の
米国が基礎的不均衡なら、世界第二の黒字国の
日本にも基礎的不均衡があるという考え方のほうが自然でしょう。
米国の不当が責めらるべきは当然ですが、同時に、誤った景気調整によって
国際収支の黒字が大幅になったことや、より根本的には、
日本経済の円平価調整を不可避ならしめるような、長い
輸出第一主義と低い労働分配率、社会資本の不足、生活環境の破壊の上に成り立った高度経済成長など、経済
発展の体質に対する反省と、これを推進してきた自民党
政府の
責任を感ずべきであります。(
拍手)
政府が景気浮揚の方法として補正予算に組み込まれたものは、公共投資、減税、大幅な国債発行の三本の柱であります。今回
政府は補正にあたって七千九百億の国債の発行を予定しました。当初発行予定額を含めて一兆二千二百億円であり、国債依存度は一二%になります。景気浮揚のため財源不足を国債発行に求めることを否定するものではありませんが、
政府の
態度には、総額が、公共事業費、出資金、貸し付け金のワク内なら、歳入不足を補う
内容であろうが、所得減税の財源だろうが、どんどん国債を出せという安易な姿勢が見られます。これは財政法第四条一項にいう建設国債発行の
趣旨を乱用するものであります。また、公共事業その他の施設の七〇%が国債でまかなわれているのは、一般会計の予算構成上からもはなはだ不健全と言うべきであります。四十七年度は一兆七千億の国債発行も考えられるというのでありますから、景気情勢の変化に伴う国債収束の容易でない
わが国の
政治風土からも、累積していく国債を財政体質改善を進めながらどう処理していくかという一応の構想を示して、その歯どめをする必要があります。この安易な姿勢は、不況下のインフレを心配させるものがあります。
為替レート一〇%の引き上げは、卸売り物価による間接効果を含めて、消費者物価〇・八%、卸売り物価二・〇一%引き下げの効果があるといわれます。しかし、それには平価調整を物価に反映するための市場環境の整備、競争原理の貫徹、
輸入自由化の推進、関税の引き下げなど、原価——コストの低下を物価面に十分生かす諸政策が必要であります。通貨調整のときこそ流通革命の好機であり、インフレ退治の絶好の機会であります。ところが、事実上の円切り上げの変動相場移行の
影響は現在のところ皆無で、むしろ物価上昇を見ている状況です。公共物資の国鉄運賃割引廃止、トラック運賃、バス代等、公共料金の値上げが簡単に認められつつあります。これでは不況下の物価高の心配が十分ありますのに、大蔵
大臣は、物価を心配していたら何もできない、いま心配しなくても済む状態だと言い切っていますが、はたしてそうでしょうか。内閣の調査でも、いま八〇%の人
たちが物価上昇の不安感を持っています。
政府は
輸出関係中小企業について約七十五億の追加、対
米繊維輸出規制対策費六十二億を計上しています。不況と円切り上げで
打撃を受ける中小企業地域、個人に十分な対策を講ずることは必要でありますが、本土復帰と円切り上げによる二重の
打撃を受ける沖繩県民に対する補償も不可欠なことであります。ドルショックと、これに便乗する経営者の手で、人員整理や臨時工、出かせぎの解雇、新規採用の取り消し等が行なわれています。無謀な
繊維の
政府間協定により数十万人の
失業者と多数の倒産が出ると、
繊維協会の大屋会長は警告しています。公務員の給与引き上げも、その
要求とは大きな隔たりがあります。ドルショックのもとで賃金の抑制は当然であり、労働時間の短縮など、いまそれどころではないと、日経連も
日本商工
会議所も言っています。これでは、変動制下の最大の犠牲者は
労働者であり消費者だということになります。
次に減税であります。
政府はこの補正で千六百五十億の減税を提案しています。年内減税はけっこうでありますが、中堅所得者という名の高額所得者の優遇のため、多くもない減税額の二分の一がさかれているのであります。先進諸国に比べて低所得者層の所得税負担は重く、租税特別
措置や企業交際費非課税が多く、諸外国に比較して軽い法人税とのアンバランスを是正する必要があります。ここで特に指摘しなくてはならないことは、減税の恩典に浴さず、かつ不況の中の物価高で苦しむ低所得者層への配慮を含めて社会保障を抜本的に拡充することや、公害対策の充実について配慮が払われていないことであります。これでは、総理
大臣が、社会資本、社会保障を充実し、
国民福祉と経済の調和のとれた新たな繁栄をつくり出すと言ってみても、大蔵
大臣が、経済成長の成果を
国民生活の質的充実に結びつけると演説してみても、全くのから念仏で、そこに見られるものは、なりふりかまわぬ景気対策のみであります。国際通貨
危機と不況の中で
財政支出の増加に積極的に踏み切ることは、それとして大切なことでありますが、
具体的内容及び支出の対象について、従来の景気刺激対策と異質の配慮が必要であります。新しい
日本経済の体質改善の目標に沿って集中的な投資を計画的に振り向けるべきであります。およそ望ましい経済成長率とは、従来のようにGNP何%ということではなく、望ましい社会保障、社会資本、公害
規制、労働時間の短縮などの構造上の変革を行なうことの結果として得られる経済成長率でなくては何の意味もありません。(
拍手)
最後に、公共投資の問題であります。公共投資は、一般会計で事業規模約五千億が追加されました。本年度は、公共事業だけでも事業ベースで三兆八千九百億という巨額となります。公共投資は景気調整政策として期待されるものでありますが、本来の機能は短期の経済変動を調整するためにあるものではなく、長期的な資源配分の観点から取り上ぐべきものであります。景気調整として利用する場合には、機動性を欠き、浪費性を持ち、労働力、技術力の不足や地価の高騰等の欠陥もあります。したがって、機構改革を含む慎重な準備と地域計画、各省庁の事業別計画と斉合し、着手順位の一元的な
判断ができる
措置が必要であります。この長期的な資源配分政策の中で正しく位置づけられてこそ、巨額な
国民の資金が浪費なく活用され、立ちおくれた社会資本の充実が得られるのであります。しかし、経済社会
発展計画の修正もまだ行なわれておらず、本年度の公共投資が、補正を含めて、こうした計画の中で効果的に行なわれているという保証はどこにも感ぜられないのであります。今回、公共事業を追加するに伴って、地方団体に千五百二十二億の地方債の発行が必要であります。また、国の減収に伴って地方交付税も千二百七十二億が減額されますし、不況のために千三百三十四億の減収が見込まれます。公共事業総額の約四割が地方公共団体の負担であります。地方財政は再び財政の
危機に直面せざるを得ないのであります。豊かな
国民生活や福祉の充実は、まず地域社会から実現されていくのでありますから、地方公共団体の果たす
役割りは今後一そう重要さを加えてまいります。地方自治体の自主性を強める方向で財源や事業の再配分ということが真剣に取り上げられなくてはなりません。
以上、私は、補正予算を通じて
政府の経済政策の欠陥を指摘してまいりました。繰り返し申したいことは、国際通貨制度の
危機と景気不況の中で
政府に求められているものは、過去の
日本経済に対する反省とこれに基づく経済政策の転換にあります。現内閣は、激動する国際情勢の中で日中復交の
政治課題を遂行する能力があるかどうかを危ぶまれているのであります。経済問題についても、不況回復をはかりながら
日本経済の体質改善や転換をはかることができるかどうかということであります。また、国際通貨制度の
危機の中で、世界経済の新しい秩序をつくり、先進国としての
責任を積極的に果たし得るかどうかということであります。私は、この経済的課題を
解決するためにも、長い政権担当の中で行なってきた政策に反省と
政治責任を欠く
佐藤内閣は退陣を決意すべきときだと存じます。私は、これを強く要望して、
反対の
討論を終わります。(
拍手)
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