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政府委員(高木文雄君) ただいま御
指摘いただきましたように、課税最低限の問題は、
所得税の問題としてきわめて重要な問題でございます。
一つには課税最低限をいかなる基準によって定めるべきかということについては、ただいまおしかりを受けましたように、もともといろいろ研究をしなければならない問題だと思います。これはいろいろな角度から研究はされておりますが、まだ必ずしも決定的なあれではないわけでございます。過去におきましては、先般の御質問の際にありましたように、いわゆるマーケットバスケット方式でいろいろ計算するということが行なわれました。それは、その当時の課税最低限は現在に比べますとかなり相対的に低かったものですから、
生活費との間でぎりぎりでありましたので、かなり
生活費にも食い込むんじゃないかということがずいぶん言われました。そこで毎年毎年それをいろいろ検討するということが、まあそこだけが非常にこう、いわばフットライトを浴びた形で
議論が続けられたわけでございます。その
意味では、最近何というか、マーケットバスケット方式によるところの計算とはやや離れてきたということについて、それほどそこだけを
議論する必要がなくなったという
意味で申し上げたわけでございます。現在は、もちろんいろんな研究をないがしろにしているわけではございませんで、
物価のことも考えています。また、たとえば標準生計費というようなものもいろいろ見ております。それから給与の、たとえば、初任給というようなものの動きとの
関係を見たりしております。しかし、どれを見ましても決定的なものにはなっていないのでございます。
そこで、もう
一つそのあたりの問題につきましては、片一方におきまして
生活保護基準の
改定がだんだん、ここ五、六年かなりのテンポで進んできております。その社会保障でカバーされていく階層のあたりと、それから税で、課税最低限で対象になっていくあたりと、つまりそのまん中に、中間に残るところをどういうふうにつないでいったらいいのかというようなことが非常に問題でございまして、実は今回の
政府の税制
調査会の
委員の改選の機会に、特に社会保障
関係に明るい方に何人か特別
委員として税制
調査会に参加をしていただきまして、そういった面で社会保障制度と税制とのつながりというようなことを、今後今日的課題として検討してみようじゃないかということにしております。そういう
意味で——御質問に対する
お答えにはなりませんが——私とももそこが
一つのごく最近における税制の問題点であるということを十分認識しているつもりでございます。
それからもう一点、非常に私
どもがいつも引き合いに出しますのは、外国の税制との関連でございます。外国の税制との関連で見ますと、これはそれぞれの国の
経済事情も違いますし、
所得の階層がみな違っております。それから不労
所得の
関係、みな違っておりますから、機械的比較は非常に危険だと思います。しかし、機械的に比較した限りにおきましては、
日本よりも課税最低限がいい
条件にある、つまり上にありますのは、いつも申しますように
アメリカとフランスだけでございまして、今回の改正によりまして平年度で夫婦子二人の
日本の課税最低限は百三万円ほどになるわけでございます。フランスがその上に
条件がいいわけですが、これが百六万ぐらいでございますから、もうまさにフランスに追いつくような状態になっています。そしてフランスは御存じのように非常に間接税の国でございます。直接税はウエートが低い国でございます。そのように直接税のウエートが低い国であるフランスの
所得税の課税最低限を、まさに追い抜こうかという状態になっておるわけでございます。それこれ考えてみますと、一体どういうふうに考えたらいいのか。そこは冒頭にも申しましたように、基本的に
国民生活の
事情が違いますし、一人一人の蓄積の状態も違いますし、それからいろいろな
条件が違いますから、単純な比較はきわめて危険でございますけれ
ども、とにかくかねて非常に
日本の課税最低限が低かったのが、だんだん改善されてまいりまして、今回の改正でまさにフランスに追いついてきた、まさにフランスを抜こうかというところまできたということから考えてみますというと、何かそこらあたりに
一つの別の
意味での——決して私はもうそれでいいのだ、もうこれ以上課税最低限を直さなくてもいいのだということではないのでございますが——何かいままさに先生が御
指摘になりますように、何かひとつ基準をどこに求めるべきか。そして先ほど申しました別の
意味では、社会保障との関連などの付近に求めるべきか。さらに申しますと、もう
一つは基本的に直接税と間接税のウエートをどの
程度に考えていくのか。どんどんと
所得税の減税をはかるということをもう少し早いスピードでやっていくということであって、しかも、
国民所得に対する租税負担率は、
日本の場合は非常に国際的に低いということを前提として考えてみますと、あるいは間接税をふやさなければいけないのか、しかし、一体それはいいのか悪いのかという問題あたりまで問題が及んでくるわけでございます。
で、その辺につきまして税制
調査会の御答申も非常にいろいろ
議論がありまして、まああんまり明確ではないのでありますけれ
ども、ごく簡略にこう言っております。「今後における課税最低限のあり方としては、
所得の増加に伴う納税人員の累増を緩和することに留意しつつ、」、これは御存じのように、たいへん納税人員がふえておりますので、これは課税最低限の上がり方が少ないから納税人員がふえるわけでありますから、「納税人員の累増を緩和することに留意しつつ、」というのは、つまりその角度から課税最低限をもっと思い切って上げろということになりますが、一方において、「少なくともある
程度貯蓄のためにゆとりのある合理的な
水準を確保していくことが必要であると考える。そのためには、
国民の蓄積
水準の
動向や納税人員の推移等を十分考慮しつつ、今後における
所得水準、
生活水準、
物価水準の
上昇に見合って所要の
調整を加えていく必要がある。」、たいへんばく然とはしておりますが、税制
調査会の認識もその辺に置かれております。今回の改正はいろいろ御批判を受けているところでございますが、課税最低限の問題は今後ともさらに長期にわたりまして根本的な問題としていろいろ勉強させていただきたいと思います。