○竹本孫一君 私は、民社党を代表して、ただいま御
報告のありました
国際通貨調整の問題について
質問をいたしたいと思います。(
拍手)
以下、論点を三つに整理して申し上げます。
第一点は、佐藤内閣の無計画、無反省の政治
責任についてであります。
池田内閣の姿勢を批判しつつ、人間尊重を掲げて登場された佐藤内閣は、最近まで、池田内閣以上の高度成長で、年々、GNPは大体一三%、
予算は二〇%、
貿易は二、三〇%、通貨でも毎年二〇%ずつ膨張してまいりました。この
設備投資主導型の高度成長というのは、すなわち、財界指導型の無計画な、分裂的、過熱的成長でありまして、消費者物価の上昇とインフレの進行、及び
輸出ドライブがかかるということは避けることのできない点であります。
アメリカのサミュエルソン教授は、それだけの
生産物を一体
日本はどこへはかすつもりで大きな
生産をやっておるんだろうか、
日本は夢を見ているのではないかという批判をいたしました。こういう点について、
政府はどういう反省をしておられますか。
次に、
政府は、八月にニクソンの
ドル防衛が声明されましたときに、これを
ドル・ショックと申されました。ニクソン訪中がきまりましたときには、これはニクソン・ショックと呼ばれたのであります。しかしながら、
事態の発展を一々ショック、ショックと片づけて受けとめておるということ自体に、
政府が
世界の政治や
経済の動きに何らの洞察と見通しを持っていないことを証明しておるのではないでしょうか。(
拍手)
政治に最も必要なものは先見性であり、指導性であります。いまや佐藤内閣にそれがなくなったと言うも過言ではないでありましょう。
大蔵大臣、あなたが
変動相場制を実施されたのは八月の二十八日であります。それまでは為替
市場、株式
市場を開いたままで、大臣も日銀総裁も、何回となく、一
ドル三百六十円を死守すると声明されました。これまた
世界の常識に反します。しかも、三百六十円は一体何日間死守することができましたか。できもしないことを死守するとは何事であろう。
さらに、二十二年前の一
ドル三百六十円を、いわゆる
経済大国といわれる今日的状況において維持すること自体が矛盾であります。それは、実質的には、たとえば三百十円台の相場を三百六十円に為替の
切り下げを実行いたしておるようなものでありまして、
わが国の資源と資本をむだ使いすることであり、
わが国の労働賃金をそれだけ不当に押えることになり、それだけ
米国その他に割り安で過剰サービスを行なうということでありまして、
政府が先見性を持たずに、円レートの
調整を今日まで怠ったということは、外には諸外国の強い反撃を招いたのみならず、内ではそれだけの
国益と勤労者の福祉を大きくそこなったものであるといわなければなりません。(
拍手)
佐藤総理は、
国民長年の
努力で円は最も強くなったために一番大幅に
切り上げられたのだから、これは自慢してよろしいんだと言っておられるようでありますけれ
ども、今回、
米国の
ドルの
切り下げについての見通しを
政府は誤っている。結果としては、
米国の、ある
意味において謀略に乗せられたような形で大幅な
切り上げをやらされたわけでありまして、その見通しの悪さについてはきびしく糾弾されなければなりません。(
拍手)
政府の見通しの悪さはこれだけにとどまりません。
大蔵大臣は、
通貨調整は年内に不可能である、むずかしいとたびたび語られました。私は必ず年内
解決であると
考えまして、そのためにも、
日本は黒字国の
責任としても、みずからの具体的
解決案を早く積極的に提示すべきことを、去る九月二十五日、官房長官にも申し入れたのであります。円レートの
切り上げは一月おくれるごとに条件が一%ずつくらい悪くなる、八月ならば八%、九月ならば九%だろうという
意見もありました。いまこれが三百八円と
決定したのでありますが、これは
日本経済の発展にとってはあまりにもきびしいレートであります。
沖繩のことについても先ほど御
発言がございました。国内について申し上げましても、一七%の
日本品の
値上がりをかりに輸入原料の低下で五%カバーいたしたとしましても、なお一二%の
値上がりになります。値を上げてものが売れなくなれば、
日本の
企業がこれを
負担しなければなりません。しかし、
日本の
中小企業の困窮ははなはだしいものがありまして、現在一〇%、一二%のマージンをあげている
中小企業が
日本に幾らあるとお
考えでありましょうか。
そうしたきびしい条件を押しつけられましたのは、十カ国
蔵相会議が、初めは
アメリカ対九カ国の大勢であったにもかかわらず、いつの間にか
日本対
アメリカ及びECなどの九カ国となって、円の
切り上げは高いほどよろしい、こういう結論になったからであります。
日本が自主
提案を積極的に行なう勇断と誠意を欠き、いたずらに官僚的糊塗
政策に終始して、ついには孤立無援のアニマル
日本というような深刻なる
事態を招来したことについて、
佐藤総理は重大なる政治
責任を感ずべきであろうと思うのであります。(
拍手)
第二は、
日本経済の現状の
認識についてであります。
政府はさきに四十六年度の
経済成長は一〇・一%から半分の五・五%に修正されました。
経済企画庁の二十五系列による十月の景気動向指数は、総合系列で二二・九%、五〇%以下であって、三十三年二月以来の低水準であります。これに今度の新円レートによる不況の追い打ちがかかってまいります。
わが国の景気後退の深さ、長さというものが大問題でありますが、経企長官は、本年度の第三・四半期の成長率は何%と
考えておられるか、あるいは
政府は何%と見ておられるか。四十六年度の成長率はこのままでは四%台になると思いますが、その心配はありませんか。
補正
予算と千六百五十億円の
減税ではたしてどれだけ景気を押し上げることができますか。予想以上の円レートの
引き上げで、
経済成長は何%ぐらいの打撃を受けますか。さらに、来年度の大型
予算ではたしてどれだけ景気を浮揚させることができますか。いわゆるなべ底不況が長く続く心配があることを指摘したいのであります。
結論として、四十七年度の
わが国経済の成長率は、先ほどお話しのようにはたして七%になるか、あるいは再び四%台にとどまるか、これが大問題であります。来年の下期は相当の
経済成長を見込んでおられるようでありますけれ
ども、
国民待望の景気回復は、はたして何月からであるか、四月か、七月か、九月か、お見通しを承りたいと思います。
なお、これに関連して、
総理並びに
大蔵大臣に
伺いますが、景気回復いかんによっては来年度さらに大型の補正
予算を組むということも
考えられるのでありますか。また、かかる
経済困難の中においても、大蔵省は、
通貨調整一段落のあとはデノミだといったような事務的観点から、来年度にはデノミに手をつけられる予定がおありかどうかも承っておきたいと思います。
また、大型
予算はもっぱら公債の発行に依存する
方針のようでありますが、これは下手をすればいわゆる公債インフレへの危険な道であります。
政府は詭弁を弄することなく、この際の公債発行には必ず新しい特別立法
措置によるべきであると思いますが、御見解を承りたい。
また、ニクソンの訪中、中国の国連加盟という新しいアジアの情勢の中で、いまこそ
日本は、アジアの中の
日本としてこの福祉と平和に立ち上がってまいらなければなりません。冷戦構造の中で構想されました四次防はこれを再
検討しながら、その間に
国民福祉に直結する生活関連
社会資本、
社会保障の
充実に力を尽くすべきであろうと思います。公債発行もその間の時限立法としてその期間を三年に限るとともに、その目的をあくまでも以上の目的に制限すべきであると思うが、お
考えを承りたいと思います。
最後に、将来の展望について
伺います。
一、将来の新国際通貨秩序は一体どうなるか。金・
ドル本位制に返るのか、
ドル本位制に完全に移行するのか、一体IMFの新体制はいかがに構想されるのでありますか。また、今回の
通貨調整で、
米国の
国際収支の赤字は何十億
ドル解決するというお見通しでありますか。
二、通貨新秩序の
前提条件としては、
世界経済の新秩序が
考えられなければなりません。それには、いままでのガット原則、自由、無差別というガット原則だけでは不十分でありまして、より高度の新理念の確立が必要であると思いますが、
政府はいかが
考えておられますか。また、
米国のインフレを抑制するということがすべての問題
解決のかぎでありますが、かけに勝ったというようなことで喜色満面の
米国の今日の態度には、ごうもこの問題に対する反省の色が見られないのであります。これで明日の
世界新秩序を語る資格が
米国にありと
政府はお
考えになるか、お
伺いをいたしたいと思います。
三、今回の不況は四十年不況よりも深刻だとする
意見が多い。これにレートの
引き上げが加われば、不況はさらに深刻になります。
企業の蓄積は確かに四十年不況よりも多くなっておりましょうけれ
ども、損益分岐点は非常に高く、また、景気回復の主導力たるべき
設備投資は、どう見ても横ばいであります。ほかに新しい、目ぼしい成長産業もありません。その結果、いよいよ輸入が減って、
輸出のドライブが強くなる、そして、
大蔵大臣も御心配なさっておるようでございますけれ
ども、大幅の黒字がまた出てきてまいりまして、あるいは五十年を待たずして再び円の
切り上げが強要せられる結末になりはしないかと心配をいたしますが、もう一度具体的に
大蔵大臣のお
考えを
伺いたいと思います。
四、
政府の不況
対策は、公債の増発による
予算の大型化で景気の量的な回復を主眼としておるようでございますが、それは当面の財界救済には役立つかもしれませんけれ
ども、真の
解決ではありません。この際は公害
対策、
住宅政策、老人福祉などに重点を置きまして、いままで持っておられる
政府のこれらの
政策を再
検討して、真の福祉国家建設のために邁進すべきであろうと思いますが、
政府のお
考えを承りたいと思います。特に、先ほ
ども御
質問がありましたけれ
ども、
日本の社会福祉は一体何年ぐらいで西欧的水準に追いつく御所存であるかも承りたいのであります。
五、
政府に発想の大転換ができない限り、今日のスタグフレーションはいよいよ矛盾を
拡大すると思われます。この際、輸入品値下がりを直ちに
国民生活に反映させるための流通秩序の再編成、特にまた、生鮮食料品の値下げ等の
対策を通じまして、
大幅減税とともに、物価の
値上がりを押えるべきだと思いますけれ
ども、もう一度物価
対策についての御決意を承りたいと思います。
六、防衛費の分担問題や兵器の購入の強制の問題に対する
政府の
方針はいかがでありますか。これらの問題について、
政府は、来年のサンクレメンテの日米首脳会談で再びニクソンに押し切られるのではないかという心配を
国民は持っておると思いますが、
総理の御決意を
伺いたいと思います。
七、二重構造の底辺にあるところの
中小企業と農業の近代化は、この際大急ぎでやらなければ、
自由化に対応することはできません。ドイツ社民党の成功は、その思い切った
中小企業政策にあるし、また、スウェーデンでは、食糧の自給はお金のかかるものなりということをいっておりますが、
政府は、
中小企業、農業の問題
解決のために何年計画で何兆円の
予算で一体取り組もうとしておられるか、伺っておきたいと思います。
八、
佐藤総理は、当面の
経済難局を乗り切るために、労使関係の近代化を訴えられましたが、何よりも大切なことは経営倫理の確立であります。
政府は、経営参加を
前提とした労使協議制の確立、基幹産業部門における週休二日制の実現についてはいかなるお
考えでありますか。
最後に、われわれは、この
通貨調整を受けとめて、新たなる国際土俵において再び力強い前進を始めなければなりません。
日本国民のたくましいバイタリティーと高い
生産性は、これに十分にたえていくだけの力を持つでありましょう。しかし、その場合に最も必要なものは、政治の先見性であり、指導性であり、特に今日
国民の団結をはかるためには、民族独立への力強い気魄と根性が必要であります。円レートの
切り上げ幅についても、一
ドル三百六十円は、だんだん追い詰められて、三百八円となってしまいました。
政府は、二〇%ないし一八・五%の
米国の要求を退けたのは成功であったと喜んでおられるようでありますけれ
ども、
国民の目から見れば、これはまるでいわゆるバナナのたたき売りみたいなもので、何よりも
自主性のない
ドル防衛追随、対米屈従のふがいなき態度であったような感じを持つものであります。(
拍手)
また、
総理は、当初やらないと言っておった
ドルが七・八九四%も
切り下げられたのは、
米国の大きな譲歩であると言われました。確かに譲歩であります。しかし、ベトナムで千二百億
ドル、四十三兆円、戦後の海外軍事援助で千三百十五億
ドル、四十七兆円、
世界企業の海外投資で七百八億
ドル、二十五兆円、こんな乱暴な放漫経営をやっておりました
米国政治の矛盾は、すでに
ドルの破産を招来しておりまして、
ドルは実質一〇%ぐらいは下がっていたものでありまして、これを今回の
措置で追認したものであって、譲歩ではありません。しかもまた、その譲歩は、
フランスの強い姿勢に対して、米仏なれ合いの形で行なわれたものでありまして、断じて
日本に対する譲歩ではないことをはっきりとさしたいと思うのであります。(
拍手)
およそ、民族独立の力強い気がまえがなくしては、全
国民の団結と協調は期待できません。
日本は、いまこそ、アジアの中の
日本として、強引な
アメリカに対しても一定の距離を置き、ソ連、中国に対しては逆に一定の距離に近づいて、真にアジアの福祉と平和の建設のために立ち上がるべきであります。そのためには、
日本の政治の姿勢と構想の大転換が絶対に必要であることを特に強調いたしまして、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕