○中川嘉美君 私は、
公明党を
代表いたしまして、ただいま
議題となりました
沖繩の
復帰に伴う
特別措置に関する
法律案、
沖繩振興開発特別措置法案、
沖繩における
公用地等の
暫定使用に関する
法律案、
沖繩の
復帰に伴う
関係法令の
改廃に関する
法律案、及び
人事院の
地方の
事務所設置に関し
承認を求めるの件に対し、一括して
反対の
討論を行なうものであります。(
拍手)
以下、
反対の
理由を申し上げます。
第一点は、
沖繩返還協定との
関係において、この一連の
法案は密接不可分のものであります。
さきに、自民党が多数を頼む横暴によって
国会審議に重大な汚点を残す筆舌に尽くしがたい強行採決を行なった
沖繩返還協定が、四半世紀にわたる異
民族支配から
沖繩が
祖国に
復帰する
沖繩県民をはじめ国民の喜びを裏切り、
政府みずからが言い続けてきた核抜き
本土並みがいかに欺瞞に満ちたものであるかは、去る十一月二十四日の本
会議の席上、わが党
代表の協定
承認に対する
反対討論で詳細に述べたとおりであります。したがって、
返還協定については再びことばを重ねることを省きますが、その協定によって及ぼす影響が、具体的に悪い面をさらけ出し、
沖繩県民は
もとより、国民に対し、
政府の対米交渉能力の限界と、米側の占領行政姿勢を
国内法の制定に持ち込み、国家権力による圧迫を加えようとしているのが、これらの
法案であります。
すなわち、
委員会の
審議を通じ一そう明瞭になったことは、
日米安保条約を原点とし、一九六九年の佐藤・ニクソン共同声明、それに基礎を置いた
沖繩返還協定、さらに久保・カーチス取りきめと、この一連の日
米軍事複合体制が至上の方針となっていることであります。
われわれは、言うまでもなく、
返還協定に示された
沖繩返還の態様が、
アジアの緊張を激化し、
沖繩の
祖国復帰を機に日本みずからがそのにない手となることが世界の軍事戦略的時流に逆行するものであり、また、ニクソン・ドクトリンによるベトナム、韓国、日本からの
米軍の撤兵、ニクソン訪中が、直ちに米中和解につながらないとしても、米中の対話の場を広げ、少なくとも米国みずから緊張緩和を模索する努力を示し始めた中で、日本みずからが孤立の道を歩むことを指摘するものであります。
また、かりに
政府が
アジアの緊張を論証するに足る情勢を把握するとしても、その中でこそ、日本みずからが平和国家としての自主的な外交姿勢を示し、緊張緩和のための手段を尽くすべきであると訴えたいのであります。
しかるに、これら
法案の
審議を通じての
政府の
態度は、
さきに述べたとおり、日米安保体制を原点とする路線を至上方針として、
国内法をこれに追随させ、外交交渉の結果からいかに国民の人権と
福祉と繁栄と
社会の平和を守るかという努力を
法案に示さず、またその努力を
国会審議の上で求めない、また国民に求めないという独善的
態度を糾弾するものであります。したがって、
公用地等暫定使用法案あるいは
復帰に伴う
特別措置法案に明瞭なとおり、
立法構造の混乱や現行法無視、さらに自民党の多数を頼んでの
憲法に対する独断的な解釈、すなわち違憲の疑義をあえて隠蔽しているというべきであります。
その結果、これらの
法案は、
沖繩県民の
基本的人権をじゅうりんし、極論していうならば、太平洋の軍事的かなめ石としての
沖繩を、
米軍基地機能、
自衛隊派遣を絶対視する日
米軍事複合体制によってさらに固定化するため、
施政権返還の代償に代価を払うのみならず、米大統領行政命令による過酷な占領軍政の諸体系をわが国の
国内法に組み入れているとさえいうべきものであります。
したがって、わが党は、
憲法擁護の立場から、現行法規を尊重し、平和と
沖繩同胞の人権を守り、その財産を尊重し、
復帰後の
沖繩が、わが国の
地方公共団体として
本土の
地方公共団体と
差別なく、円滑な権能の
運営により、地域
社会の発展を期す上からも、重大な欠陥と不当性を持つこれら
法案に断固
反対するものであります。
第二点は、これらの
法案が、
沖繩県民の意思を結集し、また、
沖繩の心を凝結した
琉球政府の
復帰措置に関する建議書に報いるところがないことであります。
沖繩が
基地の中の島であることは言うまでもありません。しかも、一九五〇年代の米戦略の転換、すなわち、
米軍の対共産圏周辺戦略の中で、共産圏の周辺
基地としてその中心となり、一貫した中国封じ込め戦略の第一線に位置づけられ、核兵器による報復戦略の中で核
基地として利用されてきたことは周知の事実であり、
返還協定の七千万ドルの核
撤去費支払い要求がこれを証明しております。
この
沖繩にあって、戦後二十六年間、平和を願い、人権の復権を願い、われわれが味わったことのない軍政下の抑圧の中で、だれよりも
祖国への
復帰を熱願し、想像を絶する
苦難に耐えて
日本人であることを主張してきたのは
沖繩県民であるというべきであります。(
拍手)したがって、その歴史を通し、わが身の体験を通して訴えた
復帰措置に関する建議書は、平和に徹し、異
民族支配の中から真の
祖国復帰の実現を希求する悲願の書であるというべきであります。
佐藤総理は、みずから、「
沖繩県民の労苦に報い、あたたかく迎えたい」と口にしながら、この建議書の何項目を
法案に取り入れたか、また、これを取り入れようとされるか。あるいは、この
沖繩の悲願に対して、みずから意のあるところをどこまで心を尽くして語られたか。私は、その事実を聞かないことに、また、
総理がこれを語られないことに、耐えがたい冷酷ささえ感ぜざるを得ないのであります。
第三点は、これら
法案の個々の
内容について、
反対の
理由を明らかにするものであります。
まず、
沖繩返還の態様のかなめをなすものは、言うまでもなく、
公用地等暫定使用法案であります。違憲のかたまりとさえいわれているこの
法案がもし制定されれば、私は、国民の主権を負託された日本の
国会は、現在はもちろん、後世にその非を問われるものと考えるものであります。この
法案が、重大な違憲性を持って強権を発動し、法の
もとに平等であるべき
権利を侵し、
沖繩県民の
財産権を抑圧することは、わが党
議員の
質問に答えた
総理の
発言によっても明らかであります。すなわち、「
憲法違反とは思わないが、まだまだ
本土との差があることは認めざるを得ない」「私有権を強権によって
収用することは認めなければならない、これは
基地の現状を変えないように処置するところに問題がある」「
公共の用だから、がまんしろとは言えない、
憲法の
精神から見てもよくない」等、
沖繩県民の人権、
財産権の尊重が、この法によって
本土並みに尊重するとは言えず、
沖繩差別のあることを
総理みずから
発言されているのであります。
この
法案が、
憲法九条をはじめ、第十四条、第二十九条、第三十一条、第三十二条に対する違憲性を持ち、さらに第九十五条の
住民投票によりてはじめて制定を見るべき性質のものであることは、この
法案による
沖繩基地の規模と態様から見て、第九十五条の持つ意味から明らかであります。
公聴会において、協定
賛成の公述人からさえも、この
法案に対する疑義を投げかけた結果からも、
佐藤総理みずからが満足していないとするこの
法案を、なぜこれを撤回し、
日米安保条約堅持の
政府サイドからしても、
米軍地位協定二条一項(a)に
基づいた
手続をし、また地位協定に
基づく
特別措置法の附則第二項を適用し、
米軍基地を扱わないのか。また、
公共施設用地、
自衛隊関係用地をそれぞれ分割し、現行
憲法に
基づく現行
法律により、
本土における
公共施設用地、
自衛隊関係用地取得の適法と手法に立ち戻る努力を示さないかと言いたいのであります。
われわれが、この
法案の持つ違憲性についての詳細は、
委員会
審議の過程を通じて明らかにし、さらに去る九日、
社会、民社両党とともにその見解を明らかにしたところであります。
政府みずから最も厳粛に
憲法を尊重するべきであることは、言うまでもありません。
委員会
審議を通じ
政府が行なった
答弁は、過去における
政府側
発言をもあえて否定し、問題を混迷に導く詭弁を弄し、少しも解明されていないのであります。しかも、
米軍基地の取得と
根拠法において異質の
自衛隊用地を複合し、加えて、
公共施設用地をも抱き合わせた底意には、
沖繩の新しい軍事的態様、すなわち、日
米軍事複合体制による新しいかなめ石としての
沖繩建設のためにする策謀があり、そのことを如実にあらわす危険な
立法措置にほかならないのであります。
政府において、わが国民の主権を尊重し、その人権、
財産権を尊重するとともに、
住民と地域をもって構成されている
地方公共団体の
自治権を尊重する良心と責任を持つならば、現在米
施政権下にある
沖繩が
日本人の住む日本の領土である限り、すでに
沖繩をあたたかく迎えると約束し、それを実現することこそ、
政府として最大の責任であるはずであります。したがって、この
法律が
土地所有者を
対象とするとしても、その
土地使用のもたらす結果は、
使用地面積の大きさにおいても、また
使用の目的と質においても、現在と何ら変わらないことからも、
沖繩県の発展のため、
復帰と同時に、日本の
地方公共団体としてその機能行使と
運営実態に
本土と比較にならない制約を受けることから、さらに、当然、
憲法第九十五条の本旨から見て、同条の適用に
基づき
住民投票を経て初めて
法律制定を見るべきことが
憲法を尊重する立場であり、
住民投票の
手続が絶対欠かせないものであることは明らかであります。これが当然、
地方自治の本旨を尊重する
義務を持つ
政府がとるべき姿勢であるというべきであります。
復帰に伴う
特別措置法案についても、
政府の姿勢は同様であるというべきであります。
この
法案第一条の目的は、
沖繩の
復帰に伴い
本土法
制度の円滑な実施をはかることを明示してあります。したがって、
沖繩の
復帰によって
沖繩県民福祉が
増進されるために必要な
措置として、時間を与え、必要な
特別措置を法制化することが本法の本旨であります。
この本旨からして、あくまでも
沖繩県民の意思と要望を尊重し、米
施政権下で抑圧された
県民の自由と
権利を復権し、おくれた
県民福祉を
本土と同等の域に充実
一体化し、
本土より、よりよきものは維持し、むしろ
本土側がその水準と
内容を改善し、
本土よりおくれた水準と
内容のものは、すみやかに
本土のそれに充実向上することであるべきであります。
しかるに、この
法案には、その目的といささかの
関係もない、異質であり、しかも
県民福祉を阻害する
条項、さらには
本土法
制度を踏みにじってさえいる
条項があります。すなわち、米海外広報局が共産圏諸国に対して反共宣伝放送を行ない、しかも地域
住民に著しい電波公害をもたらしている
VOAの存続を組み入れたことは、
政府の異常な神経を
疑いたくなるのであります。この姿勢には、明らかに
国会を欺瞞し、愚弄する姿勢さえ感じられるものであります。また、
本土法
制度の円滑な実施を飛び越えて、
本土法を完全に無視した極東放送の存続についても同様であり、同放送が
米軍の第七心理作戦
部隊と深い
関係にあることは、伝えられているところであります。
さらに、米大統領の行政命令に
基づく
沖繩米
施政権下の法体系で行なわれた
裁判の
効力を
承継し、なかんずく、
刑事裁判の判決、確定の執行をも
承継するに至っては、本来、国の司法権に関する問題であり、当然、
日本国憲法及びその
もとに置かれたわが国の法の秩序体系の
もとに処理すべき問題として、もしそれが
施政権者に対する配慮や、国の外交政策上の都合によってゆがめられるとすれば、国の司法権の基本理念は崩壊するものであります。特に、
刑事裁判は、国家主権の直接の発動であることから、外国の
裁判の
効力をそのまま
承継する、あるいは自国の
裁判の
効力の
承継を他国へ強制することはあり得ない問題であります。したがって、
返還協定の上でも、第五条一項及び二項の民事
裁判の
効力承継と異なり、
刑事裁判効力の
承継については、同三項で、その
効力を認めることができ、また、引き続き執行することができると
規定し、
日本政府の選択にゆだねているのであります。
にもかかわらず、わが党
委員の
質問において確認したとおり、
政府側
答弁が、外国の法体系で行なわれた
刑事裁判確定を
承継し、これをわが国で執行することを確言し、これを執行することは、国家主権をみずから放棄し、司法権の基本理念を崩壊するもので、
憲法違反というべきであり、直ちに、
刑事裁判については奄美方式の先例にならうべきであります。
そのほか、米
施政権下にあって、長年にわたる苦闘の中から民主主義を育て、次代の育成のために築き上げた、
沖繩の
教育行政
制度の歴史と成果を弊履のごとく捨て去ることは、
沖繩のよきものを捨てることであり、この
法案の目的に照らしても、
県民福祉に逆行するものであります。
また、
本土復帰の過程の重要問題である地籍調査に対して、
沖繩の一元化された調査機関に対応する
本土政府の調査体制が明確化されていない。
政府の対米請求権放棄に伴い、
県民の請求権を受け入れ、これを処理する法
制度を同時に立てるべきであるが、
県民の切実な要望に対しても、口先だけの
答弁に終始している等々、わが党は、
本土との
一体化
促進の美名に隠れ、軍事的な要素を持つ異質のものを組み入れただけでなく、違憲性や、
県民福祉や当然の
権利要求にも重大な欠陥を持つこの
法案を断じて容認できないのであります。
振興開発特別措置法案については、わが党は、
社会、民社両党とともに
沖繩平和開発基本
法案を
提出し、その基本的姿勢を明らかにしております。軍事
基地撤去に対する基本的姿勢なくして
沖繩振興開発は画餅にひとしく、
政府提出法案は、その基本において、
県民の期待にこたえる資格を失っているというべきであります。したがって、
法案審議を通じ、
振興開発の具体的なプロセスをも明示し得なかったことは、
政府自身に、自主的、積極的な
振興開発構想とその推進の姿勢の欠如を示すものにほかなりません。
同時に、
振興開発計画決定に際して県知事の同意を求めることもないこの
法案は、
地方自治を尊重する姿勢が発見できず、国の強力な
出先機関による
沖繩支配と
地方自治の空洞化が想定され、北海道開発庁の例に見られるとおり、中央の大企業の誘致による拠点開発方式による弊害、
本土資本進出の金融、税制面優遇
措置が地場
産業の発達を阻害する傾向をたどることは明らかであります。
すでに、外国資本の導入により、無
計画な自然と資源の蚕食や公害をもたらしている中で、公害防止施設に対する金融面の低劣さは憂慮を濃くし、また、すでに巧妙な手段を弄する
土地の買い占めが始まっている現状の中で、おのずから
地方権限を規制するこの
法律が、
政府の
基地撤去に対する消極的な姿勢と相まって、
沖繩をして日本列島の
産業発展過程の弊害を再現するようなこの
法案を、わが党は決して容認できないものであります。
あわせて、以上の
法案を基礎とする
関係法令の
改廃法案並びに
人事院事務所の設置の
承認案件には、当然
反対するものであります。
第四点として、
委員会の
審議でしばしば問題となった米国資産引き継ぎ代価は、それらの米国資産の原資が
沖繩の
住民に贈与されたガリオア、エロア
援助資金であることから、その資金でつくられた資産、施設は
沖繩住民に帰属する考えに立つべきことが正しいということは、愛知前外務大臣の
国会での
答弁であり、また、米上院軍事委のプライス
報告にもあり、さらに、米会計検査院長官の証言によっても、ガリオア資産は米国務省の所有する資産とは思わないとしているのであります。
したがって、わが党は、この本質論からも、
政府答弁に見る支払い査定金額の
説明にあたっての消極的な姿勢、また、あいまいさにおいても、今後における
県民利益擁護、さらに国益の立場からも、とうてい容認できないのであります。
わけて、対米支払いの中の核
撤去費用については、
政府は、いまだにその内訳の概貌すらも明らかにせず、
撤去の確認の方法についても何ら明らかにしていないことは、七千万ドルを支払うという事実がそのまま
沖繩の核の存在を
県民、国民に公知せしめるのみで、核隠しの疑惑を残すものであります。
米軍の核戦略による日米安保体制の
もとで、核あるいは毒ガス兵器の存在に対する疑惑は、
本土の
米軍基地にも及び、わが党の調査の範囲でも、横田、厚木、佐世保、秋月、川上の各
基地に及んでおりますが、
政府のこれに対する
答弁は、査察点検についても具体的な
提案がなされておりません。
これらの問題は、
日米安保条約の長期固定化、安保体制を国是と自称する
政府が、みずから核のかさの
もとにいることを求めながら、非核三原則を政策とする矛盾をあらわしたものにほかならないのであります。
これらの問題は、
沖繩返還の態様の基礎となる問題であり、このような観点からも、核の疑惑が解消しないことからも、
返還協定と表裏
一体をなしている一連の
関係法案に強く
反対するものであります。
最後に、日本が自主的に主体性をもって
沖繩の非軍事化と日中国交回復を実現しない限り
アジアの平和は望めないことを、また、緊張と緩和に対応することによって安全を求めることは永遠に安全を失う道であり、平和の道を築くことはみずから主体者となって平和的国際環境をつくる以外に断じてないことを強く訴えて、私の
反対討論を終わります。(
拍手)