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田中昭二君 私は、公明党を代表して、
新潟港外で発生した
リベリア国籍タンカー、
ジュリアナ号座礁に伴う
原油流出事故に関して、
総理及び
関係大臣に
質問を行なうものでございます。
わが党は、去る三十日夕刻、
事故が発生した直後、直ちに現地に
事故調査団を派遣いたしまして、私はその団長として、つぶさに現場の
状況を
調査してまいりました。
現場の日和山
海岸は、悪臭とどす黒い波に洗われ、
わが国史上最大規模の
事故を物語っておりました。
沿岸住民は一様に不安な
状況にさらされておりましたが、私
ども調査団が現地に到着したのは、
事故発生後十数時間を経過した十二月一日でありましたので、当然、防災
措置が、十分とはいえないまでも、何らかの防災
措置がされていることと考えておりました。ところが、その
予想は完全にくつがえされたのであります。一応は
緊急対策本部の
設置がなされてはいたものの、防災資材の搬入は遅々として一向に進まず、
火災危険通報が出されているにもかかわらず、
原油と
揮発成分の漂う
海岸の危険区域に
住民の立ち入りは自由に放置されるなど、
関係者の連携のまずさが明確でありました。
また、
流出原油の
中和剤の
海上投入も、
海岸の波打ちぎわに
関係者が細々と申しわけ程度に作業しているという
状況であり、荒天であることも災いしていたとはいえ、重大な
災害防止のための
措置が行なわれているとは、おせじにも言えない
状況でありました。
これらの事実をまのあたりにして、また、波間にゆれる
ジュリアナ号から
流出するまっ黒な
原油を不安な面持ちで見入る現地の人々の表情を見て、はからずも、
海国日本とはうらはらに、
わが国の
海上防災体制の貧弱さを見る思いがしたのであります。
このようななまなましい現地の
状況をもとに、次の点についてお伺いしたいと思います。
まず第一に、
原油の
流出事故に関する
政府の
責任問題についてであります。
ジュリアナ号の乗り組み員四十七名は全員無事
救助され、また、
沿岸住民の人命にかかわる
被害が発生していないことは不幸中の幸いでありました。しかし、座礁船からはいまだに
原油が
流出しており、
北西から吹きつける
季節風の影響により、
沿岸に沿って
原油が漂着して、気化状態のいかんによっては危険な事態が
予想されます。したがって、人命の安全を守るためにも、緊急に
原油の
流出防止と、
流出した
原油による
汚染防止が急務であります。すでに、百メートルほどの沖合いに
海岸線と平行して並べられている
テトラポットはどす黒く
汚染され、波打ちぎわにはべっとりとした
原油がしま模様を描いており、全く手の打ちようがないほどでありました。そして
流出した
原油の
拡散を防ぐための
オイルフェンスの持ち合わせばほとんどなく、また
中和剤も、大きな
石油精製工場のある
新潟港にはわずか十四キロリットルしか配備してなく、あわてて東京港や大阪港に配備されているものをはじめ、製造メーカーにまでその調達のために奔走しているようでありますが、いまだに
必要量を
確保できないのが現状であります。
このように、今回の
事故に対し、
海上保安庁をはじめ、
事故を起こした当事者側などの
対策が全くおざなりのものであることを露呈しましたが、これに対して、私は非常に憤りを覚えずにはいられないのであります。
このような
タンカー事故は、イギリス海峡における四年前のトリー・キャニヨン号や、昨年のパシフィック・グローリー号の座礁による
原油流出事故をはじめ、
世界各所で発生しており、
わが国においても当然
予想されたことでありました。
ところが、
政府は、そのように
予想される
タンカー事故に対して、何ら具体的な防備体制を講じていないばかりか、各
関係者から多くの
指摘がなされているにもかかわらず、努力する姿勢すら見せなかったのであります。このような背景を考えるときに、
政府の
責任は重大であります。
政府は、この
責任をどのようにとられるか、
総理に明確なる
答弁をお伺いいたします。
また、
政府は、現実に発生している
事故に対しては、早急に
事故当事者側や
地方自治体ともよく連携を保ち、総力をあげて
流出した
原油の
処理に当たらねばならないと思いますが、その具体的
対策についてお伺いしたいと思います。
第二に、他の
船舶や漁船操業に対する
被害防止対策及び
補償問題についてであります。
新潟港は、最
重要港湾の一つに指定されており、その利用する
船舶の数は年々増加の一途をたどっております。また、当水域は、サバ、カレイをはじめ、漁場としても
日本海の宝庫といわれ、多くの漁船が操業していますが、そのような
船舶や操業に
被害をもたらさないように、
汚染された潮流の
調査や
報告など、警戒体制の万全を期すため、巡視船艇や消防船艇の増派を早急にはかるべきだと思いますが、
関係省庁の
対策をお伺いいたします。
また、残念でならないことは、
魚介類など特に
沿岸漁業に長期かつ広範にわたって甚大な
被害をもたらしていることであります。
新潟県水産課の現地
調査によりますと、定置網や刺し網に
原油が黒々と付着しており、最終的には五億円程度の
被害を受けるのではないかと見込まれております。さらに、
日本海区水産
研究所の話によりますと、一日約十一キロの
沿岸の流れに乗って北上して行くだろうとの見方をしているといわれておりますが、そうすると、ちょうど産卵期を迎え、川に帰ってくるサケにも悪影響を与えることも当然
予想されます。
このような貴重な漁業
資源の損失はまことに甚大でありますが、それによって
被害を直接受ける漁業者に対する
補償については、
政府の
責任のもと、万全の
措置を講ずべきだと思いますが、
政府の
責任ある
答弁を伺いたいと思います。
第三に、
原油流出に伴う
海洋汚染問題についてであります。
原油流出による
海洋汚染が問題になったのは、トリー・キャニヨン号の座礁のときでありますが、あのときは六万トンの
原油がイギリス海峡を浮遊し、漁業をはじめ海鳥の死滅など、深刻な事態をもたらしたことは、まだ私
たちの記憶に新しいところであります。そして船主は、イギリスとフランスの両国に対して合計三百万ポンド、約二十六億円の賠償金と、
沿岸住民に対して二万五千ポンドの
補償をさせられたのであります。
あの
事故を契機として、
IMCOは、四十三年十一月のロンドン
会議において、
事故で
原油を
流出して
沿岸を
汚染するような
船舶については、公海でそれを撃沈する権利を各国に与えることをきめたのであります。すなわち、短期的に見ますと、魚類や海鳥などの死をもたらすものでありますが、さらに長期的に見てみますと、まず植物性プランクトンの死滅により、それをえさにする動物性プランクトンの死滅、さらにそれらをえさにする魚類というふうに、自然界における食物連鎖への悪影響や海中における酸素の生産量の減少などをもたらすのであります。このような生態学的影響を考えたときに、
海洋汚染防止にもっと真剣に取り組まなければならないと思うのであります。
わが国においては、ことし六月、
海洋汚染防止法が施行されましたが、それによりますと、多量の
原油が
流出したときには、
汚染防止の
責任は
船長ないし
船舶の所有者にあると明記されておりますが、この際、
IMCOの国際条約の
協議内容に沿って、荷主である
石油業者、すなわち荷主側も参加させて、
事故防止対策に万全を期するために、
海洋汚染防止法の必要部分の改正を行なうことも検討すべきだと思いますが、
政府の御見解をお伺いいたします。
また、昨年一年間に
わが国において
事故を起こした一万トン以上の
外国タンカーは、浦賀水道で追突
事故を起こしましたリベリアの
タンカーをはじめ六隻にも及んでおります。気象や地形の不案内もあるとは思いますが、
外国船の中には、航行
技術の面で劣っていると見られる節もあるようであります。そのような国に対する
技術指導とか、何らかの効果的
措置を講ずべきだと思いますが、
政府のお考えをお伺いいたします。
第四に、
港湾の総点検と管制体制についてであります。
現在、
海上輸送における
輸送量のおよそ半分は、
タンカーによる
石油類の
輸送といわれております。特に
東京湾をはじめ大阪、
伊勢湾などは
タンカーの出入りが最も多く、危険視されております。これに対し、
政府は防災四カ年計画を
実施していたようでありますが、先月十四日、浦賀水道で発生した
リベリア船の衝突
事故が示すように、その効果はあまり
期待できず、むしろ逆に年々
タンカーの
事故が増加しているのが現状であります。すなわち、
海上保安庁の調べでは、
わが国沿岸で発生した
タンカーの
事故件数は、四十三年には百二十八件、四十四年には百三十二件、四十五年には百七十件と増加しているのであります。
また、
タンカーなどの
火災が発生した場合必要な
大型化学消防船は、横浜と和歌山と四日市の三港にしか配置されていないというのが現状であります。
この際、
政府は、
全国の
重要港湾の
施設及び防備体制の総点検を行なうことを提唱したいのでありますが、
政府のお考えをお伺いいたします。
また、管制体制の確立を早急にはかるべきだと思います。少なくとも
重要港湾については、レーダー、テレビカメラ、通信
施設などを
設置し、航行
船舶の
状況を常に明確にキャッチできるような管制体制の強化充実を積極的に進めて、さらに、
事故発生時に備えて消防艇の増強、バキューム船の増強もはからねばならないと思いますが、
政府の誠意ある
対策をお伺いして、私の
質問を終わらしていただきます。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕