○塚本三郎君 私は、
日本社会党、
公明党及び
民社党を
代表して、三党
共同提案による通産大臣田中角榮君に対する
不信任決議案につき、
提案理由の
説明をいたします。(
拍手)
まず、
決議案文を朗読いたします。
本院は、
通商産業大臣田中角榮君を信任せず。
右
決議する。
〔
拍手〕
本
決議案の意味する根本は、もとより
佐藤内閣総理大臣であることは言をまちません。しかし、今回の繊維
協定仮調印の当面の
責任者として、まず田中通産大臣がその責めを負わねばなりません。
不信任の第一は、過ぐる四十四年五月九日、本院本
会議の
決議に対する違反行為であります。(
拍手)
決議案に述べられているごとく、すなわち「米国繊維産業は、生産、販売、雇用とも好調を続けており、この現状からも米国のとらんとする措置はその根拠に乏しくきわめて遺憾とするところである。
米国において新たに輸入制限が実現すれば、
わが国の対米繊維品輸出に重大な影響を及ぼし、構造改善、設備近代化を推進しつつある中小企業を主体とする
わが国繊維産業及び関連産業に深刻汁打撃を与えることは必至である。」と述べて、
協定をさせない旨
決議いたしております。(
拍手)これは田中通産大臣御自身も
賛成なさったはずであります。いな、あなた御自身が、自民党幹事長として、自民党員に
賛成させたとの趣意を過日伺いました。しかるに、それと全く相反する繊維の日来
政府間
協定仮調印をケネディ米大統領特使との間になされてしまいました。との行為は、
わが国憲法のもと、主権者たる
国民の
代表の本院の名誉にかげて、断じて許しがたき行為であり、
不信任の第一の
理由であります。(
拍手)
また、
国民の
代表たる
国会の目を避けて、行政
協定によってこれを実施し、行政権の範囲内においてこれを行なうことを言明しておられますが、一体、行政
協定を
政府の
責任において調印し得る範囲とは、在来の慣習に照らせば、一、短期間であること、二、
国民に新たなる財政負担を課さないこと、三、現在国際秩序として有効であり、
わが国も加盟している国際
協定と矛盾しない、との三点が合致してこそきわめて当然な行政権行使の限界とされております。しかるに、繊維の
政府間
協定はその三つのいずれにも相反するものであります。(
拍手)
第一の期間は、形式は三年でありますが、延長二年が考慮されていることが文面にあらわれて、実質は五年の
長期であることは疑う余地がありません。ちなみに、韓国などの極東三カ国はいずれも五年で足並みをそろえており、
わが国政府のみが、
国会対策上三年、そしてプラス二年と逃げ道をつくったにすきないではありませんか。(
拍手)
二の
国民負担についても、大臣がすでに言明しておられるとおり、大規模な新規の損失補償は当然とされ、一般会計予算の負担となり、それはすなわち
国民負担となるにもかかわらず、大臣は
国民に白紙委任を求めているだけであります。
政府は当然の
義務と
責任のもとに必要な立法措置を
国会に
提案しようとはいたしておりません。
三の国際貿易秩序であるガット第二十三条には、他のガット締結国から利益が侵害され、目的達成が妨げられたときは、
わが国は
異議申し立ての
権利が与えられております。にもかかわらず、大臣はこの
権利を放棄し、米国
政府の一方的などうかつに唯々諾々と追随したではありませんか。(
拍手)かくのごとく、ガットの秩序を無視してまで何ゆえに国益を放棄しなければならぬのでありましょうか。
政府は、以上の三点について何ら
国民に釈明をしておりませんし、また、
国会の承認を得ようとしておりません。田中通産大臣の独善で、しかも立法権と国際
協定を無視して行政権を乱用したことが、
不信任の第二の
理由でございます。(
拍手)
「まさかやるまいと思っていたが、完全に
政府に暴走されてしまった」と、仮調印に持ち込まれた十五日深夜、
日本繊維産業連盟の首脳部はその見通しの甘さとくやしさにくちびるをかみしめ、繊維産業の労働者は絶望の深渕をのぞかされたのであります。
今回の
政府間
協定は、表向きは、
日米友好と国益のため結ばざるを得なかったと弁明しておられまするが、
政治が経済を押し切った最も悪い例をつくってしまいました。
一つの産業を
政治的要因によって壊滅的
状態に追い込んだということは、過去の
日本の
歴史には存在し得ない事実であります。(
拍手)米国のドル不足を補らための最
重要課題の
一つとして、米国の輸入超過に協力をすると言っておられまするが、
日本の繊維は米
国民の消費総量のわずか二%でしかなかったことは、周知の事実であります。また、対米輸出六十億ドル中、繊維の占める割合は一〇%の六億ドルであり、これが米国経済にとってどうしてドル救済となり得ましょうか。さらに、米国の繊維が生産、販売、雇用ともに
日本より安定している事実は、本院
決議文に示されているとおりであり、田中通産大臣御自身もお認めの上
賛成しておられるとおりであります。
したがって、このたびの繊維
協定は、
日本と米国との国益の問題では断じてありません。それは、
アメリカの一大統領個人と
日本の
佐藤榮作
総理大臣個人という、個人間のスタンドプレーか、あるいは世間にいわれるごとく、密約説によっているとしか理解できません。(
拍手)もし、米国の大統領が
ニクソンではなく、北部出身者であったなら、よもや繊維がやり玉に上げられることはなかったであろうとの説がなされていること等を考えるとき、経済が
政治に押しつぶされ、しかもその
政治は、
政府が弁明する国益とは全くほど遠い、個人対個人の利益誘導による選挙違反の国際的大運動会といわなければなりません。(
拍手)繊維産業に携わる者はもちろんのこと、私ども
国民のがまんのできないのはこのことであります。しかも、それを、何の魂胆があられてか、わざわざ田中通産大臣がこの悪役を買って出られたポーズは、私どもの怒りをより大きくしているものであります。これが
不信任の第三の
理由であります。
このたびの
協定によって、田中通産大臣は、五尾の微増をさせるのだと
主張しておられますが、ならば、なぜ全国の織機の四割を買い上げて廃棄処分にするのでありましょうか。全国に十四万五千の事業所、そして直接従業員百七十万人及び間接人員九百万人に及ぶこの重大産業が、織機のみで千四百五十一企業が転廃業せざるを得ない。そして
政府は、織機二十万台から三十万台の買い上げをすることを認めておられます。これは全国の織機保有者の四〇%になります。織機のみを例にとれば、あなたの行なわれんとする措置によって半減するのでございます。もちろん、失業者は転廃業せしめると言明しておられまするが、田中大臣は通産大臣であって、労働大臣ではありません。産業は永遠の使命と運命をになって前進をすべきものであり、その信念に従って、経営者も労働者もまさに一体となって構造改善にまっしぐらに取り組んできたではありませんか。
「被害なきところに規制なし」とのガットの精神を口ずざんでこられたのは、決して
野党議員の私たちのみではありませんでした。自民党の議員各位でさえ、つい先日まではそれを叫び続けておられたはずであります。米国の繊維産業が全く下降の傾向をたどっていないのにかかわらず、
日本の繊維のみが、それを助けるために、なぜガットに違反してまで壊滅的な道を追われねばならないのでございましょうか。一体田中通産大臣はどこの国の大臣なのかとの業界の怒りの声があなたの耳には入らぬのでございましょうか。(
拍手)そしてまた、業界が一番おそれていたことは、あなたが品目別規制を受け入れてしまわれはしないかということでありました。そして悲しくも、それを事もなげに受け入れてしまわれたことであります。
田中大臣、あなたは五%増を力説しておられますが、実際には三〇%の減となってしまうのであります。かつて、田中通産大臣は、
日米経済閣僚懇談会から帰国された際、繊維については絶対に話し合いはしないと言明しておられながら、わずか一週間の後にはこれと全く
反対の、しかも独断で
政府間
協定をきめてしまわれたのでありました。賛否両論の中での判断ではありません。
反対ばかりの中で、あなたがひとり五%増だとの、しろらと発言をせられて、その結果が三〇%減になるという専門家の意見がどうして耳に入らなかったのでありましょうか。業界は、この点で、もはや怒りよりも、あきれと悲しみに打ちひしがれております。
思えば、
わが国における繊維産業こそは、有史以来、
日本経済に最も長く貢献してまいった産業であるといわれております。そして、太平洋戦争の中から
日本経済が立ち直りを見せた戦後十年の
日本経済発展の
歴史は、すなわち繊維産業の
歴史でもありました。そして、そのことに経営者も労働者も限りない誇りと使命感を持って働き続けてまいりました。ここ十年間、ややもすれば、はなやかな重化学工業たる鉄鋼、自動車、造船、電器等にその主役を奪われたかの観がありますが、なるがためにこそ、かつての使命感をよみがえらせるべく、黙々と構造改善及び設備の近代化と取り組んでまいったのであります。そのやさきに、業界の実態を無視した今回の無
責任な所業は、断じて許すことができないのであります。(
拍手)
不信任のこれが第四の
理由であります。
日本の繊維業界は、決して
政府の追い詰められた
立場を理解しなかったわけではありません。がからこそ、
日本の業界は、米国のミルズ歳入委員長の私案をもとに自主規制を決意したのでありました。そして自主規制の実施が始まったばかりではございませんか。理論もなければ前後の見さかいもなく、ましてや、憲法の精神もなければ国際
協定への配慮もない、なりふりかまわぬどらかつ
外交に負げた、いな、それにくみしたという
態度が、どうして
国民に国益なりと受け取ることができるでありましょうか。
かくて、繊維に味をしめた米側は、自動車、カラーテレビ、電子卓上計算機など、花形輸出商品まで規制を迫ってくるのではないかとの、業界には
憂慮が高まってきております。通産大臣は、そらさせないために繊維を犠牲にしたのだと弁明されるかもしれません。だが、国家とは本来冷血なものであり、無
責任なものと見なければなりません。一たびころべば際限なくとろぶとの先人の教訓をわれわれは忘れるわけにはまいりません。通産大臣、あなたは
日本の
歴史に全く悪い例をつくってしまわれたのであります。その悪例は今回限りで、絶対に今後は許さないとの
国民の
意思を本院において示すことが、本日の
不信任案を
成立させる根本の目的であり、かつまた、米国への
日本国民の決意でなければなりません。(
拍手)
田中通産大臣の繊維
協定を結ばれたことへの怒りは、われわれ
野党議員のみではなかったはずであります。それは、良識ある自民党の方々にも、深く深く根ざしている怒りでありましょう。先日開かれた
委員会の終了後、
政府間
協定に
反対しているのは
野党議員だげではないと、真剣なまなざしで叫んでおられた良識ある自民党の皆さんの叫びが、いまもなお私の眼に焼きついて離れません。ぜひ、その叫びと怒りの声をはっきりとただいまの
不信任投票の際にお示しくださることをつけ加えて、私の
趣旨説明を終わります。(
拍手)