○
参考人(
楢林寿一君)
楢林でございます。
事故が起きますたびに
事故調査団が編成されまして
事故調査をやるんですが、原因不明というような結果が出ることがあります。それで、原因不明になる原因はどうかということについて多少調べてみました。岩波書店発行の、武谷三男先生の「安全性の考え方」、岩波新書六四四です。これの十一項目の「「原因不明」のからくり」、それから十三項目の「安全性の哲学」、そこらあたりのところを読みますと、四十一年度に起きましたところの四大
事故、東京湾におけるところのボーイング727、羽田におけるDC8、これはカナダ・パシフィック・エアライン、それから富士山におけるボーイング707、BOACですね、それから松山沖のYS11、それの
事故調査につきまして武谷先生は、東京湾と松山が原因不明になると言っておられます。で、文章の中でちょっと疑義がありましたので、このことを武谷先生に
電話で問い合わせました結果、やはり私はそのつもりで書いたんだと。これは録音テープにしてあります。これは、四つのうち
二つを当てるということは、五〇%で当てたのではなくて、
一つの事象は二分の一の確率でございますので、四つありますと十六回のケース、客観的に十六回の組み合わせになります。しかも、東京湾と松山とが原因不明になるということは十六回に一回しかない。偶発・偶然的に当たったのであるならば、十六回に一回当たったということになる。しかし、これは昭和四十二年五月二十日付で発行された本で当てておるのでありますから、これは偶発的に当たったのでなくて、当然そうなるべくして当たったのだと考えるべきです。もし偶発的に当たらないのであるならば、十六分の一のほうが偶発的に当たらないのであって、一から十六分の一を引いた十六分の十五は、
調査委員会の編成が原因不明にせしめたんだと言っても過言ではないのじゃなかろうか、そう思います。
それで、あるいは言いわけ言う人ならば、東京湾と松山とは海の上に墜落したんだ、だからあれはわからなかったんだと言うかもしれぬ。しかし、私に言わせると、海の上に墜落したために、最初に起きた衝撃とか、残された証拠は、むしろよく保全されたということになります。現に松山の一本飛びましたプロペラなど、水中にもぐってみますと、海底に、ふわっと、綿の上に置いたようにじっとしておった。それから有名なコメット1型の空中分解の
事故も、最初二、三回陸上に落ちたのがありましたのですが、これについては解明はなかなか困難だった。ところが、地中海に落ちた海の中のものについて水から引き揚げた結果、原因は解明されたのであります。水のほうがむしろ第二次的な破壊が少ないものですから、非常にわかりやすいということになります。
そこで、原因不明の原因として、これは一種の病気として考えますと、これは幾つかありまして、利害
関係原因不明病、セクショナリズム原因不明病、血族
関係原因不明病、こじつけ論理原因不明病
——各個撃破原因不明病、無能力原因不明病、証拠棄損原因不明病、お粗末実験原因不明病とか、死人に口なし原因取りかえ病、以上の共同型原因不明病、あるいは原因を
調査する人の適性不良原因不明病というのがあります。これは適性不良です。これは適性と言ってはまことに失礼なことでございますが。ボーイング727、
木村事故調査団長の適性について、失礼ながら私はチェックしたのです。ところが、これは東京大学名誉教授富塚清先生の「エンジン閑話」、「内燃機関」一九七〇年六月号の「正確な記録を残そう」の中に、航研機の
関係の記録がございます。彼は、脚の
関係、足ですね、着陸装置の
関係の設計をした。研究所長さんは和田先生。そのときに脚が非常に珍しい引っ込み脚だったのです。その当時は珍しかった。ところが、試験飛行中、果然これがぼろを出し、脚は出ず、胴体着陸、プロペラはこわし云々となっております。これは私も知っております。それで、その対策として脚を直さなきゃならなかったんですが、
木村氏は脚を直すことができないで、とうとう固定脚にするかということになったわけです。引っ込み脚をやめて、出しつばなしでカバーをかけて飛ぼうか。そうしますと、せいぜい八千キロメーターぐらいしか航続距離が飛べない。そのときの国の至上命令であるところの長距離記録なんかつくれない。そういうことで和田所長さんが非常におこられまして、そのことを、富塚先生に脚を直せということで、富塚先生におはちが回ったわけです。富塚先生いわく、私のようなメカニシアンには実は何でもなく、たちどころに対策が立った、私の勘で十分もかからず図はでき、四、五日で実物が完成したととあります。自分で設計した脚を、自分でぐあいの悪いところを直せないような先生だったら、これは全く適性がないんじゃないか。富塚先生、自分で設計しなかったのだけれども十分間で直しちゃった。これはちゃんと出ておりますので……。そういう先生が
委員長では、とてもじゃないが
事故の原因が出るはずがございません。ちゃんと適性のある人にやってもらう。適性とは、パイロットの場合、学校の成績が
幾らよくとも、飛行機に乗せてみたらちょっともうまくならぬやつがあるのです。これは適性不良なんですね。
事故調査も、この適性不良の人が
一ぱいおれば、これは原因は出ません。だから、適性のいい人にやってもらうということにしたいと思います。
それから適性に関しましては、航空局の中でも実はありました。これはまだ航空局が大手町にあった当時、西空のベル47型機が、阿蘇山で背面になっておっこった。そのところを、どうもおかしいので私はちょっと調べたのですが、そうしたら、それを担当しておったところの
検査課の
検査員が行って見て、帰ってきていわく、機体には異常がないなんというようなことを言う。ところが、私が見たところ、ここのセンターマストのメンローターをとめているキャップのナットのネジ山の下のところが取れてるんですけれども、センターマストのネジ山の山は、上にずっこけて抜けたように斜めに寝たり、あるいは山が横に勇断で切れたり、そういうことにはなっていなくて、これは取れている。これはもう私は、キャップが割れて飛んだ、空中で飛んだとしか考えられない。ところが、その
意見を、大手町のときに、航空
会社の人も集まり、会議をして、
幾ら説明してもわからぬ。何度説明してもわからぬ。全く私は少数派であって、あっちは多数で、原因が出せない。それからそのまま寝ておって、しばらくたって、今度は霞ケ関に航空局ができて、
事故調査課できてから、ある技官が来られて、
幾ら説明してもわからぬこともあるのだと、しかし、その人はどうもわかりそうだと思いまして、あなたならば
——その写真を見せて、これはどういう原因か十秒間で
答えられるだろうと私は思いまして、その写真を持っていって見せて、それを説明したところ、私は、
答えを、約十秒と言ったんですが、何と二秒間で、それは割れて飛んだんだと
答えてしまった。これは
あとから聞きましたら、彼は以前ちょっと見たということを言っておりましたけれども、二秒間で
答えた。以前見たといっても、彼はちょっと見た程度ですから。それを、見ただけでわかってしまった。これは全く適性不良な人間がものを見てもわからぬということだと思います。
それからまた適性不良では、実はやはりヘリコプター47型のトランスミッションの中の遠心クラッチとフリーボイリングギアがぐあいが悪くて、空中ですべり墜落するという
事故があった。私も、オートローテーションの降下中にフリーボイリングギアがすべってなかなか嵌合しないことがありまして、それがよくわかっていた。それで、そのときに日本農林ヘリコプターの運航部長の黒岩さんが私のほうに来られて、どうも自分のところでスリップということであぶなく
事故を起こすものが起きてきた、そしてほかのエンジン整備工場へ出すと、エンジン、トランスミッションは異常がないんだと言う。これはおかしいからよく見てくれと言う。いや、それはあるのだ、私も経験しておるから、それはよくわかる。それから、そのことについていろいろ調べて、たいへんなことをして調べたんですが、いろいろ会合を持ち、農林水産航空
協会の方々もそれらについて協力くださって、何度かクラッチのすべり、そのフリーボイリングのすべりあたりについて会合を持ったり検討し、やったんです。しかし
事故はどんどん頻発する、にもかかわらず、いつまでたっても一度としてエンジン、トランスミッションに、その
事故に対して異常があるという話を私は
検査課から聞くことは全くなかった。しかも二年、三年たちまして、ついに私はそれを見つけた、私は見に行って見つけました。それまではセクショナリズムで、行くなということで、多少禁止されていたような面もあって、私は能動的には動かなかったんですが、見に行って見つけた。そのころになって、やっとわかってきたんですが、やはり製造
会社といいますか、そのベルの
関係の
会社のほうはまだすべらぬすべらぬと言うておる、
事故の起こったクラッチを取りつけて実験したけれども、ちっともすべらないから、これは
事故の原因ではないのだ。私は、その実験のやり方が悪いからすべらないのだ、すべるというのは、旋回を始めたとか、要するに胴体に対してマストがこじられるような力がかかったとき、左旋回のときに多い、それから離陸を始めて前にかかるようなときに多いのだ、だから、そういうふうな運動状態にあるものとして操作をしなければ
事故を起こしたもののエンジン、トランスミッションを使っても、そいつはすべらないだろう、特に力がかかったとき多いのだということを言ったんですが、相変らずないと言っていた。ところが皆を集めて
——相手側は、これで起きないという証明をするつもりで実験したのかもしれないけれども、皆を集めた席上において、実験の結果、クラッチがスリップしてしまった、ばんとすべった。それで結局そうであるということが確認されたわけなんですが、こんなものは、私が見たときには、フリーボイリングギアのすべり方は、油と金とのすべり摩擦、それからその形態的な構造等で、どれだけひずんでおればすべるということをあらかじめ計算しておいて、それでものを見たときには、これは、そのすべる領域の中に入っておるということはわかっておりますから、それを見たとたんにわかったんですけれども、
幾ら説明してもわからぬ。それで約三年間、数十機に近いものが
事故を起こしました。これは、それを見た人たちが実はものを見る適性がないのでそれを見出し得なかったか、あるいは
会社側の言うほうが
——それを
検査した
検査官が、
会社側が言うほうが技量が上だからおれが強く言うてもだめだと思って引っ込んだか何したか、それはわかりません。しかし、そんなことを三年間もほうっておくという結果になっちゃった、非常に残念なことです。やはり私、中日本航空の操縦士は、これの原因でなくなられたのではないかと思います。非常に残念なことでございます、私の力不足だと思います。それからこのクラッチに対するところの対策をいたしました結果、その後は起きていないそうです。これは日本農林ヘリコプターの黒岩さんに、この間会ったときに伺いましたら、全くこれはとまったということを言っておられました。だから、適性のある人を
委員にしていただくというふうにお願いしたいと思います。
それから、原因不明病の特効薬としては、特効薬はございます。これは、裁判官を選ぶのと同様、公正な第三者によって編成された
調査委員会であること、こうすればもうぴたりと思います。ところで、「ばんだい」号の
調査委員会の副
委員長の佐貫さんはYS11松山
事故の
委員長であり、ボーイング727にも
関係しておった、両方とも原因不明病の潜伏があるかもしれぬ、あるいは適性がやっぱり
木村さんと同じでよくないかもしれぬ、これはよくわからぬ、失礼ながらよくわからぬ。だから、私がもし佐貫さんの立場であったならば、私は
調査委員を辞退しておったと思います。ところで、今度の
調査委員長の守屋先生、これはもうCPALやBOACのボーイングでぴしゃっと原因を出された方ですから、もう申し分ございません、それについて、海法さんとか横堀さん、黒田さんなんて、実に私と
議論してもぴたっぴたっと合う。ところが問題は、そういう
委員の方はいいのですが、ほかに問題としては、日航から来た長野さん、全日空取
締役の江島さんという方が入っておられます。これは確かに、頼まれたからはいと、こうして入って、何もあれもなかったと思うのです。
個人的には非常に親しい人です。しかし問題は、航空局の中にも日航の参事官がいます。これは任期が長過ぎる。そこに参事官がおれば、航空局の高級
役人とやはりどうしても癒着
関係ができます。それから、東亜国内航空の社長は日航から行った人です。そうすると、この
調査委員の顔ぶれに全部日航から行った
——長野氏も日航、江島さんは全日空ですけれども日航から行った人、日航の血族
関係によって構成されているということはやはりちょっと困る。私は、この長野さんとか江島さんが、
事故調査の
参考人とか
事故調査協力者あるいは技術的な資料提出者そういう作業、データを出す人のほうというか、クラスに、そちらに入ってもらう、そうすればこれは二重まるを差し上げることができると思います。ところが、まあ全日空でも、日航でないほんとうのはえ抜きの
——全日空はYSたくさん使っておりますから、そういう人がこういう方面に入られたのであるならば、これは三重まるを差し上げたいと思う。だから、ここで
調査委員は、あくまでも裁判官を選ぶときと同様、公正なる第三者によって編成された
委員会であることが最もいいのじゃないかと、私はそう考えるのであります。
委員会のことについてはこれで終わりにしまして、それから……。