○
竹本委員 そこで私は、アメリカのもう
一つ、全体的な地盤沈下という問題について、ほんとうはきょう本格的にやりたいのですけれ
ども、これだけで二時間もかかるでしょうからやりませんが、これは繊維のときにも私申しました。ただ単に繊維の問題ではない。アメリカは地盤沈下をして
——いままでわれわれのアメリカに対するイメージは、アメリカは大きな国である、強い国である、経済の豊かな国である、場合によっては正しい国であるというようなイメージをわれわれは持っておったのです。しかしそれが、全部とは申しませんけれ
ども、幾多の点で大きく穴があいておる。一番大きな
一つに経済問題があります。アメリカの地盤沈下というものは、経済においては特にはなはだしい。だから繊維の問題も起こっているのです。
私は、簡単に申しますけれ
ども、ベトナムの問題、これはジョンソンさんが一九六八年ですか、大統領はもうやめます、そうして兵もだんだん引き揚げますということを言ったときに、世界はそれこそ大きなショックを受けました。そしてこれはジョンソンの英断であるとか、勇断であるとかいうことで、非常に称賛のことばが大きく出ました。しかし私はあのときから、アメリカの経済の実体的な地盤沈下ということを科学的にまともに受けとめて考えてみると、あれは当然だ。私は非常にわかりやすく、
総理、こういう話をした。あれは御承知のように、金の二重価格制の問題が起こりましたときに、ヨーロッパがアメリカに対して非常に条件をつけた。それを私は中小企業にわかりやすくこういうふうに説明した。アメリカは経済が非常に放漫経営になっておる、そうしてどうにもならなくなってヨーロッパの金融機関に応援を求めた。金の二重価格制その他の問題でゴールドラッシュのときに応援を求めた。ところが、ヨーロッパの金融資本は、金は貸してやる、二重価格の制度には
協力をする、そのかわりに条件がある。ちょうど、銀行に再度の融資をお願いに行った中小企業の社長さんが、銀行から言われるとおりなんです。あなたの経営は放漫経営だ、放漫経営、赤字財政、赤字インフレの
責任をとってジョンソンさんおやめなさい、社長はおやめなさい、そうしてベトナム工場という
——ベトナム戦争は、御承知のように六九年あたりは、一カ年に二百九十億ドルに近い、毎日三百億円に近い金を使った。この放漫経営のたたりなんです。だからそういう放漫経営をやった社長は交代をしなさい、ベトナム赤字工場は閉鎖しなさい、こういうことにすぎないのです。きわめて簡単なんです。ジョンソンの英断でも勇断でも何でもない。私はそういう説明をしたら、みんなもたいへんよくわかってくれたが、その後のアメリカの動きを見ているとそのとおりだ。今回のニクソンさんが言ったのも、アジアの平和を愛するとかいろいろ理屈はつくでありましょうが、根本はそれ以外にはアメリカはもう打つ手がない。アメリカの経済の実体はそういうところまできておる。それを認識しなければ、今後のアジアの緊張緩和の問題等についても、全体的な正しい見通しはつかないと思う。
しかし、それを詳しく申し上げられませんから、きわめて簡単に例示的に申し上げますが、たとえば貿易収支のごときも、多いときには六十億ドルの黒字が出たけれ
ども、アメリカはことしなんかははたして十億ドルあるかないか疑問でしょう。シェアについて申しますならば、世界の先進国における輸出全体のシェアの中で、アメリカの占めるシェアはだんだんに落ちておる。アメリカの国内市場において外国の商品の占めるシェアはだんだんにふくれておる。アメリカの生産性のごときは
日本の約七、八分の一しかない。生産性の面においてももう立ちおくれておる。全体としての経済の体質はどうにもならなくなっておる。でありまするから、ジョンソンはついに破産経済学に締めくくりをつけなければならぬから、ベトナムの問題は、平和を愛するとかなんとかではなくて、アメリカの経済の必然的な動きとしてこれを切り上げざるを得なかった。いまの五十五万の兵隊を二十万近くにまで引き揚げていったかもしれませんが、これもできるだけ早く引き揚げたいということなんです。できれば今年じゅうにでも引き揚げたいのでしょう。そのためには、中共にも手を打たなければ引き揚げられないじゃないか。というととは、ベトナム工場を閉鎖するについて、うしろにおる銀行屋さんと話をつけなければ話がつかないから、自分から出かけていって、銀行の頭取に会おう、中共の親方にも会おうということなんだ。中小企業の例でとったほうがよくわかる。
アメリカは、そういう
意味から申しますと、経済的にはいまのニクソンも全く進退両難なんです。たとえば失業問題。最近におきましては、御承知のように五百万をこえたでしょう。失
業者というのは、アメリカは三%から四%が大体最高といっていいくらいです。それが五%をこえ六%をこえて、ある都会に行けば一三%になっておる。しかたがないから、ことしになってニクソン経済
報告は、インフレでこれを乗り切ろう、そうしなければ
選挙に勝たぬということになりまして、金融緩和の
措置をとって通貨の増発は、大蔵
大臣もよく御承知のように、初めのころは二%前後でしょう。それが最近は大体一〇%前後にまでいっているのは、それだけ増発している。
佐々木総裁は帰られたけれ
ども、
日本はそういう点においてはインフレ的で、最近でこそ日銀の通貨増発が二〇%を割りましたけれ
ども、一時は二〇%あるいは一八%までいっておった。アメリカは、ニクソンが失業救済、
選挙のことも意識して大いに景気をふるい起こそうということで考えても、二%を六%か七%にすることを限界にしておる。しかしそれでも乗り越えて、いま一〇%近くになった。そこで今度はごく最近FRBが、〇・二五だけれ
どもプライムレートを引き上げざるを得なくなった。これはインフレの破産のほうがこわくなった。しかしいままでは、インフレもかまわない、物価の値上がりもかまわない、とにかく失業救済をやらなければ
選挙がやれないということできておる。いずれにしましても、進めばインフレである、退けば失
業者の増加である。進退両難なんです。
おまけに、ドルの問題についても、景気がよくなれば物価が上がる、物価が上がれば輸入がふえる。ドルは流れて出ます。不景気になる、金利が下がる。金利が下がれば、金利採算の上からユーロダラーは逃げてしまいます。アメリカはいま、景気がよくても景気が悪くても、ドルは流れ出る一方なんです。だからアメリカのドルというものの立場は非常に弱くなっておると私は思っておる。ドルが弱くなっておるだけでなくて、アメリカの経済が実質的に弱り切っておる。そのためにいろいろの政策路線を変えなければならぬというところにアメリカは追い込まれておる。
このことは、ぜひ
総理に私は的確に理解していただいて、これからのニクソンの打つ平なんというものは、ミステリーでもミラクルでもないんです。全部このアメリカの経済実態からくるきわめて当然な、きわめて必然な道行きを歩んでおるのだということをひとつ理解していただいて、先取りしてこれを受けとめてもらいたいということであります。
私はアメリカの悪口を言うだけではありませんけれ
ども、どうかひとつそういう
意味で、アメリカの問題についてはいままでのわれわれのイメージをやめて、アメリカは正しい国である、金持ちの国である、強い国であるというようなわれわれの古い考え方をこの辺で再検討してもらいたいと要望をいたしておきたいと思います。
そこで、時間がありませんからまとめて……。
こういう
関係ですから、アメリカのドルはもうどうにもならないんですね。よくても悪くても、金利が高くても低くても、どちらでも出るんです。出ざるを得ないように運命づけられておる。でありますから、本来ならば、ドルはこれは切り下げるべきであると私は思うのです。ところが、アメリカの、ドルを切り下げるということについては、キーカレンシーであるということから、これはやらぬのだということがいわれておる。そこで、ドルはドルであるからドルであるということばがあるんですね。要するにドルは弱った。弱っても切り下げることができない。世界のキーカレンシーだ。そしていばってドルはドルとして通していくんだ。ドルはドルであるからドルである、こういうんだ。この考え方には
二つの間違いがある。すなわち、アメリカが世界の最強大国として世界に君臨し、命令する時代は終わったんだ。いま申しましたような、詳しくは申しませんけれ
ども、実情から終わっているんだ。したがって、そういう考え方はどうにもならない、間違っているんだ。しかも、そのドルのあふりを受けて世界じゅうが迷惑をしておるのであります。
私は、きょうの日経で、アメリカのファースト・ナショナル・バンク・オブ・シカゴの会長の方が
日本に来て、そしていろいろ話をしておられるのをちょっとけさ拝見をいたしましたけれ
ども、最近において、
日本の円を切り上げろという意見は非常に多いのだが、円が強いのじゃないのです。ほんとういえばドルが弱いんですよ。だから私に言わせると、これまた
日本政府の方一人くらいは、アメリカのドルが弱いのはアメリカの
責任だ。ヨーロッパでよくいわれるように、病人のために健康な人が手術をするなんというばかなことはないんですよ。アメリカのためにわれわれが腹を切ったり手術をするばかなことはない。アメリカのドルはアメリカで
処置したらいいんだ。アメリカのインフレはアメリカが節度をもって
措置したらいい。そのぐらいのことも
日本の
政府からひとつ言ってもらいたいと思いますが、とにかくアメリカはそれをやらない。そこで、最近また国際通貨不安が出てきょうとしておる。御承知のように、マルクがまた五%ぐらい上がってきた。フランスはドルの流入が今月だけでも三億ドルになっておる、こういうんですね。そういう国際通貨の危機と矛盾は次々に出てまいりますよ。どうしてかといえば、本質的にドルは弱いのだ。アメリカの経済の矛盾が大きい。
そういう
意味でこれは大蔵
大臣に伺いたいのだが、アメリカのドルの矛盾を
日本の円の切り上げというような妙なお先棒かつぎによって解決するということは根本的に間違いであると思うが、大蔵
大臣のお考えを承りたい。