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1971-07-23 第66回国会 衆議院 法務委員会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十六年七月二十三日(金曜日)     午前十時三十分開議  出席委員    委員長代理 理事 小島 徹三君    理事 高橋 英吉君 理事 羽田野忠文君    理事 福永 健司君 理事 畑   和君    理事 沖本 泰幸君 理事 岡沢 完治君       石井  桂君    大竹 太郎君       鍛冶 良作君    松本 十郎君       勝澤 芳雄君    黒田 寿男君       三宅 正一君    林  孝矩君       青柳 盛雄君  出席国務大臣         法 務 大 臣 前尾繁三郎君  委員外出席者         内閣法制局第一         部長      真田 秀夫君         警察庁刑事局保         安部長     長谷川俊之君         法務大臣官房司         法法制調査部長 貞家 克巳君         法務省民事局長 川島 一郎君         法務省刑事局長 辻 辰三郎君         法務省矯正局長 羽山 忠弘君         法務省保護局長 笛吹 亨三君         自治省行政局選         挙部長     中村 啓一君         最高裁判所事務         総長      吉田  豊君         最高裁判所事務         総局広報課長  千葉 和郎君         最高裁判所事務         総局総務局長  長井  澄君         最高裁判所事務         総局刑事局長  牧  圭次君         法務委員会調査         室長      福山 忠義君     ————————————— 本日の会議に付した案件  閉会審査に関する件  裁判所司法行政に関する件  法務行政に関する件  検察行政に関する件      ————◇—————
  2. 小島徹三

    小島委員長代理 これより会議を開きます。  本日は、委員長所用のため、指名により私が委員長の職務を行ないます。  閉会審査に関する件についておはかりいたします。  細谷治嘉君外十名提出の事業活動に伴って人の健康に係る公害を生じさせた事業者等の無過失損害賠償責任に関する法律案裁判所司法行政に関する件、法務行政及び検察行政に関する件並びに国内治安及び人権擁護に関する件、以上の各案件につきまして、議長に対し閉会審査申し出をいたしたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 小島徹三

    小島委員長代理 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。  閉会中の委員派遣の件についておはかりいたします。  閉会審査案件が付託になり、委員派遣を行なう必要が生じました場合は、議長に対し委員派遣承認申請を行なうこととし、その派遣期間人選等につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 小島徹三

    小島委員長代理 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。      ————◇—————
  5. 小島徹三

    小島委員長代理 この際、法務大臣から発言を求められておりますので、これを許します。前尾法務大臣
  6. 前尾繁三郎

    前尾国務大臣 私は、先般、これはほんとうに文字どおりはからずも法務大臣に就任いたしましたが、法務行政につきましては全く未経験でありますので、法務委員各位の格段の御支援をお願い申し上げます。  法務行政の使命は法秩序の維持と国民権利の保全にあることは申すまでもないところであります。社会が平和を続けるためには、あくまで法秩序が維持され、国民権利がよく保全されることが肝要であり、それには、まず司法運用が厳正中正に行なわれ、その機能が十分活用されなければならないと思います。私は、この面に対し許される限りの努力を払いたいと考えております。  私が日ごろ考えているところでありますが、国が進歩、発展を続けますためには、それによって起こる社会的変化に即応して、制度やその運営が絶えず改変されなければなりません。時流を超越して守るべきものはあくまで守り、時流に即応して改めるべきものはあくまで改めていくことが大切であると思います。また、豊かな社会では公共サービスの立ちおくれということが起こりがちでありまするから、その点につきましても最善の努力をいたしたいと考えております。  はなはだ簡単で申しわけありませんが、私のただ心がまえだけ申し上げまして、委員の皆さんの何ぶんの御協力をお願い申し上げる次第であります。(拍手)      ————◇—————
  7. 小島徹三

    小島委員長代理 おはかりいたします。  本日、最高裁判所長官指定代理者から出席説明要求がありました場合、その承認に関しましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  8. 小島徹三

    小島委員長代理 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。      ————◇—————
  9. 小島徹三

    小島委員長代理 裁判所司法行政に関する件、法務行政に関する件及び検察行政に関する件について調査を進めます。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。沖本泰幸君。
  10. 沖本泰幸

    沖本委員 きょうは幸い大臣も御出席いただいて、最初に所信表明もいただいた大臣の初めての日でございますし、いま一番問題になっております公害に関する問題でお伺いしたいと存じます。  公害罪法、一般にそういうふうに呼ばしていただきたいと思いますけれども、これが七月一日に施行された、こうこうことになるわけですが、一応昨年の公害国会で「おそれ」の事項を抜くとか抜かないとかいうような問題から、いろいろな問題点を残しながらこの法律が通ったわけです。その法律は不備であるか完備されているものか、いろいろな点に疑問点が一ぱいあるのですけれども、さて七月一日にこの法律施行されて現在に至る段階で、どのようなことがあったか、あるいはどういうふうなことを準備なさったか、あるいはどういう疑問点が出てきたか、こういう点について、まず関係各省から御説明いただきたいと思います。
  11. 辻辰三郎

    辻説明員 人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律でございますが、これはただいま御指摘のとおり、本年七月一日から施行されたわけであります。  ところで、現在までこの法律違反ということで具体的な事件検察が受理したかどうかという点につきましては、いまだ受理をしたという報告に接しておりませんので、現在のところ、この法律違反具体的事件はまだないというふうに理解をいたしております。  ところで、この法律は昨秋のいわゆる公害国会で御審議を得、可決されたわけでございますが、ただいま御指摘のように、御審議の過程におきましてもいろいろ問題があったわけでございますが、この法律ができましてから、運用の衝に当たる者の一部門といたしまして、私ども検察におきましては、この法律運用を全からしめるためにいろいろな措置を講じてまいったわけでございます。  その概略を申し上げますと、まず第一点は、全国地方検察庁高等検察庁並びに最高検察庁、この各検察庁にそれぞれ公害係検事というものを大臣訓令によりまして設置したわけでございます。これは本年の四月一日から設置されておりまして、公害関係事犯特殊性にかんがみまして、この法律の勉強をはじめ、いろいろな公害関係資料収集その他の研究を行なうということで、専任の検事を各検察庁に設けることとされたわけでございます。  それから、本年の六月二十三日でございますが、このいわゆる公害罪法施行を目前に控え、また水質汚濁防止法であるとか大気汚染防止法改正部分施行を控えまして、本年の六月二十三日に、ただいま申し上げました全国公害係検事法務大臣が本省に招集されまして、公害係検事会同が開催されたわけでございます。そういたしまして、公害事犯捜査処理上の問題点につきまして十分な協議を遂げた次第でございます。  それからまた、私ども法務省付属機関でございます法務総合研究所におきましては、検事研修を随時行なっておりますが、本年に入りまして、かような意味検事研修が、いろいろなコースがございますが、二回ばかり検事研修が行なわれておりますが、そのいずれの課程におきましても、この公害罪法解釈説明であるとか、あるいは公害事犯検挙処理問題点、こういうものを研修対象にして遺憾なきを期したというようなことがございます。  以上が法務省検察庁におきましてこの公害罪法の、あるいはその他公害事犯運用に関し準備した事柄の概略でございます。
  12. 長谷川俊之

    長谷川説明員 警察のほうからお答え申し上げます。  警察のほうにおきましても、今日まで公害罪容疑ということで具体的に捜査を進めておりますものは、いままでのところはまだございません。公害罪法律ができましてこれを的確に運用することは、公害防止のためにたいへん必要なことでございますので、ただいま法務省のほうからもお話がありましたが、警察庁のほうにおきましては、まず中央におきましては、各府県担当の者を教育をするということを計画をいたしまして、  三月の二十四−二十六日の三日間、さらに七月の七日から七月の十六日の十日間にわたりまして、合計百十四名の府県公害担当責任者につきまして、公害罪関係並びにその他の公害関係法律の罰則の適用につきまして、そのような講習をいたしたのでございます。  それぞれの府県警察におきましても、これを受けまして、今日まで報告が来ているところによりますると、それぞれの府県担当の者、延べ四千八百二十二人の者につきまして講習を行なって態勢を整えている次第でございます。  さらにまた、この種犯罪は特殊でございますので、やはり公害事犯特別捜査班というものをつくることを指導いたしておりまして、このため、二十八府県におきまして三百二十三人の態勢がすでに整っておるという報告に接しておるのでございますが、そのほか予算面といたしましては、捜査のため必要な装置等につきまして、本年度予算で二千二百万円の補助金を出しまして、府県におきましてはこれが倍額になるわけでございますが、迅速に整備されることを予定しておる状況でございます。
  13. 沖本泰幸

    沖本委員 最高裁の方、見えておられますか。—最高裁の方どうぞ。
  14. 牧圭次

    牧最高裁判所長官代理者 最高裁判所といたしましても、七月一日の施行に先がけまして、六月十七日、十八日に全国刑事裁判官会同を開催いたしまして、公害罪法その他公害関係いたします行政取り締まり法規等解釈運用等につきましての協議を実施いたしております。これは一般的な問題でございますが、そのほか、事件推移等によりまして具体的な必要が生じましたならば、随時裁判官会同等を開催いたしまして、それらの協議により適正な処理に資したいと考えております。  なお、七月一日に施行されましてから公害関係事件実態を聴取いたしたいと思いまして、報告事項等を整備いたしまして、適時実態の把握ができるようにいたしまして、司法行政上の迅速な措置がとれるようにいたしたわけでございます。  なお、この種事件が現在までのところ、警察あるいは法務省のほうからもございましたように、事件の係属がございませんが、もし事件が係属するようになりまして大量の事件処理を必要とするということになりますならば、あるいは裁判官の増員あるいは特別部設置等のことも検討いたさなければならぬ、かように考えておるところでございます。
  15. 沖本泰幸

    沖本委員 まず法務省のほうにお伺いいたしますが、いろいろと少しずつ私たちのほうも勉強させていただいておるわけですが、現在事件は受理していらっしゃらないというお話ですが、受理しない、出てこないというのは、ないから出てこないんじゃなくて、いま公害が一ぱいある。公害列島、こういわれるくらい公害問題はどんどん進展していっているわけなんですが、刑事局長としては、出てこないというのは原因はどこにあるんだろうか、全体にそういう問題を熟知されていないから出てこないんだろうか、どの辺に原因があるんだろうか、どういうふうにお考えになっていらっしゃいましょうか。
  16. 辻辰三郎

    辻説明員 このいわゆる公害罪法でございますが、これは昨秋の国会でも御審議願いました際に私ども考え方を申し上げたわけでございますが、この法律対象となりますものは、いわゆる公害というもののうちの一つの人の健康にかかわる最も重大なものということを刑事犯対象にしたということでございまして、この犯罪対象というものは、いわゆる俗にいいます公害のうちの一つの最も典型的といいますか、最もはなはだしいものがこの対象になるということでございます。そういうことでございますので、先ほど私も申しましたし、また警察のほうからも御説明がございましたように、それぞれの捜査機関の係員につきましては、この法律の存在、及びどういう場合にこの犯罪が成立するかということは十分熟知をしておると思うのでございます。また、それぞれこの捜査機関間において十分な連絡協議もいたしておるようでございます。そこで捜査官のほうで、捜査官の力が足りないので、こういう犯罪がまだ受理されないというのではなくて、やはりこの法律対象といたしておりますような犯罪構成要件に当たりますような犯罪というものがいまだ認知されていないのではないか、かように考えておるわけでございます。
  17. 沖本泰幸

    沖本委員 刑事局長の御意見でございますが警察庁としてはいまのような問題に対して、こまかい問題からいろいろ公害苦情は、昨年一年間で二万五千五十二件、検挙数が八百十三件、苦情数は前年より一七%増、こういうふうな資料を私のほうで持ったわけなんです。そうしますと、いまの刑事局長さんのお話と対比するわけではありませんですけれども警察庁のほうではこの問題はどういうふうにとらえていらっしゃるわけですか。
  18. 長谷川俊之

    長谷川説明員 確かにお話のありましたとおり、公害関係警察機関に対する苦情というものはふえてまいっておるわけでございます。昭和四十五年におきましても、公害罪ではありませんが、いわゆる毒劇物法だとかそういう公害関係違反で検挙いたしておりますものが私どもには四百七十二件あるわけでございますが、いわゆる公害罪につきましては、御承知のように事業活動の単独の排出によりまして公害を生ずる、こういうものを処罰するわけでございまして、今日いろいろあります公害というものは非常に複合しておるものがたいへん多い、そういうこと等がございまして、具体的にまだ私ども警察のほうで、公害罪事犯容疑だ、こういうことで捜査に着手しておらないという状況でございます。
  19. 沖本泰幸

    沖本委員 これは法務省警察両方お話しできると思うのですけれども、せんだってある検察庁の方が、いままではペンと紙だけで仕事ができた。ところが、最近はそうはいかなくなった。たとえば心臓移植問題にしましても、あるいは欠陥車のいろいろな問題にしても、だんだんと検事さん方が専門的知識が必要になってきた。それに対応するだけのものをどんどんやらなければならないし、研究もしなければならないし、それに対応する研究資材あるいは研究所、いろいろな科学捜査、そういうものに対するいろいろなものの必要性がどんどん生じてきている。それに対して専門的に専門官をいま置く。専門検事さんがついたわけですけれども、そういうことに対して現在の数で足りるのでしょうかどうでしょうかという問題と、そういう問題に対するいろいろな科学実験であるとかいう問題を究明していくために必要な機材であるとかあるいは専門検事さんのそういう専門的な学問的な知識、そういうものがもうすでにこの法律施行と同時に充当されるような態勢がとられていらっしゃるのであろうかどうか。これは警察庁のほうも同じように言えるわけですが、専門捜査員をお置きになっていらっしゃいますけれども、その専門捜査員によって専門的な捜査をしていくための必要な頭脳あるいは機材、こういうものも、いま補助金をとって各府県に分けた、こうおっしゃっていますけれども、現時点でいますぐでも問題が出てきたときに、それをキャッチできるのかどうか。  私の考え方では、法律はできたけれどもいわゆる開店休業、言い方は非常に悪いですけれども、そういう状態というのは、むしろ打って出て摘発していく、そういうところまでいっているのか、悪く言いますと問題が出てくるのをじっと待っていないと対応できない、そういう状態でいらっしゃるのかどうか。そういうところに、公害未然防止をやっていくという点から、あるいは企業に対して直罰方式でどんどん臨んでいく。これは人の健康を守るためには、公害を発する企業とかいろいろなものに対する問題を突っ込んでいかなければならないわけですから、そういう問題が必要だということになってくるわけなんです。そういう点について十分に実態を把握されながらそれに対応したものを持っていらっしゃるかどうか、実態をどの程度までキャッチしていらっしゃるか、こういう点について両方からお答えいただきたいと思います。
  20. 辻辰三郎

    辻説明員 公害罪に対する検察態勢につきましては、何もこの公害罪法のみならず、各種の関係法令違反公害事犯がございますが、それをひっくるめまして検察態勢をどういうふうにしておるかという点でございますが、まず私どもは、ただいま御指摘のように、検事がすぐにそういう事犯処理できる科学的な能力を持っているかどうかという点でございますが、この点につきましては、先ほど申しましたようにいろいろと研修等も行なっておりますけれども、やはり根が法律家でございますから、科学的知識には非常に弱いということは否定できないわけでございます。そこで私どもは、この面におきましては、まず専門家鑑定ということ、適切な鑑定が得られるかどうか、この適切な鑑定人を選ぶというための知識、こういうことはどういう人に鑑定をお願いすれば一番適切な公平な鑑定が得られるかというようなことをまず勉強すべきであるというような観点で、検事会同におきましてもいろいろな資料を渡す等をいたしております。予算の面におきましても、すでに四十六年度予算におきましてこの関係新規増額が認められておるということでございまして、私どもは、やはりまず専門家鑑定に待つという態度がいいのじゃないかということを第一義にいたしております。もとより検事みずからもできるだけ勉強するということをいたしておりまして、来年度予算におきましては、検察庁にもある簡単な意味のいろいろな科学機器というものを導入すべきかどうかというような問題がございますが、この点につきましては、現在予算要求とからめまして鋭意検討をいたしておるところでございます。  私どもは、鑑定人関係行政取り締まり機関との連絡協調というものを密にしながら、公害関係の被害の実態、それに対する行政規制実情、また一般住民のそれに対する一つの感情というものを各検察庁において十分に把握していくべきであろう、またさらに、それに対する企業側防止努力というものがどうなっておるかという点についても十分な調査をしていくべきであろう、こういう点から検察のほうにいろいろと指導をいたしておるというような状況でございます。
  21. 長谷川俊之

    長谷川説明員 警察庁のほうとしましても、起きてくるものを単に待っておるという姿勢ではなくて、私どもやかましく申しておりますのは、この種の事案国民生活に及ぼす害ということに着目いたしまして、積極的に取り締まりをしなければならないということを申しておるのでございます。そういうつもりでやっておるのでございます。  公害事案は、先生御承知のように、ある日突然起こるものでございますけれども、ずうっと企業活動に伴って出てくるのでございまして、その前提といたしまして、それぞれの行政機関行政上の権限に基づきましていろいろ調査をするとかいうこともございますので、私どもは、そういうものを大いに活用し、さらに捜査段階で証拠の収集ということで、先ほど刑事局長からお話もありましたとおり、私どもも、それぞれの府県警察におきまして、十分に信頼し得る鑑定機関連絡をとっております。さらに、わずかではございまするが、警察自体としても、急を要する場合に、煙の場合であるとか、水の場合であるとか、そういったものを採取して鑑定することが必要であるということで、本年度は、どんな小さな府県におきましても最低そういう一セットの設備をするように予算措置をいたしまして、現在着々整備いたしております。先般、尼崎におきましてある工場がシアンをたれ流したというのも、警察独自の採取法によりまして送検をいたしておる状況でございます。  態勢といたしましては、先ほど申し上げましたが、もちろんまだ不十分な点があると思います。したがいまして、私ども、それぞれの府県に対しまして、実情に応じて十分な態勢をとれるように、今後におきましても指導督励をいたしたいと考えております。
  22. 沖本泰幸

    沖本委員 いまの警察庁のほうのお答えなんですが、これで適切だというような表現をなさいましたけれども、適切でなくて、本来からいうと全然畑違い的な仕事をこれからおやりになるわけなんですね。ですから、行政の感覚でむしろ戸惑いしていらっしゃるんじゃなかろうかというような疑義を持っているわけです。そういう点が非常にあるもんですから、いろいろ御質問しているわけなんです。  たとえば、適切な鑑定が得られるかどうかという刑事局長さんの表現なんか、こういうこともあるのです。大学の教授で車の欠陥についての日本の学者の中では相当有数な泰斗である、こういう方々に対して自動車会社から、新車ができたたびに、新車ができましたからどうぞひとつ試乗してください、こういうかっこうで車が提供される。そういうことになると、もう車の欠陥というものに対しての追及というものは、その段階で非常に鈍くなってくる。こういうふうな企業鑑定人との関係学者との関係、これは非常にむずかしい問題があるわけですね。ですから、鑑定そのものよりも、むしろ各機関で強力なこういう問題を追及する態勢をとっていただかなければ実際の効力を発しないのじゃないか、こういうふうに考えておるわけでございます。  そういうことですから、この問題に関しましては各省全部が公害関係があるわけです。自治省にしましても、農林省にしましても、通産省にしても、厚生省にしても、全部関係があるわけなんですね。それが同じような連絡をとりながら、同じような態勢をもって公害除去に当たっていかなければ国民の健康は守れないのが実情じゃないか。そういう中で国民の健康を守るために役割りを果たす警察庁であり検察庁である、そういうところの働きの部門がどうであるか。この間も少し教えていただいたわけですけれども、いま刑事局長さんもおっしゃいましたいわゆる行政官庁関係機関協力態勢をもっと緊密に充実していかなければならない、こういうことでもありますし、また摘発をするためには独自の捜査もやっていただかなければならないし、結局、たとえば極端な例を言いますけれども、サリドマイドのような、世に出ても、りっぱに成人して自分の生活をささえて、それで人生を喜んでいくような人に成長できないような問題が起きたあとでどうこう言ってもこれはどうにもならないということになるわけです。あくまでも未然防止しなければならない。前小林法務大臣も、この法律をつくるときには、歯どめになるのだということを盛んにおっしゃっていたわけです。これは歯どめなんだということで、「おそれ」を除いて歯どめになるかという論争が非常にあったわけです。そういうところでそういう問題を十分考えていただかなければならない、予算も十分とっていただかなければならない、こういうことになるわけですけれども、そういう点につきましてどういうふうな関係機関との協力態勢をいまお考えになっていらっしゃるかという点、両方からお聞きしたいと思います。
  23. 辻辰三郎

    辻説明員 関係機関との協力態勢につきましては、先ほども申し上げたところでございますが、一応検察といたしましては、各地方検察庁単位を中心にいたしまして、それぞれの管轄区域内における国の関係行政庁、警察、海上保安庁あるいは自治体関係関係機関、これと常時密接に連絡協調を保ちまして、公害実情行政規制実態公害防止に対する企業努力及び住民感情等々、こういうものを終始調査を怠らないようにしろということで指示もいたしておりますし、現にまた、そういうことを各地においてすでに行なっております。  それから、先ほども指摘のございました鑑定人のむずかしさという点でございますが、これにつきましてもただいま御指摘のような問題を含んでどういう鑑定人が適切かということについても十分注意するようにということも、かねて各庁に連絡をいたしておるような状況でございます。
  24. 長谷川俊之

    長谷川説明員 警察といたしましても、まず中央におきましては環境庁もできましたことでございまするし、これを中心といたしまして緊密な連絡をいたしていくわけでございますが、府県におきましてはやはり府県庁を中心にいたしまして今日までも府県公害担当の部局に警察の者が兼務になるとか、あるいはまた連絡会議を常設するとかいうような形で参画をいたしておるわけでございまするが、今後におきまして、先生の仰せのとおりでございますので、一そう関係行政機関との連絡を緊密にしていきまして、警察としての役目を果たしてまいりたい、かように存じます。
  25. 沖本泰幸

    沖本委員 これは刑事局長さんにちょっとお伺いしたいのですが、むしろ大臣にお伺いするほうがあれかもわかりませんが、前の法務大臣はこの法律をつくるとき、先ほど申し上げましたとおり、歯どめになるんだということを盛んにおっしゃったのですが、さて法律施行してみまして、どういうところが歯どめになっているのでしょうか。まだ私たち、はっきりわからないのです。法律が実際に即して歯どめの役割りを果たすのは、何が歯どめの役割りなのかという点、どうお考えでしょうか。
  26. 辻辰三郎

    辻説明員 この公害罪法公害のどういう意味で歯どめになっておるかという御指摘であろうと思うのでございます。この点につきまして、公害防止ということは、もう申し上げるまでもなく、まず関係行政措置というものが先行すべきものであろうと思うのでございますが、その関係行政措置として、大気や水質につきましては昨秋の国会で直罰主義がとられたわけでございます。その直罰主義にひっかかるものについては直罰ということで、まず刑罰の担保ということで行政規制の実効を期しておるわけでございますが、この公害罪法につきましては、そういうものとまた一段と違った立場におきまして、この公害罪法にいう公害罪というものは、もうそういう行政規制とかそういうもののいかんを問わず、そのものずばりで、これは刑事犯になるということで刑罰の対象になっておるわけでございます。そういう意味におきまして、この刑罰規定ということで、刑罰の抑止力ということで一般的に公害防止に資しておるという、一たび事件が起これば相当の重い罰則がかかってくるということで、行政規制と相まちまして公害防止にこれは十分資しておるものであろうと考えておるところでございます。
  27. 沖本泰幸

    沖本委員 いや、その御趣旨の点、理論的にはよくわかるのです。おっしゃっている意味はわからぬこともないのですが、七月一日に法律施行されて、その抑止力というのですから、公害がいまのままでとまってきだしたか、あるいは減ってくるかというところに問題がかかってくると思うのです。いま全然受理案件がないということが、抑止ではなくて、出てきてないということだけであって、出てきてないのは問題があると思うのですね。国民の皆さんが七月一日に出たということを知らないという点、またどういうふうに告訴していったらいいかというようなこともまだはっきりわかっていない。ですから専門家の方がある程度のところで摘発なさって、問題を浮き彫りになさっていくと、そういう働きをしてくれているんだ、じゃそこへ持っていってこういうことがありますと言ってみようということになるわけなんですけれども法律ができたからこの法律が抑止力になっているということであれば、公害がある程度とまってくるなり何なりの効果が出てこなければ抑止力ということにならないのです。法律ができたけれども、やはりたれ流しであるということになったら、これは法律の効果というものはないわけです。そういうところで「おそれ」の問題がどんどん出てきた。われわれはその点を非常に心配したわけなのです。そういうことですから、結局何かの形で、効果はいますぐにはわからない。七月一日に出て現在の段階ということにはなりますけれども、少なくともこういうことで抑止的な効果を発揮しだした、企業の側はこういう点をどんどん警戒して注意しだした、こういうものの御検討があったり、あるいはそういうふうな実証をおつかみになって、私たちに教えていただくなり、こういうことになっている、こういうふうなことでなければ、結局何にもならないということになるわけで、そういう点で、われわれは法律が不備じゃないかという点で、結局法律はできたけれども、ざる法的になり、たれ流しもそのままであるということと、開店休業的になっているのじゃないか、こういうことを非常に憂えているわけです。  そういう点について、法務大臣、いかがでございましょうか。これから環境庁のほうも問題がありますが、無過失賠償責任法案、こういうものも関連してくるわけですけれども、また同時に、大臣がお越しになったわけですから、これからは法務省としても、いままでに考えられない膨大な予算がだんだんと必要になってくる、こういうことになってくると思うのですが、そういう問題につきまして御所見をお伺いしたいと思います。
  28. 前尾繁三郎

    前尾国務大臣 公害事犯に対する刑罰というものは、ただいまお話しのとおりに、実際にいろいろと刑罰を科していかなければわからぬじゃないかというお話もありますが、企業者の側からいいますと、大体みな知っておると思います。でありまするから、企業者はこれによってひっかからぬようにという注意をしておることは私は間違いないと思います。一般の被害者がそれを告発するというところまでは、いっていないことでありますし、また率直にいいまして、何も事犯がないと私は思っておりません。それに対する無知あるいはまたそれに適応した行政なり、あるいは検察捜査、そういうことがまだ完熟をしていないという点も多々あると思います。それはわれわれも十分つとめてりっぱにそれをやり遂げるようにしていかなければなりませんが、やはり企業者側に対する効果はもうすでにあるのである。ずいぶんいろいろ公害のおそれがあるために計画を変更したり、あるいは計画をやめたというようなお話もありまするから、そういうような点で、いわゆる歯どめにはなっておる、かように考えておるわけであります。
  29. 沖本泰幸

    沖本委員 大臣お話もあるのですが、結局住民の側の摘発がだんだんと激しくなってきたので、企業のほうも考えざるを得なくなってきた、私たちはこう受け取っておるわけです。そういう点について、さらに関係各省、各行政機関協力態勢をおとりになるわけですから、そういう関係の中にこの法律が有効に効力を発揮するような内容のものをどんどん連絡していただいて——いまのところ各省がばらばらに、自分は自分なりに公害に取っ組んで一生懸命になっているところですから結局法律ができて、こういうものがありますよということはまだわかっていないということで、結局検察庁警察庁が独自な形で、たいへんだ、たいへんだということでおやりになっているのじゃないか、こういうふうに私は感ずるわけなのです。そういう点についてどうでしょうか。もっとPRが必要だ、国民自体にも必要ですけれども公害と取っ組んでいる各省担当者に、この問題は告訴すればちゃんと法律ができているんだ、警察庁のほうもそういうものに当たってちゃんと指導していく、こういうことによって法律の効果、それこそ抑止力が出てくる、私たちはないと思っているのですけれども。そう考えるわけですけれども、それにつきまして、刑事局長のお考えはいかがですか。
  30. 辻辰三郎

    辻説明員 ただいまのいわゆる公害罪法について関係機関なんかがまだ十分知らないのじゃなかろうかという御懸念でございますが、この点は、警察はもちろんでございますが、海上保安庁であるとかその他の取り締まり機関のほかに一般の行政関係庁におきましても、この法律のできたこと及び内容は十分に私は知っておると思うのでございますけれども、なおこの上ともいまの御指摘がございましたので、そういう点につきましても各現地におきまして検察庁がそれぞれの所要の連絡を講じてまいりたいと考えております。
  31. 沖本泰幸

    沖本委員 それから裁判所のほうにお伺いしたいわけですが、六月十七日に全国の高裁、地裁の刑事裁判官がお集まりになって、そのときに石田最高裁長官は、公害犯罪処罰法に定められた罪の構成要件や因果関係に関する推定規定の解釈はむずかしい法律問題がある。さらに、事件の真相を明らかにするためには高度の総合的な科学知識が必要とされるし、また対立する利害関係者には激しい争いがあって、事実認定や訴訟指揮の面でも困難が予想される。こういう点を指摘したということなんですが、意見の交換を行なったところ、この処罰法が処罰対象者を「危険を生じさせた者」と規定しているだけで、実際上どのような状態になったら処罰の対象になるかなどの構成要件があいまいだ、こういう点について各裁判官から法律解釈上の疑問や意見が積極的に出された、こういう点が新聞に出ておるわけでございますけれども最近公害に関する問題がいろいろ表面化してきて裁判にもどんどんのぼってきておるわけです。  そこで、一番問題になってくるのは、疫学で立証する方向という問題になってくるわけですけれども、こういう点について最高裁判所のほうはどういうふうな問題のとらえ方、考え方を持っていらっしゃるか、この点についてお答え願いたい。
  32. 牧圭次

    牧最高裁判所長官代理者 公害事件が刑事事件として係属いたしました場合に、どういうような点が問題になろうかというふうにしろうと考え考えますと、やはり事実の因果関係ということが一番中心になろうかというふうに考えます。ただその事実の因果関係につきましては、現在の科学知識でも必ずしも十分に解明されないような点も問題になってこようかと存じますので、それらの認定については裁判所も非常に苦労することが多いんではなかろうかというふうに思っております。したがいまして、これらについては専門的な知識を有しておられる鑑定人の助力を得る以外に方法がないわけでございまして、適切な鑑定人を得るということがこれらの事件の迅速適正な処理のやはり一つの重要な問題になろうかと思います。最高裁判所といたしましても、各裁判所鑑定人選任の苦労というようなものを幾らかでも手助けができるようにいたしたいと思いまして、鑑定人等のリストもつくったりして現地の要望に応じるようにいたしたいというふうに考えております。
  33. 沖本泰幸

    沖本委員 それと四日市公害の問題も裁判にのぼってきているわけですけれども、そういう観点から、新聞でもお読みになって御存じだと思いますけれども、原告の人がどんどん死亡していっている、こういうような点を考えていきますと、この公害事案に関しましてはどうしても裁判を迅速にしていただく、こういう点が必要ではないかというふうに考えられるわけです。こういう裁判を迅速にするようなことのために裁判所では何らかの連絡なり通達なり、あるいは裁判官会議あるいは最高裁長官の御意見が何らかあったわけですかどうでしょうか、今後に対する方針を伺いたいと思います。
  34. 牧圭次

    牧最高裁判所長官代理者 公害関係事件が迅速に処理されなければならないということは、裁判所としても当然のように考えております。ただ具体的な事件になりますと、先ほど申し上げました因果関係の問題が一番中心になろうかと思いまして、そこの鑑定に日数を要するというようなことが非常に多いのではなかろうかということを懸念いたしておるわけでございます。したがいまして、それを迅速にいたしますためには、やはり通常の事件と同じように争点をしぼり、その争点を明確にして、その点についての審理を集中的に行なうというようなことで訴訟の迅速化をはかってまいりたいというふうに考えておるわけでございます。
  35. 沖本泰幸

    沖本委員 それでは法務大臣にお伺いしますが、やはり公害に関してはいろいろな法律がまだ不備である。一番新しい問題でもありますし、世界じゅうがこの問題をとらえていろいろな点で検討もし研究もし対応していっておるわけでございます。そういうところで、わが国もその例に漏れないという点と、わが国は経済成長に伴って当然起きるところの公害が一度に発生して吹き出している、こういうことのために日本全体が公害の苦痛の中に入っている、こういうことになりますから、結局不備な法律を埋めていってそして完全なものにして国民の健康や生命や財産を守らなければならない、こういうふうに考えることは私だけではないと思うわけでございます。  そういう点について、私たちは野党でいろいろと打ち合わせをして、きょうも継続の決定をしていただいたわけですけれども無過失賠償責任法、これも出しております。こういう問題にからんで、総理大臣も何度もこの法律はという約束をなさりながらとうとうできなかった。あるいはせんだって山中総務長官も出す、こういうふうにおっしゃりながらとうとう日の目を見ないままで終わってしまった、こういういきさつがあるわけでございますが、法務大臣としてこの無過失賠償責任法をどういうふうにおとらえになっていらっしゃるか、また閣僚のお一人としてこの法律をどうしてもつくらなければならない、めどはどういうふうにしていこう、あるいは将来に向かって早急にやらなければならない、こういうふうな問題に対するお考えをお聞かせをいただきたいと思います。
  36. 前尾繁三郎

    前尾国務大臣 公害問題は、これは最近になりまして経済成長に伴ってできてきた問題でありますから、まだまだ研究が行き届いておりません。しかし、とにかくすでにマイニングの鉱害については無過失責任の法律があるわけであります。それから公害そのものもいろいろと変わった公害が出てくるだろうと思います。しかしとにかく、とりあえず現在出ておる公害について従来の過失責任の大原則を破って無過失責任を持たせるということについては、私は当然であると思いますし、また非常に促進していかなければならぬというふうに考えておりますが、ただ民法の大原則に対して民法で直すということについては、まだまだ将来の問題としましては私も考える余地があるかどうかはわかりませんが、現段階においてはやはりわかったものから、またなし得るものからどんどんつくっていくということで、来国会に環境庁から出されます法案につきましてはわれわれも協力してできるだけ早く提出していきたい、かように考えておるわけであります。
  37. 沖本泰幸

    沖本委員 私もまだこの問題に対しては十分勉強が足りておりませんし、いま伺いますと、これからもまだまだ、いま始まったばかり、こういうことなんですから、各省とも十分この問題をとらえていただいて、開店休業になりませんようにひとつ御勉強いただきたいことをお願いいたしまして、一応質問を終わります。
  38. 小島徹三

    小島委員長代理 岡沢完治君
  39. 岡沢完治

    ○岡沢委員 私は、最高裁の事務総長がお見えになりましたら、その問は同僚議員に質問を譲ることにいたしまして、お見えになるまでの間、主として法務大臣に対して所信表明とも結びつけて質問さしていただきたいと思います。  前尾法務大臣はこの五日に御就任になりまして、その直後の記者会見で訴訟遅延にお触れになりました。裁判が十年もかかるということは、その裁判のよしあしにかかわらず問題であるということを御指摘になりました。また、その訴訟遅延の原因予算の不足にあるのか、あるいは訴訟技術にあるのか、その辺の原因も確かめてみたい、そうして、必要であれば石田最高裁長官とも話し合ってみたいという御発言がございました。私も訴訟遅延の問題は、当法務委員会におきましても何回となく取り上げさしていただいた問題でございます。きょうの所信表明にもございました法秩序の維持、そのためには厳正公平な法務行政あるいは司法行政が必要なことは言うまでもありませんが、しかし、一方で迅速な裁判がなされない場合に、その機能が十分に発揮されないし、法秩序に対する国民の信頼も裏切られることは明らかであります。  そういう点で私は法務大臣に、法務行政については未経験という御発言がございましたけれども、さすがに現在の法務行政あるいは裁判の本質をついた問題につきまして着眼されたということに敬意を表するわけでございますが、この点につきまして、五日の御発言とその後の御努力ということの真意を、あるいは経過を明らかにしていただきたいと思います。
  40. 前尾繁三郎

    前尾国務大臣 訴訟の迅速化につきましては、これはもう国民世論の当然の問題として取り上げられておると思うのであります。ただ、歴代の皆さん、この国民の要望に対しては非常な努力をしてこられておることは私も認めておるわけではありますが、しかし、まだ十分スピード化されていない。ことに急激な経済成長によりまして、社会の変化が急激になってまいっておりますし、公害問題一つとらえましても、先ほどもお話がございましたように、裁判が早く決定をされないために、補償の問題いろいろなことに支障を来たしておる、こういう現実については、何としてもわれわれはその穴を埋めていかなければならぬ。その原因には、訴訟法の手続、そういうようなところにもちろん簡単にはいかない、こういう問題があろうかと私は思います。これは裁判のことにまで私が言及しておるかのように言われておりますが、それはそれとしまして、裁判所としてお考え願う、またわれわれとしまして迅速化に協力できる——あるいはまた担当検事が非常に少ない、ことにもう一つの問題は、最近は交通違反あるいは公害、そういうような問題で非常に技術的な知識が必要である。こういうようないわゆる専門検事をつくるというようなことも考えていかなければなりませんし、そういうような点で、あるいは予算、あるいは制度にしましても研修制度というようなことで、簡単にスピード化し得るものがあれば、早くそれを処理していく。あるいは手続法につきましても、現在いろいろと審議されておりまするから、そういうような面でもう一度よく検討していただいて、そうして訴訟手続の簡素化というようなことも考えていかなければならぬ。  こういうようにいろいろな方面にまたがる問題だと思います。その他法務省の中でも、いろいろと以前と違いまして、現在は行政訴訟も全部やっておるわけでありますから、ことに国家の代表として、当事者として法務省がこれに当たっておるというような問題もあります。全体の心がまえ、あるいは予算の問題、あるいは手続の問題、いろいろな原因があるのであります。それに応じまして一つ一つ問題を解決していきたい、かように考え、就任いたしましたときにもそういう私の考え方を省内の皆さんに申し上げた次第であります。
  41. 岡沢完治

    ○岡沢委員 この問題で石田長官とはお会いになりましたか。
  42. 前尾繁三郎

    前尾国務大臣 石田さんとも会いましたが、実は詳しいお話をする前に石田さんは健康を害されましたので、この間も健康を回復されましたら早急にお話ししたい、こういう申し入れをいたしております。
  43. 岡沢完治

    ○岡沢委員 大臣の着眼はいいということは、先ほども私実は申し上げさせていただいたとおりでありますが、久しぶりに法務省には大もの大臣を迎えたわけでございます。この訴訟の迅速化等につきましては、大臣自身もお触れになりましたように、古くして新しい問題で何回も取り上げられながら、実は改善の実があがっていない問題でございます。要はもう実行の段階、実行するしかないわけでございますし、それがまた裁判不信をなくし、国民法秩序への信頼をかちとる大きな要素であるということについても御同感いただいているわけであります。佐藤内閣余命そう長くないというのが一般の世論でございます。せっかく前尾大臣の時期にせめてこの訴訟迅速化についての予算措置あるいは法的改正のレールでも敷いていただくということは価値あるお仕事でもありますし、また前尾大臣のような実力大臣でなければ、ある意味からはできない問題ではないか、絶好のチャンスだと思うわけでございます。  この機会に、最高裁総務局長でけっこうでございますが、最高裁からこの訴訟遅延の原因一つではないことは明らかでございますが、ことに解消に必要でしかも効果がある、また実現可能だと思われるような問題がもしございましたら——あるはずであるし、またなければおかしいと思いますが、そういう訴訟遅延対策について最高裁としてたとえばこういう法改正があれば、こういう予算があれば、こういう人員があればという点につきまして、大要でけっこうでございますが、もう総務局長に御就任になってからかなりの時間の経過も経ておりますし、この問題は前の国会でも私は取り上げましたから、御意見を聞かしていただきたいと思います。
  44. 長井澄

    ○長井最高裁判所長官代理者 訴訟遅延の原因及び対策につきましては、先ほど岡沢委員から御指摘のような点に尽きると私も考えるのでございますけれども、具体的方策としてどれから実現するかということになりますと、なかなか困難な問題となります。  裁判官の増員ということが年来の計画になっておりますけれども、早急にこれが実現の方途、可能性があるかということになりますと、かなりむずかしい問題がございます。また制度、機構の改革というようなことにつきましてもいろいろな制約がございますが、現在の陣容で訴訟制度の理想にどのようにして沿っていくかという観点から申し上げますと、現在の裁判官にその能力にふさわしい仕事に専念していただくような制度をつくり上げていくということがさしあたって大切ではないかと思います。そのためには事件の数に即応したように裁判官の配置も合理的にする、それに沿うように裁判所の機構を改定していくというような努力が必要なのではないかと思います。次に、先ほど刑事局長から、公害裁判についての迅速処理に関する意見の説明がございましたけれども、争点の明確化、集中化、これに即応した迅速なる証拠調べ、このような制度が訴訟手続の上で確保されるようにするために、法曹の一体感を養っていくというような手当てが必要であろうかと思います。  問題が非常に基本的な部面につながってまいりますけれども、現在可能な制度といたしましては、以上申し上げましたような二点について、制度の面、法律改正、予算の手当て、このような努力をすることが大切だと私は考えております。
  45. 岡沢完治

    ○岡沢委員 吉田事務総長がお見えになりましたので、私の質問は途中で打ち切ることにいたしたいと思います。——それじゃ畑委員からの御了解を得まして質問を続行させていただきます。  いま事務総長お見えでございますが、裁判遅延の問題につきまして、特に前尾法務大臣が就任早々の抱負でこの問題と取り組みたい、意欲的な御発言がございました。石田長官とも会う、また事実、簡単ではありますが、会われたようであります。この問題は古くて新しい、しかも非常に大事な問題であります。特にアメリカのベトナム機密文書の訴訟事件処理に関連いたしまして、われわれは大きな示唆と教訓を得たと思います。そういう点とも結びつけて、わが国の特に公害裁判等に見られますように、四、五年かかってもまだ一審が終わらない。この間ようやく富山のイタイイタイ病訴訟の一審判決が出ましたけれども、そういうことを考えました場合に、国民の裁判に対する大きな不信、特に裁判遅延があるということは否定できないと思いますので、この問題についての、いま長井総務局長から、最高裁としての遅延の原因をお聞かせいただいたわけでありますが、率直に言って、私は総務局長の答弁は不満であります。なぜかというならば、いまの抱負あるいは御発言が間違っているとは言いませんけれども、ほんとうに裁判遅延について最高裁が真剣に取り組んでおられるならば、こういう方法をやれば、たとえばこれから五年計画、十年計画で国民の期待にこたえられるような迅速な裁判が実現できますという具体的な計画なり抱負なりがあってあたりまえだ。ところが、思いつき的なと申しましたら失礼かもしれませんが、だれでも考えることを、しかもそう意欲的でない御発言のように私は受け取りました。私は、せっかく前尾法務大臣が新しい抱負として裁判遅延問題と取り組もうと意欲的に感じておられるときに、最高裁としては、こういう具体的な用意があります、計画があります、それを予算的にあるいは政治的な立場で、裁判の内容と関係ありませんから、法務大臣の力をお借りしたいという積極的に働きかけられる用意があってしかるべきじゃないか。全くそういう意欲が感じられないというところに非常な不満を感じます。  吉田事務総長に、現在の日本の裁判一般、民事、刑事含めまして、あるいは新しい行政事件あるいは公害事件を含めまして、裁判がおそい、機能を発揮してないということは、私は国民一般の世論だと思います。裁判遅延の原因が訴訟技術的な面にあるのか、予算の不足にあるのか、その他最高裁から見られまして、訴訟遅延を解決するための具体的な方策、理想を含めてもけっこうだと思いますが、事務総長からあらためて見解を聞きます。
  46. 吉田豊

    ○吉田最高裁判所長官代理者 日本における訴訟がおくれておりますことは、私どももよく承知しております。それでこの訴訟遅延を解消するということは、ひとり裁判所ばかりでなくて、訴訟に関係する者は在朝在野を問わず、これに協力していかなければならないと思うのであります。  そこで、訴訟遅延の原因についてでありますが、これまでに総務局長がどのように述べましたかきょうはわかりませんけれども、いろいろな面があると思いますので、これは一朝一夕に解決ができない性質のものであることは、岡沢委員もよく御存じだと思います。私ども決して責任のがれをするわけではありませんが、訴訟遅延ということは古今東西を問わず非常な民族の悩みでございまして、私どもも精一ぱいこの解消には努力していきたい、かように考えております。
  47. 岡沢完治

    ○岡沢委員 訴訟遅延の解消が一朝一夕にできないことは、私ども十分承知いたしております。しかし、きのう参議院の予算委員会でわが党の木島則夫議員が佐藤総理に、慎重という語は佐藤語録から省いてほしい。同じような物価の問題にいたしましても、公害の問題にいたしましても、十年一日のような論議が国会でも議せられておる。この訴訟遅延に関する限りは、この法務委員会におきましても、私が議席を持ちました四年前から何回となく取り上げられながらほとんどそれは解消されていない。それはやはり、たとえば御指摘のような在野法曹の弁護士のほうにも問題があるでしょう。しかし、最高裁自身あるいは法務省がこの訴訟遅延と真剣に取り組むという意欲と計画をお持ちにならなくて、どうしてこれが解決できますか。そういうことを考えました場合、一般的な御答弁としては納得ができても、ほんとうの意味国民の信頼にこたえる迅速な裁判の実現についての意欲を最高裁がお持ちかどうかについては、はなはだ不満に私は感じます。  いま訴訟遅延は内外一般の問題だという御発言がございましたが、先ほどちょっと触れましたように、ベトナム機密文書、いわゆるマクナマラ文書に関連した米国の裁判所が示したスピードというものは、われわれに大きな教訓を与えている。アメリカの裁判所、連邦裁判所ができることが、どうして日本の裁判所ではできないのだろうかというのが素朴な国民の疑問だと思います。日本の裁判所におきましても、たとえば同種のような事件が起こった場合、手続的にあのようなスピーディーな審理が可能かどうか、事務総長としてこれは手続的にお答えいただきたいと思います。
  48. 吉田豊

    ○吉田最高裁判所長官代理者 ただいまアメリカのベトナム機密文書に関する裁判に関連してのお尋ねでございますが、日本でもあのような事件が起きてまいりましたならば、おそらくアメリカとあまり変わらない期間で解決できるだろうと思います。と申しますのは、あの事件は仮処分でございまして、仮処分の事件についてはやはりその事件の性質とその背景になる社会情勢というものをよく見まして、ほかの裁判をあと回しにしてもああいう事件は迅速にやっております。私の知っております例でも、ある映画が上映されようとした場合に、それによって個人の名誉が棄損されるということで上映禁止の仮処分を起こしているのがございますが、その場合に、やはり上映者のほうとしてはそれによってこうむる損害が非常に大きい、こういうことで争いになっていたわけでありますが、そういう仮処分につきましては、一審もあれは三週間くらいで済みましたですか、二審は二週間くらいで済んだんじゃないかと思いますが、そのようにやはり事件の性質によっては非常に迅速にやっておると私は思っております。
  49. 岡沢完治

    ○岡沢委員 同種の事件が起こった場合、日本でも事件の性質、特に仮処分であることを前提にして、あのようなスピーディーな裁判が行なわれると事務総長からお答えいただきまして、私は実務家としてはいささか疑問を感じますけれども国民の前には非常に喜ばしいし、ぜひそういう態度を最高裁判所はおとりいただけるような態勢を、裁判の中身ではございませんが、態勢最高裁判所事務総局としてはおとりいただくことを心から希望いたします。  私は、その機密文書事件の判決あるいは訴訟手続を見ながら二つほど感じたことがございます。やはりスピードの問題でございますが、もう一つはその中身でございます。もし同じ事件が日本の最高裁判所に係属した場合、あれだけの思い切った判決がなされるだろうか。過去に自衛隊の違憲問題等で日本の量高裁が示された判決、特に三権分立とか統治事項だという逃げ道から、高度の政治的な判断をお避けになろうとした態度から考えました場合、私はいささか日本の裁判の中身について疑問を持つとともに、アメリカの最高裁判所の態度に敬意を表したわけでございます。アメリカの行政府から見ましたら不満でありましょうし、権威が失墜されたと見るかもしれないが、あの判決によってアメリカ自身の国としての権威は全世界に保たれたと私は思うわけでございまして、私の感じと同じような感じをお持ちになったかどうかは疑問でございますが、事務総長としてあのマクナマラ機密文書事件に関連したアメリカの訴訟経過についてどういう御感想をお持ちになったか、この際、簡単でけっこうでございますが、明らかにしていただきたい。
  50. 吉田豊

    ○吉田最高裁判所長官代理者 お尋ねの点は、やはり裁判の内容に触れますので、私からここで申し上げることは差し控えたいと思います。
  51. 岡沢完治

    ○岡沢委員 今度は法務大臣にお尋ねいたしますが、先ほども沖本委員のほうから公害罪を中心にした質問がございました。私は、無過失賠償責任制度、沖本委員も若干お触れになりましたこの点につきましては、公害防止のきめ手と申しますか、特に公害被害者の救済制度は必要欠くべからざる立法措置であることはもう常識になっておると思います。佐藤総理もあるいは環境庁長官もこの問題については、今度は次の通常国会に出すということを言明されました。その基本方針は私はよしとしたいと思います。問題は中身でございます。  この問題につきましては、今日のこの委員会の議題にもなっております、われわれ野党三党が共同提案をいたしております事業活動に伴って人の健康に係る公害を生じさせた事業者等の無過失損害賠償責任に関する法律案をわれわれはすでに提出をいたしております。伝えられるところによりますと、前回日の目を見なかった自民党の無過失賠償責任制度に関する法案の原案からは複合公害は省かれておるといわれております。この問題の取り扱いについて、直接の所管は環境庁長官かもしれませんが、法務大臣も大事な一翼をになわれる立場にございます。複合公害を無過失賠償責任法案の中にお取り入れになる御意思がおありかどうか。あわせまして、先ほど沖本委員の質問に答えられて、いわゆる特別法にするか個別法の法改正にするかは、若干その方向を示されたような感じがいたしますが、過日の衆議院予算委員会における答弁によりましても、総理はいわゆる一般的な特別法制定を避けて、民法の原則を破るようなことはしないで、個別法の鉱業法にございますような、各個別法の法改正でまかないたい。環境庁長官はそうではなしに、一般法として無過失賠償責任制度を確立したいというような趣旨の答弁がございました。若干の食い違いは、私は予算委員としてその席に列しておりまして感じたわけでございますが、法務大臣はどういう方向で無過失賠償責任制度の立法化を考えるか、現在の段階におけるお考えを聞きたいと思います。
  52. 前尾繁三郎

    前尾国務大臣 私も実は内容的にはあまり詳しく存じません。複合公害の問題につきましては、私個人で考えてみてもなかなかむずかしい問題だ、いろいろな連帯責任その他のことを考えてまいりますと、非常にむずかしい問題ではありますが、しかし、いまの公害が大気汚染なり水質汚濁あるいは土壌汚染というようなものが中心になっておるのでありますから、何とかこれを克服して、一つの原則を考え出すというようなことにできるだけ協力していきたい、かように考えておるわけであります。  ただ、私が最初申しましたように、個々の問題をとらえて、そして解決していかなければなりませんが、あまり一般抽象的な大きな原則をつくり出すということは、これは不可能でもありますし、現段階においては重大な影響を及ぼしますから、そう簡単ではありませんが、できるだけ積極的に取り組んでいくべきだ、かように考えておるわけであります。
  53. 岡沢完治

    ○岡沢委員 法務大臣は本日のごあいさつでも、「時流に即応して、改めるべきものはあくまで改めていくことが大切だ」という発言がございました。いわゆる民法の過失責任主義というのは十九世紀的な市民法の原則であることは御承知のとおりでございます。公害罪あるいは公害法、公害自体が二十世紀の新しい現象であり、それによって国民の生命、身体、財産が害されておることも御承知のとおりであります。われわれの出しております、先ほど申し述べました法案も、決して財産犯罪、財産侵害等にまで及んでいるわけではございません。被害がないのに賠償せよというわけではございません。加害者がはっきりしていないのに賠償せよというわけではございません。ただ過失が立証されなければ賠償は受けられないという現在の制度がむしろ弱い被害者を苦しめておる。先ほど来訴訟遅延が問題になりましたが、各種の公害裁判がいずれも二年、三年、四年、五年を経過しておる。ようやく富山のイタイイタイ病だけが一審判決がかちとられた。しかし、これも控訴されて係属中であるというようなことを考えました場合、なるほど国家機密というような点につきましては、ベトナム機密文書も非常に大きな大事な問題であるし、報道の自由あるいは真実を知るという権利は、世界の平和とかあるいは民族の安全のためには大切な問題かもしれませんが、公害の被害者にとりましたら、自分の生命が害され、健康が害され、あるいは自分の親族が死に至らされたというような問題の解決、被害の賠償についての結論を早く得たいというのは、ある意味ではベトナム機密文書以上に当該当事者にとっては大事な問題だろうと思うわけでございます。  そういうことを考えました場合に、むしろ法が被害者の救済を阻止しているといっても過言ではない。過失責任制度というものは新しい二十世紀の市民法の原則としてはむしろ改められるべきではないか。個別法ではなしに、民法の一般原則の例外として当然規定される方向で検討されるべきだと私は思いますが、これについての重ねての法務大臣の見解を聞きまして、この問題の質問を終わりたいと思います。
  54. 前尾繁三郎

    前尾国務大臣 いかなる場合にも原則に例外ができ、その例外が発展していくというような経過をたどることについては、これはもう当然だと思います。ただ、過失が全然ない、言いかえれば天災と同様不可抗力、それに責任を持たすということは、これは何も近代法の例外というのではなしに、私は、非常に人間性に基づく根本的な問題を含んでおる、したがって、あるいはむしろ公的機関が責任を負う、何らかそれに対して救済の制度を考えるというような考え方も入れていかなければならぬのではないか。ただ、企業者が全く無過失にやりましたことを、企業者に全部責任を持たすということについては、私は、必ずしもこの段階において広い範囲に取り上げていくべき問題ではないのではないかというような感じもいたします。これは率直な、私のいまの思いつきにすぎないかもわかりません。しかし、そういうような感じもいたします。これはやはりかなり慎重を要するというふうに考えておるわけでございます。
  55. 小島徹三

    小島委員長代理 岡沢君に申し上げます。  事務総長の都合が十二時十五分までと言っているのですが、問題がそうでなければ、畑君なり青柳君に回してもらえませんか。
  56. 岡沢完治

    ○岡沢委員 それでは、私はあと主として選挙関係、法制局それから法務大臣の質問が中心でございますので、事務総長への質問は局長で御答弁いただける範囲でございますので、質問の順序を畑委員に譲らしていただきます。
  57. 小島徹三

    小島委員長代理 畑和君。
  58. 畑和

    ○畑委員 私は、きょうは最高裁に中心的に聞こうと思います。  一つの問題は、「裁判所時報」の号外に出た問題です。そのほかに、法務大臣のほうに恩赦の件とか、あるいはまた、通告はしてなかったのですが、例の新聞等で問題になっておる、これは裁判所にも関係があるのですけれども、例のTBS放送記者の城所さんという人が証言を求められるために勾引されて、しかもその結果証言を拒否したという事件、この点について、岡沢君も質問があるようですが、それに簡単に触れてみたい、こういう考えです。  最初に、まず城所記者の問題について簡単に聞いてみたいと思います。  報道記者が、その報道取材中のことについて証言を求められ、そしてその証言を拒否したという例はいままでなかったろうと思う。ただ報道のニュース、それの証拠としての提出を裁判所で命令をした、例の博多駅事件だったと思いますが、この点で、その当時も世論でもいろいろ問題になり、それから当法務委員会でもいろいろ質疑がかわされたことがございます。その際にも、たぶん中谷委員の質問だったと思うのですが、証言拒否の問題と報道の自由ということの問題について、いろいろ議論がかわされたのでございますけれども、いまのところ証言を拒否することができるのは、御承知のように刑事訴訟法で、医者とか弁護士とか、それから宗教に携わる者とか助産婦とか、こういった者が業務上委託を受けたことについて証言は拒否することができる。もちろんただし書きで例外的なものもありますけれども、そういうことになっている。新聞記者の、報道人の報道取材中のことに対しての証言拒否の自由というか、それはいまのところ法律に規定がございません。そこで、最近こうした似たような事件がいろいろ起きてくるわけであります。  今度の事件は、ただ金嬉老の事件に関連をして、金嬉老から取材中におどかされたということで、その事実が犯罪事実として起訴されている、一つの起訴事実の中に入っておるということにおいて、ちょっと特異な問題だ、変わっている問題だと思うのでありまして、この点が裁判に関しても非常にむずかしい問題になってきておるのだと思うのです。ただ、新聞記者が自分が取材中に経験したこと、そのことは、報道の自由という点から証言を拒むということは普通でありましょうけれども、ただ、自分が取材中におどかされたということが、今度は犯罪事実として起訴されている事実になって、検察庁では証言をしておる、調書ができておる。それを弁護士が証拠として採用することを拒否したということで、結局検察庁で証言した城所君を今度は裁判所で直接法廷へ呼ぶ、こういうことになった。それで報道の自由だということで出廷をしなかったが、勾引をされて、そして最後的には結局証言拒否だということが、御承知のとおりの実態だと思うのです。  その点で、自分が被害者であるということでなくて単なる報道ということであれば別なんですが、そういう点で私はむずかしい問題だと思うのであります。ただ、こうした問題が次々といろいろ起こってまいるのでありまして、したがって、政策問題として、立法問題としてこういうことを考えてみる必要があるのではないかというふうなことをこの前中谷君も言っておられましたが、私もそういう気がいたします。今度の場合がそのものずばりだということに必ずしもなるわけじゃありません。いま言ったような特殊事情もございますので、問題があると思うのでありますが、その点について簡単に検察庁法務省当局の御見解を聞いてみたいと思うのです。
  59. 辻辰三郎

    辻説明員 ただいま御指摘の東京放送テレビジョンのカメラマンでございます城所賢一郎氏にかかわる証言拒否の問題でございますが、これはただいま御指摘のように、一つの被害者としての事実についての証言を求められたということのようでございまして、いわゆる報道の自由であるとか取材の自由であるとかというものと、刑事訴訟法上の証人としての義務との関係とは多少ずれておるように、本件の場合には思うのであります。本件のほうは私ども詳細な報告をただいままだ受けておりませんけれども、現在ではこれは被害者としての事実の証言を求められたものである、かように理解をいたしております。  そこでそういう事実じゃなしに、一般論としての新聞記者としての報道の自由あるいは取材の自由と、刑事訴訟法の証言拒否との関係はどうなるかという問題でございますが、これにつきましては、先ほど来も御指摘になりました最高裁昭和四十四年十一月二十六日の大法廷の決定がございます。この大法廷の決定におきまして、一応最高裁としての明確な一つの基準というものは打ち出されてきたと思うのであります。これは、公正な刑事裁判の実現ということと報道の自由あるいはその前段階をなします取材の自由との関係をどう見るかという点でございますが、これはいろいろな利益較量の問題であるということで一応の解決がはかられておると思うのでございます。この決定を前提にいたします限り、司法実務上は新しい立法というものを考慮する必要が現在のところはないのではなかろうか。この四十四年の大法廷の決定で一応明確な線が打ち出されたものであろう。私ども事務当局としてはそういうふうに考えております。
  60. 畑和

    ○畑委員 新聞の報ずるところによりますと、結局本件の場合、証言を拒否した。裁判所のほうではそれに対して、ただもう証言を拒否したから、無理に言わせるわけにいかぬということで打ち切ったようでありますが、それに対する措置としては、裁判所の決定で、状況によっては正当な理由がなければ五千円以下の過料に処するという決定をすることができるということになっておる。これは百六十条です。百六十一条には、今度は刑罰規定として、そういった場合に「五千円以下の罰金又は拘留に処する。」ことができるというようなことになっておる。これは前のほうは明らかに裁判所というか裁判官の決定であり、あとのほうは検察関係のほうで起訴するかしないかということになるわけですけれども、きょうの新聞などによると起訴することがあるかもしれぬというようなことが載っておったと思うのです。この点はひとつ慎重にしてもらいたいというふうに考えておるわけです。そうだったから起訴するというようなことであってはやはりいけない。いろいろ全般のことを考慮して処置をすべきである、かように考えております。報道の自由の関係と裁判の関係とはなかなかむずかしい問題になっておるわけでありまして、その辺慎重に処置されるよう期待して、どういうふうに考えておるか伺っておきます。
  61. 辻辰三郎

    辻説明員 ただいまの城所記者に対する証言拒絶の問題について、刑事訴訟法百六十一条の発動について慎重に考慮すべしであるという御意見でございますが、この点につきましては何ぶんきのうのことでございまして、私どもも正規に何ら報告を受けておりませんが、当然静岡地検において事柄の重要性にかんがみまして慎重な検討を加えることと考えております。
  62. 畑和

    ○畑委員 それでは最高裁のほうにお聞きいたします。  事務総長が間もなくどうしても退室されるということでございますから、最高裁の総長には先にそれだけ聞いておきます。こまかいことはまたほかの局長に聞くことになるわけで、私はきょう御質問してゆっくり究明したいと思っておったのでありますが、そういう事情で若干それが腰を折られたような感じがするわけです一それは、この間あなたのところで「裁判所時報」の号外というものを出された。昭和四十六年の六月二十五日付の号外でございます。この号外の問題について、いろいろこまかい点はほかの方に質問いたしますが、これは事務総長、あなたがみんな事務局を統括しておるのですから、知っておられるのでしょうね。あなたの知らないときに出たということではないでしょうね。どうでしょうか。
  63. 吉田豊

    ○吉田最高裁判所長官代理者 その関係は、よく承知しております。
  64. 畑和

    ○畑委員 実はこの「裁判所時報」は私のところに送ってこられたのです。千葉さんという広報課長の名前で私のところに送ってこられた。ところでほかの同僚の方に聞いてみた。岡沢君のところに来ておる。私のところにも来ておる。ところが、公明党の沖本君のところには来てないし、それから共産党の青柳さんのところにも来てない。野党では私と岡沢君だけ来ておるのですね。(発言する者あり)そういうことで、二人だけ来ておるんですが、こういう号外も普通の「裁判所時報」も、私のほうへ送ってこられたことは一度もない。しかも添え書きも何もないのです。ただ「裁判所時報」の号外だけを送ってこられた。  内容を読んでみました。読んでみましたところが、最近問題になっておる例の裁判官の再任拒否の問題、その他一連のことについての、われわれがあまり見たこともなかったいろいろなマスコミの報道、論評、そういったものが幾つか出ております。相当数出ております。最高裁の公式見解を含めて全部で二十本並べてあるわけでございまして、それで一番最初に、これを出した趣旨が最初の一ページの大部分を費やして取り上げられておるわけであります。そして、これは全部転載です。転載されたものでありまして、その転載されたものが、われわれが見ましても非常に感情的なというか、理論的にはどうもあまり感心しない。反対は反対にしろ、裁判所を擁護する立場に立つなら立つとして、思考に値するようなものが多ければいいのだけれども、どうもその中には、週刊新潮から転載されたものが三本ございます。それから司法界の外郭団体と見られておる「法曹」、その機関誌、これが二、三本出ております。それからさらにまた例の日弁連の臨時総会の決議案、それの反対趣意書という名目で出ておるのがあります。これは一部の弁護士の方のものでありまして、それと、それからさらに法務委員会のこの間、四月十三日の議事録第十六号の抜粋が出ております。この議事録の場合なども森山委員とあなた方の質疑応答だけが出ておりまして、われわれのやつはちっとも出てない。要するに裁判所擁護論、そういう連中だけのものを全部拾ったんだと思うのです。あらゆる手を伸ばして全部それを洗いざらい集めて、それを転載した。その中にはまことにどうも愚劣なものも相当あるのです。しかも総論の中に、目につかないものもあったろうから、したがって一般に目に触れてないものも多いから——一般に目に触れているものは裁判所批判が多いんだ。誤解も非常に多いんだ。ところが、そうでない、一般に目に触れてないもので、なかなか裁判所を擁護するものが相当ある。それを全部転載したということだと思う。それにしちゃお粗末なんです。  こういうものを全部総動員して、われわれの味方もこんなにあるんだということだと思うんだけれども、今度の処置はまことにお話にならぬと私は思うんです。もうようやく鎮静しかけたというか、まだ鎮静は実際にしてないでしょうけれども、眠った子をさますようなもので、火に油を注ぐようなことになると思う。これじゃ弁護士会もおこりますよ。弁護士会を誹謗したのが相当あります。週間新潮のヤン・デンマンという記者の報道だという「東京情報」というものなどは、私も弁護士会の総会に行ってじっと聞いていた。こういうものじゃなかった。相当まじめなものでした。それはそうでしょう。それをやゆ的に書いている。これじゃおこりますよ。そういうのをそのままあなた方が、実際に行って見ていたかどうか知らぬけれども、それを転載している。これは責任はあなた方にあるということになりますよ、これを全部転載した以上は。これらが全部われわれと同じ意見だというふうになりますよ。同じ擁護論でももっとりっぱな擁護論なら転載する価値があります。ところが、われわれから見ても全く問題にならぬような、感情的な立場に立っているものなどがある。日弁連の臨時総会の決議案反対趣意書、これも確かに私は弁護士会の総会に行ったときに入り口に置いてあった。それは決して正式の議題でも何でもなかった。どういうことで入手したか。何でもかんでも入手できる範囲のものを、弁護論に終始しているから、全部集めたというようなことにしか考えられない。一般の目に触れないといったら、例の四月十三日の国会のなま中継で放送されたものは、みんな目に触れていますよ。それだったら、両方載せればいい。ところが、私たちの論議はちっとも載っていないんで、目に触れないと称して、相当目に触れたはずの森山君の質問だけで、ほかの委員の方は、自民党の方も相当良識的な質問をされておりましたけれども、そういう方、羽田野君その他の質問はちっとも載っていない。森山君の質疑応答だけが載っている。全くこれは一方的だ、私はそういうふうに非常に痛感したのです。これを受け取ってむっとしたのです、正直のところ。ようしこれは問題にしなければならぬ、そう思った。  私は第一線の裁判官はどう考えているかと思って、浦和の裁判所裁判官の意向も聞いてみた。それは裁判所長の三淵乾太郎判事ですね。初代の最高裁長官のむすこさんの三淵さんの意見も聞いてみた。三淵さんも、これは一方的だ、私はこれは相当問題だと思います、これは一線の裁判官をばかにしています。こういうことで、内心やはり穏やかならざるものを持っているようです。それから、はたせるかな読売新聞が取り上げましたね。だから、私だけじゃない。その中には、横浜地裁の所長代行の野瀬さんもこう言っていますね。「自分に都合のよい記事ばかりを集めて、これを世論だというのか。われわれ現場の裁判官を甘くみている」こういうようなことを言っておられます。また日弁連の司法の独立に関する委員会の荻山虎雄委員長、前の日弁連の会長ですね。「おかしなものを出したものだ、いままでこうした一方的な意図を持った「裁判所時報」は出たことがない。最高裁はわれわれ司法界や一般国民の抱いている司法への危機感や司法行政の行き過ぎに対する批判をまともに受けつけようとしない。どう対処するか、検討するか、日弁連としてこのまま見過ごすわけにはいかない」こう言っておるのです。なるほど私の考えていたとおりなんですね。  これはもう最高裁の非常なミスだというか、最高裁の体質を物語っておるというふうに考えます。それできょうは質問を申し上げたわけなんです。そうしてみんな責任者をずらりと並べて、事務総長以下出席を求めて、一人一人に聞いていこう。一体だれがどういうふうにして企画立案したものか、みんなその人たちが知っているのかどうかということをぼくはただしたいと思っておったのですが、ちぐはぐになっちゃいまして、きょうの委員会があることはずいぶん前から知っているはずだと思うのです。簡裁の判事の試験だとかで、午前も午後でもだめ。やむを得ず昼休みならいいということで、ぼくは昼休みの質問にわざわざずらした。全部出てくるものと思ってきょうはそれで納得した。ところが、事務総長、総務局長だけ、それからあとは、この実際の犯人といっちゃ何だけれども、千葉広報課長だけがおいでになるということで、その人をいじめてみてもしょうがないと思うけれども、一応あとでいじめます。しかし、これは事務総長も知っておるはずだと思うのですね。だから、こういうことを出さしたのはあなたの責任なんですから、これはこれでいいと思っていられるのかどうか。私はこれは常識に反することだと思うのですよ。これはせっかく良識的な立場でやっておられる——弁護士会の中にもそれはいろいろありますけれども、そういう人たちだって、これでは憤慨しますわ。こういう立場でいるということは、結局、われわれの批判を少しも聞いていない、むしろ挑戦しているんだ、こういうふうに思いますのは無理ないので、これは私だけでないと思うのです。与党の方だって私はこれを全文を見てもらえば正しいと思っていないと思う。
  65. 小島徹三

    小島委員長代理 畑君、時間がないから質問に入ってください。
  66. 畑和

    ○畑委員 それじゃ、その点について総括的に事務総長の見解をひとり承りたい、あなたが時間が差しつかえがあるようですから。
  67. 吉田豊

    ○吉田最高裁判所長官代理者 やむを得ない事情で時間がございませんので、簡単に申し上げますが、この「時報」を出しました理由は、先ほどお述べになりましたように、この「時報」の冒頭に詳しく書いてあります。要するに、例の一連の問題について最高裁判所のとりました処置及びその見解を、ことに裁判所の内部に理解してもらう、そういう必要がありまして、そのためには裁判所はPRをすべきじゃないか、こういう意見がございます。これは全国の長官、所長会同の際にもそういう必要のあることは強く述べられておりますし、また全国の各裁判所裁判官からもそういう意見がございました。  それで、片寄った意見ばかりを載せているというお話でございますが、これはやはり先ほど申しましたように、裁判所のとりました処置及びその見解を理解してもらうためにこういう「時報」を出しましたのですから、どうしてもやはりそういう裁判所の処置と同じ見解のみを拾ったわけでございます。(発言する者あり)  そこで、週刊誌はけしからぬじゃないかというお話もございますけれども、これは法律専門家でない人の意見もやはり世論として載せていいんじゃないかと思いますし、森山委員の質疑応答だけを載せたという点も、決して森山委員なるがゆえに載せたのじゃございませんで、その質疑内容がさきに言いましたような裁判所の処置にとって必要だ、こういうところから載せたわけでございます。そうしてここに載せましたものが全部、国民の全体的な世論を代表しているということは私ども考えておりません。これはもう反対的な世論のあることもよく承知しておりますが、ともかく裁判所としてのPRとして出したものでありますから、どうしても一方的な意見を載せざるを得ない、こういうわけでございます。
  68. 畑和

    ○畑委員 そうだとすれば「裁判所時報」じゃなくて——「裁判所時報」でもいいから、もっと広くやったらいいじゃないかと思います。これは二千部よけいに刷ったというふうに聞いております。普通は二万五千部だが、このときだけは二千部よけいに刷って、それがわれわれのところへ来たんだ。もっともっと刷って全国にふりまいたらどうですか。裁判官だけにやったってしようがない。いま世論になっているかなっていないかだから、いまこういう世論もあるんだというので、こういう世論をもっと広くふりまいたらいいと思う、それほどあなた方がそう思っておられるのなら。ところが、われわれが持っている見解は、先ほど言ったように、どうもこういう資料を総動員せざるを得ないということは、いかにあなた方が理論的にむしろ貧弱であるかということを裏書きするのだと思う。もっとりっぱな学者の論説でもあればいいんだけれども、中には学者も二人ばかりおります。ところが定評のある人たちだ。定評のある、理論的にはわれわれはあまり感心しない人たちなんでありまして、これを裁判所部内にふりまいて、さらにそれをほかにもふりまいてやるんだったら、もっとほかへふりまいたらどうですか。どういう反響があるか。結局これはマスコミで取り上げられたから一般の新聞に出たわけですけれども、部内をこれで押え切っていくという考えなんだろうが、あなた方のその考え方がいかぬ。われわれの真摯なる、国民の真摯な批判を受け付けようとしない、その拒否体質がいまの最高裁の批判につながってきているんだと私は思いますよ。これは人事行政優位なんです。あなた方は人事行政の優位で——人事行政というのは、裁判所においては裁判行為のサービス的な機能を果たすべきであるのに、逆に人事行政優先で下級裁判所を押えつけようというような考えでいるから結局こういうことになるんだ。いろいろ新聞なんかに書いてあるけれども、実はおれらのほうもこんなにあるんだ、裁判所部内にはこういうのもたくさんあるんだから、こういうことだろうが、どうもしかしこれでは国民からますます遊離をしていく、私はこう思う。  そこで、新聞でもごらんになったでございましょう。私も心配しているのでありますけれども、ついに最高裁長官の石田さんに対して、百万人訴追の国民運動を起こそうというので一何名かの学者あるいは弁護士等がそういう運動を起こして、十一月を目途として出そう、こういうことにまで及んでくるんですよ。   〔発言する者あり〕
  69. 小島徹三

    小島委員長代理 お静かに願います。
  70. 畑和

    ○畑委員 この事実をあなたはどう見ますか。事務次長が何か談話を発表していますが、事務次長、きょう来ないそうだけれども、私はそこまでいくと思う。結局最高裁長官の罷免運動、国民運動にまで及んでくると考えるが、その点はどう考えますか。よほど考えてもらわなければならぬじゃないか。事務総長はどうですか。
  71. 吉田豊

    ○吉田最高裁判所長官代理者 石田長官に対する罷免訴追のお話であろうと思います。これは石田長官に対してはすでに訴追請求がありましたが、訴追委員会で承りますと、全会一致で罷免訴追せずという決定をいただいておりますので、さらに重ねてこういうような訴追請求をされることは、私どもとしてははなはだ遺憾千万だ、かように考えております。
  72. 畑和

    ○畑委員 それは訴追委員会で一度その訴追が通らなかった、またさらに重ねてこういうのが出るのは遺憾千万だ、こういう御答弁だったけれども、遺憾千万だといったって、そういう運動がどんどん盛んになったら日本のためにもあまり感心しないことですよ。それはなるほど、出しても、訴追委員会におきましてはなかなか訴追という結果にはならぬでしょう。それはもう大体見え透いていますよ。しかしながら、それに至るまでの間、そういった運動が国民の中に巻き起こって大きな騒ぎになるということはいいことじゃないですよ。困ったことですよ。それをあなた方ちっとも考えずに、そういう点については法律家だから、もうどうせ通らないだろうからということだろうと思うけれども、やはりその点を心配して謙虚に国民の批判、マスコミのあれはためにするものだとか、われわれの批判はためにするものだというようなからに閉じ込もったような官僚独善的な考え方を捨てて、国民裁判所である。とにかく憲法は国民の総意でできている、同時にまた最高裁もそのもとにあるのですから、そのことを考えに入れてもらわぬと、この問題がさらに大きくなる。私はこういうことを心配するがゆえに、あなた方のほうで少しその辺の考え方を改めてもらって、改めるべきことは改める、そうして挑戦的なことで反論していかないことのほうがいいのだろうということで質問しているのです。
  73. 小島徹三

    小島委員長代理 畑君、事務総長の時間の関係で青柳君に譲ってください。  青柳君。
  74. 青柳盛雄

    ○青柳委員 いま畑委員から総括的に御質問がありましたのに関連して一言だけ申し上げたいのです。  最高裁がこの問題についてとっておられるやり方に対する批判というものは、非常に広い範囲の中から出ているわけですね。それがマスコミによって報道され、大きな世論になっているわけですが、それに対抗する意味で、裁判所側のほうでも大いにPRしなければいけないという声があるということをいま事務総長はおっしゃって、たまたま「裁判所時報」というものがあるから、この号外の形で利用したのだという趣旨のようでありますが、どうも「裁判所時報」というものを発行した趣旨からいうと、こういうことに使ってよろしいというものではないように思えるわけです。だから明らかにこの「裁判所時報」の本来の趣旨から曲げて使っている。しかも部内に対する思想統制といいますか工作といいますか、そういうものにこれを利用するだけでなしに、部外にもこれを出す。しかし、畑委員が言われたように、全く部分的にしかそれが配布されていないというような状況が出ております。中身は言うまでもなく傾聴に値するようなものはないのです。これは何か裁判所の態度と同調しているようなものだからというのですが、こんなものに同調されてはたして裁判所のやったことが合理化されるかどうか、冷静に判断されたのかどうか。まさにごろつきのような議論がここに盛られているわけです。もちろん国会での論議のことまで含めて言うわけではありません。同僚委員の森山氏が言ったことをごろつきとは言いませんけれども、要するに週刊誌などは日本の実情を何にも知らない、それを使ってやっている、こういうことをこれからも続けるつもりなのかどうか。  何か先ほどのお話を聞いていると、部内からも大いにPRをしなければ位負けするのだというようないきまいた世論というか要望があって、それにこたえたかのごとき措置のように聞こえるのでありますけれども、この前に「全貌」という雑誌が「恐るべき裁判官」というものを書いた。それを何部か最高裁では買って、そして判事補たちに読ました。そして青法協から抜けるように工作をしたということで問題になったことがありますけれども、それと同じようなことが今度は堂々と「裁判所時報」というものを通じてやられるということ、これが最高裁の本来あるべき姿を非常に曲げているのではないか。また最高裁判所に対して何万あるいは何十万という署名というか陳情、抗議が持ち込まれているけれども「これについてはこういう時報などではほとんど報道されていないわけですね。全く握りつぶしになっている。そういうふうな反面的な要望に対し、陳情に対しあるいは抗議に対してはもう握りつぶして、ちょうちんに類するような報道についてはこれを大いに活用するといいますか、そういうやり方を一体正しいと思っているのかどうか。  これに対しては大阪弁護士会ではすぐ抗議の談話を発表しましたし、また東京弁護士会でも抗議をされるというふうに聞いておりますし、さらに日弁連でもこれは正式な抗議をするといわれております。当然なことだと思います。一言私も関連いたしまして、事務総長の御見解を承りたいと思います。
  75. 吉田豊

    ○吉田最高裁判所長官代理者 裁判所のとりました処置とか、いわゆる司法行政上のことに関しまして、理解を深める必要がございますので、将来もPRということも大いにやっていきたいと思っております。ただ「裁判所時報」という形式を用いるかどうかについては検討していきたい、かように考えております。   それから、何十万という陳情書のお話がございましたけれども、これについては私ちょっと申し上げたいことがございますのは、何十万という陳情書はございませんけれども、その陳情書はほとんど同じ文句に連署しておられる形式のがほとんどでございます。ところがまた反対に、石田長官あて、または私あてにいろいろな書面が参っておりますが、それは一々理由を詳しく掲げまして、具体的に詳細に自分の意見を述べられておる、そういった書面がたくさん来ておりまして、これは一般の方が御存じでないので、そうしますとこういう書面も将来皆さんにお目にかけなきゃならぬ時期が来るかもしれない、かように思っておるわけでございます。
  76. 畑和

    ○畑委員 それでは続いてお聞きします。いまの問題、若干具体的にこまかく聞きますが、そう長い時間とるつもりはありません。事務総局の総務局長、広報課長の千葉さんいますか。——このお二人に聞きます。いま大体聞いておられたのでわかったと思う。あなた方がやっていたことに間違いないんだから。大体「裁判所時報」というのはどこの管轄ですか、最高裁の事務総局の中では。
  77. 長井澄

    ○長井最高裁判所長官代理者 「裁判所時報」本来のものは事務総局の総務局の所管になっております。
  78. 畑和

    ○畑委員 今度のことに限らず号外というのがときどき出るような話を聞いておる。その号外は一体どこの管轄か、一般的に。
  79. 長井澄

    ○長井最高裁判所長官代理者 号外につきましては、それぞれ所要の場合に応じて発行いたしますので、その必要を感じ、所管する局が編集するという方針でやっておりますので、そのときどきによって所管が変わることがございますが、事務総局の責任において発行していることは間違いございません。
  80. 畑和

    ○畑委員 そうすると、そういうときにはほかの所管、ほかのところの局でやることがあるが、最終的にはいずれにしろ、編集はそうだけれども、号外といえども総務局長の発行責任によって出す、あなた方も最後には相談にあずかる、その責任で出す、こういうことですね。
  81. 長井澄

    ○長井最高裁判所長官代理者 当然その責任は負うべきものと考えております。
  82. 畑和

    ○畑委員 責任は負うべきものと言ったって、ほかのときの号外がどうなっているかというのを聞いているのだ。この号外じゃない、いままでの号外はどういうのがあるか。あまり時間をとつちやいかぬから、それについてはあなた方も最後に相談を受けて、とにかく判こを押すか何か知らぬけれども責任を持って出す、こういうことになっているんだと思うが、その点を聞きたい。
  83. 長井澄

    ○長井最高裁判所長官代理者 号外にはいろいろございますが、従来は労働組合との交渉の経過を部内に周知するために号外の形式で発行しておるのが大部分でございまして、内容につきましては組合を所管する部局が編集いたしますが、この発行については予算的手当てその他印刷発行等の事務的なことがございますので、そのようなものにつきましてはもちろん総務局が所管はいたし、私が責任をとります。
  84. 畑和

    ○畑委員 ついでに聞くが、そういう労働組合との関係等は労働組合のほうには出さないないしょのものですか、どういうことなんです。
  85. 長井澄

    ○長井最高裁判所長官代理者 これはもちろん部内に広く配布いたしまして、一般の閲覧に供しております。
  86. 畑和

    ○畑委員 それは号外だけれども、配布先は同じであるということですね。それであなたのほうもちゃんと相談にあずかっておる、こういうことですね。  ところで本件の号外の場合はどうでしたか。
  87. 長井澄

    ○長井最高裁判所長官代理者 これが出されておるということはもちろん最終的には見ておりますが、編集の過程ですべて詳細にタッチしたということは、先ほども申しました部局の所管の関係でございますから、一々私のほうから目を通すというようなことはいたしておりませんが、最終的には私、見ております。
  88. 畑和

    ○畑委員 どうも語尾がはっきりしない。その辺がほかの号外とはどうも違うような気がするのです。そんなような話も私は聞いておるので、今度の場合はあなた、総務局長のほうはつんぼさじきで全然知らなくて、責任だけかぶせられておる、こういうようなうわさも聞いておる。そこでその点はっきり聞くのですが、ほかの号外と同じような過程であるかどうか、その点違いをはっきり言ってください。
  89. 長井澄

    ○長井最高裁判所長官代理者 部局が分かれております以上、すべて自分の所管と同じように目を通すわけにはまいりませんので、これは最終的に責任の問題として処理すべきものと考えております。したがいまして、他の号外と今度の号外が違うかということになりますと、そう大きな取り扱い上の変化はございません。たとえば労働組合との交渉などに関しましては、私ども立ち会いませんけれども、原稿ができました際は、私のほうを経由いたしまして印刷所に回りますので、その点については十分な責任を負うべきものと考えております。
  90. 小島徹三

    小島委員長代理 畑君に申し上げますが、法務大臣は一時から省議があるので一時には退席されるので、法務大臣に対する質問があるのでしたら、岡沢君もあるらしいので、そのつもりで……。
  91. 畑和

    ○畑委員 もっと聞きたいのだけれども、どうもその辺が普通の場合の号外と違うような気が何となく私はするのです。結局、責任はあなたがかぶっているだけの話であって、どうもその辺違う。これは人事局と広報課が全部やったような話を聞く。そこで私は広報課長に聞くが、これはどういう過程でつくられたのですか。
  92. 千葉和郎

    ○千葉最高裁判所長官代理者 広報課には一般に公刊されておる資料が全部各局から集まってまいります。それを広報課で目を通しますので、広報課がこれらを全部整理いたしまして、広報課においてこれを編集したものであります。もちろん人事局からももらいます。
  93. 畑和

    ○畑委員 普通の「裁判所時報」はそうですが、そうでないでしょう。
  94. 千葉和郎

    ○千葉最高裁判所長官代理者 この号外について申し上げました。
  95. 畑和

    ○畑委員 この号外については、人事局からも資料が来たけれども、あなた方のほうでおもにやった、こういうことですね。総務局にはどういう連絡をして、どういうふうにやったのですか。
  96. 千葉和郎

    ○千葉最高裁判所長官代理者 費用の問題とか、印刷の問題とか、なおかつ広報課付には各局の一課長が課付になっておりますので、それらも集まりまして相談した上で編集したわけでございます。そういう意味では、総務局のほうにも費用とそれから発行についてお願いしたというかっこうになります。
  97. 畑和

    ○畑委員 時間がないからゆっくり質問できないのだけれども、ともかくどうも異常な編集のしかただと思うのです。「裁判所時報」という形で出すべきものではなかったと思う。これは出すとすれば、全然別の形で出すべきであった。しかも、内容については先ほど私が言ったとおり、あなた方そんな感じがしませんか、これでりっぱなものだと思っておりますか。新聞にもあなたの談話が載っていますね。これからもどんどんやると、そういったようなことを言っております。少しも反省した色が見えないような感じがするのです。この点どうですか、あなたはどう考えていますか。
  98. 千葉和郎

    ○千葉最高裁判所長官代理者 発行の形式が適切であったかどうかということは、先ほど来御意見を拝聴いたしまして、事務総長の申し上げたとおり、これはまた考えなければいけないと思っておりますが、ただこれまでも号外としては、この形式で発行したというのがございましたし、また私どものほうには広報紙というものを「裁判所時報」以外持っておりませんので、部内広報となりますと「裁判所時報」の号外を使うしかなかったわけで、そういう意味で従来の形式を踏襲したわけでございます。今後もう少しやわらかなあるいはもっと形の変わったものでやることも十分考えられますので、その点は目下検討しておる次第でございます。
  99. 畑和

    ○畑委員 内容のことについてどうですか、先ほど私が言いましたが、青柳さんも言いましたよ。内容がまことにわれわれが見ても思考に値するものじゃないんですね。最高裁、これまで落ちぶれたか、正直のところそういう感じがするんです。何でもかんでもこういうものにたよらざるを得ないのか、もっとりっぱな評論をなぜ載せないのか、そういうものがないからしようがないから、こんなごみみたいなものを載せたんだと私は思う。そういう点で、あなた方裁判所の威信をかえって傷つけると思っていませんか、どうですか。ただ、いろいろいまマスコミが取り上げ、われわれからもいろいろ追及される、それで最高裁は人事の機密といって一つも理由を明らかにせぬ。いわゆる首切りみたいなものをやった、その理由を明らかにしろと言っているのですから、それがあなた方正しいのだということを裏づけようとして盛んにあせっている。それで何でもかんでもそれを支持するようなものを取捨選択せずに載せるという態度が、私はまた非難されていると思うのですが、どうお考えですか。
  100. 千葉和郎

    ○千葉最高裁判所長官代理者 その点は号外の冒頭のところに二つ理由を書いてございまして、一つは、一般の目に触れる公刊物につきまして議論されているところが大体世論のように受けとめられるわけでございますが、ただ部内広報でございますので、また変わった意見もあるのだということも理解してもらって、さらに考えてほしいという意味で、目に触れる機会の少ない、発行部数の少ないものを載せたということが一つと、それから青法協の問題につきまして、まだいろいろ議論が続いておりますので、その点の資料もあわせて載せたということでございます。  確かに内容の点については、御批判も部外の方からはあろうかと思いますが、その点は先ほど事務総長が申し上げましたように、先般の長官・所長会同のときにも、所長さん方からたとえばこのヤン・デンマンの記事についてもこれをコピーして各裁判所に送れという要請もありましたような次第でございます。そういう声もあったものでございますから、ひとつその点含めまして、この資料を載せたわけでございます。これはいずれも部内広報紙という前提でございます。
  101. 畑和

    ○畑委員 議論していると長くなってかなわないですからやめますが、ヤン・デンマンの情報なんて、私もあのときの弁護士会の総会にずっと行って聞いておったのですから、これがいかにいいかげんなものであるかということは知っています。だから、弁護士会の連中も知っているからおこっているのだと思います。そういうものをあなたのほうは聞いたかどうか知らぬが、おそらく聞かないで、こういうものが載っていた、これはいい記事だからと思ってそれを載せたに違いない。それが結局裁判所の威信を傷つけることになるのですよ。いいですか、あまりちょうちん持ちだけをせぬで、あなたも最高裁の広報課長なんだから、やはりその立場はやるべきで、上のほうにおべつかを使うようなことでやつちゃだめです。最高裁の広報課長としてやらなければいかぬので、きょうはしかたがないからそれだけで終わります。  次に、なるべく簡単にやりますが、法務大臣にお尋ねいたします。
  102. 小島徹三

    小島委員長代理 法務大臣は十五分しかありませんから。
  103. 畑和

    ○畑委員 法務大臣に就任されて、いろいろゆっくりお考えを聞きたいと思ったのですが、先ほども就任のあいさつがございました。歴代の法務大臣とやはり違ったところがあるなという感じが率直のところ私はいたしたのです。そういう点で私はいわゆる大もの大臣として、しかも比較的リベラルな考え方の持ち主であるというふうに敬意を表しておったのでありますが、ひとつ任期中全力を発揮して大いにやっていただきたいと思うのです。  そこで、問題に入りますけれども、実は二年前なんでありますが、その前に、われわれ社会党のほうで、俗にいう再審特例法という法案を出しました。それは、占領軍がおった当時捜査され、起訴されたような事件であって、死刑の判決を受けて、それでなおいまでも死刑の執行をされてない、こういった人たちを対象として、いまの法律によりますと非常に再審の門が狭い、そこで明確な証拠ということでなくて、相当な証拠ということに読みかえるということの特例を出して、それで再審をまた受け得る機会を与えよう、当時は駐留軍の意向などもあったりあるいは訴訟法が急に変わって新しい訴訟法になって、なかなかそれに担当者がなれてないというようなことなどありまして、その期間に限っての特例法を設けようという法案を出しました。  それで一、二回審議をいたしたのでありますけれども、法の安定性というようなことの問題も出まして、結局そのかわり、そうした死刑囚の者にも、普通、恩赦なんということは考えられないのだけれども、ひとつ恩赦の運用ということでその人たちを救おうじゃないかというようなことが法務委員会の与野党の間に出まして、結局実は法務大臣発言ということでその恩赦を運用するということになったので、それは西郷大臣のときでありました。ちょうどたまたま七月八日の議事録を見ますとそれが出ておるのでありますけれども、それが小林大臣に引き継がれ、また植木大臣に引き継がれたわけでありますけれども、今度前尾大臣になられたわけであります。  そこで、その間におきまして、実はその当時それに七名の該当者がおりました。それの促進をはかって何回か私質問したことがありますが、そのうち三名がその恩赦の運用の適用というか——正式に恩赦相当になったのは二名ですか、それからついこの間、実はいろいろ問題になっております例の平沢が恩赦適用不相当ということで、たまたま皮肉な話に、ちょうど満二年の七月八日にそういう通知が本人にあったそうでありまして、本人のほうはさっそくその翌日、また再びの恩赦の申し立てをしたようでございますけれども、そうするとそれで三件になるわけです。あとまだ四件が残っておるので、その三件にしましても、いろいろ話し合いの上で、一種の政治的解決というか、そういう趣旨で実は与党の理事の諸君もいろいろ責任を持たれてしました。そして結局われわれの法案のほうはそのまま審議未了ということで了解をした、こういういきさつがあるわけであります。いずれも死刑でありましていまだに執行されてない。特に平沢のごときは来年八十歳でございます。  そういう経過になっておるのでありますけれども、この問題の促進と、それをわれわれのその趣旨に合うようにひとつぜひ運用していただきたいということなんです。ただ、平沢の場合にはそういって不相当になったわけでありますけれども、また再び出しておりますから、この点についてどういうふうにお考えになっておられるか、承りたいと思います。
  104. 前尾繁三郎

    前尾国務大臣 ただいまお話しの経過は、私も事務当局から聞いております。ただ、恩赦の積極的運用というものについても、当時の議事録を読みましても全部やるという意味ではないようでありまして、そういう趣旨でいろいろと努力はされたと思います。ただ、平沢貞通につきましては、いろいろな観点からでしょうが、中央更生保護審査会の結論がすでに出ておりますし、これも犯行の動機とかあるいはその態様、その方法とか被害の程度あるいは遺族の感情、社会に与えた影響、そういうようなことから考えてまいりますと、恩赦に値しないというような結論でありまして、これは御承知のように非常に長い年月、いろいろな人の手によって検討された結果であります。私がそれをただいまどうこうすべき問題ではない、かように考えておるわけでございます。
  105. 畑和

    ○畑委員 ただ、平沢の場合のごときも結局確定的な判決があったんだけれども、しかし、いまだに無罪を主張しておるのであります。当時自白だけが唯一の証拠であるといってがんばっておるわけでありますが、そのほんとうの実際は神さまでないから知るよしもないのであります。最近、御承知のように青森県における例の弘前の教授夫人殺しなんというものは、あれは死刑にならなかったからよかった。真犯人が出てきたということで、これはまだはっきりしたあれはありませんが、おそらくあれはほんとうだと思うのです。そういうこと等もあるのでありまして、神さまじゃないから必ずしも最終判決が正しいとは私には思えない。  そこで、われわれがああいう法案を出して政治的に考えて処置をしたのですが、われわれはまた考え直さなければならぬということにもなってきておるわけです。また再審特例法をもう一度出し直すということをしなければならぬのじゃないか。ある意味でだまされたという感じもしないではない。もっとも大臣答弁の中には用意周到に先ほど大臣の言われたようなことが書かれてあるのでありまして、何でもかんでも全部を恩赦で救うのだということでは必ずしもないということは私も承知をいたしております。しかし、そういったようなこともありますので、ただ否認しておるから、情状の点がよくはないからということでなくて、この場合は特別だと思います。そういう点でひとつ十分配慮をしていただきたい。これはおもに中央更生保護審査会でやることでありますから、大臣が直接やるというわけにはまいらぬと思いますが、ひとつそういう含みでいてもらいたいというふうに思っております。  そこで、もう一つ関連をするのですが、仮釈の問題がございます。実は私ある事件の人にいろいろ聞きましてそれと関係しているのがございますが、御承知のように法律によりますると刑期の無期の場合は十年、有期の場合はその刑期の三分の一の期間の経過と改悛の情顕著であるということの二つの条件が具備すれば、それを監獄の長が地方更生保護委員会に通告しなければならぬということになっております。同時にまた、監獄の長はそれによって仮出獄の申請をするということになっておるわけですが、私が関係した件につきましては実は前に猪俣浩三先生も関係しておられて、わざわざ刑務所まで行って会われた。私も実はこの間の国会が終わりまして本人に面会をいたしました。非常にまじめにやっている。模範囚的な者であるということはもう認めておるのです。ところが、それがうっかり早く出すと更生保護委員会でなかなか通らぬということで満を持して、却下になるとまた先へ送られるというようなことをあまりにも考え過ぎてなかなか出してくれない。そのうちに、猪俣さんが会いまた私が会いました所長がほかへ転勤してしまったというようなこともありまして、遅々として進まない。その前に猪俣さんに話したことでは、これなら刑期の半分以上になるようなことはありません、こう所長は言われたそうでありますが、もうすでに半分はたっておるわけであります。  そういったことで、どうもその辺担当者のほうで、更生保護委員会と刑務所長との間で何というかお互いに大事をとり過ぎて、せっかくある仮釈という措置ですね。そういう改悛の情顕著な人には行刑のほうと、それから更生保護委員会のほうでできるだけ早く連絡をとって早く恩典に浴させるべきであるというふうに考えているのです。具体的な名前は私申しませんが、事務局のほうには申したはずであります。それがありましたからよけいにそういう感じを持ったのでありますが、せっかくあるそういった制度は、運用の妙でできるだけその恩典に浴させるような措置が必要であると思うのです。それについて矯正局長と保護局長にひとつ答弁願いたい。
  106. 笛吹亨三

    ○笛吹説明員 ただいまお話ございましたように、仮出獄は刑法で有期刑につきまして刑期の三分の一、無期刑につきましては十年経過いたしました者で改悛の情がある者について許される行政官庁による処分でございます。これは矯正施設内で矯正教育をいたしておりますのと、それを社会の中に出しまして教育するのとどちらのほうがより本人の改善更生に益するものであるかといった勘点から考えておるのでございまして、したがいまして、本人が犯罪を犯したその罪の償いをいたしまして、行刑成績も非常によく、改悛の情が認められるといったような者について、矯正施設内からさらに社会内へ出しまして、社会内における活動を通じて社会復帰ができるような措置をしたいと思っておるわけでございます。  仮出獄になりました者は保護観察を受けるわけでございますが、こういたしますると社会の中において生活いたしますので、この人が社会内でまた犯罪を犯すといったようなおそれがあっては仮出獄というものは許可するわけにはいきませんので、改悛の情があるかどうかということは行刑成績その他を見まして考える。また一方、居住地その他のこの人を取り巻く環境といったものを調査いたしまして、それがよければ出すというようなことを考えておるわけでございます。これは刑務所におきましても、あるいは地方更生保護委員会におきましても、考え方は変わらないものだと思っております。先ほどおっしゃいましたように、三分の一、あるいは無期の場合の十年がたちますと、これは応当日とわれわれ申しておりますが、矯正施設の長から地方更生保護委員会のほうに、おっしゃいましたように通知がございます。また仮釈放、仮出獄を許可すべきだということを矯正施設の長が判断いたしましたときには、仮釈放、仮出獄の申請をしてくるわけであります。ただ、もし早く申請すれば委員会が却下するのではなかろうかというような配慮から、矯正施設のほうで申請をおそくするというようなことは、私はいままでちょっと聞いたこともないのでございまして、そこのところは本人の社会復帰というものをよく考え、また犯罪を犯して世間さまに御迷惑をかけるといったことがないようにというような各般の情状を考えまして申請があり、また地方更生保護委員会のほうで審理いたしまして許可を考えているような次第でございます。  ところで、最近の仮釈放がそれではどの程度行なわれておるかということを満期釈放と仮釈放の別でパーセンテージだけ申し上げますが、ちょっとお聞きいただきましたらだんだん仮釈放が進んできておるということがおわかり願えるだろうと思うのでございます。昭和四十一年を例にとりますと、刑務所から出所いたしました者の中で、満期釈放者が四四%で、仮釈放で出ました者が五六%でございます。それが四十二年になりますと、満期釈放が四三%で仮釈放が五七%。四十三年になりますると、満期釈放が四十一%で仮釈放が五九%。四十四年になりますると、満期釈放が三八%で仮釈放が六二%。このように年々仮釈放で出てくる者が多くなってきておるわけでございます。  このように、われわれ刑事政策上できる限り社会内における処遇によりまして本人の改善更生をはかっていきたい、このように考えておりますので、いまおっしゃいましたような、もう改悛の情もあり、成績も非常によいのだけれども、地方更生保護委員会のほうで却下するだろうからというようなことで施設の長のほうが申請をおくらすというようなことは、おそらくないのではなかろうかと思っております。いまおっしゃいました具体的なケースについては申し上げることは遠慮さしていただきますけれども、今後こういったような配慮のもとに仮釈放の運用をはかっていきたいと考えております。
  107. 畑和

    ○畑委員 実はいまの数字は、要するに仮釈放の数字がふえてきた、こういうわけで、それはそのとおりだと思うのです。問題は、幾らそのパーセンテージがふえてきたって、早くしなければいかぬ。なるべく早くできるやつは早くしたほうがいい。その点、局長まだ承知されてない。私が言ったのはそれのほうなんです。これについて矯正局の関係の刑務所長のほうがだいぶ遠慮をして、現に私はそれを経験しているのです。前橋の刑務所ですけれども、今度、こちらの所長になった伊藤さん転任されちゃって、そのあとへ私も行ったんだが、そうしたら新しい所長になって、その人に会えなかったのだが、その人もはっきり言っているのです。ですからみんな顔色を見ている。その辺が役人的だと言うんだ。どんどんやるならやってやるべきだと思うのです。刑務所のほうが、所長が遠慮し過ぎている。もしそれが通らなければいかぬからだんだんあとへやって、満を持してやるというようなことですが、それじゃ私はいかぬと思うのです。却下されるなら却下されるでまた出してやったらいい。それでかえって早くするべきものがおそくなるというようなことになると思うのだが、矯正局長、ひとつその点どうでしょうか。そういうことはありませんか。
  108. 羽山忠弘

    ○羽山説明員 お尋ねの点につきましては、具体的なケースにつきましては慎重に調べさせていただきます。一般的に、却下されるとまずいから申請をしないというようなことはいたしておりません。
  109. 畑和

    ○畑委員 実際にはやはりそういうことがあるようです。やはりあなた方、上のほうにいればわからないのだから、よく実情を聞いてもらいたい。調べてもらいたい。  それから最後にもう一つ大臣に承りたい。  恩赦のことですが、たまたま沖繩返還の恩赦があるであろうということがいわれております。国家的慶事というかそういう際でありまするから、このこと自体は私はけっこうなことだと思うのでありますが、またぞろいわれておるのは選挙違反についての復権の問題、これはいままで非常に世論はきびしいのです。だけれども、自民党関係で御承知のように非常に違反が多い。公民権停止の人も非常に多いわけです。したがって、もうそれをねらって公然と、どうせ沖繩恩赦で復権するんだからということで、相当勇敢に選挙をやっている人も多いと聞いておるので、それだけにまたその問題がいろいろ批判の的になっておるわけでありますが、近いうちにそういうことになるだろうと思うのでありますけれども、選挙違反に対する公民権の復権の問題、その点について私は相当世論がきびしいと思うのでありますが、法務大臣はその点どういうように考えておられるか。まだまだ早いからこれから考えますということなのかどうかわからぬけれども、それはあなたの試練だと私は思うので、ひとつ十分考えておいてもらいたいと思います。
  110. 前尾繁三郎

    前尾国務大臣 実は恩赦の問題につきましては、全くこれは私、白紙でありますから、いろいろ申し上げることはありません。いろいろ御意見を伺って慎重に考えたいと思います。
  111. 小島徹三

    小島委員長代理 岡沢君。
  112. 岡沢完治

    ○岡沢委員 特に所管でございますので、自治省の中村選挙部長あるいは法制局の真田部長、長時間待たせまして非常に恐縮でございます。昼めしもまだであることはよく存じておりますし、特に中村部長は参議院の委員会でも御要求があるそうでございますので、先に選挙違反関係あるいは選挙制度関係につきまして二、三お尋ねをいたします。  最初に、例の全国区の候補者の中で選挙公報の記載に関連いたしまして、具体的に名前を申し上げますが、窪田志一さんの選挙公報が原案と違ったあるいは削除された形で公報に記載されたという事件のいきさつを、簡単でけっこうでございますが御説明いただきたいと思います。
  113. 中村啓一

    ○中村説明員 岡沢先生からお話のありましたように、今回の参議院通常選挙におきまして、窪田志一候補から出されました選挙公報をめぐりまして、かって例のない事案がございました。窪田志一候補が載っけてほしいということで持ってまいりました原稿は、この右にあるようなものでございますが、この提出をされました申請内容によりますと、関係者の問では使うことを極端に問題視されるようないわゆる差別賤称用語が用いられておりました。そこで私どもは、こういうことばを使われますと社会的に大きな問題が起きる——もとより私どもの基本的立場として選挙の際に候補者が何を仰せになろうと内容のチェックをするものではさらさらないけれども、この表現は適切を欠くのではないかと御注意を申し上げるということで終始したところでありました。しかし、その点については、実は手順に手順を重ねて相手方の御納得を得るようにつとめたつもりでございますが、終局的には本人は納得をいたしませんでした。  そこで、選挙公報を配布をするには都道府県に中央選管から原稿を送りまして、都道府県で印刷、配布の段取りに入るという必要もありますので、そういう手続を進めましたところが、これを受けました都道府県で、特にいわゆる同和問題について問題意識の強い都道府県から、それについてはこういう用語がある以上は円滑に配布することは不能であるという話がどんどん入ってまいりました。いろいろな経緯をたどりましたが、中央選挙管理会としては、やはり選挙公報が円滑に配付されない、そのためにせっかく全国民のエネルギーを結集した今回のこの六月二十七日選挙が選挙無効原因を生ずるようになるということになったのでは、一人の候補の表現の自由ということを守って、多くの国民が参加され、多くの候補者の投入をされた大きなエネルギーが吹っ飛ぶということになってはいけないという考え方に立って、極端な賤称用語を三カ所にわたって削除をすることを特に必要であると認める都府県についてとりたということでございまして、結果的には二十六都府県については極端な賤称用語を落とし、そうでない二十県についてはそのまま今回公報が発行をされたという経緯になっておる次第でございます。
  114. 岡沢完治

    ○岡沢委員 その二十六府県と二十県と違った扱いになった根拠といいますか、理由をちょっと説明していただきたいと思います。
  115. 中村啓一

    ○中村説明員 その点が本件をめぐる非常に法律的にはむずかしいところかと存じますが、私どもは基本的に選挙にあたっては格別いわゆる検閲的な機能を発揮してはいけないという考え方に立ったわけでございまして、そういう意味で手順に手順を重ねて、本人の了解のもとに賤称用語を落としたいということにつとめました。そのために時間がかかりました。時間がかかりまして、結果的には二十県はあらためて落として印刷をいたします、その上で配布をするということになりますと、逆にそのために選挙公報が選挙の期日前二日までに全世帯に行き渡るということができかねるという事情になったわけでございます。  そういう意味合いでとった措置でございますので、私どもの今回とりました措置は、いわゆる政見内容を権限をもって削除をしたというようなものと申しますよりは、選挙の円滑な執行を確保する、それが阻害される非常に明確なおそれのあるところについてはそれを避けるためにやむを得ず削除する手段をとったということでございまして、そういう意味合いで、結果的に二十県については削除しないまま、また特に問題があり、かつ技術的にこれを説得に説得を重ねた時点において印刷し直して配ることが可能なところについてはそういう手段をとったということであります。私どもが最も懸念しましたのは、これがいわゆる検閲に当たるというようなそしりを受けないように、そしてもう一つは、今度の選挙に無効原因をなくして円滑に選挙の遂行をはかりたい、この二点を考え合わせ、そういう意味合いでそれぞれ守るべき法益というものを比較検討した結果とった異例の措置であると存じます。異例の措置でありまするが、私どもは条理上許容される措置であるというふうに信じておる次第でございます。
  116. 岡沢完治

    ○岡沢委員 この削除の行為と公職選挙法との関連では、どの条文がどのような立場から問題になるとお考えになりましたか。
  117. 中村啓一

    ○中村説明員 岡沢先生の仰せのように、中央選挙管理会あるいは都道府県選挙管理会が選挙公報の内容について何らかチェックをするという権限は与えられておりません。そこで、今回とりました措置はいわゆる明文の根拠に基づいての措置ではございませんで、いわばよくいわれるクリアーアンド・プレゼント・デンジャーというものを回避をするためにとったやむことを得ざる措置であると考えてはおります。しかし、これからの制度論、立法論といたしましては、私どもはやはり一つの大きい問題が従来ともありましたし、今後に残ったのではないかというふうに存じております。
  118. 岡沢完治

    ○岡沢委員 私は、今回の中村選挙部長をはじめ中央選管のとられた措置が必ずしも妥当でないという立場から質問するわけではございません。いまおっしゃいました緊急やむを得ない措置であったということは理解できるわけでございますが、それだけにいま立法措置等の検討を要するという趣旨の御発言がございました。表現の自由、特に立候補者の趣旨が正当に選挙民に理解されるということは選挙の基本でございますし、特に全国区候補の場合、この公報が占めるウエートといいますか、非常に大きいと思います。問題の三カ所の部分を削除された公報を見ました場合、御本人の趣旨は全く一般の有権者には理解できない結果に至るような感じを私はこの文章を見る限り感ずるわけでございます。  そういう点で非常にむずかしい問題でございますし、きょうこの委員会におきましても、先ほどの裁判所の広報問題とも関連して、表現の自由、あるいは先ほどの城所記者の証言拒否とも関連いたしまして、憲法と報道の自由、表現の自由が大きくクローズアップされておるわけでございますけれども、この辺について内閣法制局としては今回の中央選管のおとりになった措置等についてどういう御見解をお持ちかどうか、持っておられるか、あるいは今後この問題についていかなる立法措置等が考えられるか、あるいは考えられるべきだと考えられるか、お尋ねいたします。
  119. 真田秀夫

    ○真田説明員 御指摘の参議院の全国区選挙の公報削除の問題につきましては、私も新聞紙上の報道でも承知いたしておりますし、また、これがありました事後でございましたけれども自治省から報告を受けて承知しております。  ですけれども、私の役所は法制問題にタッチするところでございまして、個々の具体的な案件について、特に全国選挙管理会がおやりになった個個の行為が憲法に違反するとか、合憲だとか、あるいは違法だとか、合法だということを一々判断するような立場じゃございませんので、その点についてのお答えは御遠慮させていただきたいと思います。  ただ、一般的にそれではどうかというお尋ねでございますれば、私の感じを申し上げますと、先ほど来お話しございますように、全国選挙管理会が各候補者のお出しになった政見の原案について手を入れてよろしいという規定は何もございません。そういう点、いろいろ御事情がおありになったのだろうと思いますけれども、異例の措置であり、かなり思い切ったことをなさったものだという感じは免れないと思います。  で、いろいろだだいま選挙部長のほうからお話がございましたように、まことに万やむを得ない措置であったのだろうという感じもいたします。特に選挙公報の配布が不可能になることが目に見えているというふうな場合にはどうしたらいいのかという、実は高度の判断が要るわけでございます。それをその場その場の役所の判断にまかせておいていいか、あるいはそれはもう少しその万やむを得ない場合に限ってはっきりと立法して解決しておくほうがいいのじゃなかろうかというような感じもいたします。  ただ、そこで最も注意しなければいけないのは、やはり選挙の公正ということでございます。立候補者がお出しになった政見の内容について、役所が中身にタッチしてこれに介入するというようなことの糸口になっちゃ困るので、この点を十分戒慎の上で、合理的な範囲で、しかも要件を厳重に明確にしぼりまして、何らかの立法的解決をするのも一法じゃなかろうかというふうに感じて・おります。
  120. 岡沢完治

    ○岡沢委員 けさほども無過失賠償責任制度の立法がないために被害者が苦しんでおるという問題が取り上げられました。同じようなことで、法の不備のために自治省あるいは中央選管が非常にお苦しみになったのではないか。われわれ立法機関としては、いま真田部長の発言にありましたけれども、公共の福祉のために検閲にならない範囲内で、選挙の公正も害されない範囲内で、より大きな法益のために何らかのチェックができる立法措置というものが必要ではないかと思われますが、これについて中村選挙部長みずから苦しまれた立場から、何か御発言ありましたらお答えいただきたいと思います。
  121. 中村啓一

    ○中村説明員 ただいま岡沢先生の御示唆に富んだお話を承りまして、私どももぜひそういう点で何らかの合理的な制度化が可能であればお願いいたしたいと存じますし、事務的にも関係方面と連携をとって研究をいたしたいと存じております。ただ、一番大事なのは選挙のときの言論は一〇〇%自由であるべきだ、そういうたてまえを貫きながらの制度化ということになるわけでございますので、それらの点については、従来の論議の経緯からかなりいろいろとめんどうな面が多いと思います。しかし、この際もう一度従来の論議も振り返りながら、今回の事態を経験をして研究をさせていただきたいというふうに思うわけであります。
  122. 岡沢完治

    ○岡沢委員 今度の統一選挙、参議院選挙を通じまして、もう一つ法の不備のためにかなり問題になったケースがございます。それは大阪府の河内長野の府会議員の選挙で再々選挙が行なわれた。一回、二回ともに立候補者のいずれもが法定得票数に達しなかったというケースであります。三回目もあわや同じようなケースが起こるのではないかと思いましたら、事実上立候補辞退者の方が数人出られたためにその心配はなくなりました。しかし、私はもし同じようなメンバーが三回目も四回目も立候補された場合に、同じように法定得票数に達しないで選挙を無限に繰り返すということも理論的には可能な感じがいたします。こういう点で、たとえば一位、二位の方だけ再度の立候補を認めるというような法律規定がございましたならば、こういう問題は起こらないわけでございまして、こういう点についてやはり法の不備ということを感じたわけでございますが、選挙を所管されました選挙部長としてこの辺についての御見解があれば明らかにしていただきたいと思います。
  123. 中村啓一

    ○中村説明員 仰せのございましたように、河内長野市選出の府会議員選挙をめぐりまして、結局三回選挙をやってようやく法定得票数に達した当選人を得ることができた、これまたいままでの選挙の経験の上では初めての例でございます。かつては長の選挙につきまして二回投票制、いわゆる決選投票制をとったこともございます。しかし、その制度につきましては、第一回投票の際におきます法定得票数の要件を高めておきまして、そしてそれに達しない場合に二回目は上位の二人の人が決選投票をやるという仕組みでございましたけれども、その法制はほとんど適用される事例が少ないということで、法定得票数の要件を第一回目から下げまして決選投票という制度は廃止したという経緯もございました。しかし、今度はあらためて府会議員選挙につきまして問題を生じたわけでございますし、先生の御指摘のように、このままでは何回やっても当選人がきまらない可能性もあり得ることになりますので、この問題については幾つか出ました選挙管理上の問題の一つとして、具体的な制度化について研究させていただきたいと思っております。
  124. 岡沢完治

    ○岡沢委員 今度は法制局真田部長にお聞きしたいのですが、決選投票あるいは一、二位に限って次の選挙の立候補を認めるということは、憲法上あるいは立候補の自由とか法のもとの平等という点からは問題があると思われますか、ないと考えてよろしゅうございますか。
  125. 真田秀夫

    ○真田説明員 いま御指摘の問題については、具体的にいままで考えたことが実は正直に申してないわけでございますが、いまお聞きする限りにおいては特に憲法上立候補を制限したというふうにはならないのじゃなかろうかと思います。第一次の立候補の際に平等に立候補の自由を与えておれば、その後は法定の要件に従ってしぼられることになってもやむを得ないのではなかろうかというふうに思います。
  126. 岡沢完治

    ○岡沢委員 あわせまして、選挙部長と法制局にお尋ねいたしますが、高級公務員の違反の問題が大きくクローズアップされました。具体的な事案をどうという意味ではなしに、こういう違反を防ぐ意味で、高級公務員の一定期間の立候補制限という問題がかっても取り上げられましたし、現在も問題になっておると思います。選挙制度審議会におきましても昭和三十六年十二月二十六日の答申がございます。これにつきましてもやはり憲法違反のおそれありという意見もあるやに聞いておりますが、高級公務員の一定期間の立候補制限、特に参議院全国区の場合、これが憲法上疑義を生ずるかどうか、その辺について選挙制度審議会の昭和三十六年十二月二十六日の答申を見ましても、違反にはならないということを大前提にされての答申だ。しかもこの選挙制度審議会には相当な法律家専門家も入っておられたということを考慮いたしまして、違反にはならない、憲法違反の問題は起こらないと感ずるものでございますが、これは独断でもいけません。内閣法制局の御見解を聞きます。
  127. 真田秀夫

    ○真田説明員 いわゆる高級公務員の立候補制限の問題は、ただいまお示しになりましたように、昭和三十六年に選挙制度審議会の第一次でございましたか、答申の中に盛られております。それを受けまして政府のほうで公職選挙法の一部改正法案を出します際には、その点についてだけはやはり憲法上疑義があるというような議論もあったように聞いております。その点を削除して提案をしているはずでございます。その翌年の三十七年に公職選挙法改正法案が可決されました際に、たしか社会党から高級公務員の立候補制限を盛り込んだ修正案が出されまして、その分は否決になって、そして大体原案どおり成立したという経緯もございます。  それはとにかくといたしまして、いまの公務員の立候補制限が憲法上問題になるとすれば、まず十四条、法のもとの平等、それから特にその趣旨を選挙権、被選挙権について繰り返して規定しております四十四条のただし書き等が問題になると思います。それからまた、学者先生の中には二十二条の問題も生ずるというふうに言っておられる方もございます。その点につきましては私はやや違った感覚を持っておりまして、なるほど立候補を制限されれば、将来議員という職業につけなくなるという意味においては職業選択の自由にもつながる問題でありますけれども、どうも単なる職業選択の自由の問題ではなくて、むしろ立候補、つまり被選挙権、立候補の自由を制限するわけでございますので、立候補の自由は憲法第十五条に由来するのだというような最高裁判所の判例を前提にいたしますと、どうも十五条の問題として浮かび上がってくるのじゃないかというような気がいたします。しかし、とにかく憲法のいま申しましたような条文に照らして問題になるわけでございますが、いずれにいたしましても、絶対的な自由というものではないのだというような一方のまた命題がありますが、公共の福祉に照らして合理的な理由があれば、それは憲法上の基本的人権もその限度に応じて制約されることもやむを得ないというふうな命題がございますので、それとのかね合いで問題を考えなければいけないというふうに思うわけでございます。  そこで、じゃどういう理由で高級公務員の立候補制限をするのかという点に触れてくるわけでございますが、いろいろの御意見があるようでございます。その一つには、いわゆる高級公務員は退職直後の状態においてはそのことによって非常に有利である、社会的評価が論者にいわせれば不当に高まっておって、出発点において一般の候補者よりも有利であるから、そのアンバランスを是正するためにしばらく遠慮してもらわなくちゃいかぬというような考えもあるようでございます。しかし、その点はどうもあまり筋が通っているとも思えませんので、人の社会生活における評価に厚薄、大小の違いがあるのは当然でございまして、選挙というのはもともとそういうことを前提にしてその上に成り立って一般国民の自由なる投票、選挙にゆだねているというふうに言わざるを得ませんので、それだけを理由にして高級公務員の立候補制限を合理化するということはむずかしいだろうと思います。  次にいわれておりますのは、高級公務員の退職直後における立候補を制限しておかないと、どうも高級公務員は在職中に退職後の立候補を予想していろいろ綱紀の紊乱をはかるのではないか、あるいは予算のつけ方においても手心を加えるのではないか、そういうような弊害があるからむしろ退職直後における立候補を制限するのはいいんだ。あるいはまた、高級公務員は退職後わずかの間に立候補をすれば、選挙運動中にもとの役所の機構を使っていろいろ選挙運動をする、あるいはもとの部下がその先輩の立候補者のために地位を利用して選挙運動をする、こういう弊害が出るのではないかということがいわれております。  なるほど、そういう弊害は一部には見られていることも御承知のとおりでございますけれども、しかし、それもひるがえって考えてみますと、そういう選挙法上の取り締まり対象になる行為が行なわれるから、あるいは退職前に公務員としての服務上の紊乱が行なわれるからということが直ちに立候補制限に結びつくかといいますと、これもやや問題じゃなかろうかと思います。そういう弊害があればそういう弊害を除去する。地位利用の選挙取り締まり規定をつくり、公務員法の服務規定を順守させ、厳正に執行するというようなことによって弊害を除去するのが一番筋道が立った方法でございまして、そういう弊害が伴うからむしろいっそのことその立候補自体を制限してしまえというのは、やや論理が飛躍しておるし、憲法上の問題が起こるのではないかという感じがどうにも抜けがたいものだと思います。何といいましても、基本的人権のもと、民主主義社会の基盤である選挙の自由、被選挙権の自由、立候補の自由を制限しようということでございますから、やはりよほど合理的な理由がなければ軽々に憲法上よろしいんだというふうにはまいらないんではなかろうかという感じを受けております。  ただ最後に、こういうことならばという感じが一つするわけなんですが、高級公務員は退職後立候補して選挙運動をする際に非常に違反が多い、これが一般的に蓋然性が非常に高いということが論証され、かつ、それを排除するためには立候補自体を制限しなければほかにもう手がないということもまた立証されて、そういうことが二つながらいえるならばまた話は別じゃなかろうかという感じがいたします。しかし、それが十分納得のいく程度に論証されているとも思えませんので、やはり私、現在の心情といたしましては、憲法上の疑義は免れないというふうに感ずる次第でございます。
  128. 岡沢完治

    ○岡沢委員 時間がないこと、十分わかっております。刑事局長、たいへん長くお待たせしましたが、今度の参議院選挙、地方選挙を通じての選挙違反の特色、特に買収とか供応とか戸別訪問とか事前運動とかそういうことは抜きにして、いままで予想もされなかったような事犯が三、四件全国的に起こっておると思います。鯵ケ沢の二人町長の事件とか、五千円をダイレクトメールで送ったような事件とか、これも一種の買収かもしれませんが、ちょっと想像を絶するような事件、不在者投票を焼き捨てた事件とか、そういう特色を簡単でけっこうですからお願いいたします。
  129. 辻辰三郎

    辻説明員 今回の参議院選挙、特に地方選挙における違反の特色でございますが、ただいま件数的な増減というものは差しおいて、具体的な特殊な事例があったかどうかという点についてしぼって答えろという御趣旨でございますから、その点だけにしぼってお答え申し上げます。  参議院議員通常選挙におきましては、従来予想されなかったというような特殊な具体的事例は現在のところないようでございます。  統一地方選挙におきましては、ただいま御指摘のとおり、一部やや特異な形態の具体的事犯の発生を見たようでございます。これは一つは買収事犯一つの形態でございますけれども、現金五千円を投票依頼の文書と同封いたしまして速達で約七百戸の家に郵送したというような事犯、またあるいは現金二千円を依頼文に同封いたしまして約千五百戸に投げ込みを行なったというようなケースがございます。特にあとのケースにつきましては、都市近郊における団地族といいますか、団地の有権者と候補者の結びつきが非常に薄くなってきておるというようなことを背景にして、かような事犯が起こってきたのではないかというふうに想像される案件でございます。  それから第二のグループといたしましては、やはり今回の統一選挙でございますが、不正投票事犯がわりあいと発生したということでございます。これは住居の住所を移転していないのに移転したかのごとく手続をいたしまして、そうして投票を行なったというケースでございます。  それから第三番目の特異な事例といたしましては、これまた統一地方選挙の事例でございますけれども、選管関係者による投票増減事犯が出たということでございまして、これまたただいま御指摘のように青森県の鯵ケ沢町であるとかあるいは函館における知内町の選管関係者に違反があった、こういうことが具体的な事犯としての特徴的なものであろうと思うわけでございます。
  130. 岡沢完治

    ○岡沢委員 この件につきましては、さらにその背景等につきまして意見もございますし、質問もしたいのですが、時間の関係があって省略さしていただきます。  ただ、あと一、二点申し上げますが、午前中からちょっと問題になりました例の金嬉老事件関係します城所記者の証言拒否の問題でございます。アメリカの場合には、真実を報道するためには法を犯してでもとった行動が勇気ある行動として高く評価され、日本では報道の自由の名のもとに、あるいは取材の自由確保の名のもとに真実を証言することを拒否するという事案が起こっているわけでございまして、なかなか興味ある、日本とアメリカの現在置かれた背景あるいは民主主義に対する理解度等を考えました場合に、問題をわれわれに提起していると思うわけでございますが、もちろん先ほど畑委員が御指摘のように、弁護士や公務員には供述拒否権が与えられております。報道の自由と各種の制限の問題につきましては、最高裁の判例等先ほど御披露がございました。今度の処置につきまして、法制局として報道の自由とその証言拒否あるいは出廷拒否等の問題についてどういう見解を一般論としてお持ちか、簡単でけっこうです、時間がございませんので御披露をお願いしたいと思います。
  131. 真田秀夫

    ○真田説明員 一般論としてお答え申し上げます。  報道の自由は、言うまでもなく民主主義社会においては最も大事なものの一つでございまして、これを憲法に照らせば、憲法二十一条の表現の自由に含まれることであろうかと存じます。そこで、一口に報道の自由と申しましても、実は中身をせんさくしてみますと、報道する中身の自由と申しますか、報道それ自体の自由、それから取材活動の自由、取材源、ニュースソースですね、取材源秘匿の自由、いろいろあろうかと思います。それぞれについて実はほかの公益なり他人の権利と摩擦を起こす場合が非常に多いわけでございます。  第一の報道それ自体の自由につきましては、一番問題になるのは人の名誉の侵害になるかならぬかということでございます。その点については、御承知のとおり刑法二百三十条ノ二で報道の自由とそれから報道の対象とされた人の名誉権との調整の規定がございます。  それから次に、取材活動の自由につきましては、これも御承知かと思いますけれども最高裁判所の判例がございまして、取材活動の自由といえども法廷の秩序維持には従わなければならないというのが出ております。  それから三番目の取材源の秘匿の自由につきましては、これは刑事訴訟法上の強制処分との間でいろいろ問題が起きているわけでございます。最高裁判所昭和二十七年の判決は、報道の自由の一環である取材源の秘匿の自由も絶対的なものではないんだ、刑事裁判における真実の発見という公益のためにはかぶとを脱がなければいけないんだという趣旨の判決だったと思いますけれども、そういう先例があったわけでございます。その後いろいろテレビのニュースフィルムの押収等をめぐりまして幾つかの事件が起きまして、おととしでございますか最高裁判所の決定が出まして、そしてこれは、先ほど刑事局長がお述べになりましたけれども、いろいろ刑事事件の真実発見のために必要とする必要性の有無、それからそれを強制処分の対象にすることによって受けるであろう報道機関の不利益の程度とか態様とか、その他諸般の事情をよく比較考量してきめなさいという基準が示されたわけでございます。  これは現行法上、ただいま岡沢委員の仰せになりましたように、弁護士さんとかお医者さんの場合のような証言拒否権あるいは押収拒否権、差し押え拒否権が正面から認められているというわけではございません。そういう規定がないという現行法の解釈として最高裁判所はああいう基準を示したのだろうと思います。あの基準はしたがって当面日本における刑事司法のあり方と報道の自由との指針になるのだろうと思います。これは実は憲法問題としましては、そういうふうに公共の福祉との間ではいろいろ調整が要るんだということになるわけでございますので、その調整をどの程度に認めるかということは一にかかって立法政策の問題であろうと思います。合理的な理由があれば制限してよろしい、そこをどういう要件で、どういう範囲で制限するかということになるわけでございまして、先ほど刑事局長がお述べになられたところによりますと、当面立法措置として新たに調整のしかたを変えていくという必要を感じておらぬということでございますので、それはそれとしてそういう立法政策であろうかと思います。私のほうでは、憲法上の解釈としてはいま申し上げたとおりでございまして、あとは立法政策の問題としてそれぞれ立案当局において立法政策をお立てになれば、それを他の法律なり憲法のワク内で審査していくという立場をとるだけのことでございます。
  132. 岡沢完治

    ○岡沢委員 これで終わりますけれども、城所記者の場合、いわゆる報道記者じゃなしにカメラマンであったという問題も含めまして、この問題は広く深く、また法の基本にも関連することだと思いますので、立法問題としても検討したい、また御意見を聞かせてもらいたいと思いますが、きょうはこの程度でやめさせていただきます。  最後に、最高裁のほうに、先ほどの訴訟の迅速化と結びつけまして、速記官の不足の問題を取り上げてお聞きしたかったわけであります。特に公害裁判がかかっております各裁判所の速記官不足が間接に訴訟遅延を大きく理由づけておるというような点も含めまして取り上げたかったわけでございますが、時間の関係でやめさせていただきます。速記官の中の約一割程度の方がいわゆる公務災害の申請をしておられるというような事実もあるようでございまして、その辺につきましては今後善処をこの機会にお願いをして、きょうの質問を終わります。
  133. 小島徹三

    小島委員長代理 青柳君。
  134. 青柳盛雄

    ○青柳委員 最高裁判所にお尋ねするのですが、先ほどの御答弁の中で、今後も広報活動は大いにおやりになる方針だということを総長も言われましたし、千葉さんもそういうふうに言っておられるので、そこで私は、広報時代でございますから、裁判所は広報を一切やってはいけないなどということは、これは不公平な話だと思います。しかし、役所が広報活動をやるというのは、その財源はわれわれの税金でまかなわれるのだということですね。民間の広報活動とはそこは違うわけです。やはり国民の利益ということを基本に置いて広報活動をしなければいけないわけでございます。ところが、いま最高裁判所が世の批判の的にされているような行動をとって、大きく国論が分裂していると言ってもいいような状況の渦中にあるわけです。その一方の当事者である自分の主張を支持するような論調や記事や言論を、国民の税金でまかなわれている広報の中にどんどんと盛り込んでくる。これに対しては国民は非常な反発を感ずると思うのです。たまたま裁判所のやったことを支持している人たちは快哉を叫ぶかもしれません。ざまあ見ろという気になるでしょうが、しかし、これに対して批判的な人々から見ると、自分たちの税金をこれに使われているんだ、しかも公平であるべき裁判所が、自分のやったことを合理化しようとするような、それを支持するような主張や論調に対しては大いにこれを活用する、これは少し行き過ぎじゃないか、当事者の一方であるにもかかわらず、税金だけは国民から公平に取り上げて、自分たちの都合のいいほうに使うんだと、これはまっ先に問題にされる一点だと思います。  それから第二点は、その記事がまじめな議論であればよろしいのですけれども、きわめて無責任な、民間の世論というに値しないようなデマ記事ですね。そういうようなものをそのまま転載するというようなところに、またこれが問題になるわけです。ある雑誌社などが出している記事、これに対して、名誉を棄損され信用を棄損されたと思う者は、当然刑事告訴もできるわけでございますけれども、ああいう雑誌などを相手にするのはおとなげないというふうに考える人もありまして、また、はたしてこれが検察庁で十分に取り上げてくれるものかどうかもわからないというような点も考えたりして、無視する場合もあり得ると思うのですが、これを今度公的な機関の広報紙に転載されるということになると、一種の権威がついてまいりますし、またその及ぼすところの影響も大きいわけです。評価が違ってくるわけです。もうりょう雑誌の記事だと思えば軽く割り引いてよろしいんだけれども、それが裁判所の広報に載るということになれば、これは裁判所で十分その真相を確かめて、引用するに値する、これを転載するに値するという評価を加えているんだろう、お役所のやっていることだから幾らかやはり価値があるんだろうというふうに、人情としても思うと思うのです。これは部内の人たちだけに配る広報紙であっても、また、一般の民間にまでこれが配られる場合ならなおさらですけれども、当然そういうことになると思うのです。事実に反するような記事がその中にあった場合には、これはもう共犯関係、同罪になることは、先ほど畑委員からも言われたとおりでありまして、明らかに責任はそれを載せた広報関係の人たちにあるわけですね。  だから、今度の「裁判所時報」は、そういう点で非常に大きな問題をはらんでいると思います。これは、出し方が悪かったといいますか、「裁判所時報」を利用したことがまずかったかもしれないから検討するけれども、広報のやり方については別に何ら反省すべきものがないんだというようなことであったとするならば、これは非常にゆゆしき問題を残していくと思うのです。この点で裁判所のほうは何らかの反省があるのかないのか、お尋ねをしたいと思います。
  135. 長井澄

    ○長井最高裁判所長官代理者 ただいま御指摘の第一点、国民の税金と申しますか、予算の執行につきましてはもちろん適法に支出することが必要であるばかりでなく、民主主義社会のルールにのっとれば、国民の意思に反した使用のしかたをしてならないことは当然でございます。その観点から広報関係予算の執行につきましても十分配慮をいたすべきであると考えております。  なお、掲載の記事の内容につきまして、法律上、公法あるいは私法上の責任を負わなければならないということも当然でございまして、この点についても従来とも十分配慮してまいったつもりでございますけれども、今後十分に検討を加えまして、あやまちをおかすことのないように戒心するつもりでおります。  ただ、いろいろな報道と申しますものは、真相を見きわめることがなかなか困難でありますために、場合によっては不慮のあやまちをおかしあるいはそのために法律上の責任を負わなければならないというような事態も万一の場合にはあるかもしれませんが、あとう限り慎重な配慮をして広報活動をするということは御指摘を待つまでもないことと存じております。
  136. 青柳盛雄

    ○青柳委員 繰り返しになりますから簡単にいたしますが、これが国会の法務委員会で問題になって、たまたま与党側の委員さんからは何も御発言がございませんので、これは野党側がいやがらせの議論をしているんだというふうに軽くおとりにならないことがいいと思いますね。何か少数意見であるとか、これはたいした議論ではない、いままでどおりやってよろしいんだというふうに甘くごらんにならないほうがいいと思います。  それから、現にこの記事の中には、弁護士会を非常にやゆし、侮辱したようなものがあります。そういうことも含めて弁護士会の各方面でも論議を巻き起こしておるわけであります。先ほども申しましたように、大阪弁護士会から抗議の談話が出ておりますし、また東京弁護士会あるいは日弁連でもしかるべき意思表示をすると言っておるわけであります。これは決して少数意見であって無視してもかまわないのだというようなものではないと私は思います。  とかく宣伝の世の中になりますと、エスカレートしてまいりまして冷静さを失うというようなことがありがちだと思うのです。自分のほうが孤立していると思えばわらをもつかむ気持ちになって、実に有害なものまで飲んでしまうというような自殺にひとしいようなことをやりかねないと思うのです。裁判所がそういうことでますますPRもエスカレートしていくとするならば、しかもその金が国民の血税によってまかなわれるとするならば、これは許すことができないというふうに考えます。十分これからも注意してもらいたいと思います。終わります。
  137. 小島徹三

    小島委員長代理 本日は、これにて散会いたします。    午後一時五十三分散会