運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1971-08-10 第66回国会 衆議院 外務委員会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十六年八月十日(火曜日)     午前十時三十分開議  出席委員    委員長 櫻内 義雄君    理事 青木 正久君 理事 正示啓次郎君    理事 永田 亮一君 理事 山田 久就君    理事 松本 七郎君 理事 曽祢  益君       池田正之輔君    石井  一君       北澤 直吉君    鯨岡 兵輔君       小坂徳三郎君    竹内 黎一君       西銘 順治君    野田 武夫君       勝間田清一君    河野  密君       戸叶 里子君    西中  清君       松本 善明君  委員外出席者         参  考  人         (東京大学教         授)      高野 雄一君         参  考  人         (霞山会理事) 田尻 愛義君         参  考  人         (東京大学教授衛藤 瀋吉君         参  考  人         (東京都立大学         助教授)    岡部 達味君         参  考  人         (上智大学教授)蝋山 道雄君         参  考  人         (日本中国友好         協会理事長)  和田 一夫君     ————————————— 委員の異動 八月十日  辞任         補欠選任   大平 正芳君     上林山榮吉君     ————————————— 七月二十四日  一、国際情勢に関する件 の閉会中審査を本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  国際情勢に関する件(当面の日中問題)      ————◇—————
  2. 櫻内義雄

    櫻内委員長 これより会議を開きます。  国際情勢に関する件について調査を進めます。  本日は、特に当面の日中問題について、お手元に配付してありますとおり、午前三名、午後三名の参考人からそれぞれ御意見を聴取することとなっております。ただいま御出席参考人は、高野雄一君、田尻愛義君、衛藤瀋吉君の三名の方々でございます。  この際、参考人各位に一言ごあいさつ申し上げます。  本日は御多用中にもかかわらず御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。当面の日中問題につきまして忌憚のない御意見の御開陳をお願い申し上げる次第でございます。  なお、議事の進め方につきましては、高野雄一君、田尻愛義君、衛藤瀋吉君の順でお一人二十分程度御意見の御開陳を願い、その後委員から質疑が行なわれることになっておりますので、お答えを願いたいと存じます。  それでは、まず高野参考人からお願いいたします。
  3. 高野雄一

    高野参考人 ただいま御紹介いただきました高野でございます。  私は、法律、国際法のほうを専門としておりますので、この問題について法的な面から原則として申し上げます。  もちろんこの問題は、ただいま非常に政治的な問題とからんでおりまして、また日本の置かれた地位ということから、いろいろ過去のいきさつとか、それからまた日本のとっている政策と申しますか、ということから、だいぶその問題とからんでおりまして、また議論にも若干混迷が出ているように思います。もちろん両者、法と政治は違った点がありますが、また無関係ではないという点で、私もこの問題についていろいろ考え、かつ心配する者の一人として、主として法の観点から申し上げたいと思います。  事務局からお電話を伺いましたときのあれに従いまして、国連における中国代表権の問題、それから日華平和条約の問題、二つに分けて申し上げたいと思います。  なお、私話すのがあまり得意でありませんのでちょっとメモを書きました。メモによって読むようにして申し上げたいと思います。その点、文章体になってきますことをお許しいただきたいと思います。国連における中国代表権、それから日華平和条約の問題、この第一問、第二問をそれぞれ一点、二点、三点に分け、そのそれぞれについてa、bと若干のコメントをするという形で進めます。  まず第一の国連における中国代表権。  第一点、中国政府をどうとらえるかということが基本である。それは国際法の上からどう判断されるかが基本になる。  中国政府は、一九四九年の革命において、中国領土国民について実効的な支配を確立した中共政府と判断される。  コメントa。一国内革命が起こって、政府対立分裂が生じ、その国の正統政府が争われる場合、その判断の基準となる国際法の規則には次のごときものがある。  革命が進行しても、前政府内戦においてなお戦い、回復の可能性が現に存在するときは、前政府は、従来から同政府を認めている国との関係において、なお正統政府としての地位を失わない。  革命が進行して、新政府がその国の領土国民の実効的な支配を一般的に確立し、内戦の大勢が決着したときは、新政府にその国の正統政府としての地位が認められる。中国の場合は、これに該当する。この地位第三国による明示または黙示の政府承認によって認められる。  コメントb中国戦争までの領土国民に対しては、一九四九年までに新政府の実効的な支配が確立した。金門馬祖の二小島が残っているが、微細で問題外である。台湾がいつ中国領土に復帰したか、また現に復帰しているかについては、国家間に、また学説上諸種の論があるが、これを中国領土とした場合にも、台湾領土としても国民としても二%に満たず、新政府中国において実効的な支配権を一般に確立したとの認識は法的に妨げられない。  中国の見地を離れてとらえれば、台湾世界で優に一国の規模を持つととらえられることは、中国正統政府がいずれかを判断する際の問題にはならない。さらに台湾に新政府支配権が及んでいないことについては、アメリカと、それを軍事的に助ける日本が実力的にそれを阻止している事実が問題になる。  コメントのc、したがって、二つ中国とか二つ政府とかあるいは分裂国家というのも、法的には不正確である。ドイツや朝鮮にはそれを考える余地があっても、中国の場合はそれと同一でない。承継国家論とか国連における二重代表制のごときは、中国みずからがそれを望み、納得する場合以外、考えられない。  第二点。国連の原加盟国である中国について、国連における同国の代表権中共政府に認めるのが法的には正しい。それには安保理事会常任理事国代表地位も当然に含まれる。  a、これはあくまでも中国代表権の問題である。国家国連への新規加盟と既存の加盟国代表権の所在の問題は、当初はしばしば混同された。最近はほとんどそれがなくなっていた。最近またその点の混迷が少し出てきている。法理的、政略的な考え方混迷である。  第一に、中華民国という加盟国除名して、中華人民共和国という国を新たに加入させる問題ではない。中華人民共和国中国正統政府と認めるという表現も法的には不正確である。  第二、中国という国、それはときに明なんとかあるいは清なんとか、中華民国、そしてまたは中華人民共和国という名称を持つ。国際法的にはいずれもそこに同じ中国がある。憲章中華民国という語があるのは、何ら決定的な意味を法的に持たない。すべての国についてこのことは同じである。  国連創設者一員として国府の名をあげて弁明することがある。国際法的には不正確である。国連創設者一員であるのは国際法的には中国である。国府はそのとき中国代表する政府として創設関係したにとどまる。国府国連における代表権を法的に決定的にするものではない。  第三点。中国代表者としての国連における国府地位は、安保理事会常任理事国代表地位を含めて、法的には自動的に消滅する。  中国唯一正統政府であることを主張し、国連中国代表してきた国府台湾支配しているという事実は、国際法上いかなる意味を持ち、いかなる影響を受けるかという問題は別にある。  a、国府追放とか除名とかいうことは法的には意味を持たない。法的に特別の措置の対象となることもない。事実的な表現である。追放決議は法的に無用の決議である。  b、国府議席維持ということは、直接法的には問題にならない。維持さるべきもう一つ加盟国が現在の中国以外に存在しないからである。全くの政治的措置である。逆重要事項指定決議は、根本の実態からずれた技術的な策略である。  c、国府議席維持という政治的措置がどういう法的形態と結びつき得るかといえば、それは中国とは別の、もう一つの国、たとえば台湾という国を代表するものとしてその国の加入を認めるという形においてである。  d、より政治的に考えるなら、国連において特に関係国話し合いにより加入手続をとらずに、文字どおり台湾国府議席維持することも考えられなくはないだろう。もちろん前者の場合もこの場合も関係国として中共政府中国が納得することが第一である。  e、台湾中国の一自治省として、いわゆるウクライナ方式によって国連地位を認める場合も全く同じである。ウクライナのソ連におけるごとく、中国自発的意思、その納得なしにこの方式考えられるものではない。前の場合とともにこれらの政治的措置がまさに政治的であるゆえんである。  f、台湾措置中国を含む連合国協定日本の受諾により、カイロ、ポツダム両宣言、降伏文書を通じて中国返還がきまっている。サンフランシスコ平和条約日華平和条約が、それを単に「放棄」にとどめたのは、北方領土の「放棄」とは異なり、中国代表する政府について意見対立があったからである。中共中国政府として認め、国連にその代表権を認めることになれば、その問題は解消し、中共代表する中国への台湾の帰属は法的に確定し、中国国内事項となる。したがって、第一に法的にこの台湾に対するいかなる政治的措置中国を抜きにしては考えられない。第二に、政治的にも中国を差しおいて第三国がそれを私議し強行するのは極東政治的な分裂の禍根をつくり出し、第三次大戦を準備する以外のものではない。  今度は第二問の日華平和条約。  第一点。日華平和条約は、中国の新政権承認国交を結ぶ場合に、中国との間に有効な条約として当然に前提することはできない。  a、この条約は、新政権中国領土国民について実効的な支配を確立して成立した後に、台湾にのがれてなお中国政府と主張する国府相手に結ばれたものである。つまり、中国一般的政府とではなく、地方的残存政権と、中国の前政府とではなく対立政権との間に結ばれたものである。革命政府樹立前に、国府相手に結ばれた条約であれば、それを中国との間に有効な条約であるという前提のもとに新政権国交に入ることになる。これは政府承認の効果に関する国際法上の原則である。革命成立後、残存地方政権との間に結ばれる条約については、この原則は一般的には通用しない。  b、残存政権相手として相手国(この場合、中国)と交渉を持つ場合には、政治的に重要な条約は結ぶべきでないというのが学説である。これは革命政権承認し、それと国交を持つ可能性があることを考慮すれば当然のことで、国際法に即した考え方である。  c、残存政権唯一正統政府として相手国国交を持ち、条約を結び得るのは、革命が流動的に進行中で、残存政権全国支配を回復する現実的な見込みを持っている間であり、それを条件とする。この場合に結んだ条約は、政治的に重要なものを含めて、残存的な政権全国的支配を回復すれば名実ともに完全な効力を持つが、革命政権一般的支配が確立してこれを承認し、これと国交を結ぶ事態になる場合には、その条約は存立の基礎を失う。  d、革命政権一般的支配が確立し、残存政権にはそれを回復する見込みが現実的にないと判断される状況では、残存政権相手国唯一正統政府として相手国条約を結ぶことはできない。前のcの場合を含めて、地方的実務的な協定の締結とその効力については、国際法上別に考えることができる。  第二点。日華平和条約は特殊な状況のもとで結ばれた特殊の性格を持つ条約である。この条約を結ぶ機縁となった吉田書簡にあるように、日本は「究極において、日本の隣邦である中国との間に全面的な政治的平和及び通商関係を樹立することを希望するものであります。」と明確に断わりつつ、他方でこの条約を結び、かつこの条約は、国府の「支配下に現にあり又は今後入るべきすべての領域」に適用があるとの制限をみずから努力して加えた。  コメントa。このようなこの条約原点に照らしてみると、この条約には、国府台湾地方的残存政権になったことを認識しつつ、これとの間を、修好協定ともいうべき地方的実務的な性格のもので当面処理したいという意向がうかがえる。そのようなことをきわめて困難にする当時の状況のもとで、かつそれに反対するアメリカ国府を前に、そのような少しでも国際法に即した行き方をしようとした痕跡がにじみ出ている。適用地域制限条約の条文によって区別をつけることはしていない。中国との戦争状態の終結(第一条)は、中国一体として処分的にその効力を完成したというような解釈の保障は存在しない。そのような解釈は、さきに読んだ吉田書簡の冒頭の文言とも矛盾すると考える。いわんや、新政権相手中国交渉を持つ段階において、中国との戦争処分済みですということを法的に確定的なことといえるものではない。  b、このように、この条約には微妙な特殊性がある。当初しばらくは、その特殊性が控え目ながら公に口にされていた。しかしその後は逆に、この条約に、中国正統政府との間に結ばれた講和条約であるとして、硬直した解釈が施されるようになった。それによって日本国民国家をより大きな袋小路の困難に導いてきたように思う。  第三点。中国の新政府交渉を持ち国交を開く場合には、戦争あと始末の問題を含めて国交一般にわたる基本的なことを取り上げ、決着をつける用意が必要である。それは日華平和条約にかわる条約である。日華平和条約を結んだこと自体、またそれにはやむを得ない事情もあったが、その後その原点からずれて硬直した解釈と運用をそれに与えてきた事態、それらはまさしく新政府に対しては非友好的、敵対的な意味を持っていた。  a、この際、日華平和条約は当然の前提にはならない。日華平和条約と同じ内容が日中間条約に入ってくる場合があるとしたら、それは新政府との新しい合意に基づき、かつその限度においてである。  b、台湾との関係は、日中の新関係に関連し依存する。一、中国の一省、全くの国内問題として、日本との独自の関係が一切なくなる場合、二、制限的な関係が残されて続く場合、三、中国別個の新しい国として関係が成立する場合まで理論的には考えられる。新政府の主張からさしあたり考えられるのは一だけである。二と三の場合は特に新政府との話し合い合意が必要で、それなしに強行しようとすれば、新政府国交を開こうとする目的が挫折し、かつ新政府との間が現在以上に悪化し、取り返しがつかなくなることが考えられる。中でも三の場合である。特にこの三の場合は、台湾政権アメリカが軍事的にささえ、日本日米安保条約極東条項佐藤ニクソン共同声明、特に四項でそれを支援していることが問題である。それは新政権との国交樹立をむずかしくするだけでなく、台湾一つ国家として認める法的要件の欠如を意味する。  これで一応終わりますが、最後に、比較的最近ニクソン訪中声明が出ました。これは、この問題にいろいろ無理やゆがみが出てきていることからいえば、いつかはこういう問題がくるであろうということは、これは当然のことと私どもは考えております。それが日本のイニシアチブあるいは日本として何かそういう方向がとれなかったのは残念だという気がいたします。あるいはまた、私のごく専門を少しはみ出す希望的なあれとすれば、あるいはこういう声明は、日本がもうそういうふうに努力してこういう声明が出たのではないか。佐藤政府もあるいはまたワシントンの大使も、少し根本事態から考えるとどうも妙なことを言われるようだけれども、そういうことは百も承知で、そしてこういう事態ニクソン訪中声明というような事態を準備されてきたのではないか。あるいはまた、専門外ですが、いまとにかくそういう希望的な観測も一部持つ、そういう気持ちもあります。  また、秋の国連総会というものにずいぶんまたむずかしい問題、無理な事態もあるやに見えますけれども、何か、これも私の一つの希望的なあれでありますけれども、国連決着事態を迎える前に、たとえばニクソン北京話し合いに行ってほしい、まあ行ったほうがいい。日本もできればそれに行って正面から北京政府ととにかく話をしてみたい、そういうのがあっていいんじゃないか。あるいはまたニクソン訪中声明とかそういう事態を踏まえて、国連における最終的な処置の段階を迎えたい。事態はその逆になっておりますが、これは日本アメリカも非常にずるずるとこの問題をおくらしてきている結果、問題の事態に直面することをずるずるとおくらしてきた結果、国連における最終的な事態がどうやら北京と話をするよりも先に来てしまう段階にある。そこに今度の国連総会に関する相当無理なことも含むあせりの状態があるのではないか、これはそういうような気がいたします。  これを最後に一言加えまして私の意見を終わります。(拍手)
  4. 櫻内義雄

    櫻内委員長 次に、田尻参考人にお願いいたします。
  5. 田尻愛義

    田尻参考人 田尻でございます。  私は、終戦まで外務省におりましたが、それ以来一切関係がない。こういう問題についてはしろうとでありますが、どうして呼び出されたのかと考えてみますと、この三月くらいから、あるいは皆さんの中の少数のお方にはお手元へ差し上げていると思うのですが、中華人民共和国承認国民政府との間の平和条約廃棄、「承認廃棄」という題で私の意見をまとめた二〇ページぐらいの印刷物があります。それに似たようなことを「経済時代」という雑誌にも書きました。それから「国連中国」という題で日本国連外交を「外交時報」の五月号かに書いたことがありまして、そんなことがどなたかの目にとまって、出てこいということになったのじゃないかと思います。いま高野先生からお話しのありました国連の問題、承認の問題につきましては先生から国際法立場で詳しくお話がありまして、先生とはこの前一度お伺いしてお話を伺ったこともあるので、国際法の問題としましては、私はたいへんそういうことを言うと失礼にあたりますけれども、同じ意見を持っておるものであります。次に衛藤先生がおそらく国際政治立場からお話しになると思う。その中に含まれての私の意見でありますが、先ほどから申しましたように昔は中国には関係しましたが、今日ではしろうとであります。別に研究をしているわけでもありませんから、ふだん考えておる私の意見を述べさせていただきたいと思います。  国連のことが先に問題になりますが、私は日本中国関係国連外交は、もともと責任のがれで始めたことじゃないかというふうに考えております。一九五二年国民政府との間に平和条約ができまして以来、それだけでは不満足だ、日中関係正常化しなければいかぬということは、中華人民共和国政府相手にして正式に承認をする、そして全国的な終戦処理をする、新しい日華間の基本条約を結ぶ、そうして国交を開く、大使を交換するということだと私は思うのであります。国民政府相手ではだめだから、そういうふうな中国政府——私は中華人民共和国政府と言うかわり中国政府と申し上げますが、中国政府相手日中関係正常化しなければいかぬという考えがだんだん強くなってきました。ところが国民政府との間の平和条約関係からそうはいかない。反対論がある。そこで中国政府世界的に人気を得た上、変なことばでありますが、世界各国から、国連諸国から歓迎される時期が来た上で承認問題、正常化の問題は考えたらいいじゃないかというような気持ち政府をはじめ日本全般的に広がってきた。正常化の問題は日中二国間で処理すべき問題でありますが、それをしないでおいて国連意見がきまった上で処理することにしたい、まあ結果的に見ればそういうふうに日中問題が取り扱われてきた。もちろんその裏には日本アメリカとの関係がありますが、それは別にしまして、結果的に形式から見ますと、二国間の関係を自分で自主的に処理する責任を避けて、国際連合意見に従ってこれを処理する他人まかせの態度、それが私は日本国連外交であったように思います。そしてもしそこに何か自主的なものがあったとすれば、国連意見中国政府代表権を認める、つまり歓迎するというほうに固まることを延ばしていくということがあったと思うのでありまして、いわゆる重要事項代表権の問題に適用するというのは、国連の問題として中国問題を取り扱うのではなくて、国連を利用して中国承認を延ばすという考えから出た。そこに自主性があったといえば自主性があったともいえますが、しかしそれも御承知のようにもう限界が来まして、そういうことを詳しく申し上げる必要はないのでありますが、今秋の国連総会にはどうするかと見ますのに、おそらく日本アルバニア決議案承認せざるを得ない、賛成せざるを得ないだろうと私は思っておりました。またそういうような報道もありましたが、最近伝えられる政府の方針によりますと、国民政府国連から追放することは反対だ、中国政府を招請することは賛成だということでありまして、決議案としましては、どこまでの真実性があるか知りませんが、いわゆる逆重要事項方式を持ち出す、つまり国民政府追放には三分の二の賛成票が必要だという決議案であります。第二の決議案としましては、中国政府国民政府の双方の代表を認める。この二つ決議案を出すことにきまりつつあるようでありますが、しかし先ほどお話がありましたように、国民政府追放出席拒否と、中華民国国連からの脱退、除名とは別個の問題でありまして、もちろん追放の問題に除名に必要な形式をとるということを国連決議しますれば、それはまた別でありますが、元来は別な問題を混淆しておるのではないかと私は考えます。  また第二としまして、中国政府代表権承認中国を招請するということには過半数でよろしい、国民政府追放には三分の二ということになりますと、実際問題としまして二つ政府代表権を認める可能性が強いわけでありますが、一体一つ加盟国であるのにかかわらず二つ代表権を認めることは、国連憲章に反するんじゃないか、憲章違反じゃないかということを私は考えます。  それから、いまの決議案目的が通りまして、中国政府出席する、国民政府出席するということになりますとどういうことになるか。中国政府出席するということは、中華人民共和国という名前の独立中国、それが国連加盟国であります。その国連加盟国代表者が出ておるのに、もう一つ代表者が出るということになりますと、それは同じ政府代表することにはいきませんから、どうしても別な国を代表したことになる。そうすると独立中国代表したものは、中国政府がもう出ておる。国民政府代表するものはそれとは別な独立国でなければならぬことになると思うのでありますが、その独立国を認めてはいないのであります。台湾にあります国民政府を新しい独立国として認める手続というものは済んでいない。賛成を得ていない。それにかかわらず国民政府国連代表を送る。ここにも、国連に反した一つの現象が起こると思うのでありまして、私は、日本政府としてこれはもう一度よく考えていただきたい。お互いが真剣に考えるべき問題でありまして、結論としましてはやっぱりアルバニア決議案を認める。賛成するのが恥ずかしいというか、ためらいがあるとかいうならば、棄権をする。これなら私は今後の日本政府のとるべき中国問題についての国連外交の方針であろうと思います。それであるにかかわらず、先ほどから申しましたように、日本がどうして中国政府相手にした日中関係正常化をはからないかということを考えてみますには、いろいろなことがありましょうけれども、要は国民政府と結んだ平和条約、私は日台条約と言っているんですが、日台条約国民政府独立中国代表政府として認めて結んだ基本条約であるから、そのたてまえからいって、中国を新しく承認することは国際法違反になる。国内法、憲法違反にもなる、廃棄してそういうことをすれば憲法違反にもなるというような考えからのようであります。私は、日台条約国民政府との平和条約は、決して国民政府中国唯一の合法政府として認めて、それを相手に結んだ条約ではない。第二に、その条約自身は、国民政府支配下にある地域にしか適用がない。それしか有効性を持たないということは、これは日中間基本条約じゃない。全面条約じゃない。もっと進んで言えば、日中間終戦処理はできていないということになると思うのであります。日本が日台条約を結ぶにあたりましては、先ほど高野先生からお話がありましたように、決してこれを中央政府中国代表政府として認めていないということが、先ほどお話がありました吉田茂発ダレスあての書簡にはっきりしておると解釈すべきであります。そしてそれが日本だけの考えじゃなかったということは、皆さまもお読みになったと思いますが、七月の初旬の朝日新聞に——たしか「日本アメリカ」という題の続きものがもう二、三カ月出ております。その中に、ダレスが吉田さんに会いまして国民政府相手平和条約を結べということを懇談しました際に、国民政府の資格はエイ・ガバメント・オブ・チャイナ、二つの、二つ以上の、複数の政府中国にはある。その中のエイ・ガバメント、一つ政府として結んでよろしい。ザ・ガバメント・オブ・チャイナ、中国唯一の合法政府として結ばなくていいんだ。そういうことになればイギリスもあまり反対しないだろう。ということは、御承知のように英米の間でサンフランシスコ条約が発効したあとで、日本中国のどっちの政府を選んで相手にして平和条約を結ぶかということは日本の自由だということになっておったのであります。それをダレスが来て、国民政府相手にしろ、こう言ったのであります。そのときにダレスがエイ・ガバメント・オブ・チャイナでいいのだ、中央政府でなくて地方政府——まあ通俗的にはそう言っていいと思います、そういうふうなことを言っておるのでありまして、アメリカは朝鮮戦争が始まりましたときから第七艦隊を台湾海峡へ出して中国台湾との交通を遮断しました。アメリカは一九二八年以来国民政府中国唯一政府として承認し、取り扱ってきたのでありますが、朝鮮戦争が始まると、その中央政府唯一の合法政府であるべき国民政府を押えて中国大陸との交通を遮断したのであります。次に来たるものはダレスの吉田さんに対するいま言ったような意見の開示だ。アメリカ自身がそういうことをやった。続いてアメリカ国民政府との間に共同防衛条約を結びました。五四年だと思いますが、それは国民政府に対する大陸からの攻撃を防衛する条約でありました。実際においては国民政府台湾だけの政府として取り扱ったといえると思います。続いて五五年には例の米中大使会談が始まりました。続いて最近の問題になっております事例として、ニクソン中国政府相手にしていろいろな関係を進めよう。そういうことを考え合わせてみますと、国際法的には二十八年以来アメリカは、国民政府中国唯一の合法政府として取り扱ってきたのでありますが、実際には終戦後そういう態度に変わってきている。国民政府を地方政府として取り扱ってきたのは決して日本だけではない有力な証拠がここにあるのであります。朝日新聞がどうしてそういうすっぱ抜き記事を手に入れたか私は知りません。それは間違いじゃないかと思ったから私は外務省へ電話をかけて聞きましたら、否定はしませんというから、そういう事実があると解釈します。もしお疑いがあるなら外務委員会政府相手にして一切の資料を求められるべきだと思う。私はこの問題だけじゃなくて、日中問題については国民政府との間の平和条約が問題になっているのですから、一体どういう気持ちで結んだのだ、どういう交渉があったのだ、政府はどういう解釈をしているのだという意見をお求めになるべきだと思います。まだ生きた外交問題ですから政府が応じるか応じないかは別ですが、しかし少なくとも私をお疑いになるならそれぞれに手続をおとりになる道が開けておるということを申し上げたいのであります。  第二の問題としまして、日台条約基本条約でないということが、先ほど高野先生からもお話がありましたように、その適用区域が限られておる。現に支配しておる地域であります。将来入るかもしれない地域にしか適用がない。現に支配しておるというのは、国民政府が、大陸は中国領土だと言っているから領土という意味じゃなくて、中国領土に違いないが、その中の支配しておる地域だけをさしたものだ、限定したのであります。将来入ってくるであろうということは、入ってくるかもしれないということは、将来入ってくるものと期待している、希望している、予想している。中国大陸全般に適用があるという意味でももちろんないのであります。現実に国民政府支配している地域、将来はあるいはそのほかのものが入ってくるかもしれないが、原則的には台湾だけに限られた条約であります。私はそういう点からいって基本条約ではないと申し上げたいのであります。ないとすれば、基本条約日本中国政府相手にして結ぶのは自由であります。何の制約も受けないのであります。政策的にいいか悪いかは別です。少なくとも国際法的には中国政府を認めることは自由であります。拘束を受けないのであります。いや、それはよろしい、しかし国民政府との歴史があるんだ、歴史を無視してもらっては困るんだ、評価してもらわなければ困るんだというのが何か佐藤総理の考えらしいのです。どういう意味かわかりませんが、日台条約中国政府が継承すべきだという意味だとすれば、私がまたあらためて申し上げるまでもない。中国政府にはそんな義務はない、日本はまたそういうことを要求すべき立場でもないのであります。そういうことで私は日本は日台条約を理由にして中国との正常関係を渋る必要はない、渋るべき材料は何もないということを申し上げたいのであります。  時間が過ぎたようであります。台湾の問題とか、なぜ中国との正常化をすべきだと考えておるのかというような点については、何か質問がありましたらお答えすることにさせていただきたいと思います。  ありがとうございました。(拍手)
  6. 櫻内義雄

    櫻内委員長 次に、衛藤参考人にお願いいたします。
  7. 衛藤瀋吉

    衛藤参考人 私は、当面の日中問題に関する私自身の解釈をあと回しにいたしまして、北京政府日本に対して過去においてどのような政策をとってきたかということを簡単に御紹介したいと存じます。  北京政府がその長期目標とするところは、毛沢東の人民民主専政論という論文の冒頭にございますとおり、この世の中に大同の世界をつくり出すことであります。大同の世界ということばには、英訳本の毛沢東全集の中に注がついておりまして、共産主義の世界というふうに解釈をしてございます。しかしこれは長期目標でございまして、国家が現実に国際社会の中で生きていきます場合に、この長期目標が正面に出てくる場合と出てこない場合とございます。われわれは、一般論といたしまして、国家が非常に変革の時期に臨んだときには長期目標をスローガンとしてうたうようになる。国家が現状維持を主張するようになったときには、現状維持国家になったときには長期目標は休火山になってしまう。そういうふうな一般的傾向を持つと理解しております。中華人民共和国の場合にも、たとえば文化大革命のように国家が一種の危機的状況になりましたときには、世界革命、毛沢東思想のもとにおける世界革命というようなことばがしばしばラジオ北京や人民日報を色どったのでございますが、その後、九全大会を経まして外交関係を諸国と再開いたし、急速に一種の、私たちのことばで申しますと、バック・ツー・ノーマルシー、正常状態への回帰が行なわれますと、この世界革命という長期目標は急速に影を薄めてまいったわけでございます。したがって、今日におきましては北京政府を普通の国家、普通の政府として扱い得る、そういうふうにわれわれは解釈しております。  ところで、それは長期目標でございますが、中華人民共和国には中期目標がございます。私たちがいまここで中期目標と申しますのは十五年ないし三十年ぐらいの幅で考えている目標でございます。これは申すまでもなく中華人民共和国を国際社会においていかに高い地位に置くかということでございます。われわれ流のことばで申しますならば富国強兵ということでございます。  以上のような長期、中期目標の観点から、さて日本をどう扱うかというのが日本に対する短期目標、私がいまから御説明しようとするところの対日政策ともいうべきものでございます。  中華人民共和国が成立以来、一九五三年の春から夏にかけましての時期まで、おおむね中華人民共和国日本革命を期待しておりました。時間の関係上詳しくは資料等の提示はいたしません。五十三年の春、スターリンが死にまして、六月に朝鮮の休戦が行なわれました。そのころから日本に対してしきりに和解のシグナルを送り出しております。たとえば戦犯の一方的釈放、送還、それから帰還事務の再開、御記憶のようにこの時期に大陸に残存している邦人の帰還事務が急速に進みまして、帰還船がしばしば大陸と日本との間を往復するようになります。そして一九五四年の十月のいわゆる中ソ共同宣言といわれるものに至るのでございます。一般には中ソ共同宣言をもって中ソ両国が日本に対して国交正常化の訴えをなしたというふうにいわれておりますが、中国の資料を精密に点検いたしますと、それよりはるかに先に、スターリンの死後間もなくから日本に対して和解のシグナルを送り出していることがわかるのでございます。  御注意いただきたいことは、まだ吉田政権の時期だったということでございます。吉田政権が倒れましたのが一九五四年の十二月でございますので、それ以前に相手が、あれほど北京政府がののしりました吉田茂氏であったにもかかわらず、その吉田茂氏の主宰する日本政府に対して和解のシグナルを送り出したということでございます。そしてそれから急速に日中国正常化への動きが高まってまいります。そのころの北京政府日本についてのスローガンは、独立、民主、平和の日本でございまして、そうような日本を自分たちは期待しているということでございました。たまたまその時期がバンドン時期と称しております北京政府が平和共存の政策に踏み切ったはなやかな平和共存政策を展開した時期に当たりましたために、日本中国大陸との間には民間の交渉も非常に進展いたしますし、それからジュネーブにおきまして帰還事務についての政府交渉が開かれたわけでございます。そしてその政府交渉を通じまして北京政府は日中国正常化の申し出をしているのでございます。  その後一九五七年、当時の岸総理が台湾を訪問されました前後から先方のことばが非常にきびしくなってまいりまして、そして五八年五月の貿易中断に至るわけでございますが、ここで御注意いただきたいことは、その同じ時期に北京政府は国の内外の政策を過激化したことでございます。  一九五七年の十一月に中ソの間に、アメリカとの平和共存をめぐり、核戦争をめぐっての秘密の論争が始まりまして、それから翌年の春、人民公社運動に踏み切りまして、五八年、御承知のとおりいわゆる大躍進の時期と称せられるたいへん急進政策をとった時期が展開されるわけでございます。  そこでわれわれは、一体岸元総理が反北京的政策をとったから北京が硬化したのか、それともそれと関係なしに、北京の政策が急進化したから対日態度が硬化したのであり、五八年の三月の長崎国旗事件は何とかして日中の和解の動きを遮断したいと思っていた北京政府にうまい口実を見つけさしたのであるのかという疑問が残るわけでございますが、いまの研究の段階ではこれについてはっきりお答えすることはできません。  それから御承知の六〇年の安保問題の時期を経まして、おそらく安保問題の年には岸政権はあれによってくつがえるという予想をしていたようでございまして、人民日報もラジオ北京日本における政権の交代をねらっての、そして安保改定反対運動の勝利をねらっての日本問題についてのトップ記事を連日のように掲げたわけでございます。  ところが岸内閣は曲がりなりにも安保問題を処理いたしまして、そして池田内閣に移ります。ところが池田内閣の初期におきまして、北京のラジオ北京も人民日報も池田氏を岸氏の後継者としてかなり激しくののしり続けたのでございますが、ののしりながら同時に一九六〇年の八月ごろから日本の保守派の有力な方々、松村氏をはじめといたします有力な方々に向かって北京政府はひそかなフィーラーを、接触の糸を伸ばしております。したがってこの時期に中国北京政府の中枢におきまして、岸内閣が倒れたのを契機として何らかの形で日本政府側と接触しなければならないという判断があったようでございます。  ところで、このあらしのような岸内閣の時期におきまして、北京政府日本に対するスローガンを変えます。日中国正常化を彼らが正面に掲げていた時代には独立、平和、民主の日本を期待するということであったのは先ほど申し上げたとおりでございますが、一九五八年の秋から、独立、平和、民主及び中立の日本というふうにスローガンを変えます。  この中立が何を意味するかということは研究者の間でいまなお論議のあるところでございますが、私の解釈を申し上げますならば、こういうことでございます。日中国正常化は当面不可能である、したがって日米の離間を策する、日米が軍事同盟を結んでいればこその脅威であるから、この離間を策することは北京にとって有利である、そういうふうに私は解釈しております。したがって、これ以後今日に至りますまで、日中国正常化というよりも以前に、より重大な問題として日米の離間と申しまか、離間と言うと主観的な表現が入りますので、日米の軍事同盟をやめさして日本をよりアメリカから独立した国へ持っていくというふうに言ったほうがいいかと思います。そして北京政府解釈によりますと、アメリカ帝国主義が占領している中国の不可分の領土であるところの台湾、その台湾日本とを引き離す、そのほうに主力を注いだようでございます。それが最も穏やかな形であらわれましたのがいわゆるLT貿易でありまして、LT貿易は国交常化への積み重ねの一段階というふうに向こうは理解しているわけでございます。したがってそれが積み重ねられていく過程で、論理の当然として周四原則のように、台湾と貿易している商社とは貿易しないというようなことも出てくる公算が非常に高かったわけでございます。  その後、まあ御承知の文化大革命の外交不在の時期をちょっと除きまして——この時期はちょっと異常な時期でございますので、もうわれわれとしてはこれは除くことにしております。最近ここ数カ月、再び日中国正常化が彼らの当面の目標になったのではないか。特に公明党との五条件のもとでの日中国正常化という共同声明を読みますとそういう印象を強めますし、その後北京政府の政策を見ておりますと、一方で佐藤政府をなるたけいわゆる日本人民から隔離し孤立させるという政策をとっていると同時に、そういう手段を経過することによって国交正常化への日本政治的エネルギーを政府のレベルまで高めさせよう、そういうふうに言っているように感ぜられます血  以上簡単でございますが、過去を概観いたしまして、次に幾つかの争点について北京政府側の考えを簡単に申し上げさせていただきます。  まず重要な順に申し上げます。  台湾でございます。台湾北京政府にとりましては、いわば回復されざる中国政治シンボルになっております。したがって、香港やマカオとは質的に違いまして、この問題については原則上いかなる譲歩をもしない決心をしていると存じます。ただし過去の彼らの発言の中には幾つかの興味ある点がございますので、一、二御紹介いたします。  一つは、時あたかも米中平和共存へ向かうかのごとき時期でございますから、いまから申し上げる資料は御興味がおありになると存じます。エドガー・スノーが一九五九年に周恩来と会見いたしまして、その記録を「ゼ アザー サイド オブ ザリバー」という本の中に載せております。その中に、米中は二つの条件のもとで平和共存が可能であるというふうに申しておりまして、その第一は、すべての米中間の紛争——これには台湾地域の紛争も含む——は平和的手段で平和的交渉、ピースフルネゴシエーションズによって解決さるべきである。第二、アメリカはその武力を台湾及び台湾海峡から撤退することに賛成すべきである。そして具体的な撤兵の手続については、これは将来の討論によってきめることができる。要旨以上のような資料がございます。  もう一つ資料を申し上げます。これは一九五九年の夏、キャンプデービッドに飛びましたフルシチョフは、モスクワに帰るなり直ちに北京に飛んだわけでございます。北京に飛びましたときに、これは五九年、大躍進の翌年でございます。米ソの平和共存が表面上始まった年でございます。この年にどうもフルシチョフは、台湾を平和的に解放せよというような、武力解放だけが台湾解放の道ではないというようなことで、北京台湾政策を批判したようでございます。これに対しまして北京側は猛烈に反発いたしまして、そのような言い方は二つ中国の陰謀に連なるものだと言ったのでございます。その後も北京政府は、台湾解放はこれは中国の内政問題であるから武力解放するかいなかという問題、いいですか、武力解放するとは断定していないのです。するかいなかという問題は、中国の内政問題であって外国の干渉を許さないという姿勢をとっております。したがってこれは主観的にはたいへん遺憾でありますが、台湾における国民政府北京政府に関する限り、われわれはエントベーダーオーダー、どちらかをとるということにならざるを得ないわけでございます。そのことについては、北京政府はごうまつの譲歩も考えられないのでございます。ただ先ほどエドガー・スノーに周恩来が語ったように、そのプロセスにおいていろいろな含みがあるということでございます。  もう一つ資料を御紹介いたします。  それは、一九五五年の八月十七日に日本の新聞放送訪中使節団が周恩来氏と会談したときの記録が人民日報に出ております。  台湾についての部分を読み上げます。  「周恩来総理は、第三の問題に対する書面による回答の中で、」——これは前に書面で質問を出しておりますのでそのことでございますが、それは省略いたしまして——「回答の中で、「中日関係正常化をはかるあらゆる誠意ある努力は、すべて日蒋」——日本と蒋介石でございます。「日蒋講和条約廃棄に導くものでなければならない」と述べたが、このことについて橘善守氏は、」当時朝日新聞の記者で、この訪中使節団に参加しておられました。「橘善守氏は、これは日蒋講和条約廃棄が、必ずしも日中両国関係正常化を促進してゆくための前提となるのではなく、日中両国関係正常化を促進してゆく上の目標であり、同時にその結果であると理解してよいかとたずねた。これに対して周恩来総理は、大体そのように理解してよいと答えた。」ただし、何しろこれは十数年前のことでございますので、これがこのまま援用されるかどうかということについては、私は保証いたしません。ただ、こういう資料があるということを御紹介しておきます。  台湾につきましての日本政府の微妙な解釈の違いにつきましては、いま高野田尻参考人から御説明があったようでございますので、省略させていただきます。吉田内閣におきましては、はっきりと限定条約立場を繰り返しとっておりましたが、その後、保守政党内閣は解釈を変えまして、今日に至っているわけでございます。  次に、第二点、対米問題でございます。  先ほど申し上げましたように、アメリカ日本が軍事同盟を結んでいることが北京政府にとっての脅威であり、同時に、アジアにおける安全と平和を害しているという考え方でございます。これは、今度のニクソン大統領の訪中声明によって、この発想は、ある程度北京政府が捨て去ったというふうに考えていいだろうと思います。御承知のように、アメリカは、ベトナム戦争の行き詰まりから、一方的撤兵を実行しておりますので、このことについて北京政府は何らの誤解をしていない。北京政府アメリカの意図について実に誤解をしていないということについては、その他幾つかの証拠がございますが、きょうは時間がなくて申し上げられないことは遺憾でございますが、北京政府の中枢部は、かなり正確にアメリカの意図を理解しております。しかし、実はこの五、六年、人民日報もラジオ北京も、日米関係についての評価を多少たがえております。それは、過去においては、アメリカ帝国主義に追随し、アメリカ帝国主義におべっかを使う日本でございましたのが、いまは、そのおべっかを使うとか追随するということばが非常に減ってきております。その頻度が減ってきております。そして、米日反動派というふうにアメリカ日本とを並べて使うその表現が非常にふえております。これは、やはり独立した日本の脅威というものを彼らが非常に痛切に感じているというふうに御解釈いただいてけっこうだろうと存じます。その直接的証拠は、レストンが周恩来と会いましたそのときの会談の印象がニューヨーク・タイムズに出ておりますので、それをごらんいただければと存じます。  時間が経過しているそうでございますので、結論を急ぎます。  第三点は、軍事問題でございますが、これは、北京政府から見ますと、日本のほうは、攻撃能力を持っているような軍事体制を整えつつあるという解釈でございます。そして、内容よりもむしろ軍国主義に対する姿勢であるという精神論みたいなものが展開されております。このまた北京政府がたいへん精神論が好きなことにつきましても申し上げたいのでありますが、残念であります。  それから、第四点は、東南アジアでございますが、東南アジアという第三国市場におきまして、われわれは経済活動を必要といたしますから、秩序維持がどうしてもほしい。しかるに、北京政府のほうは、人民革命を主張しているということでございましたが、最近、これまた急速に東南アジア諸国の政府北京政府との間に平和共存が再確認されつつあります。北京がノーマルシーへ戻りつつあるという具体的な一証左でございます。  それから、最後は、賠償の問題でございますが、賠償につきましては、極東裁判の判事をいたしておりましたメイ・ルアオという人が、中共、現在は中華人民共和国におりまして、この人が、五百億ドルの損害と一千万の人命が日本の侵略によって受けた損害であるということを言いまして以来、これが繰り返し主張されているのでございますが、同じように、先ほど申し上げました日本の新聞放送関係者の訪中使節団に対してこういうことを周恩来氏は言っております。賠償についてでございますが、「この点について、日本政府はこれまで一度も責任ある釈明をしていない。それとは反対に、日本当局の発表した多く言論を見ると、かえって中国のほうが日本にすまんことをして、なにか釈明しなければならないといったような印象さえ受ける。中国外交部スポークスマンはこの点をとりあげて、中国人民が賠償を要求する権利のあることを説明したのであって、日本政府はこのことに注意を払うべきである。」したがって、賠償を請求するということを断定はしていないというふうに申し上げておきます。  以上、争点五つについて簡単に申し上げました。あと、私個人の意見につきましては、また後ほど御質問でもございましたら答えさせていただきたいと思います。
  8. 櫻内義雄

    櫻内委員長 これにて参考人の御意見の御開陳は終わりました。     —————————————
  9. 櫻内義雄

    櫻内委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。正示啓次郎君。
  10. 正示啓次郎

    ○正示委員 きょうは、三参考人さん御苦労さまでございます。  最初に御質疑を許されたのでありますが、たいへん時間がございませんので、私、ちょっとメモをいたしましたので、これは主として高野参考人に対する私の質問になりますので、お聞きをいただきたいと思います。  日中問題の論理と行動、こういうことに私はしぼって御見解を伺いたい。いままでのお話、大体論理の面を国際法立場あるいは外交政策の立場、そういう点から三参考人からそれぞれお話があったのでありますが、われわれは政治家でございますので、そういう論理を踏まえて行動していくという意味において、こういう考え方はどうであろうかという点を高野参考人に主としてお尋ねをいたしたいのであります。  中国大陸における中華人民共和国台湾における中華民国は、ともにいわゆる二つ中国を否定して、唯一中国たる存在を主張する。日本は、複雑な事情によって、一九五二年に台湾中華民国、いわゆる国民政府との間に日華平和条約を締結した。これは国際法の上では、中国代表する政府として国民政府を選んだのであって、その後における——この当否は別であります。事実を申し上げます。——選んだのであって、その後における中国国内事情や国際関係の推移から、この選択の当否が激しく論議されている。大陸の中共政権は一九四九年に成立したのであるから、それ以前の国民政府による国連憲章の締結や、敗戦日本国の降伏文書調印——これはともに一九四五年であります。——は、国際法上当然に中共政権によって承認せられる。しかし、一九四九年大陸中国に、中共政権が成立した後の一九五二年に、台湾に落ちのびた国民政府との間に結んだ日華平和条約については、全く同一に論ずることは許されないという説は傾聴に値する。ただし、国連においても、国民政府は一九四九年以後今日まで、ずっと引き続き中国代表して、安全保障理事会の常任理事国の地位を占め、諸規定や諸決議の制定や実行を行なっているのであるから、それらに基づく権利義務を中共政府が承継する、あるいは承認する場合には、国際連合日本は、中共政府国民政府との関係において、はなはだしく類似性を持つようにも思われる。また、日本降伏文書調印の際の中国代表たる国民政府の権利義務が、中共政府によって承継せられるならば、平和条約の実質的内容も、またおおむね承認せられるとの主張も、あながち理由のないことでもあるまい。しかし、いずれにしても、政治としての外交は論理一点張りではなく、論理に裏打ちされた行動を伴わなければ意味がない。中共政府承認し、その国連加盟を実現するに際し、日本国と民族の利益を踏まえた外交展開に際しては、以上の論理を胸中深く秘めて、中共政府にまともに面を向けて、友好的に話し合うことこそ、日中関係正常化基本路線であると考えると、まあこういうふうなことを書きましたが、これに対するお答えをまず第一に伺いたい。  それから、時間がありませんから一緒に伺いますが、以上申し上げたように、日本国府国連国府、この関係は非常に類似した点が多いのでありますが、この点から、たとえば今回アルバニア型決議案は、高野先生は不適当だ、先ほどの、これは国の問題じゃなくて、国を代表する政権の問題というふうなお考えから、そういう論理になるんだと思います。この点は、田尻参考人は——これは田尻先生に伺いたいのですが、高野参考人と同じ見解だとおっしゃりながら、アルバニア型決議案承認すべきだと、こう言われたことについて、田尻参考人の御意見も伺いたいと思います。  そこで、私は、不適当だと高野先生がおっしゃいましたが、そういう決議案がもしかりに成立した場合、その効力というものは一体いつから発効するのであろうか、すなわちそれは遡及性を持つのか、それともいままで行なった国民政府国連における一切の行動はそのままずっと有効に残って、それをあとの中共政府がずっと引き続いてやっていく、こういう関係になるのかどうか、その点を伺いたい。  それからもう一つは、サンフランシスコ平和条約ですね。これは、中国代表は出ていないのでありますけれども、このサンフランシスコ平和条約の精神というものは、日台、いわゆる先生方のおっしゃる日台平和条約、あるいは日華平和条約というものの中に生かされておると私は思うのです。そのサンフランシスコ平和条約については、当然、先ほどもありましたように、敗戦日本に対する降伏文書調印のときに、有効に国民政府代表が入った、これは中共政府としても当然その効力を認めるということになるとするならば、それと同じ精神でつくられたとする、ただ代表が参加しないけれども、サンフランシスコ平和条約というものについては、国際法上、これから中共政府は、国連憲章国連の諸決議国連の諸規定、そういうものに対する中共政府のこれからの態度——これは国際法上です。それから、サンフランシスコ平和条約に対する中共政府の態度というものがどうであろうか、法律的にお伺いしたいと思います。
  11. 高野雄一

    高野参考人 ただいまの正示議員の御提示になりました問題、三つあったと思います。  最初の、日中関係の論理、構造ということについてありましたが、私、お話を伺っておりまして、前に——これは多少プライベートになりますが、正示議員から前に御見解をいただいたとき、それに対する私の感想めいたものを御返事申し上げ、それも一つの機縁として、私二カ月ほど前に「ジュリスト」に小論文を書きました。基本的に、きょう申し上げたこともそれと変わりません。第一点につきましては、私お話を伺っておりまして、私がきょう考えて申しましたことと基本的に矛盾するところはないように、ちょっと伺いました。したがいまして、もしきょう私が申し上げましたところに何か基本的その他の点で御異議があるとすれば、またあらためて第一点については伺わしていただこうと思います。お話しになりました論理と構造、それに対する学者の分析、それと政治というものについても、政治をやられる方から、それから私は学問といいますか、法律をやる者の観点から、それぞれこれは非常に関係がある。しかしまたそれぞれのあれがある。その辺、ちょうどいまのような問題については別の意味を持っておるが、同時に非常に関係があるという立場考えなければならないと思いますので、正示議員が言われたことは、また逆に私のほうから申せば同じようなことが申せるのではないかと思います。  第二点につきまして、具体的にアルバニア決議案についてどういう態度をとるべきかということは、これはいわば政治の領域の問題でありますので、私としてそれに決定的なことを申すことはできる筋合いではないと思いますが、先ほど申しました点は、日中関係、それも先ほどちょっと話にありました、これは小さい点でございますけれども、日本があの事態において、大陸にある中華人民共和国政府中共のほうを選ぶか、台湾にある中華民国のほうを選ぶかというおことばが、ちょっとこれは正示議員のお話の中にあったように思いましたけれども、それは先ほどので一応形式的にたださしていただけば、やはり中国という国があって、それはその中国の名前を中華人民共和国と称しておる政府北京一つあり、その同じ中国中華民国と名づけておる政府台湾にある、こういうことになるかと思います。アルバニア決議案につきましては、これは北京政府中国代表権国連において持つものとして認めるという側面から申しますと、これは中国についていわば代表権、これは第一義的には交代の問題でありまして、先ほど申しましたように、法的には中国代表するものとしての国府は消滅いたします。中国代表するものとしては消滅いたします。したがって、それについて何かあらためて除名ということの法的措置をとるとか、決議をとるということは意味がない。またあっても、法的には障害にはならないかもしれないけれども意味がない。だからこれは中共政府代表権を認めておる立場から賛成ということも考えられましょう、あるいはその法的な点を少し問題にして棄権ということも考えられましょう。その程度のことが私からは申せることだと思います。  それから第三点、サンフランシスコ平和条約、それとそれに連なる日華平和条約というもの、そのもとになるのはサンフランシスコ平和条約ではないか。これはポツダム宣言、降伏文書、これは中共政府北京政府もそれを前提としてかかるべく基本的な原則であろう。それにのっとってサンフランシスコ条約ができたのではないか。そうとすればサンフランシスコ平和条約あるいはそれに連なる日華平和条約北京としてはやはり尊重するという考え方がありはしないか。その点につきましては、これはサンフランシスコ平和条約に、いま承認——代表権が問題となって、中共政府は入らなかった、そして入らなかっただけでなく、サンフランシスコ平和条約については、これははっきり中共政府は、北京政府反対していたわけです。たとえばその最大の点は安保条約とか、領土条項その他について反対、否定の態度をとっていたわけです。いま、ですからサンフランシスコ条約を破棄しなければとかいうようなことは言わないのじゃないかと思いますけれども、ポツダム宣言、降伏文書の上に立っての中国との関係は、北京政府考え方としてはあのサンフランシスコ平和条約のようなものであってはならない。しかしそれについては、領土の問題をはじめ、台湾の問題をはじめとして違う考え方を持っている。そういう意味においてはサンフランシスコ平和条約廃棄せよということは言わないかもしれませんけれども、あの条約にそのままのっとって日本との関係をきめようということは、そのままでは申さないと思います。法理的にもあれに対して否定の立場をとっておりましたから、その点はやはりちょっと違った考え方を法的に持つであろう、そういうふうに考えます。
  12. 正示啓次郎

    ○正示委員 第二点の、万一アルバニア型決議案が多数の賛成者を得て成立した場合の、その効果ですね。すなわち代表が交代する効果、したがってまたいままで国民政府がいろいろ国連の安全保障常任理事国としてやってきたいろいろな行為の決議、規則の制定、国連憲章までいくのだと思いますが、そういうものが動くのか動かないのか。動かないとするならば、これは私は国府日本との間にあった条約その他にも一つの論理的な国際法上の関連性を主張できるのじゃないか、こういうことを伺ったわけです。その点についてのお答えをいただきたい。
  13. 高野雄一

    高野参考人 国連につきましては、一つの合同的な会議体であります。したがって、今度は北京政府代表権を認めるということになれば、国連のコレクティビティと申しますか、そういう存在においては、そのときから北京政府中国を正統に代表するものとして国連での代表たる資格を持つ、こういうことに法的になると思います。  それからそれ以前、北京そのものとしてはいろいろ考え方があると思います。初めからにせものだったから、初めから無効なんだという考え方もあるかもしれません。しかし、国連の場においていきますと、それ以前にやはり中国というものは加盟国として存在していて、それを国府代表していたという法的事実があります。今度は北京政府国連代表として認めることになった場合、これはそのことはトータルに、初めにさかのぼって無効というような考え方では法的にはおそらくなくて、あとの北京政府代表者として認めたその事態と法的に矛盾する限りは排除される、矛盾しない限りはやはり中国国連における地位というものとしての継続性がある、こういうことになると思います。
  14. 田尻愛義

    田尻参考人 私は、日本アルバニア決議案を、賛成すべきだと申しましたのは、むずかしい理屈は別にしまして、現在理解しているところでは、日本中国政府代表の招請には賛成の意を表しているわけなんです。それが事実とすれば、そうしてその決議が成立しましたときには、中国政府中国代表する、独立中国代表する、国連加盟国代表する政府としてすでに席を占めるのであります。一つの席、一国一票であります。一国一席であります一つの席を中国が占めた以上は、そのうらはらとしていままで占めていた人は出なければいかぬ、これはもう国連原則なんです。だから日本がすでに賛成している、中国招請に賛成しているならば、当然の結論として片っ方の追放賛成すべきだ、こういうことです。国連原則論です。
  15. 正示啓次郎

    ○正示委員 どうもありがとうございました。
  16. 櫻内義雄

    櫻内委員長 北澤直吉君。
  17. 北澤直吉

    ○北澤委員 二、三分だけ伺いたいと思います。  政策論は別にしまして、国際法の理論、あるいは条約論について高野参考人から、それから田尻参考人にお伺いしたいと思います。  御承知のように、国際法というものは、これはいまさらぼくが申し上げるまでもなく、これはヨーロッパに発達した法なんですね。それをアジアの事態にこれを適用するということになると、なかなかむずかしい問題が出てくる。たとえば、これは田尻参考人も外務省におられてよく知っておられるわけでありますが、戦争日本が重慶から汪兆銘を引っぱり出して、南京に汪兆銘政府をつくった。汪兆銘政府支配区域というものは日本軍の占領する地域でありまして、それは点と線であります。しかし日本はそれを、蒋介石を相手にしない、それで汪兆銘政府相手にして基本条約をつくり、国交調整をした。当時日本はそれは有効だ、中国代表する有効政府ということでやったのであります。  それからまた、たとえば満州の問題とか、張作霖が満州を支配しているときにソ連との間に協定をつくっていますね。それからまたチベットとイギリスとの間に条約をつくっている。一つの国、中国という国は一つでありますから、その国の一部とそういう協定条約をつくっている。しかも、いま申しましたように、汪兆銘政府というのは、日本はこれを承認した。しかもこれの支配区域はごく中国の小部分であった。そういうふうに中国の歴史をずっと見ますと、なかなかヨーロッパ式の国際法適用できない。当時日本は、それでありますから、アジアに適用する国際法をつくれということを日本政府が主張してきております。  で、そういうわけでありまして、国際法をアジアの問題、特に中国の問題に適用する場合には、過去の歴史から見ましていろいろそういう問題があって、必ずしもヨーロッパでできた国際法の理論どおりにいかない、やはり現実の事態に即してやっていかなければできないという事実がたくさんあるわけであります。私も長く中国の問題にタッチしておりますが、そういうずっと過去の歴史を見ますと、いまの問題におきましても、そういうふうなやはりアジアの現実というものを見てやらないと、これは現実から離れた国際法というものは適用できないわけです。吉田総理も、終戦後非常に困ったときに、いまの日華条約につきましてもせいぜいあの辺のことで適用範囲を制限した。あの人も外交官として中国に十七年在勤しております。やはり彼も中国の現実の事態を知っておりますから、そういうふうに合うようにやっておるわけでありますが、私もやはりそういうふうに中国の問題、アジアの問題はヨーロッパでできた国際法そのものではなかなかいかない面もあるのだ、こういう点を私は申し上げたいのでありますが、そういう点について高野参考人田尻参考人にお聞きしたいと思います。
  18. 高野雄一

    高野参考人 ただいまの北澤議員の御質問にお答えいたします。  国際法がヨーロッパに成立したということは、これは学者の間でもまず定説であります。同時に、その国際法がヨーロッパが近代社会の指導的地位を持ったということと関連して、アメリカ大陸の諸国に、やがてはアジア、アフリカ、これに対しては大きく植民地支配というものがありましたけれども、さらにそれがそのために不平等条約とか、いろいろなものがありましたが、だんだんそういう国も独立国として交通を持つようになって、根本的に西欧に発生した国際法でもってつき合いをするようになってきた。日本も明治以来それに乗ってまいりました。と同時に、いまお話しのような点は、大きな植民地主義のここ二、三十年間における転換によってそこに世界の現在百四十ほどの国の半ばを占める新しい独立国ができて、その前には共産主義の国が最初ソ連一国、現在は十六国ございますが、そういう国ができて、やはりそれぞれの意味において西欧諸国の間にできた国際法について、やはりその特殊性、独自の主張というのを持つ。しかし基本的にそこに発生した国際法を国々の間のつき合いの基本としつつ、それについていろんな主張をしているわけであります。その間にはごたごたも起こります。しかしともに国連というところに参加して、国連の中でその法に対する注文などがAA諸国の立場あるいは共産諸国の立場から出ている。その意味においては、西欧に根ざした性格を持っておるということは否定できないと同時に、いろんな点においてその国際法が少しずつ変わりつつあるということは、これはまた多くの国際法学者によって指摘できると思います。そういう意味におきまして、またアジアにおいても、国際法について非常に具体的実態に即して考えなければならぬということはそのとおりだと思いますが、またこれがときに行き過ぎますと、ヨーロッパにおいても一ころドイツがナチス国際法、広域圏国際法という考え方をとり、あるいは東亜新秩序というものを、一時日本の一部で国際法考えられた。これはやはりその国際法基本的な存在とその発展、それに対する社会主義諸国あるいはアジア諸国の態度としても、これはまともな態度ではなかったと思います。私もその点は私なりに、満州国の問題についても汪兆銘の問題についても、具体的問題点につきましては、あるいは研究してまたお答えしようと思いますが、現在の中国の問題について、私限りにおいてその特殊性を踏まえながら考えましたのが先ほど申し上げた私の意見でございます。なお具体的な問題の御指摘があればまたそれについて考え、お答えしたいと思います。  なお、日本アメリカにしましても、日本アメリカ以上に中国の問題を、アジアの問題をその具体性において知っているのではないか、あるいは知り得る立場にあるのではないか。私はその面からして、特に日中問題について日本がもっぱら慎重にアメリカについていくだけではなく、何かアメリカに、その特殊性をよりよく知る、あるいは知り得る立場において、国際法にも関連してこれまでアドバイスしていっていたらもうちょっとドラスチックなことにならずに、また日本国民立場もよりよくまとめられる方向をつかみ得たのではないかといろ点が、いまの御質問と関連していたします。
  19. 田尻愛義

    田尻参考人 東洋には東洋の国際法があるべきなんだ、ヨーロッパ中心に発達した国際法がそのまま東洋に適用あるべきじゃないんじゃないかということは私も主張した一人なんです。先ほど満州国の問題が出ました。満州国はとにかく中国から分離して……
  20. 北澤直吉

    ○北澤委員 満州国の前、張作霖時代。奉露協定は張作霖のときだ。ロシアと張作霖と協定をつくったね。だから満州国の前です。
  21. 田尻愛義

    田尻参考人 それがいけないと、こう言ったのですか。
  22. 北澤直吉

    ○北澤委員 いけないじゃない。そういう条約もあるじゃないか。中国の一部とソ連が条約をつくった。
  23. 田尻愛義

    田尻参考人 その点申し上げたいことは、満州国の場合は、ただ事実に即したことをやった。奉露協定にしましても、ないしは汪兆銘の場合にしましても、現実に反したことをやった。新しい国際法をつくるべきだ、こう言いながら、そのものが現実に即したものであれば、新しい国際法はこうあるべきじゃないかということは言えたのでありますが、その現実に反して日本国際法を主張した。世界的な道義に反したことをやった、やったから失敗して負けたのだと私は思うのであります。私はいまでも国際法は何もヨーロッパ流の解釈に従うべきじゃないということを考えます。ということは、台湾の帰属問題にしましても、国際法の通説からいえば、下関条約というものはもう効力がなくなっているのだ、処分条約だらかあれで済んだのだ、いまさらこれを無効だとか無効に合意するとかいう問題は起こらないのだ、台湾の問題は連合国が集まって決議すべきなんだということがいわれておりますが、私は、そうじゃない、現実はそうじゃないと思うから、台湾はすでに国際法的にも日台条約によって中国に帰属している、こう言うのであります。国際法は東洋の特別なものがあるべきだとか、なかるべきだとかいうのじゃなくて、国際法適用には現実に即したことが第一となるということを申し上げたいのであります。その点からいいまして、先ほども触れました国民政府独立中国唯一の合法政府と認める、国際法ではそういうことはできるでしょう、理論上はできるでしょうが、それが現実に即したものであるかどうか。即していない、こういうふうにお答えしたいと思います。
  24. 北澤直吉

    ○北澤委員 いまの問題なんだが、しかし、例の汪兆銘政府日本との条約国交基本に関する条約、これはあなたも知っておるように、日本の枢密院を通過して、日本では有効に成立しているわけだな。あなたはその当時はそれは有効と思っておったのでしょう、外務省におって。  それからもう一つ。これは法理論だよ。いま北京政府は、シアヌーク政府、いま北京におるが、これがカンボジアを代表するというわけだな。そうでしょう。そうじゃありませんか。いまのカンボジア政府承認しない、シアヌーク政権をカンボジア代表として認める。これは完全に支配する領土を持っていないシアヌーク政権北京政府はカンボジアの合法政府と認めているわけだね。こういう点は一体どういうふうに国際法からいっていうのですか、これをちょっとお聞きしたい。
  25. 田尻愛義

    田尻参考人 中国政府一体どういう根拠でやっているのか、国際法上どういう根拠でやっているのか、ただ政策的にやっているのかということは、向こうの真意を聞かなければわからないですね。私は、日本が批評すべき限りじゃない。日本がやったことにつきまして……
  26. 北澤直吉

    ○北澤委員 いや、国際法でいい。
  27. 田尻愛義

    田尻参考人 だから、国際法的には、中国政府はもとのものを認めているのです。もとを認めてきたんですから、それをそのまま続けている。つまりアメリカ国民政府を一九二八年以来認めてきた、それが現実に続いておるのと同じことだと思う。
  28. 櫻内義雄

    櫻内委員長 戸叶里子君。
  29. 戸叶里子

    戸叶委員 一問だけ高野先生に伺いたいと思います。  大体お考えのほどはよくわかったのですけれども、国民が一般的に知りたい、簡単に知りたいと思っていることは、今度の中国国連代表権の復帰の問題なんですけれども、政府が出しておりますような案ですと、大体いわゆる逆重要事項方式を出して、そして云々ということが書いてあります。あれを読んだ人はみんな、いままで中国一つ一つだとお互いにいっているし、日本政府一つだといっていながら、ああいうものを出してくると二つ中国論としか考えられないのだけれども、一体どうだろうという疑問を持つわけです。非常に素朴な質問でございますけれども、そういうふうに考えているわけです。これに対して法律的にはどういうふうに解釈なさるかということをお伺いしたいのと、それからもう一つは、いまもたまたまちょっと出ましたが、台湾の帰属の問題はこの外務委員会でも幾たびか議論をいたしました。政府自身の答弁に私は非常に不満なものをいろいろ持っているわけですけれども、先生としてはどういうふうに法律的に解釈なさるか、この二つの点をお伺いしたいと思います。
  30. 高野雄一

    高野参考人 二点、あとのほう私ちょっとよくわかりませんけれども、あとからまたちょっと教えていただきますが、最初の点について、これは私がさっき述べましたことにも関係いたします。つまり中国というものの代表権の問題であるということで、それで北京政府代表権を認めよう。これはもう進んで歓迎して認めようとか、やむを得ないとか、これは政治的なあれでありますけれども、認めようということが一つ出ていることは確かと思います。それから同時に、そのときにアルバニアは国府追放しよう。もう一つ国府のほうを、除名手続のあれとして、重要事項として指定しよう、実体的にいえば国府地位維持しよう、そのとき維持さるべき地位は何であるかといえば、やはりその国府という代表権をになうものによって代表される国がなくてはならない。したがって、それもやはり中国なのかといえば、これは全く二つ中国があり、かつそれに直結する二重代表制の問題になると思います。あるいはまた考え方をめぐらせば、そのもう一つ別の国をそこに想定しよう、あるいは考え出そう、つくり出そうとしているのかということも考えられますけれども、決議においては、その時点において北京政府によって代表権が認められる国以外に、もう一つ何か国府によって国連において代表権が認められる国があるんだということで、先ほど申しましたように、私ども、実態からずれたような策略的な技術論になってしまうという気がいたします。そのことは、多少政治関係いたしますからあまり私の申す政治論は信用していただくわけにまいりませんけれども、何か日本政府を、袋小路じゃなくて正道のおもむくところについてはとにかく認識を持っているんだ、しかし、とにかくニクソン北京を訪問し、日本も何か北京に行ってざっくばらんに話ができる、それを経て国連における結末的な段階を迎えたい。そんなこともあって、非常に実態からずれたというような決議案などを考えているのじゃないか。これはあまり私として十分な責任をもって申し上げられませんけれども、何となく希望的な観測としてはそんなものも一部個人的に考えたりいたします。  なお、お答えしてない第二点がありましたでしょうか。
  31. 戸叶里子

    戸叶委員 台湾の帰属の問題をどう考えるか……。
  32. 高野雄一

    高野参考人 台湾の帰属の問題につきましては、これは国同士の間でいろいろな見解がございます。学説の上でもございます。それから台湾が帰属するという問題についての一般的な国際法からの基準もございますけれども、国際法は、それについて特に関係国の間でその意見がまとまればそれが優先するということがありますので、その関係国の間で意見がまとまっていないという事態があるわけでございまして、したがって、これについてはすでに帰属済みという考え方から、帰属してないという考え方にもいまの段階においてはそれぞれの理由を付することはできると思いますが、しかし、私から申せば、先ほどちょっと申しましたことですが、北方領土の場合とは法的性格を異にし、台湾についてカイロ、ポツダム、降伏文書の線をサンフランシスコ、日華条約は否定したのではないか。しかし、それを一〇〇%実現してない。ただ放棄するということにとどめた。これはなぜ放棄にとどめたかということは、そのときのサンフランシスコ会議の記録からも非常に明確であります。とどめたということの理由は、北方領土の場合とはっきり違って、その返還すべき中国政府北京台湾かということについて連合国内での割れがあった。したがって、その点についての問題が解決すれば、だからアメリカも、また日本も、中国代表するものは北京であるというふうに認めることになれば、その領土問題はその時点においてそれと一緒に完結する問題である、こういうふうに考えます。
  33. 櫻内義雄

    櫻内委員長 西中清君。
  34. 西中清

    ○西中委員 高野先生にお伺いしたいのですが、いま台湾の帰属未定論についてお話がございましたので了解したわけでございますが、政府はいままでこれは放棄しただけである、連合国とか多数国できめてもらうべき問題であるというようなことを言っておりますが、これは事実上そういうことは国際法上言い得ることなのかどうなのか。具体的にいうと、そういうものが集まって会議をするということは可能ではないんじゃないかと私たち考えておりますが、この点の御見解をお願いしたいということ。  それから国連代表権につきまして、政府の答弁では、重要事項指定方式決議というものは、一回やればこれはもう続いて効力があるのだ、こういう回答であったように記憶しておるわけでございますが、そうすると、毎年、毎年やっておる重要事項指定はどういうことになるのかというこれに対しては、確認という意味でやっておるのだ、こういう解釈、答弁をしております。その点ははたしてそのとおりなのかどうなのか。要するに、効力が継続するのかしないのか、こういう点についてお伺いしておきたいと思います。そうしますと、もしも継続するとなれば、もし今回逆に重要事項指定方式をとるということになりますと、無効の決議が必要になるのかならないのか、この点の御解釈をお願いしたいと思います。  以上の二点お願いいたします。
  35. 高野雄一

    高野参考人 台湾の帰属については前にお答えいたしましたが、これはいま中国自体が主張している見解、それと違う見解も出ているわけでございます。それで国際間にそのどれに帰一したかということは、国際的な合意の面ではまだないわけでございまして、台湾中国に返還するということについての合意は、中国を含む連合国の間において、また日本を含む——これはあります。ですから、それについて、これは法律的にきわめて債権的とか物権的とか申しますけれども、サンフランシスコ条約日華平和条約台湾を返還するということとはっきり区別して、これを必ずしも妨げる意味ではないけれども、その最後一つの詰めを残した放棄にとどめました。それにはサンフランシスコ平和条約、日華条約の上ではそれなりの理由があったと関係国では認めているわけです。ですが、ただしこのことはサンフランシスコ平和条約の上においていえば、その関係国の国際的な意図としてそういうことは法的にあり得ると思います。同時に、このサンフランシスコ条約のそういう行き方は、まさにそういう領土の問題に関して、中国が認めてない、あるいは反対している点である。中国が違う議論を展開している点である。したがって、この点についてはその中国を含めての——中国が第一の関係国でありますから、それについては完全に中国国内問題であるという一方の決定のしかたから、その中国を含めての合意が全部ファイナルにつくことが最終的にその問題を決着する基礎である。ただし、いまの状態のまま比較的に妥当な結論を推理するならば、さっき私が申しましたように台湾領土帰属性の特殊性から申しまして、それは中国二つ政権についての問題が台湾の帰属についてそういう問題点を残したのである。したがって、その点について問題がきまれば、台湾の帰属は確定したということになると思います。  第二の点は、私はきょうの意見では触れませんでしたけれども、これは特に国連憲章あるいはその手続規則にもその点についての特別のことはなかったと思います。そうすれば、国連の慣行でそれがどうなるかという問題もあります。国連の慣行でも非常に確立したあれがあるようには思っておりません。私はこの点について特別の研究をしたわけでありませんから、専門家として相当責任をもってお答えできませんけれども、、一つ考え方は、重要事項指定という問題は、国連安保理事会と総会で議決のしかたの原則が逆でありますが、総会では一定の事柄だけは三分の二の重要な事項である、あとのことは全体として単純多数決である。原則は単純多数決であります。したがって、その重要事項という決定は、どちらかというと、私は狭きに従って解するのがより国連憲章の規定の精神に沿うものであろう、そういうふうに考えます。
  36. 山田久就

    ○山田(久)委員 高野先生にちょっと関連質問をいたします。  先ほど高野先生から北方領土の帰属の問題について両方が違うというお話があったわけですが、政治的な見地に立っての議論からくるよしあしの問題は一応別にして、高野先生の場合のように、純法律家の場合であるならばそれを入れなかった——片っ方はヤルタの秘密協定で、本来ならば連合国としては北方領土の帰属をきめるべき法律上の義務を持っていたかもしれないけれども、結果においては、いろいろな理由によってその帰属をきめなかった。片一方台湾の問題も、法律的に考えれば、その原因が、ただいま高野先生は、政府をどっちにするかという問題があったはずだ、それは確かにサンフランシスコへ招請しなかったのは、二つ政府というもののいずれを選ぶべきかということについて、これは連合国の間で意見が分かれておったからだ。しかしながら、同じような理由であったにしても、それから、おそらく背後に政治的な理由があったと私は思うのですが、その政治的な理由によって、法律的に国際法上はきめなかったという問題が、法律的にいうならば違ってくるということは私はないと思う。その点についてどうお考えになりますか。
  37. 高野雄一

    高野参考人 私は、政治的な要素もなるべく、法的に関連がある限りは、含めて解するほうがなおいいのではないかということで先ほど考え方を申しましたが、それをかりに法律的に限局いたしまして、ここについての違いは、北方領土については、北方領土の範囲をきめてこれをソ連に返還するという合意日本は参加しておりません。台湾につきましては、これを台湾に返還するという合意日本は受諾しております。これが一つの法律的な違いであります。  それからなお、サンフランシスコ条約の問題について言いますと、およそ国際間の合意は、可能な範囲で両立するように解すべきものであるという一つ原則がございます。そういう観点からしましても、また具体的内容からしましても、サンフランシスコ条約の内容は、日本台湾については、北方領土と違って、その処置について受諾しているという、その受諾の内容を否定するものではないと考えます。最後の詰めを残しておりますけれども、否定するものではないと考えます。そういうふうに法律的に解されますが、その解釈を、さらに政治的背景を詰めるとさっきのようなことになると思いますが、それを抜きにいたしまして、法律的に限局いたしますと、ただいまのように両者によって、微妙といえば微妙ですけれども、法的にも違いがある、こう考えます。
  38. 山田久就

    ○山田(久)委員 補足して。いまあなたは法律的には詰めが残っているということを言われました。私の言うのは、いま純法律論として詰めが残っているのじゃないですかというのです。先生のは、詰めの問題についてちょっと政治論が入るということになるように思われますが、その点要するに、いまいみじくも詰めが残っているというふうにも言われたけれども、法律的には詰めが残っているということになるのじゃございませんでしょうか。
  39. 高野雄一

    高野参考人 私はそのとおり申し上げたのです。それが法律的な関連において北方領土台湾では違う……
  40. 山田久就

    ○山田(久)委員 その詰めが残っているという結果が、帰属が法律的にも明瞭に、日本との関係において、日本も入った平和条約にもきまっておらないときに、詰めが残っておるのに、完全に帰属したというふうに、法律的にも言い得るということになるのでしょうか。その辺はちょっと問題があるのじゃないのでしょうかというのです。
  41. 高野雄一

    高野参考人 私はお話意味はわかるように思いますけれども、法律論として、私が考えているようにしか解せないというふうに、私はなお考えております。と申しますのは、非常に明確な法的事実として、繰り返しになりますが、台湾については、これを中国に返還するということが、連合国の間でも、その連合国の意思についての日本の受諾ということについても、これはございます。北方領土については、ない。それで、これは政治論とおっしゃいましたけれども、法律的な問題は、やはりその背景とともに解さなければならないということは、これはもっぱら政治的に解する法律論もありますけれども、それは別といたしまして、法律論といたしましてもそれが正しいというのが一般ではないかと思います。そういう法律的な基礎に差異がある点、その差異の上に、同じように両方詰めを残しているといいますか、その放棄しただけであるという点についての意味は、法律的なインプリケーションとしても違っている、私はそう考えます。
  42. 櫻内義雄

    櫻内委員長 曽祢益君。
  43. 曾禰益

    ○曽祢委員 お三人の方にそれぞれ伺いたいのですが、最初に高野教授については、二つに分けて、初め中国代表権の問題、それから第二に日華平和条約について述べられたわけですね。その第一の中国代表権の問題の最後の項といいますか、いま各同僚委員との質疑応答の中にも出ておったところに関連すると思うのですけれども、特にそれの読まれ方が少し早くてよくわからなかったのですが、要するに台湾については、大体放棄する方向で、中国というネーションステート、民族国家のほうに放棄する方向で、まだ完全になっていないけれどもやっているのだ、そういうような意味で、中国へ向けての放棄は確定的だというふうに言われたと思うのですが、そのあとで何と読まれたのだか、その条項がはっきりしていないのですが、ちょっとそこのところを読み上げてくれませんか。日華平和条約に移る前、中国代表権最後台湾に触れた部分がありましたね。
  44. 高野雄一

    高野参考人 いまの御質問は、領土の帰属の問題でございましょうか。
  45. 曾禰益

    ○曽祢委員 私はずっとメモをとっていったのですが、その中で、中国代表権問題についてあなたが最後に読まれて、それから日華平和条約にかかる、そこのちょっと前のところなんです。あるいは読まなくてもいいけれども、ちょっと説明してください。
  46. 高野雄一

    高野参考人 それは、国連代表権の問題として私が最後の第三点として申しましたのは、北京政府代表権国連で認めるという問題の台湾側に波及する国際法的な効果、それは中国代表としての国連における国府地位は、安保理事会常任理事国代表地位を含めて、法的には自動的に消滅する。
  47. 曾禰益

    ○曽祢委員 北京政府中国代表権を認められたときにですね。
  48. 高野雄一

    高野参考人 そうです。国府中国代表する国連における地位は自動的に消滅する。その先は、今度は台湾の事実上の存在、それが国際法的にいかなる意味を持ち、どのように影響を受けるかは、別の問題としてある、こういうことであります。
  49. 曾禰益

    ○曽祢委員 わかりました。  次に、田尻参考人に伺いたいのですけれども、さっきの陳述のほかに、大体質疑応答の中にも述べられておったと思うのですけれども、私は、自分の感じからいっても、吉田書簡原点に返って解釈すべきだ、これは私は正しいと思うのです。政治論としても正しいし、法律論としても、形は国府との平和条約となっていますが、実質はこれは友好条約ですね。非常にまぎらわしいので私はあの条約には反対したのです。むしろ吉田書簡のスピリットをぼやかして、吉田書簡で、将来中国全体を代表するような政府ができたときにはそれとの国交調整を妨げないという性格が、国府との実際上の交渉から名前も平和条約に変わったり戦争終結、賠償も出てきたりいたしまして、非常に危険な様相が出てきたので、吉田さんとの、これは参議院の外務委員会の二十七年六月二十六日のレコードにはっきり残っています。吉田さんは、それでも吉田書簡のスピリットは貫いている、これは友好条約だ、限定承認だということをはっきり答えておりましたけれども、危険だから私は反対した。しかしいまや原点に返って考えて、この条約の存在が即大陸の支配者であり実質的には中国全体を代表する資格を持つ——事実はまだ台湾支配が及んでおりませんね。しかしどちらかといえば片っ方の国民政府はフィクションの上に立った中国政府であり、片っ方はフィクションでなく事実に基づいた中国全体の政府の資格を持つに至った北京政府との国交調整はいろいろな形があると思うのですね。大使交換でもできる。おそらく日本の場合には何らかの戦争終結、平和宣言あるいは平和条約という形をとるでありましょう。究極には台湾との条約とのからみ合いがどういうふうに位置づけていくかという問題がありましょうが、少なくともたてまえとしては、日本の現在の政府をもってしても、この台湾との条約の存在のゆえをもって北京との国交調整ができないという理屈はごうもない、いわゆる吉田書簡のスピリットに返ればいい、こういうたてまえをとっているわけです。同様に日本の一部では北京との関係を顧慮するあまり、この条約を破棄してまずかからなければ北京との国交調整に入れないという方もありますけれども、私はそれも条約の正しい解釈からいえばおかしい。いわゆる入り口論にこだわる必要はないんじゃないか。これは政治論になりますけれども、そういうような感じを持っておるわけですが、田尻参考人のその点に関する考えと、もう一つはやはりいま高野さんとの応酬にもありましたが、私はやっぱり法律的には完成してないと思うのです、いわゆる条約的にいって台湾の帰属というものは。これは田尻参考人の手記から見るとちょっと意見が違うようだけれども、あなたは台湾との条約においても、これは下関条約を破棄したのだから、当然原点に返って中国という民族国家にもう日本領土権を返しているんだ、こういう解釈をとっておられると思いますが、私はその点はちょっとどうかと思うのです。しかし台湾問題についていま実際日本が困っているのは、どちらの政府に認めろというような問題を持ってこられても、これはちょっと政治論として引き受けられないのじゃないか。日本はいつでも中国にお返ししていることを確認することはできる。しかしそれがいまや北京政府に返すということをここではっきり書けといわれれば、これはカナダだって渋るのに、わが国の場合にはとにかく入り口からその議論でこられたのでは困る。したがって、観念的にいえば中国というネーションステートに返す方向で、法律的には完成してないかもしれないけれども、そういうつもりなんだからいつでも中国に帰属するということはどっちに対してもはっきり書いていいんだ。しかしどちらの政府にという証文は困るというふうに考えるのですが、その点、二点についての田尻参考人意見を聞かしてほしい。
  50. 田尻愛義

    田尻参考人 国民政府日本との間の平和条約、日台条約日台条約と言ってきたのですが、それは先ほども言いましたとおり、国民政府中国唯一の合法政府として相手にしてつくったものじゃない。それからその適用範囲、有効性に制限がある。   〔委員長退席、正示委員長代理着席〕 基本条約でないということは、日本がサンフランシスコ条約で与えられた二つ政府のうちのどっちかを選択しろということの選択の自由を一つも妨げていない。したがって妨げていないということが、日台条約を破棄しなければ正常化ができない、中国政府唯一の合法政府として認められないということじゃないわけです。あったって日本には正常化をやる自由がある、そういう立場にあるということなんですから、そういう点からいって、私は、日台条約を事前に廃棄しなければ正常化ができないとは考えないわけなんです。だから中国としてはあれは内政干渉だ、無効だ、非合法だというわけなんですが、それは政治論なんです。条約論としましては、条約がそういう性質のものである以上は、一つも妨げにならない。妨げにならないならばそのままでいいじゃないか、事前に廃棄する必要はないのではないか。廃棄するというから、廃棄反対論が起こってきてしまう。正常化論の賛否で国論が分かれているところへもってきて、もう一つ廃棄すべきか廃棄反対かという国論の分裂が起こる、そんなことをする必要はないと思うわけです。私がさっき申しました小さな論文を書きましたのも、三月書き出したのですが、あのころ何かあの条約廃棄しなければいかぬというふうな文調と、いや廃棄は違憲論だ、国際法違反だという議論が起こってきたから、そんな議論は起こるはずはないじゃないかというつもりで条約解釈論を始めたわけなんです。だから私は廃棄の必要はない。しかし正常化が行なわれれば効力を失う。そのときに、どういうふうにして効力を失ったことを公表するかということは、そのときになって考えればいい問題である、根本論には関係ない、こういうふうに考えております。  もう一つは何でしたか。
  51. 曾禰益

    ○曽祢委員 台湾領土権、政府との関連。
  52. 田尻愛義

    田尻参考人 台湾中国領土としてすでに帰属済みであるということは、政治的にはもう問題はないと私は思うのです。何が問題かといえば、先ほどからお話がありましたように、連合国の間の協議が済んでいないという点だけなんです。その点は私は、どうしても協議が必要だということならば、いかにも手続は済んでいない、形式的には帰属が未定だといえるだろうと思うのです。しかし先ほどもヨーロッパの国際法を東洋に適用するかしないかという話が出ました。私は、下関条約というものは無効であるということを合意したのだ。下関条約効力はなくなっているのだというのは西洋流の考え方なんです。しかし通説はそうであっても、処分条約というものはいつまでも有効だという説もあるのでありますから、日本が通説でない少数説をとったって別にふしぎはないじゃないか。そういう向こうの言うとおりになって、いつまでも極東が不安定な状態にあることが一体いいのか悪いのか。向こうの通説がそうだからといって、日本は聞かなければならぬのか、聞かないで済むような解釈方法はないのかということを考えた末が、下関条約の無効合意論、その結果として日台条約全般から台湾の帰属がきまったという解釈ができるのではないかということであります。私の解釈論ですから、こういう点で間違っているのだといわれれば、そうですかと引き下がらざるを得ないのです。一つ解釈論として私は提出しただけなんです。
  53. 曾禰益

    ○曽祢委員 最後衛藤先生に、非常に待たしてしまって申しわけございません。  ずばり言って、国連代表権問題についてどうしたらいいのかという問題と、いまの日本の国策として北京政府との和解、それで最終的には国交調整、平和回復ですね、これはいいんだけれども、その場合の行く手にある台湾問題について、やはり日本国民の意思はあまりばさっと台湾関係を切るというようなことに反対ですよね。北京のほうに重点を移して、どうしても大きな目で北京との国交回復に真剣な努力をしなければいかぬ、それの二点についてひとつお考えを聞かしていただきたいと思います。いかがですか。
  54. 衛藤瀋吉

    衛藤参考人 時間が過ぎたようでございますから、結論だけ申し上げさせていただきます。  国際連合の総会に対しましては、日本政府中国問題に関してのあらゆる提案に対して棄権をすべきだと考えております。これは私の十数年来、たな上げ論のころからの主張でございまして、いまではいささか時期おくれの感がございますけれども、しないよりましであるというふうに考えております。  その理由の第一点は、佐藤内閣の中国側——中国と申しますのは、これは北京政府国民政府両方から見てのせめてもの取り柄は、一つ中国論を主張してきたことでございます。したがって、佐藤総理はしばしば中国問題を処理するにあたりまして国際信義を重んずる、国際世論に従う、それから東アジアの安全保障の問題を考えるというふうに三つの柱を立てておられますが、そうだとするならば、国際世論が国際連合の場において変わったという場合に、非常な煩悶をした上で国際信義という面の苦痛を手術しても、国際世論に従うことによって日本中国問題の新しい事態に適応し得るという柔軟性を残しているわけでございます。これが二つ中国論を含蓄するような、含ませるような姿勢をとったとたんに七年間にわたるコンシステンシー、佐藤内閣がとっておりました中国問題についての一体性が破れると存じます。破れることはマイナスだと私は考えております。特に、後継内閣の——これは第二点でございます。第二点、もし一体性を破れば後継内閣において非常に中国問題を処理しにくくなるのではないか。一国の命運は一内閣にかかっているのではなく、内閣の次のことまで考えてやるのが真の経世家だと私は存じております。  それから第二点につきましては、これも私は非介入、中国問題に政治的には介入しないということをかねて主張しております。第一次吉田書簡、つまりダレス氏に返事しました第一次吉田書簡の精神に、その意味では私は完全に同意いたします。したがって、これから先の問題といたしましては、私は第一段階としては非介入の原則の上に日本政府が立つこと、これが第一段階、それから第二段階として、北京政府と日中国正常化交渉に乗り出すという二段階が必要であろうと考えております。
  55. 曾禰益

    ○曽祢委員 ありがとうございます。
  56. 正示啓次郎

    ○正示委員長代理 松本善明君。
  57. 松本善明

    松本(善)委員 高野参考人に伺いたいと思います。  日華平和条約についての参考人の御意見は、基本的にはわかったわけでありますが、この条約のこれからの効力の問題、参考人中華人民共和国国交回復をして条約を結ぶというときには有効なものとはできないという趣旨のことをいろいろ述べられたわけでありますが、私が伺いたいのは、蒋介石政権と結びましたいわゆる日華条約日華平和条約廃棄ということについての法律上の諸問題について、高野参考人の御所見を伺いたいというふうに思います。
  58. 高野雄一

    高野参考人 私は、先ほど台湾領土としての帰属もそうでありましたけれども、この条約につきましても、条約の有効とか廃棄とかいうことは、この場合にはより根本的には政府承認の問題、中国の法律上正当に相手とすべき政権は何であるかということについての問題が、より基礎だと思います。したがいまして、実際問題としてはその正統政権としてむ認べき、あるいは政治的にもそういう方向を最近考えつつあるその北京との話が基本になるのであって、それのおのずからの結果としてその日華平和条約の問題の運命はきまる。言いかえますれば、形式的には日本中国との間を基本的にきめるのは今度の北京との話し合い、それに基づく合意だと思います。したがって、そのことで形式的には日華平和条約はそこで効力を持たないことになる。それに関する限りはもう効力を持たない、そのことを廃棄というかどうかは、結果として廃棄というふうにいってもいいと思いますけれども、普通条約を結んだ、その条約効力がどういう場合に消滅するか、廃棄できるかという問題とは次元が一つ違う問題を含んでいる、より基本的な問題に関係してくる、そういうふうに考えております。
  59. 松本善明

    松本(善)委員 終わります。
  60. 正示啓次郎

    ○正示委員長代理 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人各位には、長時間にわたり貴重な御意見を御開陳いただきまして、まことにありがとうございました。委員会代表いたしまして、委員長より厚く御礼を申し上げます。  午後一時三十分再開することとし、暫定休憩いたします。    午後零時五十七分休憩      ————◇—————    午後一時三十五分開議
  61. 櫻内義雄

    櫻内委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  ただいま御出席参考人は、岡都達味君、蝋山道雄君、和田一夫君の三名の方々でございます。  この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用中にもかかわらず御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。当面の日中問題につきまして、忌憚のない御意見の御開陳をお願い申し上げる次第でございます。  なお、議事の進め方につきましては、岡部達味君、蝋山道雄君、和田一夫君の順でお一人二十分程度御意見の御開陳を願い、その後委員から質疑が行なわれることになっておりますので、お答えを願いたいと存じます。  それではまず岡部参考人からお願いいたします。
  62. 岡部達味

    ○岡部参考人 ただいま御紹介にあずかりました岡部でございます。  現在の国際情勢下における日中関係を検討するにあたりまして、私まず第一に大事なことは、日中関係は何ゆえ正常化されねばならないかという出発点に立ち戻りまして考えことであるかと思うわけでございます。  これまで日中正常化を主張する議論の中には、道義的見地に立つもの、あるいは経済的見地に立つもの、あるいは世界の潮流というような見地に立つもの等の種々の議論があったわけでございます。これらの議論はそれぞれに意味を持っていると思われるわけでございますが、日中正常化を必要とするに十分な根拠ないしは基本的な出発点とはなり得ないのではないかと思われるのでございます。いずれの議論にいたしましても強力な反対論というものがあり得るわけでございまして、日中正常化に必要な広範な合意というものを得られるような性格のものではないのではなかろうかと思う次第でございます。特に好ききらいの問題と国交の問題とは混同すべきではなかろうという考え方をとっている次第でございます。  それならば日中関係正常化の出発点というようなものはどこに置くべきであろうかということになるわけでございますが、大体におきまして国交の樹立ということはこれは言うまでもなくすぐれて国際政治的な現象でございます。したがいまして国際政治的な考慮を基礎とすることなしには、まず日中問題に関しまして十分な議論を行なうことすら不可能ではなかろうかと思うわけでございます。このような国際政治的な考慮というものはどういうものを考えておるかと申しますと、日中間に現在存在しあるいは将来においても発生し得るような種々の紛争というもの、これを平和的に解決するための手段として日中の正常化が必要である、こういうような観点になろうかと思うわけでございます。  このような議論の前提として私が考えておりますものは、まず第一といたしまして、日中関係正常化はそれによって日中間のすべての紛争を消滅させるようなものではないということでございます。これは国際紛争というものはいかなる国の間にも、またいつ何どきでも起こり得るものであるという考え方に立つものでございまして、問題はその紛争をどういう形で処理するかということになるであろう、こういう考え方がその背後にあるわけでございます。  それから第二の前提といたしまして、日中間に起こり得る紛争というもの、これは処理を誤らない限りにおきましては平和的に処理し得るし、またそうしなければならないという前提がございます。これは異質の国家間に平和共存が可能であるというように言いかえてもよろしいかと思うわけでございます。そのような紛争平和解決のための手段が各種のコミュニケーションチャネルであり、特に日中両国間における国家関係、外交交渉である、こういうふうに考えるわけでございます。このようなチャネルの必要性は、アメリカであるとかあるいは中国であるとかいうような国々の場合と異なりまして、日本の場合には、武力による紛争解決というようなものを行なう意思も、またその可能性もないはずでございますので、特に重要かと思う次第でございます。  こういう国際政治的な考え方というものは、ニクソン大統領が中国に接近いたしましたその行動の背後にも存在している考え方であると思われますし、また中国側がニクソン大統領のそういう呼びかけに応じた場合の論理でもあろうかと思うわけでございます。  このような国際政治的な考え方、これが日中間国交問題を考える上におけるあらゆる議論の基礎になければならないというふうに考えるわけでございます。この考え方に基づきますと、日中間における国交樹立それ自身が目的化してはならないであろうという感じがするわけでございます。日中正常化というものはアジアないし世界における紛争の平和解決のための手段として考えるべきものである。したがいまして、また二国間関係、単に日中の二国間の関係国際情勢全般の中から切り離して考えるべきものではないであろう。より広い国際関係の中における日中関係として考えるべきではなかろうか、こういうふうに思うわけでございます。これは日中関係を考慮するにあたりまして、当然に対米関係あるいは対東南アジア関係というようなものと切り離して考えることはできないという考え方になるわけでございます。  ニクソン大統領の訪中発表後の情勢のもとにおきましては、このような観点が特に必要になっていると思われるわけでございます。そしてそういう観点に立った議論が行なわれるときに初めて、議論がかみ合うでありましょうし、それから、日中正常化への動きがほんとうの意味で可能になるであろう、こういうふうに考える次第でございます。  こういう観点に立ちました場合、問題は、中国国交樹立すべきかいなかということではなくて、もはやこの点にはおそらく疑問の余地はないと思われるわけでございますが、問題は、いかなる形で国交を樹立することが、日本にとってもあるいはアジアの平和にとっても有利であるかということになろうかと思うわけでございます。この場合、特に注意すべきことは、国交樹立それ自身を目的化いたしまして、国交樹立のためにはあらゆる譲歩を一方的に行なうというような態度、これはとるべきではないということでございます。これは単にナショナリスティックな立場からの発言ではないのでございまして、現在の国際平和といいますものは、好むと好まざるとにかかわらず、各主権国家が、柔軟でありながらかつ同時に自主独立の立場をとりまして、侵さず侵されずという状態をつくり出すことによって保障されているということが言えるかと思うわけでございますが、そういう国際関係のもとにおきまして、一方的譲歩によって相手に屈服するような国の存在は、それがいかなる国あるいはいかなる地域に存在する国であれ、平和を乱す要因になっていると思われるわけでございます。独立後日が浅く、国の基礎が確立していない国の多い地域におきまして、戦乱が絶え間ない一因はまさにそこにあると申し上げていいかと思うわけでございます。  しかも、このような考え方に立つ必要性を一そう重要なものとしておりますのは、中国の現在の指導部が、主権と独立という考え方、これをきわめて重視している事実でございます。自国の権利と独立を守る意思のない国民は、中国の指導部によって尊敬されない。したがって、平等で友好的な関係を打ち立てることは困難になると思われるわけでございます。特に現在の中国の指導部は、ときとしてきわめて権力政治的とも思える行動様式をとっております。中国の指導部にとりましては、必ずしも友好的でない人々の語ることばの中におきまして、理解し得るものは、権力政治的な考え方に基づくもののみであるといってもいいくらいでございます。中国の指導部にとりましては、自己の味方でないものが道義的な発言をする、あるいは心がまえを論じましても、それは信用しない、こういう行動様式が明白に見られるわけでございます。日本政府が、非核三原則ということをしばしば主張しておりますけれども、また日本は軍事大国にならないということをしばしば主張しておりますけれども、それが中国側から信用されない理由は、まさにそれが道義論あるいは心がまえ論として言われているからであって、その背後に日本の権力政治的な利害得失からの理由づけというものがなされていないように思われる、その点が中国側を説得し得ない非常に大きな理由ではなかったかと思うわけでございます。中国の指導者から見るならば、日本政府のような立場にある人々が、権力政治的な利害得失からいって、こういう行動をとることが自分にとっても利益になるのだという発言をすること、それだけが信頼に値するといってよろしいかと思うわけでございます。私が国際政治的な考慮というものが非常に重要であるという理由のもう一つは、こういう中国側の指導部の反応のパターンというところにあるわけでございます。  この点に関しまして、エドガー・スノーが「ライフ」に書きました論文が非常におもしろいことを言っているわけでございますが、この論文は、国共合作交渉がすでに行なわれているのではないかという示唆をいたしました点で非常に有名になった論文でございますけれども、その中で、スノーは、キッシンジャーにつきまして、中国側の指導者の非常におもしろい発言を紹介しております。それは、周恩来の側近のあるスノーの旧友のコメントとしてでございますが、キッシンジャーという人は、二つ世界、つまり自分の側とわれわれの側の言っていることがわかる男である、あれだけの地位についていてそれができるアメリカ人はいまのところ彼ぐらいのものだ、彼となら話ができるに違いない、こう言ったということを紹介しているわけでございます。これはまさにキッシンジャーの権力政治的とでも言えるような思考が、中国の指導部にとりましては、アメリカ政府の側の発言として最も理解しやすいということを意味しているのではないかと思うわけでございます。  日本の場合を考えましても、特に自民党政権の存在を前提として考える場合、あるいはほかの党の場合を考えましても多かれ少なかれ同じであると思われますけれども、日中正常化というものを考える以上、利害得失を明らかにして、それに基づいた行動をとるということ、これが最もすぐれた方法ではないかと思うわけでございます。これは決して権力政治的な考え方というものを無限定的に美化するものではございません。ただ単に相手にわかることばで言わなければ話が通じないであろうというコメントというふうにお考えいただきたいわけでございます。こういう観点から申しますと、八方美人的な発言あるいは本音と違うたてまえ論というような発言、これが最も悪いということが言えるように思うわけでございます。  さて、そういう観点に立ちまして、できる限り有利な日中正常関係をもたらすために解決されなければならない問題というもの、払わなければならないコストというものを考えてみますと、これは非常にたくさんあるわけでございます。しかしながら、その中で特に重要なものは、言うまでもなく、第一に台湾問題、それから第二に日本軍国主義復活問題であると思われるわけでございます。  そのうちのまず第一の台湾問題に関して申し上げますと、これは皆さまいずれもすでに御承知のところかと思うわけでございますが、現状維持あるいはそれから一歩進んだ二つ中国であるとか、あるいは一つ中国一つ台湾であるというような方式が、中国側にとりまして受け入れ不可能な原則問題であるということは、これはすでに明らかであろうと思われるわけでございます。これまでこのような方策の実現というものが可能なのではないかと考えて解決を延ばしてきたと思われるわけでございますが、その結果は、いたずらに日本の対中国取引能力を弱める結果になっているように思うわけでございます。すなわち、私どもの側にとりまして、日中正常化への要請が強くなればなるほど、中国立場は強化されるという関係に立つ。したがいまして、この点に関しましては、すでに時間との競争に敗れたという感じを私は禁じ得ないわけでございます。  しかしながら、そういうような解決策が実現不可能であるといったからと申しまして、逆の極であるところの台湾即時切り捨てという考え方も、私は、アジアの平和あるいは日中平和共存というものにとりまして有利な解決だとは思わないわけでございます。  その理由は幾つか考えられるわけでございますが、まず第一に、これは事実上一方的譲歩であるということでございます。すでに申し上げましたように、平和の確立にとりまして、そういうような一方的な譲歩というものは決して望ましいものではない。したがいまして、ここではむしろ、中国側の原則を尊重しつつ、最大限にこちらの言い分を通す努力ということをすることがまず必要になるのではなかろうかと思われるわけでございます。この場合極端に申しますと、台湾それ自身が問題だというよりは、粘ること、あるいは取引をすることに意味があるとさえいってよろしいかと思うわけでございます。これが第一点でございます。  それから第二点といたしまして、日本台湾即時切り捨ては、東南アジア諸国から見るならば、これも私どもはそれに賛成するといなとを問わず、日本がきわめて大国主義的に行動したと、日本の大国主義に対する恐怖感を呼び起こす結果になるであろうと思われるわけでございます。つまり自分の利益に合致するときは台湾に一生懸命投資をした、しかしながら自分の利益に反する状態になったときには簡単に弱者を犠牲にしたではないか、こういう受け取り方が東南アジアにおいてなされることは、これは否定することはできないと思うわけでございます。  こういうような諸点から考えますと、台湾即時切り捨て論というようなものは、この日中国交回復それ自身を目的とする場合にはともかくといたしまして、アジアの平和、日中共存の手段としての日中国正常化ということを考える場合には、決して望ましい方向ではないという感じがいたすわけでございます。アメリカ中国に非常に接近してまいりました現在の段階におきましても、古くからの友人を尊重するゼスチュア——少なくともゼスチュアだけは示さざるを得ないのが現状でございます。そういう形の努力をすることなしの台湾切り捨てということは、これは望ましくないのではなかろうかと思うわけでございます。  実際に私どもがなすべきであると考えておりますことは、台湾に関して、いま申し上げました二つの両極端的な方式、つまり片方におきましては二つ中国であるとか一つ中国一つ台湾、他方におきましては台湾即時切り捨てというような考え方の両極端の中間のどこかに、日中双方に受け入れ可能な、かつアジアの平和にとりまして最も有利な解決策があるであろうということでございます。日中国関係をめぐる最も重要なポイントはまさにその点を見出すことであるといってもいいのではないかと思うわけでございます。これはまた同時に、米中間におきまして今後行なわれるであろうと思われることでございます。  次に、日本軍国主義復活の問題でございますけれども、中国の申します日本軍国主義というものの意味は、日本で理解されておりますような、日本の軍備強化あるいは軍国主義教育の強化だけをさしているものではないわけでございます。中国の理解におきましては、日本軍国主義の復活ということは、いわゆる奇形的に発展し悪性的に膨張した日本経済と中国が呼びますものにその基礎があると見られているわけでございます。そういうような日本経済の状態を基礎といたしまして、海外拡張、軍事化というようなことが必然となってくる、こういう現象を中国日本軍国主義復活と呼んでいるわけでございまして、したがいまして、中国日本軍国主義復活非難に対しまして、単に口先で軍国主義を否定するあるいは口先で軍国主義に反対するということでは十分な回答にはならないと思うわけでございます。  しかしながら、この軍国主義の問題に対します日本側の回答といたしましても、これまた二つの両極端を想定することができるわけでございます。  まず、一方の極端におきましては、日本の現在の立国の基本方針のみならず社会体制あるいは経済繁栄というものの考え方それ自身を否定しなければならないということもあり得る、中国の軍国主義復活非難の内容から論理的に考えますればそういうこともあり得るわけでございます。  それから逆の極端を想定いたしますと、中国考えているのは、たとえば台湾問題、これが第一である。あるいは国内団結であろうと対ソ関係であろうと、これは何でもよろしいわけでございますが、軍国主義復活に対する非難というのはまさにそういう中国の第一目標に奉仕するための宣伝の手段にすぎないという可能性も、これもあるわけでございます。したがいまして、もしそうであるとするならば、たとえば台湾問題が解決されれば、現在と同じままであって日本軍国主義に対する非難は不問に付されるという可能性もないわけではない。実際にはこの二つの極端の中間のどこかにこれまた日中の合意の成立し得る、日中共存の条件があるはずでございます。それをさがす必要があろうかと思う次第でございます。  このような日中国正常化に関しまして重要な課題は、交渉専門家の手による政府交渉によってのみ達成可能であるということを私は前から主張しているわけでございます。このような交渉は、すでに申し上げましたような、権力政治のことばによって相手を納得せしめることができるならば、現政権のもとにおいても開始可能であるというふうに考えているわけでございます。この交渉は当然にきわめて長期かつ困難なものになるでありましょう。したがいまして交渉開始が早過ぎるということはすでにない、特に現在の情勢のもとにおいてはないというふうに私は考えております。  ところで、こういう日中国交渉を行ないます上において、当然取引が行なわれる。日本の取引能力というものがどれだけあるかということによりまして、さっき申しましたような両極端の間、台湾に関しましても日本軍国主義に関しましても、両極端の間のどこに日中の合意が成立するかということが違ってくるわけでございますが、日本の対中取引能力は、アメリカ中国に対してきわめて強硬態度をとっている中において日本中国にとっての突破口になり得る、そういう情勢があったときに最も取引能力は高かったと思うわけでございます。米中が接近いたしまして、しかも国連代表権問題に関します中国の主張に示唆されておりますように、アメリカに対してよりも日本に対しての攻撃のほうが強化されているような現状におきましては、日本の取引能力はきわめて低下したといわざるを得ないのでございます。ここでも好機をすでに逸したという感じがあるわけでございます。  しかしながら、ニクソンの訪中決定はそういうマイナスの面だけでなくてプラスの面をももたらしているといいふうに考えるわけでございます。その一つは、日中の接近にあたりましに気がねをするて、もはやアメリカ必要がなくなったということが一つございます。しかしながら、これは実はあまりたいしたことではないといわざるを得ない。もっと大事なものは、日本の対外基本政策がこれまで直面しておりましたジレンマをここで脱する機会が得られたということではないかと思うわけでございます。すなわち日本政府はこれまで二種類の相対立する圧力のもとにあったと思われるのでございます。一方の圧力は、たとえば平和憲法というようなものの存在あるいは政府自身しばしば言っておりますように、日本は軍事大国にはならない、平和大国の道を歩みたいというそういう願望、これが片方の圧力でございます。他方の圧力は、アメリカのアジア撤退に伴いまして、日本がその肩がわりをしてもらいたい、こういう要請、たとえば先日のレアード国防長官の来日にあたりましてなされたいろいろな発言に示されるような要求、この二種類の圧力のもとにあったわけでございます。この両者の圧力を折衷することはきわめて困難である。その結果、日本政府がこれまでとってまいりました政策は中途半端なものあるいは二枚舌的なものであったように思うわけでございます。この立場は、権力政治的な観点から見るならば、きわめて理解に苦しむ状態であったといってよろしいのではなかろうか、つまり外部から見ますと、日本が対日不信にさらされる非常に大きな原因が、こういう二種類の圧力の折衷政策をとらざるを得なかったというところにあるのではないかと思うわけでございます。  ところがこのジレンマは米中対決の前提のもとにおける矛盾でありジレンマであるわけでございまして、米中和解の可能性が出てきて、そうしてかつこの新しい情勢のもとにおいてアメリカ日本に何を期待するかということがまだはっきりしていない。レアード的な対日政策は、新しいアメリカのアジア政策のもとにおいて、はたして適合するものかどうかということに大きな疑問があるように思われるわけでございます。そういう状態の中におまきして、権力政治的な利害得失のことばによって、単なる願望としてではなくて、平和大国としての日本基本路線を超党派的な立場で形成するチャンスというものは現在来ているのではないかと思うのでございます。これがまた日本軍国主義への非難、あるいは中国の主要な敵がアメリカから日本に入れかわりつつあるのではなかろうかとおそれられる現在の情勢に対する最適の回答ではないかと思うわけでございます。日中間政府交渉も、そのような長期的ビジョンを背景としましたときに初めて有効に展開し得るように思うわけでございます。  この観点から申しますと、もう時間がございませんので一言だけ申し上げますが、国連代表権問題に関しまして逆重要事項という考え方は、ビジョンを欠いた、アメリカの平和にとってはむしろ不利な政策であるという印象を私は持っているわけでございます。  終わりのほう時間がなくなりまして、詳しい説明は質疑のほうに回さしていただきたいと思います。(拍手)
  63. 櫻内義雄

    櫻内委員長 次に蝋山参考人にお願いいたします。
  64. 蝋山道雄

    ○蝋山参考人 蝋山でございます。  最初に、この衆議院外務委員会におきまして、私の意見を参考意見として開陳する機会をお与えくださいましたことに感謝いたします。  最初に、私の基本的な立場を簡潔に述べさせていただきますと、私は、中華人民共和国のできるだけ早い承認を主張するものでございます。私はこの立場を、私が専門といたしております国際政治の問題の中の一部の問題としてとらえております。日中問題を国際政治上の問題としてとらえるということは、日本にとっての外交政策上の問題としてとらえるということになるわけでありますが、この場合の外交政策上の問題と申しますのは、もちろん国際法的、経済的、文化的、道徳的諸問題を含んだものとして御理解いただきたいと思います。それらの議論をこまかく十分にすることが必要でございますけれども、時間もございませんので、私の議論は基本的に三つの立場からなされているということを最初に申し上げたいというふうに思います。  私の第一の問題意識は、日中間の過去に関する問題でございます。これは主として一九三〇年の満州事変の開始から一九四五年の日本の無条件降伏に至るまでのアジア大陸における日本の軍事的行動が引き起こした問題が依然として完全に清算されていないという事実に関する問題でございます。この問題意識は、これまで日中国交回復の必要性を説いてきた多くの人々の問題意識でありまして、一言でいえばこれは贖罪論ということができると思います。  第二番目は、現在及び将来の日中関係とその意味についての問題でございます。これはたくさんの問題を含んでおりますけれども、それらは主として日本が経済大国になったという事実から派生してきている問題であるというふうに理解いたします。  それから三番目に、これは日本を取り巻く国際環境の急速な変化、換言すれば、国際政治が二極構造から三極構造へ変化したという問題にかかわっております。  もちろん以上あげました三つのこの問題意識というもの、これは私見によりますればそれぞれ別個のものではありますけれども、相互に深い関連性を持っております。そして日本の過去二十年にわたります外交関係基本的な修正を迫るものであり、なかんずく日中国交の正常化というものを要請しているというふうに私は理解しております。  まず第一にあげました過去の清算という問題でございますけれども、これは日中交渉にとって避けて通ることのできないいわば出発点であると存じますけれども、多くの方々がこれまでこの問題を論じており、私として特につけ加えるべき新しい観点を持っておりませんので、本日は割愛させていただきます。したがいまして、二と三の問題について私見を述べたい。次いで、日中関係正常化にからむいろいろな具体的な問題のうち、最も重要であると思われる点について、私の立場を説明したいというふうに思います。  まず第一番目に、日本の大国化、これがもたらす問題といいますのは、基本的には二つの異なった側面を備えているように思われます。  まず第一の側面は、過去約十年間におきます日本経済の歴史に前例を見ない急速な成長の結果、日本は国際環境から一方的に影響を受ける弱い立場から、逆に、国際環境に大きな影響を与える立場になったという事実でございます。第二の側面は、その間日本人の思考傾向並びに国際社会における行動様式というものが、日本立場の変化についての十分な認識に基づいて変化してこなかったということでございます。  日本の大国としての客観的な存在、この存在自体が実は日本の周辺諸国に大きな衝撃を与えているのでありますけれども、この日本の客観的な存在と、日本人の主観との間にギャップが生じまして、そのために多くの国際的な緊張が生まれたというふうに私は考えております。  まず第一に、日米経済関係の悪化ということも、実はこの問題から発していると思います。  さらに日本の軍国主義化に対するいろいろな国々における懸念の増大、もちろん中華人民共和国におきますところの日本軍国主義批判というものが一番重要ではありますけれども、この問題は決して中国に限った問題ではございません。例の米中接近の立て役者を演じましたところのキッシンジャー博士自身が、昨年の八月に日本の軍国主義化の可能性について発言をしております。  次に、やはり東南アジア諸国における日本の経済協力というものに対する期待が増大いたしてまいりましたけれども、それと同時に、日本の経済支配というものをおそれる空気もまた強くなってきた。  この三つの問題点というものは、すべて一つのこの日本の大国化というところから出ているように私には思われます。  このようにして日本が大国化していった、しかし日本人の自己認識というものが十分に変化しなかったということがいろいろ問題を生むわけでございますけれども、その間外国より、特にアメリカあるいはヨーロッパ諸国から、日本は大国になったのであるから大国にふさわしい役割りを果たせという声が年々強くなってまいりました。どのような役割りを果たすにせよ、日本が何らかの役割りを果たせるためには、外交関係基本的なワク組みを修正する必要があったわけでありますが、それをしなかったために、一九六九年の日米共同声明に示された対外姿勢の積極化というものが、結果的にはアメリカの役割りの肩がわりという現象を生んでまいりました。日中間の緊張を高める結果となったわけでございます。この問題は日本経済の高度成長が続く限り、強まることがあっても弱まることはないというふうに私は理解しております。もしも日本人が一切の経済活動を停止して冬眠状態に入るという状態が可能であるならば、つまりこの問題を避けながら時間をかけて日中問題を考えることは、たぶんできるだろうと思います。しかし日本の経済活動の冬眠化ということができない相談である以上、実は日中関係の改善というものは、残念ながら時をかすことができない。しかも、岡部参考人も言われましたとおり、実はもうかなり時間的におくれをとっているというのが事実であろうというふうに思います。  次に、第二番目の問題意識でございますところの国際政治構造の変化という問題に移りたいと思います。  これはいわゆる三極構造の出現ということで、最近では新聞紙上あるいは各種の雑誌、論文などにおいてほぼ常識的に使われるようになった概念でありますけれども、必ずしもその三極構造の持つ意味というものが正確に理解されているようには私には思えないわけでございます。第一に、この四月にいわば突如として起こりましたところの米中間のピンポン外交というもの、それからさらに引き続きますところのキッシンジャーの北京訪問というこの一連の事実は、この一連の現象というものが三極構造を生んだのではなくて、三極構造が成立していたからこそこのような一連の行動をとることが可能であった。しかもまた、アメリカにとっても中国にとってもある程度までこの米中接近ということが必然化されたというふうに私は理解しております。もちろんニクソン大統領の外交政策上のいわば百八十度の転換というものは、米国の国内情勢、たとえばベトナム戦争の非常な困難増大というものがアメリカ国内諸条件に非常に大きく反映いたしまして、アメリカ国内政治的な問題というものが悪化をたどってまいりました。それがベトナム秘密文書の暴露というような非常にセンセーショナルなできごとを通じて決定的な打撃を与えたと言うことができますし、またニクソン大統領としては、当然のことながら来年の大統領選挙のことを考慮しておったに違いないと思われます。しかし、国際政治の構造変化がなければ、ニクソン大統領がいかに米中接近を考えたとしても、その政策転換というものはなかなか必然化されなかったのではなかろうかというふうに思うわけであります。  さて、この三極構造の出現ということでございますけれども、二極構造というものも、あるいは三極構造という概念も、これは国際政治を動かすいわばエネルギーのセンターが地球上に幾つあるかという構造上の分類概念でございますけれども、この二極構造、三極構造というものを、われわれの持っております歴史的な知識の中でうまく先例を見つけることができないという問題がございます。そのためにこの三極構造というものが一体どういう意味を持っているのか十分に理解することが非常にむずかしくなるわけでございますけれども、いずれにしても第二次大戦後、アメリカ及びソビエトというこの二つの超大国をそれぞれの中心として発達してまいりましたところの冷戦構造、これが二極構造と呼ばれるものでございますけれども、これが開始されてから約十数年の後、徐々に徐々に変化を始めました。一九六〇年代というものがこの二極構造の変化の期間であったというふうに考えられます。それが大体一九七〇年ごろを境としてかなり明確に三極構造へと転化してまいりました。そして、これがなぜそういう変化を遂げたのかということにつきましては、いろいろな要因が考えられますけれども、その中でどうしても無視することのできないものは、この三つの国における核兵器の発達ということであろうと思われます。  この非常に複雑な問題を単純化して申し上げますと誤解の原因にもなるわけでございますけれども、私の理解するところの核兵器が及ぼした国際政治的な意味というものを非常に簡単に考えてみますならば、これはアメリカとソビエトとの冷戦的な対立を平和共存へと変換させる必然性というものがこの核兵器の発達によってもたらされたというふうに考えるわけでありますけれども、もしもこの考え方が正しいとすれば、やはり同様なことがアメリカ中国との間に、及び中国とソビエトとの間に起こらざるを得ない。問題は、それがいつ、どういう形で出てくるかということでございまして、私としては、大体一九七五年以降にそういうような構造変化というものが明確にあらわれるであろうというふうに数年前から考えてまいりましたけれども、実はその私の予測よりもよっぽど早く、実はことしの秋に成立した。これが一体何の原因であったか、これはもう少し研究が必要であったろうと思いますけれども、この中国とソビエトとの間の関係の、特に軍事的な関係の悪化という問題が一つの無視できない要素として存在しているように思われます。そうでなければ、アメリカが現在ベトナム戦争の収拾という問題をめぐってたいへん苦慮している、したがって、中国、それから北ベトナム、南ベトナム民族解放戦線その他共産側の立場というものは、実は現在軍事的にもだんだんと有利になっております。政治的にも有利になっております。なぜこの機会にアメリカの対中接近というものを中国が受け入れなければならなかったか、ソビエトとの関係を考慮することなしにこの問題は考えられないのではないかというふうに思います。  いずれにしましても、私が予期していたよりも早くこの三極構造というものが出現いたしまして、それに基づいた新しい外交関係の出発というものがすでに実際になった以上、日本の二十年間続きました、いわば基本的に冷戦的なパターンを持っておるところの外交関係というものも、また急速な修正を余儀なくされていくというふうに思われるわけでございます。その中で最も重要なものは日中国交の回復ということになるわけでありまして、それにからみますところのいろいろな実際的な問題、たとえば台湾の問題その他いろいろむずかしい問題がございますけれども、それは日中接近という問題を真剣に考える必要に照らして考えますならば、いずれも二義的、三義的な問題であるというふうに私は考えるのであります。   〔委員長退席、正示委員長代理着席〕 特に、いろいろ具体的な問題がございますけれども、残念ながらわが国の外交政策というものが、特に対中国政策をめぐりましては、終始国連代表権の問題として考えられてきたということが言えるのではなかろうかと思います。しかし、国連代表権問題にあらわされた中国意味といいますのは、実は国連の集団的な意思決定の問題にかかわっておるのでございまして、これは日本中国という二国間の政治問題とは実は別個の問題でございます。私にとりましては、実は国連代表権問題よりも中国日本との間の二つ国家関係というもののほうが重要でございまして、実は日本中国承認するのかしないのか、これはさっき岡部参考人が述べられましたように、実はそれが問題ではなくて、いつするかという問題になってきたわけでございますけれども、その意思決定が行なわれないときに、国連代表権問題というものに対していかなる戦術的な立場をとろうとも、それはどうしても小手先の技術になってしまうという問題がございます。もちろんアメリカもこの点確かにいろいろむずかしい問題をかかえているようでございまして、この秋の国連総会においてはたしてほんとうにアメリカがどんな具体的な態度をとるのか、まだ必ずしも明確になったとは思われないと思います。大統領は、この間の中国との共同の声明におきまして、米中接近によって古い友人を見捨てないということを言いましたわけでございますけれども、この七月二十七日でございましたか、キッシンジャーの北京訪問の裏話をアメリカの高官が行ないました場合に、明らかにキッシンジャーは、この行動によって幾つかの古い友人たちが傷つくであろうことを十分に承知していたということが明らかにされております。さて、そういたしますと、アメリカ一体何ができるのかというふうに考えますと、私が非常に皮肉にこれを解釈いたしますと、アメリカがこれまでしばしばとってまいりました一種の外交的な策術から考えますと、大統領の声明と、それから上院の行動、この二つをあわせて考えなければいけないのではなかろうかというふうに思います。  一つの先例といたしまして、ウイルソン大統領が国際連盟をつくるのに大いな尽力をいたしましたわけでございますけれども、結局はアメリカの上院の承認を得られませんで、結局米国は国際連盟に加盟しなかったという先例がございます。それから戦後、第二次大戦後もしばしばアメリカがこういう大統領、行政府と立法府との間の意見の違いという先例を示しておりますけれども、一つ可能性といたしまして、大統領が古い友人を見捨てないと言い続けながら、立法府が結果的に古い友人を見捨てるような投票を行なうということは可能であります。それによってアメリカの行動は決定する。そして大統領も実はメンツを立てることができる。しかしながら、やむを得ず捨てざるを得ないということが考えられないでもないというふうに私は考えております。したがって、日本における対中承認慎重論というものがたくさんございますけれども、私がそれに反対する理由は、すでに先ほど日本が冬眠できないという問題として説明しましたが、二番目に、多くの論者が日本の国益を無視して早急な対中共接近をしてはならないということを議論しておられます。しかしながら、対中共慎重論というものを唱える日本の国益というものは一体何であるのか、つまり台湾との関係をいわゆる恩義論に立ちまして最後まで死守する、これはいかにも倫理的な態度であるように思われますけれども、ついには日本はこの立場を守り切ることができないということは火を見るよりも明らかでございます。いずれにしても、この倫理的な観点というものを国際政治上の、外交政策上の意思決定の非常に重要なファクターとするということは、どう考えてみても不可能であるというふうに思わざるを得ません。それから、私の立場といいますのは、もちろん主として政治的な判断でございます。けれども、国際法的な判断も全くないわけではございません。いわゆる台湾に対する恩義論、特に蒋介石総統に対する恩義論というものがございますけれども、これがいつの間にか事実を忘れまして、非常にエスカレートしているのではなかろうかという気がするわけでございます。そのたった一つの例を申し上げますけれども、外務省の百年史編さん委員会が編さんいたしましたところの「外務省百年」というたいへん大部の二巻の本がございます。これは一九六九年七月に刊行されております。これは決して政府の公文書ではございませんけれども、愛知前外務大臣も序言を書いておられまして、いわゆる準公文書であるというふうに考えられますけれども、この中に、第一巻の八一二ページに、日華平和条約の締結のための交渉が行なわれたときのいきさつが書いてございます。そして結果的には日本は河田全権が限定講和の方針に基づいて、台湾に関する事項だけを盛り込んだ日華平和条約というものをつくられたわけでございますけれども、そのとき双方の最も大きな争点の一つとして次のようなことがあげられております。つまり国府側は、対日戦争の最大の犠牲国である中国が賠償を放棄しては中国国民感情が許さないとして、賠償条項の存続を主張した。しかしながら日本側は、大陸における中国戦争損害についてはこの条約適用範囲外のことだから削除すべきであるということを主張して、これが結局実現した。これが日華平和条約一つの重要な意味であったというふうに私は考えております。したがいまして、政府が最近とってまいりましたところの、日華平和条約によって日中戦争は一切法的に処理されたという立場は、どう考えてみてもうそである、間違っているということがいえるわけでございます。したがいまして、慎重論、恩義論というものは依然として存在しているわけでございますけれども 私どもの考えますところの国際政治の変化がもたらすところの要請、それから日本自体の変化がもたらすところの要請という点から考えますと、いずれも十分な反論の論拠を持っていないというふうに考えます。
  65. 正示啓次郎

    ○正示委員長代理 和田参考人
  66. 和田一夫

    ○和田参考人 きょうの会合で私の意見を申し上げる機会を得ましたことをうれしく思いますが、すでに皆さんが御承知のように、中国問題は国際的にも大きな課題になっております。同時にわが国においても、かつてなかったほどの国民世論の高まりを見せているのでありますが、アメリカの逆重要事項指定方式日本政府が順応して提案国になろうというふうなことが伝えられておりますが、このことは日中国交回復を望む国民世界の流れに逆行するものというふうに考えるわけですが、私はここで、思想、信条、政党政派が違っていても、まじめに日本の将来を考える者は、どうすれば日中国交回復の正しい道が切り開けるかという問題について考えてみる必要があると考えるわけです。しかしこの場合、まず最初に前提として考えなければならない問題は、ともすれば日本中国との国交正常化がイタリア方式とかオーストリア方式になるのだろうかとさまざまな論議が行なわれておりますが、私は日本中国国交正常化する場合は、イタリア、カナダなど現在外交関係を樹立しております六十六カ国、今後中国と外交関係を打ち立てるであろう諸国と全然違った立場に立っているということを日本問題として真剣に考えないならば、日中国交回復の道筋は明らかにならないと思うのであります。  では、どういう点が諸国と違っているかと申しますと、いまさら私が申し上げるまでもなく、満州事変と呼ばれる侵略戦争の開始から十五年、日中戦争の全面的な展開がありました蘆溝橋事件から一九四五年に至る八年間、中国に対するあの侵略戦争を行なって、カイロ宣言、ポツダム宣言を受諾して、そうして無条件降伏をしたという事実を持った国は、他の諸外国にはないのであります。したがって、わが日本においては中国との国交正常化という問題は、中華人民共和国との間に平和条約を締結しなければならないという道筋が横たわっている、これが他国と違っている第一の点でございます。  第二の点は、中華人民共和国平和条約を結ぶべきであるにもかかわらず、不幸な選択、すなわち中国人民から見捨てられアメリカの兵力にささえられてわずかに台湾に居すわっている蒋介石亡命政権との間で、にせの平和条約、すなわち日本国と中華民国との平和条約——私はこれは日華条約と以後呼ばしていただきたいと思うのですが、この条約を結んだ。   〔正示委員長代理退席、委員長着席〕 しかもその前提となっていたのは、中国とあの侵略戦争をやったわけですから、講和会議には中国を入れなければならないのに、中国を除外した単独講和、サンフランシスコ平和条約が結ばれた。こういうところに日本日中関係の不幸の始まりがある。このことは私がくどくど言う必要はないと思いますが、以上の二点についていままで日本政府が主張してまいりましたのは、一つは蒋介石政権に対する道義論、信義論、こういうものがあります。二番目には蒋介石のいわゆる国府なるものを正統政府として扱い、台湾に固執する態度を一貫して持ってきた。この二つの点について私は焦点を当てて、その不合理性、不条理を指摘して参考に供したいというふうに考えるわけでございます。  まず第一の問題。信義をだれに尽くすのか。信義を尽くすのは台湾に居すわる蒋一派ではなくて、中国人民とそれを代表する中華人民共和国政府である。このことを歴史的な事実に基づいて申し上げたいと思うのです。  日本がポツダム宣言を受諾した一九四五年八月十五日に、中国解放区の抗日軍の朱徳総司令は、アメリカとイギリス、ソビエトの駐華大使に覚え書きを送りました。そしてこの覚え書きを本国の政府に伝達すること及びそれぞれの国民に通知してもらうようにこの通達を出したのでございますが、この覚え書きの中に朱徳はこう書いております。中国の十九の省に大きな解放区があって、そこの人口は一億をこえている。日本の被占領地域に住んでいるのは一億六千万おりますが、解放区の中には百万人以上の正規部隊、二百二十万にのぼる民兵を持っている。そうして日本政府がポツダム宣言を受諾した今日、抗日戦争の実情をつまびらかにする必要がある。この八年間、抗日戦争の中で中心的な役割りを果たしたのは決して国民政府ではなかった。その当時においてすらも、東北の四省を除きまして、日本軍の六九%。かいらい軍の九五%を迎え撃って包囲している。国民党は日本軍との正面衝突を避けながらその力の温存をはかり、座して勝利を待っている。したがって解放区抗日武装勢力、この二億六千万の中国人民は、将来の日本処理の講和会議及び国連会議に参加する自己の代表団を選出して発言する権限を持っているということを通告いたしておるのであります。一九四五年当時においてすら、中国国民政府なるものは全中国人民を代表したのでもなければ、日本軍との抗日戦争の主力に当たったものでもないことは当然でございます。そして、皆さん、私が繰り返して言うまでもなく、焼き尽くし、殺し尽くし、そして奪い尽くすという三光作戦などによって中国人民に与えた被害は、当時の財貨にして五百億米ドルをこえ、殺傷は一千万人以上にのぼっていることを考えます、こうした場合に、私たちはどこに信義を果たすべきかということは明白だと思います。  まだ続けて申し上げますと、日本が無条件降伏を行なってから中国の建国の前夜、一九四九年九月二十九日に中国人民政治協商会議の第一回全体会議は対外政策の共同綱領を採択いたしましたが、その中で対外政策について、共同綱領第七章にはこのようなことをうたっております。国民政府と外国政府との間に締結した各種の条約及び協定に対しては中華人民共和国中央人民政府は審査を加え、その内容によって、それぞれ承認または廃止または修正または再締結を行なわなければならない、と書き、そしてこの第五十六条には、およそ国民党反動派との関係を断ち、かつ中華人民共和国に対して友好的態度をとる外国政府に対しては、中華人民共和国中央人民政府は、平等、相互利益及び相互に領土と主権を尊重することを基礎としてこれと交渉し、外交関係を樹立する。第五十七条には、このことを基礎として国交を友好的に打ち立てて、経済、人事、文化の交流を発展さすということを、建国の前日にうたっているのであります。  一九五三年以後一貫して中国日中関係正常化の手を差し伸べていることを考えますと、蒋介石に対する信義論の破産は明らかであります。私たちが全国で行なっております再び中国を侵略してはいけないという日中不再戦運動が政党政派を越えて国民の共感を得ていることもこのことを立証しているというふうに考えるわけです。  第二のいわゆる中華民国、蒋介石集団を国家に仕立て上げた虚構について、私はその不合理性をはっきりと見ておく必要があるというふうに考えるわけです。それは、この日華条約を基礎として、アメリカの武力にささえられてわずかに余命を保つ亡命政権国家に仕立て上げたのが日華平和条約であるというふうに私は考えなければならないと思います。重ねて申し上げますが、それは先ほど申し上げました一九四五年の朱徳の覚え書き時期ですらも、国民政府中国人民を代表していなかった。そして一九四九年十月一日中国が建国され、蒋介石が逃げ込んだ台湾の人口は二%にすぎないのであります。そしてほんとうにアメリカが言ったことに忠実であろうとするならば、中国が建国されて二カ月たってから、一九四九年十二月二十三日にアメリカの国務省は台湾政策に関する宣伝指示というものを出しております。この中で、台湾政治上及び戦略上、中国の一部分である。それは日本に五十年支配されたが、歴史上から見て、それは中国のものであり、政治上及び軍事上からいって一切のものは重大な中国責任にかかっているということをいっておりますし、朝鮮戦争の起こった一九五〇年一月五日のトルーマン声明につきましては私がいまさらここで引用するまでもなく、諸先生方は十分知っておいでになることだというふうに考えます。この場合にこういう議論があるわけでございますが、この中国を除外した単独講和を結んだあと、そして一九五一年十二月二十四日に吉田書簡なるものがダレス氏との間に取りかわされるわけですが、これはアメリカに強制されたものであるというふうにいわれておりますが、やはりこの書簡の一番最後の「日本政府中国の共産政権と二国間条約を締結する意図を有しないことを確言することができます。」というふうに述べている点を考えますと、決して強制されたというよりも、私は不幸な選択であったというふうにいわざるを得ない、このように考えるわけです。  ここで日華条約の点について私はもう一、二触れておかなければならない点は、日華条約の第一条で、皆さん御承知のように中華民国との平和条約は結ばれた、こう書いてありますが、これと交換公文を照らし合わせてみるときに、私はこの当時日本政府アメリカ政府も、いわゆる蒋介石集団も再び大陸に反攻して新しく生まれた中華人民共和国を転覆する意図を持っていたということを指摘しなければならないわけであります。なぜかと申しますと、交換公文の中にはこの条約適用範囲は台湾と澎湖列島であるが、今後その蒋介石政権の施政権が広がるに従ってその適用範囲を広げると書いてあるのであります。  私は、時間の関係二つの事実だけ申し上げればいいと思うのですが、それは日華平和条約が結ばれてから五年たった一九五七年の二月に岸内閣が登場いたします。岸さんは東南アジア六カ国を訪問し、六月の三日には台北に蒋介石を訪れて会談し、そのときに蒋介石の大陸反攻を激励する演説を行なって長崎国旗事件の前提ともいうべき条件をつくり出したということを想起しますと、また一九五八年の八月には台湾海峡でアメリカ軍に支援された蒋介石の軍隊が金門馬祖台湾海峡を中心に中国に対する軍事挑発を企てたことを考えますと、現在では大陸反攻などとまじめに考える人は国際的にはないわけでございますが、こうした事実を見ます場合に、この日華条約というものは日中国交回復を妨げると同時に、露骨な中国敵視の条約であることがはっきりいたしておるのであります。  そして、時間の関係で省略いたしますが、日華平和条約なるものは国際法的に見ましてもカイロ宣言とポツダム宣言を踏みにじり、日本降伏文書にも違反するものであり、そして中国領土、主権を侵害し、民族自決権を侵している不法、不当な条約であるというふうにいわざるを得ないのであります。そのために私たちは日中友好、国交回復を望む者は一貫してこの破棄を要求してきたのは日本の正しい将来を、以前おかしたあやまちを取り返さなければならないというふうに考え日華平和条約の破棄を進めてきたのであります。  要約いたしますと、日本が真剣に国交回復を考えようとするならば、にせの平和条約である日華平和条約を破棄することを前提に日中平和条約を結ばなければ、他の諸外国と違って、日中の正常化はできないということ、そしていまこそ日華平和条約廃棄に踏み切るべき時期を迎えている。国際的に見ましても、国内的に見ましても、そのことははっきりと言い得るのではないか。この道こそが一九五二年、わが国の進路の選択の誤りを正し、そして侵略戦争の上に選択の誤りという二重のあやまちを日本国民責任で果たしてこそ、中国人民との相互の連帯と友好、そしてアジアの平和に貢献することができるのではないかというふうに考える次第でございます。  最後に、時間が迫ってまいりましたので、私は日中国交回復の実現は、それもほんとうに日本自主性を堅持し、平和五原則をたてまえにした国交回復を実現いたしますならば、アジアの平和と緊張緩和に大きく貢献するのみならず、日中両国の友好関係の上で、経済、人事、文化の交流を発展させることは、わが国の繁栄と将来にとってきわめて重要なことであるといわざるを得ません。そうして私たちはこの日台条約日華平和条約の破棄を前提にした国交回復の方向に踏み切り、そしてアメリカ中国政策に一喜一憂することなく、やはり日本の進むべき道を日本人が責任を持って進むということを考えて、先ほど申し上げました方向に進むと同時に、最後にもう一つ申し上げなければならない点があると思います。それは国交回復の障害を取り去って進むだけでなくて、国交回復の障害を積み重ねるようなことを戒めなければならない。多くの時間を持っておりませんので要約しますと、日本の軍国主義復活にやはり大きなおそれ——おそれと申しますとちょっとことばが誤解を生むかもわかりませんが、過去の経験から注目しておる点を考えますと、日本軍国主義の復活の問題もしくは先日日米両国政府で調印されました沖繩協定の中でVOAの基地を五年も置き、米軍基地やそういうものをそのままにしておくというふうな沖繩協定の問題、こういう問題、冒頭に申し上げました逆重要事項指定方式なるものを日本が共同提案国となって、そしてアジアと世界の孤児になるというふうな道、こういう道を戒めてこそ、私は日本国民の願っている日中国交の正常化ができる。問題は、日本国内にあるのであって、関連はありますが、諸外国にその障害があるのではないということを、私たちは日中問題を考える場合に基礎に置かなければいけないのではないか、このように考えます。  簡単に参考意見を申し上げさせてたいただいて、皆さんの御検討をいただきたいと思います。ありがとうございました。(拍手)
  67. 櫻内義雄

    櫻内委員長 これにて参考人の御意見開陳は終わりました。     —————————————
  68. 櫻内義雄

    櫻内委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。山田久就君
  69. 山田久就

    ○山田(久)委員 最初に岡部さんにちょっとお尋ねしたいと思います。  先ほどの非常に実際的な見地に立っての外交上の評価と政策、いろいろ傾聴すべき点が多かったと思うのでございまするけれども、最後にいろいろお話しになったその見地に立って、日本のいわば基本的路線というものを超党派的にいろいろ考えてみる必要があるのじゃないかというお話がございました。なかなかこれはむずかしい問題ですけれども、もし岡部さんがその点について何かお考えがおありでございましたら、またこの段階において御発表可能であれば、ちょっとその点についてのお考えをお伺いしておきたいと思います。
  70. 岡部達味

    ○岡部参考人 ただいまの御質問、非常にむずかしい問題でございまして、歴史的に申しましても日本のような立場にある国家は、過去の例で申しますと、たいてい政治大国へ、そして軍事大国へという道を歩んだのが普通であるかと思うわけでございます。だからこそ日本が経済大国化している状態を見まして、外部から日本が軍事大国化するのではないかという懸念というものが非常に強く抱かれているわけでございまして、私先ほど申し上げましたような平和大国としての日本基本路線を形成すべきであるというようなことを申したわけでございますが、それは実は口で言うほど簡単なことではないわけでございます。したがいまして、私もこれに対しましてこれこれこうすればよろしいというような妙案は持っていないのが実情でございます。ただ、実例で二、三申し上げられるかと思うのでございますが、たとえば私、平和大国としての基本路線を権力政治のことばで、利害得失のことばでいうべきである、願望としてではなくそういうことばでいうべきであるということを申し上げたわけでございますが、その意味を実例に即しまして二、三申し上げますと、おぼろげながら私の考えておりますような方向——その方向がもし正しいとするならば皆さまに御検討いただきたいわけでございますが、それが明らかになるかと思うわけでございます。  たとえば一例をあげますと、マラッカ海峡は日本の生命線であるというような発言がございます。で、マラッカ海峡を御承知のとおりに日本の原油の大部分があそこを通っております。したがいましてマラッカ海峡が脅かされるような状態になった場合には、軍隊、軍艦を派遣してこれを守れというような発言があるわけでございます。それに対しまして、そんなことはすべきでないという発言があるわけでございますが、すべきでないという根拠がこれまでのところあまり明白でない。むしろ願望としてあるいは道義的な問題として、日本の国是としてそういうことはすべきでないということにとどまっていたように思われるわけでございます。この点を、たとえば日本がマラッカ海峡というものに確かに石油の輸送というようなものを非常に依存している、そこが脅かされれば確かに非常に困ることは明らかでございますが、そこへかりに軍隊を派遣した場合、その生命線を守ることが一体できるのかどうかということ。これは現在の国際関係における軍事力の役割りあるいは東南アジアの国際関係、ナショナリズムの問題等々との関連におきまして、おそらく否定的な結論がきわめて権力政治的な観点から出てくるであろうと思われるわけでございます。そうであるとするならば、これは単に道義の問題として否定する。したがって、相手がこちらの申す道義を信用しなければそれまでだということから一歩脱しまして、なるほど日本の利害得失から考えてもそういうことはすべきではないんだ、そういうことは外部の国々にもわかっていくということが可能になる。そういうようなものを積み重ねていきまして、それでは軍隊の派遣以外に何のどういう対策があるかというようなこと、これはもちろん現在の状況におきまして非常にむずかしいわけでございますが、そういう方向への議論を進めていくこと、これが大事ではないか、こういうふうに考えるわけでございます。  それからもう一つの例として申し上げるなら朝鮮問題。朝鮮半島におきまして南北両朝鮮の間に戦乱が起きた場合に、これは日本にとりまして非常に重要な問題です。その場合に、しかしながら日本の自衛隊を韓国に派遣することによって、たとえば北朝鮮の勢力が釜山まで来ることを防ぎとめることができるのかどうかという問題、これもきわめて権力政治的なことばで考えまして、おそらくそういうことは可能でないという結論が容易に出てくるであろうと思われるわけでございます。そうであるとするならば、それにかわる案はどういうものがあるだろうか、こういう観点から考えていくべきである。そういう考え方を念頭におきまして、先ほどのようなことを申し上げたわけでございます。しかしながら、より具体的な代案といたしまして、まだ私自身も残念ながら十分な考え方が固まっておりません。むしろ政治に直接携わっていらっしゃる先生方がこういう問題につきまして、もっと現実的な議論をしてくださるということを私ども期待したいと思っておるわけでございます。
  71. 山田久就

    ○山田(久)委員 次に、蝋山先生にちょっとお尋ねしますが、先ほどキッシンジャーの軍国主義の話に言及されましたが、いずれにしてもこの軍国主義についてのいろいろな批判というものは、われわれがこれについては非常に慎重に考えなければならぬといたしましても、キッシンジャーの時の発言はむしろ非常に政策的な発言じゃなかったか。日本についてアメリカがあまりエゴイスティックな立場をとればこうなるぞというような、そういう面がむしろ強かったのではないかというふうに私は見ておるのですけれども、その点どんなものでございましょうか。いわゆる軍国主義論として指摘されるのには多少そういう点でと、こういうふうに思ったのですけれども、先生のお考えをちょっと。
  72. 蝋山道雄

    ○蝋山参考人 お答え申し上げます。  実は昨年の秋ぐらいに、私例のキッシンジャー発言、最初はホワイトハウス某高官の発言ということで日本に紹介されたわけでございますけれども、この問題を考えましたときに、いろいろな解釈可能性があるというふうに思いました。  一つは、ちょうど昨年の五月にトリュード・カナダ首相が日本に見えます前に、シンガポールにおける発言でございましたか、アメリカ日本の帝国主義の比較論と申しますか、日本の帝国主義よりもアメリカの帝国主義のほうが、帝国主義の形態としてより安全であろうというような発言を記者会見でされたわけでございます。それに対し佐藤首相は反論されまして、トリュード首相が訪日されて佐藤首相とお会いになったときも反論されたということを伺っておりますが、つまり日本は決してそうはならぬ。つまりアメリカとイギリスがアジアから軍事的に撤退してしまったとしても、その真空を日本は埋めるようなことはしないという形でお答えになったように思われます。ということは、アメリカの軍事的な全面撤退ということを日本の首相は前提としてものを考えているという危惧をアメリカの政策決定者が持ち出したのではなかろうか。そうだとすると、日本はたいへん間違った解釈をしている、そういうふうに向こうの何人かの人々が思い出したということを私はつきとめまして、それがこのキッシンジャー発言の一つの理由になったのかなというふうに解釈いたしました。しかしながら、実はキッシンジャーという人は、すう十年近く前に最初に日本に参りましたときに、実は外国人の中で、日本が将来核武装するであろうということを最初に言った人でございます。ですからキッシンジャーは、岡部参考人も言われましたように、国際政治の問題を完全にパワーポリティックスの次元からとらえておりますから、つまり経済大国になった日本が、政治大国さらには軍事大国にならないはずはない。それが国際政治の要請であるというふうに考えているに違いないと思います。ですからある意味では、日本が打ち消せば打ち消すほど日本を信用しなくなるというような形で考えているのではなかろうか。そしてそのような危惧というものが全く誤解に基づいているというふうには、私はやはり言い切れないのではなかろうか。  最近の米中接近の原動力というものをどこに置くかということは、いろいろむずかしい問題だと思いますけれども、少なくともキッシンジャーと周恩来の間には、やはり将来の軍事大国日本というものについての共同認識というものが全くなかったとは言い切れないのではなかろうか、そういうふうに解釈いたします。ですから、軍国主義化という、主義ということばが適当かどうかわかりませんけれども、日本の軍事力の増大ということを中国アメリカは全く前提として考えているということはいえるのではなかろうか。  そこで、最近のレアード発言と一体どういう関連があるのか、そのことについて岡部参考人も多少の疑問を提出されたわけでございますけれども、私も一体このニクソン考えております長期的な国家目標と、それからレアードが示したところの非常に短期的な国家目標というものが、アメリカの全外交政策の中でちゃんとシステマチックに成り立っているのかどうかということについては、いささか疑問を持っております。レアードの考え方のほうが全く目前の問題を、しかもペンタゴンの軍人たちの考え方を反映した形で述べたのではなかろうか。そこで、日本としては、レアードの発言に惑わされることなく、むしろニクソンの長期的なアメリカ国家目標というものを重要視したほうが適当だろうというふうに考えます。
  73. 山田久就

    ○山田(久)委員 その点は、キッシンジャーはパワーポリティックスの見地で非常に理解力を持っている、そういう考えがあることもこれは賛成です。それから周恩来とその面において日本の将来ということで相当話し合いが出たかもしれないということも私はわかります。ただ、ちょうど引用されたその面での点は、つまりまあちょっと別の角度じゃなかったかということを申し上げただけです。これはもうそれで質問を打ち切ります。  次に、和田さんに対してですけれども、いろいろ長々と御名論を伺ったわけですが、あるいはちょっとイデオロギー的ないろいろ考えをお持ちなんじゃないかということで、質問と答弁が食い違う、うまくかみ合わないかもしれませんけれども、つまりあなたの言っておられた選択の誤りという問題ですね。あのときにおいて日本が一日も早く独立を回復する、日本が無条件降伏をして占領されておったあの条件で、一日も早く独立を回復して、そして国際社会に復帰する、つまりそういう見地に立ってあなたが批評されるとしたら、そういう見地により沿った有効な他の選択は、しからばあなたは何であったとお考えになっておられるのかという点についてちょっと質問します。
  74. 和田一夫

    ○和田参考人 その点は、私はその日華平和条約前提となったサンフランシスコ平和条約の問題にさかのぼらないといけないのじゃないか、(山田(久)委員「むしろその点についての質問です。」と呼ぶ)その点について、その当時私たち日中友好を願う者は、単独講和に反対して、全面講和をやらなければ日本の道はまずいというふうに考えておりましたし、そしてその運動にも現実に参加してきたわけです。で、この点を見てみますと、いわゆるアメリカの長期占領に対して、イギリスもやはり早く講和をしろと言っておりましたし、中国もソビエトも、中国先ほど申し上げました時期から、政治協商会議、この時期にも、一九四九年の七月七日にもスローガンを出しまして、そして日中関係はこれで新しい情勢が生まれてくるのだ、友好関係が打ち立てられのだ、そのためには日本の早期全面講和をポツダム宣言に基づいてやることを願う、こう言っていたと思うのです。ところが、ソビエトも中国を入れなければほんとうの対日講和条約はできないということに対して、私、日にちをちょっと失念いたしておりますが、中国を入れることをソ連側があまり強く主張するのだったら、ソ連や中国が入らなくても単独でアメリカ講和条約の工作をするということを言っていたわけですね。やはり私はこのアメリカの単独講和に屈服したところに不幸のまず第一の選択があった。  そしてこの平和条約を結ぶ、中国を除外して結んだわけですから、どうしても中国平和条約の形を整えなければならなくなって、平和条約の締結と安保条約の発効の日、やはり蒋介石政権台湾へ一九五〇年の六月に逃げ込んだ時期を見はからって、ここでダレス書簡が十二月二十四日に出される、不幸な選択をアメリカが迫ってきて、そしてそれに屈服したという点が私は日中関係の不幸の始まりだというふうに——イデオロギー的というよりも歴史的な事実で違いがあるかとも思いますが、お答えになっていないと思いますけれども……。
  75. 山田久就

    ○山田(久)委員 もういいです。相手を屈服させるというのはなかなかできなかったでしょうね。
  76. 櫻内義雄

  77. 正示啓次郎

    ○正示委員 どうも三参考人ありがとうございました。  私は岡部先生と蝋山先生一つずつお尋ねを申し上げます。  まず岡部先生に伺いたいのでございますが、先ほども、われわれの立場というものを粘りに粘って貫くということが国際政治一つの平和を願う目標になるのだ、達成するゆえんである、非常に私も同感でございます。  そこで端的に伺いますが、中共との国交正常化、これは国連加盟の問題とはおのずから別の問題でございますが、幸か不幸か、いま国連総会における中国代表権問題という形でまずわれわれはそれに対処しなければならぬことになってまいりました。そこで、ずばりそのものをお伺いいたしますけれども、岡部参考人は、昨年単純多数を得られたアルバニア型決議案、これはすでにもう国連に出ておるわけでございますけれども、これに対して日本はどう対処すべきとお考えでございましょう、その点をまず第一に伺います。
  78. 岡部達味

    ○岡部参考人 アルバニア決議案についての私の判断を申し上げます前に、逆重要事項の問題につきまして、先ほど詳しく申し上げませんでしたので、それを説明さしていただくことがまず順序がよろしいかと思いますので、逆重要事項についての私の見解を最初に申し上げさしていただきたいと思います。  逆重要事項指定という方式は、アメリカにとりましては、これは古い友人への義理立てといたしまして必要な手続あるいは必要な儀式であると考えることができるわけでございますが、まだその第一歩を踏み出していない日本にとりましては全く意味が違うわけでございます。  どういう問題点があるかと申しますと、現在存在しておりますような国民政府状態、これを延命策をとるということが賢明かどうかということ、これは国民政府それ自身にとりましてすら賢明であるかどうかということは非常に疑問であろうということが一つ指摘できるわけでございます。つまり、安全保障理事会の議席を失う可能性が強いわけでございますが、安全保障理事会の議席を失った中華民国政府というようなものは、もはやこれは存立の基礎を持たないにひとしい、そういう状態はいわば古くからの友人を追い込むことが賢明であるかどうかということ、これが一つでございます。  それから第二の問題といたしまして、昨年までの重要事項指定方式と比較いたしまして、これのほうが有効であると考えられるのかどうかという点、これも非常に大きな疑問がございます。  それから第三点といたしまして、さらに重要な問題は、重要事項指定方式は、たとえ実質的にはそれが中国国連参加を阻止する意味を持っていたとしましても、表面的にはそういう意味を持っていなかったのに対しまして、逆重要事項指定のほうは明白に二つ中国を推進する、そういう政策になるわけでございます。しかも日本がそれの非常に重要な推進者であるということになりますと、中国日本に対します敵意というもの、これはいまや日本に集中しつつありますその敵意がいよいよ強く日本に集められるということになるわけでございまして、今後の日中関係というものにとって非常にマイナスの役割りを果たすであろうと思うわけでございます。  そういたしますと、それでは逆重要事項でなくてアルバニア決議案に対してどういう方策をとるべきかという先ほどの御質問のところへ戻ってくるわけでございますが、私は、昨年まで日本中国国連参加問題はきわめて重要であるから重要事項指定方式をとるのだといっていた、それがもし筋であるならばその筋を通すということ、これが一つ現在の状況におきまして非常に重要な態度になっているのではないかと思うわけでございます。なぜかと申しますと、この逆重要事項指定をとりましても、日本政府が推進しようとしておりますような政策は、ことしはともかくとしまして、少なくとも来年はもう勝てないということはほぼ明らかでございます。そういう状況のもとにおきましては、いかにしてうまく負けるかということを考えなければならない。うまく負けるためには重要事項指定方式で自分はあくまでいくのだということを言うのが、中華人民共和国に対しましても、国民政府に対しましても、それ以外の国々に対しましても最も有利であろう、そういう考え方を私現在とるようになってきております。  以上でございます。
  79. 正示啓次郎

    ○正示委員 それでは蝋山先生ひとつお伺いいたします。  先ほど日華平和条約につきまして、「外務省百年」から引用されて事実をお述べになったわけでございますが、国際法の見解を入れてのお話でございましたのでお伺いいたしますが、いろいろな事情があったことはおっしゃるとおりわれわれもわかるのでございます。しかし、いわゆる国民政府相手として平和条約という形、これはいろいろ議論あったようですが、締結せざるを得なかった理由に、当時日本はいろいろな事情で、特にたとえばアメリカの上院の状態等を見てもそれ以外に手はなかったというふうなこともあったと思うのでございますね。そういうふうなことから、いまのいわゆる日華平和条約締結のバックグラウンドというものは、まあ当時においてはやむを得ないいろいろな事情があったということをひとつわれわれは共通の事実として認めていかなければならぬ。その点について、私はあえて御質問をいたしませんけれども、先ほど和田参考人からは非常に高邁な御意見が出たのでございますが、われわれはむしろ国際外交政策として、あのときそれ以外に選択はあったであろうかという点、この点について最初に御見解をいただいて、そして今度いよいよ国連で、いま岡部先生から言われたようなことでやるか、あるいは逆重要事項でやるか、いずれにいたしましても国民政府立場中共のいわゆる中華人民共和国立場、この両政府立場というものは非常に微妙でございますが、一応決議はどういう形であろうが成立いたしまして、代表権北京政府に移るということになりますと、これは午前中も議論したことでございますが、その時点から中国代表するいわゆる北京政府、こういう形に国連の中で秩序ができるのだと思うのですね。そうすると、いままで中国代表する国民政府がいろいろやってまいりました国連での、たとえば国連憲章の制定から諸決議、諸規則、そういうものをずっと取りきめる行為をやってきたわけでございますが、それらに対しては遡及効果というものはないのじゃないか。いわばその時点から将来に向かって新しい代表国民政府にかわって行なっていくのだ、こういうふうに考えるのが国際法からいって常識だろうと思うのですね。  そこで同じような関係日本国民政府の間にありまして、それをそもそも取りきめておる基本的な関係日華平和条約だと思うのでございますが、これについても同じようなことがいえるのじゃないか。すなわち和田参考人が言われたように本来不法、無効なんていうような御議論はちょっとわれわれと次元が違いますので、あえてそれには言及いたしませんけれども、いまの国連とのパラレルの関係において日華平和条約というものの効力は一応これはまあずっと残っていく。しかし今度われわれが北京と腹を割って話し合ったときに最終的にどうするかという問題は、これはまた別の問題である。いわゆる論理と行動ということで私はそれを分けておるわけでございますが、そういうふうな考え方は今度国連代表権の問題、そして日中国正常化の問題というふうに分ける場合には考えて、いわば日華平和条約は入り口じゃなくて出口であるという議論でございますね。そういうふうに私は考えるのですが、その点について蝋山先生のお考えを伺いたいと思います。
  80. 蝋山道雄

    ○蝋山参考人 一番最初の一九五二年当時の状況日華平和条約を結ばないで済んだかどうかという御質問でございますが、これにつきましては私は終始あれはやむを得ない選択であったというふうに考えております。つまりあの当時といたしましては、国際社会をおおいました冷戦の波というものは、アジアにおいて朝鮮戦争という熱い戦争の形で火を吹いたわけでございます。それによって連合国の、というよりもアメリカの対日占領政策が百八十度の転換をなされたわけでございますから、つまりその占領者であるところのアメリカの意思に反して日本が独自の行動を取り得たとは私は考えておりません。そういう意味で全面講和か片面講和かという当時ありました議論は、確かに一つ考え方としては可能であった議論であったと思いますけれども、実際の選択としてはあれ以外にはなかった。そういう意味できわめて不幸な選択であったということはいえますけれども、まあしようがなかった。しかし問題は当時の国際政治の構造からいって不可能であったことが、二十年たった今日、条件が変わったためにそれを固執しているほうが実は実情に即さなくなった。その変化というものは過去十年間ぐらいを通じて徐々に徐々に起こっていたことでありますので、日本はすでにその変化の状況というもの、いわば質的に変わってくる時点に対して備えていなければならなかった、その点で日本の外交政策はきわめて不備であったというふうに私は考えます。  それから、台湾との条約が出口であるか入り口であるがという議論になるわけでございますけれども、これにつきましては私は日本はたいへん深いジレンマを持っていると思います。結果としては中華人民共和国政府との交渉を通じまして、日華平和条約を含めまして台湾の実際的な処理は交渉の対象になると思います。そして遡及性を持つものではないというふうに理解いたします。しかし中国の主張しているところの原則承認しないでその交渉を開始することができない。この問題は最近半年ぐらいの間、日本からも多くの訪中代表団が行かれましたし、それからアメリカからもたとえばニューヨーク・タイムズのレストン副社長、それからごく最近またフランスのジャーナリストも行っております、それからオーストラリアの労働党のホイットラム党首、この方々の周恩来首相との会見の模様をわれわれいろいろ伝えられて知っているわけでございますけれども、そのどれ一つをとりましてもその点についての中国原則立場というものは全然変わっていない。ですからその点に関して私はバーゲニングパワーを日本が持っているとは思いません。つまり交渉を開始すればこれは当然一種のバーゲニングになりますから、そこではいろいろな妥協ということも可能になってくるかと思いますけれども、出発点において日本は完全に切り札を持っていない。ですから幾ら先へ延ばしていっても交渉を開始することにはならない、そして中国としてはますます有利に日本に対して圧力をかけてくる状態になってくるであろう。これは国際政治全体がそういうふうに中国のこの有利な状況をつくり出しておりますから、日本はその中で孤軍奮闘することはまず日本の外交能力からいって不可能であろうと思います。
  81. 正示啓次郎

    ○正示委員 どうもありがとうございました。
  82. 櫻内義雄

    櫻内委員長 それでは西中清君。
  83. 西中清

    ○西中委員 最初に先ほど蝋山先生から二極時代から三極時代というような分析をお聞かせいただいたわけでございますけれども、こうした国際情勢世界情勢の立場からの分析とあわせまして、いわゆるニクソン訪中というものは、またキッシンジャー訪中というものはいろいろな要素からやっていると思うのですが、国際情勢以外の、言いかえますとアメリカ国内事情、こういう面につきましての要素というものもこれは非常に大きいのじゃないかというように私は判断するわけでございますが、こうした動きというものは、国際的な動きと国内的な動きと比重の重さというものは簡単に比較はできないわけでございますが、国内的な事情としてはどのような評価、分析をされているのかひとつお伺いしたいと思います。
  84. 蝋山道雄

    ○蝋山参考人 アメリカ国内において現在起こっておりますもろもろの変化というものがどれまで国内的な原因から生まれ、どの程度まで外交政策上の問題から生まれてきているのかということを分析するのはたいへんむずかしい状態になっておりまして、ベトナムにおける戦局の推移というものとアメリカにおける政治、社会、経済、思想、あらゆる面を含めました変化というものが、きわめて密接な相互連関性を持っているというふうに思います。したがいまして、ニクソン大統領といたしましては国内政治の問題、これがアメリカの長年苦しんでまいりましたドル流出の問題、収支バランスの悪化の問題、インフレーションの進行の問題、こういうものに最も鋭くあらわれてくるわけで、これを何とかしなければならない。これを何とかするためにはどうしてもベトナム戦争というものをできるだけ早い機会に収束せざるを得ない立場に追い込まれ、そのような認識を掲げてニクソン大統領は六八年の大統領選を戦ってきたわけであります。したがって、ベトナム戦争を処理するというだけでなくて、ベトナム戦争が終わってからの将来の問題もニクソンは十分に考慮していたというふうに、いまになって考えれば言えるのではないか。それでニクソン大統領が六八年の夏現在で、つまり大統領選が始まったころ持っていた考え方というものは一九七〇年代における外交政策上の問題は主としてアジアからやってくる。したがって、アジアにおける問題というものを解決するためにはソビエトとだけやっていたのではできない。どうしても中国と直接に交渉せざるを得ないという認識をはっきりと持っていたようであります。したがって、彼がいわば国際問題と国内問題を一挙に解決するための切り札として中国とのある程度の和解という問題を第一目標に掲げまして、しかし最初の大統領就任から六カ月くらいはそれを第一優先目標には少なくとも表面的に掲げていないわけです。ところがキッシンジャーの訪中後にわかりました例の政府高官の説明によれば、ニクソン政権は二年間の地ならしと三カ月の準備をしたと言っておりますけれども、これはまさに大体六九年の夏ごろ、つまりニクソンドクトリンを発表いたしまして、それからルーマニアに行って、あそこの段階からすでに着々と進んでいたというふうに考えられるわけです。
  85. 西中清

    ○西中委員 岡部先生にお伺いしたいのです。中国アメリカの新しい展開というものは、いまいろいろな形でいささかの食い違いなり矛盾点なりというものが残されておるというふうに考えておるわけですが、訪中までに解決しなければならない問題といいますか、たとえば周総理は、アメリカ台湾及び台湾海峡から撤退するということを国交正常化の大きな条件といいますか、そういうものにしておるわけでございますが、それに対してニクソン大統領は、先ほどお話がございましたように、古い友人を犠牲にするつもりはない、こういう発言、その後にまたキッシンジャーの微妙な発言等もあるわけでございますが、こうした米中間の意見の食い違いというものを考えてきますと、米軍の台湾及び台湾海峡からの撤退については、米中間である種の了解が行なわれておるのではないか、こういうような推測が非常に多いわけであります。一方、一九六九年の佐藤ニクソン共同声明では、台湾日本の安全にとってきわめて重要な要素である、こういう一項がございますし、沖繩返還協定もその共同声明を基礎としておる、こういうようなことでございますから、おのずから、もしも台湾及び台湾海峡からの撤退ということの了解が何らかできておるとするならば、この共同声明及び返還協定が具体的な形をとった場合にいろいろな面への波及効果というものは出てくる、その点でどのような意味を持ってくるのか、岡部先生はどのようにお考えになっておるのか、この点の御見解をお聞かせ願いたいと思います。
  86. 岡部達味

    ○岡部参考人 キッシンジャーと周恩来との間あるいはアメリカ中国との間でどの程度までの了解ができているかということは、もちろんはっきりしたことはわかりませんですけれども、当然中国がこれまで主張しておりましたようなことから推測いたしまして、アメリカの軍事力が台湾から撤退するというような条件を少なくとも原則的にアメリカ側が受け入れない限りにおいて、今回のような急転回はおそらく起こり得なかったであろうと思われますので、ただいま御指摘のような合意が行なわれました可能性は非常に強いかと思うわけでございます。  そうなりますと、日本との関係になるわけでございますが、いま御指摘の日米共同声明でございますが、私はどうも日本側が、アメリカ台湾から手を引いた後に、軍事的にアメリカの肩がわりするというようなところまで踏み切って、あるいは少なくとも将来そういう可能性が出てくるというところまで見通してそういう発言をしたようにはどうも思われないわけでございます。したがいまして、論理的にいうならば、アメリカが撤退した後において日本が現在の台湾政策を続ける、中国政策を続ける、そうして日米共同声明のことばに忠実にするということになるならば、まさにレアードがほのめかしたような方向、日本自身の第七艦隊の建設というようなことすら必要にならざるを得ないであろう。しかしながら私はいま申しましたように、日本政府はそういうことをする決意があってああいう発言をしたのではないと考えておりますので、したがいまして、だからこそ現在のこの新情勢に適応するためには、そういう日米共同声明的な精神、というよりは文句、文言でございますが、そういうもの的なアジア政策というものにもはやしがみついておることはできないのではなかろうかという感じを持ったわけでございます。  そこで、先ほど御紹介いたしましたような、権力政治的なことばで語られた平和大国としての基本路線、これは山田先生の御質問に対しまして、私自身具体的にはまだ非常にあいまいであるとしか申し上げられなかったわけでございますが、それを固めること、これがまず第一に要請されるのではなかろうかというふうに考えたわけでございます。
  87. 西中清

    ○西中委員 蝋山先生二つお尋ねしたいのですが、まず第一点は日中国正常化への好機は逸したと先ほどおっしゃったようにお伺いしたわけですが、この点について、これからの問題ということになるわけでございますが、率直にお伺いしまして、当面政府が最もとらねばならない具体的な施策といいますか、行動というものはどういうことか、この点についてどのようにお考えになられているか、これが第一点でございます。  それから第二点は、先ほど岡部先生のほうの御意見は出ておったようでございますが、中国国連代表権問題につきまして、現在逆重要事項指定方式の共同提案国になる。そしてもう一つは、中国招請と国府保持の決議案の共同提案国になる。特にいま申し上げました第二番目の中国招請と国府保持の決議案については、アメリカはこの決議案の共同提案国にならないかもしれないというような非常に流動的な形をとっているわけでございますが、これに関してどのようにお考えか。そして午前中のある参考人の御意見では、まあ棄権だ、棄権がいいと思うというような御意見がございましたが、アルバニア決議案ですか、そういった点について蝋山先生はどのようにお考えになっておるか、この二点につきましてお伺いいたしたいと思います。
  88. 蝋山道雄

    ○蝋山参考人 私は、逆重要事項指定方式の問題でございますが、これのもたらす意味というのは岡部参考人がすでに述べられましたと同じ見解を持っております。つまりこれはある意味では重要事項指定よりももっと悪く、一つ中国一つ台湾という方式をしっかり打ち出すことになりますから、これはたぶん言い知れぬむずかしい問題をこれからの日本の外交政策の前につくってしまう結果になるのではなかろうか。つまりこれを行なうことによってことしの秋をたとえ切り抜けたとしても、次の来年の問題がどういうふうになってくるのか、それから日中関係一体どうなってくるのかということの明確な見通しを持たずにこれに走ることは、私はあまり賛成できません。さらに、理屈からいえば中国問題は重要な問題であるから、重要事項指定という従来の政府の説明のほうがまだいいということになるわけでございますが、しかしそれにしても、いつかは日本もこれを放棄せざるを得ない立場に追い込まれるであろう。つまりいつかは重要でなくなるときがくるということになる。そうしますと、やはりこれもあまりにも小手先である。そこで棄権できればこれにこしたことはないわけでございますけれども、しかしその決定を行ないますのは私でございませんで、最終的には佐藤総理である。佐藤総理にそれだけの精神的な大転換をされるゆとりと認識がおありになるかどうか、それについて私は大いに疑問を持っておりますので、われわれの意見がほんとうに影響を与えるかどうか、たいへん疑問だと思います。しかしもしも日本の将来、アジアの将来ということをお考えになるのならば、総理はやはり将来の障害になるようなことを積極的になさるべきではない。つまり最初の御質問の、どういう具体的な政策をとったらいいかという問題につながるわけでございますけれども、しかしこの問題を議論している間に、もうすでにたとえば日華協力委員会、日韓協力委員会で融資を決定しているというような事態でございますので、つまりわれわれの言っていることはすべて空論になってしまう可能性がある。われわれの心配していることが実は次々と起こって、ほとんど解くことのできないような難問をかかえ込んでしまうのではなかろうか。いま実際に政策決定に当たっておられる方々が、はたして一体どういう考え方でこの問題を考えておられるのか、私にはどうしても理解できないというふうに申し上げたいわけです。  一般論といたしましては、先ほども申し上げましたように、つまりこれ以上に問題をむずかしくするような条件というものが、日本の経済成長そのものの中から生まれてくるわけでございますから、それに加えて政治的な積極策をとっていくということになれば、これはとんでもないことになってしまう。そうだとすれば、実は小出しの改善策というものはまず見込みがないのではなかろうか。ここでつまり百八十度の転換のできない方に百八十度の転換をお願いするという、たいへん矛盾に満ちたことを言わなければならなくなってしまうわけです。
  89. 櫻内義雄

    櫻内委員長 曽祢益君。
  90. 曾禰益

    ○曽祢委員 最初に岡部参考人に伺いますが、私は岡部教授の御意見に大体において賛成で、やはりこの段階においてもいわゆる両極でない、日本日本なりの筋も立てながら北京政府との国交調整と北京政府国連に迎え入れる積極的な国連活動をやるべきだ、こういうように考えているのです。  そこで今度の国連北京政府中国代表になる可能性が非常に濃厚で、これはわかりませんけれども、国民政府が、アルバニア決議案が通って事実上いたたまれなくなる、追放でなくともですよ。そういうような非常に国際的にも大きな一身上のダメージがあるということが想定されます。そうすぐにいかないかもしれませんが、その可能性はかなり濃厚だ。それから米中会談が持たれる前から確かに伝えられるごとく、少なくとも台湾及び台湾海域からの米軍の撤退の可能性は濃厚ですね。内外ともにこういうようになってまいりますと、一体台湾内部の情勢というものも相当シビアになってくるのではなかろうか。もしこのいわゆる外堀を落とすような、国連からは実際上アウトになる。アメリカの五四年の国民政府との条約は、これはあとで蝋山教授にも伺いたいと思っているのですけれども、私は大統領なりあるいは議会がこの条約そのものを否認するようなことはないと思うのです。しかしとにかく台湾海峡及び台湾から米軍が撤退するということになれば、これは何といったっておそらくそれに関連して中国側は手荒い解決をしないという何らかの、はっきりした公約はできないけれども、何らかのやっぱりアシュアランスを、安心を与えると思いますけれども、いずれにしても台湾国民政府が非常な国際的に窮地におちいる。そしてやはり台湾内ではむろん蒋介石もいやだ、その独裁に反対だという、いわゆる台湾人民の自主論といいますか自治論といいますか、あるいは独立論までいきますか、こういう問題もある。そういうところを考えてみると、やっぱりこの間エドガー・スノーが言っておったような、そういう国際的に有利な条件になれば、むしろ中国側は、北京側は相当やわらかい線で台湾問題を片づける。やわらかいというのは実力行使ではないけれども、ある意味では内部からの崩壊をねらうということも含めて、実力解放でない形で、一番考えられる形は、第四次になりますか三次ですか、いわゆる国共合作といいますか、この可能性というものは相当あるのじゃないか、こういうように考えるのです。現に私なんかのつたない体験ですけれども、私は五四年、五七年、五九年と三度中国に行きましたが、特に五七年の百花斉放、百家争鳴時代には、中国側のほんとうのトップの人が平気で、台湾解放には決して手荒いことをしません、時間かけて必ず解放いたします、そして国共合作についてももし蒋介石がそれを望むならば栄誉をもって迎える、大体中国政府の構造をごらんなさい、これは決して中共、つまり中国共産党の独裁政権ではございません、政治協商会議もほんとうに名実ともにあるのです。孫文の夫人の宋慶齢さんが国民党の最高党員としてその数名の有力な党員とともに北京側にいるではありませんか、十分に話し合いによる、たとえば国共合作ということによって平和的解決の方法があるのです、現にそれがわれわれのねらいなんですということ、私は当時は統一日本社会党の第一次浅沼使節団の団員でしたけれども、私に対してちゃんとそういうことを言っているのですね。それよりさらに国際的には有利な条件ができつつある場合に、ある意味では台湾の民意も尊重しながらという形で、しかもその内容が非常に広範な自治になるのかどうかは別として、そういうような国共合作という形か、あるいは台湾人民の民意まで加えた形によるいわゆるきれいな解決というか、これはほんとうに中共側の人は真剣に考えている。その可能性もあるのじゃないかと思いますが、その点はいかがなものでしょうか。
  91. 岡部達味

    ○岡部参考人 最初に私の結論を申し上げますと、ただいまの曽祢先生の御指摘と大体同じ考え方を私もしているわけでございます。ただもちろん将来の予測になりますので、これは当たるとも当たらないとも何ともわからないわけでございますが、私がそういうふうに考えております理由は幾つかございます。一つは、国民政府はいまや非常に逆境に立っているということ、これは衆目の一致するところでございます。そして先の読みの鋭い中国人である以上、国民政府の指導者も当然何年か後にはこういう状態がくるということを予測していたであろうと思われるわけでございます。その場合に、むざむざと亡命政権として、あるいは主要国の支持を得られない、いつ何どき中国大陸からの武力攻撃にさらされるかもわからない状況のもとで、戦々恐々としているような状況中国政治家が選ぶはずはおそらくないであろうという認識を私も持っているわけでございます。その場合に、おそらく国民政府代表がとり得る道は、ただいま御指摘の国共合作的なものになるであろうという感じがいたすわけでございます。台湾独立ということも考えられないことではございませんけれども、台湾に対します中国人の執着というもの、これはイデオロギーのいかんあるいは現在の国籍のいかんを問わず、きわめて強いものがある。したがいまして、国民政府がかりにその晩節を全うしようという意思を持つ場合に、台湾独立の方向へいくことは、まず絶対といっていいくらいないであろう。むしろ台湾独立の動きが、現在国民政府のもとにおきまして、非常に警察力の強い状態のもとにおいて、台湾自身におきましてはほとんど運動はできない状態だと思いますが、台湾独立運動がかりに激化するような形跡があるとするならば、激化する以前に中国大陸と一緒になる方向を選ぶであろうというのが私の予測でございます。  それから中国大陸の側について考えるとするならば、これまた御指摘のとおり中国が現在のように非常に国際的に有利な状況になってまいりましたときには、非常に幅の広い解決策を提供する用意が当然あるであろう。五〇年代にいわゆる中国の平和共存外交の時期にそういう路線をとっておりましたことは明らかでございますが、現在の中国の政策も次第にその時点の平和共存外交に近づきつつあるように思われるわけでございます。文化大革命の最中でございますと、国共合作の可能性というものはかなり遠のいたような印象があったわけでございますが、現在の段階におきましては中国大陸側、中華人民共和国の条件から考えましても、その可能性はかなり強まっているのではなかろうかという感じがするわけでございます。  なお台湾海峡における武力の使用についてでございますが、中華人民共和国は武力不使用という制約はしないということをいっておりますけれども、これは武力を使用するという意思表示ではないわけでございます。台湾解放に関しまして武力を使おうが平和的方法を使おうが、どんな方法を使おうがこれは中国の内政問題で、したがって外部に対してそういう約束をすることはあり得ないのだという意味でございまして、実際に武力の使用の必要のない、現在武力の使用の必要はほとんどないと思われますけれども、そういう状況のもとにおきまして武力使用というような政策を中華人民共和国がとるといろことはまず考えられないといってよろしいのではないかと思うわけであります。
  92. 曾禰益

    ○曽祢委員 蝋山さんにひとつ伺いますが、先ほどの御説明の中で一点だけ私が——これは自分の考えですから、おっしゃったことで必ずしもそうかなという疑問を抱いた一点は、確かにアメリカの大統領が、一方においては中国との和解要求が出る。中国側もそうです。同時に古い友人を捨てない。これは非常に無理な、むずかしいことであるけれども、やはり真剣に両立を考えていると思うのです。その結果がどうなるか、これはなかなかわかりませんけれども、大統領と上院とが別の方向をとっていくということは比較的可能性が少ないのじゃないかと私は考えます。たとえばベルサイユ条約の場合のウイルソンは、むしろ志に反して、自分がつくってきたベルサイユ条約あるいは国際連盟を上院で否決されて、失意のもとになくなったという悲劇ですけれども、これは別にそういうふうに使い分けしたわけでもないわけですね。今度の場合は、私わかりませんけれども、存外大統領の方向に大体超党派的に支持があるのじゃないか。基本的には正しいんだ、同時に何とかアメリカの友人に対するコミットメントをでき得る限りアメリカからこわしていかないでいこうというのが、それを大統領と上院がシニカリーに使い分けしてやる——そういう意味でおっしゃったわけじゃございませんけれども、結果的にもそういうことは比較的可能性が少ないのではないかというふうに考えますが、その点もう一ぺん教えていただきたいと思います。
  93. 蝋山道雄

    ○蝋山参考人 曽祢議員がおっしゃったとおりにそのような可能性を信じるとすれば、まことにシニカルな人間でございまして、私も必ずしもそれを信じているわけではございませんけれども、アメリカの外交政策のあり方というのを見ておりますと、つまり日華平和条約締結に先立ってのダレスの圧力というものも、やはり上院の批准という問題を問題にしておりましたし、それから過去数年間ケネデイラウンドにおけるアメリカの国務省の日本を含めての西欧諸国に対する態度を見ておりますと、もう時間がないぞ、上院がどういう反応をするかわからない、おれたちもコントロールできないという形で圧力をかけております。ですからそのシニカルな行政府と立法府との間の結託というような形で起こるとは私は思いませんけれども、しかしその可能性が全くなくはない。つまり、そういうことはあり得ないんだと考えていると、また再び日本は青天のへきれきを受けることになるのではなかろうか、ただそういう意味で申し上げただけでございます。
  94. 櫻内義雄

    櫻内委員長 松本善明君。
  95. 松本善明

    松本(善)委員 岡部参考人に伺います。  先ほど国連での問題についてお答えになっておられましたが、逆重要事項指定方式反対だ、むしろうまく負けるために重要事項指定方式をとるべきだ、こういうお話であったわけですが、アルバニア決議案に対してはどういう態度をとるべきかという点について、お答えいただきたいと思います。
  96. 岡部達味

    ○岡部参考人 先ほど私が重要事項指定のほろがいいであろうと申し上げましたのは、現在の日本政府立場といたしまして大きく転換することはできないという前提のもとで、選択の現実的可能性の幅の中で考えたわけでございますが、それと同じ幅でアルバニア決議案について考えてみるならば、これはたとえ反対投票をしましても、当然何らかの、ことしもしくは来年には重要事項指定方式が敗れることはわかっておりますので、少なくとも先ほど私が申し上げましたような意味において、うまく負けるという点からいうならば、それでよろしいのではないか。もちろん、さらに棄権ということを考えるならば、あるいは賛成ということ、これは現実的可能性としてはおそらくあり得ないと思いますが、そういうことを考えるならば、これは日中国交渉考える上にあたっての日本側の意図を示すシグナルとして効果的ではあろうとは思います。ただ、それは必ずしも現在の政府立場から申しまして可能ではないであろうと考えているわけでございます。したがいまして、たとえ反対であっても、逆重要事項指定をとるということよりは、はるかにいいという考え方をしているわけでございます。
  97. 松本善明

    松本(善)委員 岡部参考人御自身の御意見を伺いたいのでありますが、いま政府のとるべき態度というような点からお答えになりましたが、中国代表する政権中華人民共和国とお考えになりますか。それとも、蒋介石政権国民政府というふうにお考えになっておるのか、どちらが正しいというふうにお考えになっておるか、これを伺いたいと思います。
  98. 岡部達味

    ○岡部参考人 これは、問題なく中華人民共和国中国代表する正統政府であるというふうに私はずっと考えております。
  99. 松本善明

    松本(善)委員 そうすると、岡部参考人のお答えになった中で、台湾切り捨て論は、とはいうものの少し問題がある、こういうことをお答えになりましたが、中国代表する政権中華人民共和国であるとするならば、これは国民政府、蒋介石政権中国代表する政権と見るということはできない、そういう意味では結論的には台湾は切り捨てざるを得ない、こういう結果にならざるを得ないのではないかと思いますが、この点についての岡部参考人の御意見を伺いたいと思います。
  100. 岡部達味

    ○岡部参考人 私は、結果といたしましてはおそらくそういうことにならざるを得ないであろうというふうに考えております。もし日本がもっと取引能力の高かった時代に交渉を始めましたならば、あるいは現在の事実上の政経分離方式の逆転方式というようなことも十分可能であったかと思うわけでございますが、取引能力を失った段階におきましては、そういうことはまずきわめて困難になってきた。しかしながら、問題は、原理原則というよりも、将来のアジアにおける平和に最も有利な条件という観点からいくならば、そういうところに行き着かなければならないことを承知の上でがんばる、粘るということが、これが手続としてきわめて重要なのではないかという考え方をとっているわけでございます。  なお、私自身の個人的見解で申しますと、一九五二年の段階において日本中華民国のほうを選んだことは誤りであった。しかしながら、同時にこれも蝋山参考人がおっしゃったことでございますが、やむを得なかったことではあるというふうに考えております。したがいまして、その段階考えるのであるならば、当然別のものの言い方ができるかと思うわけでございますが、好むと好まざるとにかかわらず、それから二十年近くたってしまった、この状態のもとにおいて最善の結果をもたらすためにはどうすればいいかという観点から、先ほどのように申し上げたわけでございます。
  101. 松本善明

    松本(善)委員 蝋山参考人に伺いたいのでありますが、日華平和条約、これはどうすべきであるというふうにお考えになっておるか、この点について伺いたいと思います。
  102. 蝋山道雄

    ○蝋山参考人 私は、日華条約交渉していた当時とっていた政府立場というものを、それ以来ずっと政府がとり続けていたならば、問題は違ったろうと思うわけでございます。つまり、あれはあくまでも限定的な条約である、そしてそれが事実に即した解決の方法であったということを中国政府にわかってもらうことも全く不可能ではなかったと思うのです、つまり政府交渉がすでにある段階であるならば。しかし、事実はそれと全く逆のほうに動いたわけでありまして、つまり初めは限定的な態度をとっていた政府が、やがて国民政府こそ中国代表する唯一正統政府であるというふうな形で実際の外交を進めてきている。こうなってまいりますと、実際問題として日華平和条約中国日本との間の過去の清算をするわけにはいかない。そうだとすれば、どうしても新しい条約が必要になってくるわけです。その段階には理屈からいえば、たぶんすでに合法性を失った条約というものは積極的に破棄しなくてもそのまま意味を失ってしまう。つまりこちらから台湾に対して破棄通告を出さなくともそれで済んでしまうのではないかというふうに日本立場からは考えられるわけですけれども、時がたてばたつほど、それすらもむずかしくなってきている。中国の主張するところの積極的な破棄というものが必要になってくる公算が大きいというふうに考えております。
  103. 松本善明

    松本(善)委員 和田参考人に伺いたいのでありますが、日米共同声明台湾条項がありますが、この日米共同声明と、中国との国交回復なり中国との国交正常化問題についての参考人の御意見を伺いたいと思います。
  104. 和田一夫

    ○和田参考人 先ほど日華平和条約の問題で申し上げましたけれども、日華平和条約が、日米共同声明の時期に入りますと、私は、違った役割りになってきておる、もっと一そう重大な役割りを持たすように日米共同声明がしているというふうに理解するわけです。なぜかと申しますと、日華平和条約が締結されました一九五二年の四月二十八日というのは、やはり日本の独占資本が復活し始め、そして軍国主義の歩みをようやく歩みかけた時期に結ばれた条約であったと思うのです。しかし南朝鮮とそれから台湾日本の平和と安全にかかわるいわゆる生命線という位置づけをしました時期におけるこの日華平和条約は、国交回復を妨げるだけでなくて、日本それから韓国それから台湾との軍事同盟、これを強める役割りを日米共同声明は果たしている。したがって、日台条約の持つ役割りはもっと一そう危険なものになり中国敵視になっていくのだ。しかもこれが、先ほどもちょっと触れましたように、日米共同声明をもととした沖繩協定、この内容を——先生に申し上げる必要もないと思うのですが、分折してみますと、これが条約化されて、日華平和条約と日米共同声明の、いわゆる何と申しますか、日米共同声明の路線の中で、日華平和条約が一そう強い中国敵視政策を行なう条件になってきている。それは台湾とたとえば中国の問題は内政の問題であるけれども、台湾海峡に武力紛争が起こるならば国際的な紛争であるというふうに、以前の、三月十五日だったと思うのですが、参議院で外相が答えられた点とか、それから二月のいわゆるニクソンの外交教書、それからロジャーズ国務長官が三月に出しましたアメリカの外交年次報告の中で、そして先ほどもちょっと出ましたけれども、古い友だちは捨てないという点は、一九五四年のアメリカと蒋介石の間で結んだ相互防衛条約という軍事条約、この条項を見てみますと、かなり日米共同声明路線とそうして日華平和条約、それに米台相互防衛条約がからみ合って危険な役割り、中国敵視だけでなくて、中国敵視の一つ極東戦略の中へ日本を組み入れたり、ある場合によってはアジア領域におけるアメリカの肩がわりを軍事的にも政治的にも日本が引き受けざるを得ないような羽目に追い込むという危険性があるのではないかというふうに私は考えておるわけでございます。
  105. 松本善明

    松本(善)委員 終わります。
  106. 櫻内義雄

    櫻内委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人各位には長時間にわたり貴重な御意見を御開陳いただきまして、まことにありがとうございました。委員会代表いたしまして委員長より厚く御礼を申し上げます。  本日はこれにて散会いたします。    午後四時二分散会