○国務
大臣(佐藤
一郎君) 数字で見ていただいてもわかりますように、四十年度が不況の底をつきましたが、四十一年、四十二年、四十三年と、御承知のように、経済成長率というのは急激な伸び率、しかも、その高い伸び率が、さらにそれを上回る次の年の伸び率ということで伸びてきておりますし、ちょうどそれと同じように、たとえば春闘における賃金の上昇率も加速度的で、四十一年度が一〇%くらいであったものが、四十二年には一二、四十三年には一四、四十四年には一六、四十五年には一八と、こういう調子でもって、全体としてこういうふうに伸びてきておるのでありますから、そうしたものが全体として少しずれて出てくる、物価の面に反映をしてきたということは、私は、もう、経済というものはもちろん政策的にこれを運営をいたし、そしてこれを調整しなければならぬものでありますけれ
ども、同時に、これは
一つの社会現象でございますし、それは法則的なものでございますから、そうした高い経済成長というものをほうっておきますと、ある程度、どうしてもこうした物価上昇というものをもたらさせられる、そうしたことがやはり
原因である、これは弁解というよりも、やはりそうした過去の経緯に照らしましても、やはりこうした形の過度の成長というものについての反省が、いまそういう意味でもって行なわれておるのだと思います。
ただ、御
指摘のように、現在非常に不況のムードになっておりますけれ
ども、いつも私の言いますように、過渡期によく物価が上がるのは、あまりに急激に経済が冷えるというと、これはこれでもって別の問題が多く出てまいる、そういう
状態で、特に、たとえば、今日までは、いわゆる何といいますか、規模の利益、規模を拡大することによるところの、すなわち生産量の増大によって、この申し上げたような猛烈な賃上げというものも吸収をして、そして何とか、まあまあ、ある程度で押えてきたわけでございますから、その規模の拡大の利益というものが急に消えうせて、逆に非常な縮小になるという過渡期におきまして、どうしても高い賃金をまかない切れないというようなことから、価格に対する転嫁というようなことが行なわれてくるというところにあると思うのです。過去の例を見ましても、景気が高いところから低くずっと落ちてくる過程において、
消費者物価というものは、とかく上がりがちになっているということを見ましても、そういう意味において、あまり一ぺんにスローダウンするということには問題がある。それから私
どもは
——まあ人によって、主張が違うかもしれませんが、経済の成長と
消費者物価の上昇というものを二律背反的には
考えたくない。つまり、物価を押えるためには成長も思い切って押える以外にはないのだと、あるいはまた、物価が上がっているのは成長ということと
関係するわけですけれ
ども、同時に、成長というもののある程度の確保ということは、これは経済の前進ということについて必要でありますから、そこのところをあまり過度にわたらない成長のもとにおいて両立させていくという努力、これはやはりしなければならぬ。そういう意味で、一方が立てば一方が立たないのだというような極端な二律背反的なものの
考え方は、できるだけ政策の基調としてはとりたくない、こういうことをもちろん
考えております。
それで、
一つは、御存じのように、そういう意味で、一三%もしておった実質成長を一〇%ぐらいのところに、まず落とす、これも、六%、七%の成長に落とせばいいじゃないかという議論もなくはないですけれ
ども、現在の経済の成長というものは、ほかの条件によってもきまる、全体の経済条件、日本の与えられている条件によってきまることでありまして、それを無理に押え込むということは決して適当でもない。そういう意味で、諸条件を勘案いたしまして、さしあたって一〇%前後ぐらいの成長にスローダウンする、それが適当であろう。そしてまた、ある意味で成長というものは国力の増進でありまして、同時に、また、あらゆる経済問題を解決する力でもあるわけですから、そういう意味の成長は維持していかなければならぬ。ただ、こういうふうに少しスローダウンするということの意味は、ある意味においては、民間設備のいわゆる増加ということを中心としたいままでの経済成長、いわゆる民間主導型の経済成長というものを少しこの際改めていく、そういう意味においても、私は社会投資の必要というものを痛感いたしますし、一方において、民間の工場の需要だけは十分満たされておるけれ
ども、そのまわりの社会的環境が十分満たされていない、需要が満たされていない、こういうことになれば、やはりアンバランスが出て、これも物価に響く。でありますから、幾ら車ばかりつくっても道路が足りなければ回転率が落ちるということと同じ意味において、やはり社会投資をやっていかなければならぬ。この社会投資を十分にやることによって、バランスある経済が生まれ、そして、そこにやはり安定した成長が生まれる。こういう意味において、私たちは、ここしばらく財政支出というものをそういう意味において
考える必要があるのじゃないか、こういうふうに一方で思っておりますから、今度の大蔵省のこの公共事業の増大というような点も、私はこれはいいのじゃないかというふうに実は
考えておるのです。
金利の引き下げは、御存じのように、国際
関係等もからみ合って、いまむずかしい問題でございます。まあ、この程度のことで急に国内経済を刺激するというようなところには、いまの鎮静ぶりから言うと、その点についての心配はないのじゃないか。一方において、国際経済との
関係も無視できない。まあ今日の経済は昔のように国内のことだけ
考えるわけにもいきませんし、国際・国内を通じていろいろな矛盾した要請というものは同時に出てくるわけでありますから、それらの調整をはかりながら措置していく以外にない。そういう意味で、この公定歩合の問題にいたしまして五あるいは公共事業の繰り上げにいたしましても、むしろ、これは物価刺激的で物価政策上絶対とるべからざるものであるというところまでは実は私は
考えておらない。現在の段階に立って
考える限りは、そこのところは、そうとらなくてもいいのじゃないか。そういうことで、今回のそうした
政府の措置も是認し得る、こういうふうに
考えてきたわけであります。しかし、いずれにしましても、現在の落ちついた環境というものが、あまりまたブーム的なものになるということは絶対これはわれわれとしては避けなければなりませんから、そういう意味で、御心配のような方向についてはわれわれも十分注視していきたい、こういうふうに
考えております。