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参考人(
山田浩一君)
山田でございます。よろしくどうぞ。
私たちは農学という学問をやっているわけでございますが、農学は、いわゆる農業、これはもう御承知の穀物をつくる、野菜をつくる、果実をつくるというような、そういうプランテーションの農業、それから水産業、それから林業でございます。または牧畜業といいますか、牛、馬を飼う、そのようにいわゆる第一次生産に関する学問を行なうだけでございませんで、それらの第一次生産物を二次的に加工していくという仕事、そういう仕事があるわけです。結局、その仕事としましては具体的には食品工業、これはいろいろの種類が御承知のようにございますが、食品工業、その中でも微生物を特に使います醸造工業、これはお酒とか、みそとか、しょうゆとか、お酢とか、あるいはウイスキー、ブドウ酒というようなことになるわけですが、そういう醸造工業、それからもう一つはいわゆる発酵工業でございまして、そういう醸造とは違う、いわゆる微生物をつくる工業があるわけでございます。たとえば有機酸をつくるとか、あるいはアミノ酸をつくるとか、酵素類をつくるとか、あるいは各種のビタミンをつくるとか、あるいはさらにお薬のほうですと抗生物質をつくるというような発酵工業があるわけでございます。そのほか、例の皮をなめすという皮革工業、または木材のほうでいいますと、木材加工のいろいろ、ハードボードをつくるというようなことがございますし、またパルプなどをつくる。これは全部そういう基礎的な
研究を農学でやるわけでございます。ただ、これだけではございませんで、さらにいわゆる農業工学とか、あるいは農業土木学とか、あるいは農業
経済学とか、さらにまた畜産獣医学というような非常に変わった部門も全部含めまして、いたって幅の広い学問をやっているというのが農学であ
ろうかと思うわけでございます。要するに農学は、人間の生活といいますか、衣食住に非常に密接の仕事をやる学問でございます。そういうふうに考えるわけでございます。
何と申しましてもそのようなことから、農学は、私たちは応用の学問の中でも最も重要なものであ
ろうかと考えている次第でございます。ところが、もうすでに御承知のとおり、最近になりますと、たとえば宇宙開発とか、あるいは原子力とか、電子工学とか、そのほかいろいろございますが、化学でいいますと石油化学というような学問が非常にはなばなしく登場してまいりまして、
一般の人の目がどうもこちらの方面に向けられるという事実がございます。時代の寵児といいますか、非常にもてはやされる。そうなりますと、農学のような非常にじみな学問はどうしてもあまり振り向かれなくなってくるということになるわけでございます。その結果といたしまして、農学に対する
研究費などがどうしてもたくさんいただくわけにいかない。私たちは少し冷遇されているのではないかというように考えるわけでございます。極端の議論としては、農学なんか要らないじゃないかという議論がありますが、これは私に言わせれば暴論でございまして、たとえば動物学の幾ら専門家、大家がおられても、おいしい牛肉をつくることはできないだ
ろうし、おいしいミルクをつくることはできないであ
ろう。どんな有名な、高名な植物学者がおられましても、おいしいくだものとか、あるいはおいしい野菜をつくるということはむずかしい。そういうことで、応用の学問というのは基礎だけあればいいというものではなくて、農学のやっぱりそこに必然性があるというように思うわけでございます。
このように、農学は一見たいへん日の当たらないような学問のように見えておりますけれ
ども、実はそうではございませんで、たいへん、いま申し上げたとおり、重要な学問であります。
わが国の農学の
一般的なことを申し上げるわけでございますが、非常に多くの分野で世界的に見ましても指導的な立場に相当ありまして、数年前のトリプルASというアメリカにミーティングがございますが、日本の農学でやはり代表的な、たとえば養蚕であるとか、発酵工業であるとか、あるいはお米をつくるようなプランテーションは非常に世界的なものでございまして、高く評価されているわけでございます。もちろん、そういうことのあるなしにかかわらず、大学といたしましては、世界的な学問の水準を維持していくということが必要でございますので、私たちは
研究費とか、あるいは人員とか、いろいろな不足などに悩まされておりますけれ
ども、無理をしながら
研究を続けておるという状態でございます。
次に、私たちの属しております東京大学の農学部の
現状について簡単に申し上げたいと思います。東京大学の農学部は、創立以来、八十数年たちまして、非常に長い歴史を誇っておりますが、現在は八学科、つまり農業生物科、農芸化学科、林業学科、水産学科、畜産獣医学科、農業工学科、農業
経済学科、林産学科、この八つの学科からなっておりまして、それに約七つほどの付属
施設がついております。非常に膨大であります。演習林、それから農場、水産実験場、園芸実験場、それから牧場、最近ですと図書館ができましたし、また、家畜病院ができておるということでございまして、非常に全国的でも広い地域にわたっておりますし、東京大学の本郷のキャンパスにも、たいへんコンパクトにいろいろなものが入っておるということでございます。
それで、いわゆる総定員法の成立いたしました、ちょうどいまから十年前の
昭和三十六年ごろと比べますと、たいへんこの十年間で差ができております。それを二、三申し上げますと、まず一つは大学院でございます。当時、大学院がだんだんに拡大してきまして増大してきます。それで大学院
制度が完備してきましたために事務量が非常にふえておる。それで大学院はできたが建物もできない、事務員もいただけないというのが実情でございます。これが非常に膨大になってきたことが一つでございます。先ほど申し上げたとおり、大学院
教育にも
関係のあります図書館の
整備、これもわが農学部においてはりっぱな図書館ができたのでございますけれ
ども、必要の定員がついてこない。ただ、建物ができて本があるというだけでございます。したがいまして、これの要員をどうしてもどこかから出さなければいかぬということで人が足りなくなる。それからもう一つは、非常にこの十年、二十年あるいは三十年、学問の進歩が著しいのでございまして、それに従いまして、たとえば私の属しております農芸化学というような学問では、どうしても分析の機械とか実験用機器が非常に高級化されております。それで高度に使用する人の
教育が必要でございまして、特殊の人をオペレーターとして雇わなければならない、そういうようになっております。そのために、やはり人がついてこない。機械は買っていただけますけれ
ども、人がこないということになっているわけでございます。私たち学生時代の三十五、六年とは全く違うのでありまして、非常に人が要るにもかかわらず、定員がついてこないというだけでございます。結局いま申し上げたような、これらのことを円滑に
運営するためには、どうしても定員が足りないという事実があるわけでございます。
そこで私たちは、いたしかたなく、たいへんまずいことでございますけれ
ども、定員がとれないということのために、臨時職員というものを雇ってきたというのが実情であるわけでございます。そういう
方法しかほかになかったものですから、従来どおりの
方法で大きな批判もなしに従来どおり臨時職員を雇っている。この臨時職員というのは、東京大学におきましては三月三十一日で一応解雇するという形にいたしまして、次の日の四月一日に再雇用する。そのときに別の人を雇えば、これは問題なく臨時職員ということで文字どおりいくわけでございますが、何しろやっておりますことがみな専門的な業務でございます。それでどうしても能率をあげるためには、やはりいままでせっかくなれた人をそこでやめてもらって別の人というわけにいかない、その人を再雇用することになってくるわけです。ここにいま問題になっております臨職問題の最も大きな点が隠されているわけでございまして、このようなプロセスでもっていわゆる常勤的非常勤職員というのができてきているわけでございます。いまこの数は、東京大学ではおそらく一千名以上、わが農学部におきましても八十数名がこの臨時職員ということでおるわけでございます。
この臨時職員をどんどん定員化できればたいへんいいのでございますが、何しろ定員の数が定められておりますので、たいへんむずかしいわけでございます。そこで、
現状を打破するためには、どうしても定員を増してもらうしかない。定員増以外には
方法はないと私らは考えているわけでございます。したがいまして、私
どもは、総定員法に対する参議院
内閣委員会の附帯決議の二項及び三項を活用していただきまして、定員外職員の定員化ということも含めまして合理的な処遇の
改善をはかっていただきたいと考えておりまして、従来お願い申し上げている次第でございます。
それで次に、臨時職員の給与は一体どういうふうに出していたかということについて申し上げたいと存じます。
大学におきましては、ほかの官庁と全く違いまして、臨時職員の給与というものは、これはいわゆる臨時の人件費から出ることができない、校費から出さざるを得ないという状態でございます。もちろん、われわれのほうにも臨時の人件費というのがあるわけでございますけれ
ども、このお金はいわゆる非常勤講師——各部局いろいろなところから、よその大学あるいは官庁の技官などにもお願いする非常勤講師——の給与に使われる。臨時職員の人件費はそのために隠されてしまって出てこない。どうしてもこれはわれわれの講座費——われわれが
文部省からいただくお金を使わなければならない、こういうことになってきます。さらに困ったことには、臨時職員の費用が、人件費のアップ、いろいろなことから年年一四・五%は上がっているわけです。ところが、残念ながら、われわれがいただきます講座費というものは一〇%くらいの
予算しか
政府からいただいておらない、増しか考えておらない、その差額はどうしてもわれわれの
研究費を食うという形になるわけです。どうしてもわれわれの
研究費を使わなければならない。したがいまして、臨時職員の待遇
改善をや
ろうとしましても、どうしても費用の捻出に非常に
努力する、困ってしまうという実情でございます。
なおまた、この臨時職員にしておきますと、非常に不遇な待遇になるということが一つありまして、身分の保障がないということでございますが、さらに困ったことは、非常に不安定でございますから、よそから非常に引っこ抜きということが起きてきまして、われわれが非常にほしい臨時職員が会社あたりに引っこ抜かれてしまう。身分が不安定でございますから、どうしてもこういうことになってしまう。したがいまして、私らが必要といたします人員を確保することが非常にむずかしくなっているというのが実情でございます。
そこで、皆さんにいろいろお世話になりまして御迷惑かけております東京大学の農学部でなぜこの臨時職員の問題が大きくクローズアップされてきたかということでございますが、このことは一口で言いますれば、農学部に臨時職員が多いのでございますけれ
ども、結局は農学という学問が、先ほど申し上げたとおり、生活に密着した学問でありますけれ
ども、宇宙開発とか、あるいは南極探検というような非常にはなばなしいといいますか、いわゆるビッグ・サイエンスというものを農学部の分野では持っていないということでございます。したがいまして、
予算も少ないし、人員もどうしてもいただけない。しかし比較してみますと、たとえば文学部とか、文科とか哲学というようなお仕事とはまた違うのでございまして、哲学のような仕事ですと、特に最近の非常にこういう機械が要るのだということはないわけでございますけれ
ども、われわれの学問の性格上、特にやはりいろいろの機械が必要になってくる、新しい
設備も機械も必要になってくる、人間も必要になってくるという問題がある。こういうために農学部がいろいろこの問題について悩んでおるわけでございます。したがいまして、私たちは、もしこれを定員増ができないということになりますと、将来この農学の学問を非常に貧困な方向に押しやるのではないかということを心配しておるわけでございます。
私たちは何とかこの限られた
条件の中で成果を十分あげるように
努力はいたしております。事務の簡素化な
ども極力
努力してやっております。しかしながら、いかんせん、仕事の量と人員——人間の数とを比較しますと、どうしても問題が残りまして、人員の絶対不足ということが一番大きな問題になっております。最近、私、学部長になりまして以来、農学部の職員組合からもこの問題についていろいろ熱心に申し入れがございますけれ
ども、思ったよりもいま非常事態でございまして、学部長の仕事というものはなかなか忙しくて、組合の諸君とも対応できないということで、申しわけなく思っておりますけれ
ども、しかし、何とかよく話し合うようにいたしまして、一緒にこの臨時職員問題を、これを定員化するという問題を
努力していきたいと考えておる次第でございます。
たいへん簡単でございますけれ
ども、大体臨時職員問題でわが農学部におけるアウトラインをお話し申し上げました。どうかひとつ議員諸公のお力によりまして解決していただきたいと、この席をかりましてあらためてお願い申し上げる次第でございます。ありがとうございました。