○
政府委員(大塚俊二君) 最初に、本
法律案の背景となっている
事情について、簡単に御説明申し上げます。
御
承知のとおり、
政府は、
塩業の合理化につきまして、戦後一貫して努力してまいりました。すなわち、昭和三十四、三十五年の両年にわたりまして、塩の需給を
調整するため
塩業整理交付金の交付等の
措置を講じて、塩田製塩の過剰生産力の整理を行なったところであります。
その後も引き続き
塩業の合理化につとめてまいりましたが、期待されたイオン交換膜製塩技術の進展が予想よりおくれたこと及び
塩業経営の主体が近代的な体質を備えた企業に転換し得なかったこと等により、その後の合理化が十分進展しなかったのであります。
その結果、生産費の上昇が避けがたく、昭和四十年以降塩の収納価格の
引き上げを行なわざるを得なかったのであります。
このような塩の収納価格の
引き上げに加えて、流通経費の増高という
事情があったにもかかわらず、昭和二十九年以降塩の
消費者価格を据え置いてきたため、公社の塩事業会計の収支は、昭和四十年度以降悪化の一途をたどり、昭和四十五年度においては、約三十八億円の経常赤字が見込まれるに至っております。
一方、近年メキシコ、オーストラリア等におきまして大規模な塩田開発が行なわれ、輸入塩の供給源はとみに安定化の
方向に進んできており、このような事態を背景として、塩を原料として使用している産業界からは、年来の主張であります塩の公社売渡価格の引き下げあるいは自己輸入制度
実施の要望が強く出されてきている
状況にあります。
また、イオン交換膜製塩方式につきましては、昭和三十五年に一部の製塩企業に試験的に導入され、その後、イオン交換膜の性能の向上その他の技術的改良が加えられ、その結果、昭和四十一年ごろより本格的に導入されるに至ったのであります。
その製塩量は、昭和四十四年度におきまして、国内における塩の生産高約百二万九千トンのうち二十二万七千トン(全生産高の二二%)を占めており、その生産費も塩田製塩のそれと比較して著しく低廉となり、今後イオン交換膜技術の進展によって、生産費はさらに大幅な引き下げが可能と見込まれる
状況になっております。
このような情勢を背景に、
日本専売公社は、昭和四十四年一月に、総裁の諮問機関である
塩業審議会に対し「新技術の進展に伴う
塩業の合理化方策は如何にあるべきか」を諮問し、本年一月二十六日にその答申を得るに至ったのであります。
その答申の骨子は、
(1) 最近におけるイオン交換膜製塩技術の著しい進歩と
日本経済の開放体制への移行に伴い、塩の製造方法をイオン交換膜製塩方式に全面的に転換して、大規模な製塩企業の出現を促すとともに、国内塩の価格を五カ年以内に輸入塩の価格水準(包装並み塩トン当たり七千円)とするため収納価格を毎年
段階的に引き下げること。
(2) 将来化学工業化された製
塩業が、公社の収納制度のみに依存することなく、その企業の努力によって成長が可能となるよう生産・販売業者の市場機能を育成する
方向で取引の自主化をはかるとともに、一次卸の機能を果たす組織の形成を促すほか、公社の収納塩及び輸入塩の収納、保管売り渡し等の業務についても、
関係業者の流通機能の成熟を促すため極力簡素化をはかること。
(3) 今回の
塩業近代化に適応し得ない企業は、
塩業からの離脱を余儀なくされることとなるが、それらの者の転廃業を円滑に進めるため、一般に妥当と認められる範囲において助成を行ない、無用の社会的、経済的混乱の発生を防止することが必要であること。
の三点を主たる内容としております。
以上の
塩業審議会の答申の趣旨に沿って法文化したものが、今回刀
法律案であります。
次に、
法律案の内容について、簡単に補足して説明をいたしますが、
第一に、今回の
塩業の整備及び
近代化の目的でありますが、これについては、第一条に規定しております。
最近における製塩技術の著しい進展等、
塩業の経済的諸条件の変化に対処して、塩の製造方法を従来の塩田製塩方式から大規模なイオン交換膜製塩方式に全面的に転換することを基本に、
塩業の
近代化を促進するため、
塩業整理交付金の交付に関する
措置等を講ずることにより塩田等の整理を行なうとともに、昭和五十年度の始まる時期において塩の収納価格を輸入塩の価格水準とすることを目途として、毎年度塩の収納価格を
段階的に引き下げることにより、塩の価格の国際水準へのさや寄せをはかることであります。
第二に、塩田等の整理及び
塩業整理交付金の交付についてでありますが、これについては第三条から第七条までに規定しております。
まず、
塩業整理交付金の交付対象者及び廃業に関する諸手続等は、第三条に規定しております。
すなわち、塩またはかん水の製造を全部廃止した者、この者を以下「全部廃止業者」と呼称いたしますが、この者については、昭和四十五年十二月一日から昭和四十六年十二月三十一日までに、また、塩田におけるかん水の製造のみを廃止した者、この者を以下「一部廃止業者」と呼称いたしますが、この者については、この法律施行の日から昭和四十六年十二月三十一日までに、それぞれその廃止の許可を申請し、その許可を受けて公社の指定する日までにその製造を廃止した者に交付金を交付することとしております。
なお、全部廃止業者について、その廃止申請の期間を昭和四十五年十二月一日から昭和四十六年十二月三十一日までとしたのは、すでに昭和四十五年度の公社の予算に基づいて公社の定める
塩業整理に関する補助金の交付を受けた者も、今回の
措置により交付金の交付を受けることとすることが適当と考えたものであり、この場合すでに交付を受けている金額は控除することとしております。
次に、
塩業整理交付金の交付基準は、第四条に規定しておりますが、全部廃止業者と一部廃止業者に交付するものとに区分しております。第四条の法文そのものは、きわめて抽象的に表現されておりますので、政令で規定する予定の内容を補足して具体的に申し上げます。
(1) 全部廃止業者につきましては、第四条第一項に規定しておりまして、
(a) 塩またはかん水の製造の廃止の際に、製造の用に供されている製塩施設の廃止による減価を埋めるための費用として、廃止日における製塩施設の帳簿価額からその施設の処分見込み価額を控除した額に相当する金額を交付することとしております。この費用を以下「減価補てん費用」と呼称いたします。
(b)塩又はかん水の製造の廃止に伴って必要とされる退職金を支払うための費用、この費用を以下「退職金支払い費用」と呼称いたしますが、この費用として、
塩業の廃止に伴って退職を余儀なくされる従業員等について、昭和四十五年中に支払った基準内給与の平均月額を年度換算、ベースアップ等を考慮して算出した四十六年度推定平均月額を基礎に、公務員の整理退職の場合に準じて
計算した金額と、昭和四十五年中に支払った基準内給与の平均月額の六カ月分に相当する金額の合計額を交付することとしております。
(c)塩またはかん水の製造の廃止にかかる転廃業を助成するための費用、この費用を以下「転廃業助成費用」と呼称いたしますが、この費用につきましては、小規模な
個人事業者が大半を占める
塩業の実情にかんがみ、これらの者の
塩業からの円滑な離脱をはかるため、前回整備の例にならい、前回の
措置にほぼ相当するものを交付することとしたものでありまして、その具体的な内容は、次のようになっております。
(イ)廃止業者の転廃業を促進する費用として、その廃止塩量に比例してトン当たり八千円を一律に配分する
部分と、特に転廃業の困難な塩田業者のみを対象とし、その中の零細業者に手厚くなるよう塩田の廃止塩量トン当たりほぼ一万円の原資をもって傾斜配分する
部分に区分し、それぞれについて
計算した金額の合計額を交付することとしております。
(ロ) 廃止業者が塩田施設を撤去する費用として、トン当たり千百七十五円を廃止業者の塩田塩量に応じて交付することとしております。これを以下「塩田施設撤去費用」と呼称いたします。
(2) 一部廃止業者に交付する交付金につきましては、第四条第二項に規定しておりまして、
(a) 減価補てん費用
(b) 退職金支払費用
(c) 塩田施設撤去費用
を交付することとしております。
この場合の減価補てん費用、退職金支払い費用につきましては、全部廃止業者に交付するものと同様でありますが、転廃業助成費用につきましては、交付を受ける廃止業者が、塩田におけるかん水の製造を廃止するのみで、今後塩の製造を続ける者であることから、塩田施設撤去費用のみを交付することとしております。
以上により、交付する
塩業整理交付金は、減価補てん費用として二十八億円、退職金支払い費用として六十億円、転廃業助成費用として百二億円、合計百九十億円でありますが、このうち五十億円は昭和四十五年度の公社の予算に計上された
塩業整理交付金を繰り越して支出する予定であります。
さらに、交付金の請求及び交付の手続につきまして、第五条に規定しております。
なお、公社は、特に必要があると認めるときは、交付金の額を決定する前に、概算見積もりにより交付金の一部を交付することができる旨を同条第四項に規定しております。
次に、
塩業整理交付金についての
課税上の特例であります。
今回の交付金の交付の目的が十分に達成されるよう、第七条の規定により廃止業者の受ける交付金について、
租税特別措置法で定めるところにより、これらの者の
所得税または法人税を
軽減することとしております。
次に、塩の製造者から納付させる納付金について申し上げます。
従来、各種の企業整備の例、たとえば、特定繊維工業構造改善、清酒製造業の安定化の
措置の例に徴しましても、残存する業者は、それぞれ応分の納付金を
負担することとなっております。
塩業審議会の答申にも、「今後製塩を行なう
近代化企業は、整理資金の一部について応分の
負担をすべきである」ことを明示しておりますので、その趣旨を受けまして、第六条では、塩の製造者は、
塩業整理交付金の交付にかかる費用の一部を埋めるために、昭和四十七年四月一日から昭和五十年三月三十一日までの間に公社に納付する塩について、その収納代金の支払いを受けるつど、一トンにつき七百円をこえない範囲内の金額を納付金として、公社に納付しなければならないこととしております。
第三に、
塩業の
近代化の
措置につきまして御説明申し上げます。
前述のごとく、今回の
塩業近代化は、価格政策を基本に
実施するものでありまして、このような価格政策につきましては、第八条及び第九条に規定しております。
第八条では、公社は、塩の収納価格を昭和五十年度の始まる時期において輸入塩価格の水準とすること及び
段階的にこれに近づけることを旨として、この法律施行の日から一月以内に、昭和四十六年度から昭和五十年度までの各年度における塩の収納価格にかかる合理化目標価格を定めるものとし、これらの各年度において塩の収納価格を定めるときは、目標価格を基準とし、その他の
経済事情を参酌してこれを決定することとしております。この場合の輸入塩価格の水準と申しますのは、輸入した塩を食料の用に供する塩とするため再製しまたは加工した場合の価格でありまして、包装並み塩でトン当たり七千円と想定しております。
したがって、この目標価格は、今後公社が収納価格を定める際の基本となるものでありまして、今後とも引き続いて塩を製造しようとする者は、当然この目標価格を
前提として企業の経営を行なうこととなりますので、第九条第一項及び第二項では、昭和四十七年一月一日以降引き続き塩を製造しようとする者は、目標価格により塩の収納代金を受けるものとした場合に、健全な経営をすることができることを目標として、事業
近代化計画書を作成して、公社に
提出しなければならないとしております。
また、前述の価格政策に適合できるような
近代化企業を選定できるよう第九条第三項で所要の規制を加えることとしております。
すなわち、今後とも引き続き塩の製造を行なう企業は、少なくともイオン交換膜製塩方式により、年間の製造能力が十五万トン以上の規模を有しなければならないと考えておりますが、現在の製塩企業でこのような条件に適合しているものはありませんので、今後このような規模拡大をはかろうとする者は、製造の変更許可の申請をしなければなりませんが、その申請を許可する際に、公社は、その者が
提出しました事業
近代化計画書を審査した上、その計画書の内容が、製造の方法、製造能力、その他の事項について公社の定める基準に適合しており、かつ、その者がその計画書の内容を的確に遂行するに足りる経理的基礎及び技術的能力を有すると認めるときでなければ、許可をしてはならないこととしております。
さらに、今後、新たに塩を製造しょりとする者についても、同様第九条第四項により、その許可の要件を規制することとしております。
すなわち、新たに塩の製造者となろうとする者は、塩専売法第六条第一項の規定により、製造の方法、製造能力等について申請し、公社の許可を受けることになっております。その場合は、同法第七条に規定する許可の制限事項に該当しないことが必要でありますが、これらの制限事項のほかに、その申請した者の製造にかかる塩またはかん水の製造原価の見積もりが、公社の定める基準に適合しないと認めるときは、その許可をしないことができる旨の要件を新たに加えることとしております。
最後に、
塩業審議会の答申の趣旨に沿いまして、塩の販売及び収納につきまして、塩専売法の特例
措置を講することとしましたので、御説明申し上げます。
まず、第十条に規定する販売の特例についてであります。
御
承知のとおり、現行塩専売制度のもとにおいては、塩の製造者が製造した塩は、すべて公社が収納し、公社またはその指定を受けた販売人がそれを販売することとされており、したがって、製塩企業は、単に塩を製造し、元売り人は、
消費地で公社から買い受けた塩を販売するにすぎず、また、塩の商品計画、需給
調整、価格形成、輸送保管、その他塩の流通
機構のほとんどを公社が担当している実情でありますが、このような制度のもとにおいては企業の合理化意欲が十分発揮されるとは言いがたい
状況にあります。
今回の
塩業近代化におきましては、今後残存する製塩企業は、化学工業化された大規模企業でありまして、イオン交換膜技術の進展により、製造能力の増大が見込まれておりますので、これらの企業が今後公社の収納制度のみに依存することなく、その企業努力によって成長が可能となるよう、生産者が塩元売り人に直接塩を販売することができる道を開くとともに、元売り人間の売買を認めることとしたものであります。
しかしながら、塩の専売制度が公益専売である趣旨にかんがみ、直ちにこのような制度を大幅に導入することは、塩の需給の
調整、価格の安定に問題があると考えられますので、次に申し上げるようなその需要の大
部分が輸入原塩またはそれを再製、加工した塩でまかなわれております塩種等に限定して試行的に
実施することとしたのであります。
すなわち、これらの塩種等は、第十条第一項の各号に列記しておりますが、
第一号の塩化ナトリウムの含有量が百分の九十九・五以上の塩とは、現行の塩の種類で申しますれば、精製塩及び特級精製塩に相当するものでありまして、主として高級加工食品の原料用であります。
第二号の塩専売法第二十九条第一項に規定する化学製品の製造または漁獲物の塩蔵の用に供される塩とは、合成ゴムの製造等の用途に供される塩で、国の政策上の見地から現在特別の価格で公社が販売しているものであります。
第三号の添加物を混入した塩とは、現在の食卓塩に相当するもの、その他アジシオ等のように特別に加工された塩であります。
第四号のその他政令で定める規格を有する塩とは、かん詰め用塩、フレーク塩等、粒子の大きさや形が特殊な塩を予定しております。
これらの塩の販売数量は、昭和四十四年度実績で、ソーダ工業用塩を除き約二十二万トン
程度でありまして、生産者と販売業者の直接取引の対象としては、当面、この
程度のものと見込んでおりますが、将来さらに生産コストの引き下げがはかられれば、ソーダ工業用塩の需要分野に進出することも期待されております。
次に、これらの塩の販売等の手続きにつきましては、塩の製造者は、あらかじめ、販売先・販売数量等について、公社の許可を受けなければならない等の所要の規定をしております。
また、現行塩専売法は、塩元売り人間の売買を認めておりませんが、塩の製造者と塩元売り人との間に特定の塩について直接取引の道を開いたことに伴いまして、これらの塩の流通の円滑化のため、生産者・販売業者の間でその取引の仲介の機能を果たす組織の形成がはかられるよう、塩元売り人間においても、これらの塩を売買することができる
措置を講ずることとし、この旨を第十条第五項に規定しております。
次に、第十一条の収納の特例についてであります。
現行の塩専売法第九条におきまして、公社は、塩またはかん水の需給
調整上必要があるときは、製造者に対し塩またはかん水の製造を制限できる旨の規定がありますが、実際には、昭和三十五年度以降は、公社の指導により、業界の自主的な規制によって生産数量の
調整を行なっております。業界の自主規制
措置には、弾力性が乏しい等の問題があること、また、今後残存する製塩企業の生産数量は、技術革新の進展に応じ飛躍的に増大することが見込まれていること等から、再び過剰在庫の問題を生ずることのないよう、収納の特例の
措置を講ずることとしております。
すなわち、公社は、当分の間、塩専売法第九条の規定により塩の製造数量を制限した場合には、同法第五条第一項の規定にかかわらず、その数量をこえない範囲内において、あらかじめ製造場ごとに割り当てた数量に限り収納することとしたものであります。
なお、企業努力による自律的発展の途を開くため、販売の特例の
措置を講ずることとした趣旨に照らし、製造数量の制限をする場合に、その対象から販売の特例にかかる塩を除外することとしております。
以上の第十条の販売の特例及び第十一条の収納の特例につきましては、実際にその適用が考えられますのは、塩田の整理等
塩業の整備が完了して、大規模なイオン交換膜製塩企業の本格的な稼働が開始される時期以降と考えておりますので、その施行の日を昭和四十七年四月一日からとし、この旨を附則に規定した次第であります。
以上で
法律案の主要な事項の説明を終わります。