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国務大臣(
福田赳夫君)
通常国会が開かれまして、
政府提案諸
案件の御
審議をお願いするわけでございますが、それに先立ちまして、
一言、ご
あいさつ並びに最近の
財政金融事情につきまして私の
考え方を申し上げさしていただきます。その概要につきましては、お手元に
印刷物を配付してあります。この
印刷物は、過日の本
会議における説明と大体同じでございます。したがいまして、これが朗読は省略さしていただきまして、特に私がいま感じておる二、三の点につきまして申し上げさしていただきます。
一つは、
日本の
経済をどういうふうに
運営していくかという私の
考え方についてであります。私は、
日本の
経済が数年来いわば超
高度成長という形になりましたことにつきまして、実はたいへん心配をいたしておったわけであります。
佐藤内閣ができましてから
経済成長の高さはすばらしいものでありましたが、それがだんだんと加速化してきまして、一昨年あたりの
状態をほうっておきますと、どうも、一三%
成長、これが一四%
成長にもはね上がりそうな
傾向である。この
傾向をほうっておきますと、とにかく、五年間で、わずか五年の間で、
日本のこの四つの島の上における
生産が倍になる。つまり、総
生産が倍になるという
傾向、これは実に偉大なことであるに違いございませんけれども、しかし、そういうことはとうていでき得ない。これには
成長を制約する幾多の要因というものがあるのでありまして、何といいましても第一は
資源であります。今日でも
資源の確保には非常に窮屈な
状態にあるわけでありまして、昨今もうすでに油の問題があることは皆さん御
承知のとおりであります。あるいは
鉄鉱石、こういうようなものにつきましても、五年の後に倍の
鉄鉱石が入手できるか、なかなかたいへんなことだろうと思いますし、すでにもう粘
結炭につきましては困難な
事態に当面しているわけなんであります。私は調べてみたのですが、わが国は、何といっても、第一等の
経済大国である
アメリカ、あるいは第二等のソビエト、これに比べますと、根本的な欠陥を持っておる。それは、
資源が
国内にないということです。その
状態を非常に端的にあらわす
数字があります。
資源を
外国から
日本は運んできますが、たとえば石油につきましては、いま、太平洋、大西洋、インド洋をたくさんな船が行き来しておりますが、トンキロで計算いたしますと、実に二〇%がわが
日本で需要する原油であります。あるいはこれを
鉄鉱石について見ますと、実に五〇%が
日本向けである。また、粘
結炭、
製鉄用原料炭になりますと、七〇%がわが
日本の需要に充てられるものである。そういう極端な
数字も出ますが、それほどさように、
資源の
輸送という問題も、五年後に倍の
資源を
輸送するとなった場合に、一体応じ得るかと、こういう問題があるわけであります。
さらに、
国内にその
資源を運び得たと仮定する。それで、それを製品化する場合に、その製品を
末端消費者に届けなければならぬ。その届けるためには、何といっても、
国内の
輸送力というものが必要であります。しかるに、国鉄の
輸送力は倍にならぬし、道路の
輸送力は倍にはならぬ。五年間で倍になりません。そういうような問題がある。
一番の問題は、何といっても
労働力です。企業の
近代化、
合理化が進む。でありますから、五年の後に
生産が倍になるという場合におきまして、倍の
人的労働力はこれは必要ないかもしらぬけれども、倍に近い
労働力が要る。この
労働力が確保できるかというと、非常に困難であります。そうしますと、人手の
取り合い競争となり、
賃金の
引き上げ競争となり、また、そういう加速度的な
賃金の
引き上げというものはどうしたって
物価に響かないではいない。やはり
物価と
賃金との間にスパイラルが起こる。そこで、
インフレ、これも
悪性インフレというものに当面せざるを得ないと思うのです。
そういうことを考えますと、一四%、一五%というような高い
成長を続けますと、五年で倍になるという計算にはなりまするけれども、実は倍にならないで、もう一、二年で壁に突き当たる。突き当たって鼻血を出す
程度じゃなく、脳天を打ち割るというような
事態になる、こういうことがおそれられるわけなんであります。そういうふうにしては絶対に相ならぬと考えまして、一昨年から御
承知のように
景気抑制政策をとってきたわけでありますが、だんだんその
抑制政策、その主軸として
金融引き締めをやったのですが、この効果が出てまいりまして、昨年の秋ごろには
鎮静化の
傾向が見られるようになってきたわけです。そこで、
金融引き締め政策を緩和するという方針を打ち出し、今日に至っておるわけでございますが、だんだんと
鎮静化の趨勢というものが進みつつあるやに見られる。私は、大きな大局から見ると、これはいいことである、こういうふうに思うのです。思うのですけれども、現在の
時点に立って今後の施策を考える場合におきまして、どうも
静鎮化が場合によると進み過ぎるのではないか、こういうことが心配されるのであります。私は、前々から、
日本の
経済は十三、四%
成長するのはどうしても高過ぎる、それではどういう
程度がいいかという御質問がありますので、当面一〇%
成長、この辺でやってみて、これが低過ぎるのか高過ぎるのか様子を見る、一〇%という見当の
政策運営をすべきじゃないかというお答えを申し上げたわけでありますが、いまかなり一〇%を割っておるという
状態かと思うのです。そういう
時点におきまして、私は、今後の
日本の
経済は約一〇%
がらみの
経済の
成長が望ましいと、こういうふうに考えまして、今後もし
過熱がぶり返すというようなことがあれば、これはもとより押えなければならぬけれども、むしろいまこの
時点に立ちましては
景気がかなり落ち込むおそれを感ずるわけであります。落ち込んでもまた困る。一億国民の士気が非常に阻喪するわけであります。そういうことでも困りますので、四十六年度というこの年は、これは何といいましても超
高度成長から政策的に
安定成長へと
政策運営をやっておりますその過程の四十六年度である、そういうことを考えますときに、四十六年度という年はきわめて重要な意義を持つ年である、こういうふうに理解をいたし、
最大の注意を払い、
最大の
努力を傾けてまいらなければならぬと、こういうふうに考えておるわけであります。
四十六年度の予算の編成にあたりまして、
中立機動型という性格づけをしたのですが、
中立という意味は、
過熱にもしない、しかし非常な落ち込みにもしない、中道を行く
経済、それに
財政に
一つの
役割りを演じさせたい、こういうふうに考える、そういう趣旨であります。それから
機動型と申しますのは、そういう
過渡期の
流動期の
日本経済でありますので、いろいろな
変化が起きてくるだろうと思うのです。そのいろいろな
変化に
機動的に妥当に対応し得るかまえ、これは
財政においても
金融においてもしかり、かように考えておるわけであります。さような
財政、
金融を縦横
機動的に駆使いたしまして、
日本の
経済をそういう中庸型のまた
安定型の
成長路線に乗っける。その上に立って、はじめて、公害問題、あるいは社会福祉問題、また
物価の問題というものの基礎づけができるんだ、こういうふうに考えておる次第であります。
それから第二に私が非常に心配しております問題は、
国際社会の中におけるわが
日本の
姿勢という問題であります。いま、何といいましても、わが
日本は、
世界の
経済の中では非常にずば抜けてすばらしい
状態にあると言って差しつかえないと思います。いま
スタグフレーションということばが新しくできておるのですが、まさにそういう
状態であるのが、
アメリカであり、また
ヨーロッパ諸国である。つまり、
不況の中の
物価高、こういうわけであります。そういう
状態に
欧米諸国が置かれておる。
アメリカが一番顕著なわけでありますが、昨年はGNPがマイナスになるというような
不況であります。四・五%の
失業率をこえると社会不安をかもすというので、これが
危機ラインだというふうに長い間呼ばれてきた。その
危機ラインが軽く突破されまして、今日
失業率は六%というような
状態です。そういう
状態であれば必ず
物価が下がるものでありますが、逆に
物価がはね上がっておる。しかも、
消費者物価と同時に
卸売り物価もまた上がるという
状態であります。まさに
スタグフレーションである。その同じ
状態が、大体において
ヨーロッパの
先進諸国の中にあらわれてきているわけなんです。わが
日本は、そこへいきますと、とにかく、いまこの
時点では多少下がっておるかもしれませんけれども、一〇%
がらみの
成長路線に乗っておる、これはたいへんな
成長速度であります。そこへもっていって、
消費者物価は
先進国並みに上がっておりまするけれども、わが
日本においては
卸売り物価が
安定して微動だもしない。こういう
状態がまたほかの
先進諸国と違う第二点です。
第三点は、
欧米諸国は
不況である。
不況でありますれば必ず
国際収支はよくなる、これは古今の
通則だったわけなんです。ところが、今日の
欧米におきましては、
不況であるにかかわらず、
国際収支が一向に改善されないという
状態であります。わが
日本はその逆でありまして、
好況が続いてきた。
好況が続いてくれば
国際収支が悪くなる、これが
通則でありましたが、わが
日本はその
通則の逆を行っているわけなんであります。
好況でありながら
国際収支もまたいい、そういうようなことで、
日本の
世界経済の中における
立場というもの、
地位というものが、
世界がそういう
スタグフレーションの中にあるだけに、非常に
注目されるわけであります。そういう相対的に見るとすばらしい姿の
日本経済というものが
世界じゅうからいま
注目をされている。
注目がまたいろいろな
批判というふうになり、場合によりますると、
日本経済に対する圧迫だとか、あるいは
日本経済に関連しながら
世界に
保護貿易主義というようなものが起こってくるという
可能性もなしとしない。わが
日本の
世界経済に臨む
姿勢というものは非常に
影響が多い。と同時に、また、諸
外国から着目される
立場にある。そういうようなことを考えまするときに、
国際社会においてわが
日本の占めるシェアというものは非常に大きいので、わが
日本の
経済政策というものが
世界の繁栄に与える
影響というものは非常に大きい。そういう
世界の中における
役割りという点に
十分着目をし、また、同時に、諸
外国から
批判を受けるようなマナーというものにつきましては、そういう
地位に置かれておる
日本だけに、この際気をつけていかなければならないかなと、かように考えておるわけであります。
いずれにいたしましても、非常に大事な年でありまして、さような内外の
情勢下において最善の
努力をして、
日本経済の
安定的成長発展が息長く続くように誤りなきを期していかなければならぬかと、かように考えておる次第であります。
今
国会におきましては、十九の
法律案、また、
一つの
議決案件、それらの御
審議をお願いするわけでございますが、何とぞひとつ御
協力のほどを心からお願い申し上げまして、ご
あいさつ並びに私の
考え方を述べさせていただいた、かように御了承願います。(
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