○長谷部七郎君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま
農林大臣より
説明のありました
漁業の
動向に関する
年次報告及び
沿岸漁業等について講じようとする
施策について、佐藤総理並びに関係大臣に質問を行ないます。
まず最初に、
沿岸漁業振興対策について佐藤総理に伺います。
近年、
わが国における
水産物の
需要は、
高度化、多様化するなど、質的な変化を伴いつつ
増大しているのに対し、
生産量は年間八百六十万トン程度と横ばい状況にとどまり、勢い、輸入依存の
傾向が強くなり、昨年度の輸入総額は九百三十八億円と、ここ五年間に二・八倍に
増大した。
また、
増大する
需要に
生産が対応できず、
水産物価格は、六大都市卸売り
価格に見るとおり、前年に比べ一九・三%と大幅に
上昇し、四十年から四十四年にわたる間に約五一・四%もはね上がった。
さらに、水産庁試算による
昭和五十二年までの需給見通しでは、二百九十万トンも不足を来たし、この不足を輸入によって解消しようとする見解があるが、その見通しは決して明るいものではありません。なぜかなれば、
水産物の
需要は世界的に
増大の
傾向にあるし、また、最近の世界的
水産物生産の
増加は、主としてミール用の多獲性魚によるもので、高級魚介類の伸びは期待できないからである。
このような需給の不均衡、
価格の高騰を招来した最大の原因は、佐藤
内閣が今日まで
沿岸漁業の振興に無策に近い状態であったからで、まことに遺憾にたえないところである。(
拍手)
特に
沿岸漁場に対する
施策には、見るべきものがなく、魚礁造成一つを例にとっても、
昭和三十七年より四十五年までの九年間に約九十億円の投資にすぎず、二十六万平方キロメートルに及ぶ
わが国沿岸漁場の面積から見て、あまりにも小規模といわなければならない。
業界等においては、すでに
沿岸漁業開発の構想として、
わが国沿岸二万七千キロメートルのうち約五千キロメートルに、二千五百カ所の大規模培養魚礁帯の造成と
沿岸漁業資源の大規模な涵養を中心に、今後十年間に約二千億円の投資で積極的な
開発事業の実施を提唱しているけれども、一億
国民の副食である
水産物供給の安定的
増大をはかるために、この際
沿岸漁業振興の具体的
施策なり方針について、佐藤総理の所信を伺いたいのであります。
さらに、
沿岸漁業を今日のごとく停滞におとしいれている第二の問題は、
漁場環境の荒廃である。その原因は、産業及び都市の廃棄物、排水による汚染で、その被害は内湾に始まり、次第に外洋に及び、いまや全
沿岸漁場に及ばんとする情勢で、このまま手をこまねいておれば、
沿岸漁業は遠からず滅亡の危機にさらされることは必然といわなければならない。
昨年末の臨時国会において、一連の公害関係
法律はまがりなりにも成立し、各種の法的規制が
強化され、水質汚濁から
漁場環境を保全する法制は、ある程度
整備されたところであるが、その運用なり水質汚濁監視体制の
強化、被害防止施設の
整備は遅々として進まず、全くその効果があがっていないのが現状である。
たとえば産業公害の代表的な静岡県田子の浦のヘドロ問題の処理にしても、今日なお一日当たり二百万トンの製紙工場の廃水が未処理のまま排水され、このうち三千トンのヘドロが、すべてたれ流しの状態にある。しかも、八億円をかけて紆余曲折の末、ようやくきまった富士川の河川敷へヘドロを投棄することについてもほとんど効果をあげないまま、四月末の期限切れを迎えたところである。このようなことでは、
政府の公害防止に対する姿勢を疑わざるを得ないし、被害防止も期待できないし、関係
漁業者の期待にこたえるどころか、不信を招くのみであります。田子の浦のヘドロ問題の処理を一体どうするのか。なお、いま全国的に発生している被害
漁業者をどのように救済するのか、公害対策も含めて総理府長官の所信を伺いたいのであります。
次に、将来公有水面の埋め立て、干拓、大陸だなの海底油田の採掘、原子力発電など、海洋
開発の急速な進展に伴い、新たに大規模な漁場の喪失、
漁業被害が予想されているところであるが、海洋
開発と
漁業の調整について伺いたいのであります。
近年、
沿岸漁場の喪失は著しく、過去五年間に、臨海工業地域では二百十五・九平方キロメートル、戦後の干拓で二万五千六百八ヘクタールが失われた。水質汚濁による
漁業被害も加速度的に
増加し、被害総額も、ごく内輪に見ても百五十億円に達しております。
さらに、今後の埋め立てなどによる土地造成計画を見れば、新全総では、
昭和六十年まで十万ヘクタール、産業構造
審議会の答申による大規模臨海工業地域造成計画では、今後五年間で三百平方キロメートル、また、財界の調査機関である
日本経済調査協議会が去る五月一日発表いたしました「海洋
開発推進の基本的課題」と題する提言によると、十年後の海洋埋め立ては大規模、立体的となり、水深四十ないし五十メートルまで進み、電力など、基幹産業で公害が問題となるものは海洋に進出する、となっております。
特に政財界人の中には、公害発生のおそれのある産業は海洋へ進出させ、海洋を、あたかも産業及び都市の廃棄物の処理の場として利用せんとする風潮や、海底油田の
開発が
漁業に優先するかのごとき誤った見解が現に存在しているが、これは
漁業生産としての海洋利用を軽視する考えであるばかりでなく、
国民の健康、福祉の面から見ても、絶対に容認するわけにはいかない。
政府は、この際、海洋の
開発、利用については、あくまでも海洋環境保全と公害防止に留意し、無計画な海洋
開発を規制し、また、
開発相互間の調整をはかるなど、
わが国沿岸及び沖合い
漁業の健全な発展のため積極的な対策を示すべきと考えるが、総理並びに
農林大臣、経済企画庁長官より具体的な所信を承りたい。
次に、国際
漁業問題に関連して今次の日ソ
漁業交渉について伺いたい。
およそ二カ月にわたって難航した日ソ
漁業交渉も、途中から赤城特使をモスクワに派遣し、政治折衝の結果、去る五月一日、
日本側のかつてない大幅譲歩でようやく
合意に達したが、その
内容については多くの問題を提起している。
特にオホーツク海の産卵ニシンの全面禁漁をのんだことは
政府の一方的なやり方で、関係漁民としては絶対に承服できないとしている。
この際、基本的な問題について伺いますが、日ソ
漁業交渉は一九五六年に条約
締結以来、あるときは百日
交渉といわれ、難航するのが常とされ、ことしも時間切れでソ連側から一方的に押し切られたが、このような
交渉方式ではもはや行き詰まりにきたと見るべきではないでしょうか。
難航する根本原因は、一体那辺にあると
政府は考えているのか。われわれの見るところ、日ソ
漁業条約の運用の誤りよりも、条約の
内容に、より根本的な問題があるように思われるが、佐藤総理は、条約の
内容について再
検討する用意があるのかどうか。なお、この場合、当然のことではあるが、同様の
内容を持つ日米加
漁業条約の再
検討と並行して進める必要があると考えるが、所信なり決意のほどを承りたい。
すでに新聞の報ずるところによると、関係閣僚や帰国された赤城特使などから、従来の轍を再び繰り返さないために、今後の
交渉方式の
改善についていろいろ意見が出されているが、外務、農林の両大臣は、この点についていかに対処するおつもりなのか、決意のほどを伺いたい。
次に、産卵ニシンの全面禁漁
措置について
農林大臣に伺いたい。
今次
交渉で、ソ連側はニシン問題では特に熱心で、コスイギン首相みずから話し合いに出るという積極姿勢を見せたが、これに対し
わが国政府の態度は遺憾ながら弱腰であった。そのために最もきびしい規制
措置をのまざるを得ない結果に追い込まれたのであるが、この際、この
漁業に対する
承認の当事者である
農林大臣より、規制の
内容についてまず明らかにされるとともに、特にニシン
漁業は零細な
中小漁業者によって営まれており、関係
漁業者としては、今回の全面禁漁
措置はまさに死活の問題であるとして、生活防衛のため、十八日午後一時を期し、拿捕覚悟で二百八十隻全船が強行出漁するというきわめて緊迫した情勢にあると聞いているが、
政府としていかなる救済
措置を用意されているのか、具体的に答弁を願いたい。(
拍手)
最後に、
漁業専管水域の設定の問題について伺います。
最近、
わが国沿岸へ
外国漁船が進出し、年とともに規模、進出頻度も
増大してきている。
沿岸漁民からは、これが対策として距岸十二海里の
漁業専管水域の設定を早急に実施すべきであるとの強い要望が出されていることはすでに御承知のとおりである。
そこで、領海の幅員の問題について伺いますが、この問題は、一九五八年及び一九六〇年のジュネーブにおける海洋法
会議において確定されず、国際的に未確認のまま現在に及んでいるところであるが、その後、
わが国がいまなおとっている領海三海里説はいよいよ少なくなり、領海十二海里を主張する国が絶対的多数を占めるに至っている。また、領海三海里を主張する国々でも、
漁業専管水域十二海里を主張する国が多くなっていることも事実である。このような国際的
動向に対して、
わが国はいかに対処しようとしているのか。
さらに、
外国漁船の
わが国沿岸進出から
中小漁業者を守るため、いかなる有効な手を打とうとしているのか。一九七三年に開かれる次の海洋法
会議まで手をこまねいていることは許されないばかりか、先になればなるほど、
わが国が主張する領海三海里説を主張する国は
減少し、国際情勢はきびしさを増すものと考えるが、領海の幅員及び
漁業専管水域の設定に対し、外務大臣から
政府の具体的考えを明らかにされ、
漁業者の不安を取り除くべきである。
最後に、私は、最近における
水産物の需給の
動向にかんがみ、重ねて佐藤
内閣に、
沿岸漁業の振興のため強力な
施策を
推進し、もって
わが国漁業の健全な発展と
水産物供給の安定的
増大をはかられることを強く
要請して、私の質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕