○田畑金光君 私は、民社党を代表し、ただいま
趣旨説明のありました
健康保険法等の一部を
改正する
法律案につき、
佐藤総理ほか
関係閣僚に対し、数点にわたり質問を行なわんとするものであります。
この
法案について、
世論は、この
国会における最大の与野党激突
法案であるとし、野党三党はこの
法案成立阻止に立ち上がるであろうと報じております。なぜこのような見方が出てくるかと申しますならば、この
法案は、
佐藤内閣の数々の
公約違反の中でも最も悪質なものであるからであります。
五十六
国会は、健保
特例法採決に衆議院本
会議は実に四泊五日を要し、六十一
国会は、再度
提案された健保
特例法の
採決をめぐり、これまた三泊四日の徹夜
国会でようやく与党修正
法案の可決を見たのであります。そして、
法案採決の記名投票の最中に異例の起立
採決に切りかえたことが発端となり、石井
議長、小平副
議長の辞任に発展したのであります。先ほども指摘されたように、六十一
国会は、健保
特例法を
審議する本
会議の冒頭、
佐藤総理は陳謝されたのであります。
総理大臣が陳謝し、弁明し、釈明しなければ
法案の
趣旨説明すらできなかったことが、すでに異例でありますが、しかるに、その後
医療保険制度の
抜本改正はどうなったでありましょう。ここにまたまた単なる
財政対策法案により当面を糊塗しようというのであります。
佐藤長期政権は、すでに七年目に入っておりますが、
政治資金規制、公害、物価、そして
医療問題については無為無策に終始し、人間軽視の
社会風潮をつくり上げ、
医療の混乱を招いたことは九仭の功を一簣に欠いた
佐藤内閣の最大の失政と申し上げたいのであります。(
拍手)あらためて
佐藤総理の陳謝、弁明を求めますと同時に、今後、
医療問題の解決にどう取り組むのか、あらためて
所信を承りたい。
先刻来
政府は、今回の法
改正も
抜本改正の一歩であると答弁しておりますが、詭弁を弄するもはなはだしい。
社会保障制度審議会は、この
法律案の
諮問に対し、
抜本改正の一部を含むと称する
医療保険の
改正案を
諮問してきたことは遺憾である、
政府の再考を求めると、鋭くその怠慢を責めております。この
法律案は、権威ある
審議会の
答申を完全に無視したものであります。
医療問題の解決には長い道のりが必要であり、関係
審議会の協力なしにはできないはずであるが、それを百も
承知しながら、あえて
答申を無視して、かかる悪法を
提出した理由は何かを明らかにされたい。
なるほど、今次
改正案には被
扶養者の
給付改善、
国庫補助の定率化など、見るべきものもないではないが、しかし、全体を通じ、あまりにも被
保険者や事業主の
負担による収入増
対策に傾いております。単年度収入増七百四十億に対し、支出増わずか八十億強、年間六百五十億余の増収により収支の均衡をはかろうというのであります。
累積赤字をたな上げするかわり、今後は
政管健保に
赤字が生じても、
資金運用部資金からの融資は一切認めない、いわゆる弾力条項を発動して
保険料の
引き上げによりまかなうべしというのが、この
法律案のねらいであると考えますが、大蔵大臣の所見を承ります。
この
法律の対象である
政管健保は、本来が中小企業に働く労働者の
保険であります。収入面から見ましても、平均
標準報酬月額は、組合健保のそれに比べて約一万三千円低いのであります。しかも罹病率は高い。今回、従来の
定額補助方式を改め、
給付費の定率補助に切りかえたことは前進でありますが、しかし、先ほど来指摘されておるように、国保四五%、日雇い健保三五%の国庫
負担に比べると、あまりにも低過ぎると思う。私は、将来は、五%についても弾力的に
措置すべきであると考えますが、大蔵大臣の見解をいま一度伺いたいと思います。
抜本改正の一環として、老人
医療についてお尋ねいたします。
わが国は、この十年来急速に老人国家化しつつあります。今日、六十五歳以上の老人は七百三十万、人口の七%を占めておりますが、
昭和七十年にはいまのスウェーデン並みに、人口の一四%を占めると見られております。労働能力を失った老人は、年とともに所得は低下し、反面、有病率は高まり、
医療費はますますふえてきます。他面、核家族化の進行とともに、孤独な老人世帯はふえてまいります。六十五歳から七十四歳の老人層の有病率は、二十五歳から三十四歳の青壮年層に比べますると、約五倍にのぼっておるけれども、受診率は一・五倍にすぎません。これは
現行医療保険制度のもとにおける三割ないし五割の自己
負担が重荷であり、病気にかかっても
医療にかかれない老人の貧困を示すものであります。国のおくれた
施策にしびれを切らして、多くの地方自治体が、すでに老人
医療無料化の方向に踏み出しておる。
政府の
施策はあまりにもおそ過ぎはしませんか。この際、老人
医療の無料化ないし公費
負担について、いつから、どんな
制度、どんな
内容のもとに発足させようとするのであるか、この際、特に私は
佐藤総理大臣からお聞かせいただきたいと思うのであります。
次に、目下
社会的注目を浴びておりまする中医協をめぐる動きについてお尋ねいたします。
先般、診療報酬体系の適正化についての
審議用メモがきっかけとなり、両医師会は中医協から全委員を引き揚げ、さらに関係十四
審議会からも総引き揚げを行なったと伝えられております。診療報酬体系の適正化を求める声は、ほうはいたる
世論であり、
国民の強い期待であるだけに、中医協の機能が失われ、問題解決の機会を失することは遺憾であります。
社会経済構造の変化に伴い、老人病の増大、交通、公害病の頻発、
医療技術の進歩、新薬の投与、人件費、物件費の値上がりなどにより、
医療費の増大は当然であります。われわれは、
医療費の増大そのものを憂えるものではなくして、
医療費の急上昇の原因は何かということであります。
わが国の
社会保障費の中に占める
医療保障費は、五三ないし五五%であり、
医療費は年々一五ないし二〇%の伸びで、
国民所得の伸びを越え、欧米先進諸国並みに、
国民所得の四・五%が
医療費であります。しかし、
医療費中に占める薬剤費は、ヨーロッパ諸国は二〇%以下であるのに、わが国のそれは平均四〇%、外来は実に五〇%が薬物であります。すなわち、医師の高度な技術が正当に評価されないまま、薬剤や注射を多用するほどに医師の収入がふえる診療報酬のあり方は、何としても合理的解決を急ぐべきであり、この解決なしには、
国民のための
医療を
確立することは断じてできないと考えます。
そこでお尋ねいたしますが、中医協の混乱を収拾するため、
政府はいかなる努力を払ったか、再開の見通しはあるのか。診療報酬体系の適正化について、
政府はあげて中医協にあずけるのか。
政府みずからも、この問題解決に力をかすのか。現在、物価、人件費にスライドした診療報酬の緊急是正の要求が医師団体等から出されておりますが、これが
処理についての
政府の方針をお示し願いたい。
次に、薬価についてお尋ねいたします。
自由企業である医薬品
産業と
保険医療を結びつけているのは薬価基準であります。この薬価基準価格と実勢価格の格差を是正することにより、
保険財政の安定をはかりつつ、他面、医師の技術料の増大、診療報酬の
引き上げに充当すべきであると思います。そこで、本年度の薬価調査、基準価格
改定の時期はいつであるか、厚生大臣、明らかにされたい。
薬価基準をいまなお九〇%のバルクラインに維持しておるが、これは医薬品を不当に高く据え置く結果を招いております。これを引き下げ、下げた分は医師の技術料に振り向ける
措置をとるべきであると思うが、厚生大臣の見解を承りたい。
次に、
医療費不正請求問題についてお尋ねいたします。
国民皆
保険下の今日、このような問題が少数とは申せ発生しておることは遺憾であります。架空請求、水増し請求など、
医療費膨張の一因をなしておる不正を排除することは当然のことであります。
昭和三十五年、厚生省と両医師会の申し合わせにより、監査は、個別指導を中心にして、直接監査はやらない慣行になっておりますが、慣行を尊重しながらも、事故防止にはもっと積極的に取り組むべきであると考えるが、どうか。
ことに理解しがたいのは、
医療費について府県別に著しい開きがあることです。
昭和四十四年、被
保険者一人
当たりの
医療給付費は、
政管健保の場合、京都府は東京都の二倍にのぼっておるのであります。このような、はなはだしい地域格差が生じた理由は何なのか、
説明を願いたい。あわせて、今後の指導、監査、
審査業務の運営について、厚生大臣、答弁を願います。
次に、医師不足問題についてお尋ねいたします。
医師不足とその偏在は、
医療制度の危険信号であります。いまや公的病院、自治体病院すら深刻な医師不足に悩み、反面、開業医のみふえております。
昭和四十四年わが国の医師総数は十一万五千九百七十四人、すなわち、人口十万に対し百十三人で、西欧諸国の中程度でありますが、アメリカの人口十万に対し百五十人に比べますと、まだまだ立ちおくれております。ところで、わが国でも七大都市は人口十万に対し百五十人であるが、町村部はわずか六十六人、著しい偏在であります。医師は都市に集まり、無医地区は全国二千九百二十カ所にのぼり、
保険あれども
医療なしというのが僻地僻村の実情であります。秋田自治相のいわゆる医専構想は、医師不足に悩む地方の切なる訴えを代弁したものにすぎません。医師偏在にどう対処するか、僻地
医療をどう確保するかは緊急の課題でありますが、同時に、医師の絶対数不足もまた事実であります。
過般の大阪大学医学部不正入試問題も、医師不足の一面を持っておるだけに、これは
社会問題であると同時に
政治問題であります。文部省は、
昭和三十七年以来定員増で医師不足に対処してまいりましたが、今後もこの方針を踏襲するだけなのか、医大、学部の増新設も計画的に進めるのか、国公立大学だけでなく、私立大学についてもこれが拡充、強化、新設などを認める方針なのか、文部大臣の答弁を求めます。あわせて、医師の確保、適正配置について厚生大臣の所見を承ります。
以上、私は、
医療をめぐる当面の問題についてお尋ねをいたしましたが、
医療保険制度の抜本改革は、長期展望のもとに計画的かつ段階的に取り組む以外にないと思います。病気の予防、治療、リハビリテーションを通じ、一貫した健康管理体制の
確立、
医療機関の機能の分化など、
医療供給体制の
整備、医薬分業など医薬
制度の
確立、公費
負担医療の拡充など、抜本改革に至る道は広範であり、また複雑であります。同じ
国民でありながら、
保険料負担も
医療給付も相異なる
制度のもとにあること自体が矛盾であり、不合理であります。事が
国民の生命と健康にかかわる問題であるだけに、これが解決にじんぜん日を過ごすことは許されないのであります。すみやかに両
審議会の
答申を求め、
医療保険制度の
抜本改正に取り組むことが
政府のとるべき道であって、このような片々たる
財政対策法案で当面を回避しようとすることは断じて許されるべきでありません。いさぎよくこの
法案を撤回するか、あるいはこの
国会では無理をしないで、次の
国会にまともな
抜本改正につながる
法案を再
提出することが賢明であると私は考えますが、
佐藤総理の御見解を最後に伺って、私の質問を終わることにいたします。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕