○西田八郎君 私は、ただいま
趣旨説明のありました
中高年齢者等の
雇用の
促進に関する
特別措置法案について、
民社党を代表して、若干の意貝を申し述べつつ、総理並びに関係各大臣に質問をいたしたいと存じます。
まず質問の第一点といたしまして、
経済の見通しと今後の労働需給関係、特に中高年齢者の労働市場の見通しについてお伺いをいたしたいと存じます。
政府は、本
国会においてしばしば述べてこられましたように、本年の
経済基調を安定
成長に置き、世上にいわれております
経済のかげり現象については、単なる一時的なもので、深刻な不況にはならないと
説明されてこられました。ところが、実際には、景気の沈滞は予想以上にきびしく、すでに先月度における企業の倒産件数は七百件を上回るという実情にあります。加えて対米輸出の規制などは、産業界に深刻な影響をもたらしてきております。これらのことから判断いたしますと、今後の
経済見通しはきわめて暗く、これと相まって、労働市場、特に中高年労働者の労働市場はますます悪化し、失業は増大するものと思われます。これについて、
政府の
経済見通しは変わらないのか、また、労働需給の見通し、特に中高年齢者の労働需給関係はどうなるのか、経企庁長官並びに労働大臣の所信を伺いたいと存じます。
次に、質問の第二点として、現在の中高年齢者の大半は、戦前、戦中、戦後を通じて
わが国の苦しい
経済情勢の中にあって、あるときは軍部の圧政の中で、あるときは過酷な労働条件のもとで、あるときは敗戦の虚脱状態の中にあって、祖国の
発展と
国民生活の
向上のために臥薪嘗胆、文字どおりその苦境を克服し、今日
経済大国といわれる日本の
経済のいしずえを築くために、まじめに努力をしてこられた人たちであります。それらの人たちが、科学
技術の進歩の中で、企業の新しい
技術の導入や体質改善の名のもとに行なわれている
合理化の犠牲となって、言い知れない絶望感、挫折感に打ちひしがれて、とうとい人生の半生を暗い影を背負って歩かなければならないということは、あまりにもみじめな姿であります。まさに悲劇そのものであります。一体、この責任はどこにあるのでありましょう。私は、その責任は、
政府並びにこの間の政権担当者である総理、あなたにあると断じなければなりません。すなわち、
わが国の
経済成長が年々
高度成長をなしてきた六〇年代の後半に、すでにその徴候はあらわれていたのであります。したがって、
政府は、そのときすでにその抜本策を確立し、積極的にこれと取り組むべきであったのであります。ところが、総理、あなたは、世評にもいわれているように、対策は持っておられても政策は持っておられません。本問題についても、今日、中高年齢者の求職者数が求人数を大きく上回るまで放置されてこられたではありませんか。この空白期間はきわめて大きいものがあります。これに対して、総理並びに労働大臣は、その無策に対する責任をどのように感じておられるのか、お答えをいただきたいと存じます。
質問の第三点は、この
法案では中高年齢者の
雇用を
促進するために特別の
措置を講ずるとしながらも、その
施策においては抜本策と見られるものが何一つ見
当たりません。わずかに予算
措置として就職支度金と企業に対する
雇用奨励金が引き上げられようとしているにすぎません。そもそも
政府の
雇用政策全般を見ますときに、その中心は単なる職業紹介の
業務のみで、新しい
技術に対応するための
措置、能力に適した職種、職場の開発、労働環境の
整備など、進展する産業
技術に必要と思われる積極的な対応策はほとんど見られないのであります。むしろ企業がこれを行ない、企業のその対策、なかんずく求人対策にそれを依存し、ただ
政府の対策は職業紹介のたらい回しにすぎません。これでは貴重な労働力の有効活用はおろか、適正な労働力の配置もできないでありましょう。それのみか、
現行の
雇用対策法も職業安定法も、また職業訓練法も、完全に守られていないという実情ではありませんか。加えて、中高年齢者には、
わが国独特の賃金制度といわれる年功序列型の賃金体系と定年制とがあります。そして、これが中高年齢者を職場から締め出す大きな要因ともなっていることは、
政府もすでにこれを認めておられるところであります。そして若年労働力の不足、中高年労働者の過剰という矛盾を引き起こしているのであります。
私がここでお伺いいたしたいことは、これらの
雇用安定、労働力の適正配置などに対する
政府の
基本的な
施策について、労働大臣はどのような方針を持っておられるのか、また、それをどのように具体的に推進されるのか、たとえば何年後にほぼ目標が達成できるのか、こういった点について具体的にお伺いをいたしたいわけであります。
次に、質問の第四点といたしまして、本
法案は、中高年齢者の
雇用の
促進に関する
特別措置法となっておりますが、中身はまさに失対法の形骸化であり、肩がわりであるといわざるを得ません。今日、なお十九万になんなんとする失対就労者があり、加えて炭鉱の閉山、公害企業の転換、繊維、家電、食器産業など、対米輸出の規制や関税
一般協定による特恵供与などから余儀なくされる業種の転換、企業の縮小などは、今後ますます中高年労働者を職場から締め出し、失業に追い込むことは必定であるといわなければなりません。本
法案が、はたしてそれら予想される失業者も含めた中高年者の
雇用を
促進し、職業安定の機能を発揮し得られるのかどうか、労働大臣にその具体的な方針をお伺いいたしたいと存じます。
次に私がお伺いいたしたいことは、今度の
措置で、失対法は事実上効力を失い、現実にその適用を受けている人たちのみが
対象とされることになるわけでありますが、現在、その就労者の四六・六%はこの
事業に十四年以上の長きにわたって就労している人たちであり、また四四・一%は六十歳以上の高齢者であることは御承知のところであります。このように、すでに失対
事業に固定化され、高齢化されてきた人たちの今後のことを考えますとき、おれたちの今後は一体どうなるんだというのは、これらの人々に共通する心配であると存じます。これを暫定的に扱い、当分の間の
措置としたということは、これら失対に残留する人たちにとって、きわめてきびしいものであるといわなければなりません。(
拍手)もともと、失業対策のための
事業と中高年齢者の
雇用を
促進する
事業とは、分離して考えるべきものであると存じますが、総理はこれについてどう考えられますか。
また、失対
事業が今日のように世の人たちのきびしい批判を受けるような状態になったことに対し、
政府はその原因が失対
事業に就労する労働者にあるかのごとくいわれ、その責任を労働者に転嫁をしておられますが、私は、この責任はまさに
政府にあると断ぜざるを得ません。なぜならば、失対
事業がこのような状態になったのは、一にかかって
政府並びに公共団体のこの
事業に対するずさんな作業管理、労務管理に起因するところが大きいからであります。
政府は、これらの、現実に失対に就労することによりようやく生活をささえ、しかも、文字どおり最低の生活をやっと維持している人たちに対して、どのように対処していかれる方針なのか。すなわち、どのような
計画と対策をもってこれを収拾されようとしているのか、労働大臣の所信をお伺いいたしたいと存じます。
次に、質問の第六でありますが、
雇用審議会の答申では、今後の対策として、失対
事業就労者の給与と、社会保障の充実があげられています。すなわち、給与、特に臨時の賃金に触れて、「臨時の賃金については、これまでの
経過、期末手当の社会的慣行等に留意する必要がある。しかし、現在の運営には問題があるので、就労者の生活に激変を与えない範囲において、支給条件等の改善について検討を加えること。」と述べられております。しかし、支払わなくてもよいとはいわれていないのであります。それを、本
法案においては、その附則で、「支払わない」と明記されましたのは、一体いかなる理由によるものか。大部分の就労者がこの臨時の賃金の収入をもってようやく生計のやりくりをしている実態を見ましたときに、いかにも残酷そのものであると憤激せざる得ません。(
拍手)
さらに答申では、就労者の高齢化現象をとらえ、「労働市場における適応性の乏しい高年令者については、社会保障制度による給付の充実を図り、」云々とあります。ところが、今日の
わが国の高年齢者に対する社会保障関係、福祉対策には、生活面からも、また医療面からも、ほとんど見るべきものがありません。先日厚生大臣は、今後の高齢者対策について積極的に取り組む姿勢であることを表明されましたが、これとても、はたして来年度に間に合うものなのかどうか、怪しいものといわざるを得ません。一体
政府は、これら高齢者に対する社会保障制度並びに福祉対策をどのようにされる方針なのか、この際、総理並びに厚生大臣から具体的にお伺いをいたしたいと存じます。
最後に、これは民主主義政治の根幹にも触れる問題でありますが、
政府は、本
法案の
提出に先立って、
雇用審議会に諮問され、その答申を受けて法制化の手続をされてきたわけでありますが、その過程で、答申の
趣旨が二点にわたって無視または曲げられているということであります。健康保険法の一部を
改正する
法律案もそうでありますが、
政府のこれら
審議会の答申の扱いについての態度には、大きな疑問を抱かざるを得ません。
審議会は、国の重要な
施策について、主権者である
国民の意思を政治に反映させるために、
国会の
審議を経てそれぞれの法のもとに
設置されるものであります。しかも、その委員になっておられる方々は、
政府みずからが推薦し、委嘱された方々であります。それらの方々の貴重な御意見が集約されて
提出されてくるのがこれらの答申であります。もちろん中には意見のまとまらないものもあって、統一した見解の出ない場合もあります。しかし、今度の答申のように一致した見解が表明されたときは、すなおにこれを聞き入れるのが民主主義政治の常道であると考えます。(
拍手)ところが、
法案の中ではこの答申がすなおに取り入れられていません。
政府の立法、特に行政に取り組む姿勢に対し、きわめて遺憾とするばかりでなく、委員の方々に対しても失礼ではありませんか。このようなことがたび重なることは、ゆゆしき問題であるといわざるを得ません。
さらに重要なことは、この
法案の目玉ともいわれる部分は附則の第二条にあると存じます。本文関係は、不十分とはいいながらも、一応現下の社会
情勢を反映した
施策として、これを受け取ることができます。しかしながら、
法案のすべてがこの第二条にウエートがかけられております。そして、これによって、とかく
政府の頭痛の種であった失対法の効力を失わしめようとするものであり、すなわち、ただ一条の条文によって多くの人たちの生活を根底からくつがえし他の
法律を形骸化するようなことは、断じて許さるべきではありません。口に人間尊重、豊かな生活を唱えられる総理並びに全閣僚がかかる政治姿勢である限り、
国民生活の将来もまた危ぶまれてなりません。これが佐藤
内閣の正体であると断じても過言ではありますまい。総理はこれに対してどのように弁明されるのか、明確にお答えをいただきたいと存じます。
以上、私は七つの項目について質問をいたしましたが、ひとり私のみならず、本
法案の
審議に重大な関心を寄せられております
国民の皆さん、わけて中高年齢労働者の皆さんに対して納得ができるよう、総理並びに関係大臣の親切かつ明確なる御答弁をお願いをいたしまして、私の質問を終ります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕