○大久保直彦君 私は、公明党を代表いたしまして、ただいま
趣旨説明のありました
環境庁設置法案に対し、
佐藤総理並びに
関係大臣に
質問を行ないたいと思います。
環境保全政策の本質は、単に被害が発生してから対策を講ずることにとどまらず、自然科学、
社会科学及び生態学の見地から、自然環境の復元とその人為的環境づくり、また、歴史的、文化的遺産の保全にまでさかのぼって対処すべきものであると考えております。しかし、従来までの
政府の姿勢は、常に問題発生の後手に回りまして、かつ、
企業優位に立った、まことに徹底を欠くものであったと思わざるを得ないのであります一したがって、
わが国の環境破壊の現状を必ず根絶できるという希望を
国民に抱かせるものは、何一つなかったといわざるを得ないのであります。
このような問題意識の低迷の中で、あえて立案されました今回の
環境庁設置法案でありますが、予想どおり、各省の強い抵抗によって骨抜きにされ、環境庁を設置する本来の
目的が一〇〇%発揮できるかどうか、まことに疑問と思わざるを得ないのであります。
アメリカの環境保護庁は大統領直轄の独立機関であり、従来五つの
政府機関及び
審議会に分散したものから、十五部局を一挙に統合しております。また、イギリスでは、住宅、運輸、
地方行政を統括する環境省をつくり、土地問題、公共住宅、輸送計画までを直轄して環境省がコントロールし、歴史的文化財の保護までをその
目的としているのであります。その他、スウェーデンの環境保護庁やフランスの自然保護環境省など、先進国は、すでに環境破壊に長期ビジョンを打ち出して、その対策を講じております。
私は、この
わが国の環境庁が、単なる機構いじりで終わっては断じてならないと申し上げたい。なぜなら、公害防止も、環境保全行政も、現在各省庁に分散しており、それをできるだけ簡素化し、統合的に施策を推進するためには、環境庁の設置をはかることはすでに時代の要請でもあり、むしろおそきに失した感さえするのであります。少なくとも、
国民の健康を守り、
生活環境をよくするという立場で、この環境庁が、一切の活動に優先してその任を全うし、公害列島
日本の汚名を断じて返上する、そういう使命と
責任があると思うのであります。
このような観点から、以下、若干の問題点についてお伺いしたいと思います。
質問の第一は、環境庁は、企画調整官庁か、それとも企画実施官庁かということであります。
法律案に見る限りでは、各省庁に分散しました行政事務を総合的に調整することが、環境庁のおもな任務となっていることが明らかでありますが、昨年一月、
政府は、中央公害対策
審議会を設置したにもかかわりませず、各省庁のなわ張り主義で、十分な調整機能すら発揮でき得ず、さらに、十月、
総理みずからが本部長になられました公害対策本部なるものが誕生しましたわけでありますが、これも、いたずらに名のみあって実をあげることができずに今日に至り、そして、いまここに環境庁が設置されようとしているわけであります。
ここで私が申し上げたいことは、この環境庁が、単に事務及び施策の総合調整機関で終わるならば、全く従来の延長であって、それでは、ここに環境庁として新設されることの意味を失うと思うことであります。すなわち、企画調整官庁としての任務を主とするのか、それとも各省の施策を
執行することをおもな任務とするのか、公害防止、環境保全に関連するエネルギー政策、産業一致政策、都市再開発政策など、これらに対する環境庁の権限はどこまで持つことができるのか、その性格及び権限について明確にしていただきたいと思うのでございます。
質問の第二は、環境庁が、行政官庁として公害対策の実務を行なうならば、各省に分散した公害
関係部局を、どの程度その機構整備のために集結させるかを明らかにしていただきたいことであります。
次いで、それぞれの事務官及び技官はどの程度を配置されるかにつきましても、あわせて明らかにしていただきたいと思います。
さらに、今後の問題としてお伺いしたいのでありますが、現在の各省出向の段階はとりあえずの対策としましても、今後、環境庁として、
国家公務員採用試験により人材の確保及び養成をする考えがあるかどうか、これもお伺いしておきたいと思います。
質問の第三は、
予算配分に対する
考え方についてであります。
法案によりますと、
関係行政機関の公害防止並びに自然環境の保護及び整備に関する
経費の見積もりの方針調整をすることとなっているのでありますが、はたして、環境庁の
予算配分に対する権限はどこまでなされるのか、明らかにしていただきたいと思います。
さらに、環境庁が
予算配分に十分な力を発揮できないようでは、調整官庁と言われてもいたし方ないといわざるを得ないのであります。少なくとも、本来の任務を遂行するために必要な
経費につきましては、環境庁に一括計上することを考える必要があると思うのでありますが、これにつきましてお考えをお伺いしたいのであります。
質問の第四は、環境庁の実質的な行政の推進は、いわゆる大気の汚染、水質の汚濁及び騒音などの典型公害に限定されておりまして、そのほかは企画調整及び事務処理に終わっていることであります。
現在問題になっております薬品公害、食品公害、農薬公害、農作物の土壌汚染及び電気・ガス事業などは、その規制が実質上各省に留保されてしまっていることであります。これでは環境庁本来の任務を達成するには、きわめて部分的色彩の強いものといわざるを得ませんし、また、なぜ公害防止、環境保全に関するすべての企画及び規制の権限をこの環境庁に移管しなかったのか、明確にしていただきたいのであります。
第五は、公害防止及び環境保全に関する企画立案及び行政の
執行に関して、その最終決定権とその後の監督の問題であります。
わが国の行政機構の最大の欠陥は、例を通産省にとって申し上げますと、経済
発展を助長すべき官庁に、その産業助長政策と実質的監督権が同居しているところにあると思うのであります。これでは、真の環境保全行政の推進はきわめて困難であると思います。今日に至る間も、数々と指摘されてきたとおり、
企業との癒着は免れないと思うのであります。
ここで、環境保全に関するすべての承認は、環境庁のもとで最終的判断を下すべきであり、少なくともその監督下に置かれるべきであろうと思うのであります。西ドイツにその例をとりますれば、ノルト・ライン・ベストファーレンでは、すでにその方向で
法律が
検討されております。早々に連邦議会に
提出されるとも聞き及んでおるのでありますが、この点につきましての
見解を承りたいと思うのであります。
第六は、公害病患者の救済及び紛争事務の円滑な処理の問題についてであります。
現在の中央公害
審査委員会は、国家行政組織法第八条に基づくものでありまして、その性格的な弱さが目立ち、その成果はきわめて少ない現状であります。この際、環境庁設置を契機としまして、
全国に苦しむ公害被害者の救済が大幅に促進され、さらに、環境庁の名誉にかけましても、より一そう敏速かつ円滑な公害紛争処理が推進される必要があると思うのであります。したがって、当
委員会を国家行政組織法第三条に基づく行政
委員会として改組し、公正取引
委員会並みの権限を与えるべきであると思うのでありますが、これについてのお答えをいただきたいと思うのであります。
第七は、環境庁に付属する国立公害
研究所の問題であります。
先ほども御
質問がございましたが、その
内容は、大気の汚染、水質の汚濁、騒音などについて、人の健康及び
生活環境に及ぼす影響に関する監視、測定、試験
研究及び
調査など、公害の一部分に限られているのであります。当然、環境保全全般の総合的
研究が行なわれてしかるべきであるものが、なぜ一部分に限られたのか、この点を明らかにしていただきたいと思います。
第八は、現在、厚生、通産両省の共管となっております公害防止事業団の今後のあり方、すなわち、環境庁設置後のあり方を明らかにしていただきたいと思います。特に、中小
企業などに有効かつ適切な貸し付け業務を実施するためには、環境庁にその運営をまかせるべきであると思うのでありますが、お答えを願いたいのであります。
第九は、
地方自治体との関連についてお伺いいたします。
環境庁が、数々の行政事務及び企画立案を推進するにあたりまして、一々各省と調整をはかっていくようでは、従来と何ら大差のないものになってしまうと思うのであります。環境庁と直結する
地方自治体の体制の整備を急ぐことは、有効かつ具体的な
行政指導を実施するためにも必要不可欠の問題であり、この体制が整備されないままでは、全く環境庁も実のないものになってしまうと思うのでありますが、これについての御
見解を承りたいと思います。
最後に、行政改革に対する姿勢について伺っておきたいことがございます。
今回のこの環境庁設置構想は、
昭和四十六年度
予算編成時に突然発表された、首相裁断によるいわば抜き打ち措置にもひとしいものであります。環境保全行政の一元化という非常に重要な行政改革案を、なぜ
内閣が行政監理
委員会に諮問しなかったかということであります。各省の事務次官クラスの準備
委員会でまとめられた今回の設置
法案は、きわめて官僚的色彩が強く、真に行政改革の名に値する改革を行なおうという
政府の姿勢が全く見られないのであります。真剣に取り組む姿勢があれば、当然内外に広く意見を求むべきであったと思うのでありますが、この点につきまして
総理の御
見解を承りたいと思うのであります。
以上、環境庁設置に関する基本問題につきましてお伺いしたわけでございますが、いずれにしましても、環境庁を断じて中途はんぱなものにしてはならない、このことを強く申し上げておきたいのであります。
その意味において、先国会、野党三党で共同
提案の環境保全基本
法案にも明記しましたように、
企業の繁栄が直ちに
国民の
福祉につながるという従来の観念に深い反省を加え、あらゆるものに優先して、人と自然との調和を基本とする新たな
社会の建設を行なわなければならない。そして、現在及び将来の
国民が、健康な心身を保持し、安全かつ快適な
生活を営むことができるよう、国をあげて良好な環境の確保に全力を傾倒すべきであると思うのであります。
以上、環境庁設置にあたりまして、
佐藤総理の
国民に対する確固たる決意をお伺いいたしまして、私の
質問を終わりたいと思います。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕