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井手参考人 井手でございます。
財政の側面から、
物価問題について何か申せということでございました。
物価騰貴の
原因といたしましていろいろございまして、たとえばデマンドプル
インフレとか、あるいはコスト・プッシュ・
インフレというようなことがいわれますし、また、あるいは
管理価格が問題だ、
管理価格インフレ、あるいはまた、流通機構が不整備だ、こういうようなことも
原因だということもありますし、あるいは政府の
経済に対する不当介入、あるいはまた、自由競争原理が貫徹していない、いろいろこの
物価騰貴の
原因についていわれておりまして、その
原因に応じて、いろいろの対策が主張されておりますし、政府もいろいろ
努力されている面がございます。
ただ、ここでは主として
財政面に
焦点を当てて申しますが、たとえばコスト・プッシュ・
インフレということになりますと、その対策としては
構造政策と申しますか、生産性格差をできるだけ圧縮する。中小企業の生産性を
上昇させる、あるいはまた、第一次産業部門とか
高度成長で立ちおくれた産業部門の生産性を引き上げる、こういうような対策が必要だとか、あるいはまた、
管理価格につきましても、いろいろいま、再販問題その他で議論が出ております。流通機構の整備ということも重要でございまして、四十六年度予算においても何ほどか御
努力されておるようでございます。いろいろございますが、そういう今日の
物価対策につきましては、いま申しましたようなことが、これはもちろん非常に重要ですけれども、そういうことが、非常に力点といいますか注目されまして、いわゆるデマンドプル
インフレと申しますか、その辺が少し閑却されているのではないかというような気がいたします。いま申し上げましたような
構造政策等々が必要ではないというのではなくて、そういうことはぜひやらなければいけないわけであります。これはいろいろの価格に対する
政策で、いわば、ミクロ的な価格
政策でありまして、これはぜひやらなければいけない。しかし、マクロ的な
物価水準対策といいますか、デマンドプル
インフレ対策というものがやはり必要だと思うのですね。それが不当に閑却されているというか、これは幾ら不況になっても
物価は上がっているじゃないか、
スタグフレーション、こういうようなことで、あまり有効需要
政策というものは効果がないということで、
構造政策その他が重要視されていると思うのですけれども、しかし、必ずしもそうじゃなくて、デマンドプル
インフレ対策としての有効需要
政策といいますか総需要管理
政策といいますか、これがやはり必要でありて、両々相まって行なわれなければならぬ、こう思うのです。
私が見ていますと、わが国の
経済の体質というものが、昭和三十年代から四十年代へかけまして非常な
高度成長——場合によっては、四十年度のように不況の時期もございました。ですけれども、大体において非常な
高度成長をたどってまいりました。そういうような過程の中で、需要
圧力というものが非常に出てきて、そうして
経済全体が、そういう面から
物価を押し上げていくことになっている。そういう体質といいますか、そういうものになっているような気がいたしますので、そういう体質を少し変えていく必要があるのではないか、こういうような気がいたすわけなんです。たとえば
管理価格にしましても、考えてみますと、ああいう
原因からのものの価格というのは、本来あるべき価格よりも非常に高くなっているというわけですけれども、よくいわれますように、持続的に高くなっていくということとはちょっと違うわけです。底上げされておりますから、本来あるべき水準に価格を下げなければいかぬ。われわれは、ずいぶん不当な価格でカラーテレビその他を買わされておるから、それを下げなければいかぬ。そのためにはいろいろの対策が必要なんですね。しかし、それは下がるわけですけれども、一たん下がっても、下がった
段階から、今度は、時をおいて、時とともに上がっていくという
物価騰貴のプロセスが出てくれば、また上がるわけです。ですから、そういう
意味においては、根本的といいますか、
経済の仕組みとか体質を少し変えないと、一たんそういうものが下がっても、ただ個別的な価格
政策で物の値段を下げても、持続的な、そこから今度はずっと
上昇していく、こういうような気がいたします。
わが国の
高度成長は、大体民間企業の旺盛な
設備投資を起動力といたして展開いたしてきたように思います。いわゆる民間
設備投資主導型の
経済成長だったと思いますが、そういう企業の
設備投資は何によって行なわれたか。いろいろございますけれども、非常に大きい
分野を占めるのが金融機関からの借り入れなんです。
この金融機関からの借り入れに依存するということにつきましては、たとえば、これは租税
政策で言いますと、よく問題にされております利子所得の分離課税というようなものがございまして、民間の貯蓄部分が金融機関のほうに預金としても流れていくということになって、資金のアベイラビリティーといいますか、そういうものが出てくるわけです。それからまた、企業としては、銀行から借りたほうが、利子を支払うわけですけれども、その利子は損金として落とされますから、法人税は安くなる。増資によって
設備投資をすれば、配当をしなければならぬ。その配当金は損金にはならないわけですね。これは法人擬制説という税制の仕組みからいってそうならない。支払い配当に対しては軽減税率が適用されるような妥協案も出ておりますけれども、損金にはならない。だから、借り入れに依存したほうが税金は安くなるし、借り入れの資金は、今度は利子所得の分離課税で十分に合う、こういうようなメカニズムによりまして、
設備投資が他人
資本、特に借り入れ資金に依存するという面が多かった。そうしてその結果、貯蓄と投資との関係からいいまして、投資のほうが多くなりまして、結局市中の金融機関は日銀から貸し出しを得て融資をするというオーバーローンの問題もありますが、そういう問題が出てくるわけでございます。
そうして、
通貨が増発される。その
通貨の増発というものが、これは程度の問題でございますけれども、非常に
経済成長率を上回る増発ということから、これが
物価騰貴の
一つの大きな
原因になっておるわけです。
通貨が増発されても、ただ単に増発されて、日銀券、預金
通貨がふえましても、それが貯蓄に回ってしまえば何でもないわけですけれども、それがつまり有効需要につながるような仕組みになっておるわけですね。根本が
設備投資という有効需要でありますし、投資需要だし、それと関連して消費需要も旺盛だ、こういうところから、
通貨の増発というものが有効需要と結びつくわけですから、考えてみますと、この
通貨数量説、貨幣数量説というものが、このごろまた再認識されておるようでございますけれども、と同時に、それと組み合わせて、ケインズ流の有効需要論とが一緒になった、そういうような気がいたしております。
それから今度は、民間企業の
設備投資意欲が旺盛だということの
原因もいろいろありますけれども、深い
原因は別として、
一つは、それだけの力を税制面から付与しておるということもございます。これは法人税あるいは企業課税というもの、これが非常に重いか軽いか問題でございますけれども、税率を単純に足し合わせましても、国際的に見てそれほど高くない。法人税率あるいは事業税率あるいは法人住民税率というようなものを足し合わせましてもそれほどではないところへ、御
承知のようにいろいろの租税特別措置というようなものがございまして、税負担の軽減が行なわれておるわけです。それと、比較的低金利
政策というものが行なわれてきた。本来ならば資金需要が非常に多い。貯蓄との関係において、資金需要が多ければ、金利が上がって需要が抑制される、こういうようなことになるわけですけれども、金利がそういうコントロールをするように、今日において弾力的に動かないことがございますですね。
金融政策の
一つの限界のようなものがございます。そういうことがありまして、幾ら借りても、幾ら投資需要がふえても、お金の値打ちであるところの金利がどんどん上がっていくというわけではない。そういう
調整機能が働いていない。そこへもってきて、比較的企業課税というものが、いろいろ特別措置法も含めまして軽くて、それが本来のわが国のいろいろな、もっと基本的な、バイタリティーに富んだ旺盛な投資意欲というものを、そういう潜在的な意欲を顕在化してきた、こういうことが言えるのではないかと思います。
ところで、この
設備投資がふえていくということは、短期的に見ますと、先ほど触れましたけれども、需要要因、投資需要が非常にふえる、こういうことになりまして、その面から
経済も
成長するし、需要がふえていきますので
物価が騰貴する。もちろん投資がふえて、そうして生産設備能力がふえて、そうして供給能力が出てくる。いわゆる長期的に見ますと、この
設備投資というものは供給要因でもあるわけです。ですから、
設備投資の二面性でして、投資がふえれば、需要もふえるが供給もふえる。ただ、需要のふえ方が早いわけでして、当面
インフレ的になるのですけれども、長期的に見ると供給能力が出てきまして、相当期間
設備投資主導型の
成長が続きますと不況になる。生産過剰、需要不足、デフレギャップ——
インフレギャップからデフレギャップ、こういうことになるわけで、昭和四十年などはそうじゃなかったかと思うのですけれども、そういうことになりますと、大体先ほどのそういうコース、プロセスが、
財政の働きも相当あったわけですけれども、今度デフレギャップが出てきますと、そこにデフレギャップを補てんしようとする積極的な
財政政策というものが
発動するわけですね。そうして、従来の
高度成長が、さらにそれに輪をかけて続いていくような
状態に持っていく。また
日本の
経済も、その根本においては底力があるといいますか、ダイナミックな力を持っているということが根本でしょうけれども、デフレギャップが出てくるときには
財政面がさらに積極的にてこ入れをして、そして今度は、前の
段階よりもさらに一段と高い
成長率を実現するというような働きを持っているように思います。
わが国の
財政を見ますと、大体長い間、少なくとも一般会計だけでは、ドッジ予算以来均衡予算を続けてまいりまして、昭和四十年の補正予算で、初めて歳入補てん公債というものを発行をした。
財政法第四条に違反をしますので、
財政特例法によりまして発行をして、四十一年度から本格的に、
財政法第四条による建設公債というものを発行してきたわけですけれども、それまでは長い間、少なくとも一般会計だけにつきましては均衡予算であったわけです。
しかし、一般会計だけの均衡予算といいましても、均衡だから
経済的に中立的だというわけではないのですね。かりに均衡であっても、均衡予算の規模が
拡大していきますと——非常にわが国の予算の規模の
拡大率は高いわけですけれども、
拡大しますと、そこにいわゆる均衡予算の乗数効果というものが出てくるわけでして、特に租税全体が、比例課税でなしに累進課税的になっておりますと、その乗数が一よりも相当高いところへ行くわけです。だから、均衡予算だからといって、予算規模の
拡大、伸び率が非常に問題になるわけです。
ですから、三十年代において一般会計だけとってみると、均衡予算だということで安心はできなかったわけで、あれが景気刺激あるいは有効需要の
増大ということに非常に関係があったわけですけれども、と同時に、
財政というのは、一般会計だけではないわけでして、特別会計、政府関係機関、さらにもう少しワクを
拡大しますと、公団とかそういうようなものも含まるわけでして、そういう領域においては何も借金
財政でなかったわけではなくて、政府保証債、公社・公団債というのはどんどん積極的に発行されておりましたし、それから今度は、大蔵省証券という短期証券が発行されておるわけです。
大蔵省証券という短期証券は、一時的な国庫の不足をカバーするというので、その会計年度中に税金で返済することになりますけれども、
完全雇用状態のもとにおきまして、年度初めに、どうしても
財政支出のほうが税収よりも多くなりますから、そのときに大蔵省証券を発行する、これは日銀引き受けで発行する。そうして、やがて償還するわけでありますけれども、その間
通貨がそれによって増発される。こういうことになって、それが波及して有効需要を誘発して、
物価を押し上げる、景気刺激効果を持つ。
あとで、その年度中に租税で償還をいたしますけれども……。ですから、短期証券だからといって安心はできないわけです。それと公社・公団債というような、広い
意味での公共部門における借金というものがあるわけですからして、いわゆる
赤字財政というものは続いておったということになります。
それから、四十年代に入りまして、御
承知のように公債が発行されてきておりますからして、さらに
財政というパイプを通しての
通貨増発ということが、より活発になってきたわけです。
通貨増発のパイプは、金融面と
財政面と二つのパイプがあるわけでして、金融面からは、先ほど申し上げましたような、日銀の貸し出しということになります。それから、
財政面からの
通貨増発といいますと、これは公債の発行でありますが、もちろん現在は、
財政法第五条によりまして、日銀引き受けというものが原則的には否定されておりますからして、公募といいますか、市中金融機関がそれに応募する。間接的に国民の貯蓄によって消化されるという形になっておりますけれども、金融機関は、公債を引き受けることによって、企業に対する貸し出し資金がそれだけ圧迫されますので、ある
意味においては、公債を金融機関が引き受けた分の幾分か、相当部分が日銀の貸し出しの
増大を招くということになりますので、結局、形の上では日銀引き受けではありませんけれども、結果としては、全部とはいわぬけれども、日銀引き受けの公債発行というものが続けられる。もちろん
経済は
成長しますし、
成長通貨の供給ということも必要だし、ですから、金融というパイプと
財政というパイプと、二つのパイプから、ある程度
通貨増発ということが行なわれていることは、これは当然であって、もとの水準に
通貨量が停滞しているということはおかしいわけですけれども、問題は、その
通貨増発のスピードといいますか増加率と
経済成長率との関係でありまして、三十年代から四十年代へかけまして、現金あるいは預金
通貨というものの増加率は非常に高いわけでして、
経済成長率をはるかに越えておる。そういうところにこの
物価騰貴——
通貨増発と有効需要というものがからみ合って、
物価を持続的に押し上げていく体質が、この
経済の中にでき上がっておる。基本的にそういう体質になっておる、こういうふうに考えるわけです。
そして、そういう体質の中で、たとえば生産性格差——労働力が不足してくる。そうすると、低生産性部門においても、生産性の高い企業とほぼ同程度くらいの
賃金を与えないと雇用できない、労働力を獲得できないというようなことがあって、そこから生産性を越えた
賃金の
上昇ということが、中小企業とかあるいは低生産性の産業部門において出てくる、それが
物価騰貴の
原因になる。あるいはまた、生産性の高い大企業あるいは重化学工業部門におきましては、これはよくいわれますような労使の関係もございますが、そこで、これはどの程度かわかりませんけれども、年々生産性を上回るベースアップというものが、これは統計的に見ませんとわかりませんけれども、とにかく行なわれる。そういうことがあるとしても、そういうことが、ある面においてある。生産性格差、あるいはまた低生産性でない部門においても、生産性を上回る
賃金要求というものがかりにあるとしても、その背後には、ある
意味においては、先ほど言ったデマンドプル的な体質が
原因になっているとも言えるわけですね。たとえば、生産性を越えて
賃金が非常に上がったから、企業のほうでは価格を引き上げる、そして一定の利潤率を維持しようとしましても、もしそこにそれに対応する有効需要の
増大がなければ、それほどこの価格の
上昇によって、
賃金の
上昇分を消費者に転嫁することはできないわけですね。だから、簡単にコスト・プッシュ・
インフレだというけれども、そういうことが容易にできるという体質があるので、そういう容易にできる体質というのが、先ほどからのメカニズムなんですね。この
高度成長、
財政とか金融がからみ合って、高い
成長率を維持していく。そうして
通貨の増発、需要
圧力という体質があって、そうしてコスト・ブッシュ・
インフレといいますか、
賃金プッシュ・
インフレというものも可能だということも言えるわけですね。
ですから、先ほどから申しましたいろいろの対策、流通機構の確立とか整備とか、あるいはまた生産性格差の是正とか、あるいは
管理価格に対する
政策とか対策とか、そういうようないろいろの個別的な価格
政策というものは絶対に必要でありますが、それだけに対策を限りまして、もうどうせ
スタグフレーションだからして、有効需要
政策というものはもうやらぬでもいいだろう、無力だ、こういうふうに考えることは非常に大きな間違いではなかろうか。一方を否定するのじゃなくて、一方がどちらかというと等閑視されておると思いますので、あえてこの有効需要
政策というものを強調するわけでして、しかもそれは、
財政政策のあり方に大いに
影響されている、こういうふうに思うわけです。
しかし、四十六年度の予算を見ますと、あれは中立機動型ということになっておりますが、よくいわれますように、相当積極的な景気刺激型の予算である、こういうふうな解釈になっております。非常に景気の予測がきびしくて、案外停滞するんじゃないか、こういうことがあって、こういうような予算が編成されたというわけです。しかも、それでもいけないというので、きょうの
経済新聞なども伝えておりますように、たとえば公共事業費を繰り上げて支出するとか、その他いろいろの対策をやろうとされておるわけでして、これはほんとうに落ち込むのでしたら、それだけの必要はあるかもわからないわけですね。だから、
経済の予測ははなはだむずかしいわけですからして、これは相当多くの人の
協力、総合的な力で、コンピューターなどを利用して、そして正確な予測をしなければならぬが、それでもまだむずかしいわけでして、私ごとき者が一人で、
経済がどうなるかということをここで断言はできないわけでして、もしそういうように非常に
経済が落ち込む、景気が落ち込むということであれば、この四十六年度の予算というものも是認できるだろうし、現在のようないろいろな弾力条項その他を設けまして、予備費を大きくするとか、あるいは不特定の国庫債務負担行為を増額するとか、あるいは政府保証債のワクを
拡大してもいいというようなことにする。いろいろ政府が自主的に、自由裁量的に、景気を浮揚させることが議会を通じないでできるというようなことをやっている。こういうようなことも、
財政民主主義との関係がどうだということもありますけれども、ほんとうに景気が落ち込むということがあったならば、こういう対策もいいかもわからぬ、そういう予算が是認される、こういうふうに思うのですけれども、しかし、それは非常に景気が落ち込む場合なんです。ただ、かつても言いましたように、
設備投資主導型のあれは、やがては、いずれはデフレギャップになるわけです。初めは、
設備投資は需要要因として働きますけれども、何年かたつと供給要因として働いて、
インフレギャップがデフレギャップになって不況になる。ところが、いままでの経験によれば、それをぐっと
財政で押し上げて、それ以前の
成長率より高い
成長率になる。だから、四十年度において落ち込んだ。しかし、四十一年度から積極的な公債
政策に
転換して、今度は三十年代を上回る
高度成長を経験して、そしていま落ち込んで、そうして、ほとんど予算をあげて景気浮揚のほうに力を注いで、おそらくまた同じような体質が繰り返されていくんじゃないか。やはり新
経済社会発展計画に予定されておる
成長率を越えた高い
成長率にいくんじゃなかろうか、つまか超
高度成長といいますか。そうなりますと、基本的に
物価を押し上げる
物価騰貴の仕組みといいますか、そういう体質がまた復活していくわけなんですね。そうすると、個別的な価格
政策、やれ生産性格差の是正だとか流通秩序だとか流通機構の確立とか、その他いろいろ個別的な価格
政策は、その限りにおいては功を奏しても、
物価上昇というものは、これはとまらないわけですね。ですからして、やはりマクロ的な
物価水準対策、
物価上昇対策というものが基本にあって、個別的な個々の価格対策というものが行なわれないといけないのではないか。基本は
財政のあり方だし、それから
日本経済の体質の問題、それを忘れてはいけないんじゃないかというような気がいたします。
これからの
財政政策として考えてみますと、どうしても
社会資本というものが重要でありまして、
社会資本の立ちおくれということは、これはもう皆さんも御
承知のとおりであります。これは
生活基盤的
社会資本、生産基盤的
社会資本、ともに立ちおくれておるわけです。特に
生活基盤的
社会資本というのは立ちおくれておりまして、人間不在の
高度成長だということがいわれましたが、これの整備というのは必要でありますが、同時に、生産基盤も今後ある程度
成長していくとすれば、そして民間生産設備能力が
増大していくとすれば、やはり生産基盤的
社会資本の形成ということも無視はできないわけですね。ですからして、これからの
財政というものは、どうしても政府の財貨サービスの購入のうち経常購入のほうの伸び率を押えて、そして政府の
資本形成投資的な購入のほうにウエートを置く。そういう
意味においては、経常購入の伸び率を押えていく
意味においては、
財政の体質を非常に
改善しなければならぬと思うのですね。たとえば官庁機構、行政機構の整備の問題もありましょうし、根本的に
財政の体質を変えていく。そうして
財政の効率化をはかり、経常購入を押えて、
資本的な購入のほうはある程度伸ばしていくという配慮が必要である。しかし、口では簡単でありますけれども、これは
財政の体質の
改善ということにかかわるわけですし、また、資源の効率的使用ということにもかかわりますし、よほどの勇気が必要だろうと思います。
それからまた、もっとこまかいことを言いますと、公債の問題ですけれども、公債は、これは場合によっては均衡予算、場合によっては公債発行というようなのがフィスカルポリシーですからして、景気の状況によっては、やはり均衡予算に復帰するということも必要だと思うのです。ただ、その場合に収入が問題でありますが、収入上どれだけの効果があるかわかりませんが、たとえば間接税が問題になっております。付加価値税の問題もまた、いろいろ問題がありますが、たとえば物品税などは、よほど課税品目を広げると同時に、いろいろな課税対象間の税率のアンバランスを是正していくというような角度からの増収、それから租税特別措置の徹底的な整理。もちろん特別措置が絶対にいけないというわけじゃございませんけれども、たとえば輸出促進のための特別措置とか、あるいは利子配当に対する特別措置、これはもう源泉
選択制度でありまして、やがて廃止の
方向に進んでおりますけれども、これを徹底化するとか、あるいはまた、大企業の準備金あるいは積み立て金の本来当然利益留保であるべきようなもの、課税対象であるべきものは徹底的に整理するとか、そういうことによって増収をはかる。数千億の増収があり得ると思うのです。あるいはまた法人税率の操作ということ、場合によっては引き上げるとか、そういうようなことによりまして、税収をできるだけ合理的に引き上げる、増収をはかるということ。負担の配分、負担の公平ということを考えながら税収の増加がはかり得る余地があれば、負担の公正配分ということと関連しながらそこをはかる。そうして、できるだけ力のあるときには公債を圧縮するという形に持っていく必要がある。しかも、それは一般会計だけじゃなしに、広い
意味においての公共部門、地方
財政をも本来ならば含めまして必要ではないか、こういうように思います。
あるいはまた、特にたとえば需要関係からいうと、投資需要のほかに消費需要もありますけれども、交際費課税の強化というようなことによって——企業は投資需要だけじゃない、交際費という形で消費支出もするわけですからして、企業の消費支出を押えるということは必要だし、それは交際費課税の強化ということです。一方においてはこれは増収にもつながるわけでして、こういうことはぜひやる。政府の収入を増加しながら民間需要を押えるということで、政府部門と民間部門との資源の再配分が行なわれて、
社会資本の立ちおくれも是正されていく、こういうように思うわけでして、
社会資本が立ちおくれておる、充足しなければならぬ、だから何でも公債を発行し、積極的な
財政で、
財政の予算規模はどんどん
拡大せざるを得ないじゃないかというふうに安易に考えていきますと、
物価を押し上げていく。
物価騰貴という
経済の体質というものがいつまでたっても是正されないで、
改善されないで、先ほど申しましたような個々の価格
政策というものが、それ自体としては成功しても、
物価は上がっていくという形に在るのじゃなかろうか、こういうように考えております。
時間が参りましたので、たいへん恐縮でございますが、以上をもって終わります。(拍手)