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井手公述人 井手でございます。
このたびの
自動車重量税は
一般財源ということになっておるかと存じますけれ
ども、
道路その他の
社会資本の
充実という要請にこたえて設けられたものでございまして、実質的には特定
財源、一種の
目的税と存じます。
そこで
最初に、
道路整備というような事業の
財源といたしまして、
一般財源によるべきか特定
財源によるべきかというような問題を考えてみたいと思います。
この
自動車重量税が
道路その他の
社会資本の
充実という要請にこたえて設けられたということは、その背後に受益者
負担の原則というようなものの導入というものがあるだろうと思います。私は、最近いわれておりますところの受益者
負担の原則、あるいはそれと関連いたしまして
目的税の創設ということは、それ自体として反対いたすわけではございませんし、新税の創設につきまして、あるいは増税等におきまして、その
負担者を説得するという場合に受益
関係がはっきりいたしておれば非常に都合がいいと存じます。むだな、納税反対というようなものに対する説得というような必要もない、比較的協力、共感を得るんじゃないかと存じます。ただ問題は、そういう受益
関係がはっきりしているかどうかということでございます。受益
関係がはっきりしている、あるいはそれが計量的に把握されるということであれば、受益者
負担の原則というものが非常に望ましいし、
目的税あるいは受益者
負担金の新設ということも非常にけっこうであろうと存じます。
ただ、この受益
関係、国が与える財サービスをめぐる受益
関係というものが、実ははっきりしているようでなかなかはっきりいたしておりません。
道路につきましても、
道路を
自動車が
利用するのだから
自動車関係の
税金でその費用をまかなっていけばいいじゃないかというような発想だろうと思いますけれ
ども、一応そういうことはもっとものように思いますけれ
ども、しかし、よく考えてみますというと、
道路からの受益者というものは
自動車によってその
道路を使用する
道路の
利用者だけではないと思うのです。
道路が
整備される。そうしまするというと、当然開発利益というものがそれによって生じてきますからして、地主さんも受益者であろうと思いますし、あるいはまたその新しい
道路の沿線の企業においても直接、間接いろいろの便益を受けるわけです。あるいはまた一般
消費者もいろいろの生鮮食料品その他を迅速に新鮮なうちに入手できるというような便益もありますし、あるいはまた地域開発のための先行
投資的な
道路の建設であれば、これは全
国民の利益ということになるだろうと思います。これからはこういう先行
投資的な
道路建設ということも多いんじゃないかと存じます。
こう考えますと、
道路からの受益
関係というものは、次々にたどっていきますというと、結局
国民全体に拡散してしまうという心配も——心配といいますか、そういうことがいわれるわけです。ですからして、私は受益者
負担の原則というようなものの導入には決して反対ではございませんし、それが可能であれば積極的にそういう原則によって
課税なり課徴金を徴収されることも非常によろしいかと思いますけれ
ども、問題はそういう受益
関係の確認あるいは計量的な捕捉と計量化ということが問題でありまして、それが今日の
経済理論あるいは
財政学の理論においてはなかなかむずかしい問題である。むずかしいけれ
ども、しかしこれは精力的に取り組んで追求していかなければならぬ問題であります。ですから、私は、できるだけ国の財サービス、国が提供する財サービスをめぐる受益
関係というものを確実にとらえるというこの作業なり研究をまずやるべきである。現状において
道路をめぐる受益
関係というものは必ずしもはっきりしていないわけでありますからして、現在すでに
自動車関係の
課税によって
道路財源をほとんど一〇〇%近くまかなっておりますけれ
ども、それにさらに今度新しい
自動車重量税というものを加えて、いよいよ
自動車関係の
税金によって
道路費をまかなうということは、先ほどから申しておりますところの受益
関係の不
明確化ということと関連いたしまして疑問があるわけです。この点をひとつ十分にお考え願いたいと存じます。
それから、この新税は四年間で大体五千億の収入が予定されておりまして、年収一千二百五十億円でございますが、この千二百五十億円という増収が、はたしてこの新税の創設を待たなければどうしても不可能であろうかということでございます。これは従来の
税制、特によくいわれておりますところの租税特別措置による減収が相当なものである。現在の
税制というものが租税特別措置によりまして
負担の公平を欠く、それが減収になる。ですからして、公平化することによって増収が得られるという一石二鳥の道がここにあるわけです。私はこの場合も、租税特別措置が決して何から何まで悪いとは言わぬわけでありまして、これからの新しい国際化を控えまして、
日本経済の進むべき方向なり内容と関連しまして、新しい段階の特別措置が幾らか必要なものが生ずるということは認めますけれ
ども、従来の租税特別措置にはすでに使命を終わっておるものあるいは効果がないもの、そしていたずらに既得権益化しておるもの、これが相当あるではないか。ですから、まずこの程度の収入の確保という場合に、安易に新
財源あるいは新税に求めるということではなくして、従来の
税体系の合理化の中からそういう
財源を求める、こういう努力があってしかるべきで、それでもなおかつ
財源が不足すれば、それは新税というところに道を求めるということが適当ではなかろうかと存ずる次第でございます。
それから、いまの問題と関連いたしますが、
道路整備事業、これは第六次
道路整備五カ年計画、十兆円をこえる
金額と存じますけれ
ども、それについて三千億前後の
財源不足ということで、それが
一つの動機となってこの
重量税の創設ということになったと存じます。この十兆幾らという
金額でございますが、御
承知のように、
道路事業費の中では用地取得費というものが非常に大きなウエートを占めております。土地の値上がりという
わが国の特徴的な現象によりまして非常に取得費が高い、こういうことがございます。地価抑制政策というものを徹底的に行なわないで、現状のままで
道路整備をやれば次から次に
道路事業費というものは
金額的には拡大していくということになる。そうしてそれは新しい
財源を見つけて、その
財源で
道路事業をまかなっていく。そうすれば、また新しい計画によってまた
道路事業費がふえて、また新しい
財源を調達しなければならない、こういうことになるわけです。適正な土地政策というものを考えて、そうして
道路整備計画を策定する。そうしてぎりぎりこれだけの経費が必要であるということとの関連において新税を考える。新税の創設ということは相当重大でございますから、それだけの慎重さが必要ではないか、こういうふうに思います。
教科書的なことを申し上げて恐縮でございますけれ
ども、
財政学の古い教科書には、量入制出原則とか量出制入原則ということが書いてありまして、私
経済は量入制出原則によるのだけれ
ども、
財政は量出制入原則によるのだ、そこが違いだということがいわれております。しかし
財政におきましても、
財政支出がまず先行的に決定されて、
財源がそれから調達されるというようなことは、時と場合によっては
財政といえ
ども許されないのじゃないか。やはり
財源との関連において収入もチェックしていく。そうすれば
財政の非効率化とかあるいは放漫化ということも避けられる。高福祉高
負担ということ、これは私は賛成でありまして、当然そういう方向に国家は行くわけであります。
国民もそれに応じて高い
負担をすべきである、これは当然でございますけれ
ども、いま言いましたように
財政は量出制入の原則なんだと言うて、まず歳出が一方的にきめられて、たとえばいまのようにほとんど用地取得に相当の部分を食われる、そういう
関係においての
金額と
道路事業費というものをそのまま認めて、
財源をあとから渉猟していくということでは
財政の非効率化を招く。いたずらに
税負担が高くなることを拒否するということではございませんけれ
ども、そういう
財政の非効率化と関連する
税負担の上昇ということは、
国民といたしましてはやはり批判しなければならぬ、これが義務であろうか、こういうふうに存じます。
それから、
道路を
中心といたしました
社会資本の立ちおくれということは、これはもうわれわれ十分に
承知いたしておりますけれ
ども、
社会資本というものは
道路ばかりではありませんし、そのほかにいろいろの
社会資本がありますし、それからまた先ほどの
公述にもございましたように、
道路と申しましてもいろいろの
道路がございます。ですから
道路整備計画におきましてはどういう
道路を優先的に
整備するかとか、あるいは
社会資本の
整備、
社会資本の
充実というのはまずどこからやっていくか、あるいはどういう
関係、バランスにおいてやっていくか、いろいろの
社会資本をどういう
関係において
整備していくか、そういう総合的な
社会資本の
充実、計画の一環として
道路整備計画というものが行なわれなければならぬか、こういうふうに思います。ただ
道路中心といいましても、現在のようなハイウエーあるいは高速
道路あるいは一級
道路、そういう
道路だけに新しい
財源を次々につけ加えていくということでありますと、
財政の硬直化あるいは他の
社会資本の
整備ということが立ちおくれて、その間非常にアンバランスが生ずるのではないか、こういうふうに存じます。どういうような
社会資本をどの程度にというその価値順位、価値の優先度、政策
目的としてのいろいろの価値の優先度を決定していく、そういうこととの関連において
道路整備計画を立て、そうして
財源を考えていく、こういうことが必要ではないか、こういうふうに思います。
市町村道が非常に立ちおくれているというようなことが先ほどの
公述にもあったかと思いますけれ
ども、この場合は
自動車関係の特定
財源の中でこれに関連してちょっと申しますと、国の場合が八〇%くらい特定
財源で国道
関係は補てんされ、それから府県段階で七〇%くらいですか、それから市町村道の場合は一六%くらいしか特定
財源が割り振られてないということじゃなかったかと思います。これは地方
道路譲与税というものが府県段階には行きますけれ
ども、市町村段階には配付されないというようなことが原因になっているかと思います。こういうようにすでに
現行の特定
財源の
配分関係においてもいろいろ問題があるわけです。これは究極的には国と地方との間の
財源の
配分でございましょうけれ
ども、それから交付税なり譲与
税制度の問題でございましょうが、こういうようにまだ
現行の
税体系の中で非常に手をつけなければならないものがございます。そうしてそれによってある程度
社会資本、
道路の適正な充足、
整備ということができるわけです。それが、
財源の割り振りでも非常にアンバランスになっている
現行税体系にあまり反省が加えられないで、新税がそのまま早急にあさられているような印象を受ける次第でございます。
それから、この税と
関係いたしましては、すでにお二人の
公述人からもお話がございましたように、
現行の
自動車関係の税というものは非常に複雑で、八
種類ある。そして奢侈品
課税か資産
課税かあるいは
道路利用者
課税か非常にあいまいなものがある。
負担能力を考えて徴収しているのか
道路を
利用しておるということで徴収しているのか、非常にあいまいなものがいろいろあって、そしてその幾つかが
道路のための特定
財源ということになって、あるものは
目的税、あるものは
目的税じゃないけれ
ども特定
財源、それから今度は、たとえば
自動車税とか軽
自動車税というものは
一般財源であって、
目的税でもなければ特定
財源にもなっていない。一体この辺のところがどうなのか。どういうような税だから特定
財源にするのか、
目的税にするのかあるいは
一般財源に回すのか。そうして
現行の
自動車税というのは一体どういうプリンシプルといいますか
考え方によって課せられているのか。
自動車を持っているから
負担能力があるというのか。
道路を
利用するから課するのか。
道路を
利用するから課するということになりますと、あるいはまた
道路を損傷するからという一種の
公害税みたいな、そういう
思想もあるのか。
営業車とか
トラックというのは非常に軽くなっておるというところを見ますと、
利用者税でもないし損傷税、
公害税でもないような気がします。非常にその辺のところがアンバラだ。もう少しはっきりした
考え方を持って現在の複雑した八
種類のこの
自動車関係税というものを洗い直しまして、もう少し簡素な
体系に立て直すというようなことが
一つ。それをそのままにしておいてまた
重量税ということになりますと非常に
混乱をする。一体
自動車に対する
課税は幾らぐらいが必要なのか、どういうような車種に対してどういう
負担関係において課したらいいのかとか、あるいは
利用者税としてやるのか、あるいは
負担能力、応能原則という観点からやるのか、非常にその辺があいまいだ。新しい税をかける前に既存の複雑した無秩序な
自動車関係税を再検討し、簡素に一本化していくということ、その中で
負担関係なりその理由なりをはっきりする。そういうはっきりしたプリンシプルにおいて
自動車関係税を課する。そういうこととの関連において、どうしても
重量税が必要であるということならそれはもうそれでいいわけですけれ
ども、そういうことはしないで、
道路の
財源が必要だからというようなこと、しかもそれが受益者
関係がはっきりしない、いろいろな疑問があるという場合でございますからして、そこに疑問を持つわけでございます。
それから最後に一言、原油引き上げというような問題がございますが、それと関連しましてガソリン代も上がりましょうし、
バス、
トラック代も上がりましょうし、いろいろ物価にはね返る現象が起こるかと思いますけれ
ども、そういうことの中で、むしろそのエネルギー
課税、
ガソリン税なり軽油税なり、エネルギー
関係の税を引き下げなければならぬじゃないかというような問題も出てきておる。そうしないというと物価騰貴に拍車をかけるという心配も出てくる。こういう微妙なときに、いま言ったようないろいろの前提となるような作業を飛び越えて、ただ
自動車に税をかければいいというようなことだというと、物価問題からいっても非常に重大な結果をもたらすのではなかろうか、こういうふうに思います。
以上をまとめまして、新しい
自動車重量税の中には、いろいろそれは認むべき点もあります。けれ
ども、結論として時期尚早と申しますか、いろいろのその前にやるべき準備作業を抜きにしてこういう
自動車重量税を設けるということに対して疑問を表明いたす次第でございます。