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中田参考人 特恵関税の台湾、南朝鮮への適用に反対し、対
中国敵視の
関税差別を撤廃すべきであるという
意見を申し上げます。
わが国は、戦後二十五年
たちましたが、いまだに
中国との間に戦争処理が行なわれておらず、中華人民共和国との国交は正常化されておりません。その上、
わが国政府の
中国敵視
政策によって、
日本と
中国との友好交流、人事交流、貿易
経済交流は大きな阻害を受けてまいりました。貿易の面だけでも、
わが国政府が
関税差別、吉田書簡、ココム、食肉
輸入禁止、
輸入の諸制限等々の障害を設けているため、その発展が大きく妨げられております。そのため私どもは広範な民間の
方々とともにこれらの障害を除去し、日中友好貿易、
経済交流の発展
拡大のため長年にわたって営々と努力を続けてまいりました。
御承知のように、今日お隣の中華人民共和国は、七億人民みずからの努力と奮闘によって革命と建設の成果をもたらし、プロレタリア文化大革命の大成功をおさめ、ことしからは雄大な第四次五カ年計画に入り、全国人民代表大会開催の準備が進み、農業、工業、科学技術、教育、文化の各
方面においてすさまじい発展を遂げております。
また、国際
関係におきましても、世界の平和と人類の進歩のために積極的な外交と諸交流を進め、中華人民共和国の国際社会における威信は急速に高まり、昨年来だけでも、カナダをはじめ赤道ギニア、イタリア、エチオピア、チリ、ナイジェリアなど相次いで国交を樹立し、
中国承認国は今後ますます増加する趨勢にあります。中華人民共和国との国交
関係を打ち立てることはいまや世界の大勢でありへ
わが国にとっては
国民大多数の久しい願望であり、差し迫った課題であると考えます。
しかるに、
わが国政府が内外の世論に反して、
中国敵視
政策をかたくなに推し進め、一九六九年十一月の日米共同声明の発表以来、
国民の願望に反する方向に拍車をかけておりますことは、歴史の流れに逆行するものであると考えます。特に昨年日米安保条約を
わが国大多数
国民の反対を押し切って自動延長し、続いて第四次防衛力整備計画案概要や防衛白書に見られるような軍備拡張に拍車をかけ、最近では
アメリカのアジア侵略
政策に積極的に呼応して、ベトナム、ラオス、カンボジアヘの侵略戦争
拡大に積極的に加担しております。その上、昨年われわれの反対と内外の世論の反対を顧みず、いわゆる日韓協力
委員会と日華協力
委員会なるものを開かせ、台湾や南朝鮮に対して円借款や大陸だな開発という美名のもとの侵略的
経済進出を積極的に推し進め、日韓台連絡
委員会なるものをでっち上げて、日韓台結託を強めていることはまことに危険な道であり、
中国、朝鮮をはじめ、アジア諸国の人民に対する敵対行動を強めるものであり、容認することができないものだと考えます。これらのいわゆる日華協力
委員会や日韓協力
委員会では
特恵関税問題も協議され、一九七〇年七月二十三日の日韓閣僚
会議におきましては、その日韓共同声明の中でも明文化されております。
ここで第一に私は、
特恵関税実施に伴って、対
中国貿易、対朝鮮民主主義人民共和国貿易、対ベトナム民主共和国貿易に生じる
関税の格差に反対する
意見を申し上げます。
すなわち、これら地域に特恵を適用せよという
意見ではなくて、
特恵関税実施に伴い、
中国、朝鮮民主主義人民共和国、ベトナム民主共和国に対して生ずる格差がないようにという
意見であります。一九六九年の実績の例だけ見ましても、
わが国の
中国よりの貿易
輸入総額は二億三千四百五十四万ドル、すなわち八百四十四億三千四百七十万円で、
輸入品日数にしますと六百三十六
品目であります。この
中国よりの
輸入額と
輸入品日数に対し、
わが国政府の特恵案を照らしてみますと、
中国よりの
輸入品日中、特恵対象
品目の
輸入額は百四十六億七千三百万円であり、特恵
適用対象品目数は三百三十七
品目であります。すなわち、
輸入金額に対して二六%、
輸入品目にいたしまして七〇%が格差を受けることになります。
わが国の
中国商品
輸入の業者と需要家の被害は甚大であります。中日貿易におきまして
中国よりの
輸入はすでに数量規制、
品目規制等々不当な規制を数多く受けており、
輸入の
拡大も阻害されておりますが、加えて、
特恵関税の
実施に伴い、他の地域や他の国との間に同一
品目や類似
品目が
関税の面においても大きな格差が設けられ、日中貿易の
輸入は甚大な被害をこうむります。また特恵適用地域よりの
輸入に無税のレールが敷かれ、
輸入増加が容易になるため、
中国よりの新規商品の
輸入も困難になります。
輸入の縮小はひるがえって
わが国の一
中国輸出にも悪
影響をもたらすことは申し上げ2までもございません。したがいまして私は、
特恵関税実施に伴う対
中国貿易に
関税の格差を設けてはならないと考えます。この際、
わが国としての一
中国関税政策で他地域との
差別をつけないよう明確な
政策を打ち立つべきであると考えます。
なお、日中貿易が特恵との間に生ずる格差の解消につきましては、宮澤通産大臣も福田
大蔵大臣も、そのために事務作業を進めておると言明されております。しかし、宮澤通産大臣や福田
大蔵大臣の言明は、相手国に頭を下げろというものであって、またこのような口先だけでの言明によって、あたかも
政府当局に日中
関係打開の思思があるかのように見せかける二面
政策であると私は考えます。
そもそも
政府、大臣言明の意思表示ルールなるものは、どのような機構、場所で行なわれたか。御承知のように、これは国連
貿易開発会議、UNCTADの場所で議論されたものであります。この機構は、
中国問題を議論する場所ではございません。
またUNCTADでは、だれがこのような主張をしたのかと申しますと、特恵
適用対象国に対して、各国は各自の自国の利益からまちまちの意貝を出しました。意思表示ルールなるものは、その実はいわゆる先進国の好みによる自己選択ルールであります。これは、いわゆる特恵を
供与する牛進国側、つまりOECD側だけの
意見であって、新興国はまっこうからこれに反対いたしました。いわゆる先進国側は
開発途上国に対して意思表示を求め、意思表示をした諸国に対しては、いわゆる先進国は政治
経済の面で判断し、好みによって選択する。あくまでも特恵
供与国側のイニシアのもとで行なおうとしているものであります。これに対して
開発途上国といわれる側は、アルジェ憲章に基づく七十七カ国グループ、現実には九十一カ国でございますが、を少なくともまとめて、すべて適用すべきであると言って譲らなかったのであります。これら以外の
意見として、ルーマニア、ギリシア、マルタ等は、自国にこそ
供与せよと発言いたしました。英国は香港のような属領にも
供与してほしいと要望しました。以上のように、いわゆる先進国側と
開発途上国の
意見は、最終的には合意に至らず、さらにそれ以外の
意見も含めまして、一九七〇年十月二十四日、国連における
特恵関税合意書では、ついに
適用対象国については、それぞれの
意見はそのまま並記するに至ったのであります。
さらに、意思表示ルールなるものを日中間に適用するのは筋違いであると考えます。UNCTADの機構自体、
中国問題を議論すべき場所でもなく、また意思表示ルールなるものは、いわゆる先進国側の黒い意図が含まれており、日中間にこれを当てはめることは大きな筋違いであると考えます。
本件につきましては、むしろ
わが国は、
関税自主権に基づいて
日本として独自に対
中国関税政策を打ち立てるべきであると考えます。すなわち、いわゆる意思表示ルールではなくて、
関税自主権に基づいて特恵との間に生ずる対
中国関税差別を解消すべきであると考えます。
二番目に、私は
特恵関税を台湾、南朝鮮に適用することに反対する
意見を申し上げます。
現在、台湾、南朝鮮への特恵の適用は、復活した
日本軍国主義の台湾、南朝鮮に対する
経済侵略の一手段であり、一構成部分であると考えます。
特恵関税の適用は、円借款
供与とともに、この適用に伴って台湾や南朝鮮への
経済侵略と企業進出を
促進し、中華人民共和国、朝鮮民主主人民共和国に敵対する行為をますます強めるものであると孝えます。先般の中華人民共和国周恩来総理と藤山愛
一郎先生との会談でも、繰り返して強調されておりますように、日中間の
関係を改善し、日
中国交回復を実現する上で最大の問題は、中華人民共和国を
中国の唯一の
政府として認め、台湾は中華人民共和国の領土であるという
立場に立つことであります。そうして二つの
中国とか一つの
中国、一つの台湾といった陰謀をめぐらし、
中国の内政に干渉することを
日本政府がやめることであります。台湾、南朝鮮に対する特恵の適用は、これらの地域に対する
日本の
経済侵略にさらに拍車を加えるものであり、日中
関係改善、日
中国交回復実現に障害をさらに大きくするものであると考えます。
特恵関税の台湾、南朝鮮への適用は、台湾や南朝鮮の
勤労者を苦しめ、
日本の
勤労者や
中小企業をも苦しめるものであります。
特恵関税の
意義と役割りにつきまして、
政府は関発途上国への援助という
説明がございますが、特恵が具体的に
実施されれば、実際はだれが受益し、だれが被害をこうむるのか。特恵によって受益するのは、ごく一部の特恵目当てに進出していく企業主と現地の提携企業主だけであります。台湾や南朝鮮の
勤労者は、低劣な賃金と労働条件をしいられて苦しみ、また特恵目当てに進出していく
日本の企業の労働者も、同一
産業の労働者も低い賃金をしいられ、これらの経営者も輸出
市場を失うことになります。これらの状況は、特に労働集約を要する
産業の企業、たとえば繊維、食品、雑貨、弱電に多くあらわれております。たとえば昨年十一月九日の日刊工業新聞では「特恵の恩典をねらう」という見出しで、企業がすでに三十五社も南朝鮮へ進出しており、これはわずか七カ月間に、昨年までの五年間に許可をとった数に
相当すると報道しております。同新聞の記事では、大蔵省や通省産では、対韓投資の急増は特恵とも
関係があると見ていると書いております。また同、日刊工業新聞の昨年九月十二日号では、その具体的事実としまして、三菱商事、帝人、日清紡、高原シャツは、南朝鮮の三都物産と提携して、原反を輸出し、ワイシャツ生産、
輸入をする計画と報じております。このようにして進出する企業がねらうものは安価な労働力であります。朝日新聞の昨年十二月二日号では「はびこる女工哀史」というタイトルで、過酷な労働条件に抗議して焼身自殺をした南朝鮮ソウルの裁断師チョン・テイルさんの手紙を載せて、次のように書いております。その工場は「換気や採光が悪く、立つと頭を天井にぶつける、マッチ箱のような職場。一日十数時間労働。それでいて休日は月二回。従業員は大部分で少女で、彼女らの賃金は月三千ウォン(約三千六百円)
程度。病人も多い。全君は「肉体的にも精神的にも成長期にある彼女らに社会は回復できない打撃を与えている」と記している。」と報道しております。
昨年九月台湾に進出し、合弁
事業を行なっている
わが国の企業二百社を対象に「経営労務コンサルタント」という雑誌の編集部がアンケート調査を行ないましたところ、これらの企業が台湾に合弁会社を設立した
理由として、台湾を
加工輸出基地とすることが第一位で、回答四十四社のうち二十社を占めております。安い労働力を求めて進出したのが十五社で第二位を占めております。
加工輸出先は
アメリカ、ヨーロッパ、
日本、東南アジア諸国であり、特恵のメリットをねらったことは明白であります。
特恵関税は
開発途上国援助という美名のもとに、実際は
日本が台湾や南朝鮮に盟主として君臨する
経済手段の一つであります。
特恵関税は新植民地主義であり、台湾や南朝鮮を下請工場にするものであり、日米共同声明の路線のにのっとった
日本軍国主義の
経済侵略の手段以外の何ものでもありません。したがって私は、
特恵関税の台湾、南朝鮮への適用に反対でございます。
最後に、対
中国関税差別の撤廃でございます。
ケネディラウンドの
実施に伴い対
中国関税に
差別が生じております。現在、
中国よりの
輸入商品に対する
関税は、特恵以前からもきわめて多くの
差別をこうむっております。すなわち
関税一括引き下げ最終年度においても、
中国よりの
輸入商品は他国との間に、生糸をはじめ二十三
品目が依然として
差別を受けております。
政府は
格差解消はやっている、ことしも五十二品日中三十
品目やったと言われておりますが、なぜ残りの二十三
品目は
格差解消ができないのか。
格差解消をしない
理由は、技術的には何らの根拠がございません。私はむしろ、なぜ
中国には引き続いて二十三
品目を格差として残すのかという
理由を承りたいと考えております。KP
実施に伴い生ずる対中用
関税格差は、二十三
品目を含めて本年の四月一日から無条件で即時解消すべきであると考えます。
以上でございます。
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