○
福田国務大臣 通常国会がいよいよ再開となりまして、いろいろな事案につきまして御
審議をお願いをする、それに先立ちまして私の
財政金融に対する所見を申し述べたいと存じます。この私の
考え方につきましては、整理をいたしまして、
所信表明として印刷したものをお配りしてあります。これは過日、本
会議において私が申し述べました
財政演説と大体において同じなんです。したがいましてそれを朗読することを省略さしていただきまして、二、三、私が特に感じておる点について申し上げさしていただきます。
第一の問題は、当面の
経済運営に関する点であります。
私は、本
会議においても申し上げましたが、ここ数年間の
わが国の
経済の
動きにつきましては深くこれを憂えておったのであります。つまり、これはたいへんな
勢いである。
昭和四十一年暮れから始まりました
景気上昇、四十二年になりますと実に一三%をこえる
成長であった。四十三年に至りましてもそのような
傾向が続く。しかもそれがさらにはね上がるという
傾向であります。四十四年度、これは結果におきましては一三%
成長を切るようなことになりましたが、これは途中で
金融調整政策がとられた影響が出ておると思います。しかし、あの
勢いを放置しますとだんだんと
成長の
勢いが加速化される
傾向を私は看取いたしたのであります。一昨年ぐらいな
時点に立ちまして、その翌年、つまり昨年になりますと、この年を展望するとどうも一四%
成長というような高い
成長が実現されそうだ。そういう
状態が続きますと、これはたいへんけっこうなことには違いありませんけれども、実はけっこうなことが実現できない。なぜかというと、これを制約する諸条件というものがあるわけです。
これは申し上げるまでもなく、第一は何といっても
資源の問題であります。一四%
成長が続くというようなことになると、約五年間でわが
日本の
経済のスケールがまた倍になる。四つの国土の上におきまして
生産される
品物がまた倍になるということなんです。さなきだにいま
資源の
入手につきましてはそう容易な
状態ではございません。それが五年後には倍になるんだというようなことになった場合に、
資源の
入手がはたして可能になるかどうか。いま太平洋、大西洋あるいはインド洋をたくさんの船が
行き来をしております。その
行き来をしておる船の
状態を見ましても――つまり荷
動きです、そういう
状態を見ましても、わが
日本が
資源に不足しておるという
状態が非常にはっきり出るのです。
経済一等国は何といっても
アメリカでございます。また二等国はソビエト・ロシアかと思いますが、これらの国々に比べて根本的に違う点は、わが
日本に
資源がない、
国内資源というものがほとんどない、こういう点です。最近の
統計を見ましても、
石油につきましては一三%が
わが国に船で運ばれる。また
鉄鉱石につきましては三九%、さらに
石炭につきましては五〇%が
わが国に運ばれる。そういう
状態であります。これをトンキロで直しますと、非常にこれは片寄った
数字が出てくるわけでありますが、
石油については約二〇%が
日本向け、また
鉄鉱石につきましては五六%、また
石炭につきましては実に七七%だ。そういうように
資源のほとんど全部を海外に依存するという
状態でありまするから、これはどうしても
売り手市場ということになり、
皆さんも御
承知のように、昨年の秋にはもうアラビアの
石油は値段を上げておる。あるいは船賃はどんどん上がっていく、こういうような
状態です。また
原料炭の
入手のごときも今日すでにもう非常な逼迫を告げておる。これが五年間で倍のものが調達できるか。これはもう非常に困難なことではないかと思います。
そればかりではない。かりに万一それが
入手できまして
国内に運ばれる、そうしてそれを
生産するというようなことになりました場合にどうなるか。
生産がされ製品化された場合に、それを
流通市場に乗っけることはこれはできません。道路の
輸送力は倍にならぬ。あるいは国鉄の
輸送力は五年で倍にはなりません。そういうようなことからすると、できた
品物は倉庫にうずたかくたまっていくということにならざるを得ない。この
輸送力というものに制約が出てくる。
一番問題は、何といっても私は
労働力だと思います。いま企業におきましては、
近代化、
合理化、
省力化が進んでおる。したがいまして、五年間に
日本の
生産が倍になるという場合に倍の
工場労働力が必要であるかというと、私はそうはならぬと思いますが、しかし倍に近い
労働力は必要になってくる。この
労働力をどこから求めるか。わが
日本の
労働事情は、ドイツやイギリスのような超
完全雇用の
状態の国に比べますると、比較的には楽な
状態にありまするけれども、五年間に二倍近い
労働力をさらに追加する、これはとうてい不可能である。そういうような
状態になれば一体どうなるかというと、これは人手の
取り合い競争が始まります。また
賃金の
引き上げ競争が始まる。そして
賃金と
物価との間に急速な悪循環が始まってくる。そういうようなことを通じまして非常な
混乱状態が出てくるんじゃないか。
ですから、いまそれにもかかわらずこの数年間の
動きというものは、五年間で倍になるための
設備投資が行なわれておったわけでございまするけれども、しかしこれは五年間で国の
経済力を倍にする、こういうことにはならないで、一、二年にして壁に突き当たる。壁に突き当たって鼻血を出すというぐらいななまやさしい
状態ではなくて、これは脳天を打ち割る、こういうような
状態になりはしないか。そういうことを深く憂えまして、一昨年秋から
景気調整政策をとった。
金融引き締め政策を主軸としたわけであります。その
推移を見ておりますると、だんだんと浸透してまいりまして、はっきり去年の秋から
景気の
鎮静化というものが見られるようになった。
さて、そういう
状態が今日続いておるわけでございますが、その
時点に立ちまして、今後の
財政金融政策をどういうふうに
運営していくか。
私は大観してみまして、
昭和四十五年度、この年度の上半期におきましては、
金融調整政策の
効果も出てまいりまして、一昨年に比べると
成長は鈍化してきておると思うのです。まだ詳しい
統計表は出ておらぬ。ですからこれははっきりした
数字を申し上げるわけにはまいりませんけれども、大体一二%
成長というところにきたんじゃないかというふうにいわれておる。これがまあ通説であります。さてそれじゃ
下半期の
状態はどうなっているのだろうか。
下半期というのは申し上げるまでもなく十月からことしの三月に至る期間でありまするけれども、その
鎮静化の
勢いはだんだんと進みまして、そして三月の
時点ごろではかなり落ち込んだ
状態にいくのではあるまいかというふうに見られておるのであります。一体その
下半期の平均がどういうふうになるか。これはまだ経過中の問題で、見通しをすることにあまりに大胆かと思いますが、しかしだんだんと下がって、この三月という
時点、これはかなり落ち込んだ
状態になっておるんじゃあるまいか、そういうふうに見るのであります。
私は、
景気が
過熱をまたぶり返しちゃ困る。これはもう
日本経済が
混乱への道に向かうというふうに思います。これは絶対に避けなければならない。しかし同時に、
景気が急激に落ち込みまして国民の士気を阻喪させる、こういうようなことがまたあっては相ならぬ。この
時点に立ちますと、どっちかというと、
景気過熱がぶり返すという心配よりは、むしろ
景気が落ち過ぎて全国に
沈滞の気分がみなぎる、そういう
状態が出てきはしまいかということをおそれているのであります。そういうことから
財政金融政策の
運営というものが非常に大事になってくる。
この大事な使命をになった
財政金融政策、これはこれからの
経済の
動きを深く注意をしてまいらなければなりませんけれども、その
動きに応じて
機動的、弾力的な対策をとるということを主眼としなければならないのじゃあるまいか、そういうふうに考えておりまして、当面する四十六年度
予算もそういう
経済運営に対する
機動性ということを旨として
編成をいたしたわけであります。
すなわち、従来大体において
予算の
編成、
予算の性格、そういう
考え方を三百で表現します場合に
警戒という字が入ってきたわけでありますが、四十六年度におきましては
警戒の字をとったのであります。そしてこれにかわるに
機動という字を加えた。そして
中立機動型と称したわけであります。したがいまして、
財政の規模は、四十五年度の
伸び幅に比べますと、四十六年度におきましてはこれをやや大き目にしております。
その上さらに、
予算の
数字には出てまいりませんけれども、念のため
景気に対しての安全弁を備えておいたほうがよかろう、かように考えまして、
政府保証債の
発行権限、また
政府金融機関、つまり八公庫の貸し出しを増額し得るために原資としての
借り入れ権限を拡大する、あるいは
政府債務負担行為、との
権限を拡大しておくなどの
措置を講じようといたしておるわけであります。これは、それらの
措置全体とすると大体八千億くらいになります。これは
GNPの一%に当たるわけでありますが、大体これだけのものを持っておれば
景気の下ざさえ、これには事欠くことはなかろうと私は考えております。
財政を軸といたしまして、
過熱もなくまた落ち込みもない、安定した
経済状態、つまり大体一〇%くらいということを目標にしておりますが、その辺の
経済状態を実現をさせたい、かようなことを考えておる次第であります。
景気過熱時におきましてこれを冷やす、抑制する、そういう際には
金融政策が大きくものを言う。しかし
景気下降期、
沈滞期におきましてこれが下ざさえをする、あるいはこれが浮揚の
役割りを演ずる、そういう際にはどうしても
金融は受け身になりがちであります。やはりそういう際には
財政が一役買わなければならぬ、こういうふうに考えまして、特にこの際、
財政政策の
運用につきましては、慎重の中にも
機動性を持ちました
運用をしなければならない、かような
考え方をいたしておるわけであります。そういう基本的な
考え方をいたしておるということを御理解願いたいのであります。
それから第二に私の念頭にあります問題は、
国際社会における
わが国の
経済姿勢という問題であります。
いま、
皆さんも御
承知のように、
世界じゅうに
スタグフレーションという風が吹きすさんでおる。最もその典型的なものは
アメリカかと思います。
アメリカでは一昨年の正月、
ニクソン新
政権が成立をいたしまして、そして
ジョンソン時代以来のインフレを克服したい、そういうようなことから、
金融の
量的規制というものを強力に打ち出したわけです。つまり、全体を見ておりますと、一昨年
アメリカにおきましてはほとんど
通貨の
供給量というものをふやしておりません。これは実にきびしい、われわれには
想像もできないようなきびしさを持っておるものであります。
わが国は、
金融引き締め引き締めとは申しておりますが、とにかく
通貨の
供給量は
引き締め下においても一六、七%はふえておった。それに比べますと実は
想像もできないようなきびしさを持った
アメリカの
政策でありましたが、これはそれだけのきびしさがあるだけにすぐ効力をあらわしまして、一昨年の暮れごろから
沈滞状態がだんだんと浸透してまいったようであります。つまり、
アメリカにおきましては
失業率というものを非常に重視するのでありますが、
失業率四・五%を
危機ラインというふうに呼んでおります。その
危機ラインを突破しようという
勢いである。越えて昨年の春ごろになりますとその
危機ラインを軽く突破して五%というような高い
失業率になる。私は、
ニクソン政権は非常に驚いただろうと思う。
失業者は出る、倒産、破産は相次ぐ、しかも、そういう際には必ず
物価が下がるものでありますけれども、
物価は逆に
上昇を続ける、こういうような
状態である。
そこで
アメリカ政府としましては大きな
方向転換をしたのじゃないかというふうに見られる。つまり、
引き締め政策から転じまして
金融緩和政策を採用するようになる。まず量的な
規制の解除を始めたわけです。そうしてしばらく
推移をする。それでもまだ
効果はあらわれてこない。そこで昨年の暮れごろから二カ月半にわたって、実に四回の公定歩合の引き下げを行なうということまでいたしました。まだたいした
効果もあらわれない。しかも
物価はどんどん上がっておる。つまり典型的な
スタグフレーション、不況の中の
物価高です。
ヨーロッパ諸国におきましても大同小異であります。
そういうさなかにおきまして、わが
日本の
経済はどうだろう。
アメリカにおいてあるいは
ヨーロッパにおいて、特に
アメリカにおいては
GNPは横ばいで、昨年一年だけをとってみると
GNPがマイナスになっておる。
ヨーロッパ諸国においては一、二%、多いところで四%ぐらいの
成長だ。わが
日本はそれらの
先進諸国の中におきまして実に一〇%がらみの
成長を続けておるわけなんです。まあ、下がった下がったと言うが、そういう
成長の
路線をばく進をしておる。
わが
日本におきましても、
消費者物価の
上昇が見られるわけであります。しかし
アメリカや
ヨーロッパと違う点が一つある。これは何かというと、これらの
諸国におきましては、
消費者物価が上がりますけれども同時に
卸売り物価がまた上がっておる。わが
日本におきましては、
消費者物価は
先進国並みに上がります。上がりますけれども、
卸売り物価は微動もしないという
状態なんです。これはまた
経済原則に反するわけです。高度の
成長をすれば
卸売り物価は上がるものだ、その上がるものだという中において、わが
日本では
卸売り物価が安定しておる。
それからもう
一つ他の
先進諸国と違う点があるのです。それは
国際収支です。
景気が悪くなれば
国際収支が改善される、そういうものでありますから、
欧米諸国においては
国際収支が大いに改善されていいはずだ。ところが
国際収支もまた改善されない。特に
アメリカのごときは非常に弱っておる。わが
日本は高度の
成長をなし遂げておる。しかも、一〇%をこえるような
成長であるにもかかわらず
国際収支は非常に好調であり、ますます好調であるといってもいいような
状態です。そういう
状態下におきまして、わが
日本は
外貨保有高が漸増をしております。昨年一年間で九億ドルをふやしまして、今日では四十四億ドルというふうになっております。四十四億ドルになったからといって他の国に比べて必ずしも高い水準とは言いません。言いませんけれども、その
背景にある
国際収支、これは非常にいいのです。どの国よりも
わが国の
国際収支はいいというような
状態です。
そういうような、
先進諸国の中では非常に飛び抜けていい
立場にあるわが
日本経済であります。これは
世界諸国から、いいにつけ悪いにつけ非常に注目をされる
日本経済となったわけであります。その点が問題だ、私はこういうことを申し上げたいのであります。つまり、わが
日本はそういうさなかにおいて
世界じゅうから
期待をされ、あるいは低
開発国からは
経済協力の
期待をされる
日本国になったわけです。しかし同時に、
先進諸国からはわが
日本の
国際経済に臨む
マナー、
姿勢、これが大きく問われる
日本になったわけであります。
私どもはいま資本の
自由化、この計画を進めております。また
輸入制限の撤廃、これも計画的に逐次実行しつつあるわけであります。また低
開発国援助につきましても、
GNPの一%というものを目ざして逐次これを拡大しつつあるというような
状態であります。が、特に貿易の面、輸出の面におきまして、これが秩序正しく、諸
外国に対しまして大きな刺激を与えないような
姿勢、こういうものが特に要請されるのではあるまいか。また、既定の
路線で進んでおるもろもろの
自由化の問題にいたしましても、これが着実に実施され、その
施策の内容につきましても諸
外国から評価されるような形の
自由化、こういうものが
期待されなければならぬと思います。
そういう点を着実にやっていくということ、そういうことがないと、諸
外国から
国際経済社会の中において何か孤立したような
立場になってくるような
傾向が始まってくる、あるいはそれが高まってくるというような
状態になりはしないか。私は、
国内経済運営の問題も大事な問題でありますが、これと並んで
わが国の
国際社会に臨む
姿勢、これに十分心してまいらなければならぬ、かように考えております。
特に私が申し上げたいのはその二点でありますが、そういう二つの点を踏まえましてこれから
財政経済の
運営に当たっていきたい。そして、それらに関連したいろいろな
法律案、これは十九件あります。また
議決案件もお願いしてあるものが一件あります。二十
案件につきまして今
国会では御
審議をわずらわすわけでありますが、御
協力のもとに、超
高度成長という危険な形から
安定成長路線というものが確立できるということになりますると、私は、わが
日本の前途というものは洋々たるものになってくるのではないかということを考えるわけであります。
いま当分、何といっても第三次
世界大戦なんというものは考えられない。これまで、また戦前は、
軍事力を
背景として
世界に向かって発言をするという
国際社会であったわけであります。しかし、第三次
大戦というものがなかりそうだというような今日の
情勢におきましては、
軍事力は全然ものをいわないという
世界情勢でもないと思いますけれども、だんだんと
経済国際社会という
世界になってくるのではあるまいか、そういうふうに思います。私は、
経済を着実に伸ばしていく、そうして内はりっぱな
福祉社会を実現する、外は
国際社会から信頼され
期待されるような
マナー、これを貫き通すということになりますると、ほんとうに生きがいのある
日本国というものを建設し得るのじゃあるまいか、そういうふうに考えております。
いろいろお願いする
案件がたくさんあるわけでありますが、さような考えでやっておりますので、御理解を賜わりまして、何とぞ御
協力のほどをお願い申し上げます。(拍手)
――
―――――――――――