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田村参考人 私は、開業保険医の団体を代表いたしまして、開業保険医の立場から
意見を述べさせていただきます。
現在、日本の
医療のあらゆる仕組みがうまくいかないということで、常に問題が出されております。その中に、開業医というのはもうけ主義で取り組んでいる、開業医はもうかっているというふうな形で、現在開業医に対するマスコミの攻撃がたいへん強くなっております。一部には作為的に行なわれているんではないかと私
どもは
考えております。これにつきまして、すでに先生方のお手元に一部ずつ差し上げました、最近私
どもがっくり上げました「開業医の生きる道」という小冊子がございますので、いままで三人の先生方がお述べになりましたような問題について現在の開業保険医がどう
考えているかということについては、八〇ページばかりのものでございますので、ぜひお目通しをいただいて御参考にしていただきたいと
考えます。したがいまして、この中に盛り込みましたことの私
どもの
考え方、
考え方というよりも、日本の
医療が明治七年にいまの制度の発足がございまして、大学の付属病院と
あとはほとんど開業医まかせでやってまいりました日本の
医療が、国も社会も責任をとらずに、開業医に全部しょわせてきたと極言しても言い過ぎではないという状態でやってまいりました
医療が、いまの混乱をつくっているもとと私
ども考えております。なお、健康保険が実施されるようになりましてから、いろいろ社会的に
考えられてきておりますけれ
ども、これも健康保険の制度がはたしてどれだけ国民の健康を維持するのに役に立ったかという点では、私
どもたいへんな疑問を持っておりますし、現在でも問題点がたくさんあるわけでございます。
わが国のこの
医療制度という入れものの中の問題と、それからその中で実際に患者さんに
医療をサービスしておりますいまの
医療保険の問題とあるわけでございますが、いま一番問題にされておりますのは、やはり
医療費がふえ過ぎたというふうなとらえ方で問題にされているようでございます。しかし、
医療費がふえたということ、それが役に立っているのかいないのかというふうな点のほうがはるかに問題であろうと思います。最近十年間に患者が二倍にふえた、
医療費は五倍にふえたといわれます
数字に並んで、薬のほうが十倍こしたという
数字もお忘れなしにお
考えいただきたいと思うのでございます。先ほど来、薬の問題を解決しなければということが
一つのポイントだという御
指摘がございましたけれ
ども、私
どももそのとおりに
考えます。
それで、私
どもが
医療費の問題を取り上げますのには、私たちは
医療を担当いたします、町や村の最前線の第一線
医療をになっている開業医でございますが、その開業医の
生活と
経営をささえ、またこれから先患者さんにどれだけ中身のいい
医療サービスができるかという用意をいたしますもとになるのは、診療報酬でございます。この診療報酬に対して、
医療保険制度が始まりましてから今日に至るまで、全部の開業医が常に不満を持ってまいりました。ことに高度成長といわれます現象が日本の社会に起こってまいりましてから、この物価と人件費のたいへんな上昇に置いてきぼりを食いまして、まともに町の中、村の中で大ぜいの患者さんにあたふたと接しております開業医の
経営というものは、マスコミが書いているような実情ではないわけでございます。この点もぜひお取り上げていただきたいと思うところでございます。
それで、開業保険医の団体であります私たち
全国保険医団体連合会、現在一万三千五百人の会員がおりますが、この
全国保険医団体連合会で
中心の問題として常に
考えておりますのは、健康保険をどういうふうにしたらよくなるか。ところが次次と出てまいります健康保険法の改正案といわれるものは、私たちの立場で
考えまして、常に健康保険の改悪でございますので、この悪くされる面に対しては全面的に反対するという立場を続けてまいっております。
もう
一つは、先ほど触れました診療報酬をまともなものにしてくれ。最近におきましては、保給料を払い込みます被保険者の方々からもかなりにこの点について理解を受けられるようになりました。私たちの催しに対しまして、先生方の要求を支持するというビラがまかれるようになりました。これは
労働組合からまかれるわけでございます。まともな
医療が担当できなければ、私たちの存在理由がないわけでございます。しかも、この六万以上になります日本の開業医が現在の日本の
医療の六五%を担当しているわけでございますので、開業医というものは悪者だ悪者だというマスコミの表現だけは早くやめてもらいたいというふうに
考えている次第でございます。
それで、
医療費がふえたということが、いかにも私たちが何かやっているというふうにとられるような報道が行なわれておりますけれ
ども、私たちはこの問題についてどう
考えているか。患者さんがふえたということ、これが
一つの原因でございましょう。それから、
医療の中身について費用がかかるようになった。この二つがかけ合わされて現在の
医療費のたいへんな増加を来たしていると
考えます。それじゃ患者さんがふえたということはどういうことなのか。十年間に二倍になった。人によっては日本人は一億総半病人という表現をしておられます。私
どももそれに近いのではないかというふうに
感じとっております。国民の健康が非常に破壊されております。先ほど来お話のございました公害の問題にいたしましても、それを生み出しました急速な都市化、工業化の波で、至るところにいろいろな種類の公害がふえて環境が破壊されております。
交通事故もございます。職業病もふえております。
労働災害もふえております。その上に現在の人間の住み方からいいまして、たいへんな交通地獄でございます。ちょっと遠
距離を通勤いたしますと、一日に五百カロリーを失ってしまうという
数字さえも出されておりますが、わずか二千カロリー程度の栄養をとっている日人が、五百カロリーを通勤に費やしてしまってほんとうの仕事ができるのかどうか。それで家へたどり着きますと、現在の住宅
状況で人間らしいゆったりとした休養を与えてくれる住まいではないわけでございます。こういうふうなものがからみ合った上に、最近の消費者物価の値上がりで、患者さんたちのとっております食事を見ますとだんだん中身が悪くなっていく。これで病人がふえなかったらふしぎでございます。これは決して私たちの責任でもございませんし、患者さん一人一人の責任でもないと
考えます。それと人口の老齢化がございます。老齢化によってまた病気の種類も変わってまいります。それから薬の開発によりまして病気の種類も変わってまいります。先ほどお待ち合わせをしておる間に、先輩の
神崎先生からも、昔チフスの患者だらけの部屋に入っていくと高い熱の人がいてむんむんしていたというお話まで出ましたけれ
ども、そういう伝染病というものがほとんどなくなりましたかわりに、なおりにくいいろいろな病気がふえてきております。これらのことが
医療費の増加をもたらさないはずはないわけでございます。
その上に、冒頭に
小山先生の言われました、三十六年からの皆保険による、
医療を受ける機会を全部の国民が持ったということ、これはたいへん喜ばしいことでございます。ところが、皆保険でだれでも何かの被保険者証を持っているということになりますが、それじゃ
医療が均てんしているかという点になりますと、非常な問題点がございます。
小山先生と御一緒に横浜市の国民健康保険のことをお手伝いをしたことがございますが、その当時つくってもらいました
医療統計を見ますと、所得階層別に見まして、国民健康保険の被保険者の受診率が非常に違うわけでございます。最低の所得階層の人たちは、上のほうの人たちの半分ししか受診率を持っておりません。しかも、この方たちが一番多く病気をかかえている人たちでございます。医者ぎらいだから医者のところへ行かないのではなくて、国民健康保険の、見方によりましてはわずかと
考えられる三割の負担金のために受信ができない。その方たちは保険料だけは徴収されますから納めております。その方たちの納めた保険料は、どこへ行ったのか。保険料を納めるのには困らないし、負担金を払うのには困らない階層の人たちがこれを使っているわけでございます。まさに社会保障がさか立ちしている形でございます。貧しい方たちのお金を集めて、豊かな人が使うということでございます。このことは、所得の少ない政府管掌の健康保険の人たちにも同じく当てはまることと思います。保険料は天引きで取られているけれ
ども、負担金というものがありますと、
医療を受けるチャンスをむざむざ失うという、そういう点で、私
どもは、負担金のない、あらゆる
医療保険が本人でも家族でも十割の給付が行なわれるようにということをかねがね主張しているものでございます。
負担金には、定額の負担金あるいは定率の負担金とございますけれ
ども、現在の健康保険で初診のときに二百円の負担金というのがございます。これだけについて
考えてもたいへんな矛盾したことが起こるわけでございます。被保険者本人が診察を受けた、薬も何にも要らないでほかの先生のところへ
紹介状をもらって行くという場合に、その
医療費は三百円でございますがその中から私
どもは二百円の負担金をいただいております。そうしますと、その方が保険で出してもらったお金は百円だけでございますので、三三%の給付でございます。ところが、本人だから十割給付なんだ、十割給付なんだといって宣伝されております。その人の奥さんが同じ状態だった場合には、五割給付でございますから、百五十円払えばいいわけでございます。それから、定額負担でわずかだからという表現は私はとらないものでございますし、どうしても負担金のない
医療を行なっていただきたいと
考えるわけでございます。
それで、負担金のことにつきまして、ついでに申し上げますと、お手元に配付さしていただきましたこの一枚のガリ版刷りのものがございますが、先ほど来社会保険審議会その他で問題がありましたときに私
どもつくりました表でございますが、これは療疽の患者さんが切開手術を受けまして、そうすると第一日には切開して化膿どめの薬を二日分もらって、今夜痛いからというので頓服を
一つもらって帰ります。そのときには初診のときの現行の負担金二百円払えばいいわけでございます。ところが、これに再診時の負担金がつくというふうなことになりますと、二日目には再診料の五十円と処置料、まだじくじくしているからというので四十六円でございます。同じ包帯を巻きかえてもこのときは四十六円もらえることになっている。三日目がそのとおりでございます。そしてこのときには百円以下でございますので、九十六円というものは全部患者さんの負担でございます。そうすると、十割給付の患者さんが、二日目も三日目も四日目も五日目も、最後のもうきょう包帯をかえてこれでよろしゅうございますという日まで全額を保険の本人で払うというのがこの負担金の仕組みになっているので、こんな矛盾はないのだろうということでつくりました資料でございます。それで、結果としては合計六百三十二円の負担をいたしまして、この方の給付を受ける割合は四割だけでございます。十割給付、十割給付という名のもとにこういうことが行なわれていいのかどうかということを御判断いただきたいと思います。なお、この場合に、これが奥さんの場合ですと、被扶養者は五割でございますので、五百三十一円の負担で済むという矛盾した問題が出ているわけです。
それでは、先ほどの
医療費のふえた中身のところに戻りまして、診療内容のほうから
考えますと、厚生省の統計で見ておりますと、薬がふえたということと検査がその次にふえたという
数字が出ております。しかも、薬が
医療費の中の四割以上を占めるというので攻撃目標になっておりますが、この薬というのは一体どうしてふえてきたのか。私
どもには
一つの言い分がありますのでお聞きいただきたいと思います。
昭和三十二年から
医療費を支払います診療報酬の点数に甲表と乙表というものがございます。甲表というのは幾つかの
医療行為をまとめて支払うというしかたでございますが、この中で薬については六十円までの薬は幾ら、六十円以上は薬についてそのままの値段を支払うという仕組みになっておりますので、甲表でやっております病院では、六十円以上の処方を書かなければ病院が困る、
経営にマイナスになるという点数表がつくられたわけでございます。現在六%程度の甲表の病院がこれを使っておりますが、これがみな大病院でございますので、これが薬をたくさん使う方向を引き出しましたのと、もう
一つは製薬
会社のもうけの問題でございます。このようなことについて、私
どもはたいへん不満がうっせきしておりますので、最近におきまして総辞退というふうな問題まで出てきているわけでございますが、これはまた御質問のときに述べさしていただきたいと思います。
一応第一回目の
意見の陳述を終わります。