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増田参考人 東京大学の
増田でございます。
私は、集じん、特に電気難じんの研究を十八年間やってまいりましたものですから、一応この方面の専門家だ
ということで、きょうこの問題につきましてお話をしろ
ということで参りました。
また、いま話題になっております
臼杵市におけるこの問題に関しましては、私が、この集じん機の
性能その他に関して、
臼杵市の
議会の要請によりまして
調査して、私の見解を申し上げる
というようなことがあったわけであります。
そこで、私の立場はあくまで専門家の立場でありまして、現在の技術がどうであるか、また過去はどうであったか、また将来はどうであるか
ということについて見解を申し上げるのが私の使命であります。
皆さまいま非常に心配しておられるこの
公害問題
というものは、決していま始まったものではないわけであります。これは私のような専門家が歴史をたどってみますと、工業の発展と
公害問題
というのは、常に車の両輪をなして発生したのでありまして、現在盛んに申されております電気集じん
というものは、一九〇五年にアメリカ人のコットレルが初めて実用の段階に持ってきたわけでありますが、前世紀の終わりから今世紀の初めにかけまして、電気集じんを必要とするバックグラウンドがあったわけであります。御承知のとおり、
産業革命が非常に進行いたしまして、そうして非常な工業
規模の増大
というものがどんどん進行しました陰には、非常な
公害問題
というものが出てきたわけでありまして、ちょうど現在のような
状況が、すでにそのころ先進国でありますイギリスあるいはアメリカあるいはドイツ
というような国々で大問題になったわけでありまして、そこに
電気集じん機というものが生まれて、
一つの救世主の役割りを果たしたわけであります。
その後、皆さま御承知のとおり、工業がますます発展してまいりましたが、一方において集じん技術もますます発展してきたわけであります。ですが、現在の
公害問題の
状況は、すでにその当時の
公害問題と質的な変化を来たしております。それはなぜか
といいますと、その当時はまだまだフロントと申しますか、
工場を設置していくスペースがあったわけでありますが、現在はそういう空間ないしは
場所というものがなくなってきた。つまり、国全体の空気がよごれる、あるいは海がよごれる
というような、そういう新しい段階にわれわれの当面する問題がなってきた
ということであります。これは私
どもが技術者として問題の研究方向を考えます場合に、いつも念頭から離れないことであります。
そこで、現実の姿を見ますと、
昭和三十七年に皆さま御承知のとおり、ばいじん等の
排出規制
というものができまして、そのときの基準は一・〇グラム・パー・ノーマルキュービックメートルであります。それが、いまもお話に出ましたように、近いうちに改正されまして、新設
工場については、これはまだきまっているわけではございませんから、私が漏れ承っているところでございますが、新設
工場については、一応案
といたしまして、普通の
工場ですと〇・一グラム・パー・ノーマルキュービックメートル、十分の一であります。それから
重油専焼の大型ボイラー、つまり発電所につきましては〇・〇六グラム・パー・ノーマルキューピックメートル、それから既設のものにつきましては〇・二グラム・パー・ノーマルキュービックメートルが普通の
工場でありまして、
重油だきボイラーにつきましては〇・一グラム・パー・ノーマルキュービックメートル、これが
一つの案としていま検討されておりまして、いずれにきまりますか、近々その新しい
排出基準
というものが世の中に出てまいります。これは見たところ非常な進歩であります。これにつきましては、
日本じゅうがもしそういうふうなレベルになるならば、これは非常に大きな進歩だと私は考えるわけであります。なぜならば、現在は先ほど申しましたように、この十倍の
昭和三十七年の基準がいままで行なわれておったからであります。
一方、それでは〇・一グラム・パー・ノーマルキュービックメートル
というものはどういう数字であるか。これは学問的に、あるいは医学的、環境衛生的にいろいろな論議ができると思いますが、非常に直観的に申しますと、〇・一グラム・パー・ノーマルキュービックメートル
というのは、青空を背にするとほとんど見えませんが、グリーンの山を背にするとほんのわずかに見える
というのが〇・一グラム・パー・ノーマルキュービックメートルであります。
それから、現在アメリカのカリフォルニア地区の住宅街その他で非常にきびしい規制ができております。これはしかし、将来
日本にそういう姿が出てくる可能性がありますが、それは〇・〇一グラム・パー・ノーマルキュービックメートル、つまり現在いまからきまろうとしておりますものの十分の一であります。それはインビジブルリミット
といいまして、グリーンの山を背にしても見えない
というリミットであります。
それでは、技術はどこまで来ているか
ということが問題になるわけでありますが、現在、技術のリミットは、先ほ
どもお話が出たかと思いますが、この技術のリミット
というのは、非常にしろうとの方におわかりになりにくいかと思いますが、実際に動いて運転されている数字と、それからギャランティー、その技術を使った商品をユーザーが買いまして運転するときに、どこでギャランティーするか
という数字と違うのであります。ギャランティーする数字とどうして違うか
といいますと、もしギャランティーする数字を割りますと、集じん機のメーカーがお金をもらえ雇いわけです。
ということは、
集じん装置というのは、皆さまちょっとお考えになればわかりますように、どんがらを買うのではなくて
性能を買うからであります。そのギャランティー値
というものが、現在、高
性能電気集じん機を使いまして、〇・一グラム・パー・ノーマルキュービックメートルのところまでいっております。これは全然新しいところに、新設
工場として建てる場合であります。ですが、それならば、既設の集じん機が〇・一にやれるか
ということは非常に大きな問題がございます。つまり、スペースの問題があるわけであります。これは先ほどのお話に関連いたしますが、
集じん装置をつける
ということは、同時に、スペースが要る
ということでありまして、これが
日本の現在の姿、つまり、非常な生活空間が狭い、国土の一八%しか利用できる土地がない、そこに
工場もそれから農業もみな密集している
という、世界に例のないところから、どうしても必然的に出てくることであります。したがいまして、技術的に問題点があると同時に、その技術を適用するためのスペースの上で、すでにわれわれは大きな問題に当面しておる
というのが現実の姿であると同時に、また、われわれがそれと戦っていかなくてはならないチャレンジの目標であります。
それでは、将来どうであるか
ということでありますが、もちろん今度新しくきまるかもしれないこの〇・一ないしは〇・二
という目標値を達成するために、しかも、狭い空間で達成するために、われわれは全力を尽くさなくちゃならないと私
ども技術者は覚悟をきめておるわけでありますが、また、同時に、これは、特に私がお願いしたいことは、これは一技術者、一研究者の問題ではないのであります。つまり、そういう問題
というのは、これはケネディの演説ではありませんが、膨大なお金を使って、非常に大きな能力、人間が投入されて、初めて可能なものでありまして、これはもう、
一つのやはり政治の問題、社会の問題であります。ですから、これはもうすでに環境を必要としている国民全体の問題である、自分
たちの問題である
ということについて御理解をお願いしたいと思います。これは技術者の立場としてお願いしたいと思っております。そういうサポートが安かったならば、私
どもはできないわけであります。
それから、この〇・〇一はどうか。私
どもの技術的な研究課題は、したがって、できるだけ早く〇・〇一をギャランティーできる技術をつくる
ということであります。これはもちろん未来のことでありますからわかりませんが、私
どもはできれば五年、もしもっと欲を言えば、二年ぐらいの間に〇・〇一の技術をつくらなくてはならない
というふうに考えております。
一般論はそれぐらいにいたしまして、ただいま問題になりました
臼杵地区の話でありますが、私が専門家の一人として検討いたしました範囲におきましては、〇・一グラム・パー・ノーマルキュービックメートル、つまり、現在の高
性能電気集じん機のリミット、あの提示されております計画どおりにいきますと、そのリミットまで一応ギャランティーできる
という点において、つけようとしておりますところの装置自身には、専門的には何の問題がない
というふうに考えております。ただし、私は、出たものの
大気拡散と申しますか、どういう気象条件、地形条件のもとで、どのように拡散していくか、その結果、浮遊
粉じん、降下ばいじんが、どのように
食品工業その他の地域に発生するか
ということは、残念ながら私の専門領域ではありませんし、また、専門の方もいらっしゃると思いますので、その方の御
意見を伺うべきではないかと思ってわりますので、私は遠慮させていただきたいと思います。(
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