○篠原
説明員 ただいま御指摘のように、
科学技術会議が設立されましたのが
昭和三十四年であります。さっそく第一号諮問をちょうだいいたしましたのは、それは「十年後を
目標とする
科学技術振興の総合的基本方策について」でありまして、約一年あまりの時間をかけまして各
方面の権威を集めて、初めて答申が出たのであります。それが
昭和三十五年十月、それまでは
科学技術庁が各省各庁の
科学技術の調整をやっていると申しましても、なかなか徹底的にいかない。なお大学の
関係におきましても不十分な点があるというので、その点を中心としてこの
科学技術会議が答申を出したのであります。当時は、私もよく覚えておりますけれども、誇張かもしれませんが、
科学技術のバイブルといわれて、たいへんその時としては画期的なものであったわけであります。その後、この答申の中身につきまして、もちろん各省各庁におきましても、また大蔵省におきましても相当の努力をされてきたことは、私よく存じておりますけれども、
先生のおっしゃるとおりまだまだ不十分であるということは、私これは存じております。
それで、六年たちまして、それではいけないという意味で、もう一ぺん締め直しをやろうじゃないかというのが、「
科学技術振興の総合的基本方策に関する意見」で、これは諮問をいただかずに意見としてさらに補強する意味において
内閣総理大臣に
提出をしたのであります。だいぶ分厚なものでありまして、
内容につきまして詳細に申し上げることは避けますけれども、要するにやはりおっしゃるとおり
予算の確保も必要でございますし、人材の養成も必要であります。また
研究活動の
整備拡充あるいは情報の流通の円滑化、さらに国際交流の促進など、多面にわたりましてるるその意見書に載っておるのであります。たまたま最近におきまして、
先生のおっしゃるとおり、いままではどちらかというと
産業経済を中心にこの
科学技術振興の実をあげるということを重点としてまいりましたが、あれから十年たった現在におきまして、
科学技術を取り巻くいろいろな
状況が変わってきた。社会的、経済的条件も変わりましたし、自然環境と人間の活動の調和というような問題もあります。また情報化社会への移行という問題もあります。その他、日本の国際的地位の
向上に伴ってなさなければならない幾多の問題もあるわけでありまして、ここでまた思い切って、これらの変化をした状態に対しまして、
科学技術が当然ながらその責務を果たさなければならない、こういうことで、従来の第一号答申、あるいは意見書に新たにつけ加えまして、ここで最近、第五号答申として、「一九七〇年代における総合的
科学技術政策の基本について」という答申が出たわけでございます。
新たな観点ということにつきまして、四点ございますが、第一点は先ほど
石川先生もおっしゃったとおり、
科学技術をほんとうに人間福祉のために役立てるということ、いわば人間尊重の
科学技術の
振興ということであります。この考え方は答申全体を貫いておる精神でございます。
それから第二といたしましては、従来は基礎
研究から
応用研究それから
開発というような一本筋を考えておりましたが、もちろんそういうような進め方も必要でありましょうけれども、これから先は何か経済社会に目的があるのじゃないか。その目的に向かって
研究開発をやっていかなければならない。別のことばで申しますと、ニーズにこたえるという新しい機会が起こってきておるのではないか、このように考えるのであります。ただ
科学技術があまり進歩しておらないときには、ニーズがわかってもそれに向かって進んでいく
科学技術の実力がございませんから、ニーズが幾らわかってもその進め方がわからなかった。しかしいまや
科学技術が進歩いたしましてそうしてそこにニーズというものがあらわれますと、それに向かって、それを満たすような
方向に向かって進んでいくことが可能となったのでありまして、そういうような
取り組み方をする必要があるということは今回の新しい問題であります。いろいろなニーズ、これは各
方面の
産業的なニーズもありますし、また環境等に対するニーズもございますし、いろいろな面でございますけれども、やはり人間尊重の精神は決して失うべきではない、このように考えるのであります。
第三点は、非常に違った
科学技術分野がふえてまいりまして、専門化、細分化していく、ところが一方ではそのような専門化、細分化ではとても取り組むことができないようないわゆる非常に複雑な多岐にわたる現象が起こってまいりましたので、こういうような問題につきましては当然総合的な観点からいわゆるシステムとして
検討しなければならない時代になったのでありまして、その点これから十分に考えていかなければならない点であろうかと思います。
第四点は、いろいろニーズがございますけれども、そのニーズの中で特にわれわれが新しい分野として改革を迫られている点といたしまして、特に環境
科学技術と、ソフトサイエンスとそれからライフサイエンスの
三つを取り上げたのであります。もちろんこの
三つも従来ともある
程度手をつけておるわけでございますけれども、この際画期的にこの
三つの問題について相当力を入れなければならない環境
科学技術は当然でありまして、目下の急務でありまして、各
方面の公害あるいはそれに伴っていろいろなマイナス面が起こっておりますし、その他広い意味の環境について
科学技術がその責務を果たさなければならない立場に置かれておるわけであります。またソフトサイエンスにおきましても、これは従来は自然科学は自然科学だけやればいいのだというようなことでございましたが、これからは社会科学、人文科学等ともタイアップいたしまして、全体としての人間の幸福への道を発見していかなければならない。そういう意味で非常に大事な面でございます。それからライフサイエンスは、これも従来とも各
方面で
検討されておるわけでございますけれども、ここで思い切って手を打たなければならない。いろいろな病気、たとえばガンとか脳卒中とかいろいろな病気がございますけれども、私は医学のほうではしろうとでございますけれども、そういうような生命現象を根本的に、基礎的に考えていく、これはお医者さんやそれから薬屋さんだけではだめでありまして、物理学者あるいは科学者、いろいろな分野の人が総力を発揮しまして、ソフトサイエンス、生命科学と申しますか、生物科学と申しますか、適当な訳はございませんけれども、こういう
方面に向かって相当な努力をしていかなければ、将来の新しい分野に対する準備ができなくなるのじゃないか、こういうようなことを考えて答申をしたわけでございます。
お手元にございますと思いますけれども、答申の
内容、たとえば第一章では、
科学技術政策の
重要性、それからどういう態度を持って取り組んだらいいか、第二章では何をなすべきかを示す
科学技術政策の
目標、第三章におきましては、
目標の達成のための中心課題、目玉商品のようなものを第三章に掲げまして、そして第四章では、一号答申と同じような分類で、一号答申の見直しをしていく、そしてさらにこういう点を強調しなければならないというような立場におきまして、一般
施策を第四章に述べておるわけでございます。
石川先生御指摘のとおり、
最初の十年前は、正確に言いますと十二年前でございますけれども、
科学技術会議では、
国民所得の二%を
科学技術振興のために使うべし、
政府と民間とが総力をあげてやるべしという答申をいたしましたが、その後六年たちまして、それだけでは不十分だということで、二・五%という線を打ち出したのでございます。現在では残念ながら、二%でも二・五%でもございませんで、約一・九%ということは、
科学技術会議の議員の一人として、はなはだ残念に思っております。
ただ、ここでちょっと申し上げたいのは、
国民所得に対する計算のしかたが数年前に変わりまして、従来のやり方で計算いたしますと、たぶん一・九が二%をちょっとこえるくらいの計算になるかと思います。しかしいずれにしましても、
目標の二・五%には達しておらない、こういう点につきましては、
科学技術会議の議員たる私どもの努力も足りませんけれども、もっともっと私どもは大きな力を結集いたしまして、三%に持っていく。三%に持っていくということにつきましても、なかなかいろいろな意見がございまして、そう簡単に三%ということにならなかったのでありますけれども、とにかく三%という旗を掲げましたことは、まあまあこれでよかったというような気がいたします。しかしおっしゃるとおり、これは旗を掲げただけでございまして、これから先は大蔵省がどのようにこれを認識してくださるかあるいは各省各庁がいかにこの線に沿って具体化していくかというところに大きな問題があるわけでございまして、これは私ども
科学技術会議の議員としましては、
政府側のやり方につきまして、はたから見て、今後とも十分御要望なり御注意なりを
政府側に申し上げまして、できるだけこの線に近いように、結果ができますように、私どもはそれを念願して今後も努力いたしたいと存じている次第でございます。