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政府委員(宮澤弘君) 最初にお断わりを申し上げておきますが、ヨーロッパへ参りましたわけでございます。
期間も比較的短うございます。かつ、ほかのテーマも持っておりましたので、必ずしも十分な
調査というわけにはまいりませんので、その点だけ御了承を、まず得ておきたいと思います。
主として、イギリス及び西ドイツの
事情について
調査をいたしたわけでございます。
まず、イギリスでございますが、この問題につきましては、一九六五年前後から、つまり、いまから五、六年前から、いろいろ世上で議論が行なわれたようでございまして、労働党も、一九六六年でございましたか、この
選挙年齢の引き下げを労働党の公約の
一つとして掲げてきたようでございます。ちょうど一九六四年でございますか、イギリスの国会の下院に、
選挙制度につきましての下院議長の諮問
委員会が設けられました。これは
選挙制度一般について議論をしたようでございますが、その中で、
選挙権の年齢の引き下げということも
一つの主要なテーマとして議論を続けたようでございます。その結果といたしまして、一九六八年に、二十一歳から二十歳に引き下げる、こういう結論を得たようでございます。その間に、労働党、保守党、いろいろ
意見の相違もあったようでありますけれ
ども、とにかく下院議長の諮問
委員会としましては、二十一歳から二十歳に引き下げるということで
決定を見たようでございます。同時に、ちょうど同じころに、内閣の、
政府の諮問
委員会といたしまして、成人年齢
一般について
調査をする
委員会ができました。この
委員会は、公民権の問題、
選挙権の問題を除きまして、そのほかの成人年齢の問題について
調査をするということが使命であったわけであります。この
委員会も、一九六七年でございますか、成人年齢二十一歳を十八歳に引き下げる、こういうふうな結論を出したわけでございます。そこで、当時の労働党内閣といたしましては——
先ほど申しましたように、下院議長の諮問
委員会におきましては、
選挙権の年齢を二十歳に引き下げる、一方におきまして成人年齢
一般といたしましては十八歳に引き下げる、こういう二つの結論が出たわけでございます。その辺をいろいろ勘案をいたしました結果、当時の労働党
政府は、
選挙権年齢を十八歳に引き下げるという
提案をいたしまして、
議会におきましては多数で可決をされたと、こういう経緯になっているようでございます。
議会におきましても、この法案をめぐりましていろいろ議論が行なわれたようでございます。それにつきましての賛成、反対、積極、消極両論いろいろな議論があったようでございますが、そのうちの幾つかを参考までに御紹介を申し上げてみますと、まず、積極論と申しますか、賛成論でございますが、これは、たとえば最近の若い人は肉体的に成熟が早い、結婚も早い、社会に出るのも早い、したがって、それだけの責任を持たせるべきであるというような
意見でございます。あるいは、一昔前に比べまして教育も進んで、知識も豊富になっているではないかというような
意見でございます。あるいは、政治に新風を吹き込む、活気を与えて、理想主義と申しますか、アイディアリズムを吹き込む必要があるというような
意見というようなものがあるようでございます。なお、そのほかにも、イギリスにおきましても、御
承知のように、学生
運動その他若い人の問題が世論の
関心の的になっていたようでございますが、若い人たちの疎外感というようなものを政治に
参加することによって克服をさせる必要があるというような
意見もあったようでございます。さらに、若くて社会人になっております人たちの多くは税金を払っているわけでございます。税金を払っている以上は、やはり国政に
参加をさせるべきだ、こういうような
意見もあったようでございます。
以上のような賛成論と申しますか、積極論に対しまして、その裏になるわけでございますけれ
ども、消極論といたしましては、なるほど肉体的に成熟は早くなっているけれ
ども、肉体的な成熟というのは精神的な成熟と異なるのではないかというような
意見でございます。たとえ肉体的に成熟をしておりましても、その上にやはり
一定の社会的な経験を積む必要があるというような
意見でございます。政治に新風を吹き込むといいましても、未熟なアイディアリズムを入れることは危険ではないかというような
意見でございます。あるいは、なるほど若い人たちの一部は政治に早く
参加することを望んでいるけれ
ども、大多数の若者はそれを望んでいないのではないかというような
意見でございます。さらには、なるほど私的な事件については若くして判断がつくかもしれないけれ
ども、それと社会的、公的な事件についての判断能力、私的な事件に対する判断能力と、公的な事件に対する判断能力というのはおのずから異なるのではないか、こういうような
意見、消極論と申しますか、反対論というようなことで戦わされたようでございますが、結論といたしましては、
先ほど申しましたように、十八歳の案件が多数で可決をされたという経緯でございます。
なお、これに関連をいたしまして、
選挙権年齢を引き下げまして、それではそのほかのいろいろな
制度上の年齢、これについてはどうなっているであろうかということでございますが、これにつきましては、イギリスにおきましては、大体他の年齢も、成人に関する年齢も、十八歳に引き下げているようでございます。ただ、刑事法上の成年、未成年の違い、これは相変わらず従前のとおりのようでありますけれ
ども、それ以外の多くのものは十八歳に引き下げているようでございます。たとえば、結婚の年齢にいたしましても、二十一歳から十八歳に引き下げております。不動産の売買の場合の年齢でございますとか、あるいは訴訟能力でございますとか、そういうようなものも
選挙権の引き下げに合わせて引き下げるというようなことになっているようでございます。
それからその次に、西ドイツの
事情でございますが、西ドイツにおきましても、やはり五、六年前からこの問題が世の中で議論をされておりまして、最初は大多数の人たちが消極的な
意見のようでありましたけれ
ども、若い人の
考え方も成人とあまり違わないというような数次の
選挙の結果を見まして、賛成論が多くなった、こういうように聞いております。ドイツにおきましては、御
承知のように、連邦国家でございます。各州がすべて年齢を十八歳に引き下げている。おそらく各州が引き下げているということも
一つの事実と申しますか、論拠になりまして、連邦
議会におきましても、ことし二十一歳から十八歳に引き下げる、こういう法案を可決をいたしたのだろうと思います。
この法案の
審議をめぐりましての議論は、イギリスの議論と大体同じような賛成、反対の議論があったようでございますが、特にドイツにおきましては、しばしば公聴会を開きまして、公述人な
ども呼びまして、その
意見も非常に参考にいたしているようでございます。その中で、たとえばある学者の、青年層におきます政治的
関心の度合いについての研究、それは、政治的
関心というのは大体十八歳をこえて上昇をしていく、十九歳になればさらに強くなる、これが
一定の年齢に達しまして、二十一歳から二十五歳ぐらいまでは上昇が比較的少なくなるというような研究というようなものも大いに参考にされたというふうに聞いているわけでございます。なお、ドイツにおきましては、御
承知のように、徴兵制がございます。兵役の義務が十八歳からございます。そのことも、ドイツにおきます
選挙権の年齢の引き下げの推進の要素になったというふうに聞いているわけでございます。
それから、西ドイツにおきまして
選挙権の年齢を引き下げた場合に、そのほかの年齢の引き下げという点についてどういうことになっているかということでございますけれ
ども、これはイギリスと対照的でございまして、
選挙権の年齢だけは引き下げておりますけれ
ども、そのほかの刑事法なり民事法なり等の年齢については、現在のところは手を触れられていないというように私
ども調査をいたしてきたわけでございます。その
理由につきましては、なるほどドイツ的だというふうに私
どもも感じたわけでございますけれ
ども、ドイツにおきましては、やはりそういう法体系におきまして
一定の年齢の体系があるようでございます。十八歳に引き下げますと体系全般を動かしていかなければならないというようなことで、そのほかの成人年齢については手を触れられていないというのが現状のようでございます。
それから、なお、デンマークにおきましても多少の
調査をいたしたわけでございますが、デンマークにおきましては、現在、年齢は二十一歳でございますけれ
ども、これを十八歳に引き下げるという
法律が昨年国会を通過をいたしました。デンマークの憲法の
規定で、
国民投票に付さなければならないということで、
国民投票をいたしましたところが、
かなりの多数で否決をされたという経緯があるようでございます。なお、この点も多少突っ込んで聞いてみましたところが、十八歳に引き下げるということは非常に反対が多い、しかし、これがもし二十歳の程度であるならば、おそらく賛否相半ばするぐらいではなかったか、こういう観測もあるようでありますけれ
ども、デンマークの憲法の
規定で、
国民投票につきましては三〇%以上反対がありますと成立をしないという
規定があるようでございます。二十歳に引き下げましても、なかなか
国民投票では通らないのではないか、こういう観測もあるようでございます。
大体
概略以上のとおりでございます。