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参考人(
進藤武左衛門君) 進藤でございます。非常に
公害問題はむずかしい問題でございまして、
法律的に知識のないわれわれが御意見を申し上げることはどうかと思いますけれども、しかし、
公害に対する
考え方につきましては、われわれ意見を率直に申し上げまして、御参考に供したいと思います。
まず、
公害基本法でございますが、これは
日本の
公害問題に対する対策の一番根本になるものでございますので、前の
基本法も拝読いたしましたし、また今回の
国会審議の過程におきまして、産業との
関係等についての御
議論もあったことも承知いたしておるのでございますが、しかし、
日本の
公害というのは
外国と非常に違った点がございます。
その一つは、
日本の産業の原料が海外にほとんど依存しておる。ほとんどというのは言い過ぎかもしれませんが、大都分が海外に依存しております。その原料を
日本に輸入して、この国土を工場として生産をしている。そしてそのエキスを輸出するということが、
日本の経済振興の一つの大きな行き方になっておるわけでございます。そこで今度その工場になっております国土はどうかと申しますと、三十七万平方キロという狭い国土のうち、われわれ人の住んでおるのはわずかに三分の一でございますが、その三分の一、さらに河口を中心として
——河口というのは、御承知のとおり、いま水が濁りまして、上流からほとんどいろいろの汚濁のものを流してくるわけでございますが、その河口を中心として、非常に大きな都市が成長しておる、工場もそこに密集しておるというふうに、産業の原料の立場から申しましても、あるいは工場立地と申しますか、あるいは国土
計画から申しましても、
公害に対しては非常にむずかしい条件を含んでおるわけでございます。
そのほかにもう一つ、これは戦争後特にそうでございますけれども、国民の公共道徳というものは、私は非常に低下しておる。でありますからして、人に迷惑をかける、川をよごすというふうなことはあまり気にならないような方向になっておるような気がいたすわけでございます。
そこで、いま
公害問題を解決いたしますのに、
法律をたくさんつくったのでございますけれども、この
法律は現在の
公害を防止するあるいは
公害を早くなくする対策としてはよろしゅうございますが、将来の
日本の
公害問題を解決いたしますのには、いま申し上げましたように、原料を海外に大部分依存しておるのでありますからして、この原料は一体どうするか、たとえばいま問題になっております田子の浦のヘドロの問題でありましても、木材を海外から輸入してあそこでパルプをつくっておるのでありますが、海外からパルプを輸入するということになりますと、あのヘドロが相当減ってまいると思います。また、アルミニウムの生産を
日本でやっておりますけれども、これもアルミナを海外から輸入する、また銑鉄を海外から輸入するというふうな、
公害問題とからんだ産業の
考え方が今後必要になってまいるのじゃなかろうか。ことばをかえて申しますと、産業構造の変化というところまで掘り下げませんと、
日本の
公害というのは非常にむずかしい問題が出てきやせぬかという気がいたします。
それから国土の問題にいたしましても、ことに戦後開発されました水島でありますとか、あるいは鹿島地区であるとか、
千葉の五井、姉崎地区であるとかというふうな新興工業都市は、いまみなわずか十年そこそこで
公害に悩んでおるわけでございます。でありますからして、この工場立地、大きくいえば国土総合開発の立場から
公害問題をしっかり取り上げて、これをもう一ぺん検討する必要があるのじゃなかろうかというふうな気がいたします。
それから先般新聞で拝見しますと、小学校の教育に対しても
公害の問題に対する今度は御検討をなさっておるようでございますが、私も国民の
公害に対する心がまえあるいは対策等に対する常識の養成に対する国のPR、これをしっかりやっていただきたいと思います。こういうふうな国民の
公害に対する認識を深めること、あるいは国土の総合開発におきまして
公害の起きないと言っては語弊がありますけれども、少なくなるような
計画をお立てになること、それから産業構造の変化までやる、こういうふうなことをしっかり掘り下げておやりになることが私は
公害対策の根本になりはせぬかと
考えております。
この
公害対策基本法の名前につきましてもいろいろ御
議論があったようでありますが、われわれはいまの現状におきましては、
公害を早くなくすという焦点をしぼってやっていただく。しかし、いま申し上げたような条件をこれから検討するためには、やはり
環境保全というふうな広い形のものに将来はなるべきだと思いますけれども、現在におきましては、この
公害対策基本法というのは、非常に焦点をしぼって、国民にも理解しやすい
法律であると
考えておるわけでございます。そこでこの間
基本法で問題になりました産業と
環境保全との調和ということばを今度おはずしになりましたが、これは理屈なしに人間の健康問題が大切でございます。特に
大気、空気、それから水、それから日光、この三つはわれわれの生存に欠くことのできない条件でございますから、これを保持することはわれわれ人類の義務であるのでありますが、どうもこの空気と水に対しましては、これは公共といいますか、公有の資源であります。空気も、水も、これは万民共有の資源でございますが、これがだんだん個人的の私有みたような、所有みたようになって、かってにいろいろに使ってしまうということがいま
公害の問題として取り上げられておるのでございますから、この空気、水、あるいは太陽光線というふうなものに対しても万民共有のものであるから、これをみんなで力を合わせてきれいにして保持していくということが私は
基本法の精神になるべきだということはわかります。しかし、どうもこのわれわれの受ける印象は、
公害対策をやるためには、産業のほうはある程度やむを得ぬじゃないかという
議論がだいぶ出ているようにも聞いておりますけれども、これもその
議論の一つだと思います。現在のような
公害が多い時代にはやむを得ぬと思いますが、この点は将来の問題といたしまして、
公害の問題がある程度現在の
状況を解決した暁におきましては、いま申し上げましたような
基本的な
考えを土台とした
公害を守るための
法律をさらに御検討を願いたいということを希望をいたしておきます。
それから次に水質保全法でございますが、これは実は極端に言いますと、
日本の河川というのは大体もう下水道化しておるということを申し上げて差しつかえないと思いますし、ことに水がただ物質的にきたなくなっただけでなくて、水質がすっかりだんだん変わってまいりました。たとえば農薬の流れ込みでありますとか、じんあいその他の問題は別としまして、水質が非常にむずかしくなってまいっておりますが、これを
法律だけでもって取り締まれるかというと、私は非常に疑問があると思います。現にわれわれ利根川の水を東京の水道に持ってくるために、利根川と荒川の間に水路をつくりまして、両側に網を張ってごみが入らないようにした。ところが、荒川に入りまして、荒川の鴻巣から浦和に至るまでは自然流下になっている。あそこはほとんどごみ捨て場になっているという
状況になっていたわけでございます。したがって、私は徹底的にやるには下水道をしっかりやる。つまり河川の流域下水道についてもしっかりした
措置をとっていただくということが必要でありまして、もっと具体的に申しますと、たとえばいま荒川の左岸に広域下水道をやっていらっしゃいますが、川の両側に下水道をずっとつくりまして、そうしてまん中の川はいわゆる
ほんとうの川、水を流す川であって、両側は全部下水をそをに入れる、そうして終末処理場をつくりまして、浄化した水はさらに工業用水に使う、あるいは雑用水に使うというふうに水資源対策としても必要でありますし、また、河川の水質汚濁対策としても必要でありますから、金は非常にかかると思いますけれども、とにかく川の流域の両側に広域下水道をつくるという方針をぜひお立ていただき、非常に長期の問題になると思いますけれども、これを重要なところからだんだん実行していくということを希望いたします。これは特に淀川でございますけれども、淀川は滋賀県から下流までほとんど各県の下水道になっておりまして、大阪の上水道の終点あたりは実に汚濁がひどいのでありますが、あれを淀川のいまの流れは、流域から、たとえば琵琶湖からとってくる水をそのままうまく持ってくる。両側には下水道をつくって各排水は全部そこに入れてしまうというようなことをいたすことが水質汚濁の防止としては大切なことでございまして、非常にこの水質汚濁の原因は複雑多岐でございますから、これを取り締まるということは、あるいは対策を講ずるということは非常にむずかしゅうございますので、できるだけ重要な、特に飲料水
関係の問題に対しましてはいま申しました具体的施策を裏づけとした水質汚濁の
法案をぜひつくっていただきたい。もちろんカドミウムでありますとか、あるいは有毒金属類の
発生源がはっきりしているものはそれに対処することは当然でございます。しかし、全体としていまの水質汚濁対策をやりますのにはそういうふうな根本的なことをやりませんと、なかなか
法律だけではできませんので、その点の御希望を申し上げておく次第でございます。
それから
大気汚染の問題でいま一番大きな問題は亜硫酸ガスの問題、それから自動車の排気ガスの問題、この二つがおもな問題でありますが、亜硫酸ガスの対策の問題に対しましては、何か
衆議院のほうでもいろいろ附帯決議を出していらっしゃるようでございますが、御承知のように、現在電力が亜硫酸ガスを出す、電力とか製鉄が出すようになっておりますが、電力を例にとりますと、電力の現在の発電力の七割近くは火力発電でございます。そうしてその火力発電が使っております燃料は、一部石炭がございますが、大部分は重油でございまして、その重油の約九割五、六分は海外依存でございます。そうしてその海外依存は中近東の油を中心としていま入っているわけでございますから、われわれが四、五年前のように
日本の国内の水力発電、あるいは国内の石炭をたいておった時代と全然
日本の発電機能のベースが変わってしまっている。そういうベースの中で低硫黄の油を
確保するということは、これは国のエネルギー政策としても非常に大きな問題でございますから、これに対しましてはどうして
確保するかという問題を国でも十分御検討を願いたいと思います。それから亜硫酸ガスの排煙脱硫と申しまして、煙突から出る途中で硫黄を取るわけでございます。これももうすでに工業
技術院と電力会社が共同で四日市あるいは東電の五井でやっておりますけれども、この
技術を、
技術としてはいまできておると私は思っておりますが、これを一体、実用化し、経済的にやる段階まで、いまきょうやれるかと申しますと、これにも問題がある。
技術の問題は、まあ経済的な問題にも関連しますが、そのほかたとえばバイプロダクトがたくさん出ます。硫安がたくさん出る、あるいは硫黄がたくさん出るという
状況でございますから、四日市の例をとりますと、あすこで硫安がどんどん産出されますというと、肥料工業に非常な影響を与える。肥料工業は御承知のようにいま硫安が尿素にだんだん置きかえられつつある時代に、いま新しく硫安を持っていくということはなかなかむずかしい問題でございます。ですから二硫化炭素と申しますか、亜硫酸ガスの対策としましては、理論上はあるいは実験上はできておると思いますけれども、これから先この
法案をつくりまして、さて実際にやる場合におきましては、以上申し上げましたような対策の裏づけをぜひつくっていただきたい。これはまあもちろん電気
事業者は一生懸命やっていらっしゃることと思いますが、ただ電気
事業者だけではできない問題がいま
日本の電力の現状にあるわけでございますから、この点をぜひ御留意願いたいと思います。
それからまあもう時間もだいぶたちましたから、そのほかの
法案に
関係しましてお願い申し上げたいと思いますことは、今度は十幾つかの非常にこまかい
法案を御制定になるわけでございますが、この
法案ができましたら、これが
ほんとうに実行される態勢ができませんと、私は法軽視の風習を国民に植えつける心配が多分にあると思うわけです。いままでも
大気汚染防止法であるとかあるいは水質汚濁防止の問題だとかいろいろあって、もう七、八年この方やっておりますけれども、なかなかできないでいまの
状況になっているのでありますからして、今度はこれだけたくさんの
公害対策法案をつくりますというと、これの裏づけをぜひやっていただかなければならない。たとえば指導員の養成であるとか、あるいは
測定器具の充実であるとか、あるいは一般の国民へのPRであるとかというふうないろいろの問題の裏づけを十分していただきませんと、
法律はりっぱにできましても、なかなかこれの実施が完全にはいかないと、かえって逆に
法律軽視の風習を起こすということになると困りますから、この点をぜひやっていただきたい。
それからもう一つお願いは、いま
日本の
公害問題で今度
公害としてあがっているものはみんな
技術的につかめるものです。つまりつかんで
法律の対象になるものだけあがっておりますけれども、
公害というのはこれだけの問題じゃなくて、
公害の定義はまあ
法律ではこれだけでありますけれども、そのほかいろいろの物質もありましょうし、問題がございます。でありますからして、
環境の保全あるいはわれわれの生命を守るための科学的、
技術的の研究をしっかりやっていただかなければならぬと思います。で、今度
国会で研究所をつくるというふうなことを御検討になっておるようでございますが、私はやっぱり科学
技術を中心とした対策でありませんと、むだが非常に多くなる、つまり
公害を出しておいて、
あとから
あとからと対策費を出すということでは非常にむだでありますから、これに対しましてはひとつ
公害技術研究所と申しますか、総合的な研究所をぜひつくっていただいて、そしてそういうところの研究の結果を
行政面なりあるいは実施面に及ぼしていただきたいということをお願いいたしたいと思います。
ちょっと時間がたちましたから、これだけで終わらせていただきます。ありがとうございました。