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1970-12-08 第64回国会 衆議院 法務委員会 第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十五年十二月八日(火曜日)     午前十時三十八分開議  出席委員    委員長 高橋 英吉君    理事 小澤 太郎君 理事 鍛冶 良作君    理事 小島 徹三君 理事 田中伊三次君    理事 福永 健司君 理事 畑   和君    理事 沖本 泰幸君       石井  桂君    島村 一郎君       永田 亮一君    羽田野忠文君       松本 十郎君    村上  勇君       黒田 寿男君    中谷 鉄也君       安井 吉典君    横路 孝弘君       林  孝矩君    岡沢 完治君       青柳 盛雄君  出席国務大臣         法 務 大 臣 小林 武治君  出席政府委員         法務政務次官  大竹 太郎君         法務大臣官房長 安原 美穂君         法務省刑事局長 辻 辰三郎君  委員外出席者         議     員 畑   和君         内閣官房内閣審         議官      小泉 孝夫君         経済企画庁国民         生活局水質調査         課長      山中 正美君         法務省民事局長 川島 一郎君         法務省民事局参         事官      味村  治君         通商産業省公害         保安局公害部公         害第二課長   根岸 正男君         最高裁判所事務         総局民事局長  矢口 洪一君         最高裁判所事務         総局刑事局長  佐藤 千速君         法務委員会調査         室長      福山 忠義君     ————————————— 委員の異動 十二月八日  辞任         補欠選任   下平 正一君     中谷 鉄也君   三宅 正一君     横路 孝弘君 同日  辞任         補欠選任   中谷 鉄也君     下平 正一君   横路 孝弘君     中谷 鉄也君     ————————————— 十二月七日  商法の一部改正反対に関する請願(寒川喜一君  紹介)(第二三三号) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  事業活動に伴って人の健康等に係る公害を生じ  させた事業者の無過失損害賠償責任に関する法  律案細谷治嘉君外十名提出衆法第二号)  人の健康に係る公害犯罪処罰に関する法律案  (内閣提出第一九号)      ————◇—————
  2. 高橋英吉

    高橋委員長 これより会議を開きます。  人の健康に係る公害犯罪処罰に関する法律案に対し、沖本泰幸君外二名から、日本社会党公明党及び民社党の三派共同による修正案提出されました。  この際、提出者から趣旨説明を求めます。沖本泰幸君。
  3. 沖本泰幸

    沖本委員 ただいま日本社会党公明党及び民社党から共同提案されました人の健康に係る公害犯罪処罰に関する法律案に対する修正案につき、提案者を代表いたしまして、その提案趣旨を御説明いたします。  まず、案文を朗読いたします。    人の健康に係る公害犯罪処罰に関する法律案に対する修正案   人の健康に係る公害犯罪処罰に関する法律案の一部を次のように修正する。   題名中「公害犯罪」を「公害犯罪等」に改める。   第一条中「公害」を「公害等」に改める。   第二条の見出しを「(人の健康に係る公害を生じさせる罪)」に改め、同条第一項中「危険を生じさせた」を「危険を及ぼすおそれのある状態を生じさせた」に改める。  第三条の見出しを削り、同条第一項中「危険を生じさせた」を危険を及ぼすおそれのある状態を生じさせた」に改める。  第七条を第九条とし、第六条中「第四条」を「第六条」に改め、同条を第八条とする。  第五条中「工場又は事業場」を「第二条及び第三条の規定の適用については、工場又は事業場」に、「危険が生じうる程度」を「危険を及ぼすおそれのある状態が生じうる程度」に、「そのような危険」を「そのような状態」に、「身体の危険が生じているときは、その危険は」を「身体に危険を及ぼすおそれのある状態が生じているときは、その状態は」に改め、同条を第七条とする。  第四条中「前二条」を「前四条」に改め、同条を第六条とする。  第三条の次に次の二条を加える。  (食品に人の健康を害する物質を混入して公共の危険を生じさせる罪)第四条食品製造業食品衛生法昭和二十二年法律第二百三十三号)第二条第一項に規定する食品(以下「食品」という。)を販売の用に供するために製造し、又は加工する事業をいう。以下同じ。)に係る工場又は事業場における事業活動に伴って公衆飲食に供する食品に人の健康を害する物質を混入し、公衆生命又は身体に危険を及ぼすおそれのある状態を生じさせた者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。  2 前項の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。  第五条業務上必要な注意を怠り、食品製造業に係る工場又は事業場における事業活動伴つて公衆飲食に供する食品に人の健康を害する物質を混入し、公衆生命又は身体に危険を及ぼすおそれのある状態を生じさせたは、二年以下の懲役若しくは禁錮又は二百万円以下の罰金に処する。  2 前項の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は三百万円以下の罰金に処する。  本条案の要点は次の二点であります。  第一点は、原案の第二条、第三条及び第五条にある「危険を生じさせた」の字句を「危険を及ぼすおそれのある状態を生じさせた」と修正すべきであるというのであります。この点は、いまさら御説明を要するまでもなく、産業公害の人命に対する脅威を防止するためには、ぜひとも危険の生ずるおそれのある状態段階犯罪を構成するとする必要があるからであります。  第二点は、いわゆる食品公害の問題をもこの法案に取り入れて、これを公共危険罪一つとして原案に追加しようとするものであります。なるほど、いわゆる食品公害公害基本法の上では公害という名の呼び名で呼ばれておりませんが、現在のように食品大量生産が行なわれ、食品が工業的に製造されて多量生産が行なわれるようになった時代においては、食品の中に毒物その他の人の健康に有害な物質が混入することは、きわめて広い範囲国民に重大な危険をもたらすことは言うまでもないことでありまして、実質的には原案公害罪と同じような考えのもとに規定を設けるのが至当であります。  その内容を申しますと、まず故意犯として第四条という規定を、次に過失犯として第五条という規定原案に挿入しようというのであります。具体的に説明しますと、食品製造、加工を行なう事業工場事業場で、食品毒物その他人体に有害な物質を混入させて公衆生命または身体に危険を及ぼすおそれのある状態を生じさせる行為、これが本来の対象であります。  大体いま申し述べましたことが概略の趣旨でございます。何とぞ慎重審議の上、本修正案に御賛同くださいますことをお願い申し上げます。(拍手)
  4. 高橋英吉

    高橋委員長 これにて趣旨説明は終わりました。     —————————————
  5. 高橋英吉

    高橋委員長 内閣提出の人の健康に係る公害犯罪処罰に関する法律案及び同法律案に対する沖本泰幸外二名提出による修正案、並びに畑谷治嘉君外十名提出事業活動に伴って人の健康等に係る公害を生じさせた事業者の無過失損害賠償責任に関する法律案を一括して議題とし、審査を進めます。  質疑の申し出がありますので、これを許します。中谷鉄也君。
  6. 中谷鉄也

    中谷委員 事業活動に伴って人の健康等に係る公害を生じさせた事業者の無過失損害賠償責任に関する法律案について、すでに詳細な提案理由説明をいただいておりますが、この機会に数点にわたって簡潔にお尋ねをいたしたいと思います。提案者のほうからお答えをいただきたいと思います。  まず、この法案提出をされた憲法的な理念は一体どのようなものなのか。すなわち憲法二十九条財産権、二十二条営業の自由、そして憲法二十五条の生存権、これらの問題の関係の中においてこの法案提案されたと私は理解をいたしますが、これらについて提案者の御答弁をいただきたいと思います。
  7. 畑和

    畑議員 われわれ三党で提案をいたしておりまする公害に関する無過失賠償責任制度の立法の根本をただいま質問者は問われたと思います。憲法的な立場から一体どういうところに位置づけられるものかということについての質問だと思います。  その点につきましては、われわれは御承知のように憲法二十五条、生存権の問題をきわめて重視いたしておるわけであります。そのほかに、先ほど質問者の言われた各条の財産権等規定憲法にございまするけれども、この際は公害については特に生存権というものを、むしろ財産権等に優先をさせて、平板的に、同じに並列的に考えることなしに、憲法二十五条の生存権企業に優先させる、財産権に優先させる。こういうような立場から、憲法の二十五条に基づいて、しかも他の財産権等憲法規定よりもむしろ優先するのだという立場からこの法案提出したわけであります。  御承知のように、最近の事業活動が非常に大きくなりまして、かつ非常に微妙な薬等もできたり、あるいはまた複雑な機械等ができてまいりまして、技術の進歩に伴った結果でありまするけれども、いままでの民法の七百九条の原則では割り切れない、むしろ逆にそれが被害者救済にとって足かせになる、かような状態になってまいったと思います。いままでの民法七百九条は、封建制度のあとでやってまいりました近代初期における加害者被害者との関係においての被害者救済という点にありまするけれども、その際に加害者被害者との利益をあんばいするというか、その公平ということをはかってきめられた一般原則でありますが、先ほど申し上げましたような事情によって、いまやその一般原則が、公害等の問題については逆に公平の原則に反している。過失がなくても被害がどんどん出ておるような状態においては、民法の七百九条に基づいて、被害者のほうに、すなわち原告のほうに対して相手方の過失を立証させるということは非常に困難な状態になっておる。したがって、憲法二十五条の精神を貫くためには、公害の問題については少なくとも無過失損害賠償責任制度を設けるべきだというのが、われわれの提案理由であります。
  8. 中谷鉄也

    中谷委員 憲法二十五条の生存権、特に憲法二十九条等については、公共の福祉に適合するように法律財産権内容は定めなければならないというふうな規定が特段に定められているわけであります。ただいま提案者は御答弁の中で、二十五条の生存権の問題について、強くそのよって来たるべき本法案憲法的な理念についての御答弁があったわけでありまするけれども、たとえば憲法第十四条、法のもとの平等という、これは重大な規定でありまするけれども、いわゆる法のもとの平等ということによって、いま法のもとにおいての平等を確保する道は、巨大な企業とそうして力のない市民、そのようなものの中において、そのような力のない市民について過失故意を立証させるというふうなことは、かえって平等と公平の原則に反するという、真実の平等、真実の公平、先ほど答弁者は、特に公平ということを配慮しておられる趣旨の御答弁がありましたけれども、憲法十四条、またさらに憲法十三条、これにも憲法的な理念を求めるべきである、すでにこれは答弁者の御持論でもありまするけれども、その点について御答弁をいただきたいと思います。
  9. 畑和

    畑議員 まさにそのとおりでありまして、憲法十四条に平等の規定がありますけれども、いままでは形式的な平等におちいりがちであったと私は思います。ところで、ほんとうの平等というのは実質的な平等、こういうことをはからなければならない。まさに私が先ほど申し上げましたように、一方の企業者は強大であります。一方の被害者は零細な市民たちの集まりであります。住民運動をやって、いろいろ問題にして初めて最近のように公害というものに対する認識が強くなり、政府公害国会に踏み切らざるを得なくなった、こういう背景がそこにあるのですが、そういった住民行動によって初めてこういう事態にやっとなったということ等から考えると、ほんとうに力のない市民たちにとっては、やはりこうした無過失賠償責任制度を設けて救済してやるのでなければ、実質的な平等は得られない。したがって、憲法十四条にもそういうことでは違反をするということも、確かに質問者の言われたとおりであります。
  10. 中谷鉄也

    中谷委員 公害対策基本法制定されてすでに数年を経過いたしました。公害対策基本法制定にあたりまして、公害審議会最終答申をいたしました。その最終答申の第五の第一項の中に、次のように述べておるのであります。「公害によって他人の生命身体財産その他の利益一定受忍限度をこえる損害が生じたときは、原因者がこれを賠償する責任を負うこととする。」これはまさに無過失責任的な制度をつくれ、つくることが正しいのだということを答申は強く主張いたしているわけであります。それを今日に至るまで、いわゆる連合審査等審議を通じて、政府態度というのは、無過失責任制度について、きわめて困難である、あるいは民法原則についての重大な例外をつくることになるというようなことで、この無過失賠償責任制度を設けることについての態度はきわめて消極的であります。このようなことは国民の期待に沿うものではないし、さらにまた、公害審議会答申があってからすでに数年を経ておる。そのような政府態度について、三党がこの法案提案をされた、政府のそういうふうな態度との比較において、私はそういう審議会答申に対してまさにわれわれは責任を持たなければならない、こういう一つの観点について、先ほどの質問と若干重複をいたしまするけれども、お伺いをいたしたいと思います。
  11. 畑和

    畑議員 公害審議会でもう数年前に、先ほど言われたような一定受忍限度をこえた場合についての、無過失責任と明確には書いてないけれども、そういった制度を設けるべきであるというようにとれるような答申が出ておる。それに対して、もうずいぶん長く問題はそのままになっておるわけであります。まさにそれだからこそ、われわれはこの公害国会にあたって、われわれの考え方はこうであるということから、政府が無過失賠償責任の問題を公害について出していないものですから、しかたがないからわれわれが出して、あえて世論に問うて、一体どう考えているかということで、全議員の御同意を得てぜひともこれを成立させたい、かように考えておるわけであります。
  12. 中谷鉄也

    中谷委員 提案理由説明は、次のように明確に述べております。民事上の無過失賠償責任制度は、すでに鉱業法水洗炭業法労働基準法などで確立していることを考えるならば、公害訴訟にこれを適用できない合理的な理由はどこにもないと述べているわけであります。要するに、はたしてしかりといたしますならば、無過失損害賠償責任に関する法律制定しようとしない、合理的な根拠がなくしてそのようなものを制定しようとしない政府態度というのは、まさに公害に対する取り組みにおいて基本的な決意と創意と、そうしてまじめさに欠けるとまで私はあえて極言をいたしたいと思いまするけれども、重ねて提案者の御答弁をいただきたい。
  13. 畑和

    畑議員 私も、ついこの間行なわれました連合審査の際の席上におきましても、政府に対していろいろ質問をいたしたのでありますが、その質問、それに対する御答弁の過程を通じまして、どうやら政府のほうではこの公害についての無過失賠償責任制度をつくろうという考えがないようでございます。まさに先ほどの公害審議会答申からいたしますならば、それをサボっておるとしか理解ができないと思います。政府、特に法務大臣等答弁を聞いておりますると、先ほど質問者中谷君からいろいろ例示がありました鉱業法あるいは水洗炭業法、それから独禁法、そのほかに原子力損害賠償に関する法律、そのほかにまだいろいろ似たものがございますが、そういったきわめて局限された、しかも非常に危険度の高いようなものについて、個別法無過失責任規定しているところが何カ所かあります。政府は、それをさらに拡充をして、それで個別に無過失責任規定していきたいという、いわゆる縦の線の考え方でいきたい、したがって公害という広い範囲で、無過失責任を横の広がりでとらえるということには不賛成である、縦をこまかくやっていけば、自然そのうちにはまた横の必要も出てこようから、そのときにはそのときにまた考えます、こういうような答弁であったと私は思うのでありまして、もうそうじゃなくて、いまこそやはり横の広がり公害についての一般的な規定をする必要があるとわれわれは考えておる。しかも、そうかといって、われわれとしても何でもかんでも公害と名がつくものについて無過失賠償責任をもって規制しようということでは絶対にないのであって、相当なしぼりをかけた上での一般的な例外規定民法七百九条に対する例外規定を一般的に公害についてだけ設けよう、こういう考え方でございます。
  14. 中谷鉄也

    中谷委員 個別法によって無過失責任検討していこうという政府答弁についてでありまするけれども、この法案を私はぜひとも制定をしてもらわなければ、個別法、すなわち、そのような政府法務大臣答弁が適当であるかどうかは別として、縦の法律、こういうようなものについても、法務省各省にまかしておると言う、各省法務省にまかしておると言う、公害本部法務省法務省公害本部、どこも責任を持って縦の問題についての検討もいたしておらない。  私は、そこでお尋ねをしたいのですけれども、縦の問題についても、政府はこれらの問題については全く不誠意であり無責任だというふうに私は考えますが、いかがでございましょうか。
  15. 畑和

    畑議員 私も同様な感じがいたします。この間連合審査会で私がやはり質問したときにも、各大臣に次々並んでもらって返事をしてもらおうと思ったのですが、最も公害に対して関心の深い厚生大臣にまず立ってもらいました。ところが、厚生大臣の御返答がどうも満足すべきものではない。したがって、厚生大臣においてしかりであるから、時間がないからほかの人は聞かぬでもわかっているということで私は終止符を打ちましたけれども、いろいろ聞いておりますると、各省ともに確かに質問者の言われるようにほんとう真剣味を加えてそういった個別法をさらに強化する、あるいは新しい縦割りをつくる、縦の無過失責任をつくるといったような熱意にどうも乏しい、かように思っております。
  16. 中谷鉄也

    中谷委員 この機会法務政務次官お尋ねをいたしたいと思いますが、縦について検討するといわれておる。これは法務省各省協力をしてということです。公害審議会答申があってすでに数年、法律の名前を全部あげてもらう必要はございません。大体どの程度法律の数を検討対象といたしておられますか。特に急いでおられるのは一体どれとどれですか。これらの問題について、縦だとおっしゃるんだから、特にこの問題については検討を急ぎたいというもの、これらについてひとつお答えをいただきたい。そして、これは法務省がおやりになるということなんでしょうかどうか。これはひとつ法務省のどこが一体やるのか、これについて政務次官の御答弁をいただきたい。
  17. 大竹太郎

    大竹政府委員 これはもちろん法務省としての担当民事局でございます。ただ、個々の法律についての点でございますが、それについては民事局長を呼んでありますけれどもまだ見えておりませんから、民事局長が来たらこまかい点についてお答えをいたしたいと思いますが、現在私の聞いておるところでは、それぞれの法律について担当各省がございますので、その各省意見を現在法務省としては待っている段階だというふうに聞いております。
  18. 中谷鉄也

    中谷委員 法務省はそうするといつからこの縦の法律検討に着手をされたのですか。重ねて申し上げます。基本法ができてすでに数年、無過失責任が叫ばれてすでにもう何十年、一体法務省けいつから縦についての検討を始められましたか。始められている局が民事局であるということはかるほどよくわかりますが、法務省としては一体いつから検討を始められたのですか。各省意見待ちということは、そうするといつ意見を求められましたか。求められた時期と、検討に着手された時期をひとつお答えをいただきたい。
  19. 味村治

    ○味村説明員 お答え申し上げます。  公害につきましての無過失賠償責任の問題は非常にむずかしい問題でございまして、何ぶんにも近代法基本原則であります過失責任主義修正ということになるわけでございます。公害につきましては種々の態様がございまして、これは公害を発生するものとしましては危険性程度がさまざまでございます。したがいまして、法務省といたしましては、こういうものにつきまして一般的な無過失責任規定する規定はなかなかむずかしいんだ、これは個別に検討していただきたいということは、前から対策本部のほうに申し上げているわけでございます。事務的にはかなり前からでございます。
  20. 中谷鉄也

    中谷委員 そうすると、対策本部にそういうことを伝達をしたということは、逆にいうと対策本部ができるまでは各省に対してそのようなことも協力を求めていなかったということに裏返せばなりますね。そうすると、それらの問題について各省に対して正式に申し入れをしたのは、対策本部発足以前ではないわけですか。どのような文書でやったのかどうか。
  21. 味村治

    ○味村説明員 対策本部が発足いたします前は、総理府のほうでこの公害問題につきまして御審議をなすっていらっしゃったわけでございます。私どもといたしましては、関係担当官会議のあるつどそういう趣旨のことは申し上げてございます。
  22. 中谷鉄也

    中谷委員 そうすると、一体それは閣議の問題になって、というふうなことはあったのかなかったのかを、縦の問題について、お尋ねいたしたい。
  23. 味村治

    ○味村説明員 私は事務段階でのことしか存じませんので、閣議で問題になったかどうかということはお答え申し上げかねます。
  24. 中谷鉄也

    中谷委員 提案者お尋ねをいたしたいと思いますけれども、縦について検討すると言われておっても、公害対策本部申し入れをした。公害対策本部が一体店開きをしたのはごく最近、しかもそういうふうに言ってその点を詰めると、今度は総理府に対して事務レベルでどうだ。これは、だからあくまでとにかくこれらの問題をほんとう政策課題としてやろうとするような意図は政府には私は見えないと思うのです。ですから、縦の問題をやりますというようなことは私は期待できないと思いますが、提案者いかがでございますか。
  25. 畑和

    畑議員 先ほど民事局のほうから御答弁がございましたところによると、確かに質問者の言われるようなことだと思います。  どうも私も何度も申しますが、連合審査質問したときに、どうも法務省のほうでは、各行政機関でおのおのその担当する事柄について縦できめる、そういうこと。ところが、各行政庁に聞いてみると、どうもそれをサボっているとしか見えない。お互いに責任のなすり合いでいままで来たんじゃないか、かように思うのです。法務大臣は、どうも、一般的な例外規定規定するのはぐあいが悪い、個別的にやったほうがいいというだけでありまして、さっぱり前進がないのではないかというふうに考えて、われわれはこの法案でいろいろ指摘をされる欠点もあろうかと思いますけれども、やはり相当しぼりをかけた上での横の一般例外規定を設ける必要がやはりあるというふうにいまでも考えておるわけであります。
  26. 中谷鉄也

    中谷委員 提案理由は次のように説明をされております。「本法案対象となる損害は、まず人の生命と健康、次いで人の食用に供される動植物の生産にかかる人の財産権に限定しました。」いわゆるしぼりをかけられた。これはもう答弁者が先ほどから何回もこの点についてお触れになっているのですけれども、特にそういうふうにしぼりをかけられた理由についてひとつ御答弁をいただきたいと思います。
  27. 畑和

    畑議員 民法の七百九条の例外規定でありますから、大原則に対する例外規定であり、しかも各個別法ですでに規定されておるような局限された無過失賠償責任の個々の場合と違って一般的になるわけです。したがって、われわれは相当慎重を期しまして、何でもかんでも広げたということになると、それは先ほどいろいろ言われる非難に当たりますから、しかし、そうかといってやらないということはできない。そこで相当しぼりをかけたつもりで、先ほど質問者のおっしゃったような範囲で、すなわち事業場等から排出する物質によって人の健康に害がある、あるいは生命に害がある、こういったことの結果があって、その損害が争われるという場合が一つと、それからもうつ、財産権も全部広げたかったのですが、公害についての財産権を広げたかったのですが、そうもいかないということで、やはりしぼりをかけて、人の口にのぼるような米とか魚介類あるいは海藻類、こういったものが汚染をされて、そうしてそういった限られた食べものの生産に当たっておる人たち、漁民や農民が財産権、漁業権、あるいは農業権といえるかどうか、そういったものが侵害されたとき、そのときに限って実はこの規定をいたしたわけであります。
  28. 中谷鉄也

    中谷委員 無過失責任原則が実質的な公平、生存権の確保、確立という観点から将来拡大されていくであろうということは、まさに時代に対する新しい展望として私は当然のことだろうと思うわけであります。そういたしますると、私はこの法案についてはそのようないわゆるしぼりをかけられたことについての合理的な理由を発見し、それを認めるものではありますけれども、将来たとえばガス爆発による大事故などというふうな巨大産業と市民との関係、これらの問題、そういうような問題についてさらに無過失責任制度というものが将来拡大されていかなければならないというふうに私は考えますが、この点について提案者の御答弁をいただきたいと考えます。
  29. 畑和

    畑議員 先ほどの質問でありますが、ガス爆発、そういったような問題までだんだんこれから非常な危険の度合いが広がってくる、また大きくなってくる、こういう関係から、私たちが提案をしているものよりももっと広げてやる必要が出てくるではないか、そういうことを予想しているかということだと思いますが、確かにそういう危険がますますいまのものよりも複雑になり、また大きくなるような時代がどんどんやってまいると私は思っています。したがって、これはいつまでこのままで維持できるかどうかということも私は大いにあると思いますが、とりあえずはこれでいい。爆発物については爆発物でまた縦割りでやるという議論もありましょうけれども、とりあえずわれわれとしては公害についてはこの点でいこう、こういう考えです。
  30. 中谷鉄也

    中谷委員 次に、人の健康に係る公害犯罪処罰に関する法律案に対する修正案について簡単にお尋ねをしておきたいと思います。  いわゆる「おそれ」を復活させるといわれておりますが、その問題についてであります。先ほど提案者はこれらの問題について、公害というものは予防的な立場に立たなければならないということであります。そこで、これらの問題についてはすでに論議がされたところでありますけれでも、提案者立場において、「危険を及ぼすおそれのある状態を生じさせた」という修正案と「危険を生じさせた」という原案、その他ございますけれども、その違いについて、要するに修正案でなければならぬという点について、ひとつお答えをいただきたいと思います。  なお一点、私はこの点についてもひとつお答えをいただきたいと思います。いわゆる「おそれ」を削除したことについて、いろいろなことが論議をされました。これは単にいわゆる法律の構成要件に関する問題としてではなしに、さらにそれ以上の一体どのような事情によってその「おそれ」が削除されたのか。経団連等の陳情を受けて削除したのではないのかなどというふうなことが盛んに論議をされたわけであります。そういうことについては、断じて財界の圧力に屈したものではないというところの総理の答弁がありましたけれども、国民がそのようなことを信じているというふうな背景は、私は十分にあったと思うのです。だといたしますると、順法精神、その法律が全く正しいものとして生まれてきたんだ、ほんとうにすなおなものとして生まれてきたんだということがなければ、私は順法精神というものは成り立たないと思う。そういうことからも、私は「おそれ」というものの復活をさせなければならない、こういうふうに考えますけれども、提案者いかがでございましょうか。  この二点だけを私、質問させていただいて、私の質問を終わりたいと思います。
  31. 畑和

    ○畑委員 この「おそれ」を初め法務省原案ではつけておった。ところが、そのあと御承知のように財界等から文句が出た。そのあとで、結局最終的に政府案は「おそれ」を削ったという経過、その経過は私自身もきわめてその辺を不明朗だと思っておるわけで、そういう意味で、順法精神という点からするとどうも適当ではなかったと私は思っております。  と同時にまた、削ると削らないとではどうなるか。どうしても削るのを削らぬでまたもとへ戻すということがなぜ必要なのかということでありますけれども、これはやはりできるだけ公害については、危険が発生する前に早く予防的な効果をあげる、抑止的な効果をあげる、こういう大きなねらいがあるのでありますから、その大きなねらいを達成するためには、やはり「おそれ」というものをつけ加えておけば、それだけ事前になりますし、予防的効果は確かにないよりも「おそれ」があったほうがはるかに効果があるのでありますし、また捜査あるいは裁判等につきましても、そのほうがずっと容易であります。まあ構成要件のむずかしさという点からくると、あるいは問題が逆にあるかもしれませんけれども、構成要件が「おそれ」というのはあやふやだという非難もありますけれども、しかし、それがあったといたしましても、やはりより事前に手が打てる、予防ができるという点で、私は法務省原案がよかったと思う。自民党の法務部会の方々も、聞くところによりますと、ほとんど全部が法務省原案を支持されておったそうでありまするが、自民党公害対策のほうの委員会のほうが反対をした。これは明らかに財界のやはり圧力があったようにしかわれわれは思えないのでありますが、世間もそういうております。したがって、やはりもとに返って、そのほうが法律の効果をあげる、効果があるのですから、そうしていろいろな風評等が払拭をされて、この法案が効果を発生できるようにということで、私のほうも「おそれ」をさらにつけ加えた、こういうことであります。  そのほかに、質問にありませんでしたが、食品公害、これが落ちていると思うのです。これは政府原案の類型とは確かに違いまして、工場等から排出する物質、いわゆる廃液あるいは大気中に発散するもの、そういった廃物的なものでありませんで、製品として出される食品の中に混入されて大衆の健康を害する例がいまたくさん問題になっていますから、やはりこの際、公害罪としてやるならば、政府考えとは類型が違うといたしましても、これを加えることによって一歩前進することはできるだろうということで、「おそれ」の問題とあわせて、この食品公害についての取り締まりの処罰法の条文を入れたわけで、これは質問にありませんでしたが、つけ加えておきます。
  32. 中谷鉄也

    中谷委員 法案修正案について、さらに詳細な質問をさせていただきたいと思いますが、お約束をいたしました時間が過ぎましたので、これで質問を終わりたいと思いますけれども、提案者答弁をお聞きいたしておりまして、政府答弁もやはり提案者答弁のように明確なものであってほしいと思うのであります。きのうときょうと、一時間前に言ったことと違うというようなことでははなはだ困ります。政務次官、きょうの午後から、さらにまた政府案に対するところの公害罪についての質問が始まるわけでありますけれども、提案者答弁のような答弁をひとつしていただきたいということを申し述べまして、質問を終わりたいと思います。
  33. 高橋英吉

    高橋委員長 岡沢君から関連質問の御希望がありますので、関連質問を許します。岡沢君。
  34. 岡沢完治

    ○岡沢委員 いわゆる無過失損害賠償責任につきまして、私も提案者の一人でございますけれども、ただいまの中谷委員質問と関連いたしまして、提案理由に明らかにされました具体的内容をさらに詳細に国民に知っていただくという趣旨から、私の所見を述べ、それに対する畑議員の御意見を聞かしていただきたいと思います。  ただいまの中谷委員の指摘にもございましたとおり、イタイイタイ病、水俣病、四日市ぜんそく等、いわゆる四大公害裁判の実態を見ましても、被害者である原告側が、いわゆる過失責任主義原則に従って、みずから加害者側である会社側の故意過失を立証するためにたいへんな苦労をなさっておる。現実に長期裁判、そして過重な訴訟費用の負担等、実際に被害者の実態を見ました場合に、国民としても、あるいは国政をあずかる人としても、このままに放置できない現実の姿があるというふうに私は考えます。  今度の国会は公害国会といわれますが、その公害国会に対してわれわれが対処すべき道は、公害を発生させないということもきわめて大切でございますし、公害行政についてはいわゆる先手行政がいわれるゆえんではありますけれども、それもさることながら、現に公害被害によって多数の生命が失われ、また多数の人々が病床に坤吟しておる、いわゆる被害者救済ということも、きわめて大切な緊急の政治的な課題ではないかと思います。  事被害者救済に関します限り、私は、いわゆる過無失賠償責任原則を確立しない限り、ほんとうの意味での被害者救済はあり得ない。実質上裁判に訴えられるじゃないかと言われましても、それは理論的な裁判権にすぎないので、現実的にはこの公害企業の実態を見ました場合に、その原因の複雑さ、あるいはその多様性あるいは企業の秘密主義、ことに原告側である被害者が調査権一つ持てないという現実を考えました場合、これは実質上の不平等、具体的な被害者救済には全く役に立たないのが、過失責任主義をとる現行民法規定する被害者救済の実態ではないかと思うわけであります。これはいわゆる十九世紀的な法律としては意味があったと思いますけれども、二十世紀、二十一世紀の最近の資本主義の大企業の実態を考えました場合、どうしても無過失賠償責任制度の確立ということは、これは公害関係に関する限り例外ではなしに原則であるべきだと考えるわけでございますけれども、畑議員の所見を伺いたいと思います。
  35. 畑和

    畑議員 先ほども中谷委員質問に対してお答えをいたしたのでありますけれども、岡沢君の言われるとおりであります。公害に関する限りは無過失賠償責任がむしろ原則でなくてはならぬ、こういうふうにすら私も思っております。政府は、先ほど来私も申しておりますように、いろいろ物質等の個別の区別によって、いわゆる縦割りという、論争の結果俗にそういうふうなことばづかいになってしまったのですが、この縦割りの行政でやるといわれるけれども、なかなかそれがおそい、しかも網羅できないというような観点からいたしましても、やはり公害に限ってだけの七百九条の例外規定を設ける必要があろうと思います。ただ何でもかんでもといってはいけませんから、やはり先ほど申し上げましたように、われわれは相当しぼりをかけたつもりでございます。お説のとおりです。
  36. 岡沢完治

    ○岡沢委員 いま畑提案者の御説明にもございましたように、政府の場合は無過失賠償責任について、この九月にも一日国会で、検討するということをおっしゃっております。同じことばを四十二年の公害基本法制定のときに佐藤総理が使っておられる。検討検討ということは言いのがれであって、実質的にはほんとうの意味での無過失賠償責任制度を確立する意思がないと、過去の実績から見て言わざるを得ない。しかも一方で、現実に毎日被害者は病床で坤吟をし、生活にも困っておるという実態を見ました場合に、提案者と同じように、私もこの無過失賠償責任原則の確立が公害に関する限りは必要だと思うわけでございますが、政府は、過去の連合審査等を通じまして、いわゆる公害に関して一般的な横の無過失賠償責任制度を法制化することは困難だと言っているわけでございますけれども、私は、議会制度の先進国でありますイギリスにおきまして、女性を男性に、男性を女性にすること以外は国会は何でもできるという話がございますが、われわれはそれほど極端に考えないといたしましても、事無過失賠償責任公害関係原則として確立することは、むしろ先ほど申しました二十一世紀の新しい立法として、特に世界に類のない悲惨な公害国家ともいうべき日本の場合は必要であるし、法制上も可能だと思うわけでございますが、この点に対する提案者の御意見を聞きたいと思います。
  37. 畑和

    畑議員 まさに日本は世界でもほとんど首位に位するくらいに公害が多いのであります。その日本において、世界の先端をいって無過失賠償責任公害に関してずばり規定する、そうして被害者救済をはかるということは、私は非常に意義があると思う。ともすれば当局のほうは法理論的に、ともかく一般原則民法七百九条の例外規定をつくるのだから慎重でなければならぬというあまりに、どうもその点臆病に過ぎると思う。やはり一つの新しい公害対策を強力に進めるようにして、思い切った措置が必要ではないか、やはり政活的に考えてやるべきだろうというふうに私は考えております。
  38. 岡沢完治

    ○岡沢委員 関連でありますので、これで質問を終わります。
  39. 高橋英吉

  40. 沖本泰幸

    沖本委員 私も各委員に従いまして公害罪につきましていろいろな観点から御質問したいと思いますが、質問内容がいままでの委員の方に重なっていくような場合も一ありますけれども、それぞれの立場で観点を変えて御質問していると御理解いただきたいと思います。時間もありませんので、質問に入らせていただきます。  先ほどからの質問のやりとりをお伺いしておりましても、先日来から、公害罪につきましてはっきりした根拠的な御発言が非常に少ないように思われるわけでございます。さらに法務大臣の御答弁もいろいろと違う、こういうところもあるわけですが、まず刑事局長にお伺いしたいのですが、国家賠償に関しての問題でございます。連合審査でわが党の林委員からの御質問に御答弁があったわけですけれども、もうひとつはっきりしない、こういう点がありますので、重ねてお伺いいたします。  先日来からの御答弁でもわかりますように、国が営んでおるアルコール工場が有害な排水をしておる問題について、国家賠償という最高裁の一つの判決がございました。そういう汚水あるいは有害物質の排出、または大阪の熊取の京大の原子炉の放射能事故、こういう点も問題になったわけです。また鉱山排水というようなものも公害を生ぜしめ、このために住民に被害を与えたような場合には、国の営造物の設置管理の瑕疵が無過失であっても、国家賠償法二条の一項によって国は無過失損害賠償責任を負わなければならない、こういうふうにはっきりなるわけなんです。先ほども無過失賠償についていろいろ論じられたわけですけれども、この点についてもう一度お伺いしたいのです。先日の御答弁では非常に困難だ、こういうことなんですが、国家賠償は国家の責任に関する一般法、基本法であって、何ら特殊な分野ではないと思うのですけれども、民事関係でいろいろ違う、こういう御答弁があったと思うのですが、この点についてもう一度刑事局長から明確に伺いたいと思います。
  41. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 ただいまの御質問民事に関する国家賠償の問題でございますので、私が答弁するのは適当でないと思うのでございますし、民事局の係官も参っておりますので、公害罪の問題と直接関係がないわけでございますので、民事局から答弁させていただきたいと思うわけでございます。
  42. 味村治

    ○味村説明員 ただいまお尋ねのございました国家賠償法の規定は第二条でございまして、これは無過失責任だという学説もございますし、そういう判例もございますが、この責任を国家が負うにつきましては、「道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵」がある、「瑕疵」があるということが必要になるわけでございます。「瑕疵」というのは、本来通常備えるべき安全性を備えておらないということが「瑕疵」になるわけでございまして、これはいわば過失を客観化したというようなかっこうになっているわけでございまして、決して完全な無過失責任——無過失責任と申しますれば、極端な場合には、第三者がやった場合でも無過失責任を負うというケースもあるわけでありまして、原子力損害賠償法なんか、そうなっているわけです。飛行機が原子炉の上に落ちた、そのために原子力損害が発生したという場合に、原子力事業者責任を負わなければならない、そういうことになっているわけでございますが、この国家賠償法ではそのようなところまではいっていないわけでございまして、安全性に欠けておる、そういう設置なり管理に瑕疵があるのだ、そういうような場合についての規定でございますし、そういう場合に国が責任を負うという趣旨だと了解いたしております。
  43. 沖本泰幸

    沖本委員 しかし、最高裁の判例では、この点ははっきり出ておるわけですから、こういう公害罪を新たに設けなければならない、あるいはそれ以上のものとしていろいろな被害者救済をしていかなければならない、こういう立場で現在の国会が開かれておるわけです。そういう観点から考えていきますれば、当然そういうものの考え方というものを事例としてあるいは根拠として、次に進んでいったものの考え方に開いていけるはずなんですけれども、ただそういう民事上の問題だけだと固執していくのはおかしいと私は思うのです。当たるか当たらないかはわかりませんけれども、たとえば国鉄でひかれた人も私鉄でひかれた人も、あるいは民間の人がひいた場合も、ひかれたということに関してはみんな同じだと思うのですね。その上にかかってくる責任というものはみな同じようにかかってくると思うのですけれども、そういうことで、国家賠償という観点から、「瑕疵」という点についても、「瑕疵」の論拠というものは、いまただ営造物の管理、そういうものの中に少しのあれがあった、そういう規定だ、こういうことになるわけですから、「瑕疵」そのものだって、「瑕疵」という字句にだけ、あるいは説明だけにこだわって、そしてものを開いていかないというお考え方では——私たちは、今度の法律に全部当てはめて考えられるのではないか、もう少しこういうことを開いて、むしろこういうことが事例としてあるから、そこから開いて、こういうことにも当てはまるという考え方であって、いまの裁判の判例から、いろいろな点から援用されて持っていかれる問題だと思うのです。むしろこちらがそういう点について御質問していけば、すぐそうではないと、こういうものの考え方説明としておかえになるという点は、私たちどうしても納得いかないのです。  そこで、ただいまの問題について申し上げても、これは一つの事例ですけれども、「無過失損害賠償責任論」という本の中にもありますけれども、「無過失責任は、——過失責任例外とみられようが、並存する原理とみられようが、或いはまた、原則とみられようが、綜合的原理の一要素とみられようが、——近代の特殊な経済的・社会的事情の生んだ新たな現象と不可分の関係に立つものである。従って、この現象と無過失責任との結びつきを検討し、その理論の具体的な内容を明かにすることが何よりも必要なことである。」というような理論もありますし、その上に、一つの例として、「国道上への落石による事故につき道路の管理にかしがあると認められた事例」、これについて国家賠償法二条一項、これを当てはめておりますけれども、この中に、判決の例として「国家賠償法二条一項の営造物の設置または管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、これに基づく国および公共団体の賠償責任については、その過失の存在を必要としないと解するを相当とする。」というような理由が述べられているわけです。はっきりこうあるのですね。こういう点についてもう一度お答え願いたいと思います。
  44. 高橋英吉

    高橋委員長 ちょっと私も関連質問しますけれども、瑕疵があることになれば過失ということに当然なると思います。この間の説明をひとつわかりやすくお願いします。
  45. 味村治

    ○味村説明員 先ほど私が申し上げましたのは、国家賠償法二条の趣旨を申し上げたわけでございまして、公害につきまして無過失賠償責任を認めることが適当かどうかという問題は、これは検討を行なっているところでございまして、決して無過失賠償責任を認めるべきでないという趣旨でございませんことを、まずお断わり申し上げておきたいと思います。  ただいまの国家賠償法の規定趣旨でございますが、判例では瑕疵があることが必要だ。これはもちろん国家賠償法の二条に規定があるわけでございます。その瑕疵と申しますのは、道路でありますれば、道路が通常持っていなければならない安全性を欠いておるということであります。安全性を欠いておるような道路をそのまま道路として使わせておるということ自体がもうこれは言ってみれば過失になるわけでございますけれども、しかし、そのような具体的な過失の有無を問いませんで、安全性を欠いているという客観的な事実、事態によりまして損害賠償責任を課しておるというのが国家賠償法の規定趣旨であろうかと思います。
  46. 沖本泰幸

    沖本委員 そこで、私が言いたいことは、これは刑事局長にも申し上げるわけですけれども、無過失責任という問題は非常に困難だと盛んに答弁があるわけなんですね。けれども、すでにいま言いましたような、やりとりしているような国家賠償責任の有無、こういうところからはっきりここで縦だけの問題ではなくて、これを根本にしていけば横につないで何でもできる、国の基準で考えることを民間に当てはめて考えられないことはない、こういうふうに考え方を進められるわけですね。その点どうなんです。
  47. 味村治

    ○味村説明員 御質問の御趣旨は、国家賠償法の第二条の趣旨公害についても認めてよろしいのではなかろうか、こういう趣旨だと理解いたしましてお答えを申し上げたいと思うのでございますが、確かに国家賠償法二条と類似の場合につきまして、そのような責任を認めてよろしいではないか、これはもうすでに民法の七百十七条にございまして、土地の工作物の設置につきまして瑕疵がありました場合には占有者、占有者に責任がございません場合には所有者が責任を負うという規定があるわけでございます。したがいまして、この国家賠償法の規定は特に民事上目新しいというわけではございません。ただ、この民法規定は土地の工作物でございますので、土地に付着しておる工作物に瑕疵がある場合に限られるというのが伝統的な解釈でございます。  そこで、公害の場合につきまして考えますと、これは工作物に瑕疵があったというふうに考えられる場合があるかどうか、単に煙突から煙が出ておるとかあるいは排水を排出しておるというようなことでございまして、これはさまざまの態様があるわけでございます。工作物の設置の瑕疵に準ずるような場合もあるいはあるかもしれませんけれども、それ以外の場合というのもいろいろあり得るわけでございまして、これを一律に無過失というふうに、この工作物の設置の瑕疵を広げて、それを一律に公害に広げてはどうか、こういうことでございますれば、やはりそれについてはいろいろな性質が違っておりますから、公害発生の原因とか態様とか、そういうものが違っておりますので、個々的にその実態を究明いたしまして検討しなければなるまいか、このように考えておるわけでございます。
  48. 沖本泰幸

    沖本委員 これは民事の、いまおっしゃっているような国がいろいろ責任を持たなければならないというような問題があって、個々別に民事の場合は考えなければならない、こういうことをおっしゃるけれども、この間から大臣が盛んにおっしゃるような横の面と縦の面、先ほど畑さんもおっしゃっておりましたけれども、そういう面を並べて考えていくときには、いま言った国家賠償法のこういう事例が一つの基本的なものになるのじゃないですか。
  49. 味村治

    ○味村説明員 ただいま御指摘のように、国家賠償法の第二条の趣旨、これを踏んまえて、こういった趣旨に類するようなものにつきましては無過失損害賠償責任を認めるべきであるという理論も十分成り立つと思います。またしかし、従来から主として事業関係につきましては、鉱業法でありますとか、原子力損害賠償法でございますとかいうように危険のある事業をとらえまして、その危険のある事業につきまして、それぞれ個々的に無過失損害賠償貴任を認めるというのが普通の形態でございますので、まずそちらのほうから検討してはいかがであろうかというような考えでございます。
  50. 沖本泰幸

    沖本委員 いまもおっしゃっているとおり、考えられないことはない。ですから、民事の、民間の公害についても営造物はあるわけですから、営造物はあって、したがって、水銀とかシアンとかいろいろなものが流されていくということになるわけですから、その例をとらえてこれに当てはめられないことは絶対にないわけです。その点をどうしても大臣お答えになったことに固執して、むずかしいむずかしいというふうにおっしゃって、一般国民にまでむずかしいんだという考え方を押しつけるということはいけないことじゃないかと思うのです。むしろこれは向こうに向かって、国民のためにその理論を広げて考えていって法律をつくっていくということでなければ、法律もつくれないじゃありませんか。こういう点、法律をおつくりになった刑事局長のほうはいかがですか。
  51. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 今回御審議を願っております人の健康に係る公害犯罪処罰に関する法律案、これは刑事でございまして、この二条、三条に掲げます基本的な類型行為、これを犯した者を処罰する、こういうことでございます。ただいま御指摘の問題とは直接関係がないことかと存ずるのでございます。
  52. 沖本泰幸

    沖本委員 政務次官、どうですか。
  53. 大竹太郎

    大竹政府委員 大臣の御答弁を直接聞いていないからわかりませんが、むずかしいということを言われたのは、一般的な規定として非常にむずかしいと言われたことだと思うのでありまして、個々については、いま答弁がございましたように、考えていけば、一般的にやるという困難さから比べれば非常に私は容易だろう、こういうふうに思います。
  54. 沖本泰幸

    沖本委員 個々についても、先ほど中谷委員質問にもありましたとおり、個々の面でとらえていくというところも全然検討されていない、こういうようなことでもありますし、先ほどの参事官の御答弁でも、そういう考え方は可能だということをここではっきりおっしゃっているわけですから、その点はひとつ十分考えていただかなければならない。結局縦だ、縦だとおっしゃっているけれども、横につなげる、こういうことになるわけです。その点、十分考えていただきたい、そう思うわけです。  それでは刑事局長さんにお伺いいたしますが、十一月の二十日に自民党の党内のほうで公害罪で御説明になったときは、企業が基準をこえて有害物質を排出しても致死量、致傷量に達しないものは処罰しない、こういう趣旨お答えをなさっていらっしゃるらしいのですが、この点いかがですか。
  55. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 私がただいまの御指摘の日時にどういう説明をしたか——そういう説明をしていないかもしれませんが、私、終始、今回御審議になっておりますいわゆる公害罪説明におきまして、この二条または三条の、特に二条の犯罪が成立するにつきましては、排出基準が定められております物質につきまして、排出基準を守っておる限りにおいては犯罪が成立しないということは私はどこでも説明をいたしております。  その理由は、まずこの排出基準と申しますのは、多数の工場事業場が同時に人の健康を害する物質を排出いたしましても、そういうことを前提にして一定の排出基準というものをつくっておるわけでございますから、各工場事業場が排出基準を守っております限りにおいては、二条、三条に規定いたしております公衆生命または身体に危険を生じさせるということは事実上あり得ないということで、この犯罪が成立しないということを申しておるのでございます。そしてさらにまた、この排出基準がかりに、万々一間違っておったという場合で、排出基準をみんなが守っておったけれども公衆生命身体に危険を生じたというようなことが万一あったといたしましても、その場合には、その排出基準を守りましたものは国が定めました基準を守っておるわけでございますから、通例の場合は故意または過失がないということで、その面からの犯罪は成立しない、こういうことで終始私はどこでも説明をいたしておるわけでございます。
  56. 沖本泰幸

    沖本委員 きのうもそういうふうにお答えになっていらっしゃいますし、また各省が基準をきびしくしてくれるからこれからはおそらく出ないだろうという趣旨の御答弁もあったように聞いておるわけですが、この点いかがですか。
  57. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 各省が現在定めております排出基準は、いわゆる環境基準というものを基準にいたしまして、それぞれの工場事業場における排出量をきめてきておるわけでございます。その排出量をきめる場合におきましては、環境基準との関係におきまして、きわめて高い安全度を見越して定めておるわけでございまして、現在各関係行政庁におきましては厳格な基準でこの排出基準というものを定めておりますし、将来も同様のことであろうと思います。したがいまして、私は、排出基準を守っております限りにおきましてはこの二条、三条にいう公衆生命または身体に危険を生じさせる状態というものは生じないと存ずるのでございます。
  58. 沖本泰幸

    沖本委員 現在の各行政法規の中に罰則規定がいろいろあるわけなのですけれども、しかし、実際には古くて使われていない、しり抜けになっている規定がたくさんあるのですね。あるいは事実役に立たないというような規定が一ぱいあるわけですけれども、そういうものを通り抜けて網の目をくぐってきたものに対して、現在政府原案になるところの公害罪がどの程度の抑止力を有しておるのでしょうか、あるいはそれがどの程度歯どめになるのでしょうか。ざる法だ、ざる法だということもけさ各委員の御質問の中にも出ておりましたし、大臣お答えの中には、歯どめ役なんだ、出すことに意義があって、その抑止力が十分あるのだ、こういうことをおっしゃっているわけですけれども、さてその歯どめとか抑止力とかいうものは法務省原案公害罪でどの程度のことが国民は期待ができるか。この点ひとつ……。
  59. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 この法案は、先ほど来お述べになっております各行政法規の排出基準との関係では、直接理論的には関係がないわけでございます。この法案が定めております犯罪類型と申しますのは、「工場又は事業場における事業活動に伴って人の健康を害する物質を排出し、公衆生命又は身体に危険を生じさせた者」これを故意または過失でやれば処罰するということでございます。したがいまして、これは本来の排出基準というものとは理論的に無関係でございます。ただ、排出基準をつくられております物質につきましては、排出基準を守っておる限りにおいては犯罪は成立しないであろう、原則として成立しないであろうと申し上げておるのでありまして、排出基準を定められていない物質あるいは排出基準が定められておる物質につきましても、これをたいへん大量に排出いたしまして、この法案に定めておる状態をつくれば犯罪として処罰されるわけでございます。そういう意味におきまして、この法律自体として非常に意味を持っておるわけでございます。  私どもは、現下の公害の情勢にかんがみまして、公害関係の法規と相まちまして、この法案が成立することによりまして、公害の防止に大きく寄与するところがあろうと確信いたしておるところでございます。
  60. 沖本泰幸

    沖本委員 防止に大いに役立つということよりも、防止に役立つよう期待する、こういうことじゃないかと思うのです。根本におっしゃっておることは、先日来大臣も一お話しになっていらっしゃいますけれども、世界で初めての公害罪だ、こういう題名のとらえ方によって抑止力あるいは歯どめ役である、こういうお考えが成り立っていくのであって、いまもおっしゃっておるとおりに、理論的には排出基準とはつながらない、こういう御答弁でありますけれども、そういう点からいきますと、たとえばサリドマイドですね。これは基準をきしっと守ってあったのですけれども、アメリカとか西ドイツで大きな問題になって、それで日本でも問題になってきまして、先日は西ドイツのほうでは、企業もそれに対して責任を持たなければならない、こういうことでもありますし、世界じゅうが注目している訴訟が西ドイツでは係争中である、こういう関係から政府は、被害者に対して救済するために企業責任を持たなければならない、こういう法律を新たにつくったということが先日も報ぜられておりますけれども、このサリドマイドなんかは、明らかに政府のきめたところの基準を守った薬品であったということになるわけです。こういう点で、刑事局長さんのお話から伺いますと、十分に基準をきびしくしていくだろう、だからおそらく公害罪まで飛び込んでぐるほどのことはないのじゃないか、上へ公害罪を乗せておけばだいじょうぶだ、簡単に言えば、当たっていないかもわかりませんが、そういう観念でいるのじゃないか、こう思うのです。  きょうは各省の方を二、三お呼びしておりますので、現在の基準あるいはこれから各省公害基本法に基づいておきめになろうとしていらっしゃる基準で、はたして十分に規制できるかという点について、どの程度のものであるか、まず来ていらっしゃる経済企画庁と通産省のお方々に、その基準について、どの程度できるかおっしゃっていただきたいのです。
  61. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 ただいまの御説明のサリドマイドの問題は、これまた民事関係でございますし、それからこの法案犯罪は、工場または事業場における事業活動に伴って人の健康を害する物質を排出して危険な状態をつくったというのが、この法案犯罪の基本類型でございますから、いまの御指摘の問題は、この法案とは直接関係のないことを申し上げておきたいと存ずるのでございます。
  62. 山中正美

    ○山中説明員 お答えいたします。  現行法では一応環境基準をもとにいたしまして、それで排出規制をやっております。これは指定地域制をとっておりますが、御承知のとおり環境基準は本年の四月に閣議決定をされたわけでございますけれども、そのうち微量重金属に関するものは、現在水道法でとっております基準に大体準拠しております。逆に言いますと、微量重金属に関する限りは、現在水道のじゃ口の水と同じような水質を保つようにというような基準を考えております。それに合うように一応排出規制をやっておりますので、少なくとも現在の科学的な判断に関する限り万々間違いはないのじゃないかと考えております。  それから現在の、われわれ御審議いただいております水質汚濁防止法でございますけれども、これは指定地域を廃止いたしまして全国一律で規制しよう、こういうふうに考えておりますので、やはり間違いはないんじゃないか、一応こういうふうに考えております。  以上でございます。
  63. 根岸正男

    ○根岸説明員 お答え申し上げます。  ただいま、大気汚染防止法の関係につきましても、水質関係の規制と大体似たような形になっておりまして、現行法規では指定地域ということで、それぞれ地域ごとに排出基準を定めまして、硫黄酸化物でございますが、これは規制が行なわれておるわけでございます。今回の改正によりましては、一応硫黄酸化物につきましてはそのような体制を継承いたしますが、そのほかに、いままで規制の対象になっておりませんでしたいろいろな物質、あるいはガスあるいは重金属につきましても規制の対象として加えるということと、先ほどありました指定地域制を撤廃いたしまして、全国にそれがかかるようにするというような形で規制を実施してまいることになります。  それから、硫黄酸化物の排出基準につきましては、これはただいま排気関係で排出基準がきまっておりますのは硫黄酸化物にかかるもの、それから自動車から排出される一酸化炭素にかかわるものがきまっておりまして、硫黄酸化物につきましては、ただいま申し上げましたように、全国三十五地域、八段階に分けまして規制しておりますが、これも先ほど申し上げた今回の改正案によりまして全国すべてのところにかかるようになりますと、またあらためてただいまの基準をきびしくして改定強化するということにしておりますので、十分環境基準を達成できるものと考えております。
  64. 小泉孝夫

    ○小泉説明員 ただいまの排出基準に対する、どういう性格を持っておるか、その効果なりという御質問でございますが、直接水の基準をつくっております企画庁ないしは大気の基準の責任官庁であります通産省の御説明のとおりと思いますが、なお一般論としてふえんさせていただきますと、いわゆる排出基準と申しますものは、公害対策基本法第十条などにそのもとがございまして、それに基づきますと、「政府は、公害を防止するため、事業者等の遵守すべき基準を定める等により、大気の汚染又は水質の汚濁の原因となる物質の排出等に関する規制の措置を講じなければならない。」というような条文を受けまして、かつその前の条文の環境基準との関係その他も考慮いたしまして、それで排出基準の対象となります物質の性格、すなわち重合集積するか、または長期間蓄積するか、または即効性があるかというような一過性の問題、そういうことを全部配慮してやられておると思います。さらにまた、そのときどきの科学的な研究などに基づきまして改善されていくということも期待しておりますので、十分公害防止の効果をあげることができると考えておるわけでございます。
  65. 沖本泰幸

    沖本委員 いま伺っておりますと、刑事局長さんは、直接関係はないんだ、こういうふうに前置きはなさったわけでございますけれども、いまのお話ですと、全く公害はなくなってしまう、こういうふうな感じを受けるのですが、そうすると、いわゆる地方自治体に権限云々というようなことで大騒ぎするようなことはなくなると思うのです。一般的なものを引き出して申しわけないと思いますけれども、質は違うが、イギリスではスモッグがなくなった。これは天下周知の事実です。どういうふうにしたかというと、暖房用の石炭をたくからだ、これが一番根本になるということで、一切無煙炭以外はたいてはならぬ、こういうふうにきめて、一たんフランスに売り渡した無煙炭をイギリスは買い戻した。そういうことでガスストーブあるいはオイルストーブあるいは電気ストーブ、そういうふうな暖房器具以外、無煙炭以外はたいてはならぬ、こういうふうに政府がきめて、やっとスモッグがなくなった。こういう排出の内容、硫黄酸化物であるとか自動車の排気ガス、こういうことから出てくるいろいろな内容とはこれは違いますけれども、しかし、それほどに政府自体が力を入れなければ公害というものはなくならない、こういうことになるわけですけれども、その辺にまだまだあいまいさを十分感じるわけです。  ここで全部が集まっていろいろな論議をやればまたいろいろな対策が出てくると思いますけれども、各省の皆さん方は胸を張って、まずだいじょうぶだ、こういうことをおっしゃるわけですが、いまだんだんカドミウムに汚染されたお米が思わぬところからどんどん出てきておるわけです。思わぬところの水質が汚濁されておって、毎日の新聞を見ては国民は飛び上がっていっている。カドミウムに汚染された米なんかは、半年やそこらのものでそういうふうになったということは言えないわけですね。そういうふうな広い内容をいろいろ考えていきますと、各省が基準をきびしくしていくから公害罪で歯どめになっていくというような甘いものではないと思うのです。  そういうことですから、同じように基準どうりやっていくというなら、たとえが違うかもわかりませんけれども、車が時速五十キロ制限のところより三十キロ制限−市内ですが、二十五キロ、三十キロの制限の中を車は安全運転をやって、それ以下のスピードで走っているけれども、そこにおとなや子供が飛び出してきて交通事故にあっている。この場合はおそらく明らかに車のほうに責任の大をかけておるということは、これはもう刑事局長さん十分御存じのはずなんです。もう乗っていない、とまっている車にぶつかった場合以外を除いては車のほうにも責任を課して、明らかに裁判で車の運転者に対する、あるいは車の持ち主に対してきびしい刑事責任の判決が毎日のようにあるわけですけれども、そういう点から並べて考えていきますと、いまのやり方では甘過ぎるのじゃないか。そういうところに、「おそれのある」という問題を除いたという点に私たちは十分危惧を抱いているわけです。局長さんも連合審査のときに、確かに後退の面はあるということはお認めになっているわけです。こういう点で、ずいぶんこの現在の政府法律案そのものは、いろんな角度から考えても十分ではない、こういうことが言えるんじゃないかと思うのですが、刑事局長さんいかがですか。
  66. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 私、ただいまの御指摘につきまして、今回は、先ほども答弁がございましたが、大気及び水質関係につきましては、規制排出基準に違反して排出したものにつきまして直接罰則を加えるように、ただいま御審議中の法案で改正が企てられております。その面におきまして、第一次的にはこの規制の排出基準の定められております物質につきましては、その排出基準を越えた排出というものは一応処罰をされるわけでございます。そこで、そのことによって排出基準を守ってもらうという規制がかけられるわけでございます。  このいわゆる公害罪法案につきましては、これは理論的には排出基準とは無関係でございます。排出基準のないものにつきましてもこれは適用されるわけでございますが、何回も申し上げておりますように、この法案の定めております犯罪類型は、「工場又は事業場における事業活動に伴って人の健康を害する物質を排出し、公衆生命又は身体に危険を生じさせた者」を処罰するわけでございます。その場合には、もとより排出基準のあるものにつきましては、排出基準というものをたいへんオーバーして排出して、初めてこの状態が生ずるものであろうと思うのでございます。そういうような、単にちょっと排出基準を越えたというものとは違いまして、こういう状態をつくったというものはたいへんな一つ状態なんでございまして、これは一つの刑事犯的な評価ということで、刑事犯的性格を持たして処罰をしていこうというのがこの法案趣旨でございます。  それからもう一点、先ほど「おそれ」を取ったことによって後退したという御指摘でございましたけれども、私は先日の連合審査会議におきまして、御質問が具体的な例を御指摘になりまして、これはこの危険を生ぜしめた段階か、これは危険を及ぼすおそれのある状態かというような御質問がございましたから、その御設例に基づいて、この場合はこれだ、この場合はこれだというお答えをしたわけでございまして、それのみでございます。現在私どもは、昨日も答弁をいたしましたけれども、政府提案をいたしておりますこの法案は、「おそれ」が取れて、危険を生ぜしめたということに相なっておるわけでございますけれども、その理由一つといたしまして、ただいま申し上げましたように、排出基準を越えたものを、それだけで処罰するという一つの新しい法案がいま御審議されておるわけでございます。それが法律になりますと、排出基準違反という状態処罰ができることになるわけでございますから、これはいろいろ法律的なことばを申し上げて恐縮でございますが、この法案に定めるこういう危険な状態をずっと前の段階で一応押えるという効果が、このいわゆる直罰主義で出てくるわけでございます。さような意味におきまして、この政府提出案は危険を生ぜしめたということになっておりますが、これによりまして、本来この法案がねらっておった趣旨は十分に生かされておるというふうに考えておるわけでございます。
  67. 沖本泰幸

    沖本委員 ねらっておった趣旨が十分にかなえられたということよりも、ねらっておった趣旨をずっと後退させてかなえられた、こういうふうに受けとめておるわけでございます。その点につきまして、いままでの法律考え方としては、やはり原告、被告の原理に立って双方十分考えていかなければならぬ、こういうことが基準になっていろいろものごとは考えられるわけですけれども、そういうものを乗り越えて公害罪をつくった、こういう御答弁になるかもわかりませんけれども、現実の日本の状態というものを考えていきますときに、いまここで公害だけの国会を開いておるという大きな意味合いからも、被害を十分出さないようなことに持っていくためには、基準を設けられた、その基準が強化されていくという点に期待をしていく、こういうことよりも、むしろ、公害罪が出るのであれば、もう完全な歯どめになって、十分な効果をこの公害罪から生み出していくというふうな方向で、せっかくつくったのですから、あるべきだ、私はかように考えるわけです。先ほど例に引きました交通問題にいたしましても、初めの法律からだんだんその状態に応じて法律が変えられていっておりますけれども、現実に交通遺児なり何なりは、いま社会の谷底で苦しんでおる、あるいは交通事故の被害者は、そのまま日の目を見ないような生活状態におちいっておる。そういうことで強制賠償法も変えなければならないし、そういうものに対して、もっと賠償のあり方あるいはその認定についても変えていかなければならないというのが、弁護士さん方の大きな意見です。そういうことも考えていきますと、この公害罪によって実質的な法律が効果を生み出していくような事態になったときに、また新たな問題を生み出して、そこに国民被害者が大ぜい出てくるということであっては絶対にならない。だから、この際、十分に国民が安心して自分の健康と文化に富んだ生活が楽しめるような法律であるべきだ、こういうふうに考えられます。  もう時間も参りましたので、その点をさらに検討していただいて、最後までもう一度法律を見直していただく、こういう方向でお考えになっていただきたいことを要望いたしまして、一応質問を終わらしていただきます。
  68. 高橋英吉

    高橋委員長 この際、午後一時三十分より再開することとし、暫時休憩いたします。    午後零時十九分休憩      ————◇—————    午後一時三十二分開議
  69. 福永健司

    ○福永(健)委員長代理 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。青柳盛雄君。
  70. 青柳盛雄

    ○青柳委員 このいわゆる公害罪、正確に言えば、人の健康に係る公害犯罪処罰に関する法律案ですが、これを設けた趣旨は、第一条に、一応目的として掲げられているわけですけれども、これの基本になるのは、やはり公害対策基本法の条文にあると思うのです。それは、第三条に、「事業者の責務」というところがありまして、事業者は、公害防止のために必要な措置をとる責任、あるいは「国又は地方公共団体が実施する公害の防止に関する施策に協力する責務」そういうものがある。そういう点で、あくまでも本法案事業者責任を明らかにする、そして刑事犯として事業者犯罪行為を取り締まるというたてまえだと思うのですが、その点は間違いありませんか。
  71. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 この法律の目的は、ただいま御指摘のとおり、この法案の第一条にございますように、「事業活動に伴って人の健康に係る公害を生じさせる行為等を処罰することにより、公害の防止に関する他の法令に基づく規制と相まって人の健康に係る公害の防止に資する」ということでございまして、その内容につきましても、二条、三条に定める基本的な行為類型を故意または過失をもって犯したという者を処罰する、こういう趣旨でございます。
  72. 青柳盛雄

    ○青柳委員 それは、刑法の類型の中で言えば、一種の身分といいますか、地位に基づく犯罪であろうと思うのであります。要するに事業活動をしていない者について、この法律は何ら対象にしていない。あくまでも「事業活動に伴って」という文字でも明らかなとおり、事業活動以外のことで、人の生命身体に有害な物質を排出するというようなことが、仮定的にあり得るとしても、それは問題にならないことは、提案理由の中にもありました。たとえば家庭での汚水の排出などについては問題にならないということは、もう言われておりますから、だからあくまでも一事業活動というところに重点があるので、事業活動をする人に対する刑事責任である。社会的な地位、もつと言えば、弁護士とか医者とか人夫とかいう意味の身分に類するものではないかと思うのです。そうだとしますと、第二条の主文といいますか、だれが犯人になる可能性を持っているのかというようなところは、まあ法律の条文はこれで完結しているのだといえばわからないことはないのですけれども、もっとわかりやすくするならば、工場または事業場における事業活動を行なう者というふうに主体をはっきりさして、そういう者が事業活動に伴って人の健康を害する物質を云々として、そして公共危険罪、危険を生ぜしめたときにはこれこれという罪だというふうにすれば非常にわかりがいいと思うのです。そうしませんと、この活動に伴って人の健康を害する物質を排出したといえば、いかにも現場の労働者のような者の責任が頭に映ってくるわけです。あとのほうからも行為者という概念が出てきておりますけれども、行為の概念がきわめて卑近なものというか、目に見えるようなものを頭に置く危険性があると思うのです。昨日の他の委員質問もその点について触れておりましたけれども、事業を実施し、決定し、これを執行する最高の責任者、そういう者は実は行為者ではないのか。事業活動がいろいろの人によって総合的に行なわれることは間違いありませんけれども、少なくともあるところにこういう工場を設けて、そこでどういう生産を行ない、どういう排出物を排出するかというようなことも含むところの事業活動をやるということを決定し、またそれに必要な費用をかけ、工場を設置し、運営していくという者は、これは会社の場合であればやはり会社の首脳部が最高の責任者であるし、個人であればその事業主が最高の責任者であると思うのです。だから二条というのは、そこのところをあいまいにするような表現になってはいないか。どうも四条の両罰規定などと照らし合わせていくと、行為者というものと事業者というものとを何か分けて、そして行為者というのは大体事業者に使われている人間か何かであって、そして事業者はそれから利益を受ける関係があるから両罰なんだ、責任もあるから両罰なんだ、当の行為者には当たらないというような誤解を招くおそれはないだろうか、その点いかがでしょうか。
  73. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 ただいまの御指摘につきまして、まずこの法案の行為類型でございますが、この点は、御指摘のとおり事業活動に伴って有害物質を排出するというわけでございますから、事業活動に伴わないものはこの法案対象にならないという点は、事業活動に伴うという点では御指摘のとおりでございます。  次に、それならば事業を行なう者というものを処罰対象にすべきではないかという御指摘でございますけれども、これは行為者につきまして刑事責任を負わすためには、行為者について故意または過失がなければならないというのが近代刑事法の大原則であることは、御案内のとおりでございます。そういたしますと、いま御指摘のように、かりに事業を行なう者というものだけに限ってしまいました場合には、やはり事業を行なう者そのものが行為者として故意過失をもって排出したという場合にだけしか刑事責任というものは生じてこないということに相なるわけだろうと思うのでございます。またさらに、これまた御案内のとおり、現在のわが国の刑法理論におきましては、法人に犯罪能力というものも認めておりません。そういうような現在の刑法理論のもとにおきまして、この法律の目的に定められているような趣旨の刑罰法規をつくるということに相なりましたとすれば、やはりこの第二条に考えておりますように、事業活動に伴って人の健康を害する物質を排出した者を行為者として処罰する、そういたしまして、また現下わが国でたくさん行なわれております、用いられております法技術としての両罰規定の方式をかりてその事業者処罰するということが、最も妥当であり、適切であろう、こう考えてこの法案を立案した次第でございます。
  74. 青柳盛雄

    ○青柳委員 もちろん私は、事業を行なう者というものを法人または特定の個人というふうに限局するように解釈していいという意味ではないのです。しかし、最初に申し上げましたとおり、基本法のほうの第三条で事業者という概念を一つ設けて、そしてその責務を明らかにしている。これは貫かれなければならないと思うのです。だから、今度刑罰の場合になってくると、何か事業者以外の者に責任を転嫁する。たとえば基準違反あるいは命令違反など、他の法令によって罰せられる人が一体だれなんだ。届け出をした者に対して都道府県知事が一定の命令を出す、その命令に従わないときには懲役六カ月というような体刑が出ているのですが、それでは届け出をした者というのは排出をする者、排出をする者というのは会社じゃないか、では届け出をするのは会社なのか。その届け出た会社に命令が出た、会社が違反した、それに体刑を加える、こういうわけにいかないから、結局届け出義務者というものは会社そのものではなくて、会社の中のだれか一人ということになってくる。自然人というものはそこに体刑を前提とする限りは当然あるわけですから、そこで私どもは、いま言われたとおり、法人に体刑を科するということができないのはもうわかり切った話ですから、法人に体刑を科するということでなしに、法人の最高の責任者が罪を免れてしまうというような形になったんでは、これはかえ玉のようなものであって、結局は大企業というのは、そうしてその幹部の人たちは、公害罪などという規定が幾らあっても直接的には驚かない。両罰規定罰金を五百万円科されたところで、それは会社の利益の中から払えばいいのであって、重役の個人的責任にはならないわけです。  したがって、この事業者責任というものを明らかにするのには、法文上何かそこに免れないような、そういう人が届け出義務者とか、たとえば考えられるところは保安のための管理者とかというようなものを設けておいて、そこが歩どまりだ、それ以上は及んでこないというような安全弁がこの法律自体の中にあるとするならば、これはやはりざる法といわれる結果になるんじゃなかろうか。大体この公害の王さまになっているのは大企業であることはもう常識なんであります。この大企業の幹部は、道義責任くらいは負う場合もありましょうけれども、別に刑事罰の対象にはまずならないというようなことになってしまったんでは、これはこの法案趣旨が貫かれていないことになると思うのですが、この点はいかがでしょうか。
  75. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 先ほども申し上げましたが、およそ犯罪が成立いたしますためには、行為者につきまして故意または過失を必要とするというのが近代刑法の大原則でございます。で、刑事という観点からいけば、やはりその故意または過失のある行為者というものを対象としなければならないという大きなワクがまず前提にあるわけでございます。ただいま御指摘のように、ある物質なら物質の管理責任者をきめて、管理責任者を処罰したらいいじゃないかというようなことにつきましては、行政上の規制の面におきまして、一つの行政上の義務を負わすというような面におきましては、たいへん有効な手段であり得る場合もあろうかと思うのでございますけれども、事この刑事問題として考えます場合には、やはりその行為者について故意過失がなければならないという大原則がございますから、その面からまず行為者をとらえて、あと必要に応じて刑事責任を両罰規定なら両罰規定という形で、その事業主のほうに刑事責任を課していくという手段をとらざるを得ないわけでございます。
  76. 青柳盛雄

    ○青柳委員 故意過失が前提であることがいまの法体系だということについては、私もいまのところ異論を差しはさむわけではありませんけれども、問題は、行為者という概念が決して実行行為者というものにとどまらないことだけは、もう判例からも法理論上も明白であります。したがって、排出行為者にそういう故意過失があって排出行為をするわけですけれども、それに加担した、意思共通した者、いわゆる共犯者ですね、そういうものの存在は当然排除してないと思うわけで、その点、昨日、どういう人が予想されるかというと、まず工場長でございます、あとは工場の幹部などであるという答弁でしたけれども、その工場を施設している会社の首脳部、社長、そういう人たちのことが頭に浮かんでこなかったというところに問題があるんじゃないかというふうに思うのですが、いかがですか。
  77. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 この点につきましては、昨日当委員会において私お答えしたところでございます。これはこの法案にございます「工場又は事業場における事業活動に伴って人の健康を害する物質を排出」した者がこの行為者でございます。この行為者に何ぴとが当たるかという問題につきましては、もとより具体的な事実関係、事案の関係によって異なってまいるわけでございますが、一般には工場長その他これに準ずる地位にある者、工場または事業場における事業活動、特に排出に関する義務について何らかの責任立場にある者がこれに当たることが一般的には多いであろうということを申し上げたわけでございまして、あと具体的事案に応じて、この行為者を認定するにあたりましては、一般の共犯理論なら共犯理論によりましてこの行為者の範囲というものがおのずからきまってくるのであろうと思うのでございます。これは具体的事案によるものであろうと存じます。
  78. 青柳盛雄

    ○青柳委員 まあ偶然的な形で公害罪に該当するような排出を行なうということを予想すれば、いまの限界で大体常識的であろうと思うのですけれども、大体施設が非常に不備であるとかあるいは作業の工程が非科学的であるとか、あるいは生産を上げることにのみ重点を置いて公害防止の施設を行なうことを回避するというような、一般的な公害の原因はもうおおむねそこに帰するわけですけれども、そういうのは工場長の責任などよりももっと前の、その企業を企画し、実施し、工場をつくり工場長を配置し、そして作業を行なうその事業者、すなわち事業者の決定に基づくものじゃないか。そこのところを抜いて、そして極端な場合には下部の労働者などを目のかたきにして、この罪で逮捕するとか裁判にかけるというようなことになったのでは、これはもう本末転倒にならざるを得ないし、それで公害がなくなるものでは絶対にないと思うわけです。そこのところが一般世間でも非常に危惧しているところだと思うのです。というのは、言うまでもなく財界からの圧力で云々ということがいわれている。財界というのは別なことばで言えば大企業家の集まりなんですから、そのほうの人たちからの圧力で法案内容が変わってくるというようないまの政治姿勢のもとでは、これは警察、検察庁といえども、おそらく大企業、財界のほうには手を伸ばしていかないだろう、またそういう趣旨でこの法律はつくられているのではなかろうかという、そういう疑いを持つのにも合理的根拠がないとはいえないと思うのです。そこのところを明確にしておく必要があると私は考えるのですが、いかがでしょうか。
  79. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 この法案立案の趣旨は、先ほど申し上げましたように、この法案の第一条に掲げております目的、これを達成するために規定されたものでございます。  それから、先ほど御指摘の末端の、下部の従業者等が処罰されるのではないかという点でございますが、この点につきましても、昨日お答え申し上げましたように、もとより具体的事案によって決せられるわけでございますけれども、単に上司の命令に従って一つの行為をしたというような末端の従業者は、責任者の道具として有害物質を排出したというふうに見るべきことは当然でございます。たまたまその当該末端の従業者がバルブを締め忘れたとか、そういうようなことのある場合は格別、通常上司の命令に従ってこの排出行為を行なったというような場合には、むしろこれは当たらないということは昨日もお答え申し上げたとおりでございます。
  80. 青柳盛雄

    ○青柳委員 同じ問題を押し問答していてもしようがありませんが、いわゆる複合公害といいますか集合公害といいますか、ことばは必ずしも適切かどうかは存じませんけれども、排出するものが複数であって、そしていずれも単独で健康を害する程度に云々というこの五条の推定の場合はこれは問題はありませんけれども、いずれも単独では因果関係ありとはいえない、しかしこれが集まってくると、結果的にはそれらが協力し合う形で有害な危険が生じてきているという場合をこの法律では対象にしていない。これは、この法律をつくって自然犯あるいは刑事犯として不道徳なものだということを国民の中に植えつけて、そして自粛自戒させることによって公害の防止に役立てようという目的だそうでございますけれども、その複合的な公害が、この法律によっては少なくとも刑罰ではどうしようもないんだ、その点では完全にお手あげだということでは、どうも知恵のない話といいますか、せっかくつくる大義名分からいえば、ほんとうにざるだ。要するにスモッグが出て、そしてそれも多くの煙突からのばい煙などによって、場合によれば自動車の排気というのもあるでしょうけれども、いずれにしてもそういうものが複合して、そしてスモッグがぜんそくの原因になるとか、極端な場合にはオキシダントで光化学スモッグになり、あるいは硫酸ミストで非常に健康を害するというようなことになるのを防ぐのにはこれは無関係であるということだとすると、これはおかしいのだけれども、その点について、この法案をつくるときに、最初からもうこれはお手あげだという前提でつくったのですか。いかがですか。
  81. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 多数の工場または事業場からそれぞれ他と無関係に有害物質を排出いたしまして、その各工場ごとの有害物質の排出量のみでは公衆生命または身体に危険を生じさせる状態にはならないが、しかしながら、それら数多くのものが一緒になると、その結果として公衆生命または身体に危険を生ぜしめる場合、こういう場合を私どもは一応、いま御指摘になりました複合形態の公害というふうに申しておるわけでございます。これを処罰対象にするかどうかという問題につきましても、事務的な立案の過程におきましてはいろいろと検討を重ねたことはもちろんでございます。しかしながら、こういう形の公害につきましては、結果的に「公衆生命又は身体に危険を生じさせた」状態というものをつくり出すに寄与した度合いというものが、それぞれの工場事業場によって違うわけでございます。極端に違う場合もございましょうし、いろいろな度合いによって違ってくるわけでございます。そういうものを一律に、みな合わせればこういう状態をつくったからということで、この法案処罰対象にすることは、刑罰の不均衡を来たすのじゃなかろうかという観点から、この複合形態というものは、まず原則としてはこの犯罪対象にならないということにせざるを得ないという結論に達したわけでございます。そして、そのようなものこそまさしく行政規制によって公害が惹起されないように予防を期すべきものであるというふうに考えた次第でございます。
  82. 青柳盛雄

    ○青柳委員 昨日ある委員から質問があったときに、私一部だけ聞いたのですけれども、答えがなかったように思うのですが、それは、複数の排出物を出している工場があって、そしてこれは仮定の質問のようでしたけれども、まあかりに五つの工場から排出が行なわれている。その一つ一つをとってみると、排出基準には適合している。しかし、それが全部集まった段階においてはすでに有害物質として危険を生ぜしめる状態が客観的に出ているという場合に、これは仮定の議論ですけれども、第五番目の工場が、一番目から四番まで出されているのに自分のが加わればこれは有害に転化するということを知りながらあえてやったような場合はどうだ。ちょうど自動車の駐車禁止の場合、幅に三・五メートルの余地を残さなければ停車してはいけないという規制がある。先にとまっているのにその反対側へ来て駐車すれば、当然どちらの自動車にとっても三・五メートルのあきはなくなってしまうわけで、この場合、先にとまったほうは反則ではないけれども、あとから来て反  対側にとまった車のほうに反則が行なわれるという解釈も成り立つと思うのですが、それと同じように、すでに危険な状態がもう一歩というところで出つつあるということを認識しながら、なおかつやったという場合はどうだ、こういう、私ずいぶん長く説明しましたけれども、そういう御趣旨質問ではなかったかと思うのですけれども、こういうものも本件では問題にしないつもりでおられるわけですか。
  83. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 この法案の二条、三条の犯罪でございますが、これは一人で有害物質を排出して、一人で「公衆生命又は身体に危険を生じさせた」と評価できるもの、これを処罰対象にいたしておるわけでございます。ただいま御設例の場合に、四つの工場があった。その四つの工場の排出だけでは生命身体に危険を生ずる状態には至っていない。そこへ、あとから一つ五つ目が来て、五つ目が排出することによって危険な状態になったという場合でございますが、その場合に第五番目のあとから来た人、この人のあとから少し出した行為、その行為が、この一人で公衆生命身体に危険を生じさせた、そういう状態をつくったかというふうに刑法的に評価できるかという問題になると思うのでございますが、そういたしますと、先に四つあって、あとから一つのものが加わって越えたという場合に、通例の場合にはあとからの一つのもの、その人がその人の行為で公衆生命身体に危険を生ぜしめたというふうには、これは評価できないのが通例であろう、こういうふうに考えておるわけでございまして、そういう意味におきまして、この五番目の人は処罰対象にならないのが通例であるというふうに申し上げた次第でございます。
  84. 青柳盛雄

    ○青柳委員 まあ、不公平であるということに帰するのかもしれませんけれども、問題は行政によってそれは解決する以外ないのだ、そこまではもう刑事罰の対象に入れるわけにはいかないのだということも一理あるようにも考えられるのですけれども、要は、これで公害の発生を防止するという点だけを考えてみれば、何か単に行政にまかせるというだけでなくて、やはり刑法犯として相当責任者を処罰対象にできるということは考えられていいのじゃないか。  そこで、私は考えるのですけれども、排出基準は環境基準というものを前提に置いて、安全性を見て個々の排出基準というのをきめるのだということが、もう前から刑事局長から相当くどく説明されてきておりますけれども、その環境基準というものが侵されるような状況になったときには、一斉にその排出をやめるべきである。個々的にやる場合の基準に基づく排出ならばよろしいというのではなくて、一斉にやめるべきである。たとえばスモッグ警報が発せられるような状況、これは環境を害する状況ですから、そういうときには環境基準に基づいて個々の事業場工場に対して排出を禁止するというようなことが行政措置としてとられると思うのですが、そういうものがあってなおかつ排出をあえてする、それは基準以内のものであっても、そういうものはやはり危険が発生した場合には有責者としてとがめられるべきものではないかというふうにも考えられるのでありますが、いかがですか。
  85. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 ただいま御指摘のとおり、緊急時の措置として行政法規に規定されておる場合もあるわけでございます。しかしながら、本法案犯罪の成立は、あくまでも、先ほどから何回も繰り返して申し上げておりますように、一人の行為で公衆生命または身体に危険を生ぜしめたという評価ができるという場合にこの対象になるということでございます。これは具体的事案によると思うのでございますけれども、私どもの現在の本来の考えは、一人でこれだけの状態をつくったと認められる限り積極ということでございまして、あとは具体的な事案いかんによるというふうに考えております。
  86. 青柳盛雄

    ○青柳委員 いままでの御答弁で大体——何も私が要約するまでもないと思うのですが、要するに、これは一つ工場または事業場の排出行為というものを前提にしているのであって、複数の場合はどれがどういうふうに寄与しているかということがよくわからないから、一つだけでなお危険の発生する場合に限るのだ、そういう趣旨ですね。
  87. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 その趣旨でございます。そういたしまして、その基本におきまして、あとは刑法の共犯理論が働く場合には、また共犯理論で解決されていくという場合もございます。
  88. 青柳盛雄

    ○青柳委員 共犯理論というのは、その工場または事業場における事業活動を行なう者が複数であるという場合の共犯理論であろうと私は思うのでありまして、他の工場の排出と相まって危険が生ずるという意味は毛頭考えていないのだ、あくまでも、危険の度合いは違いましょう、単独で、それ独自でも危険を発生するようなものが二つ以上そろって、それもそろって危険なことをやれば、危険の度合いはうんと進むとは思いますけれども、あくまでも危険が発生するというのは、単独の工場または事業場事業活動に基づく排出であるということに貫かれているということではございませんか。
  89. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 基本はそのとおりでございますが、それを前提にして一般の共犯理論は働いてまいりますということでございます。
  90. 青柳盛雄

    ○青柳委員 ちょっとその辺のところは、もう少し説明をいただかないと、一般の共犯理論が、いずれも一つだけでは危険を発生できない場合ではあるけれども、お互いに共謀して——自分のところだけ単独では危険を発生しない、しかし、あなたのところがやれば合わさって危険になるというときに、いろいろ共通してやった場合をも想定するということであるのかどうか、その点いかがですか。
  91. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 私が申し上げておりますのは、共犯理論の適用はあるわけでございますから、その共犯といえば御案内のとおり、共犯すべての行為が一人の行為として評価できる場合という意味でございます。そういうことは実際の事例としては希有なことであろうと存じますけれども、甲工場と乙工場とがお互いに意思相通じて、しかもそういう危険な状態が発生することも認識して、いわゆる刑法の共犯理論が適用されるそういう状態でそれぞれ有害物質を排出した、その結果、この危険な状態を生ぜしめたということになれば、甲工場も乙工場処罰対象になる、こういう意味でございます。
  92. 青柳盛雄

    ○青柳委員 そこで、次の質問に移ります。  第二条で、「危険を及ぼすおそれのある状態」という文言が削られたために、要するに危険の状態というか、犯罪の既遂状態というものが、犯罪の構成要件が少し変わったのではないだろうかという疑問も相当詳しく出されました。これは率直に言って、確かに構成要件は変わったといわざるを得ないと思うのですけれども、それにしても、「公衆生命又は身体に危険」というようなことばは、公衆というのは不特定多数という意味だろうから、その点は公衆でもいいですけれども、「生命又は身体に危険」というふうにいいますと、身体に危険とは一体何だということにもなりますので、これを正確に理解するのには、己生命または健康に害を及ぼす危険というような、健康という意味ではなかろうかというふうに思うのですが、そう理解してもよろしいわけですか。
  93. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 御案内のとおり、現行刑法のガス漏出罪には、この場合はたしか財産もあったと思いますけれども、生命身体に危険を生じさせるという、このことばが使われておるわけでございます。私どもは、それと同じ解釈をとっておるわけでございます。
  94. 青柳盛雄

    ○青柳委員 要するに「身体に危険」というのは、健康を害する、何か発病するとかいうほど厳格なものではなくて、どうも健康体でないという状態をも危険ということで、そういう状態を生ずるような結果がおそれられるときが危険、こういうことでいいわけですね。
  95. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 生命身体に対する危険でございますが、この身体に対する危険といいます場合には、健康と同意味であろうと思います。そしてこの危険と申しますのは、そういう身体生命に対する一つの侵害に対する可能性、これを危険というふうに考えております。
  96. 青柳盛雄

    ○青柳委員 昨日藤木教授の説が引用されたときには、それは緊急性をいっているのであって、可能性さえあればいいのであって、切迫してなくてもよろしいということでしたが、まさに私もそれでなければならないと思うのです。そうなると、「危険」という概念は、もつと広げれば「危険を及ぼすおそれのある状態」というものとの区別はないともいえるし、あるともいえるような感じがするので、それを設例によって、プランクトンの段階ではまだ危険とはいえない、しかし、「危険を及ぼすおそれのある状態」というのはプランクトンも入るのだ、こういう解釈というのはどこから出てくるのでしょうか。
  97. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 魚とプランクトンの例がしばしば出て恐縮なんでございますが、この例を申し上げますときには、一つの前提条件をいつも申し上げておるわけでございます。  相当多量の有害物質が排出されて、その排出によって魚が汚染され、そうして、その魚を常食する人にとって、その人の生命身体に危険を生ぜしめる、そういうだけの量が最初出されており、かつその人が常食をしておるというようなことを前提にして申し上げていることを御了承願いたいと思うのでありますが、その場合に、魚とプランクトンというところで一応の例を申し上げたわけでございますけれども、これが、ただいま御指摘のように、プランクトンが汚染されれば必ず魚にすっと汚染され、魚から人間のほうにすっと汚染されるといいますか、この可能性というものがずっと続いていくということであれば、それは御指摘のように可能性の一つ範囲の問題であろうと思うのでございます。  しかしながら、プランクトンの汚染と魚の汚染という間と、それから魚と人間の汚染という間に、そういうように一線的にずっと可能性がつながってくるかどうかが問題なのでございます。プランクトン−魚、魚−人間というふうに、一線に、それがストレートに可能性として連なっておるならば、これはプランクトンの段階でもあるいは可能性はあるということがいえるかとも思うのでございますけれども、必ずしも事案はそういうものではないようでございます。そこに一つの切れ目があるということに相なろうかと考えまして、私はこの前申し上げたような設例をいたした次第でございます。
  98. 青柳盛雄

    ○青柳委員 どうも可能性が直通ではない、その間に中断もありそうだ、あるいは緊急性ということばは要らないというお話でしたけれども、必ずしも緊急でもなさそうだ、プランクトンの段階ではあまり緊急ではない、魚になれば緊急だというふうにもとれるような感じがする。いずれにしても、この危険という概念が犯罪構成要件としては非常にあいまいであって、これは、財界のほうで反対する法律論的な根拠は、犯罪構成要件がきわめてあいまいであるから、どこまで飛んでいくか。拡張解釈なんで、罪刑法定主義に反するのではないかという議論であろうかと思うのですけれども、それはまた反面からいえば、そういうあいまいな概念規定を設けておいて、解釈がプランクトンか魚かというようなところまでまちまちになるというようなことであれば、現実問題としてはこれは発動する余地が非常に少なくなるんではなかろうか。またしたがって、住民のほうでもこれは公害罪であるという被害者側のほうからの主張というようなものも、いやまだ危険が出ているとはいえないというような形で、結局被害者が現実にあらわれないうちは不問に付される。幾らこういう危険なことをやめてくれ、犯罪ではないかというようなことで告訴したり告発しても、問題にされないというような結果に現実的にはなるんではないか。だから財界でおそれるのも一理あるけれども、実はざるであって、別に財界でそんなに驚くことはない。現実にはなかなかこれで打たれるような心配はないというような結果におちいる。そういうような点で、もう少しこのところを明確にしていく必要があるんじゃないか。そういう意味では「危険を及ばすおそれのある状態」というような文字もむだではない。やはりあったほうがもっと抜け道を防ぐのに役立つんではないかというふうに考えられるがいかがでしょう。
  99. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 この危険を生ぜしめるということばにつきましては、先ほども申し上げましたように、現行刑法のガス漏出罪でありますとか、往来危険罪でありますとかという犯罪に用いられていることばでございまして、長年の運用の結果この危険という概念は一つの固まった概念になっておると思うのでございます。その概念を援用いたしまして、私はいまの御設例の場合、魚の汚染で、人間が通常食っておるという場合、通常の頻度で食べれば人間も汚染されていくというような状態で、魚が汚染されておるならば、これは生命身体に対する危険という中に該当するということになろうと存ずるのでございます。
  100. 青柳盛雄

    ○青柳委員 公害というのは別なことばでいうと緩慢な殺人だ。相当長期にわたる排出によって徐々に人の生命、健康がそこなわれていくというのが現実なんですね。それだけで直ちに死傷を来たすような緊迫した状態というのは普通は起こらない。土壌にしみ込んで、イタイイタイ病のような米がつくられてくるというような、相当長期にわたる排出が結果的にはそうなってくるというだけに、危険という概念によって防止するということのためには、よほど危険というものの構成要件としての概念をこの場合には——いままでガスやほかのものにあるといっても、ガスなどというものはきわめて劇薬同様で、緩慢ではなしにたちまち生命身体に危害を及ぼすわけですから、そういうものがあるからそれを類推してやってもらえばいいんだというんでは、これは緩慢な状況の中で公害を発生せしむるというものを、公害が人体を傷つけるに至る以前において防止するというのには、もっとこれは積極的な新しい概念を取り入れていくべきではないかというふうに私は考えます。  そういう意味で、この法律は一見、大臣に言わせると、まず発車してだんだんまずいところは改良していけばいいんだというお話でございますけれども、発車してもこれではほとんど効果はあがらないのではないか。最初に申し上げましたとおり、複合的な公害には適用されない。またこの危険の概念もきわめてあいまいもことしている。緩慢なるものについて、たとえば「蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質を含む。」、というようなカッコつきのものを有害物質の特徴の中に入れているということ、これは悪いことじゃないと思いますけれども、この程度ではまだ危険ということについての概念が不明確であり、したがって、それは罪刑法定主義にも反するかもしれないけれども、同時に、その結果として実効を果たすようにこれを運用することは困難であろうということを私は指摘したいと思うのであります。  それから、もう一つ私は申し上げたいのですけれども、たとえばこういう罪がつくられたという場合に、警察庁なり検察庁なりがどれだけの積極性をもってこれに対処されるのかという点でございますけれども、これについては昨日の質問などに対しては、それぞれ担当者に教育をするという話、裁判所の裁判官に対してまでそういう研修をやるというようなことを言って、単なる法律技術でなしに自然科学者の知識をも一応身につけさせるというような、そういう用意はあるんだし、またその予算措置もあるんだというお話ですけれども、それはそれで、ないよりはいいと思います。しかし問題は、これがほんとうに社会問題として摘発されていくという保証を与えるためには、私どもは一つの構想として、地方自治体あたりに公選の公害対策委員会のようなものを行政委員として設けて、それにいろいろの権限とともにこういうものを摘発していく権限を与える。そしてこういうものが権威をもって摘発した場合に検察庁がこれを不起訴にするというような場合には、裁判所に準起訴手続、起訴強制手続を求める。ちょうど公務員の陵虐罪、涜職罪に当たる場合ですね、人権じゅうりんなんかに対して告訴し告発した場合に、同じ穴のムジナということばは悪いですけれども、どうも検察庁はそういうのはかばってしまう。その場合には裁判所に起訴をしてもらうように手続ができるというようなものがなければ、これは制度的な保障にならないんじゃないかということを考えるのですが、こういうことは考えたことはございませんか。
  101. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 この法案規定するものが犯罪として成立いたしました場合に、これは検察庁はじめ警察等の捜査官は、他の一般の場合と同様に厳正公平に、しかも特にこの種の事案は迅速という点を旨として法の運用をしてまいると存ずるのでございます。ただいま御提案の準起訴手続云々というような点につきましては、私どもはその必要性はないと考えておる次第でございます。
  102. 青柳盛雄

    ○青柳委員 法務省当局としては自分の権威にもかかわることで、自分たちは公正妥当にやっているんだから、裁判所のごやっかいになってまた起訴してもらうなんという不面目なことは考える余地はないと言われるのも、立場上そういうこともありそうなんだと思いますけれども、少なくとも私ども民間の者の立場から考えると、あまり信用できないんじゃないか。というのは、この公害法案の成立の過程——まだ成立したわけじゃありませんけれども、案として出されるまでの過程などを見ても、いろいろの方面からの圧力がかかってくるというような状況の中で、検察庁だけがあるいは警察だけが無傷である、全然そういう圧力と無関係に独自にやれるということについて、一般の人は全幅の信頼を寄せているとは私どもは思いません。だから私どもは、その一般の人の要望に沿おうとすれば、そういうことをつくる必要があるというふうに主張いたしたいと思うのであります。  結論的に申しますと、これは新しい試みとしてこういう公害罪というものをつくられたのですけれども一、実は逆効果を来たしている面があるのじゃないかということをおそれるわけです。それは、たとえば水質汚濁の水質基準に対する違反を、最初の原案では、懲役は三年以下、罰金も三十万円以下にしたのを、これは行政罰だからということで他の法律との均衡をとったのだろうと思いますけれども、六月以下の懲役、または十万円以下の罰金、こういうふうに行政罰のほうは、行政犯的な刑のほうは軽くしてしまった。実際私どもは公害罪などというもので防止するなどというのは実は下の下であって、その以前に行政を徹底的に行なう、そしてその行政に違反するような企業責任は徹底的に制裁をもって臨む。それは操業停止とかいうような、その企業自体の活動を停止させるというようなやり方もあるでしょう。と同時に、それだけでは済まないで、刑罰も重くするということによって、未然にその辺のところで防止するということが一番理想だと思うのです。ところが、こちらのほうにこういう公害罪ということがあるのだから、それとの均衡というようなことを含めて、行政的な犯罪の刑を軽くしてやる。幾ら重いのでも一年ぐらいしかない。これでは本末転倒ではないか。むしろ私どもはこういう公害罪をつくって、これで目玉のようにして、政府も相当公害には力こぶを入れている、その証拠には公害罪をつくったというようなことで、個々の規制法における刑罰を軽くしているというようなことは、これはごまかしだといわれても言いのがれはできないのじゃないかというふうに考えるのです。大臣、この点いかがでございますか。
  103. 小林武治

    ○小林国務大臣 皆さんがどういうふうに見るか、これはおのおの自由なことでありまして、あなたのように疑ってかかる結果、そういうふうな前提でごらんになる方は、これはまあ御自由でありますが、私どもがこの法律の準備の過程におきまして、どこからもこれについての圧力とか注意とかいうものは受けておりません。これは私が率直に申し上げておきます。われわれのほうが純司法的な立場において、これを検討してまいったということは、もうはっきり申し上げられるのでございます。  それで、いまお話しのように、何も行政刑罰にしましても、これがあるからどうこうなんということをやったことはございません。それぞれのお立場においておつくりになった、こういうことでございます。私は初めから申し上げておるように、この法律が前面に押し出されるなんということは、この公害国会としては不適当だ、すなわちこの国会というものは公害をなくそう、公害の発生をさせない、こういうことが一番眼目で審議を進められるべきものであって、この法律は初めから第二次的の補完的な意味を持っているのだ、最後の終末処理にすぎないのだ、こういうことを私は本会議等においてもはっきり申し上げておるのでありまして、これの受け持つ守備範囲というものは、おのずから初めからきまっておるのです。行政の過程において、公害を発生させないための手段というものはそれぞれの省庁において最善を尽くす、こういうことは当然なことであって、その上に立ってしかもなおこういうことが行なわれればやむを得ない、こういうふうな考え方をいたしておるのでございます。これはもう数日来のお話で、こういう点がないじゃないか、ああいう点がないじゃないか、これは私どもはっきり、こういう点は不十分であります、これは続いて検討すべき問題である、こういうふうに申し上げておるのでありまして、私どもは現在の時点ではこれが最善の案である、これから先のことはわれわれはまたそれの情勢において検討していく、こういうことを私どもはすなおと申しますか、謙虚に申し上げておるのでありまして、これはこれもあれもみんな含んでおりますなどと私は申しておりません。とにかくこれを発車——発車ということばをきのう使いましたが、させることは、公害問題全体について企業者の反省とか自粛ということを求める上において非常に効果的な手段である、こういうことで出ておるのでございまして、いまはこれが一番いい。しかし、これから先この法律の運用もありましょうし、公害の態様もいろいろ変わってくるでありましょうし、これは何も固定したことで考える必要はない。とにかくこれでも非常な有効な手段になるからこういうものを御相談申し上げておる、こういうことでございます。
  104. 青柳盛雄

    ○青柳委員 簡単に最後に一言だけ。  法務省として、この原案を半年ほど前でしたか発表された。半年にもならないかもしれませんけれども、数カ月前に発表され、報道されたころから、大臣の意図は、こんなものをえらい期待をかけられても困るのだ、何かの役に立てばという程度で出したという御趣旨のようでありますけれども、案外と関心は高いのでございます。それはいままで水俣病にしろ、イタイイタイ病にしろ、阿賀野川の病気にしろ、あるいは四日市ぜんそくにしろ、企業責任を追及するという声が、損害賠償だけでなしに、刑事責任まで含めて非常に強いわけですね。だから、何か告訴したけれどもちっとも動いてこない、検察庁が。これは法律の不備があるのじゃなかろうか、そこでこれが出てきた。ではこれでひとつやってもらえるかというような期待が出たというのですよ。それはいままでの公害対策の不備、それから企業責任の放任といいますか、そういうようなところに対する一般の怒りだと思うのです。だから、これに対して相当の期待を持ったということは無理からぬことだと私は思う。であればこそいま大臣が言われるように、これはないよりはましだから、これで発車して何か役に立てばという控え目なお気持ちだというのはわかりますけれども、少なくともこれを出す以上は、政府として勢い込んで出しておるのではないといたしましても、やはり期待にこたえるという意味ではもっともっと完備したものにして出して、そうして国民の怒りを緩和するといいますか、怒りにこたえてあげるということが政治の要諦ではなかろうかというふうに考えるわけです。それだけ申し上げまして、質問を終わります。
  105. 小林武治

    ○小林国務大臣 私はお話はごもっともだと思いますが、たとえばすでに出た問題につきまして、ああいう問題が今後出た場合にはどうなるか、相当適用する部面がある。いまどれとどれかということは私は申しませんが、そういうふうな具体的事例にこたえられるような法案でもある、こういうふうに考えておりますから、これからの適用の問題であって、私は重ねて申し上げますが、従来あるような事態についても適用されるところが相当あろう、こういうふうに考えております。
  106. 青柳盛雄

    ○青柳委員 ちょっと、そういう大臣の御答弁ですから、局長に最後にお聞きしたいのですけれども、具体的なケースだから何とも言えませんとおっしゃるでしょうが、水俣病の告訴とか、阿賀野川の告訴ということは現実にあるのですね。この有罪か無罪かというようなことは具体的ケースだから言えないでしょうけれども、あれはすでに被害が発生しておるわけです。だから、公害罪の危険罪のワクよりももっと先へ行っているわけですね。刑法犯に類する犯罪が行なわれているという確信に基づいて告訴、告発が行なわれているわけですから、ああいうものを排除する、この危険罪によってというのではなくて、ああいうものにまで至らない段階でこれを食いとめようというのにねらいがあるのだということだと思うのですが、いかがですか。
  107. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 具体的な案件との関連で申し上げるわけではございませんが、ただいま御指摘のように、この法案趣旨は具体的な人の生命身体に対する侵害というものが出る前の段階において危険な状態処罰するということでございます。そうして公害の防止に資そうとするものであります。
  108. 青柳盛雄

    ○青柳委員 終わります。
  109. 福永健司

    ○福永(健)委員長代理 岡沢完治君。
  110. 岡沢完治

    ○岡沢委員 ただいまの青柳委員質問に対しても、大臣は今度の公害罪法案は補充的、二次的あるいは終末処理的な意味しか持たないということをおっしゃいました。まあある意味ではその発言、正直だと思います。それだけに私は公害罪にまっこうから反対する意味ではもちろんございませんけれども、法律家の端くれとして、長い間の人類が文化的資産として、成果としてかちとった、いわゆる疑わしきは罰せず、嫌疑罰の廃止という考え方を、この公害罪ではある意味では踏みはずすと申しますか、ある意味では越えると申しますか、という条項があるわけでございます。私自身、現在の公害の実態を考えました場合、またその悲惨さを考えました場合、いわゆる公害について社会的な犯罪として追及されてしかるべきだということは重々承知いたしておりますけれども、しかし、そのほどメリットの少ないものに対して、一方でいわゆる罪刑法定主義の厳格性を逸脱するような新しい立法ということについてはかなり慎重な配慮が必要ではないかと思うわけでございますけれども、この辺につきましてそのかね合い、調和、あるいはこの乱用と申しますか、ある意味では刑法は被害者を守る一面を持っていることは当然でございますけれども、一方で犯人のマグナカルタという歴史的な意味づけも私は否定できないと思うのでございます。そういう意味からも、事、刑事法に関する限りはある程度の慎重さが当然要求される、基本的人権の立場ということも考えまして、この点についての法務省の見解、ことにこれの運用について配慮をされるべき点があってしかるべきだと思いますが、そういう分野についての御見解を聞いておきたいと思います。
  111. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 ただいまの御指摘についてでございますが、この法案が補充的、二次的という大臣のおことばでございましたが、大臣のおことばは、公害の防止に関する限りは前面にこの法律が出ていくのは適当でなくて、公害の防止という点からいけば、これは補充的、二次的な面で最後のとりでになっているという御趣旨であろうと私は存じておるのでございます。この法案自体としては、それ自体有用な法案であり、きわめて今後効果のある法律である。きわめてと申しますか、これ自体としては効果のある法律であると考えておるわけでございます。  そういうことを前提にいたしまして、ただいま御指摘のこの法案の第五条の推定規定という規定を設けたのは、刑事法の大原則を破るのではないかという御指摘に相なるかと思うのでございますが、その前提といたしまして、私はこの法案はこの法案なりにきわめて有用な法案であるということを確信いたしておるのでございます。  そこで、この推定規定というのはただいま御指摘のように例外規定でございますから、私どもはこれはあくまで慎重な規定のしかたをしなければならないということをまず念頭に置いたわけでございます。そこで、ただいまここに読み上げますまでもなく、この推定規定の働く要件というのはきわめて厳重な要件を定めております。しかもこの推定が働きます場合は、「工場又は事業場における事業活動に伴い、当該排出のみによっても公衆生命又は身体に危険が生じうる程度に人の健康を害する物質を排出した者」が、これが推定の前提になるわけでございます。この当該排出のみによってもこういう危険を生じ得る程度の排出というものは、それ自体社会的なたいへんな害悪であることは申すまでもございませんし、また、ただいま御審議中の水質汚濁防止法案であるとか大気汚染防止法におきましては、当然、先ほどお話に出ました直罰規定との関係で、それ自体としても犯罪になり得るものがこの面では多かろうと思うのでございます。こういうきわめてきびしい限定のもとに推定規定を設けたわけでございまして、片やまた公害事案の特殊性というものを考えました場合には、なかなか現在の科学知識におきましては因果関係の確定しにくい事案もあるわけでございまして、その辺の考量をいたしまして、かような例外規定を設けたわけでございます。この程度のものは、現行の刑事法の大原則のもとにおきましても、例外として許されるものと確信をいたしておる次第でございます。
  112. 岡沢完治

    ○岡沢委員 いま抽象的にメリットがあるとおっしゃいました。私もそれは一般予防的なあるいは犯罪に対する威嚇的な抑止効果というものを否定するわけではございませんけれども、御承知のとおり戒能教授等も具体的な事案としてはたしてこの法案ほんとうに起訴ができるかどうか、あるいは有罪者を出せるかどうか、逆に大企業の実態を考えた場合、責任追及の過程において因果関係の立証が困難等の理由によって、かえって企業に無罪の免罪符を与える結果になるのではないかという批判もあるわけでございます。具体的なこの法案のメリットをお述べいただきたいということが一つと、いま私が指摘いたしましたようなデメリット——まあ刑事局長は、推定規定につきましても厳格な解釈のもとに基本的人権の擁護の形で不足するところがないという趣旨の御答弁がございましたけれども、長い刑事法の歴史等を考えました場合に、治安維持法等をここに持ち出すまでもなく、いかに嫌疑罰がおそろしい結果をある場合は持ち出すかということも含めて、重ねて御答弁いただきたいと思います。
  113. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 この法案のメリットについてでございますが、この点につきましては、先ほど大臣からも答弁がございましたように、過去における少なからぬいわゆる公害事例がございます。その事例が当たるというふうに断定するわけではございませんが、それと同質の事例というものについては将来適用されるものも少なからずあろうと私どもは考えるわけでございまして、そういう意味においてこの法案のメリットは十分にあると考えておるのでございます。  それから、次にこの推定規定というものが刑事法の大原則を破ったデメリットというものはどうかという点になるわけでございますけれども、これはただいまも申し上げた通りの理由からでございますが、一つの仮定的な実例をあげて御理解を賜わりたいと思うのでございます。これは仮定論でございますけれども、ある川上である工場があるといたします。そこで多量の水銀なら水銀というものを排出しておる。川下のほうでその水銀によって人の生命身体に危険な状態というものが発生したという場合を仮定いたしました場合に、違った水銀で、たとえば農薬なら農薬というものがその川に中流から流れ込んだというような事案を考えました場合に、具体的にその川下に起きておりますこの水銀の公害というものは、これはあるいは実際には農薬からくるものもございましょうし、本来の工場からくるものもございましょう。そういう場合に、やはり川上の工場自体で下の公害が発生するだけの量の水銀を排出しておるというような事例を考えました場合には、これはこの推定規定というものを適用して、科学的な知識をもってしてもなかなか因果関係がとことんまで証明できないような場合に当たると思うのでございますが、そういう場合に、この推定規定を働かして、因果関係を推定によって明らかにしていきたい、こういう趣旨でございます。  多少例は違って悪いわけでございますが、御案内のとおり、たとえば現行刑法の二百七条の同時傷害の規定というものも、これはやはりある意味では一つの推定規定でございます。私どもはこの規定はその程度一つ例外規定であろうというふうに考えておるのでございます。
  114. 岡沢完治

    ○岡沢委員 時間の関係で、この問題はあす参考人もお見えになるようでございますから、あともし必要であればただしたいと思います。  この公害犯罪につきましては、御承知のように法制審議会の刑事法特別部会で従来ずっと論議されてきたところでございます。それが公害がきわめて社会的な注目をあびるという時期に遭遇いたしまして、ある意味では法務大臣の御勇断で、新聞の報ずるところによりますと、法務省にもだいぶ意見の対立があったようでございますけれども、消極意見もあったようでございますが、今度の法案提出に踏み切られたそのこと自身につきましては、私は大局的な見地からは決して反対するものではございませんけれども、その刑事法特別部会の審議の経過、ことにその素案として出された中には、いわゆる飲食物、毒物混入等の規定があったわけでございますが、このたびはそれがはずされておるということについて、どういう理由からおはずしになったか、将来こういう規定、いわゆる食品公害的なものもあらためてこの法案の改正として御配慮、御考慮をなさっているかどうか、その点をお尋ねいたします。
  115. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 ただいまの御指摘の刑法の全面改正を審議いたしております法制審議会の刑事法特別部会におきまして、たしかこれは昨年の春であったと思いますけれども、ただいま御指摘になりましたような一つ毒物混入による国民の健康に対する罪という形の犯罪を新しい公害犯罪という観点から取り上げる必要があるんじゃないかということで議論がなされまして、そこでこういう意味の公害犯罪というものを規定する必要があるということは、当時の刑事法特別部会において決議されたのでございますけれども、内容につきましては、これはいろいろ問題があるということで、実は参考案というところに一応活字にはなっておりますけれども、内容は留保するということで現在に至っておるわけでございます。この今回御審議願っております法案は、これはやはり公害対策基本法というものを前提にいたしまして、公害対策基本法にある公害のうちで、健康にかかわるものというものをまず取り上げてまいったわけでございまして、やはり公害対策基本法関係の他の行政法規というものとも調和をはかりつつこの種の犯罪の防止を規定することによって、現下の公害防止に資そうという趣旨のものでございます。
  116. 岡沢完治

    ○岡沢委員 いまの局長の御答弁によりますと、公害基本法にうたわれているものの中で人の健康にかかる公害犯罪を取り上げた。そうしたら、公害基本法には、地盤沈下とか騒音、悪臭とかあげられているわけです。これによってもやはり私は人の健康にかかる被害が生ずることは十分に考えられる。なぜこれらをお入れにならなかったか、重ねて伺います。
  117. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 これは多少ことばが足らなくて恐縮でございました。もとより公害対策基本法に掲げております公害のうちの健康にかかわるものを対象にしたわけでございますが、さらにもう一点、私どもの基本的な考え方といたしましては、大気汚染防止法や水質関係法律にございますように、やはり工場事業場における有毒物質の排出というものを、この行為の基本類型として定めていくことが現下最も適切であるという観点から、このような法案内容規定になったわけでございます。その意味におきまして、騒音や振動というものはこの法案対象にはなりがたいであろうというふうに考えておるわけでございます。
  118. 岡沢完治

    ○岡沢委員 公害立法というものは公害基本法のためにあるのじゃなしに、公害基本法も含めて、人の生命、健康を守るということが基準であるべきだと思いますだけに、当然将来は修正案にありますような飲食関係、それから薬品公害的なものも含めるべきだと思いますが、これについての法務大臣の御答弁、将来改正をお考えになるかどうか、お尋ねいたします。
  119. 小林武治

    ○小林国務大臣 これはお話しのように、とにかく公害で人の健康に害がある、こういうふうな問題は将来の問題としてやはり規制していく必要があろう、こういうふうに思っております。どういう形になるかは別として、やはり刑事罰等も考えてしかるべきだ、こういうふうに思っております。
  120. 岡沢完治

    ○岡沢委員 時間の関係がありますので、別の角度からの特に民事上の無過失損害賠償と結びつけてお尋ねをいたしたいと思います。  私は、今度の国会を通じまして、公害罪がマスコミ等におきましても目玉商品——政府もそういう宣伝をしておられます。ある意味では、これは目的は別にあるような感じがいたします。真の目的は、私は公害関係の立法を通じまして公害の防止にあることは明らかでございますし、それが主として行政的な分野が担当すべきであることも十分承知いたしております。しかし、現実の問題として最も急を要するものは、公害被害者救済ではないかと考えるわけでございます。生命を失った方、現に裁判を係属中の方、現に病床で坤吟されている方をいかにして政治の力で、法の不備からくる不幸から救うかということが、公害国会といわれる本国会の最大の使命ではないか。そういうことを考えました場合に、実は私は被害者救済のきめ手として、また基本として無過失賠償責任制度の確立こそすべてではないかと言い切ってもいいくらいな感じを持っておるわけでございます。むしろ政府はこの無過失賠償責任制度の立法を避ける目的のために、逆にこの公害罪を目玉商品として売り出しておられるというような感じすら受けるわけでございます。そういう意味から、私は緊急の要請と申しますか課題は、またわれわれの責任は、民事上の無過失賠償責任の確立ではないか。連合審査等を通じまして、いわゆる横の一般的な公害損害に対する無過失賠償責任制度の確立は困難だという政府答弁がございましたけれども、どこに無理があるのか、私は法律的に、法制的にどこにもその問題点はないような感じがいたします。われわれ野党側は一つの案を提案いたしておりますし、ここに法制上の問題点があるような気もいたしません。けさほども申し述べましたように、国権の最高機関としての国会は、イギリスでいわれておりますように、女を男に、男を女にすること以外は何でもできる。これは言い過ぎかもしれませんけれども、事公害被害につきまして無過失賠償責任制度を確立して悪い法律的なあるいは法制的な理由があるなら明らかにしていただきたい。そうでなければ、私は現実の被害者救済する意味で、具体的平等を実現する意味におきまして、その理由をここでちょうちょうすることは避けますけれども、現実の裁判の実態を見ました場合、あるいは企業における公害の実質を見ました場合、これは被害者である市民に因果関係の立証をしいるということは不可能に近い要求であります。現に、長期にそして高い訴訟費用の負担に耐えながら苦しんでおるのが被害者でございます。加害者側の大企業は、資本力においてもまた企業の実態におきましても、あるいは技術的な中身におきましても、被害者側とは全く雲泥の強い立場に立っております。企業の秘密あるいは立ち入り調査権の不存在等を考えました場合に、現実に被害者救済するためには、私は法律的に無過失賠償責任制度を確立することこそ最大の急務であるという感じがいたします。  この件につきましては、佐藤総理が、九月の一日内閣で前向きに検討すると申しました。しかし、このことばはもう三年前に、四十二年の公害基本法制定のときに、総理自身が検討するとおっしゃって一歩も進んでいないわけであります。私は、これは被害者向けの、国民向けのゼスチュアにすぎなくて、ほんとうは何とかしてこの無過失賠償責任制度を、率直にいって企業を保護するために制定したくないという真意だと見ざるを得ない感じがするわけでございますが、私は、法務大臣がきわめて清潔な政治家であることを知っておりますだけに、勇気をもってこの問題に対処されるべきじゃないかと思うわけでございます。この無過失賠償責任制度の確立についての政府ほんとうの真意をこの際明らかにしていただきたいと思います。
  121. 小林武治

    ○小林国務大臣 これは連合審査会におきましても、また畑委員からもいろいろお話がありましたが、その無過失については責任がないということがもう長い間の伝統あるいは法律秩序であった、こういうことは御承知のとおりでありまして、これがいまの社会生活なりあるいは経済生活の大事な基盤をなしておる。したがって、こういう原則に対しては例外というものはきわめて局限すべき問題だ、これも時代の趨勢によって変わっていくことはむろんあり得ることであるが、できるだけ例外例外としておかなければならぬ、こういうふうな考え方からして、先般の議論におきましても、私は少なくともこの公害というふうな包括的な形においてこれをつくることは適当でない。したがって、いま無過失責任については鉱業法とかその他のそれぞれの取り締まり法規の中に例がある。したがって、今日の段階においては、いま申すように各種の公害の態様を特定して、そしてこれは検討していくべき問題であろうということを、私は政府の部内においても申し述べておるのでありまして、私はその必要がないとは申しておらない。この公害というものは非常に過失証明がめんどうだ、あるいは実は不可能である、こういうふうな事例もあるから、被害者救済立場からいうて、従来のような無過失責任ということだけにとらわれておることは適当でない。したがって、このことを例外としてつくることに私は反対をしていない。そのつくり方をできるだけ特定をしていきたい。すなわち、包括的に考えるということは、今後また公害そのものはどんな態様の公害が出るかもわからない、そんなことを考えれば、今日非常にめんどうな事態を生じている問題からひとつやっていく。将来においてそういう縦のものがたくさんになれば、やがてまた横の問題も出てくるが、この際はひとつそういうふうなやり方でやったらどうか。  しかして、被害者救済するということはどうしても必要で、これは企業者もむろんでありますが、国家、社会としてもやはり考えなければならぬことで、実はその過失の証明のできない問題があって、しかも世間には深刻な被害がある。こういうものはもしどうしても企業責任者がわからなければ、私はこの際は国家あるいは社会がこの責任をある程度負うていくべきものだと思う。その意味において、いまたとえば公害被害者救済か何か新しい法律が出て実行しておる。その内容はきわめて不完全であって、いま医療費とかそういうものだけで生活関係等は見ておらぬ、こういう不十分なところはわかりますが、被害が現実にある、しかも深刻であるというものについて、もしその責任者がわからぬ、こういうことになれば、やはり国家の問題としてもう少しこれは進めなければなるまいかというふうに私は考えております。救済責任のある企業者がわかればそれが責任を負うが、しかし、いろいろの事例においてそういうものがやはりあり得ると思うのです。責任者がなかなか明定できないで、しかも被害が出てくるであろう。しかし、これは私はある程度やはり政府が見てやるようなくふうをすべきじゃないか。いま私が申すように、すでにそういう法律も出ておる。しかし、その法律をできるだけ拡充することによって、そして責任者が法律上出ないものはひとつ政府が見てやるというふうな考え方をもつと強く推し進めるべきである。  いずれにいたしましても、私はいま無過失責任は絶対に困る、こういうことを言っているんでありません。そういうものもぜひ必要なものがあろうから、そういうふうなことを考えていきたいが、しかし、この段階において、公害などということばでもって包括的にこの無過失責任を認めることは、私は全体の社会秩序に相当重大な影響がありはせぬか、こういう心配をしておる。したがって、そういうことを認めるとか認めないとかいうことについては、私は根本的に反対しておるものじゃありません。私はきょうは閣議の際にも、これはほんとうに必要があるものがあろう。私は、たとえば明示もできるが、きょうはしないが、そういうところは各省責任においてぜひひとつそういうものを抜き出してやってもらいたいということを、きょうははっきり発言もいたしております。このことは実は私どもは公害対策本部会議においてもすでに八月ころから申し出ておりまして、この際としてはどうしても縦割りでひとつ検討してもらいたいということを申しておるのであります。したがって、私ども必要がないとかあるとかいうことでありません。必要がある。ただ、いまの段階において、たとえば法律案が出ておる、こういうふうな包括的なことでやることは、私どもとしてはいまにわかに賛意を表しがたい。しかし、法案自体は国会のおやりになることでありますから、これは皆さん方の御相談におまかせする以外ないということで、政府がどう思うかというと、少なくとも法務省ではこういうふうに思っておりますということを国会でもお答えし、また政府部内においても私は早くにひとつそういうことを抜き出してやってもらいたいということを強く要望いたしておるのであります。
  122. 岡沢完治

    ○岡沢委員 理屈は何とでもつきますけれども、現実の問題として、昭和二十七年以来水俣病の患者さん方が若労されて、十七、八年たった現在なお訴訟が係属中である。いまのお話で原因が明らかでないものもないとは言えませんけれども、水俣病に関する限りはチッソによる排出物が原因であることは、厚生省も認めておるところであります。ところが、民事の裁判では因果関係の立証という点が、加害者でなしに被害者にゆだねられているために、実際上非常に困難に当面していることは御承知のとおりであります。私は、法務大臣の御答弁は全く間違っているとは思いませんけれども、私がお聞きした法律上の——それじゃ一般の損害賠償責任につきましては民法原則に従うとしても、公害関係被害については無過失賠償責任制度を確立するというのに法律的に何か障害があるかということについては、何らお答えになっていない。むしろ個別立法であって、将来必要であればそういうことを考えてもいい。法律的な障害は何もないわけでございます。むしろ現実の一般の被害者救済考えました場合、大臣がおっしゃるように、場合によったら国その他が補償について考えてはどうかという御意見でございますけれども、企業被害者である国民の税金で救済をするということ自体が私は国民感情として許せないし、実際また企業利益のために生じた損害をなぜ国民が、被害者が弁償しなければならないか。私たちも全く企業関係のない被害についてまで企業責任を持てと言っているわけじゃございません。私はこの際、いわゆる原因責任主義と申しますか、原因者が因果関係の有無にかかわらず、原因者過失の有無にかかわらず責任を負うべきだということを申し上げているわけなので、私は当然法律的には障害がないと確信いたすだけに、もしあるなら教えていただきたい。なぜ包括的の公害に関する賠償責任については無過失を採用されないか。現に十分御承知のとおり、原子力損害賠償法、鉱業法その他ではもう立法化されておるわけでございます。これにつきましては決して大きな矛盾は生じてない。むしろ被害者救済に大きく役立っておるということを考えました場合に、どう考えましてもいまの御答弁は現実の被害者、患者等の立場に立った御見解とは私には受け取れない。これは、民事局長でもけっこうでございますけれども、この際、もし法律的に現在の段階で無過失賠償責任制度を法制化できない理由があれば教えていただきたい。
  123. 川島一郎

    ○川島説明員 ただいま大臣お答えになりましたとおり、法務省といたしましては、公害に関する無過失賠償の問題につきまして、法務省立場からできる限りの検討はいたしておるつもりでございます。  法律的にどういう障害があるかという点でございますが、これは岡沢委員も御承知のとおり、現在の過失責任原則というのは、民事、刑事を通じまして一般的にいままでとられてきた原則でございます。これに対して無過失の場合にも責任を認めるということになりますと、かなりいろいろな問題が出てまいります。特に従来の一般原則に対する例外を認めるということになりますと、その範囲をまず明確に規定する必要があろうかと思います。その範囲が明確でありませんと法律の適用にいろいろ矛盾を生じまして、かえってその限界論でもって混乱を生ずるというマイナスが出てまいります。そういう意味で限界を非常に明確にするという必要がある。しからばその限界をどのような観点から設定するかということがまた次の問題になるわけでございますが、無過失責任を課せられますと、現在と違いまして、過失責任のもとでは十分注意をしておれば損害賠償責任というのは生じなかっわけたでありますけれども、無過失責任のもとではいかに注意をしても損害が生ずる、賠償をしなければならない、こういうことになるわけでありますので、それに対するいろいろな準備というものも必要になってきます。そのためにまず責任主体をかなり明確に限定しておく必要があると思います。従来、鉱業法の鉱害賠償におきましては鉱業権者、それから原子力損害賠償におきましては原子力事業者というように責任主体が確定されておるわけであります。しかも鉱害賠償の場合には、たとえば担保の供託、原子力損害賠償につきましては原子力損害保険契約その他の賠償措置というようなことも考えられているわけであります。いま公害についてそういった特殊な措置を設けるかどうかは別といたしまして、かりにそういった損害賠償措置というものを考えずに立法いたすといたしましても、責任主体はそれだけの覚悟というものも持ってもらわなければならないということになりますので、責任主体はできる限りその範囲をはっきりと限定しておく必要があるのではないか、こういうふうに考える次第であります。  それから加害行為でございますが、これは先ほど申し上げました法律の適用、どの場合に無過失責任が適用になるかならないかということについての混乱が生じないように、その加害行為の態様について限定する必要がある。  これらの責任主体なり加害行為の態様をどのように限定するかということは、実は公害の実態を承知した上でないとなかなかきめられない問題でございます。法務省といたしましては、公害の実態あるいは企業の実態というものを把握する立場にございませんので、そういう意味で、先ほど大臣も仰せになりましたように、各省協力を求めて、そうして各省検討の上に立って、これと協力してこういった制度を設けていきたい、このようなことを考えておる次第であります。  そのほか、こまかいいろいろな問題は幾つもございますけれども、特に必要な点を申し上げますと以上の点でございます。
  124. 岡沢完治

    ○岡沢委員 いまの川島局長の御答弁でも、われわれも被害のないところに弁償せよと言っておるわけではございません。また、責任主体が明らかでないものに弁償しろと言っておるものでもありません。しかし、現実の問題は、これは水俣の場合はチッソの排出物によるということは明らかであります。チッソと無関係である被害の弁償ということを言っておるわけではない。過失がなくても被害が現実にある。命を失った人もある、かたわになった方もおられる、生活に困っておられる方もおる、これをどう救済するかということが政治の責任ではないか政府責任ではないか。むしろいまの民法過失責任原則企業を保護していらっしゃらないか。これをもとに戻して、弱い者を助けるのが政治の責任ではないですか。法律が逆に企業なりあるいは強い力の者の肩を持つというのは、私はほんとうの意味でのあるべき姿ではない、それを是正しようじゃないか。いまの企業あるいは公害の実態というものは、十九世紀的な市民法あるいは市民生活が予想しなかった事態が生じておるのだから、それに対応して法律の変わっていくのはあたりまえだ。法律原則を変えていくのが国会の責任でもあるし、政府責任でもあると思うのです。いろいろおっしゃることは理屈はつきますけれども、ほんとうの理屈のための理屈だ。被害者救済に現実としては役立たない。実際は被害者を放置する、これは私は許せない。  私は先ほど来繰り返しておりますように、全く損害がなかったり、企業責任を問われるべき筋のないところに弁償せよという気はさらさらない。論じましてもしかたがございませんし、局長だけの御判断でできるものではないと思います。むしろ政府ほんとうの姿勢が、よくいわれますように、被害者に向いているのか、国民に向いているのか、それとも企業の代弁者かという点に帰するような私は感じがいたしました。ほんとうの意味での法務大臣国民立場に立った、被害者立場に立った勇断を私はお願いいたしたい。  いま川島局長の御答弁の中にも、挙証責任の転換というような意味で救えるような道もあるような意味の御発言があったような感じがいたしますし、山中国務大臣も挙証責任の転換につきましては、おそらく民訴の改正も含めて来国会あたり考えたいという御発言がございました。この一般的な無過失責任制度の立法化がむずかしい場合に、次善の策として確かにこの挙証責任の転換の問題が考えられると思いますが、私は大臣に、この無過失賠償責任制度の立法化について来国会で少なくとも立法の方向で努力するという御確約がいただけるかどうか。もしいただけない場合に、民訴法の改正として挙証責任の転換の問題についてどういう見解をお持ちであるか、山中国務大臣の御答弁とも結びつけて法務大臣としての見解を聞きたいと思います。
  125. 小林武治

    ○小林国務大臣 私は、いまも申し上げましたように、無過失責任の問題はそれぞれ公害の態様に応じてひとつ個別に考えてもらいたい、こういうことを言うておるということはいま申し上げて、この方針は、私は次の機会においてもこれでいきたい、こういうふうに思っております。  それから、挙証責任もやはり重要な問題でありまして、これは無過失よりかもっと軽い問題である、こういうふうな考え方は持てません。大体同じか似たような重要性を持つ問題であろうというふうに私は考えておるのでありまして、これをいま申すように、一般的に民事訴訟法を改正してどうこうという、こういうふうなことはいまは考えておらない。これらの問題も私は事務当局には強く検討を指示いたしておりまするが、いまの段階におきまして、挙証責任無過失責任よりかもっと非常に軽い問題である、こういうようには考えられないのでありまして、これらもひとつ一括して検討しなければならぬ、こういうふうに私は思っております。
  126. 岡沢完治

    ○岡沢委員 いまの法務大臣答弁では、山中国務大臣の挙証責任の転換に対する畑委員の御質問答弁をまだ一歩後退した感じを私は受けざるを得ない。閣内不統一という問題も私は起こってこようかと思います。この問題につきましては、すでに私が法務委員会で最高裁の民事局長から前向きの御答弁をいただいた記憶がございます。その後、最高裁の民事裁判官の会同でもこの問題を、最高裁としてもおそらく裁判官としての正義感、良心から、救済すべき不幸な被害者を救うという観点からも、法律の許す範囲内で前向きに御検討いただいているというふうに会同の報道等を私は受け取ったわけでございますが、最高裁として、この挙証責任の転換、ことに公害裁判の実態等をよく御存じでございますし、民事の長期にわたる、しかも被害者が弱い立場に置かれた公害裁判の実態とも結びつけて御見解を聞きたいと思います。
  127. 矢口洪一

    ○矢口最高裁判所長官代理者 ただいま岡沢委員から御指摘のように、公害事件は損害賠償事件でございまして、加害者はおおむね大きな企業であり、被害者は多数の一般市民であるということでございます。したがいまして、その訴訟活動等におきまして、やはり経済力等からくる差は免れない。そこで、具体的に訴訟を戦わしていきます上においては、両者の平等ということをできるだけ実際面において実現していきたいというのが裁判所の一般的な裁判官の考え方でございます。この前にも岡沢委員の御質問に対して申し上げたと記憶いたしておりますが、損害賠償事件で原告である被害者が立証しなければいけないという問題は、現行法によりますれば、被害と加害の間の因果関係の問題、そうしてその加害が故意過失によって行なわれたという責任の問題、この二点でございます。この二点につきましてどのように被害者である原告の立証活動を軽減していくかということが、私どもの現行法のもとにおいて訴訟を処理していかなければいけない裁判官の課題であるわけでございます。できるだけ現在行なわれております訴訟のやり方というものを利用いたしまして、両者対等の立場に近づけていきたいというのが裁判官の考えであるということを申し上げたわけでございます。  そこで、ではどういう方法があるかということでございますが、まず最初にお断わりしておきたいと思いますのは、私どもが議論をいたしますときに、まっ先に問題になってまいりますの、因果関係の問題でございます。因果関係の問題が解明され、また有害物質の排出ということについての明確な基準が設定されております場合には、その基準を越えて有害物質が排出されたということになってまいりますと、責任の問題は比較的容易に認定することができるというのが、これが訴訟の実際でございます。その因果関係につきましてどのような方法をとるかということで、私どもが現実にこのような方法をとるべきではないだろうかといって考えましたところは、前回にも申し上げましたが、原告が立証をいたしますその因果関係の立証につきまして、蓋然性の法則なり事実上の推定法則でございますとか疫学的な方法でございますとか、そういったいずれも一つ一つをとってみますれば現行の民事訴訟において日常行なわれておる法則ではございますけれども、そういった法則を大胆に組み合わせることによりまして、一応の心証が得られればそれで原告の立証活動を一応終わりまして、逆に被告側にそのような因果関係の立証を破るような立証を促す。被告側において結局そういった因果関係の心証を破れないようであれば、最終的に一応の立証を確信にまで高めて、証明ありとするという方法を採用すべきではないかということが事実上の焦点であったわけでございます。  現実の問題といたしまして、公害事件は、このような事態になりましてからまだ一審でありましても最終的な判断をいたしました事件がございませんので、それが具体的事件でどのように適用されていくか、また、そのような考えでやりましてもなお具体的事件の解明において非常な困難を感じたことがあるかどうかといったような問題は、いましばらく時間をかしていただきませんと、実証的な結論を得にくいということでございます。しかし、裁判官の心がまえといたしましては、いま申し上げましたような過失責任原則を貫きます以上は、やはり原告に立証の必要性、立証の責任を要求するけれども、それは、一応の立証を得て、なお相手方がそれを破るということを行なって、そしてそれで破り得なければ、その一応の立証というものは最終確信として必要であるところの証明の段階にまで高められるであろうというのが私どもの考えでございます。そのような趣旨でこの前もお答えを申し上げたわけでございます。
  128. 岡沢完治

    ○岡沢委員 いま法務大臣法務省民事局長も最高裁の矢口局長の御答弁を聞いておられたと思います。法のもとの平等といいながら、現実には公害関係損害賠償事件の原告と被告、被害者加害者の間には全く不平等が存在をし、そのために良心的な裁判所、裁判官がいかに苦労しておられるか。法律の不備と申しますか法の穴を埋めるために、非常に無理なと申しますか、あるいは良心的な苦衷を披瀝されたと見ていいと私は思います。現実に公害関係民事裁判がいまだに一審の判決も見ないというのも、いかに被害者側、原告側の立証が困難であるかということをある意味では如実に示しているわけであります。法律の不備のために、あるいは場合によりましては国会の無責任のために、結果として第一線の裁判官が苦しめられ、そしてまた、直接の一番の被害者公害関係被害者の方々が現実にいかに救済の道を閉ざされているかということが明らかにざれたと思います。ほんとに法務大臣が良心があるならば、そしてまた、今度の公害国会が産業よりも人間の生命と健康を守るということが主眼であるならば、その基礎になるべきこの民事責任において無過失賠償責任制度公害関係被害について確立するということは、政治家としての良心であり使命であると考えるわけであります。  先ほど来の法務大臣答弁、いろいろ理屈はおっしゃいますけれども、佐藤総理はもうすでに四十二年に無過失賠償責任については検討するとおっしゃりながら、一歩も進んでいない。単に国民向けの、被害者向けのゼスチュアにすぎない。個別規制ということをおっしゃいますし、個別立法ということをおっしゃいますけれども、先日来の連合審査でも、具体的な立法準備をなさっている各省庁は、良心的に言ってまずないと申し上げてもいいのではないかと思います。また山中国務大臣も御自分から、法律問題については専門家ではない、法務大臣もときどきそういうことをおっしゃいます。これでは国民は救われない。私は、この意味からも、いまからでもおそくないし、総理も本会議答弁を通じても、あるいは連合審査答弁を通じても、政府側も必要であれば改めるにやぶさかでないということをおっしゃっておられる。われわれ野党のほうでは無過失賠償責任原則をうたった立法の用意もいたしております。私は、自民党に良心があるならば、あるいは政府ほんとう国民立場に立った被害者救済に誠意を示すお考えがあるならば、この際、無過失賠償責任制度の確立に一歩を踏み出されてしかるべきだと考えるわけでありますけれども、重ねて法務大臣の見解を聞きます。
  129. 小林武治

    ○小林国務大臣 毎々お断わりしておるように、そういう必要がないということを申しておりません。私はとにかく、とりあえずわれわれが主張しておるように縦の個別の問題を前進させることが必要である、そういうことを私も促進したいかように考えております。
  130. 岡沢完治

    ○岡沢委員 これ以上やりましても押し問答になると思いますし、持ち時間が残り少なくなりました。  私は、先ほどの公害罪の問題とも結びつけまして、具体的なメリットについてはいささか疑問を持ちますけれども、やはり検察庁としては、当然公害罪法が成立しました場合、この法律に従って企業公害犯罪については思い切って刑事的な手続を進めていただきたい。一般に被害者から、あるいは第三者から告訴、告発等もあり得ると思います。その場合にそれを受け入れる用意が検察庁におありかどうか、あるいは捜査当局におありかどうか。公害犯罪は、いわゆる技術的な高度の素質を、調べる側にも要求されると思います。そういう点から具体的な人員あるいは予算措置等についての御用意についてお聞かせをいただきたいとと一に、最高裁に対しましても、実際に公害事件が刑事事件として提起、提訴されることがあり得るわけでありますし、また現に民事関係公害事件は各所で提起、提訴されておるわけでございますが、これに対して裁判官も、法律の専門家でありましても、この公害関係被害が産業、特に成長産業といわれる近代企業に多いだけに、かなり技術的な面での用意といいますか対処も必要だと思います。法務省、最高裁ともにこの公害関係民事、刑事の裁判についての人的、物的な配慮についてお尋ねをいたします。
  131. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 公害犯罪の検察に対する、検察庁の人的及び物的な配慮の問題でございますが、この法案提出前におきましてすでにいわゆる公害事犯というものは少なからず発生され、かつ処理されておるわけでございます。私どもの検察庁といたしましては、この問題は現下の検察の一つの重点であるという認識のもとにその問題を取り上げておるわけでございまして、たとえば本年の秋には、全国の刑事部長検事会同を開催いたしまして、もっぱら公害事犯、これは本法前のいわゆる公害事犯でございますが、公害事犯の捜査、処理に関する問題点を協議いたした次第でございます。現在においてももちろんそういう配慮はいたしておりますけれども、この法案法律となりまして公害犯罪が検察の対象になるという段階になることを予想いたしますれば、もっともっと検察庁の関係職員について心がまえ、あるいは実力を涵養していかなければならないと考えておるわけでございまして、具体的に私ども検察庁の職員、検事あるいは検察事務官について、公害関係の専門の研修を行なわなければならないということをまず第一に考えております。  次に、これはもうすでに多少は行なっておりますが、関係の執務資料というものを作成し、これを各検事に配るというような措置も講じておるわけでございます。  それから、現在相手数の庁におきましては、事実上公害係といいますか、公害事犯担当の検事というものも運用上設けて、職員の研修と事件の正確な処理というものを期しておるわけでございます。  なお、検事は法律家でございますから、かような科学的な知識は乏しいわけで、関係行政機関との連携強化による専門的知識の涵養というようなことももちろん考えなければいけないと思っております。  それから、検察庁全体につきまして公害関係の図書、資料、こういうものを整備していきたいというふうに考えております。  なお、具体的な予算要求というような問題と関連いたしますと、明年度の予算要求におきましては、私どもは公害関係事犯の処理に要するものといたしまして、とりあえず鑑定謝金の増額というものを中心といたしまして、あるいはその他資料費というようなものもございますが、本年に入っております上にさらにこういう面において約二千万円の上積み要求をいたしておるわけでございます。  それから人員要求につきましても、それぞれ検事及び検察事務官の増員要求をいたしております。検事につきましては合計二十六名の増員要求をいたしておるわけでございます。これはまた御案内のとおり、検事の実人員との関係でなかなかむずかしい問題があろうかと思いますけれども、検察庁全職員という立場におきまして、検事、検察事務官について所要の増員要求をいたしておる次第でございまして、検察庁職員全体の増員要求につきましては、三百二十四名の増員要求をいたしております。これは公害事犯関係のみではございません。全般的な検察運営の強化という面から要求いたしておるわけでございますが、この中には当然公害関係の適正な事犯処理に要する人員というものも計上いたしておるわけでございます。
  132. 矢口洪一

    ○矢口最高裁判所長官代理者 民事関係でございますが、本年度は裁判官の研究会を全国二カ所において行ないまして、司法研修所におきまして、裁判長クラスを集めまして、公害問題をどのように処理していくかということの検討をいたしました。  来年度でございますが、ある程度の処理体制の強化のための人員要求をいたしております。しかし、これはただいま法務省の刑事局長からもお話がございましたように、供給源の問題がございますのでなかなかむずかしい問題であろうかと思いますが、公害事件の処理に関しまして、適正な処理をするための人員要求をいたしておりますほか、会同、研究会、協議会といったようなもので大体千五百万円程度の要求をまずいたしております。  さらに、このような事件を裁判所が処理いたすということになりますと、専門的知識がどうしても必要でございますので、訴訟に入りまして訴訟の争点となりました事項を処理する上におきましては、鑑定人等を用いることができるわけでございますが、その前段階として一般的な知識を裁判官自身が持つために、どうしても裁判官が公害事件に関する科学的、常識的な知識を必要とするわけでございますので、公正な第三者、いわゆる学者等から事案に応じて特訓を受けると申しますか、講習を受けると申しますか、そういった費用として一千三百万円程度の要求をいたしております。  また、図書を購入する必要がございますので、これも約五百万円程度の専門図書の購入費を別途要求しておるわけでございます。  その他、騒音事件等におきましては、具体的に騒音測定等の必要もございますので、器具費等二千万円以上の要求をいたしております。  そのほかに、さらにこの種の事件は訴訟救助等を必要とするものでございますので、鑑定料、旅費等として二千万円余り、合計、人件費等を除きましてなお約七千三百万円程度の要求をいたしておるわけでございます。
  133. 岡沢完治

    ○岡沢委員 予定の私に与えられました時間が参りましたので、本日の質問はこれで終わりたいと思いますが、たとえば調査官制度等も公害発生多発地区の裁判所等には必要ではないかということを指摘さしていただきまして、終わらしていただきます。
  134. 福永健司

    ○福永(健)委員長代理 横路孝弘君。
  135. 横路孝弘

    横路委員 公害罪についてしぼってお尋ねをしたいのでありますが、まず、この法律案提案理由説明書の中に、公害罪提案した理由として、「現行の刑法の規定及び関係法令の罰則が公害の実態に照らして必ずしも十分なものとはいいがたい状況にある」から公害罪法案提案したのだということが書かれているわけであります。この「関係法令の罰則が公害の実態に照らして必ずしも十分なものとはいいがたい」というのは一体何を認識されていわれているのか、まずその辺を法務大臣お答えいただきたいと思います。
  136. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 この公害関係法令及び刑法という点でございますが、これはやはり公害対策基本法に基づきます現行の大気汚染防止法であるとか、水質関係法律であるとか、その他この公害対策基本法に基づく法令が主でございますが、必ずしもそれに限らずに、毒物劇物取締法であるとか清掃法とか、そういういわゆる公害関係の行政法規でございます。
  137. 横路孝弘

    横路委員 行政法規はわかっているのです。要するにおたくのほうの認識として、この罰則が不十分だというわけでしょう。関係法令の罰則が必ずしも公害の実態に十分な行政罰になっていないというわけですね。そういう認識の上に公害罪法案というものを出されてきた。そうすると、いまお話があった大気汚染防止法にしても電気事業法にしても、いろいろなたくさんの法律があるわけですね。法務省として一体どういうぐあいに不十分なのか、そこをお答えいただきたいと思います。   〔福永(健)委員長代理退席、委員長着席〕
  138. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 私どもは現下の公害の実態にかんがみまして、この法案の二条、三条に掲げるような行為を犯罪として規定いたしまして、公害の防止に寄与するというのが基本的な考え方でございまして、この趣旨から本法の提案理由があるわけでございますが、関係の行政法規と申しますのは、申すまでもなく関係の行政規制を実効あらしめるためのいわば間接強制の規定でございます。この行政措置というものの実効を担保あらしめる規定は、その面においてはその機能を果たしておると思うのでございますが、そのほかに、現下の公害の実情にかんがみると、本法に定めるような罰則規定と申しますか、刑事犯の規定を設ける必要がある、こういう認識に立っておるという趣旨でございます。
  139. 横路孝弘

    横路委員 そこでごまかしてもらっては困るので、この認識はこの関係法令の罰則そのものが不十分だということを指摘されているわけでしょう。関係法令の罰則そのものが不十分だ、刑法の規定についてはあとでお尋ねしますけれども、そこのところを奥歯に物のはさまったような言い方をなさらないで——公害の問題についてのいろいろな国会の議論の中で、私は法務省は気の毒だと思うのですよ。同情しておるのです。本来はこれはまだまだ各個別の行政法規でやらなければならぬ部分がたくさんあるわけです。発生源対策という意味でやらなければならないものはたくさんある。しかし、それが十分にできていないということで、これは公害罪だということで騒がれて、財界の戦術にひっかかってしまったようなもので、肝心の個別法規のほうの問題、特に罰則規定の問題というものがちょっとどこかにいってしまって、公害罪ばかり大きく取り上げられるようになってきていると思うのです。だからその辺、従来法制審議会あたりでずっと議論してきた中でも、行政法規の罰則が不十分だというような議論はなされているわけでしょう。どういう場合に不十分だというような議論がなされてきたのか、法務省のほうで考えておられることを、ここに提案理由説明に書いてあるわけですから、率直にひとつお答えいただきたい。
  140. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 私どもは現下の公害の実態にかんがみまして、その公害のうちで一定の行為についてはこれを自然犯的なものであるというような評価をする必要がある事態が出てきた、そういうものについては自然犯的なとらえ方をしていこうということでございまして、関係行政法規というものはあくまでも行政法規でございまして、行政規制の効果を実効あらしめるという観点からの罰則が定められておるというわけでございます。現下の事態から見れば、公害を発生させる行為のうちで自然犯としてとらえる必要のあるものが出てきた、こういう認識に立って、その認識のもとにおいて、現下の関係の行政法規であるとか刑法の規定では不十分なものがある、こういう意味でございます。
  141. 横路孝弘

    横路委員 そういうことで出されてきたということは承知をしておるのですよ。ただ、その過程の中で各行政法規等の関連や何か議論されているわけでしょう。  たとえば法制審議会の刑事法特別部会の第四小委員会の議事要録を見ますと、百九回の審議の中ではその辺のことが議論されて、そして「特に大気汚染防止法、工場排水の規制に関する法律をはじめとする公害関係の特別法規の多くが、行政官庁の一定の命令に違反した者の処罰を中心とする規定を置くのみであるけれども、現在までの行政実務においては、行政指導のみに重点が置かれておって、刑罰適用の前提の行政命令がほとんど発せられていないから、罰則適用の余地というものはほとんどないような実情にある。」そういうことが議論されて、その中からこの公害罪そのものが出されてきておると思うのですね。だから当然そこのところを、各個別の行政法規のどこに欠陥があるのかということを議論した上で、初めていまのようなお考えになって、自然犯的にとらえようということで公害罪法案というものは出されてきたわけですね。だから、これからお尋ねしていきますけれども、そこの各個別の行政法規のその罰則の不十分——確かに法制審議会の中で議論されたように不十分なんですよ。そこのところをひとつ率直にお答えをいただきたい、こういうように先ほどからお聞きをしているわけです。
  142. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 それはちょっと前提に御理解が間違っている点があろうと思うのであります。これは先ほど私、別の機会お答え申したわけでございますけれども、いま御指摘の刑法全面改正を審議しております法制審議会の刑事法特別部会におきましては、昨年の前半であったと思いますけれども、ただいま御指摘のような議論がなされておるわけでございます。その際は、その当時における一つの事態から、健康に関する罪という点を論議するに際しまして、この際、その当時いわれておった状態のもとにおける公害の実態というものにかんがみまして、健康やあるいは飲料水とかその辺の個々の条章の議論において公害的なものをとらえていこう、ほかにいろいろございますが、そういうものでその事態で何かとらえていこうじゃないかということを論議をいたしたわけでございまして、当時この種の、当時としては新しい何か公害関係の条文を設けようという点の決議ができて、それは決定したわけでございますが、ただいますでに御熟知のとおり、その内容につきましてはこれはまだ未決定でおこうということで、刑事法特別部会におきましてはそのままの状況で今日に推移いたしておるわけでございます。  私どもは、今回の法案につきましては、去る五月あるいは六月であったかもしれませんが、今次の国会に提案をするという予定のもとに新たな作業を開始したわけでございまして、この刑事法特別部会におきます論議はもちろん参考にはいたしておりますけれども、今回の法案提出するに至りました経過におきましては、また別のいろいろの検討をいたした次第でございます。
  143. 横路孝弘

    横路委員 それはやはり詭弁のたぐいでして、いずれにしても公害罪の必要性について従来から刑法典の中に取り入れるかどうかということでいろいろ議論はありましたよ。あったけれども、そういう過程の中で各個別行政法規について不十分ではないかという議論がなされてきたのは間違いないし、それがやはり公害罪というものの一つの発想の基礎になっているわけです。ここで各個別法規の罰則規定が不十分だということはなかなか答弁しづらいかもしれませんけれども、じゃお尋ねします。これはおたくのほうの罰則集、このほかにもあると思うのですけれども、大気汚染と水質汚濁の関係が今回の公害罪対象になっておりますので、その点に限って、少し過去のケースについてお尋ねをしたいと思うのです。  大気汚染関係では、一応大気汚染防止法、あるいは電気事業法、ガス事業法、道路運送車両法、道路交通法、鉱山保安法、この五つが中心的なものだろうと思うのですけれども、この各法律について、大気汚染関係について立件されたケースが大体五年間くらい、大気汚染防止法の新しい法律の場合は法律施行以後、どの程度あるのか、それをお答えいただきたい。
  144. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 突然の、資料といいますか件数を言えという御指示でございますが、私の頭の中に入っておりますのは、大気も水質も現在まで検察庁の事件としては受理いたしておりません。これは先ほどお述べになりましたように、現在の大気汚染防止法とか水質関係法律は、一つの改善命令というものを前提とした罰則規定でございますから、改善命令が働かない限りは罰則の適用の余地がないという点に原因があるのではなかろうかと考えております。
  145. 横路孝弘

    横路委員 この水質汚濁関係では、ここに工場排水等の規制に関する法律から鉱山保安法、採石法、船舶の油による海水の汚濁の防止に関する法律、清掃法、下水道法、港則法、港湾法、毒物及び劇物取締法そのほか、十七本の法律がここに掲げられて、それぞれ罰則規定を持っておるわけですね。この中にはいま言ったような命令に従わないというばかりではなくて、排出基準違反に対する処罰規定を持っておる法律もあるわけですね。これはおたくのほうで出されたものだからお持ちだろうと思いますけれども、この水質汚濁関係についてやはり全然一件も立件されておられませんか。
  146. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 ちょっと具体的な数はここに持ってきておりませんが、港則法であるとか清掃法につきましては受理事件がございます。
  147. 横路孝弘

    横路委員 そうすると、あとの工場排水等の規制に関する法律とか船舶の油による海水の汚濁の防止に関する法律、この辺のところが中心だろうと思うのですけれども、こういう法律についてはいままで一件も立件されたケースはない、こういうように承ってよろしいですか。
  148. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 おそらく一件も受理していないと思います。
  149. 横路孝弘

    横路委員 そこで一つこれは具体的なケースなんですけれも、三重県の四日市の日本アエロジル株式会社について、これはアエロジルを製造している中で塩酸を含む洗浄の廃液の混合液体を四日市港に流出せしめたということで、港湾法、港則法等の法律違反でもって捜査されて、これは不起訴にしているわけです。結局これは不起訴にはなっているのですけれども、それは犯罪事実がなかったということではなくて、起訴猶予なんですね。犯罪事実はあったけれども、情状により猶予しているというケースなんです。この事件の経過を若干御報告いただきたいと思います。   〔田中(伊)委員長代理退席、小澤(太)委員長   代理着席〕
  150. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 これも具体的ケースについての突  然の御質問でございまして……。
  151. 横路孝弘

    横路委員 法務省に知らせてありますよ、政府委員のほうに連絡してありますよ。
  152. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 いま資料を持っておりませんが、この四日市の日本アエロジル株式会社につきましては、最近港則法違反事件で起訴猶予という処分をいたしております。これは私の記憶に関します限り、港則法の廃油その他云々という例示規定がございますが、その例示規定との関係一つ法律問題もあったわけでございます。その点は積極的に踏み切って、ただその後の情状にかんがみて起訴猶予にしたというふうに理解をしております。
  153. 横路孝弘

    横路委員 それは何でもかんでも起訴して、全部処罰してしまえなんということは私は言いません。言いませんけれども、いまのお話を聞いておりますと、立件されておるケースというものは非常にまれなケースなわけですね。二十何本の法律の中で、こういう法律が過去にありながら、ほとんど罰則の適用というものはしておられない。これはそういう実情の中で立件されたまれなケースの一つだろうと思います。ところが、そういうケースについて情状によってということで、これはいろいろな事情があったようでありますけれども、やはり科学的な問題が中にあって、当初の予想を越えて何か出てきたというような予期せぬできごとだったらしい。しかし、公害というものは大体そういうものなんですね。故意犯でもってやっておるケースというものはこれからだんだん少なくなっていくわけです。だからそういう意味で、公害関係法案についてはきびしくやはりやっていくべきじゃないかというふうに私は考えるわけなんです。  そこで小林法務大臣に、このケースはお聞きになっておられないかもしれませんけれども、こういうわずか立件されたケーースが次から次に起訴猶予にされていくということでは、今後公害罪がたとえ成立したとしても、非常に大きな問題が出てくるわけです。これはこの間も畑先生のほうから質問がありましたけれども、処罰のいわゆる責任者、行為者、この問題なんかも、大きな工場になればなるほど一体だれがほんとう責任者かというのがよくわからない問題なんで、そうすると、これは情状を考えて起訴猶予なんというケースが出てくるのじゃないかということは十分考えられるわけです。そこでこういう公害犯罪についての起訴するしないの一つの基準というふうなものでしょうか、これはほかの窃盗なり何なりは一応過去の経験もありますから、大体こういうものは起訴されるだろうとか起訴猶予だろうとか、いろいろな要素がある。示談されたとか、被害金額がどうだとか、過去の件数がどうだとかいうようなことかあるわけでありますけれども、そういうような一つの基準みたいなものをきびしくして、各検事に対して指示していくということが必要じゃないか。その捜査なり起訴するしないの処分にあたって一体どういうことをお考えになっておられるのか。先ほどのお話ですと、会同をやっていろいろと打ち合わせをしたということでございますけれども、その際やはりこういう話がなされているのかいないのか、その辺のところをひとつ伺いたい。
  154. 小林武治

    ○小林国務大臣 新しい法律ができる、そういうことになれば、これは検察部内の話になると思いますが、当然処理方針あるいは基準、こういうものをおつくりになるのではないかというふうに私は考えておりまするし、またその必要があろうというふうに思っております。
  155. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 私が先ほど水質、大気がないというふうに申したわけでございますが、これは公害対策基本法系統の法律について申したわけでございまして、そのほかのいわゆる公害事犯に適用し得る各特別行政法規につきまして全然事件がないわけではございません。すでに御承知と存じますけれども、最近におきましても、前橋におきましては鉱山保安法違反で起訴いたしておりますし、大津におきましては清掃法違反、宇都宮におきましては毒物及び劇物取締法違反、岡山においてもやはり同法違反というようなことで、個別個別のケースにつきまして、それぞれ処理をいたしておるわけでございます。
  156. 横路孝弘

    横路委員 その行政法規と関連をして、こういうことを議論されたかどうかだけでけっこうなんですけれども、結局問題なのは、発生源対策が問題で、公害罪はやはり一般予防の効力、しかもそれは十分あるかどうかも疑わしいと思うのです。そうすると、やはり各特別法の罰則を強化していかなければならぬと思うのです。この公害罪のつくり方にしても、法案の作成のしかたにしても、そういう各特別法規の罰則を強化をして、いわばその違反を形式犯として処罰をする。その結果的加重犯として処罰をしていくというような規定のしかたというのもあって、私はそのほうがより効果があるのじゃないかというように実は考えているわけなんです。その辺のところを、いま公害罪という形で出されているわけですけれども、そういう検討というものを法制審議会あたりでやらなかったのかどうか、それだけちょっとお尋ねします。
  157. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 先ほど申し上げましたように、刑法の全面改正のほうの刑事法特別部会におきましては、多少は議論をいたしておりますけれども、ただいま御指摘のような御議論は、そんなに深くはされていなかったと思うのでございます。しかしながら、考え方といたしましては、各行政取り締まり法規の罰則を強化あるいは整理して、さらにそれの結果的加重犯を設けたらどうかというようなお考え方はもちろん一つあろうかと思いますけれども、しょせんはやはりこの行政法規は一つの行政規制というものを担保するための間接強制という性格を持っておるわけでございます。やはり刑事犯的、自然犯的な性格をもって評価すべき事態に対しては、本法案のような刑事犯的、自然犯的なとらえ方をすることが適当であろうと考えたわけでございます。
  158. 横路孝弘

    横路委員 今度は刑法典のほうなんですけれども、刑法のほうを考えてみても、業務上過失致死罪とかあるいは傷害罪とか、ときによっては殺人罪だって、そのほか飲料水に毒物を入れたとか、いろいろ規定があるわけですね。これもやはり適用し得る余地というのはあるのかないのか。非常にこれは大きな問題なんですけれども、従来四大公害といわれている水俣、阿賀野川の水銀、あるいはイタイイタイ病、あるいは四日市公害、これらは民事訴訟でいずれも大きな問題になっておりますけれども、こういう事件について刑法の適用ということを考えなかったのかどうか。あるいは何か捜査でも始めたことがあるのかどうか、その辺のところはどうですか。
  159. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 これは具体的事案のうちで、四日市は別でございますが、阿賀野川、水俣につきましては、それぞれ捜査当局におきまして、当時もちろん事情は調査をいたしたのでございます。しかしながら、当時の一つの科学的知識と申しますか、そういうものを前提といたしますと、この因果関係というものがやはり確定し得ないということで、調査はしたけれども、犯罪の捜査として捜査を開始するまでには至らなかったという事情にあるわけでございます。
  160. 横路孝弘

    横路委員 そこで、これらの四大公害を含めて、こういう公害に業務上過失致死傷罪が適用できない、そういうふうにお考えになって公害罪という形で出されてきたのだろうと思いますけれども、適用できない最大の理由というのはどの辺にございますか。
  161. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 まず何よりもこれは因果関係の問題であろうと思います。それと、申すまでもなく、ただいまお話がございましたように、この業務上過失致死傷罪は、結果発生後の問題でございますから、この法案におきましては、その前の段階処罰対象にするというのがこの法案趣旨でございます。
  162. 横路孝弘

    横路委員 そこで、たぶん何回も議論されていることだろうと思いますので、簡単にお尋ねしたいと思いますけれども、これらの法案のいわば構成要件該当の問題ですね。その「危険を生じさせた」というのが一体何を意味するのかということです。それが、たとえば具体的に捜査を始めていくにあたっての捜査の端緒といいますか、そういうものを一体どこでつかまえるのかということが実は非常にむずかしい問題で、全国あちこちに全部監視網でも張らしておいて、毎日毎日いろいろなものをはかって、これはあぶないとか、どうだとか——刑事捜査だということなら別ですよ、そうでないとすると、この間の議論の中では、プランクトンの汚染ではだめで、魚介類の汚染でもって危険が生じたのだというふうに、つまりその時点で構成要件が該当されるということだろうと思うのですが、そうするとカドミウムなりあるいは水銀なり、一体どの程度の排出の場合に該当性が出てくるのだという科学的な基準というものは立てるととができますか。
  163. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 これは生命身体に危険な状態というものが、どういう客観点な、科学的な一つの基準で定まるかという問題に帰着すると思うのでございます。これにつきましては、これは具体的事案事案によって認定されていくべき問題であろうと思います。具体的事案、状況によってそれぞれ違うわけでございます。かりに排水なら排水というものを考えました場合に、川に排出したらどれだけなら薄められるとか、そういう事案事案の状況によって変わってくるわけでございますけれども、大もとの物質の致傷量であるとか致死量であるとか、こういうものは客観的に科学的に認定されていかなければならない問題である。それを具体的な事案について適用して考えていく。こういうふうに考えておるわけでございます。
  164. 横路孝弘

    横路委員 ですから結局、その大もとのところの排出の段階で常に監視をしておかないと、「危険を生じさせた」ということで——いまの業過の場合は、実際に人身に被害が発生しなければこれはできない、確かにそうなわけですね。それがこの規定からいうとそうはなっていない。その前の段階だというようにおっしゃるけれども、現実にはやはり何か被害の発生というものがなければ捜査の開始というものはできないでしょう。それはどうですか。
  165. 小林武治

    ○小林国務大臣 私は横路さんのお話をいろいろお聞きしておりまして、まだ未熟な考えでありますが、私はこれから政府公害監視官というふうなものをひとつつくったらどうか。工場監督官とかあるいは鉱山保安官とか、みんなありますが、そこまで監視をするという機能を持つことが必要である。それからきのう畑委員からもお話がありましたが、工場の中にも公害管理者というふうなものを私は政府全体として特定させる。そういうことになれば、犯罪責任者も出てくるし、その者はふだんから自分の会社の公害というものについて監視をするということになろうか。したがって、それも私はいま提案をしておるのでありますが、さらにこれがこれだけの問題になれば、政府としても公害監視官というふうな制度をひとつつくったらどうか、私はこれからそういうことを持ち出すつもりでおります。
  166. 横路孝弘

    横路委員 それは非常にけっこうなことです。ただ、その公害監視官をつくる場合には、これは各個別法規についてきちんと排出基準みたいなものをつくってやらぬと、監視官を置いたところでだめなわけですね。だから問題は結局そこに帰着するので、先ほどお話ししたように、法務省に同情しているのだということを申し上げたわけなんです。結局そこにいかないと、こういう公害罪の一般予防効果でもって押えるといったって、それはなかなか実際に企業には効果がないと私は思うのです。  そこで、いまの監視官、それはできればけっこうですけれども、それをちょっとこちらのほうに置いておいて、じゃ現実に捜査の端緒というものはどうするかといえば、ここで刑事局長のほうにお尋ねをいたしますが、これはやはり実際に被害が発生しなければ捜査の端緒はつかむことができないのじゃないかというように考えますけれども、どうですか。
  167. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 危険犯一般に共通の問題であろうと思うのでございますけれども、この公害罪ができました場合には、これは付近の住民の申告というようなこともございましょう。それから関係の監督行政庁の調査の結果の告発というようなこともございましょうし、また同種の物質により一つの危険が生じておることが明らかになりました場合に、他の地域で同じもので危険が生じているのではなかろうかというような観点から、調査を開始するということも大いに考えられるわけでありまして、必ずしも具体的な実害が出て初めて捜査が開始されるというふうに限ったわけではないと私どもは考えております。
  168. 横路孝弘

    横路委員 そうすると、その実害が発生する前に捜査を開始しようということになれば、先ほど個別ケースによるのだというお話だったけれども、やはりカドミウムについてはどのくらい、たとえば米なら米の中に含まれるカドミウムの量がどれだけだとか、水の中に含まれる水銀の量がどれだけだというような基準というものが、やはりある程度なければならぬわけですね。それがあって、先ほどあったような常時監視体制がとれれば、具体的な危険が発生しなくても、それは捜査の端緒になるでしょう。いま現実に、たとえばことしの七月七日に、厚生省のほうの調査によると、群馬県の岩井地区ではカドミウムの濃度が〇・六PPM、長崎のあるところでは〇・五二PPMで、これは厚生省の環境基準をはるかにこえているのだ。生活環境基準というのは、これは政府によると行政の目標なんだということをおっしゃっているわけですから、生活環境基準値がこえた場合は、やはりある程度危険が生ずる状態になったということが言えると思うのです。その生活環境基準値あたりを基準にして考えるということはどうですか。
  169. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 御指摘のとおり、各有害物質ごとに、それぞれの致傷量あるいは致死量というものが基準になって、危険な状態というものが各事案ごとに認定されていかなければならないと思うのでございます。たとえば硫黄酸化物については何PPMの状態で何時間そういうものがある状態であるとか、シアンならば何PPMの濃度のものがどうでなければならぬということはもちろん前提にして、この危険という状態が認定されていくわけだと考えておるわけでございます。
  170. 横路孝弘

    横路委員 そこでもう一つ。業過が適用できない。その適用の困難さということで因果関係の問題をおっしゃったわけですけれども、この公害の問題を考えてみると、山の中にぽつんと工場一つあるとかというようなケースもあるでしょうけれども、これから先やはりだんだん工場地帯は工場地帯としてまとまりを見せて、現実に千葉県から大阪あるいは瀬戸内を通してもうコンビナート集団ができる、あるいは工場が密集しているわけですね。そうすると、たとえばそういう地域での大気汚染にしても工場排水の問題にしても、やはりこれは因果関係の問題として考えてみると、それはもう公害罪だって同じような困難さというものは、業過の場合と同じように持っているのじゃありませんか。それはどうですか。
  171. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 これはしばしば私ども説明をいたしておるわけでありまして、いわゆる複合公害——複合公害ということばが不正確でございますので、正確に私どもの理解しておる、前提としております状態を申し上げますと、多数の工場事業場がそれぞれ無関係に有害物質を排出しておる。その個々的な工場事業場ごとの排出を一つ一つとればもちろん人の生命身体に危険な状態には至らない。しかし、他のものと結果的に一緒になって、結果的には人の生命身体に危険な状態になるという場合を、私ども一応複合公害と申しておりますが、その複合公害につきましては、本法案の条項は適用されない。これは一人のものでこういう状態をつくったということを前提にいたしておるわけでございます。このいわゆる複合公害につきましては、これは行政規制をもってその防止に当たっていただくというのが、この法案趣旨でございます。
  172. 横路孝弘

    横路委員 そうすると、この公害罪はいわば工場地帯にはほとんど適用されないということになりますね。
  173. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 ただいま申し上げましたように、工場地帯で工場がたくさんありましても、その工場一つでこの状態をつくり出したというふうに評価される限りは、この法律が適用されるわけでございます。
  174. 横路孝弘

    横路委員 そこで、いまのお答えの中から違法性の問題が次に来ると思うのです。つまり違法性の問題を考えてみると、許された危険というようなことも最近いわれておりますけれども、たとえば一酸化炭素にしても亜硫酸ガスにしても、それが人の健康に有害だという認識は一般化しているだろうと思うのです。工場だってこれを知って出しているわけですよ。その場合に、企業はたった一つしかないと仮定して、環境基準値ないしは特別法規を順守していてなおかつぜんそくが発生した。企業はたった一つしがなくて、そこで亜硫酸ガスを出している、それでぜんそくなり何なり発生したという場合でもいいわけですよ。工場の廃液の場合でも同じでありますけれども、この法案故意なり過失というものを違法性の問題から考えてみた場合に、一体この法律が適用できるかどうか、基準を順守をしていたという場合に。これはどうですか。
  175. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 ただいまの御設例の、一つ工場が排出基準を順守しておって危険な状態になるということは、事実上絶対にあり得ないわけでございます。排出基準というのは、多数の工場事業場があること、そのことを前提にして、各工場ごとに排出基準をつくっておって、それが集まって計算した環境基準に達するといいますか、環境基準が守られていくような前提で排出基準が定められているわけでございますから、いまの一つ工場で排出基準を守っておってかつ危険な状態になるという場合は全然考えられないわけでございます。
  176. 横路孝弘

    横路委員 昭和四十四年十月十三日に東京都においてばい煙の発生施設が大気汚染防止法に合格するかどうかというような調査をしたことがあるのですよ。九千八百カ所のうち不合格は幾つだったと思いますか。わずか十一ですよ。あと全部合格しているのです。それでなおかつ都内の亜硫酸ガスは環境基準をこえているところがあるわけでしょう。一つの場合というのはたとえ話をしたので、そこをとらえて、ことばじりをとらえてどうこう言われると非常に心外なんで、環境基準値は幾ら合わさったってだいじょうぶだなんという、そんな認識では、これは公害はどこにだってないですよ。川崎のあそこの地区だって、みんな調査してみれば大気汚染防止法による基準は守られているのですけれども、なおかつ発生しているわけです。そういうのが実情なんですよ。少し認識を改めていただきたいと思うのです。  そこで、そういう基準を守っていて、そういう結果が発生したという場合に、違法性はやはりあるということになりますか。
  177. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 全くの理論の問題として申し上げます。  排出基準を守っておって危険な状態を生ぜしめたという、そういう全く抽象的な理屈で申し上げますと、その場合には、やはり通常の場合にはこれは犯意または過失を阻却する、それで犯罪は成立しないというふうに考えております。
  178. 横路孝弘

    横路委員 結局そういうことになるわけですね。結局、基準が定められているものについて、それがやはり一つの違法性の判断の基準になっていくということになるわけですね。   〔小澤(太)委員長代理退席、田中(伊)委員長代理着席〕 そうすると、この工場地帯の現状、しかも複合公害に対処できない、いまのこの違法性の問題も出てくる。因果関係の問題、違法性の問題ですね。そうすると、一体この公害罪が適用されるようなそういう地区がどの辺にあるか、私ははなはだ疑問になるわけなんで、法務大臣が答えたように、一般予防の効果しかない、こういうことにやはり帰してしまい、結局はやはり各法規のところをきびしくしなければどうしようもないということになりませんか。
  179. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 必ずしもさようにはならないと思います。たとえば四大公害といわれておりますうちの四日市は、たまたま御指摘のような事態であろうと思うのでございますが、それ以外の事例、この事例が当たるとは私は言いませんが、このような事例に類するようなものが将来起きました場合には、本法案対象になるというふうに私は考えておるわけでございます。
  180. 横路孝弘

    横路委員 それは水銀とかカドミウムとかすでに発生したものについては企業もこれから考えるでしょうから……。ただ未知の公害というのがあるわけですね。そうするとやはりそれは因果関係の問題なんか起きてくるわけでしょう。科学的な問題が出てくるわけですね。そうすると、一体公害罪が適用になるかどうか。これはほぼ工場地帯ではまずだめですね。そうするとほんとうに山の中にぽつんとある一つ企業くらいしか対象にできないんじゃないかということになるわけですね。そうすると、こういう法律は一体何の実効性があるかということになるわけです。しかし、そう言ってもあれですから、少し条文についてもやはり歯どめもしておかなければならぬと思うのですが、第二条の一項の「公衆生命又は身体に危険を生じさせた」という「公衆」というのがありますね。これは範囲はどういうことになりますか。
  181. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 本法案の場合は、この「公衆」は不特定かつ多数の人というふうに理解をしております。
  182. 横路孝弘

    横路委員 そうすると、たとえば法律の用語として公衆、多数人というような使い方があるわけですね。不特定多数ということになると、これはかなり広い範囲になりますね。  そこで、これも法制審議会の議論の中でこういうケースが紹介されているんですね。北九州に何か調査に行ったらしいんです。その北九州に調査に行ったときにばいじん公害一つとして、セメント工場の煙突及び製品の積み込み場から飛散するセメントによる公害が問題になっている。セメントの性質上そう遠くまで飛ばないし、被害の区域は工場周辺の特定の区域に限られている。セメントはじん肺にかかる危険性を持つ健康に有害な物質であり、したがってこれは公害になるじゃないか。この対象になると思うのですね。そうすると、この「公衆生命」、いわば不特定多数が要件であるとするならば、そういう工場周辺の一地域に限っての公害については、これは対象にならないということになりますね。それでよろしいですね。
  183. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 私は不特定かつ多数と申し上げておるわけでございまして、その解釈からすれば、いまの一工場付近の被害というものについてはむしろ適用になる場合が多いと思います。
  184. 横路孝弘

    横路委員 そうすると、これは多数人というのとどういうぐあいに違ってきますか。
  185. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 それはいまお読みの議論のときにも一、多数人と公衆というのとどちらにしようか、語感の問題とかそういうこともいわれておるわけでございますが、この「公衆」といいますのは、何回も申し上げますように本案の場合には不特定かつ多数の人ということでございます。
  186. 横路孝弘

    横路委員 そこで、ちょっと責任の問題を抜かしておりましたので、お尋ねしたいと思いますけれども、森永のドライミルク事件というのがありますね、業務上過失致死で起訴。これは実に昭和三十年に起訴をして、それからもうすでに十五年たってまだ徳島地方裁判所に係属中、最高裁へ行って破棄差し戻し、また現在徳島地方裁判所に係属しているわけですね。十五年延々とやっているわけですけれども、この責任のとらえ方が非常におもしろいといいますか参考になると思うのです。この責任の問題、議論されていると思うのですけれども、いわゆる企業組織というのがだんだん複雑化していって大きくなっていくと、一体だれが責任を負うかというのは、やはり非常に大きな問題になるわけですね。行為者を処罰するというのが刑法の原則ですから、故意犯の場合は明確になるとしても、過失犯の場合に一体だれが行為者なのかということになると、この森永ドライミルクの場合は第二燐酸ソーダというものの中に砒素が入っていたということで工場長と製造課長の二人が被告になっているわけですね。本来からいうと、その第二燐酸ソーダを仕入れた際の検査の問題が問題になっているわけなんで、そうすると一番の直接の担当者というのは、その取引をした者が担当責任者ということになるわけですね。工場長というのは、これはいわば監督責任みたいなものですね。製造課長の場合は、そういうものの検査をしなかったということで責任を問われているわけなんです。そういうことをずっと突き詰めていくと、そういう監督責任ということで考えれば、これは法人の代表者、代表取締役の一般的な監督責任ということもあるわけですね。その辺のところを一体どういうぐあいに区別をしていくのか。これはこういうぐあいに質問すれば、具体的なケースに当たらなければわからぬということになると思うのですけれども、どうもこの法案を見ると、やはり現場の末端の人間が処罰対象になるということになるわけです。   〔田中(伊)委員長代理退席、委員長着席〕 そこから、責任者をきめろ——しかし責任者といったって、いわば処罰される者をきめろということになって、なかなかこれはむずかしい問題なんで、その辺の責任の問題というものを一体どういうように今後お考えになっていくのか。とりわけ公害犯罪ということになれば、これは大工場がやはり大きな問題になってくると思うので、その辺のところをどういうぐあいにお考えになっているのか、お答えいただきたい。
  187. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 この本法案のいわゆる行為者でございますが、これは第二条にございますように、工場または事業場における事業活動に伴って人の健康を害する物質を排出した者でございます。したがいまして、先ほどおことばにもございましたように、もとより具体的事案によって異なってまいりますけれども、一般的にいいまして、工場長その他これに準ずる地位にある者等のごとく、工場または事業場における事業活動、特に排出に関する業務について何らかの責任のある立場にある者がこれに当たるというふうに考えておるわけでございまして、末端の機械的労務に従事するにすぎない者は、一つの上司の命令として、労務して動いたということで対象にならないというのが多いであろうと思うのでございます。もっとも末端の方であっても、自分が当然責任を負うべきバルブを締め忘れたというような事案については、それはもちろんその人がなる場合があろうと思いますけれども、一般的に申し上げますと、ただいま申し上げたとおりになるのであろうと考えております。
  188. 横路孝弘

    横路委員 そうすると、この第二条の一項、第三条ですが、これは第四条の規定があるからなんですけれども、ここに代表取締役が、法人の代表者が入るという余地はないわけですね、この主体の中に。
  189. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 行為者がその法人の代表者である場合もあり得ると思います。
  190. 横路孝弘

    横路委員 たとえば、何らかの保安設備をすればそういう排出を防ぐことができる、ろ過ができるということについて、たとえば現場から意見が上がっていったのを重役会で拒否をしたなんという場合は、やはり当然その人間がある意味で不作為犯みたいなもので責任の主体になるということもあるわけでしょう。
  191. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 ただいま御指摘がございましたように、不作為犯というおことばがございましたけれども、この法案の二条、三条の罪は作為犯でございます。この「排出し」ということに当たる限り、この行為者になるということでございます。
  192. 横路孝弘

    横路委員 たとえば設備をすれば——要するに設備の設置を怠ったというような場合はだれが責任者になるのですか。行為者になるのですか。つまり当然ある設備をすれば排出を防げた、カドミウムにしても水銀にしても。そういうものを怠ったという場合は、これは工場長の責任とは考えられないでしょう。それはやはり会社全体の責任になるのじゃないですか。そうして現実の問題としては、そういうケースというのは十分考えられるし、その辺のところを取り締まらなかったら意味がないのじゃないかというように考えるわけですが、どうでしょうか。
  193. 辻辰三郎

    ○辻政府委員 これは一般の刑法理論の適用の問題であろうと思います。この法案に関する限りはこの排出するという一つの作為犯でございます。かりにその会社の方針がこうであったという場合でありましても、やはり排出責任者は排出責任者の立場において行動すべき場合もあろうと思うのでございますが、いまの御設例の場合は刑法の一般論を具体的事案に当てはめて判断されるべき事柄であろうと思います。
  194. 横路孝弘

    横路委員 法務大臣連合審査の席上、公害罪法案というのはともかく不備な点がたくさんあるということはお認めになって、将来改正をしていきたいというように御答弁になったように聞いておりますけれども、それは間違いございませんか。
  195. 小林武治

    ○小林国務大臣 いろいろこれが適用にならぬ、あれが適用にならぬと御指摘になった、そういう不十分なところはあるが、いま考えられる案としてこれが一番よい案であろう。したがって、今後この法律の適用とかあるいは公害というものの推移、こういうものを見て将来補完をしていくべきであろう、そういうふうに申しておるのでございます。
  196. 横路孝弘

    横路委員 時間が来たからやめますけれども、時効の問題とか、それから例の構成要件の問題で、削られたいわゆる「おそれ」の問題ですね、その複合公害の問題、そのほか考えると、これは問題点が非常にたくさんあるわけですね。審議の過程の中でだんだん明らかにされてきたのじゃないかと思うのです。そういうことを踏まえて、なおかつやはり不備な法案だと思いませんか。私は、将来だんだん改正したいというお話だったんですけれども、法案を出される段階で、やはり不備な点もあるので考えていきたいなんというような法律案ならば、最初から出さないほうがいいのじゃないかというように考えるわけですけれども、いかがですか。
  197. 小林武治

    ○小林国務大臣 私はこれが不備とかなんとか——いまの段階ではこの立法が一番適当である、しかし、いまのいろいろの複合だとか、あるいは処罰対象になる管理者とか、あるいは時効とか、いろいろなことはみんな議論はいたしております。しかし、今日の段階ではこれでやる以外にないということを言うておるのでありまして、あるいはことばが、不備とかなんとかそういうふうな不十分な点は、審議段階においても十分に究明された、しかし今日の段階ではこれが最善である、こういうことでございます。
  198. 横路孝弘

    横路委員 そうするとやはりこれは論理的にはおかしいので、不備な点が審議の過程で明らかにされたならば、それはやはり直すべきじゃないのですか。そういう点を法務省のほうも、いわば提案者としても考えるべきじゃありませんか。それがこの国会の審議というもので、何でもかんでも最初から出したものを通すのだというのでは、これは審議の必要がないわけです。
  199. 小林武治

    ○小林国務大臣 そう言われれば、私は正直に申しておるが、法律というものが初めから完備して出せればいいが、いろいろ規定は問題になる事項があるが、この段階においてはここに包含されることが適当でないということであるから、結論的にはこの段階ではこの法律が一番いい案である、こういうことになります。いろいろ言われて、完全無欠かといわれれば、いろいろな問題が経過においてあったが、いまはこの法律が最善である、こういう考え方でございます。
  200. 横路孝弘

    横路委員 これでやめますけれども、その、完全無欠かといわれれば欠陥があるというようなものじゃないですね。それはもう審議の過程の中で明らかになったのじゃないですか。やはりあまりにもこれは不備が多過ぎる。皆さま方苦労されてつくられたことは十分わかるけれども、そういうことで私たち野党のほうから修正案も出しておりますので、あとはいろいろ話し合いになると思うのですけれども、この審議の過程の中で出されてきた問題というのもやはり十分承知をされて、通った場合には今後の運用の中に生かしていただきたいというように考えます。  終わります。
  201. 高橋英吉

    高橋委員長 本日は、この程度にとどめ、次回は、明九日午前十時理事会、十時三十分委員会を開会することとし、これにて散会いたします。   午後四時三十五分散会