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鈴木強君 私は、
日本社会党を代表して、ただいま議題となりました
昭和四十五年度予算三案に対し、反対の討論を行なうものであります。
本特別国会の再開冒頭に行なわれた施政方針演説におきまして、
佐藤首相は、七〇年は内政の年であり、人間尊重の精神に基づいた社会の調和ある発展の諸施策を進めるために、民主主義の擁護、教育の刷新充実と社会道義の確立、社会開発の推進と社会保障の充実、
国際的視野に立った経済政策の運用、農業の近代化、特に総合農政の積極的展開及び物価の安定という六つの柱をたて、これを七〇年の国家目標として、それぞれ重点的に取り組む旨の所信を明らかにされました。
また、福田大蔵大臣は、財政演説のなかで、「七〇年代は経済成長の質的
内容を高めるべき時代」で、当面「特に物価の安定は、調和のとれた
国民生活の向上を実現するために不可欠なものである」と言い、七〇年代の第一年に当たる
昭和四十五年度予算の編成にあたっては、特に「財政面から経済を過度に刺激することのないよう配慮」するとともに、「税負担の軽減をはかった」旨を強調されました。
しかるに、その後、国会に提出された四十五年度予算三案を検討し、さらには前後一カ月間にわたる本
委員会の
質疑応答にかんがみますと、あの堂々たる施政方針演説も財政演説も、実はその場限りの単なる美辞麗句にすぎなかったのかと、いまさらながら驚いている次第であります。
以下反対の理由を申し述べます。
その
一つは、
佐藤内閣の政治に対する基本姿勢、特に現状認識の甘さと数々の公約違反についであります。
すでに六〇年代の後半において、
国民総生産で世界第三位といわれるまでに量的拡大を遂げた
わが国の経済が、七〇年代においてなすべき課題は、経済成長の質的
内容を高めることであり、それには消費者物価の安定をはじめ、社会資本、特に住宅、
道路等生活関連諸施設の充実、農業、中小企業の近代化及び公害、交通難、過密過疎現象などの諸問題の解決を急ぐとともに、他方で
貿易、資本両面での自由化を促進して、
国際的要請にもこたえなければならぬことは、申すまでもありません。ただ、問題は、
政府がいうところの内政の年の年度予算において、これらの諸要請に対し、はたして適切な財政措置が講じられているかどうかという点でありますが、率直に申して、ノーと答えざるを得ないのを遺憾とするものであります。
政府は、この新年度予算案を、景気警戒の中立型予算と自賛しているようであります。なるほど、予算編成前には、物価安定会議や財政審議会などから、総需要抑制の必要が強調され、そのため、大蔵原案の段階では、幾らか景気刺激への配慮にくふうのあとがうかがわれたのでありますが、しかし、それも、
政府、与党及び財界や圧力団体をめぐる復活要求、俗にいう予算ぶん取り合戦の中で、後退また後退の修正を余儀なくされております。
すなわち、
政府案では、大蔵原案に比べて、一般会計の規模こそ変わってはいないのですが、財政投融資計画を大幅に膨張させて、景気過熱的性格を一段と強めるとともに、新たに、米の生産調整対策、公共事業及び恩給等の面で、明らかにうしろ向きとみられる財政支出を計上することによって、財政の硬直化要因を招いております。この結果、決定された新年度予算案の性格は、
政府みずからが第一義的政治課題として重視したはずの物価安定の政策目標はどこか遠くへ追いやられ、むしろ物価値上がりを助長するインフレ促進型膨張予算の登場となっておるのであります。
政府の託宣を待つまでもなく、物価問題はいまや
国民生活にとって最大の問題になっております。最近の消費者物価の連続的な上昇は、
国民の生活を圧迫し、将来の生活設計を灰色のものにしています。昨年一年間の消費者物価の動向をとってみても、その上昇率は五・八%にも及び、また、年度末には、
政府の改定見通しの五・七%をも大きくこえて、六・四%にも達しているのであります。しかし、激しい物価高と重税にあえぐ一般庶民の生活実感からいえば、いまの物価は一〇%以上にも上がっているというのが実情であります。打ち続く物価の異常な値上がりに、
政府は、去る四月一日物価対策閣僚協議会を開いたが、これまでの作文や物価問題懇談会、物価安定推進会議などの提言にも及ばないおざなりのものであります。確かに、総需要の調整、低生産性部門の構造改善、行政介入の再検討、大企業寡占価格など、
指摘された問題点は幾つかあったようですが、これらを有効な物価安定生活に生かすことは、真に消費者大衆の側に立った価値判断がなければ不可能だと思うわけであります。
佐藤首相は、就任以来、事あるごとに、物価安定を最重点に置くと言い、七〇年は内政の年と喝破された施政方針演説においても、この点を強調されておりますが、
佐藤内閣発足以来、今日までの五年間に、消費者物価の上昇が実に三二・六%に及んでいることも、とくと御記憶を願いたいのであります。これは昨年末のことでありましたが、物価問題には内閣の生命をかけて取り組むと言いながら、総選挙が終わった時点で、にわかにタクシー料金、医療費、通運料金などの値上げを認めたのみか、最近に至って、私鉄運賃、バス料金など、公共料金が一斉に値上げ機運を盛り上げている状況に対し、
政府として、いまだはっきりした
態度、方針を示していない点は、一般
国民に何か割り切れない
感情を与えております。
こうしたことは、
国民の間に政治
不信を醸成するゆえんでもあり、ひいては
日本経済の将来に暗い影を投げかけることでもありますので、この点を
指摘して強く反省を求めるとともに、物価安定が最大の課題だという
政府の公約に偽りがないのであれば、この際、まずみずからの姿勢を正し、勇断をもって物価安定の具体策を作成して、これを実行に移すべきであります。
反対理由の二つは、新年度予算の中でいま
一つ重大な問題は、六十年代から持ち越してきた古い政策課題に、いまなお多額の財政資金が支払われていることであります。
たとえば、食糧管理特別会計の赤字に直接つながる問題ですが、農林予算の中に総合農政の重点施策として米の生産調整対策費が計上されております。八百十四億円からの巨額の財政資金を投入して、百五十万トン以上の減産を
予定しておりますが、その計画実現の可能性ははなはだ暗いと思います。
政府において、この生産調整策が確かに実効をあげるという確信があり、また、そのための経費も今後漸減していくというはっきりした見通しがあるのであれば、八百億円が千億円であっても納税者を納得させることができましょうが、転作にも期待できない、離農促進にも名案がないというのでは、あまりにも無責任な計画と言わなければなりません。
問題は、米作転換奨励金にせよ、離農年金にせよ、いずれもうしろ向きの農業切り捨て政策でありまして、あすの農業への展望を切り開くものではないということであります。
政府が期待するように、この減産計画が、農業の構造改善と
日本経済の効率化につながり、さらに財政硬直化が打開されるという一石二鳥、三鳥の効果をねらうからには、それなりの首尾一貫したビジョンがなければなりません。その場その場の御都合主義で動いているかに見える
政府の計画立案に対しては、むしろ「食管制度は堅持する」という公約を厳に守るよう、強く要望しておきたいと存じます。
同じことは、地方財政計画に対しても言えることであります。今回もまた、地方交付税交付金の年度間調整、補助金をどうするか等の根本策は見送られ、逆に、国の地方に対する三百億円の交付金借り上げといった好ましからぬやりくり算段が行なわれております。この借り上げは、財政硬直化打開が強く叫ばれ出した四十三年度予算から始まっておりますが、以来毎年同じことが繰り返されて、その現在高は九百十億円にのぼっております。この金は、いずれ国が地方へ返済しなければならない金額ですが、四十六年度以降に制度の改革でもない限り、地方財政は、財政全体の基盤を掘り荒らされる要因になりかねない
状態であります。
こうした役人同士のなわ張り争いを避け、国と地方の財政を一体的に運営したいものですが、それには、二十年も前にきめた
中央と地方の事務、財源の配分を根本から再検討すべきなのに、かけ声だけで何らの成果もあがっていないのは、
政府の怠慢無能のせいであり、懲罰に値する重大問題だと考えます。
佐藤首相は、施政方針演説の中で、七〇年に対処する内政の柱の第一に民主主義の擁護の必要性を強調し、行政の能率化、裁判の迅速化、国会運営の正常化を具体的な目標にあげておられます。言やまことによしと言いたいところでありますが、皮肉なことに、これらの目標は、いずれも
政府の怠慢か努力の至らなさのために、改革がたな上げになっている問題ばかりであります。たとえば行政機構の簡素化でありますが、三十九年に
佐藤内閣が誕生した当時から重要施策の
一つにあげられ、臨時行政
調査会の答申尊重とその実現を公約されてきましたが、その後の五年間の足どりを顧みますと、わずかに総定員法の成立があげられるくらい。その総定員法すらが、目標とする一省一局削減の実をあげ得ないまま、半ば空洞化しているのであります。
首相は、七〇年の国家目標を高い調子で
国民に押しつける前に、内閣の最高統率者として、各省の抵抗を封じていただきたいものであります。お役所の簡素化は国国のひとしく熱望するところであり、また、行政の硬直化打開が即財政の硬直化を防ぐゆえんでもありますので、この
機会に、
首相並びに各省大臣に前向きの決断を促したいと思うものであります。
以上、本予算三案にあらわれておりまする
政府の基本的姿勢等について反対の意を表しましたが、なお、若干付言しておきたいことがあります。
それは、今回の税制改正が、税負担の不公平を拡大し、重税と不公平是正を要望する
国民大衆の期待を裏切るものであるということであります。
政府は、所得税減税について、課税最低限を約百三万円に引き上げ、同時に中堅所得層を中心に高い累進税率を緩和するという税制
調査会の長期答申を完全に実施したといっておりますが、税調の長期答申は、二年前、当時の資料を基礎につくられたもので、前提に大きな相違があり、
政府の言う完全実施というのは妥当なものではなく、逆に法人税率の引き上げを、当初二%だったのを、財界や金融界の圧力で、留保所得に対してのみ一・七五%と値切り、他方で引き当て金制度の拡充をはかるなど、不公平を一そう拡大しております。
税の不満感は住民税に対しても同様で、年収百二十一万円の夫婦と子供三人の標準世帯では、所得税と地方税の課税額はほぼ二万円で均衡いたしますが、百二十一万円を下回ると所得税より住民税が高くなります。大幅減税などといわれても、
国民大衆にとってはぴんとこないのであります。
また、防衛
関係費の著しい伸び率から見て、軍事力増強政策を推し進める危険がうかがわれるのであります。防衛
関係費の伸び率一七・七%というのは、自衛隊発足以来の大幅な増加であります。しかも、
平和憲法下における自衛隊の限界や、防衛費を大幅に増額しなければならない根拠が不明確であります。
いずれにせよ、
政府のこのような
平和憲法に逆行する行き方には賛成することができません。福田大蔵大臣は、本年度予算のごろ合わせを「ナガクヨクナロウヨ」などと言っております。なるほど、資本家にとっては、確かに「ナガクヨクナロウヨ」に間違いない予算でありましょう。しかし、一般
国民大衆にとっては、この予算は、七〇年は「クルシクナロウヨ」というごろ合わせになります。ことしもまた一年間、大衆は苦しめられる予算でありますので、ここに私は重ねて反対であることを申し上げて討論を終わります。(拍手)