○大橋和孝君 私は
日本社会党を代表して、
労働者災害補償保険法等の一部を改正する
法律案につきまして、
総理をはじめ、
関係各
大臣に若干の
質問をするものであります。
最近、
わが国の
経済の高度成長によって
産業は飛躍的に
発展をし、それに伴って重大な
産業災害もまた増加の一途をたどっているのであります。大気汚染、水質汚濁、騒音、悪臭、振動等々の
産業公害はとどまるところを知らず、また、交通災害も毎年その記録を大幅に更新しておるのであります。かてて加えて、多種多様の労働災害、職業病も至るところで多発しているのであります。つい先日には、大阪市における工事中のガス爆発事故により、多数のとうとい生命が失われておるのであります。最近におけるこのような
産業発展に伴う災害の激増は、一般市民、労働者の日常の
生活をおびやかし、次第に人命軽視の風潮が
社会に蔓延していくことを私は強くおそれるものであります。こうした現状は、
政府の施策が生産第一主義であり、
産業の
発展のためには、多少の災害の発生はやむを得ないという姿勢にあるのではないかと思うのであります。人命の尊重を忘れた
社会経済の繁栄も平和もあり得ないのであります。
政府はこの際、人命尊重の重要性を認識して、
産業災害防止を第一優先施策として、
産業災害防止のための一大
国民運動を展開すべきではないかと思うのでありますが、
総理の決意のほどをお伺いいたしておきたいのであります。
次に、労働災害及び労災の補償に関して基本的な
考え方を
お尋ねいたしたいのであります。
総理は、昨年四月八日の衆議院本
会議におきまして、労働災害に対して、「経営者も勤労者もちょっとした安全確保の油断や気のゆるみが大きな災害の源となる」と
発言をしておられますが、労働災害というものは、本来、労働者のミスや油断によって発生するものではなくて、生産活動そのものの中に内在するものであります。また、労災補償は就業中の事故により、あるいは
業務に起因する被災に対して補償を必要とする期間を通じて必要な補償のすべてを行なうものであることは言うまでもありません。補償の中身は、労働者の失ったものを完全に償うばかりではなくて、被災しなければ、さらに高度な技能を習得し、より高額な収入を得たであろうことも考慮に入れた必要かつ十分な補償でなければならないのであります。今日のように、労働災害は、近代的生産機構の中では不可避的に伴うものでありますから、
法律で定められた補償を行なえば、国も使用者も免責されるという認識は誤ったものと言わなければなりません。労働者は、身体の安全が常時保障されているのであれば、補償金など一銭も当てにしていないのであります。
総理及び労働
大臣の労働災害及び労働災害補償に対する基本的な御
見解をここに伺っておきたいのであります。
第三に、今回の
法律改正の中身について
お尋ねいたします。
政府は、このたびの改正案は、ILO一二一号条約の水準を満たすものであると言っておりますが、それは単にパーセンテージのみを合わせたものであり、実態を全く無視した改正なのであります。たとえば、給付の基礎日額のとり方を見ましても、西欧では一時金あるいは期末手当という
制度はありません。
わが国の賃金水準は低く、期末手当や一時金によってようやくその
生活をささえている現状から、給付基礎日額は当然総報酬制を採用すべきであります。
次に、通勤途上の災害を
業務上とみなすことの問題であります。通勤途上の災害に関しては、現在、労災保険審議会において目下
検討中であり、その結論を待って、労働
大臣は善処したい旨の
意見を衆議院において述べられておりますが、私は、ここで
政府の意思を重ねてただしておきたいのであります。現在、ほとんどの
事業主は、従業員の通勤に対して、その通勤方法に関してかなりの配慮を行なっております。宿舎あるいは住居から
事業所までの通勤に対して、直接または委託して乗りものを供与して、作業員を送り迎えする傾向も多くなっておるのであります。少なくとも通勤に要する費用を支給するのは通例となっておるのであります。通勤費を支給することは、通勤の方法等に関して、ある
程度従業員に対する
管理権が及んでいるものと
考えなければなりません。今日の
都市における交通
事情のもとで、交通災害に毎日脅かされながら通勤している労働者のことを
考えるならば、通勤途上の災害を
業務上とみなすことに何も不都合であるとは
考えられないのであります。
事業主から乗りものの指定もしくは提供されたときは
業務上とみなされることを
考えるならば、これに均衡のある配慮も必要であると思うのであります。今日、通勤途上の災害を
業務上とする傾向は、国際的なものであり、ILO条約もこれを要請しているところであります。にもかかわらず、今回の改正に入れなかったのは何ゆえなのか、労働
大臣の御
見解を
お尋ねいたしたいのであります。
次に、通勤途上における災害の防止の対策は、直接
事業主の
責任の及ばないところである点を考慮して、これは国の交通政策の
責任でありますから、この防止策にもっと力を入れ、その費用は国で
負担すべきであると思うのでありますが、
大蔵大臣の御
見解を
お尋ねしたいのであります。
次に、今回の改正点で、障害補償年金のアップと遺族補償の引き上げがありますが、これもまた実情に合わない少額の引き上げにとどまっていることは、労働省婦人少年局が昨年発表をいたしました「労働災害遺族の
生活実態に関する
調査」の結果報告書の中にきわめて如実にあらわれているのであります。これを労働
大臣はどう
考えておられるのか、お伺いいたしたいのであります。
次に、被災労働者の
社会復帰について
お尋ねいたします。最近、心身障害者の福祉に関して、国あるいは
地方自治体においてコロニーを
建設してこれに収容すること、及びさらに
社会復帰への推進等の機運も高まっており、
政府もようやくこれに対する推進施策を実施しようとしておるのでありますが、
業務上の被災者の
社会復帰も、従来から労働
行政においては、職業訓練、雇用
促進、労働福祉
事業団による労災リハビリテーション作業所への収容等の措置がとられているのでありますが、しかし、現状の措置ではきわめて不十分であります。労働者の
業務上の災害は
事業主の
責任であることは申すまでもありませんが、国も、被災労働者の残存労働力を有効に活用する
責任もある国の
立場から
考えましても、一そう積極的に
社会復帰の推進をはかるべきであると思うのであります。そこで
大蔵大臣、及び労働
大臣に
お尋ねいたします。
現在のような労災保険による保険施設のみによる治療からリハビリテーションの範囲にとどまらず、使用者と国の
責任による治療、リハビリテーション、職業訓練、職場復帰といった一貫した
制度を確立するため、国からも施設費の大幅な
負担を
考えるべき時点にすでに達していると思うのでありますが、両
大臣の御
所見をお伺いいたしたいのであります。
次に、今回の本改正案の
内容は、
業務災害に関するILO一二一号条約の水準に達することになると
説明されておりますが、そうであるならば、本
法案が成立した場合は、
政府はすみやかに、ILO条約批准のための手続をとる意思があるのかどうか、労働
大臣の御決意をお願いしたいのであります
第四に、今回の改正案に盛り込まれていない重要な点につき二、三おたずねいたします。まず、職業病対策についてであります。近代
産業はますます大型化し、関連企業が集中する傾向が強くなり、この結果、外に対しては
産業公害、内にあっては多種多様の職業病が激発しているのであります。また、これら大企業の場合とは逆に、中小企業あるいは零細企業においても、従来その発生が予想されないような職場においても、じん肺症が発見されているのであります。たとえば、山口県下において、木材製造業者の中からじん肺症類似の患者が発見された例が、山口県
産業医学会で報告されております。また、大阪泉佐野市のタオル工場においても、じん肺症類似患者の発見が報ぜられております。このような職業病は新旧の職場を問わず発生を見ているのであります。職業病は、
政府及び
事業主の万全な防止対策の確立、監督体制を
整備し、さらに健康
管理体制を確立すれば、必ず防止あるいは減少すると思うのであります。労働
大臣の予防と治療対策について、
お尋ねいたしたいのであります。
次に、原子力に関してお伺いいたします。原子力
関係の
特殊法人、原子力
産業における従業員の安全や災害補償はいまなお不十分であることが、すでに
昭和四十年五月、原子力
事業従業員災害補償専門部会から報告されております。この、いわゆる我妻報告の
指摘しているところの労災法の適用に関しての問題点、特に放射線障害による不妊症、早産、流産、死産に対する補償は、現行労災法のもとで可能かどうかについて労働
大臣の御
見解をお伺いしたいのであります。現在、原子力
関係の監督は放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する
法律によって科学
技術庁の原子力局が行なっておりますが、同法において、労働基準局の監督の権限を妨げるものでないこと、及び労働
大臣は、放射線障害の防止に関して科学
技術庁長官に勧告権を持つことが
規定されておりますが、今日、原子力局、労働基準局は従業員の安全に関して十分な監督が行なわれているか、特に労働基準局は原子力に関して十分監督できるだけの知識と職能を有しているか、
総理及び労働
大臣に対して
お尋ねいたしたいのであります。このように、原子力という新しい分野における労働災害と並んで、工業の高度化
社会あるいは情報化
社会など、人間疎外状況が進む中で、神経障害が増加の一途をたどっておるのであります。こうした
社会的な緊張が一般市民の
生活のすみずみにまで浸透してきており、新しい型の労働災害を引き起こしてきつつあるのであります。このような労働災害について、労働
大臣は、これをどう受けとめておられるのか、
お尋ねしておきたいのであります。
さらに、今回の改正において
検討されなかった項目として、厚生年金の障害年金との
関係があります。現行法では、厚生年金の障害年金が支給される場合、障害年金の支給額の二分の一が労災保険の障害年金から減額されて支給されることになっておるのであります。厚生年金と労災保険とは、法制定の
趣旨も、制定以降の経過も全く異なる別の
制度であるわけであります。厚生年金と労災保険の障害年金が調整されて支給される理由は何もないのであります。かつて、けい肺等特別保護法の適用された当時は、完全な併給であったのであります。被災労働者からの併給の
要望もかねてから非常に強いのであります。この際、
政府は、完全併給をすべきだと思うのでありますが、労働
大臣の御
見解を
お尋ねいたしたいのであります。
最後に、労災補償を
考えるよりも、労働災害の予防措置を講ずることに国も
事業主も全力をあげるべきであるという点であります。引き起こされる労働災害の対処も大切でありますが、まず、予防対策の強化と、あらゆる方面から考慮することこそ、第一義に
考えなければならない点であろうと思うのであります。さらに、重要なことは、国も企業も、設備
投資には大きな資本をつぎ込むが、災害の防止は常におざなりのものであったり、事が起こってからの処置としてとられたりするものでしかないのであります。もっと防災のため、国として積極的に力を入れるべきであります。「安全なくして繁栄なし」なのでありますから、
総理大臣、
大蔵大臣、労働
大臣の決意のほどをお伺いいたしまして、私の
質問を終わりたいと思います。(
拍手)
〔
国務大臣佐藤榮作君
登壇、
拍手〕