○上田哲君 ただいま
提案されました
防衛庁設置法等の一部を
改正する
法律案につきまして、私は
日本社会党を代表し、安全保障論の基本に触れて
政府の
所見をただしたいと思います。
われわれの国では、近く国の骨格を変えるような膨大な軍事計画が発足しようとしています。われわれの国にいま求められているものは、七〇年代を見通す冷徹な展望と的確なナショナル・コンセンサスであります。一口で言えば、今日以降、七二年当初までは、今後の
日本の安全保障をどうしていくのかについて、
政府や国会の中だけでなく、広く
全国民参加の中で真剣な討議が進められなければならない歴史的に重要な
期間だと思います。きわめて率直に言いますが、今後とも非武装中立を堅持する社会党としても、いまや現実に世界有数の戦力として存在する二十五万八千七十四人の三軍自衛隊と、いま策定されつつある四次防、五次防の内容を直視して、そこから安保条約廃棄への道筋を説きあかすのでない限り、中立保障論は説得力を持ちません。同時に、また一方、三百議席の
政府・与党としても、ただ国を守る気概だけを鼓吹するのでは四次防を実行することも不可能でありましょう。なぜとならば、たとえば今回の防衛三法
改正案のように、いかに予算上隊員の定数をふやし、階級の新設や待遇の若干の改善をはかるとしても、すでに自衛隊への入隊希望者の数が落ち、現在二万六千三百三十人の欠員が生じている現状は、もし国民の一そうの理解を得ないならば、いまや百の法律をつくるよりも百人の隊員をつくることのほうが困難になっているとさえ言えるからであります。
そこで第一の
質問は、
総理及び防衛庁長官にお伺いいたします。
今後十年を見通す
政府の防衛戦略展望についてであります。フランスの権威ある新聞、ル・モンドの三月十一日号は、ロベール・ギラン記者の署名入りの記事で、中曽根防衛庁長官が、三月第一週の外人記者の会見で、次のように述べたと報じております。「
日本は地理的に見て、非常に狭隘な部分に押し込められているような状態なので、
日本が第二撃能力を持つということは問題外である。つまり、
日本のすべての核
施設は、抑止力としての信頼性をほとんど発揮できないまま、相手からの第一撃攻撃で破壊されてしまうだろう。だが、実のところ
日本は、アメリカ、ソビエト、中国という三つの核大国に取り囲まれており、それらの軍事力は自己相殺的となっているので、この核手詰まりが核による破壊から
日本を守るであろうし、そしてこのような状況にある国の役割りとしては、第二級の軍事大国としての戦略を発展させることになるべきだ」と、こういうものであります。今日のアジア太平洋地域の軍事状況を核の手詰まりという力学で見ることは、私もおおむね正しいと思います。わが国の当面の安全が、他国にぬきんでた軍事力によってではなくて、他国の手詰まりの力学によって保障されているということは重要な視点であります。そして、さらに重要な視点は、その力学を成立させているものは、
日本が決してアメリカの核のかさの中だけにあるのではなくて、中国やソビエトのかさの中にもあるのだという事実であります。私は、この明らかな事実と論理を中曽根長官とともに確認できるであろうことを期待いたします。
そもそもわが国における中立保障とは、スイスのような形とは異なり、
日本列島という世界有数の戦略価値を、これを取り巻くいかなる国にも提供しないことによって、周囲の国々との間につくり上げる友好的な力学的均衡上の安全保障でありますから、防衛庁長官の核手詰まり論の主張は、期せずして、ここにかねてからわれわれの言う中立保障の条件が成熟していることを証明してくれたことになります。軍備競争の結果が必ず列強間の手詰まりになることは歴史の教訓であります。あとはわが国のイニシアチブによって、その力学の相対的逓減をはかること、それこそ外交の優位であり、その外交の基本
姿勢は中立論でなければなりません。中曽根長官は、最近ピエール・ガロア、アンドレ・ボフレ両将軍と深く話し合った後、核抑止国家という
考え方を変えるに至ったと外人記者団に語られたそうでありますけれ
ども、ここでわが国十年の展望をかけて中立保障論へ踏み切るお
考えはありませんか。また、いずれにせよ、第二級軍備論というのは、今後の
政府の防衛戦略の基本としてきわめて重要であります。この
考えを堅持されるかどうかを
中心に、
総理及び長官から詳しく御
説明をいただきたいと思います。
第二に、四次防の基本性格について、
総理及び防衛庁長官からお伺いいたします。
中曽根長官が核手詰まり論と第二級軍備論を根底に持たれる限り、そこから発想されたと見られる防衛五原則は、防衛費の野方図な膨張を押える歯どめであるとの
説明は理解できることであります。しかし、一面では、いま策定中の四次防や、最近の防衛五原則の中にも若干の混乱と矛盾が目につきます。長官が、わが国の軍備は相手国の第一撃で壊滅されてしまうだろう、また、第二撃能力を持つことも無意味だろうと言われることは正しいし、それならば、やがてわが国は、長官の言われる第二級の軍備を持つことすら不必要だという結論に必然的に導かれることになります。百歩を譲って、それでも局地戦あるいはいわゆる間接侵略に対する軍備がなお必要だと主張されるとしても、その場合は、きわめて常識的な規模の兵器、兵力の保有に限られることになるはずでありましょう。ところが、中曽根長官は、さきの衆議院での質疑で、四次防の規模を五兆二千億円から六兆四千億円の幅でお認めになりました。これは非常に大きい。四次防の内容は、想定されるところだけでも、まず空軍は、電子情報偵察用のAEW——早期警戒機——をはじめ、F86の後継機と目される対地支援機TXや、空対空ミサイルASMの
開発を目ざしております。また、今回の増強の
中心である海上自衛隊は、対空、対艦のスタンダード・ミサイルの装備にも乗り出すことになっております。いずれにしても、F86やF104の単座がファントムやTXの複座になり、海上でも艦艇の増トンで乗り組み員は大幅にふえるに違いありません。これでは歯どめと言えるかどうか、長官の言われる必要度ということばが
心配になってまいります。このように見れば、四次防、ひいては五次防の目ざすものは、領空、領海内での防衛から、公空、公海上での防衛、それはとりもなおさず、いわゆる攻勢防御にならざるを得ないのではないか。
政府の意図はどこにあろうと、軍事
技術の行き着く先は、攻撃的能力の増大に結びつくのではありませんか。この場合、攻撃的能力にならないという歯どめがどこにあるのか、疑わざるを得ません。しかし、こまかいことは委員会審議に譲りますが、防衛庁長官から次の点だけを明確に
お答え願いたい。
四次防の原案は、間もなく防衛庁内で秋までにはきまるといわれていますが、その総額見込み、それからきわめて具体的に、海上自衛隊の艦艇の総トン数は二十万トンに達するのかどうか、もう一つ、ファントムは百四機から何機ふえることになるのか、以上、重要な
基準になりますので、きわめて明確に
お答えいただきたいと思います。
第三に、四次防と並行することになる外交論について、
総理と外務
大臣から伺いたく思います。
中曽根長官の提起された防衛五原則でも、軍事に対する外交の優位が明記されております。また、たび重なる
答弁の中でも、
政府はいわゆる仮想敵国は持たないと言っております。しかし、たとえば六八年秋、ファントムの機種決定の際、ORで、某国の極東空軍の機種、性能について、わが国の四次防末期に到達すべき戦力をコンピューターではじき出し、これに対してバトル・オブ・ブリティンの撃墜率三〇%に当たるものとして結論を導き出したのは、すでに公然の秘密になっています。
日本列島でのレーダー配置からしても、仮想敵の存在は常識でありましょう。また、防衛計画の根底になる防衛庁用語に、「脅威の見積もり」ということばがあります。これは、言うまでもなく、仮想敵の能力を言い当てています。この際、「脅威の見積もり」でなく、「脅威撤去の見積もり」としての外交路線を立てなければなりません。
日本の安全保障のための外交路線は、言うまでもなく今後十年間をかけての中立政策への志向であろうと思います。今日あらゆる世論
調査によっても、あえて武装、非武装の別を越えれば、
日本に中立政策を求める声は国民の過半をはるかに制しております。
政府は、このナショナルコンセンサスを無視することはできません。そこで
政府は、当面、一方に日米安保条約を置きながらも、必要によってはアメリカ側の了解を取りつけつつ、進んでアジアの未承認諸国との国交回復の交渉を七二年に向けて開始すべきだと
考えますが、
総理及び外務
大臣の御見解はいかがでありましょうか。近隣未承認諸国との国交問題は、「よど」号
事件以来、さらに国民の間の一般的な願望にもなっております。
総理、外務
大臣は、常々近隣諸国との友好増進はわが国外交の基本と述べておられますが、少なくとも未承認国に対する外交交渉の
努力なしに、一方に膨大な軍事体制を進めることは、アジアの緊張を高めるのみならず、外交優位の原則にもとることになります。特に四次防の七二年あるいは七〇年代中葉を踏まえての外交優位論の具体的な道筋を承りたいと存じます。
第四に、防衛産業の問題について、
総理と経企庁長官から伺いたく思います。
防衛庁長官は、ほかの
質問に答えて、
昭和四十二年度のデータをもって、防衛産業がわが国の鉱工業生産に占める割合を、わずかに〇・四%にすぎず、産軍癒着などはおよそ
関係がないと言われております。しかし、ここで重要なことは、およそ
政府支出は経済の波及効果を通じて乗数的に有効需要を増大させていくものであるということであります。たとえば経済企画庁の経済研究所のパイロットモデルによる試算でも、それぞれ一千億の追加
政府投資は、最初の年で千六百八十億円、次の一年間に二千八百四十億円、つまり初めの二年間だけでも四倍半の四千五百億円もの有効需要が生み出されます。さきの四十二年度のデータによれば、三年前のデータであっても武器弾薬生産は九八・四%、航空機生産すらが六五・二%の依存率を持ち、これに対する支出はすでに数倍の乗数的効果をあげているわけでありまして、この軍事支出の持つ有効需要創出効果のゆえにこそ、やがて抜き差しならない産軍体制が生まれるわけであり、アメリカの悩みもいまここにあるはずであります。佐藤経企庁長官は、軍事費の有効需要創出効果に七〇年代の
日本経済の活路を展望されるのか、さもなくば経済政策上の
立場から防衛支出に何らかの歯どめを加えられるのか、その点を明確に伺いたいと思います。
さらに、この問題は国内だけにとどまらず、東南アジアヘの膨大な武器輸出の問題があります。これについてただしたい多くの具体論がありますが、
通産大臣の御出席がないので、武器輸出のあり方について基本的な
考え方を
総理から承り、質疑を委員会に譲ることにいたします。
最後に、安全保障の長期展望として、軍縮の問題について、
総理と防衛庁長官に
決意を求めたいと思います。七〇年代、われわれの国が平和で豊かな太平洋国家として成立するために、われわれの安全保障は、一つには国内の社会保障、民生の充実をはかるとともに、進んで世界軍縮へのイニシアチブをとることであろうと思います。今日までの果てしない軍拡競争は、現在、
人間一人当たり頭の上に爆薬十五トン分を持っているということになりますが、さらにそれが七〇年代の半ばには五倍にもなろうとしていますが、軍備、もとより核軍備を含めて、その意味するものとその力は相対的に低下しつつあるとの世界認識は、すでに識者の否定し得ないところであります。核軍備競争の行き着くところは、核とゲリラだけになるといわれています。核攻撃のシェルター防備が極限に達したアメリカでさえ、現在陸軍では、核戦争への訓練としては、兵士にそれぞれシャベルを持たして、砂地に穴を掘り、放射能よけビニール袋をかぶって、いかに生き延びるかという原始的な訓練を大まじめに繰り返しています。この姿を笑う者は、太平洋戦争以来のパターンをいまだに追って軍備拡張競争に狂奔する姿を、さらに笑わなければなりません。この時代は、われわれが
日本の安全保障についていかに議論をしたかを後に必ず振り返られる時代であります。七〇年代を見通すわが国の安全保障のあり方について、いまこそ
全国民的コンセンサスを構築し、われわれが軍縮へのプランを、最大の安全保障として、真剣に世界に提起することは、きわめて重要な歴史的任務だと思います。たとえば、少なくとも国会内に、防衛委員会にあらず、軍縮委員会を設けるお
考えはありませんか。七〇年代を見通す
日本の平和のあり方と世界平和への貢献のあり方について、
総理と防衛庁長官の歴史に刻むべき意欲ある
答弁を求めて、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣佐藤榮作君
登壇、
拍手〕