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亀田得治君 日本
社会党を代表しまして、
反対の討論をいたします。
反対理由の第一は、法曹三者
——裁判所、法務省、弁護士会の意思統一ができないままにこの
法律改正が行なわれるという点であります。法曹界では、司法
制度の民主的改革のために、法曹一元の
制度が高く
評価されているのでありますが、そのような理念から見ても、今回のような
法律改正のやり方には賛成できないのであります。審議の中でも明らかになりましたが、この
法律改正をこの国会で是が非でも行なわねば地方
裁判所がお手あげになるというような差し迫った
状態もないと思います。また、審議の中では、
裁判所側も簡易
裁判所の本質を変える意思がない旨答えており、この点では弁護士会とも
意見が一致しておるのでありますから、もう少し時間をかけて相互に冷静に具体的に討議すれば、必ずやよい
結論に達し得るはずのものであると思われます。そのようなねばり強い努力を放棄して、
意見対立のままこの
法律改正を行なうことは、日本の司法
制度の将来のために惜しむものであります。
反対理由の第二は、この
法律改正が実施されますと、簡易
裁判所の本質がますますゆがめられるおそれがあるという点であります。
簡易
裁判所は現在すでに本来の姿から相当離れております。簡易
裁判所は、昭和二十一年三月十四日、国会の
裁判法案委員会で木村篤太郎司法大臣が説明したとおり、民事、刑事いずれであっても、いわゆる
訴訟についてはきわめて軽微な
事件を簡易な手続で扱うところでありますが、数次の
法律改正によって次第に
裁判権の範囲が拡張されてまいりました。しかも、簡易手続の活用もあまり行なわれず、小型地方
裁判所化してきておるのであります。簡易
裁判所は調停の面で大いにその特色を発揮しなければならないのでありますが、件数が最近では減少の傾向をたどっております。
社会では
公害問題をはじめ紛争が多くなっておるのに、調停が少なくなるということは、この
制度が
社会の変化と実態にふさわしいように活用されていないからであります。簡裁ではまた、捜査
段階の令状の発付について十分時間をかけ、令状発付の要件を
検討して、人権侵害が起こらぬように司法的抑制の使命を果たさなければならぬのでありますが、必ずしもその使命が果たされておるとは言えないのであります。この点も、審議の中で明らかになりましたように、令状請求を却下する
ケースがあまりにも少ないということが、その間の事情を物語っていると言えるのであります。
以上のような簡易
裁判所の現在の実態は、政府、
最高裁側から意識的につくり出された面があることは、はなはだ残念であります。その最も顕著な例は、昭和二十九年の
法律改正であります。その提案理由の中では次のように述べております。「この
法律案の
改正点の第一は、民事に関する簡易
裁判所の事物管轄の範囲を拡張して、
裁判所間の権限の分配の適正化をはかったことであります」、中を少し略しまして、「もとより、
裁判所法のもとにおける簡易
裁判所は、
裁判所構成法のもとにおける区
裁判所とは、多少その設置の趣旨を異にする点がないわけではありませんが、わが審級
制度を大局的に観察するならば、簡易、地方の両
裁判所間に見られる以上のような不均衡を是正して、民事第一審
事件を適切に配分することが、簡易
裁判所設置の本旨に沿うゆえんであって、これにより地方
裁判所における
事件の渋滞を解消することができ、また簡易
裁判所事件の上告審が高等
裁判所である
関係上、ひいては、
最高裁判所の負担の調整にも寄与することができると
考えられますので、これらの目的を達するため、簡易
裁判所の事物管轄の範囲を拡張する必要があると
考えるのであります。」と述べておるのであります。すなわち、簡易
裁判所の本来の
立場を育てるということよりも、もっぱら地方
裁判所と
最高裁判所の負担軽減という
立場から二十九年の
改正が行なわれたことは明らかであります。その結果、簡易
裁判所はますます小型地裁化し、
最高裁事務総局でつくられた
裁判所法逐条解説によりましても、「
裁判所法は本来は、簡易
裁判所を区
裁判所に相当するものとして構想したわけではない」
——これは二六八ページですね、ないのに、「今日においては、簡易
裁判所は、
裁判所構成法上の区
裁判所にやや近い性格をもつにいたっているものといわなければならない。」
——これは二六九ページ
——と
評価するようになっておるのであります。また、兼子一氏は、
裁判所法の立案に参加した方でありますが、同氏の
裁判法一五一ページでは、「
裁判所法施行後、上級
裁判所の負担軽減のために、簡易
裁判所の管轄を次第に拡張する傾向にあり、そのために当初の性格がぼやけてきたことは見のがすことができない」と批判しているのであります。
今回の第六十三回国会におきまして、簡易
裁判所の性格論争が盛んに行なわれまするや、
最高裁は簡易
裁判所の本質を変える意思がない旨答えているのでありますが、いままで簡裁の本質をゆがめてきた者がそのような答えをされましても、にわかに信用するわけにはいかないのであります。ほんとうに簡易
裁判所の本来の姿を育てていこうというのであれば、
訴訟事件が減少した時期にこそ絶好の機会が来たと言わなきゃならぬのであります。簡裁の本質を発揮するためには、簡裁の
裁判官、職員は国民のために親切に、いままで以上にいわゆる
訴訟事件以外のことにも時間をかけなければならないからであります。したがって、今回の
法律改正は急いで行なうべきものではありません。この
法律改正が行なわれますと、簡裁では
訴訟事件が相当ふえて、そのためにいままでより以上に時間を使うことになります。特に現在でも多忙である大都市の簡易
裁判所は、増加した
訴訟事件の
処理に追われ、その結果いよいよ簡裁らしいきめのこまかい国民へのサービスに時間をさけなくなるのであります。
反対理由の第三点は、地方
裁判所の負担軽減の問題は、簡裁の問題と切り離して解決することを
考えるべきだという点であります。幸い地方
裁判所の刑事
事件も減る傾向にありますし、また、
民事事件はふえておりますが、審理期間は横ばい
状態でありまして、決してどうにもならない
状態ではないのであります。地方
裁判所の負担を軽くする方法の第一は、何といっても地裁の
裁判官の増員を行なうことであります。第二には、
裁判の公平と迅速という面から見て、
訴訟の指揮、進め方において、
検討し改善すべきことが多々あるのであります。たとえば、刑事
事件におきまして、検察官の手持ち
証拠を第一回公判前に一括して
被告人側に開示する問題であります。検察官は、
一般の
事件ではそのようにやっておりながら、特殊の
事件になりますと拒否しておるのであります。そのため、双方があらかじめ論点を明確にし、集中的に審理を進めることを困難にしておるのであります。
被告人側の
意見も小出しに出さざるを得ないのであります。この問題はすでに長い間法曹界で論議されているところでありますが、これを単に個々の
裁判官の
訴訟指揮のみにまかすのではなく、法規の
改正によって
制度的に解決すべき時期に来ておると思うのであります。次に、
民事事件においては、
公害訴訟が長引くことに対し、
被害者からだけではなく、
社会的にも大きな批判が起きているのであります。
被害者たる
原告が一応大まかな
立証をすれば、あとは
加害者たる
被告に
挙証責任を負わすべきであります。また、
加害者側が持っている
関係資料は、有利不利を問わず、すみやかに
裁判所に提出させるようにすべきであります。これらのことは、一応
訴訟指揮の問題でありますが、しかし、
加害者側の
資料のすみやかな提出というとなると、
訴訟指揮にはおのずから限界があると思われるのでありまして、必要な法
改正に踏み切るべきだと思うのであります。このようにしてこそ、
裁判所も
社会の
要求にこたえ得るのであります。私は、以上二つ具体的の問題に触れたのでありますが、この二つを解決しただけでも地方
裁判所の負担は相当軽減できると思うのであります。ともかく地方
裁判所の問題は地裁として解決をはかるべきであって、本来性格の異なる簡裁を巻き添えにしてはならないのであります。
最後に、第四の
反対理由は、
最高裁は、審議の中で、衆議院
法務委員会の附帯決議を尊重すると言い、また簡裁の本質は変えないで育てていく旨述べておられます。もしそうであるならば、
最高裁は、そのための具体策、さらに必要な法規の
改正案を本
法律案と同時に国会に提出すべきものであります。そのことは、この
法律改正と表裏の
関係にあります。切り離してはならぬことであります。しかるに、国会に対し、いまだにそのような具体的提案がないままに、この
法律改正のみを先行させることは、はなはだ片手落ちと言わなければなりません。
以上四点を
指摘いたしまして、この
法律改正案に対する
反対の
意見を終わります。