○
参考人(
鈴木匡君) お許しをいただきましたので、私からこの
法律案に対します所見を申し上げさしていただきたいと思います。
この
法律案につきましては、
日本弁護士連合会といたしましては
反対をいたしておるのでございます。すでにその
反対理由につきましては諸先生も御存じいただいておることと存じますので、そのうちのおもなものを二、三申し上げさしていただきまして、その次にこうした
結論を出すに至りますまでの
日本弁護士連合会における
経過の大要を申し上げさしていただきます。それが終わりましたら、
裁判所、
弁護士会の
連絡協議の
状態について触れさしていただきたいと存ずる次第でございます。最後に、私自身がなお
連絡協議で伺いたいと思っておったような二、三の点に触れさしていただきたいと思う次第でございます。
まず第一に、
日弁連がこの案に
反対をいたしております
理由の
一つに、
簡易裁判所は
地方裁判所とは全然
性格が違っておるのだと、一
審事件を
地裁と
簡裁と分け合って行なう、そういうような目的で
設置されたものではないというわけでございます。そういう
関係からいたしまして、
簡易裁判所では、現在におきましても、簡易な
事件、軽微な
事件、これを扱うのにふさわしい、その
程度の
人的構成になっておるのでございます。御
承知のように、
昭和二十二年に
裁判所法が制定されるにあたり、従来
区裁判所が第一
審裁判所として行なっておりました権限は、自後
地方裁判所において行なうことにされたわけでございます。一方新憲法では、
犯罪捜査などで
強制処分を必要とするような場合に、
現行犯の場合以外は
裁判官の
令状によらなければ逮捕、捜索などができないということになり、終戦後間もないことでもございまして、交通不便な
実情などを考慮されまして、
警察署の近くに
裁判所がないと急を要するときは間に合わないというような
事情からいたしまして、
区裁判所とは
性格の違った
簡易裁判所が全国で五百七十カ所設けられたわけでございます。
刑事については
令状の
発付を主として、これとともに軽微な
事件を扱わせ、
民事については調停や和解を主として、これにあわせて
少額の
事件を簡易迅速に行なわせようとしたわけであります。それだからこそ、
簡易裁判所の
裁判官につきましては、
司法試験に合格して、さらに
司法修習を経るというような、
法律専門家というようなむずかしい
資格要件を必要としないで、円満な
社会常識のある人をもって足るとしたものであって、現在においても、その過
半数はこうした
特任の
裁判官であるばかりでなく、有
資格の
裁判官は大部分の方が
地方裁判所と兼任の方が多いのでございます。したがって、実際には
簡易裁判所ではほとんど
特任の
裁判官が
裁判を行なっておられるというような
実情でございます。こういうような
実情であるのに、
簡易裁判所に多数の
事件が扱われるということになりますと、
簡易裁判所設置本来の
趣旨に反するばかりでなく、その
機能も果たし得ないのではないかということをおそれているわけでございます。
次に、
国民の
裁判を受ける
権利を
弱体化するのではないかというふうのおそれでございます。
国民の
裁判を受ける
権利を十分に保障するためには、第一に
裁判官の
資格を厳重にすることが必要であって、
昭和二十二年に
裁判所法が制定されますまでは、
最下級の
区裁判所におきましても、そこの
裁判官はすべて
高等試験司法科試験に合格してさらに一年半の試補を経た後
裁判の実務に
相当年数の経験を積んだ方が
裁判を行なってこられたわけでございます。
簡裁はそれとは
性格が違うために、かような
要件を必要としておらないのであります。そういうところで一
審事件の
半数に及ぶ多数の
事件が
裁判されるということになりますと、この面で
弱体化するということをおそれているわけでございます。さらに、この
簡裁の
事件につきましては、
上告は原則として
高等裁判所ということになります。
ことばをかえて申しますと、
最高裁判所はこれに関与しないというようなことになってまいりますので、この点も、戦前は全部第一審が
上告事件を扱ってこられたのと異なって、これを比較いたしまして
国民の
裁判を受ける
権利を
弱体化することになるというように
考えておるわけでございます。そういたしますと、
国民の
裁判所に対する
信頼感や
安心感を阻害するのではないかというふうに
考えておるのでございます。
裁判所の
機能には二つあるのではないかというふうに
考えられます。その
一つは、積極的あるいは
具体的機能とでも申しましょうか、
現実に
裁判を受けるという面であり、他の
一つは消極的あるいは
潜在的機能とも言うべきものでございまして、これは自分の
権利や
利益が侵害されたりあるいはそのおそれのあるようなとき、そういったときに、その侵害を排除したり、あるいは義務の履行を求めるために、
国民はだれでも、またいつでも、
裁判所に訴えを出して、その保護を求められるという
安心感と
信頼感であります。
裁判の
弱体化ということは、単に具体的な
事案についてだけでなくて、
国民の
裁判所に寄せまするこれらの
信頼感や
安心感に対しても決して好ましい影響を与えるものとは
考えられないのであります。現在、
地裁の新受件数がふえてまいりまして、
地裁の
裁判官の
負担が
過重であると言われております。だからこそ今度の
改正でその
負担過重を緩和したいというのが
裁判所のお
考えのように伺っておるのでございますが、むしろ
裁判所の
負担が
過重であるならばその
過重を解消するために
地方裁判所を
充実強化していただくのが本来の
あり方ではないだろうか。これをしないで、
地裁の
負担を減らすために、第一
審事件の
半数、あるいはところによっては六割、その前後になろうかとも言われておりますが、こうした多数の
事件が
簡易裁判所に移りますということは、
国民の
利益という点から
考えましても納得できないのではなかろうかということを
日弁連としては
考えておるわけでございます。本来、先ほど申しましたように、
簡裁はもっと
少額で簡単な
事件を扱うところであって、たとえて申しますと、
野ら着のままで
裁判所に出かけて、そして訴状などを書かないで
口頭で申し立てて、すぐその場で
裁判をしてもらえる、あるいは
準備書面などというむずかしいめんどうな
書面も書かないで
口頭で受け付けていただく、進行していただくと、こういうようなことをやっていただいてこそ
地域住民が非常に
利益を受けるという、またそういうための
裁判所ではなかろうかというふうに
考えられておるのに、
地方裁判所の
負担が多いからといってその一部を肩がわりするというような
考え方には納得できないというふうに
考えておるわけでございます。もちろん
最高裁判所におかれましても、
人的構成とか
物的設備の両面にわたって
地方裁判所を強化充実することについては何ら異論はないと申し述べておられます。まことに敬意を表しておる次第でございますが、そしてまた本年も二十名の増員を
国会で御
承認をいただいたように伺っておるのでございますが、
弁護士会といたしましてはこの
充実強化を特に望んでおるというような次第でございまして、これこそ
国民の
利益にかなうものではないかというふうに
考えておるわけでございます。
簡裁に比較的
余裕があるからというのが
最高裁のお
考えのようでございますけれ
ども、私
どもはそのようには
考えられないのではないかというふうに思っておるわけでございます。と申しますのは、いま申しましたような簡易迅速な方法で
少額軽微な
事件をおやりいただくたてまえになっておるにかかわらず、いざ
口頭で申し立ていたしましても、それは
書面で出せとか、なかなか
民事訴訟法に
規定いたしております
簡易裁判所の
督促の
規定が
活用されておらないのでございます。もっとも、これに対しましては、
裁判所のお
考えは、
口頭で受け付けることは、ややもすれば
裁判所がどちらか一方に偏しておるのではないかというような誤解を受けるので、そういう点も考慮しているんだというような
お話ではございます。がしかし、これは私
どもの
考えからいいますと、むしろそうではないということを啓発するだけのことであって、その努力が足らないのではなかろうかと、
地域住民に親しまれるためには、その本質をよく理解してもらって利用してもらうことこそ本来の
簡易裁判所の
あり方ではなかろうかというふうに
考えておるわけでございます。また、比較的
余裕があるとは述べておられますけれ
ども、一方では、
訴訟事件以外を見てみますと、
督促事件なり
公示催告などの
事件はかなりふえてきております。
訴訟事件は三十年に比べて約二万件ほど減っておるというような
お話でございますけれ
ども、
督促事件では四十二年の比較では七万件の増加というような
現実になっておるわけでございます。もちろん、これに対しましては、比較的簡単だというようなお
ことばではございますけれ
ども、そうだといたしますならば、むしろ
簡裁の本来の仕事にお力添えをいただくのがほんとうではないかというふうに
考えておるわけでございます。
昭和二十九年の
改正の
状態に戻すのにすぎないというようなお
ことばでもございます。
昭和二十九年の
改正は
経済事情の変動だけではないと思います。当時
上告事件が
最高裁に非常に数多くなり、
最高裁の
負担を軽くしようとすることもその
理由の
一つでなかったかと存ずるわけでございますが、これを
昭和三十年の
地裁と
簡裁の
負担割合に今度も戻すのであるというようなことになりますと、今回もまた
最高裁の
負担を減らすということにもなり、
国民の
権利を保障する
裁判所のあるべき姿に逆行するのではないかというふうに
考えておるわけでございます。
訴訟遅延の原因の多くは、人口の
都市集中の結果、
過疎地帯、
過密地帯、こういうところから出てきたものでありまして、この
社会現象に
裁判所の
機構が対応されれば、こうした
対策も一そう
効果を発揮するのではないかと、したがって、こういうことを
考えないで解消していこうとしても、それは無理ではなかろうかというふうに
考えておるわけであります。
都市におきましては、
地裁も
簡裁もともに多数の
事件をかかえておられるというような
現象でございまして、これは東京や大阪の
係属件数をお調べいただけばわかることかと存ずるわけであります。現在でも複雑あるいはむずかしいような
事案を
簡易裁判所で審理されておりますのを、これに対しまして、それ自体が無理でなかろうかというふうに
考えておりますのに、さらに
訴額を三十万円まで拡張されますということになりますと、一そうこうした不適当な
事案が多くなってまいろうかと
考えるわけでございます。不動産に関する
訴訟は、
固定資産の
評価額をもって
訴額を算定されるという扱いになっております。
固定資産の
評価額は、実際の
取引価額の何倍、何十倍ということになりますので、こうした数百万円に及ぶ
事件も
簡裁で扱われるという不合理な結果になることも
考えられます。もちろん、これにつきましては、一そうの申し立てなどの
対策あるいはそれらの
活用が
考えられるというのが
裁判所の御
見解のようでありますけれ
ども、その
条文の
効果は
現実にははっきりいたしておるというふうには
考えておらないのでございます。そのほか、
法曹資格のない
裁判官を将来また増員されるのではなかろうかと、あるいはこれに対して
法曹資格なり
弁護士資格を与えるというふうになってきはしないかとか、
判例の不
統一を来たすのではないかとか、あるいはこういった
判例の不
統一を来たすおそれのある場合には民訴の
条文の
活用ができるんだという御
意見でございますが、それに対しては別に行なわれなかった場合の
救済規定もないのではないか。さらに
一般事件の
上告をなるべく
最高裁が扱わないようにしたいという御
方針でもあるんだろうかというようなことをおそれたり、将来
高裁支部の
廃止とか
地裁支部の統廃合もお
考えになっておるのではなかろうか。もしそうだとすると、こうした
支部の
設置などにつきましては、
市町村長を先頭にして
地域住民の人がかなり誘致のために努力されたというようなこともあるはずです。そういった点も考慮しなければならないのに、たまたま
臨司意見書は
廃止というようなことも記載しておりますが、それでもって
地域住民が満足するのかどうかというようなことをもおそれておるわけでございます。また、これをいたしますと、地方によっては非
弁護士がばっこをするということを強く訴えられてきておるところもございます。また、
地域住民は近くの
裁判所の
裁判を受けることができるので便利だというような御
意見もございますけれ
ども、必ずしもそう言えないという実例な
どもあげられてきております。あるいは、これがために
訴訟費用がかさんだりして、
裁判を受ける機会を失うことになるのではないかという
反対意見も出ておるわけでございます。こうした
意見で、
日弁連といたしましては賛成ができないということになっておるわけでございますが、それもこうした
結論を導きますまでの
経過を簡単に御説明申し上げさせていただきたいと思います。
昭和三十九年の八月に、
臨時司法制度調査会から
内閣総理大臣に
意見書が出されたのでございます。これに対しまして、
日弁連としては、重要な
事項について
反対事項がございますので、そこで、これらの広範な問題についてどう対処するかを審議してその
対策を実行するための
機構といたしまして、
臨時司法制度調査会意見に対する
対策委員会というものを設けたわけであります。略称して
臨司意見対策委員会と言うておるわけでありますが、これが
昭和三十九年の九月十二日の全体
理事会の
承認を経まして
設置されてきたわけでございます。自来、この
委員会が主になりまして、この
臨司に盛られました諸般の条項について
検討をし、あるいはまた
理事者と協力して
対策の実行につとめてまいってきておったわけであります。
昭和四十二年五月には
日弁連としての
意見をまとめるということになった一わけでございます。
一方、その
意見書が出ましてから、
日弁連と
裁判所との
関係が必ずしも円満にいったとは言えないような状況に立ち至ったのでございます。この不幸な
現象はだれが
考えましても一日も早く解消しなければならないというようなことからいたしまして、
昭和四十年の
理事者は、この
臨司意見対策委員会と常に
協議して
連絡を保ちながら、
最高裁と話し合いを重ねまして、御
承知のように、四十年九月三十日に、いわゆる
メモというものの取りかわしをいたしたわけでございます。その
内容につきましては、御存じいただいておりますと存じますので、時間の
関係上省略さしていただきますけれ
ども、そのようにして
メモの取りかわしができ、続いてこの
メモを中心にして、もとにして
連絡協議を進めていこうというような申し合わせも四十一年の一月にできたわけでございます。こうして、四十二年の九月十四日に、
最高裁判所から「第一
審裁判所の
あり方について」という
議題が出されたのであります。そこで第一
審裁判所の
あり方について
協議に入るかという問題に入ったわけでありますが、たまたまそれ以前に
長官と所長の会同が
裁判所で行なわれまして、そのときの
ことばが、
連絡協議は
臨司の
意見を実施に移すためのものであるかのごとく、そう誤解されるような
発言がございまして、それでいろいろまた
日弁連としても
意見が出てまとまらなくなってまいったわけでございます。そういう
経過を経たり、さらに
弁護士会側の
協議委員の
任期が到来して、その補充に若干の日がかかったりなどいたしまして、四十三年の九月二十一日に
連絡協議委員の
弁護士会側の
委員の委嘱が行なわれたのでありますが、新たに選任されました
委員は、四十三年の十月九日に
会議を開きまして、今後のこの第一
審裁判所の
あり方についての
進め方について
協議をしたわけでございます。その席におきましても、今後とも
臨司意見対策委員会と
連絡を密接にして、
合同会議を行なうなどして進めていこうという
方針を決定したわけでございます。
四十三年の十月二十二日に
臨司意見対策委員会が開催されましたが、このときにも
弁護士会側の
連絡協議委員が参加いたしたわけでございます。そうして同月の二十四日に
連絡協議の
弁護士会側が小
委員会を開催して、
進め方についても
協議いたして、
裁判所のほうに具体的な
内容についての御
意見があるのかどうかということについてお伺いすることになったわけでございます。
四十三年の十一月五日に
連絡協議が
最高裁判所と開催されたわけでございますが、そのときに、第一
審裁判所の
あり方について、特に現在
地方裁判所の
管轄とされている
事件で
簡易裁判所の
管轄とすることを相当とするものはないのか、あるいは現在
簡裁の
専属管轄となっている
事件で
地裁の
競合管轄を認めるべきものはないのか、これに関連して運用上考慮する余地はないのかという
提案が話されてきたわけでございます。
そして四十三年の十二月六日に
連絡協議の小
委員会が開催されまして、その席で
裁判所のほうから
民事、
刑事についてのいわゆる
調整案というものが述べられたのでございまして、ここに問題になっております三十万円までを
簡易裁判所の
管轄に移そうというような御
見解が明らかにされてきたわけでございます。もっとも、この三十万円にまで拡張したいという
裁判所の御
意見は
確固不動のものではないので、これはたたき台としてのものであるというようなふうの御
意見もあったようでございます。これは四十四年の一月十六日に
最高裁のほうから
日弁連に同じ
趣旨の御
連絡をいただいております。今後
簡裁の
あり方について
日弁連の
意見を伺って
十分意見の交換をし
協議したいというような
お話を承っておるわけでございます。
そこで
日弁連といたしましては、一月十七日にこの
連絡協議の
弁護士会側の
委員と
臨司対策委員との
合同会議を開催いたしまして、
裁判所の御
提案になりましたことについていろいろ
協議を重ねたわけでございます。
次いで一月の三十一日に
連絡協議の第二回の小
委員会が開催されたわけでございますが、この席上で
簡易裁判所の
性格についても御
協議を、たたいたらどうだろうというようなことを申し上げたわけでございますが、
裁判所におかれましては、
協議することには異存はないけれ
ども、これと並行していきたいというような御
意見が述べられたわけでございます。
その後、四十四年の二月及び三月にもこうした
合同委員会が開催され、
協議いたしたのでございますが、その後にまた、私
どものほうで
委員の
任期が満了したりいたしましたので、若干おくれてきまして、四十四年の九月になって
委員が選任されて、ここに
会議を開くことになったわけでございます。そして九月十日と十月十六日と十一月十日の三回にわたりまして
臨司の
対策委員会と
連絡協議の
弁護士会側の
委員との
合同会議を開いて
協議をいたした結果、
最高裁との
連絡協議には
前提条件をつけて
協議を進めていこうということになったわけでございます。したがいまして、このような
経過をたどっておりますので、当初から、この
臨司に
関係いたします
事項につきましては、
臨司意見対策委員会が主になって
検討し、また
連絡協議の方々とも
合同会議を開いていろいろ
検討を進めて、
連絡協議の席上で御
意見を述べてこられたような次第でございます。
いま申しましたように、十一月十日に
裁判所との
連絡協議は進めていこうということになりましたので、当時私がその
合同会議の
取りまとめ役をいたしておりました
関係で、代表いたしまして結果を
連合会長に報告いたしたわけでございます。そこで
阿部会長は十一月十四日に正副
会長会議を開催されたわけでございます。その席におきまして、私も求められて出まして、十一月十日には
前提条件を付して
協議に入ることになりましたということを御報告を申し上げ、それが了承されまして、その後の全体
理事会には
連合会の
理事者から報告されたという
経過をたどっておるわけでございます。
このようにして、
協議に入ることになりましたので、四十四年の十一月二十七日、十二月二十四日、四十五年の一月十九日、二月十七日、二月二十四日、三月六日と六回にわたって
最高裁と
連絡協議を重ね、その中間の四十四年の十二月八日には
連絡協議の小
委員会をも開催してきたわけでございます。
ところが、その
連絡協議に入ってから後のことしの一月になりまして、法務省から
日弁連に対して、
簡裁の
事物管轄を三十万に拡張するために、む二月初めに
法制審議会の全体
会議にかけて、今度の
国会に
改正法律案を提出する予定であるというような御
連絡をいただいたわけでございます。そこで、
阿部会長は
連絡協議会の
弁護士会側の
委員と
法制審議会の
弁護士会側の
委員と
臨司対策委員会の正副
委員長を招集しまして、この
人たちが会合をしてその
意見をどう取りまとめていこうかについて
協議を重ねたわけでございます。その結果、せっかくいままで
最高裁と
日弁連との間で
連絡協議会が持たれてきた、こういう途中であるので、話の煮詰まらないうちに行くということは残念だから、何とか
提案を見合わせてもらうようにしたいということで、一月の二十九日には
阿部会長が五十嵐東弁会長とともに法務省に
お話しに伺い、翌日の三十日には
阿部会長が東京の三会長と一緒に
最高裁を訪ずれてその申し出をしたようなわけでございます。
これらの申し出をいたしましたけれ
ども、不幸にしていれられなかったと申しますか、
提案されるに至ったのでございますが、もっともその間におきましても、
裁判所も
提案をできるだけ待ってもらっておりますというような
お話もございました。だからこそ、
弁護士会側のほうも、先ほど申しましたように、六回にわたって
裁判所と
協議を重ねてきたわけでございますが、最後に三月六日の日に、今後
協議を続けていくべきまだ問題がたくさん残っている、前向きの姿勢で進めるということで、しかも期限を定めなくては無理かもしれないから、一年を限って
裁判所と引き続き
連絡協議をしていってはどうだろうかという
提案をいたしたわけでございますが、
最高裁におかれましては、いまになっては応じかねるというようなことで、双方の間で
連絡協議の話が煮詰まらないままで
提案されるというような
状態に相なったわけでございます。
連絡協議会の中身につきましては、これもすでに諸先生に御存じいただいておるところかと存じますので、と同時にお与えいただきました時間もございませんので、省略いたしますが、最後に
連絡協議の終わりますといいますか、打ち切られましたといいますか、最後の三月六日の日に、これでもうこの問題についての
協議は終わらざるを得ないという立場になりましたときに、実は私自身としてもなおお伺いしたい問題が多いということで申し上げた点もございます。そのときに申し上げたのは、
地方裁判所のほうでは、なるほど
事件の数はふえておりますけれ
ども、審理をされますに要する期間、これがだんだん短縮されてきつつある、すなわち能率が上がりつつある
状態に思われるのに、
簡易裁判所では、
事件数は減ってきたというふうにはなってはおりますけれ
ども、審理の期間がかなり長くなってきている。三十三年のときには審理期間が四カ月ということになっておりますけれ
ども、四十四年には五カ月半というような数字も出てきております。こういうような
状態のところへ、新たに三万七、八千件の
事件が移るということになると、それだけでも
簡裁としてはお困りになるのではないかというような点と、さらに一審判決の上訴に対して原判決の破棄される比率を見ますと、
簡易裁判所では増加の傾向を示しておる。と申しますのは、やはり現在の
状態でも
簡易裁判所では困難な
事件が増加しつつあるのではないかというようにも、あるいはその
機能が、
簡裁本来の目的のために働いておるために、そういうような
人的構成のために、こうした
事件を扱うことが無理ではないかというように
考えられるというようなことからいたしまして、この点についてもお伺いしたいということを申し上げたわけでございますが、もちろん私一人が伺っても
連絡協議としての
利益にはなりませんので、その
程度で終わったというかっこうになっております。
先ほ
ども申しましたように、
地域住民がより近くの
裁判所で
裁判を受けることができるからそれだけ便利ではないかというような御
意見でございますが、はたしてそう言えるかどうかという問題も伺いたい
理由の
一つでございます。実はお手元に私が資料としてお許しをいただきましてごらんいただくようにいたしております愛知県の図面をごらんいただきますとご便利かと存じます。御案内のように、愛知県には人口二百万をこえます名古屋市がございます。その西方に人口五万人近くの津島市というのがございます。津島市の
簡易裁判所の
管轄区域には、名古屋市と津島市の中間に囲まれております大治村、甚目寺町、美和町、七宝町、蟹江町、十四山村、飛島村、弥富町、佐屋町、八開村、佐織町、こういったところが津島市と同時に津島
簡易裁判所の
管轄区域になるわけでございます。いま三十万に拡張されますと、津島市の
簡易裁判所で、住民が比較的近いところで
裁判を受けることができて便利ではないかというふうに
考えられると、それは
実情に沿わないものではないか。と申しますのは、名古屋市の西方にあります町村はどちらかといえば名古屋市のベッドタウンになるかと思います。と同時に、次第にこれも農村地域が
都市化いたしまして、ほとんど大部分の人は名古屋市に生活の深いつながりを持ってきております。そういうような事柄のほかに、交通の利便などから
考えましても、名古屋市に来たほうがやはり便利になろうかと
考えられます。会社の帰りに、あるいは農家の人であれば名古屋の市場に来た途中で
簡易裁判所に立ち寄っていくならば、きわめて便利に
裁判が受けられるような地域ではないかというふうにも
考えられます。これはしかも、名古屋と津島の距離は電鉄の距離にいたしましても十七キロしかございません。これはかなり迂回した道を通っておって十七キロでございます。また、津島市の人口は、
昭和四十五年の二月二十八日じゅうに基本台帳の登録人口では四万九千九百四十人であり、四十年の十月一日の国勢調査では四万六千五百五十九人というわずかな人口の
裁判所でございます。住民はよりよい
裁判所の
裁判を受けたいという念願のほうがはるかに強いのじゃないかというような感じもいたします。さらにこの問題につきましては、北海道の例な
ども、北海道の
弁護士から、
簡易裁判所が三十万になると地域的に非常に困るというようなことも訴えられておるようなわけでございます。こうして、地域的に便利になるというようなことは一がいに言えない例が全国的に調べますとかなりたくさん出てくるのではなかろうかというふうにも
考えるわけでございます。
あるいはまた、
裁判所の御
意見によりますと、十数万の
事件などでは、旅費、宿泊費などが高くなって、
訴訟をあきらめるようなことになるのではないか、そういう
人たちに対しても今後の
改正によって
権利の保護ができていいんじゃないかというご
意見もございましたが、私は必ずしもそういった御
意見にはにわかに賛成できないのでございます。と申しますのは、汽車賃が高くなるとはいいましても、これはまず本人
訴訟ができるわけでございます。本人
訴訟であれば、本人の汽車賃だけであり、しかもそれは相手方の敗訴に対して
負担を請求できることでもあるということにもなりますし、またもしこういうことに耐えないものであるならば、せっかく政府が多額の補助金を出して御支援をいただいております法律扶助制度の
活用が望まれるわけでございます。この法律扶助制度の
活用さえされますならば、ただ費用の立てかえ、免除が受けられるばかりでなく、必要に応じて代理人の選任さえしてもらえるわけでございます。そして、その費用の立てかえあるいは免除も受けられるというような制度もございますので、こういう制度を
活用すれば、むしろ十分本人の納得するような
裁判が受けられて喜ばれるような
状態ではないかというふうに
考えておる次第でございます。さらに、名古屋の例を申しますと、名古屋の家庭
裁判所では、即時調停といいまして、本人が出頭すれば、そのときすぐ
裁判所で調停がしていただける。あるいは日中勤務の
関係などで
裁判所へ来れないような、あるいは来るのに休んでこなければならないというような人に対しては、夜間調停の制度もとられておるわけでございます。もし
簡易裁判所に多少でも
余裕があるならば、こういう制度をとっていただきますならば、これこそ
地域住民の
人たちが非常に喜ぶのではないかというようなことを
考えておるわけでございます。あるいはまた、できるだけ
簡易裁判所においても有
資格者を充てたいというような御
意見でございますが、せっかく有
資格者をお充ていただきますならば、
地裁を強化していただいて、その方が
地裁の
裁判官としてやっていただければいいのではなかろうか。
簡裁に移されるために、
上告も
最高裁に申し立てることができなくなってしまう。そういうことを
考えるならば、この面からしても、
地裁の強化こそ望まれる問題ではなかろうか。現に、
簡易裁判所は非常に
弱体化されているのではないかというようなことも強く言われております。
そこで、私は、名古屋を中心にいたしまして、その
実情を名古屋の会長から聞いてまいったのでございますが、名古屋の
地裁管内には
簡易裁判所の
裁判官の人数が
昭和四十五年の三月一日現在で三十二名おられるということでございます。五月一日現在では二十九名ということでございます。三月一日現在で調べますと、三十二名のうちに、兼任の方が八名で、
簡易裁判所専任という方が二十四名ということになっておるようでございます。その二十四名の中で、
法曹資格を持っておられます方は二名、
特任の
裁判官が二十二名ということでございます。五月一日現在の調べによりますと、人員二十九名の中で、兼任の方が七名で、
簡裁専任の方が二十二名ということでございます。そのうちの一名の方だけが法曹有
資格者で、二十一名の方は
特任の
裁判官だというふうに伺っております。次に、岐阜
地方裁判所の管内を伺いますと、これも五月一日現在の
実情で、人員は十二名だそうでございます。そして、そのうちの三名が兼任になっており、九名が専任だということだそうでございます。専任の九名の方だけが
簡裁の
事件を扱っておられて、兼任の三名のうち二名は実際は地方の仕事だけしかおやりにならないというふうに伺ったわけでございます。次に、三重県津の
地方裁判所管内の五月一日現在の調査によりますと、その人員が十名だそうでございます。そうして、そのうち一名が
地裁との兼任であり、
簡易裁判所の専任の方は九名だそうでございますが、
簡易裁判所で
裁判をおやりになる方はこの
特任の九名の方だけだというふうに伺っておるわけでございます。また、福井
地方裁判所の管内の五月一日の状況を伺いますと、
簡易裁判所の
裁判官の人員が五名で、この方は全部
特任の
裁判官だというふうに伺いましたわけでございます。
特任の方が総数の過
半数だというふうに伺っておりますけれ
ども、この地方におきましては、過
半数というよりも、ほとんど
特任の方のみの
裁判というような結果になってあらわれておるわけでございます。こういった諸般の点について、私自身としても
連絡協議でこまかい点についてお伺いし、少しでも
国民の
利益になるような方法が
裁判所との
協議で実現できるならば、これにこしたことはないというふうに
考えておったわけでございます。しかも、これらは、東京でお
考えになるほかに、地方で単位
弁護士会、地方の
裁判所と御
協議申し上げるなどして、最も
効果的ないい方法を
検討するのが私
ども弁護士としての義務でもなかろうかというふうにも
考えておりますので、引き続いて
連絡協議が継続されることを望んでおったわけでございますが、残念ながら、
裁判所におかれては、今日の事態では、
長官や所長会同で何回も要望もされておるし、
国会のほうの御
意見もあるから、これで打ち切るのもやむを得ないということで終わったわけでございますが、その他のいろいろな諸般の点についてなお私
どもは
協議すべき
事項があるというふうに
考えておったようなわけでございます。
まだ申し上げたいこともございますけれ
ども、お許しいただきました時間もかなり
経過したと思いますので、この辺で終わらしていただきたいと思います。