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政府委員(
安達健二君)
応用美術というものが一体具体的に何をさすかということにつきましては、いろいろあろうかと思いますが、おおよそ四つのものが中身に入るものと言われておるわけでございます。一つは、ここにございますごとく美術工芸品のようなたぐい、その美術工芸品でございますが、同時に実用品でもあるというようなそういう種類のもの、それから家具に施された彫刻というように実用品に結合されたもの、あるいは文鎮のひな型というように、量産される実用品のひな型として用いられることを
目的とするもの、それから、
先ほどお話出ました染色図案等、実用品の模様等実用品の模様として
利用されるのを目途とするもの、こういうおよそ四つのものがあるわけでございます。これをどういうように
保護するかということになりますると、なかなかその点での問題を生ずるわけでございます。ここで「美術工芸品を含む」というのは、一品製作のそういうような美術工芸品といわれるようなものは、それとして
著作物として
保護をするということは、これはわりあいに容易にできるのではないかということで、従来も一応そういうものを
保護されると言われてきたわけでございますが、はっきりと
保護をするということを明らかにする
意味での美術工芸品を美術
著作物に含むということをはっきりしたのが第一点でございます。
それから、一番問題になりますのは、染色図案等実用品の模様として
利用されることを
目的とされる美術的な
著作物でございます。この染色図案等の物自体は、これはやはり見てきれいであるというようなことで、それ自体が美術的な価値がないということはもちろん言えないわけでございます。しかしながら、これを
保護した場合に、これをどうするかということでございますが、
先ほど申しましたように、現在これらの図案等につきましては意匠法によって一応
保護はされることになっておるわけでございます。意匠法でございますと、それは登録をしなければ
保護をしない。登録の場合において新規なものでなきゃならない。それで、たとえばネクタイにいたしましても、水玉模様というようなものはありふれたものであって、それはかりに
著作物になるような水玉模様の模様をかいても、それは意匠法によっては
保護をされない。こういうことになる。それから、
著作権法では、その原図を複製するというだけでございますが、意匠法では類似の意匠も禁止するというように
権利の
内容も違っておる。それから、さらに
保護期間が意匠法でございますと、登録後十五年ということになっておる。
著作権法ですと、著作をしたときから死後五十年まで
保護するというようなことでございまして、したがいまして、こういうようなものの
保護で二つの
法律の
保護が重複することになるわけでございます。それぞれの
法律はたてまえが違いますから、重複の
保護でもあるいは可能ではないかという
考え方もございます。あるいはまた、さらに
著作権法では、そのものに応用するまでのところを
保護すると、ものに応用したならば、それからは、意匠法の
保護にゆだねる。こういうような
方法もございます。
それで、その第二の
方法によっていろいろ
権利者、
使用者等の
意見を徴しましたところ、両方ともまあ不満がございました。
著作権者のほうは、これは
著作物として重複的に、重畳的に
保護をしてもらいたい。それから、
使用者側のほうでは、そういう
著作権のような
保護になった場合には、非常に多量に製作されるものであるからして、それが
著作権侵害であるというようなことで差しとめを食うというと、たいへんなことになる。いまは意匠法による
保護がない、登録等がないものは自由だということになっております。それを
著作権によってその差しとめを食うというようなことになっては、意匠法によってつくられておる現在の秩序が破壊される。こういうような非常に強い反対が相互にございました。そこでこれは大事なことであるけれども、なかなかそう簡単に
調整がつかないという点が一つと、同時に
先ほどもちょっと申し上げましたが、この
応用美術、そういうようなものについては、
著作権制度と、工業所有権との両方にまたがるものであるから、そういう染色図案等の意匠の
保護のためには、より効果的な
方法を考えるということで、国際的にも研究グループがつくられておるわけでございます。したがって、そういう研究グループなどの結論等も見ながら、
日本の実情に即して
権利者も
使用者も、これならばやっていけるというような形において、この
保護の方策が樹立するような方向でさらに年月をかけてこの問題を検討する必要があると、こういうようなことで現在の
段階といたしましては、美術工芸品を
保護すると、
応用美術のうちで美術工芸品を
保護するということにとどめまして、そのほかの問題は将来の課題として積極的に取り組んでいきたい、こういうことでございます。